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呼吸器診療 : その変貌と対策

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特別講演 〔東女医大誌 第59巻 第4号頁 241∼250 平成元年4月〕

呼吸器診療一その変貌と対策一

隅京女子医科大学 タキ ザワ

滝 沢

第一内科学教室 タカ オ

敬 夫

(受付 平成元年1月10日) はじめに 呼吸器疾患診療をめぐる私の経験をふりかえり ながら,近年における呼吸器疾患の変貌について 概説し,その対策としての診断と治療の進歩につ いて一端にふれる. 呼吸器疾患の変貌をめぐって 表1は私が東北大学医学部4年生(昭和25年) の時に受講した第一内科(大里俊吾教授)の臨床 講義の項目である.当時,呼吸器病学は第一内科 の担当であったから,この項目リストは当時にお ける呼吸器疾患診療の内容を代表するものと考え てもさし支えないと思われる.9月12日から2月 末日まで28回の臨床講義が行なわれ,そのうち11 回が呼吸器疾患に関係しているが,気管支喘息の 1回を除くと,いずれも感染性呼吸器疾患である 表1 大里教授 臨床講義(昭和25年) 慢性腎炎 慢性腎炎,腎結核 出血性潰蕩 肝膿瘍 結核性助膜炎 ことがわかる.しかも胸膜炎を含めて結核性肺疾 患が大半を占め,一見して,当時の呼吸器病学が 結核病学に代表されていることがうかがわれる. このことは内科学書の内容をみても明らかであ る.表2は手元にある内科学書のうち,昭34の勝 沼内科学書,昭50の沖中内科学書,昭55の上田・ 武内内科学書,昭61の新臨床内科学書について, 呼吸器疾患の章をとりあげ,そのなかで割かれて いる頁数の割合を比較,その時々における各疾患 の白味を推定したものである.昭34の勝沼内科学 表2 内科学成書にみる呼吸器各疾患の年次別推移 9月12日

16

20

27

30

10月11日

14

25

11月8日 11 15 18

22

25 乾性肋膜炎 浮腫 肝腫瘍 粟粒結核 僧帽弁不全 肺壊疽 気管支拡張症 脊髄瘍 胃潰瘍 肺結核 気管支喘息 振せん麻痺 後腹膜腫瘍 腸結核 11月29日 12月2日

10

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1月17日

20

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2月3日 7 14 17 21

胆のう炎 くも膜下出血 肺結核 肺壊疽 結核性腹膜炎 不整脈(心房細動) 肺結核 糖尿病 勝 沖 上 武 新 沼 中 田 内 臨 内 内 内 床 科 科 科 内 学 学 学 科 昭 34 昭 50 昭 55 昭 61 気管支炎 1.8 LO 0.9 0.2% 肺炎・肺化膿症 12.0 13.5 10.7 8.1 肺結核 47.2 46.8 7.1 9.3 気管支喘息 9.5 (2.6) 12.5 10.5 慢性閉塞性肺疾患* 2.1 7.6 16.1 15.2 間質性肺炎騨 2.8 2.3 9.8 13.0 サルコイドーシス 2.1 1.8 5.4 5.1 じん肺 3.4 3.7 6.3 9.3 肺塞栓・梗塞 2.5 2.1 5.4 3.5 肺水腫 2.1 1.3 2.7 3.5 胸膜炎 6.7 8.8 4.5 4.7 自然気胸 0.6 2ユ 3.6 4.0 肺がん 7.1 6.2 15.2 14.0 串慢性気管支炎,肺気腫,細気管支炎を含む 林特発性問質性肺炎,過敏性肺炎,膠原病肺を含む

Takao TAKIZAWA〔Department of Medicine I, Tokyo Women’s Medical College〕:Recent trend of the respiratory diseases:diagnosis and treatment

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閑塞性肺疾患 気管支喘息 気管支拡張症 肺炎(原発) [ 院内肺炎 マイコプラズマ肺炎 特発性間質性肺炎 朧蔑。 じん肺 エ発 嚥 癌1 転移 性胸膜炎 嗜 結核 旧性肺結核 核性胸膜炎 蝋案。 100 200 300 400 症例数 CB+・DPB CPE 265 299 51 128 109 16 105 25 P1 P0 480 53 42 70 104 25 66 49 図1 呼吸器内科退院患者 診断名頻度(Apri11978∼April 1987) 書や昭50の沖中内科学書においては呼吸器疾患の 章のうち,約半分近くが結核に関する記載によっ て占められている.ところが,昭55の上田・武内 内科学書,昭61の新臨床内科学では結核に関する 記載は10%以内と急速に減少し,かわって肺癌に 関する記載が増加,また気管支喘息のほか,慢性 気管支炎や肺気腫のような気道閉塞を主徴とする 慢性呼吸器疾患や,肺胞隔壁を疾病の場とする間 質性肺疾患に多くの頁数が割かれる実情をうかが うことができる. 現在,私どもが日常診療で遭遇している呼吸器 疾患の主体もほぼこれと同様の傾向を有するもの である.図1は私どもの東京女子医科大学第一内 科において,1978年4月から1987年4月までの約 10年間に入院した患者の診断名を疾患別に実数で 対比したものである.既に本学病院で結核病棟を 閉鎖した後の統計である点,念頭に入れる必要は あるとしても,現在,我々呼吸器医が日常,対象 としている疾患が大凡どのようなものであるかを うかがうことができる.急増する肺癌は勿論,気 管支喘息に加えて慢性閉塞性肺疾患,また特発性 間質性肺炎や過敏性肺炎,膠原病肺,サルコイドー シスなどの間質性肺疾患などにかなりの比重が置 かれている.一方,肺炎の比重は軽くなり,重点 はむしろその質的変貌に向けられている.高齢者 肺炎や日和見感染などである. このように呼吸器疾患が近年著しい変貌をきた した理由には多くの因子をあげることがでぎる. とくに以下の諸点を強調することができよう.第 一に抗結核薬をはじめとする化学療法の進歩と, これに伴う感染症の抑圧であり,第二に人口の老 齢化,高齢人口の増加である.第三に喫煙の影響 であり,第四に近代工業の進歩や生活文化の向上 に伴う環境の汚染であり,第五に周辺科学の進歩 に伴う診断技術の向上をあげることができる.こ とに呼吸器が外部環境に直接暴露される唯一の内 部器官であることを考慮すると,外部環境の変化 が直接,呼吸器にいろいろの影響を与えているこ とを無視することはでき「ない.喫煙の影響はもと より,環境汚染,それも大気汚染が遂次改善され るに至った昨今では,厨房や空調,暖房,加湿や ペット飼育などに伴う屋内汚染にも多くの関心が 向けられるようになった.これらの汚染は単一因 子としてよりはむしろ複合因子として生体に作用 するだけにその影響を特定できない難点があるも のの,今後における呼吸器疾患のエコロジーに重 要な影響を与える一つになるものと思われる. 付)肺癌の増加にっいて 最近における肺癌の急速な増加には誠に目を瞠 るものがある.前記したように私が大学を卒業し た昭和20年代にあっては肺癌は極めて稀な疾患で あった.私が入局した東北大学第一内科は呼吸器

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表3 肺癌 症例 東北大学 第一内科(熊谷,大里) 1920(大9) P930(昭5) P940(昭15) =∼ 1929(昭4) P939(昭14) P949(昭24) 28例 Q6例 Q7例 1920(大9) 1949(昭24) 81例 病学を標榜する内科であったにもかかわらず,肺 癌患者は年間2∼3例にすぎず,大正9年から昭 和24年までの30年間で81例,各年ほぼ均等に分布, この間,増加の気配はみられていない(表3).当 時,私は病理学教室の解剖例についても調査を 行ったが,解剖例でも原発性肺癌の解剖主診断名 は年間2∼3例にすぎなかった. 肺癌の増加が注目されるようになってぎたのは 昭和30年以降のことにすぎないのであるが,前記 したように,私どもの内科では,1978年からの10 年間に,実に450例の肺癌入院例を経験してきてい るのである。誠に驚くべき急増といわざるをえな い.その原因の主役が喫煙にあることは,今日, 論をまたないところであり,その対策はまず喫煙 者自身の自覚によることはもちろん,医療に従事 する我々の常に念頭におくべき重要事項というこ とができる. 診断の進歩から 今日,私どもが日常の呼吸器診療で用いる診断 手技には幾多のものがあるが,ここでは最近,開 発され,繁用されている診断法の一端について紹 介するにとどめる(表4). 1.画像診断 進歩のもっとも著しい領域であり,CT, MRI, 超音波,DR(digital radiography),核医学など があるが,ここではCT, MRI,超音波検査の有用 性についてのみふれる.

1)胸部CT検査

CTの肺疾患への応用は他の分野に比べ,やや おくれたとはいえ,昨今における肺疾患診断への 貢献は著しい.私どもの内科の病床で実施された 胸部CT検査件数の年次的推移でもこの数年,急 速の伸びが際立っている.悪性腫瘍が主体とはい え非癌例にもかなりの件数実施されている(図 表4 呼吸器疾患診断の進歩 画像診断 Digital Radiography(FCR) Computed Tomography(CT) エコー

Magnetic Resonance Imaging(MRI) 核医学 呼吸生理学的検査 内視鏡検査 生検診断(TBLB) 気管支肺胞洗浄法(BAL) 血清免疫学的診断法 140 130 120 110 100 90 80 辣 掴 70 60 50 40 30 20 10

0

Zmallgnant 口benign 口unknown / 53 54 55 56 57 58 59 60 61 年 度 (昭和) 図2 CT検査数の推移 2). 呼吸器疾患の診断に際しての胸部CT検査の有 用性を表5に略記した.肺癌の診断に際してはT 因子のみならずN因子(胸部内リンパ節転移)の 存在診断にも不可欠であり,肺癌病期の決定,手 術適応の判断に必須の検査法と目されるように なった.一方,非癌例においてもCT検査の有用 性は無視できない(表6).たとえば間質性肺疾患 に代表されるびまん性肺疾患では,水平面での病 変の性状,分布,回りなど一見して把握され,そ れぞれの疾患にみる特徴的所見(図3)は診断に 参照されうる.さらに昨今では,スライス厚さ

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OiffUS6 Panbronchiolitis

’智・

轡購

Gold L闘晶9

の ♂

墾窪螺型

RA Lung

Eosin叩hili6 granuloma

ヒ ゴ

・㌻ゾ1瀦

K 蓼

1“iOpat. interStitial pn6朋mOnia

図3 で明瞭に読みとれる.

緊耀』

町pe陪enSitiWity 叩e”mOnitiS 種々のびまん性肺疾患にみるCT所見,病変の性状,分布などの特徴が横断面 1.5∼2mmのthin section CT像が微細な気臥像 を比較的よく表現することから,肺気腫の臨床的 な形態診断への適応が試みられている. 2)MRI(magnetic re80nance㎞aging) 本法は1980年以降,急速な技術革新をとげてき た領域である.体位により冠状断,矢状断,横断 面での撮影が容易で,病変の三次元的把握が期待 されるが,現時点では1回あたりの撮影に長時間 を要し,呼吸や心拍の影響をうけるため肺内病変 では画像劣化の起こることが避けられない.した

がってMRIの胸部疾患への応用は主として縦

隔,肺門領域の病変に限られる.表7にMRIの有 用性を一括したが,とくに縦隔内の気管や大血管 が無信号域として描出されることは有用である. 3)超音波検査 本法は非観血的,無侵襲の検査法であり,rea1

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表5 胸部CT検査の有用性 表8 超音波検査の特徴 1.水平面での位置関係や拡りがよくわかる 2.病変の前後に存在する臓器の重なり,また前後方向の病 変の重なりを避けることができる 3.勝れた密度分解能をもち僅かの濃度差の病変も区別で きる a.縦隔病変の鑑別診断 b.肺癌におけるN因予の決定 c.肺腫瘤影の存在診断 d.微量胸水の存在診断 e.充実性腫瘤とのう胞性腫瘤との鑑別 f.膿胸と胸膜朕胆1との鑑別 9.びまん性散布性病変の性状,分布,曲りの診断 利点 欠点 1.非観血的,無侵襲 2.real timeで動的観察が可能 3。自由な断層面が得られる 4.機動性に富む 1.音響学的窓が必要(空気,骨が介在すると描出でき ない) 2.artifact(サイドローブ,反射,散乱) 3.空間分解能(距離分解能,方向分解能)に限界があ る 表6 肺疾患(非癌)におけるCT検査件数 (187イ列, 1981∼1987) 表9 気管支内視鏡検査,診断の進歩 疾 患 名 % 肺 結 核 21.7 ・ 特発性間質性肺炎 13.8 肺 炎 9.0 胸 水 貯 留 5.3 肺 気 腫 5.3 ・ 過 敏 性 肺 炎 2.6 * サルコイ ドーシス 2.6 ・ びまん性汎細気管支炎 2.6 そ の 他 36.4 ・びまん性間質性肺疾患 表7 MRIの右用性 1.器機,解像力の向上 2.生検法の進歩 3.極細ファイバースコープの開発 4.テレビ気管支内視鏡の開発 5.内視鏡検査を応用する診断法の開発 山気月日生検法 (TBLB) 気管支肺胞洗浄法(BAL) 利点 欠点 1.体位変換で冠状断,矢状断,横断など任意の断面を うることがでぎる 2.造影剤なしに血管を無信号域として描出できる 3.動脈瘤では内腔と血栓を区別して描出できる 4.被曝を伴わない 1.スキャン時間が長い 2。ペースメーカーを装着した患者は検査できない 3,生検は不可能 4.石灰化は描出されない timeで動的観察が可能,また自由な:断面がえら れ,しかもベヅドサイドでも実施できる手軽さか ら肺疾患の診断にもその有用性が期待されるが, 含気性の存在や骨構造の存在のためartifactが 生じやすく,空間分解能にも限界があり,肺疾患 の診断には必ずしも繁用されていないのが実状で ある.しかし症例を選択するならぽ機動性に富む だけにその有用性は無視できない.表8に適応を 一括したが,胸壁に接した病変の診断,不透明肺 を呈する疾患の鑑別,縦隔病変の診断,右心機能 の評価,また胸膜直下病変に対する穿刺,生検の ガイドとしても有用である. 2.気管支内視鏡検査の進歩 フレキシブル気管支ファイバースコープが本邦 で開発されてから20年余り,器機の改良に伴って そのイメージは格段と向上し,呼吸器疾患の診断, とくに肺癌の診断には不可欠の検査法と目される ようになった.しかも経気管支生検法や気管支肺 胞洗浄法など,気管支鏡を利用する新しい診断手 技も開発され,気管支鏡の適応は一段と拡大した (表9). 現在,繁用されているファイバースコープは先 端外経5。9mmのもので,径2.8mmのlarge chan− nelを有している.加えて多目的細径ファイバー スコープ(現在1.4mm極細ファイバースコープ まで開発されている)の気管支への適用が積極的 に試みられている.しかしこれらの細径ファイ バースコープでは気管支樹の枝の選択が不可能で あること,観察が吸気の一時点に限られること,

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表10 閉胸下生検診断法 表11 当科における肺癌の診断 1)肺癌 洗浄 経皮(経胸壁)針吸引診 X線透視下 CTガイド エコーガイド 2)びまん性肺疾患

経気管支肺生検 Transbronchial lung biopsy (TBLB) チャンネルを欠き吸引やブラッシングなどが不可 能であることなど汎用化には問題点が少なくな い. 3.生検診断 肺疾患に対する生検診断法には従来,開胸下肺 生検法が知られているが,外国に比べて開胸肺生 検の実施される機会の少ない本邦では,肺生検と いっても閉胸下戸気道的に実施されることが多 く,これで不満足な場合,経皮(経胸壁)的なア プローチの試みられるのが実情である. かかる観点から現在,私どもが日常実施してい る生検法を要約したのが表10であり,肺癌を対象 とした場合と,非癌例,とりわけびまん性肺疾患 を対象とした場合とに大別される。 経気道的な生検法は通常,気管支内視鏡下に行 なわれるものであり,可視範囲内の肺門部肺癌で あれぽ,直視下に病巣を確認,生検できるが,末 梢型肺癌ではX線透視下に気管支内視鏡の鉗子 孔から生検鉗子を送りこみアプローチすることが 要求される.一方,経皮的な針細胞診は胸壁を介 して病巣部に穿刺針を挿入する方法であり,通常, X線透視下に実施されるが,的確かつ安全性のた めにはCTガイド,またはエコーガイド下の穿刺 が推奨される. 肺癌の診断を目標とした諸検査の診断陽性率 を,喀疾細胞診のそれを含めて表11に一括した. このうち非透視下の対象は殆んどが肺門部肺癌で あり,一方,透視下ならびに経皮針細胞診の症例 1.検査別陽性率 (1)喀 疾 (2)気管支鏡検査 非透視下 擦 過 洗 浄 生 検 透視下 擦 過 生 検 (3)経皮針細胞診 (4)胸 水 (5)胸膜生検 (6)リンパ節生検 心膜液 45.1%(65/!44イ 唖) 61.1%(58/95イ列) 48,5%(63/130例) 47,2%(34/72イ列) 44.4%(28/54イ列) 42.9%(27/63イ列) 73.9%(17/23例) 73,1%(19/26イ列) 45.5%(5/11イ 日) 100%(11例), 100%(2イ U) II.肺癌正診率(S53∼S62年) 総数 209例 肺癌診断 可能 不能 201イ U(96.2%) 8イ 旺(3.8%) は殆んど末梢血肺癌であることはいうまでもな い.これらの検査法を駆使して,患者が私どもの 所を受診した場合,肺癌であるかないかの正診率 は96.2%となる.すなわち殆んど見落すことがな いにもかかわらず肺癌死亡率が今日もなお増加の 一途を辿っているところに肺癌対策の問題点が存 在する.すなわち発見のおくれであるが,私ども の内科病棟において入院時点での肺癌患者の病期 分類は図4のようで,大部分,III, IV期患者で占 められ,外科手術にまわしうるものはたかだか 20%にすぎない.しかもこの傾向はこの数年,改 善される傾向は全く見られていない. 他方,非癌例,とくにびまん性肺疾患では経気

道肺生検transbronchial lung biopsy, TBLBが

試みられる.本法は気管支鏡下に鉗子孔から生検 鉗子を挿入,末梢領域の肺組織を採取する方法で ある.通常,X線透視下に実施される.しかし採 取しうる組織片はきわめて小量であり,そのなか に目的とした病巣が含まれるとは限らない難点が ある.私どものところで1ブロックにつき1切片 のみを作製した150例について評価してみると,採 取標本中に肺組織が含まれたもの69%,気管支系 が含まれたもの39%であり,診断への寄与が多少 とも認められたものは55%であった(表12).決し

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(%) 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 【コstage工 園stage n □stage田 翅stage四 55 56 図4 57 58 59 60 61 62 年 度 (昭和) 肺癌入院患者stage分類 表12 非癌肺疾患診断における経気道肺生 検(TBLB)の役割 て高い寄与率とはいえないが,組織所見を実際に 把握できる意義は大きい.また1ブロックについ てより多数の切片を作製すれぽ寄与率の向上がみ られることはいうまでもない.

4.気管支肺胞洗浄法bronehoalveolar

lavage, BAL 本法は末梢気道,肺胞領域を洗浄,洗浄液を回 収,その細胞成分,液性成分に関する情報を集め, 疾病病態の解明,診断に役立てようとする新しい 検査手技であり(図5),その威力はとくにびまん 性肺疾患で発揮される.私どもは通常,細胞成分 の分析はルーチンに実施し,液性成分は研究用と して分析している. 正常者のBAL液中,細胞成分をみると,総細胞 検索対象 組織採取数(率) 肺 気道 診断 寄与 寄与せず 150症例 …・P切片/1ブロック 103(69%) 58(39%) 82(55%) 68(45%) キシロカインによる吸入麻酔 ↓ 気管支鏡をB4またはB5にwedge ↓(必要に応じ02吸入) 温生冠水50m2×3回,緩徐に用手的に 注入排液 ↓ 回収液を単層の滅菌ガーゼで炉過 (粘液の除去) ↓ 1200rpm 5分間遠心

/ \

細胞成分 上清成分 ↓ ↓ 総細胞数 凍結保存 細胞分画 リンパ球サブセット 図5

当院におけるBALの手技 ρノ心 ,ノノー丘ン ノ! オ「 表13 当科におけるBALの成績 (1985. 11∼1988. 2) 診 断 名 n 回収率 @% 総細胞数/回収液 マクロファ [ジ % リンパ球 @% 好中球@% 好酸球@% CD、/CD8 HLA・DR

@%

サルコイドーシス 42 62.7 i土13.8) 2.02×105 i±2.41) 71.2 i±20.1) 27.7 i±20.0) 0.6 i±1.5) 0.2 i±0.4) 4.9 i±3.6) 24.5 i±14.2)

過敏性肺炎

11 63ユ i±10.5) 4.64x105 i±3.80) 43.5 i±2.8) 52.2 i±25.8) 2.0 i±2.3) 1.6 i±2.1) 0.3 i±0.3) 41,3 i±19.8) 特発性間質性肺炎 17 49.9 i±14.4) 3.12x105i±5.69) 83.9 i±10.0) 8.3i±7.6) 5.6 i±8.2) 2.6 i±8.2) 2.2 i±2.4) 24.1 i±12.7) 膠 原 病 肺 14 60.6 i±12.2) 1.88×105 i±1.46) 75.8 i±16,1) 14.9 i±13.1) 5.6 i±8.9) 3.5 i±L2) 0.8 i±0.8) 29,7 i±20.5) コ ン ト ロ ール @(非喫煙者) 10 60.8 i±7.4) 0.48×105 i±0.33) 96.2 i±2.4) 4,1i±2.7) 0.47 i±0.86) 0.18 i±0.15) 2.18 i±1.5) 12.7 i±5.1) コ ソ ト ロ ール @(喫 煙 者) 5 58.1 i±10.4) 3.42×105i±1.63) 97.2 i±3.9) 1.0i±0.5) 1.76 i±3.6) 0.02 i±0.04) 1.20 i±0.90) 18.4 i±4.7) rnean (±S.D)

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数は喫煙者群で,非喫煙者群の約7倍以上に増加 するが,細胞分画は両群ともに大半がマクロ ファージで占められる.またリンパ球は喫煙者で は少なく,好中球で有意ではないが多い傾向にあ り,Tリンパ球のCD4/CD8は喫煙者で低い傾向が みられる.表13はびまん性間質性肺疾患を代表す る4疾患についてBAL液中細胞成分の特徴的所 見を対比したものである.総細胞数はいずれの疾 患でも増加,とくに過敏性肺炎で著しく,サルコ イドーシスがこれに次いでいる.細胞分画におけ るリンパ球%も同様であり,とくに病変の活性度 が高いものでリンパ球趣の増加が目立つ.一方, 特発性間質性肺炎や膠原病肺では好中球や好酸球 が5%前後であるが増加している.Tcell subset におけるCD4/CD8はサルコイドーシスと過敏性 肺炎との鑑別に役立ち,HLA−DRやOKIaユ陽性 細胞は主として活性化Tce11を反映している. 本法は今日,呼吸器疾患の診断に不可欠であり, 画像診断,呼吸生理学的検査,気管支内視鏡検査, 経気道肺生検法とともに,呼吸器診療医が先ず習 得すべき必須の検査法と目されるようになった. 治療の進歩,とくに慢性呼吸不全と その対策 呼吸器疾患領域にみられる治療面の進歩にも多 くのものをあげることができるが,本講演では呼 吸不全をとりあげ,その対策について略述するに とどめる.すなわち,私どもが今日,遭遇する呼 吸器疾患患者の病態を特徴づける一つは疾病の慢 性化にあり,これらの患者が窮極において到達す る道は呼吸不全ということができる.すでに1978 年,呼吸不全は厚生省特定疾患調査研究班の対象 疾病にもとりあげられている. 1.呼吸不全とその現状 呼吸不全の診断基準は厚生省特定疾患調査研究 班(1982)により表14のように提示されている. このうちPco2,45torr以下の場合, hypoxemic failureと呼び, PaCO245torr以上の場合をhypo− ventilatory failureと呼んでいる. ともあれ,この診断基準に則って呼吸不全患者 の実態調査が行われるようになったが,教室の金 野が中心となって実施した関東地区10施設での基 表14 呼吸不全の診断基準 1.室内気吸入時の動脈血0、分圧が60torr以下となる呼吸 障害,またはそれに相当する呼吸障害を呈する異常状態 を呼吸不全と診断する. 2.呼吸不全を動脈血CO2分圧が45torrを超えて異常な高 値を呈するものと然らざるものとに分類する. 3.慢性呼吸不全とは呼吸不全状態が少なくとも1ヵ月持 続するものをいう、 註記:動脈血02分圧が60torrを超え,70torr以下 のものを“準呼吸不全状態”として扱うことと する. (厚生省呼吸不全調査研究班による 1982) 表15 全国推定呼吸不全症例毒 悪 患 名 呼吸不全 準呼吸不全 計 慢性閉塞性肺疾患 7,566 13,831 21,397 (気管支喘息を含む) 肺 結 核 5,491 6,859 12,350 各種肺線維症 1,703 2,814 4,517 肺 がん 584 3,133 3,717 膠原病 595 1,112 1,707 心疾患 527 LO47 1,574 神経・筋疾患 472 1,954 2,426 その他 2,426 4,584 7,010 19,135 17,136 37,271 厚生省特定疾患呼吸不全調査研究班: 全国病床数より推定,昭和61年度 礎調査から推定された全国施設呼吸不全症例数 は,準呼吸不全(PaO270torr以下,表13参照)を 含めて,36,271名となる.呼吸不全患者の基礎疾 患としては気管支喘息を含む慢性閉塞性肺疾患と 肺結核後遺症が主体を占め,ほかに問質性肺疾患 などの肺線維症症例が多い(表15). かかる呼吸不全患者の増加傾向は今後,一層拍 車をかけるものと思われる. 2.在宅酸素療法 慢性呼吸不全患者に対する第一の治療が酸素療 法にあることはいうまでもないが,呼吸不全患者 の漸増が必至と目される今日,酸素療法も在宅下 に社会復帰を兼ねて実施しうることが望まれる. すなわち在宅酸素療法であり,今日では日本胸部

疾患学会,肺生理専門部会のRecommendation

(1984)に準拠し(表16),健康保険でもその適応 がみとめられている.

(9)

表16 在宅酸素療法の適応(1984) 1.臨床的に安定した病態.しかし酸素投与が要 2.家庭で酸素投与実施できれば入院不要のもの 3.PaO250torr以下.60torr以下でも肺性心を伴う者 4.入院して酸素療法をうけ,危険のないことが確認できた もの 5.定期的外来受診,または訪問などで病態を把握,必要に 応じ,適切な対策をとりうる場合 6.予め患者や家族に酸素療法の意味,危険,機器の取扱い, 治療中に起こりうる危険な兆候,医師との連絡方法につ き説明し,これについて患者およびその家族が十分に理 解し,協力がえられることが明らかとなった場合 図6 在宅酸素療法で用いられている酸素供給源.吸 着型,膜型はそれぞれ酸素富化器である(昭62調査) 症 例 数

30 2 雪0

061213 24(時闇)

職入時問 図7 在宅酸素療法で実施されている酸素吸入時間 酸素供給源としては従来の酸素ボンベのほか酸 素富化器がある.酸素富化器とは室内の空気から 窒素を分離し,必要に応じて酸素濃縮空気を生成 する装置であり,これには膜分離法と吸着法とが ある.膜分離法は高分子膜の有する透過性を利用 して窒素と酸素とを分離する方法であり,吸着法 はある特定の物質に水と空気を吸着させて濃縮酸 素を生成する方法である.昭和62年,研究班の調 査によると酸素供給源として約40%が酸素ボンベ を利用しているが(図6),安全性の面からも,今 後は酸素富化器が急速に普及するものと思われ る.病態に応じ24時間,あるいは労作時,また夜 間就寝時のみの在宅酸素療法が実施されている (図7). 3.携帯用酸素富化器の開発 最後に私どもの教室で金野らが開発している携 帯用酸素富化器を紹介する.その意図するところ が慢性呼吸不全患者の,より積極的な社会復帰に あることはいうまでもなく,図8に患者が実隙に 酸素富化器を肩にかけて用いている写真を示し た.小型化に成功した理由は膜に用いるポリマー の特性によるもので,表18の最上段に本器に用い たポリマーの特性を示した.第二段に示した帝人 社製の二型酸素言言器のポリマーに比較し,02/ N2の選択性に差はなく,しかも透過性では著しく 勝れていることがわかる.表17は本論の特性であ り,この時点の重量は6.8kgであるが,現在では4 kgまで軽量化することに成功している.02濃度 30%,流量は41/minで継続してのrunning time はバッテリー使用で140分である.乗用車のバッテ リーを利用することも可能であるので,この酸素

画 図8 当教室で開発した携帯用酸素富化器 肩にかけ,そこから供給される酸素を鼻カニュラで 吸入している.

(10)

表17 当教室で開発した携帯用酸素富化器の特性 Size 220H×250W×110Dmm Weight 6.8kg Wattage 60W 02concentration 30% Flow 4〃min

Sound level 39dBA(1m)

Cotinuous running

狽奄高?by battery

140min(builtin Ni・Zn battery& @ auxiliary Pb Battery for

@ carring cart)

Accessories AC adaptor, Car battery adaptor,

barring cart 表18当教室で開発した酸素富化器のポリマーの特 性(最上段) Polymer Permeation モ盾???D×10−10 Sele− モ狽奄魔奄狽 02 N2 02/N、 Poly〔1・(triimethylsilyl)一 @ 1・propyne〕 * Dimethyl siloxane rilicone/polycarbonate ooly・4・methylpentene−1 oolyphenylene oxide dthyl cellulose 6100 R52 Q00 @ 32.3 @ 15.8 @ 14,7 3400 P81 @ 87 @ 7,83 @ 3,81 @ 4,43 1.80 P.94 Q.3 S.1 S.1 R.3 cm2(STP)・cm/cm2・scc・cmHg 〔T。「「)90 80 PaO270 60 50 40

air breathing O2 enricher

図9 Change in PaO2 after 30 min oxygen therapy

by portable O2 enricher 富化器を用いれば酸素吸入をしながら車の運転も 可能である. 図9はかなり高度の拘束性,あるいは閉塞性障 害を有する慢性呼吸器不全患者8例について,こ の携帯用酸素富化器を使用,歩行運動を30分間行 なわせた前後での動脈血酸素分圧の変動を示した ものである.本四の有用性が明らかである. さらに私どもは現在,呼吸不全患者の換気を補 助するため,在宅ベンチレーターの開発も試み, 既に実用化の段階に入っているが,時間の関係上, 割愛する.ともあれ,慢性呼吸不全患者の漸増が 注目される昨今,その対策の確立は呼吸器診療上, もっとも重要な課題の一つであろう. おわりに 以上,近年における呼吸器疾患の変貌をふりか えりながら,日常診療における対策の一端を紹介 した.疾患の変貌と,医療における技術革新の著 しい昨今,本講演が今日における呼吸器診療の実 際を御理解戴く上に多少ともお役に立てば幸いで ある. 文 献 1)伊藤春海,金岡正樹,村田喜代史ほか:びまん性 肺疾患のCT診断.呼吸 6:153−160,1987 2)池田茂人:気管食道科領域における内視鏡の開発 と進歩.第39回日本気管食道科学会総会会長講演, 東京(1987.10)

3)Tumer・Warwick M, Haslam PL:The value of serial bronchoalveolar lavages in assessing the clinical progress of patients with

cryptogenic fibrosing alveolitis. Am Rev Respir

Dis 135:26−34,1987 4)滝沢敬夫:肺疾患診断の進歩.第85回日本内科学 会総会教育講演.日内会誌 77:1186−1190,1988 5)厚生省:厚生省特定疾患呼吸不全調査研究班(班 長横山哲朗),昭和57年度研究報告書 6)阿久津敏恵:携帯用酸素濃縮装置の開発.医学の あゆみ 144:605,1988 7)阿久津敏恵,田川渓子,金野公郎ほか:小型携帯 用酸素濃縮装置の開発.厚生省特定疾患呼吸不全 調査研究班,昭和61年度研究報告書,198−201, 1987

参照

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