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Academic year: 2021

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原 敦子 論文内容の要旨

主 論 文

S100A9 in BALF is a candidate biomarker of idiopathic pulmonary fibrosis

(気管支肺胞洗浄液中のS100A9は特発性肺線維症のバイオマーカー候補である)

原 敦子、坂本 憲穂、石松 祐二、角川 智之、中島 章太、原 信太郎、安達 美里、

藤田 華子、迎 寛、河野 茂

(Respiratory Medicine, 2011 in press)

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 新興感染症病態制御学系 専攻

(主任指導教員:河野 茂 教授)

緒 言

特発性肺線維症(IPF)は慢性に線維化の進行する原因不明の疾患で、いまだその予 後は不良である。特発性非特異性間質性肺炎(I-NSIP)や膠原病に関連した間質性肺 炎(CVD-IP)などは、ときに IPF との鑑別が困難であるが、治療への反応性や予後は IPF と比べ良好である。診断のゴールドスタンダードは外科的肺生検による病理学的 診断であるが、全例に外科的肺生検を施行することには限界がある。そのため、IPF 診断に特異的なバイオマーカーが求められている。プロテオミクスを用いた予備実験 により、我々は S100 蛋白のひとつである S100A9 が候補の一つになりうると推測した。

今回我々は、IPF を含む特発性間質性肺炎(IIPs)および CVD-IP における血清および 気管支肺胞洗浄液(BALF)中の S100A9 濃度を測定し、S100A9 レベルと臨床的指標の関 係を評価することにより、IPF における新規バイオマーカーとしての S100A9 の可能性 を検討した。

対象と方法

1)対象

1992 年から 2010 年に当科で診断された IPF 28 例、I-NSIP 15 例、特発性器質化肺炎

(COP)20 例、CVD-IP 35 例、コントロールとして健常成人 23 例。

2)方法

(2)

①患者およびコントロール群の血清、BALF 中の S100A9 濃度を、ELISA キットを用い て測定し、各種臨床データとの関連をレトロスペクティブに検討した。

②肺での S100A9 の局在をみるために、免疫組織化学染色を行った。一次抗体にはヒ ト S100A9 モノクローナル抗体を使用した。対照の肺組織は、肺癌のために外科的に 切除された肺の健常部分を使用した。

結 果

IPF 群では、コントロール、I-NSIP、COP、CVD-IP 群と比較して、BALF 中の S100A9 レベルが有意に高値であった。血清中の S100A9 は、IPF と CVD-IP 群で高値であっ たが各群での有意差はなかった。IPF とその他の線維化性間質性肺炎(I-NSIP お よび CVD-IP)を鑑別する ROC 曲線において、BALF 中 S100A9 は 1ng/mL をカットオ フ値とすると、特異度 96.4%、感度 87.8%と、他の間質性肺炎マーカーと比べ高 かった。IPF 群においては、S100A9 レベルと BALF 中の好中球数との間に正の相関 を認めた。

肺組織における S100A9 免疫組織化学染色では、組織に浸潤する炎症細胞(好中球 やマクロファージ)、肺胞腔内のマクロファージ、血管内皮細胞で強い発現を認め たが、IPF 群と他疾患群に明らかな差は認められなかった。

考 察

IPF の BALF S100A9 レベルが高値であることはこれまでにも報告されているが、IPF と他の IIPs や CVD-IP との比較、血清 S100A9 濃度に関する報告はない。本研究では、

BALF S100A9 レベルが、コントロールや他疾患群と比べ有意に高値であることを示し た。また、IPF とその他の線維化性間質性肺炎(I-NSIP および CVD-IP)を鑑別するた めの ROC 曲線では BALF S100A9 は高い特異度と感度を有した。このことは、BALF S100A9 が IPF とその他の線維化性間質性肺炎を鑑別するのに有用なバイオマーカーであるこ とを示唆している。

一方、血清 S100A9 レベルは IPF と CVD-IP 群で高値であった。膠原病や炎症性腸疾 患等の炎症性疾患で S100A9 が過剰発現していることはすでに報告されている。しか しながら、血清 S100A9 高値の CVD-IP 症例においても、BALF 中の S100A9 レベルは低 値であったことから、血清 S100A9 レベルは全身性の炎症を、BALF 中の S100A9 レベル は肺局所の状態を反映していると考えられる。IPF と他疾患の鑑別のためには血清で はなく、BALF 中の S100A9 レベルが有用であると考えられる。

IPF 患者において、血清および BALF 中の S100A9 レベルと BALF 中の好中球数との間 に正の相関を認めた。IPF 患者の BALF 中の好中球数はしばしば増加し、早期死亡率と 関連があるという報告があり、好中球による肺胞壁への傷害が間質の線維化、異常な 肺修復に関与していると考えられている。さらに今回の検討では S100A9 の免疫組織 化学染色において好中球などの炎症細胞に強い発現を認めたことから、S100A9 は IPF における好中球性の炎症との関連が示された。

本研究では、BALF 中の S100A9 レベルが IPF の有用なバイオマーカーの候補となり うることを示した。S100A9 と IPF の病因との関係はまだ不明な点が多く、さらなる検 討が必要である。

参照

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