まえがき
本書は, 大学の基礎教育科目として学ぶ線形代数学の教科書として, 理工学 系および社会科学系の学生を対象に書いたものである. 線形代数学は微分積 分学とともに大学初年級で学ぶ数学の基礎理論である. 本書の目的は, 数学の基礎的な分野であるこの線形代数学を分かりやすく 解説することにある. 取り扱った内容は, 理工系の学部で通常扱われるものを おおよそカバーした. また, 最近の「ゆとり教育」によって高校の授業内容が 削減され, 高校の教科書と大学の教科書がうまくつながらなくなっている. 削 減された内容を第1 章で補った. ベクトル空間およびベクトルの内積についてはRn, Cnに限定して説明し た. 抽象的ベクトル空間については触れなかった. 最初から抽象的ベクトル 空間を学んでつまずくより, まず Rn, Cnについて学んで理論の大筋を理解 してから, 必要があれば改めて抽象的ベクトル空間を学んだ方が効率的であ ると考えるからである. 抽象的ベクトル空間について勉強したい学生は下記 の本 [2] を読むことを勧める. Rn, Cnで線形代数学を理解していれば, 抽象 的ベクトル空間を理解するのは容易である. また, 行列式の定義にあたって置換の概念は導入せず, 順列の符号によって 行列式を定義した. これは下記の [1] にならったものである. 数学を勉強するときは, 練習問題を解いて自分の理解度を深めることが重 要である. 期末試験を採点すると, 正方行列ではない行列の行列式や逆行列を 持ち出す珍答案や, R3の部分空間x1+ x2+ x3= 0 の基底が 1 つしか見つ からないような答案がしばしば見られる. 講義を聴くことは, たとえて言えばii まえがき テレビの野球中継を見るようなものである. 自分で野球の練習をしなければ 身に付くものではない. 中学・高校の授業では授業中に問題練習が丁寧に行 われるが, 大学の講義ではそこまで丁寧な指導は行わない. 学生が自ら意識し て手を動かして計算に習熟することが求められる. 本文中に配置してある問 1.1, 問 1.2 などは, 学生全員が自分で考えて理解することを期待している. さ らに意欲のある学生は章末の練習問題に挑戦してもらいたい. 本書の9 章, 10 章に当たる, 「標準形の応用」と「体と多項式」の項はペー ジ数の関係で収録しなかった. 著者のホームページ http://www.math.meiji.ac.jp/˜tsushima/senkei.html においてあるので, そこからダウンロードして利用されたい. 本書では省略し た, 代数学の基本定理の証明やユークリッドの互除法についても書いておい た. また, 本書のミスプリントは見付け次第ホームページにアップロードする 予定である. 本書を執筆するにあたって次の本を参考にした. とくに, 多くの例や練習問 題を [1] から採用した. ここに感謝の意を表する. [1] 大学数学教育研究会:「大学課程 線形代数」(共立出版, 1986) [2] 斎藤正彦:「線型代数入門」 (東京大学出版会, 1966) 本書の出版に当たり, 終始お世話になった共立出版 (株) の大越隆道氏に深 く感謝いたします. 2007 年 3 月 著者