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岩瀬泰弘著 企業価値創造の保険経営

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Academic year: 2021

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岩瀬泰弘著 企業価値創造の保険経営

⎜ 千倉書房,2007年10月,はしがき2頁,目次3頁,参考文献2 頁,索引3頁,計算表13頁,本文163頁 ⎜

はじめに

近年における損害保険の経営は,株主配当を大きくするための株主重視の 経営に傾斜している傾向が見られる。このような環境下での損害保険各社の 保険金未払いの多発は,株主重視の経営が結果的に消費者軽視の風潮を招く 可能性さえ示しているともいえる。損害保険経営の在り方の再構築が強く求 められている。

本書は,世界的な流れでもある株主重視経営のための指標が損害保険事業 にも適切な指標であるかに疑問を抱き,企業価値創造という観点から各種経 営指標を実証的に検証し,新たな経営目標として 企業価値創造 を提案す るものである。

各章別の内容

本書における各章別の具体的な内容は,次の通りである。

第1章 損害保険事業の構造上の問題

損害保険業界の熾烈な競争のため,続々と新商品が発売され,消費者の保 険商品の選択肢は多くなったが,商品内容がかなり難しいものになった。近 年多発した保険金の支払い漏れは,損害保険会社経営に警鐘をを鳴らすもの である。

一方,過剰資本は,ROE(Return Of Equity;株主資本利益率=当期利 益/株主資本)を低下させる。分母の株主資本が大きくなるためである。し かし,損害保険経営の基本は,株主資本の充実を通じた経営の健全性を確保 207

【書 評】

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しながらも,資本効率を高めることにある。

第2章 損害保険の特性

損害保険には,商品特性,事業特性,市場特性がある。商品特性には,価 値循環の転倒性,条件付の財,道徳危険,逆選択,情報の非対称性がある。

事業特性には,供給の無限性,過当競争に陥りやすい,大きい母集団確保の 必要性,信用の外部性(公的規制の必要性)がある。

第3章 損害保険商品の料率(価格)制度

既存の損害保険会社が現在の商品・料率(価格)制度を守ろうとするのに 対し,新規参入者は,既存の商品・料率制度や販売網・販売形態にあまりと らわれず,大きな赤字にならない限り採算性にはこだわらないことが考えら れる。

第4章 企業価値評価による損害保険事業の分析

EVA(Economic Value Added)とは,会計上の税引き後営業利益から 金利などの有利子負債コストと,株主配当である株主資本コストを控除した ものである。したがって,株主資本コストを考慮しない株主資本利益率

(ROE)が増加すると,EVAは減少する関係にある。

1996年度から2004年度までの損害保険事業のEVAを,ROEの変数とし て分析した結果,ROEが5%を超えると約40%の会社のEVAがマイナス になる。経営目標としてROEを過度に追うことは保険会社の自己資本縮小 による財務能力の脆弱化を招く可能性がある。

第5章 損害保険事業の最適資本構成

2003年 度 以 降,株 主 資 本 の 急 激 な 向 上,お よ び DE レ シ オ(Debt Equity Ratio;有利子負債╱株主資本)の急激な低下が見られる。これは, 

有価証券の売却による当期利益の向上が主な原因で,損害保険事業本来の企

岩瀬泰弘著 企業価値創造の保険経営

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業価値創造である 保険引受契約の増加 によってもたらされたものではな いことを意味する。株主価値を追い過ぎることは,損害保険事業本来の企業 価値を損なうことになる。ROEの計算の仕組みから分母である株主資本の 減少(脆弱化)を招くおそれがある。

第6章 損害保険事業の企業価値

保険引受戦略については,株式時価総額に対する経済的保険引受収益,増 収率,および損害率の相関関係を調べてみたところ,経済的保険引き収益は 事業年度に関わりなく非常に強い相関関係があるが,増収率や損害率につい てはそれほど強い相関関係は見られなかった。

第7章 損害保険事業の経営課題

損害保険事業は,ここ数年株主資本の増加とともに株価が上昇しているが,

端的な言い方をすれば,含み益の出る有価証券の売却と社費総額の削減によ り株価向上を図った結果といえる。損害保険事業は,資産が大きいか小さい かが問題ではなく,リスクの質をどのように管理すべきかである。

第8章 企業価値と株主価値

現在,多くの企業は会計ビックバンに伴って導入された 時価評価 を契 機とする株式持合いの崩壊により,資本コストを意識せざるを得ない状態が 続いている。これは,損害保険事業も例外ではない。損害保険事業は,経営 指標としてROEを用いることが多いが,損害保険事業の企業価値を正確に 見るにはEVAも併用する必要がある。

終章

損害保険事業は,アンダーライティングを中心とするリスクテイクと資本 の充実度の関係を適正に管理し,経営の健全性を確保しながら資本効率を高 める必要がある。そのためには,EVAなどの新しい経営指標の導入と,そ

保険学雑誌 第 601号

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れを支える料率(価格)秩序の再構築が急がれる。

論評

株主資本利益率(ROE)を目標にした損害保険会社経営は,株主重視経 営という世界的な流れの中に組み込まれた結果である。しかし,株主資本利 益率(ROE)は,必ずしも損害保険会社の価値創造を表すものではなく,

保険契約者,株主,経営者,従業員,代理店,規制当局などの損害保険事業 を取り巻くステークホルダーの共通の利益を表す指標でもない。株主配当の ための利益を最大化することが,保険金支払い漏れなどが発生した一因にな っていることは否めない。

本書では,株主重視の経営に傾斜している損害保険会社の経営の在り方に 対する問題を提起し,データに基づいた実証的な検証の成果として, 企業 価値創造の保険経営 が提案されている。株主重視の企業ガバナンスの一般 論を損害保険会社に適用する際の問題分析から出発している,時期を得たス ケールの大きいものである。本書の内容の一部には,焦点が絞り切れず研究 内容の幅が広がりすぎている印象を与えているところがあるのは,そのスケ ールの大きさに起因するものであると思われる。

本書の内容は,保険経営に携わる実務家のみならず,保険経営学に示唆す るところが大きい。著者には,持続可能な保険経営のための保険経営学のさ らなる展開を期待する。

(評者:早稲田大学教授 李 洪茂)

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岩瀬泰弘著 企業価値創造の保険経営

参照

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