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損害保険業態の最適資本構成

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損害保険業態の最適資本構成

岩 瀬 泰 弘

■アブストラクト

損害保険業態の最適資本構成は如何にあるべきか。資本に関わる利害関係 者は,株主,経営陣,従業員,保険契約者,規制当局,格付機関等があり,

それぞれその捉え方が異なる。

本稿では株主価値指標であるEVA が 0(ゼロ) になるROEから逆 説的に最低必要資本を算出する。最低必要資本の分析により,損害保険業態 が保険本来の企業価値を創造しているかどうかを考察する。

損害保険業態は,商品特性(価値転倒財,不確実性の財など),事業特性

(より大きい母集団確保の必要性など),および市場特性(独占的競争市場な ど)が特異であるため,株主価値増大に向けた過度の目標設定は,損害保険 経営の安定という観点からは必ずしも賢明な方向性であるとは言い難い。基 本はあくまで負債の管理・運用であり,アンダーライティングを中心とする リスクテイクと資本の充実度の関係を管理し,経営の健全性を確保しながら 資本効率を高めることにある。

■キーワード

EVA,ROE,エコノミックキャピタル

*平成17年10月1日の日本保険学会関西部会(富士火災)報告による。

/平成18年11月22日原稿受領。

1) 損害保険業態のEVAについては,拙稿 EVAによる損害保険業態の分析 保険学雑誌 第587号を参照願いたい。

2) 企業が自社の有するリスクに対処するために備えておくべき株主資本。

(2)

はじめに

本稿では,まず一般事業会社の株主価値指標であるEVAにより,実態か ら見た損害保険業態の最低必要資本を求める。次に,損害保険業態も金融業 態に身を置く一業態であることから,バーゼル銀行監督委員会が2004年6月 に公表した新BIS規制案(以下,バーゼルⅡと記す)の枠組みに示されて いるエコノミックキャピタルの視点による考察を行う。最後に,株主資本と 負債の中間的な位置づけにあるハイブリット資本 の導入等,最適資本構成 の新たな局面を標榜する。

Ⅰ.EVA計算の予備的考察

EVAによる最低必要資本を計算するにあたり,損害保険業態の実態に合 わせ,資産,負債,および株主資本を適切に修正する。

1−1 資産,負債,および株主資本の修正

⑴ 資産

資産の修正は行わない。EVAでは,市場性のある有価証券は資産から削 除すべきであるとされている。短期有価証券残高に含まれる短期国債や割引 金融債等の債券を含む有価証券と同額を総使用資本額から削除する。市場性 のある有価証券を保有しているということは,営業活動を行うのに必要とさ れる金額以上の余裕資金を有しているとみなされ,そのような余裕資金の運 用による短期有価証券は,企業活動本来の目的ではなく資産から控除すべき だという考えである。

しかしながら,損害保険業態では,金融資産の運用収入は本業と捉えるべ きで,資産を修正する必要はない。実態からしても,有価証券の中身は個社 マターであるためその判断は難しい。

3) 株主資本と有利子負債の中間にあたるもの。

(3)

⑵ 負債

異常危険準備金を株主資本に含める。損害保険業態の負債の殆どは保険契 約準備金である。保険契約準備金は支払備金と責任準備金に分かれ,責任準 備金は普通責任準備金,払戻積立金,契約者配当準備金,異常危険準備金,

地震保険の危険準備金,自賠責保険の義務積立金・調整準備金・運用益積立 金・付加率積立金に分かれる。

負債を分類すると4つに分けることができるが ,EVAでは無利子流動 負債以外はすべて総使用資本を構成すると考えられている。ここで問題にな るのが異常危険準備金である。異常危険準備金は貸倒引当金の性格を有して いるため擬似株主資本と考えるべきである。

一方,バーゼルⅡの考え方に立てば,普通責任準備金は平均的な損失をカ バーするものであるとみなされるが,異常危険準備金は平均的な損失からの 乖離をカバーするものであるとみなされる。つまり,普通責任準備金はあら かじめ損失が予想されているコスト(Expected Loss:期待損失)であるが,

異常危険準備金は損失が予想できないリスク(Unexpected Loss:非期待 損失)をカバーするための資本であるということができる 。

⑶ 株主資本

資本のWACC 計算にあたっては,経営者が理想とする資本コスト率を 使用する。有利子負債コスト率は実際の負債額に対するコスト率を用いるが,

株主資本コスト率は一般に普及しているCAPM ではなく,経営者が株主 に対して主体的に設定する 目標ROE(%) を用いる。一般に普及してい CAPMは株主の期待収益率を過去の株価の統計値,すなわち株式市場か ら受動的に与えられたものだけで判断しているため現実的ではないからであ る。

4) 岩瀬[2006]p.35参照。

5) 岩瀬[2006]p.35参照。

6) 岩瀬[2004]p.160参照。

7) 岩瀬[2004]p.160参照。

(4)

1−2 時価評価と簿価評価

EVAの計算にあたり,時価(市場価値)を使用するのか,簿価(投下資 本)を使用するのかという問題を考察する。

⑴ 株主資本

WACC計算における株主資本額には各種の剰余金等を含むため,EVA は簿価をベースにしている。時価をベースに企業経営を評価すれば,簿価ベ ースの評価を時価で再評価することになり,二重の評価を行うことになる。

株主資本は,株主が自ら運用することはなく,企業に運用を任した資金であ り,経営者は株主から任された金額に対する運用成果の責任を負う。

⑵ 有利子負債

有利子負債は簿価を使用する。通貨は時間的価値を有しており,その価値 に信用リスクプレミアムが上乗せされ有利子負債調達コストが決定される。

現在価値は,N年後の価値を一定の金利で割り引くことにより計算され,

現在価値に割引計算された価値が割引現在価値である。近年,割引現在価値 は株価の決定要因を説明する理論として使われている。会社の格付が低下す れば信用度が低下するため調達コストは上昇する。有利子負債に時価を使用 すると,割引現在価値計算においては,割引率が上昇すれば現在価値は小さ くなり,負債が小さくなる分,評価益が計上されるという問題がある。

⑶ 保険負債

EVAは簿価をベースにしているため,負債についても有利子負債と同じ く簿価を使用する。

保険負債の時価評価に関しては,国際会計基準の見直しの中,IASBの保 険検討プロジェクト・フェーズⅡで本格的な審議がされている。IASBの考 え方は,金融商品と同様,時価評価(IASBでは 公正価値 )を保険契約 に導入しようとするものである。

しかしながら,損害保険業態の企業価値を見るには,キャッシュフローに 基づく時価評価は適切ではない。キャッシュフロー経営の主眼はフリーキャ ッシュフローの増加であるため株主資本コストを無視しているからである。

(5)

EVAがキャッシュフローに比べ優れている点は,資本コストを考慮に入れ ていることである。

Ⅱ.目標 ROE から求めた最低必要資本

2−1 EVAと ROE

過去の実績をベースにEVAが 0(ゼロ) になるROEを求める。求め ROEから逆説的に算出した資本が損害保険業態の最低必要資本となる。

図−1 および 図−2 は,1996年度 から2004年度までの損害保険 業 態 全 体 のEVAを,ROEを 変 数 と し て 時 系 列 で 表 し た も の で あ る。

図−1 は現行の異常危険準備金を株主資本に含まない場合で, 図−2 は異常危険準備金を株主資本に含んだ場合である。現行の異常危険準備金を 株主資本に含まない場合,EVAが 0(ゼロ) になるROEは約6.3%で あるが,異常危険準備金を株主資本に含んだ場合,EVAが 0(ゼロ) になるROEは約4.4%に低下する。先に述べたように,最低必要資本の計 算にあたっては,異常危険準備金を株主資本に含むことが適切であり,

ROEが4.4%から逆説的に算出した資本が必要最低資本となる。

図−3 は,1996年度から2004年度までの損害保険業態全体の最低必要 資本(異常危険準備金を株主資本に含む場合と含まない場合)と実態資本を 比較したものである。2003年度以降,最低必要資本が急激に向上しているが,

これは,株式の持ち合い解消に向けて,有価証券を売却したことによる当期 利益の向上が主な要因である。

8) データは保険業法改正以降のものを採用した。改正前は 事業(保険事業) と 事業外(資産運用等) を区分しており,現在の損益計算書と比較しても 意味がないからである。

(6)

図−1 ROE を変数とした場合の EVAの変化 (異常危険準備金を株主資本に含まない場合)

図−2 ROE を変数とした場合の EVAの変化 (異常危険準備金を株主資本に含んだ場合)

図−3 最低必要資本と実態資本

出典: 図−1 〜 図−3 は,損害保険各社の 損益計算書 , 貸借対照表 および インシュアランス損害保険統計号 をもとに筆者が作成。

(7)

2−2 株価向上と企業努力

TOPIXとの比較

図−4 は,1996年 度 か ら2004年 度 ま で の,損 害 保 険 業 態 の 株 価 と TOPIXを比較したものである。1996年度当初約700円近くの乖離があった が,2003年度以降,乖離は殆どなく,損害保険業態の株価向上への企業努力 が伺える。

図−5 は,1996年度から2004年度までの損害保険業態のリスクプレミ アムを表したものである(β=1とした)。1996年度当初,リスクプレミア ムがリスクフリーレート(10年国債利回り)を下回っていたが,1998年度を 境に逆転し,1999年度以降,平均2.9%(ROE=4.4%:異常危険準備金を 株主資本に含む場合)で推移している(ROE=6.3%:異常危険準備金を株 主資本に含まない場合は平均4.9%)。ここにおいても,損害保険業態の株 価向上への企業努力が伺える。

図−4 株価比較

(8)

⑵ 株価と各種指標

図−6 から 図−13 は,1996年度から2004年度までの損害保険業態 の株価と各指標との相関関係を表したものである。横軸は事業年度の幅,縦 軸はピアソン相関係数を表している。

株価と最も強い相関関係が見られるのは株主資本,有価証券売却益,社費 総額 である。次に強い相関関係が見られるのは資産運用費用と責任準備金 で,正味収入保険料,正味支払保険金,総資産については特に強い相関関係 は見られない。

損害保険業態は,ここ数年株主資本の増加とともに株価が向上しているが,

極端な言い方をすれば,含み益の出る有価証券の売却と社費総額の削減によ り株価向上を図っている業態であるといえる。

図−5 リスクプレミアムとリスクフリーレート

出 典: 図−4 図−5 は,損 害 保 険 各 社 の 損 益 計 算 書 , 貸 借 対 照 表 , インシュアランス損害保険統計号 ,および 株式会社IICパートナーズ 国債利回り をもとに筆者が作成

9) 社費総額=営業費及び一般管理費+損害調査費

(9)

図−6 株価と株主資本の相関関係

図−7 株価と有価証券売却益の相関関係

図−8 株価と資産運用費用の相関関係

(10)

図−9 株価と社費総額の相関関係

図−10 株価と責任準備金の相関関係

図−11 株価と正味収入保険料の相関関係

(11)

Ⅲ.エコノミックキャピタルによる考察

損害保険業態の新たな局面を,エコノミックキャピタルにより考察する。

エコノミックキャピタルとは,企業が自社の有するリスクに対処するために 備えておくべき資本のことで,近年,株主価値から見た最適資本構成を導き 出す有効な手段となっている。

3−1 株主資本と有利子負債の調和

企業価値の最大化には,株主資本と有利子負債をどう組み合わせればよ 図−12 株価と正味支払保険金の相関関係

図−13 株価と総資産の相関関係

出典: 図−6 〜 図−13 は,損害保険各社の 損益計算書 , 貸借対照表 , インシュアランス損害保険統計号 および 株式会社IICパートナーズ国 債利回り をもとに筆者が作成。

(12)

いか という資本構成の問題を最初にテーマとしたものにMM理論 があ る。MM理論では,資本構成は企業価値に何ら影響を与えず,キャッシュ フローが同額である企業の価値は,株主資本と有利子負債の組み合わせに関 係なく同じであるとしている。ただし,MM理論は, 法人税がなければ ,

倒産の可能性がなければ 等,いくつかの前提条件があり,投資家と経営 者との関係に基づくエージェンシーコスト の問題も考慮に入れた上でなけ れば最適な資本構成は導き出せない。

3−2 バーゼルⅡとエコノミックキャピタル

バーゼルⅡではエコノミックキャピタルによる最低所要自己資本規制が謳 われている。バーゼルⅡは銀行モデルであるが,損害保険業態も金融業態に 身を置く一業態であることから,応用できるところを捉える。

⑴ バーゼルⅡの枠組み

バーゼルⅡでは,リスクが複雑化・高度化するなかで,金融機関を規制だ けで律することは困難であるとし,自己資本比率規制のみならず自己規律と 市場規律とを相互補完的に活用する枠組みを打ち出している。いわゆる三本 柱アプローチ である。第一の柱に挙げられている最低所要自己資本規制は 最低限の備えでエコノミックキャピタルの観点が謳われている。これに抵触 すると,早期是正措置により経営改善や市場からの退出などが義務づけられ る。

10) 米国の経営学者モディリアーニ(F.Modigliani)とミラー(M.Miller)の 頭文字を取ったもので,株主資本と有利子負債の比率と企業価値の問題を理論 立てて説明している。MM理論は,その後企業財務論に発展し,証券業態で は証券設計議論(証券を,企業資産に対する利益権と支配権の組合せとして統 一的にみる)に繫がった。

11) 経済取引における,供給者と需要者との間に存在する情報の非対称性を補完 するためのコストをいう。

12) 第二の柱は銀行のリスク管理に基づく自己規律と監督当局の検証,第三の柱 は市場規律である。(宮内篤[2004]p.4.

(13)

⑵ エコノミックキャピタルの計算

資産の内容を精査すれば資産のリスク度を設定できるため,それを基にエ コノミックキャピタルが算出される。方法は以下の3通りがある。

①リスクウェイトを全資産同一とする方法

②全資産にリスクウェイト付けをする方法

③資産のリスク度から数学的にリスク量を計算する方法

⑶ 一般事業会社の資本と金融業態の資本

損害保険業態のエコノミックキャピタルを考察する前に,一般事業会社と 金融業態の資本を整理しておく。

一般事業会社の資本と,金融リスクをカバーする資本は,これまで全く別 と考えられていた。ファイナンス理論では,資本構成は企業価値を最大化す るように設計すべきであるとされているが,MM理論では,無税の場合,

資本と債務のレバレッジは意味をなさないとされている。では,一般事業会 社の場合,資本は運転資金や設備投資で決めるということになるのか。

一方金融では,バーゼルⅡにより,金融リスクとその他のリスク(オペレ ーショナルリスク)はともに資本賦課と求められ,そのうち戦略リスクのよ うな計量化が可能でないものはオペレーショナルリスクから外される。そう なれば,一般事業会社の資本は 設備投資を含めた戦略リスク+成長度によ るレバレッジ ということになる。

金融機関では戦略リスク以外の明示的に認識できる(もしくは計量化でき る)リスクがリスクキャピタル で,経営者リスクなどの戦略リスクは事業 そのものの不確定性とし,一般の資本でカバーされるべきである。基本スタ

13) 資産のリスクウェイトを決定し,[資産額×リスクウェイト]により計算さ れる金額が実際の株主資本額と比較して十分かどうかを計算する。

14) リスク度を算定し,それをウェイトとして当該資産額に掛けることによりエ コノミックキャピタルを算出するのではなく,それぞれのリスク度とそれぞれ のリスクの相関係数(Aのリスクが高まればBのリスクは低下する等)を計 算し,現実に発生する可能性があるリスク額を算出する。

15) 岩瀬[2004]pp.161‑162参照。

(14)

ンスは,金融機関のリスクキャピタルは,オペレーショナルリスクがなけれ ば計量化可能で,内訳がわかる金融リスクのUL(Unexpected Loss:非期 待損失)をカバーするための資本である。それ以外の事業自体の計量化が困 難なリスクは,金融機関でも事業会社でも株主資本でカバーされるべきであ る。

Ⅳ.損害保険業態の新たな局面

4−1 損害保険業態の企業価値

⑴ エコノミックキャピタル

エコノミックキャピタルは資産の市場価値と負債の市場価値の差で表され,

負債の時価評価は将来の支払可能性の現在価値と定義されている。損害保険 業態は,商品特性,事業特性,および市場特性が特異であるため ,実態か ら見た分析を行うことが適切である。ここでは損害保険業態のリスクウェイ トが全資産同一と仮定した場合の最低必要資本を計算する。

損害保険業態のソルベンシーマージン は,巨視的には 総資産÷予想を 超えるリスク総量 であり,200%が最低必要基準とされている。逆説的に 言えば,ソルベンシーマージン比率が200%となる総資産の額がエコノミッ クキャピタルの額に相当する。

2004年度の損害保険業態のソルベンシーマージン比率は884.7%,総資産 は31,422,494百万円であるから,31,422,494百万円×200/884.7=7,103,537 百万円がエコノミックキャピタルとなる。一方,先の目標ROE(4.4%)か ら逆説的に求めた最低必要資本 は5,713,500百 万 円(当 期 利 益╱ ROE=

16) 岩瀬[2004]pp.177‑180参照。

17) 損害保険業態のエコ ノ ミ ッ ク キ ャ ピ タ ル に つ い て は,NAIC(National Association of Insurance Commissioners:全米保険監督協会)が制定した 

Risk Based Requirementがあり,日本のソルベンシーマージンの考え方に 近いRBC(Risk Based Capital)規制がある。リスクの範囲を4つ(資産リ スク,クレジットリスク,U╱Wリスク,オフバランスリスク)に分け,カテ ゴリーごとにRequired RBCを設定し,その何%の株主資本があるかを見る。

(15)

251,394百万円╱0.044)である。すなわち,ソルベンシーマージン比率から 逆算したエコノミックキャピタルは,目標ROEから逆説的に求めた最低必 要資本をわずかに上回っている。但し,この計算は2004年度に限ったもので あり,又,現行ソルベンシーマージンの最低必要基準はエコノミックキャピ タルを正確に反映したもので,損害保険業態のリスクウェイトは全資産同一 であるという前提に立っている。

図−14は同様の手法により1997年度から2004年度までの推移を表したもの である。従来,ソルベンシーマージンから逆算したエコノミックキャピタル は,目標ROEから逆説的に求めた最低必要資本を大きく上回っていたが,

2003年度以降,急激に乖離がなくなってきている。これは損害保険業態の資 本が脆弱化していることを示している。

⑵ 株主資本比率とD ╱ Eレシオ

1996年度から2004年度までの損害保険業態全体の株主資本比率(株主資本

╱総資産)とD ╱ Eレシオ(Debt Equity Ratio:有利子負債╱株主資本)

を計算した。 図−15 と 図−16 は,実態資本から求めた株主資本比率 D ╱ Eレシオである。一方, 図−17 と 図−18 は,最低必要資本か 図−14 ソルベンシーマージンから逆算したエコノミックキャピタル と

目標 ROE から求めた最低必要資本

(出所)損害保険各社の 損益計算書 , 貸借対照表 および インシュアランス 損害保険統計号 をもとに筆者が作成

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ら求めた株主資本比率とD ╱ Eレシオである。

実態資本で見る限り,2000年度以降,株主資本比率の向上,D ╱ Eレシ オの低下とも順調に進んでおり,格付向上に向けての企業努力の跡が伺える。

しかしながら,最低必要資本で見ると,実態資本で見た場合に比べ,株主 資本比率は低く,D ╱ Eレシオは高い。特筆すべきは,2003年度以降,株 主資本比率の急激な向上,D ╱ Eレシオの急激な低下が見られることであ る。これは,株式の持ち合い解消に向けて,有価証券を売却したことによる 当期利益の向上が主な要因で,損害保険業態本来の企業価値創造である 保 険引受契約の増加 によってもたらされたものではない。

損害保険業態は,極論すれば資産の大半が有価証券,負債の殆どが保険契 約準備金という業態である。オペレーションとファイナンスが複雑に絡み合 っており,その事業活動は保険引受契約と資本市場における投資の2つがあ る。保険引受契約の増加により新しい価値を創造するとともに責任準備金が 増える。一方,責任準備金を投資に回して利益を挙げることができる。つま り,資本市場で再投資できる資本を持っていることになる。しかしながら,

責任準備金は契約者からの預かり金であり,損害保険業態は公共性の強い事 業であるため規制下で事業を遂行しなければならない。そのため,投資家に よる直接的投資に比べた場合,多種多様な事業を支えるための最低水準の資 本を維持することが要求されている。この大きな負債項目の管理・運用こそ が損害保険業態の極めて重要な業務である。

(17)

図−15 損害保険業態の株主資本比率(実態資本)

図−16 損害保険業態のD/Eレシオ(実態資本)

図−17 損害保険業態の株主資本比率(最低必要資本)

(18)

4−2 安全性と資本コストのトレードオフ

⑴ 資本を巡る利害関係者

保険会社はどれ位の資本を保有すべきか。資本を巡る既得権益,資本の捉 え方等,資本に関わる利害関係者は様々である。株主は常に利益が向上する 保険会社の能力を高く評価し,経営陣・社員は事業の存続に重きを置き,保 険契約者は確実な保険金給付と同時に廉価な保険料を期待する。又,当局は 契約者保護を目指す一方,保険市場の長期的健全性を望み,格付機関は投資 家が要求する債務の履行が責務である。

このように,株主,経営陣,従業員,保険契約者,規制当局,格付機関等,

それぞれ異なった既得権益があるため,最適資本構成に関しては資本の捉え 方が異なる。結局のところ経営者自身が目標とするものになる。

⑵ ハイブリット資本

ハイブリット資本は,株主資本と債務の中間にあたるもので,これを使用 する保険会社はインソルベシー(支払不能,債務超過)のリスクを計画的に 軽減できる。他方,投資家はエクイティファイナンスに伴うリスク・プレミ アム全体を支払う必要がない。ハイブリット資本は,一定の規制を条件に,

EUでも米国でもソルベンシーの計算上,利用可能な資本資金(キャピタル 図−18 損害保険業態のD/Eレシオ(最低必要資本)

出典: 図−15 〜 図−18 は,損害保険各社の 損益計算書 , 貸借対照表 および インシュアランス損害保険統計号 をもとに筆者が作成

(19)

ファンド)と結合することができ,金融コングロマリット に対する補完的 役割を担うものとして注目されている。

しかしながら,ハイブリット資本は株主資本と負債の代替性という利便性 はあるものの,損害保険業態の企業価値を考える上では根本的な解決にはな らない。ROEの矛盾(保険契約者保護を目的とした過剰資本はROEの低 下に繫がり,株主の投資収益率が悪化するため逆に保険料が上昇する)を解 決できるものにはなるが,あくまで水際の解決策と言える。ROEには様々 な問題があるため ,損害保険業態の企業価値を正しく評価するにはEVA を適切に修正した指標が望ましい。

おわりに

本稿では,EVAが 0(ゼロ) になるROEから逆説的に求めた最低必 要資本を分析に利用した。損害保険業態は2003年度以降,株主資本の充実に 合わせ株価が向上しているが,最低必要資本の視点から見れば株主資本は脆 弱化している。又,株主資本比率とD ╱ Eレシオについて,実態資本と最 低必要資本の両面から考察を行ったところ,最低必要資本で見ると,実態資 本で見た場合に比べ,株主資本比率は低く,D ╱ Eレシオは高い。特筆す べきは,2003年度以降,株主資本比率の急激な向上,およびD ╱ Eレシオ の急激な低下が見られることである。これは,有価証券を売却したことによ る当期利益の向上が主な要因で,損害保険業態本来の企業価値創造である

保険引受契約の増加 によってもたらされたものではない。

株主価値増大に向けて企業努力を続けることは重要であるが,株主価値を 追い過ぎることは保険業態本来の企業価値を損なう。株価向上のための過度 の目標設定は,株主資本の脆弱化を招くおそれがあり,損害保険経営の安定 化という観点からは必ずしも賢明な方向性であるとは言い難い。基本はあく まで負債の管理・運用であり,アンダーライティングを中心するリスクテイ

18) 銀行,証券,保険など,異なる業態の金融機関で構成する複合企業体をいう。

19) 岩瀬[2006]p.23参照。

(20)

クと資本の充実度の関係を管理し,経営の健全性を確保しながら資本効率を 高めることにある。

(筆者は福井県立大学助教授)

<参考 献>

浅野幸弘[1999] ROE,EVAと企業評価 現代ファイナンス 誌第5号。

岩瀬泰弘[2004] EVAによる損害保険業態の分析 保険学雑誌 第587号。

岩瀬泰弘[2006] EVAによる企業価値評価 保険学雑誌 第594号。

株式会社IICパートナーズ 国債利回り

Web site : http://www. iicp.jp/library/debt.html,2005年6月29日抽出。

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[2000]VALUATION:M EASURING  AND  M ANAGING  THE  VALUE OF COMPANIES,3/Edition.(マッキンゼー・コーポレート・ファイナンス・グ  ループ訳[2003] 企 業 価 値 評 価−バ リ ュ エ ー シ ョ ン:価 値 創 造 の 理 論 と 実 践− ダイヤモンド社)

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