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損害保険販売責任の法構造

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損害保険販売責任の法構造

大 塚 英 明

■アブストラクト

代理店チャネルの損害保険販売において,保険契約者に対する民事責任は どうあるべきか。それはおよそ次の4類型に分けられるのではないか。A 類型:業法300条1項の説明義務違反をベースとし代理店に民法709条責任を 負わせ,保険会社に業法283条の責任を負わせるパターン,B類型:信義則 に基づく顧客保護義務違反をベースとし,代理店にのみ損害賠償責任を負わ せるパターン,C類型:いわゆる 助言義務 違反をベースに,やはり代理 店に損害賠償責任を負わせるパターン,そしてD類型:製販分離を前提に,

保険会社に製造物責任的な構造の損害賠償責任を負わせるパターンである。

AおよびB類型についてはすでに判決が存在し,比較的分析がし易いが,C およびDの類型についてはこれまで必ずしも十分な法的位置づけが行われ てはいないように思われる。したがって,本稿はあくまで試論にとどまる。

■キーワード

損保販売の民事責任,製販分離,説明義務と助言義務

1 はじめに

保険業法において,保険募集の際の民事責任に直接的に触れるのは,283 条のみである。保険販売をめぐるトラブルが複雑化・多様化している現在,

この規定だけで募集責任の理論的根拠は完璧に構築できるのだろうか。本稿

*平成22年10月23日の日本保険学会大会(早稲田大学)報告による。

/平成23年1月23日原稿受領。

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は,この疑問に基づき,代理店チャネルを通した損害保険募集において民事 責任にどのような類型が考えられるかを整理し,その結果として業法283条 の限界を示すことを目的としている。平成22年度保険学会シンポジウムの席 上で行った報告を補足することができれば幸いである。

2 説明義務違反をベースとする A類型

1) A類型の判決群

損害保険募集の民事責任を論ずるにあたり,最も典型的なパターンはいわ ゆる 説明義務 違反の類型である。いくつかの判決がこの類型に属するが,

例えば自動車保険の26歳未満不担保についての説明義務違反が問題となった 東京地裁 王子支部平成2年5月25日判決 ,および同じ事件の控訴審であ る東京高裁平成3年6月6日判決 ,ならびにドライバー保険の適用範囲に ついての説明義務違反が問題とされた東京地裁平成4年10月27日判決 ,お よび同じ事件の控訴審である東京高裁平成7年4月28日判決 などがよく知 られている。

1) 判タ746号208頁,判時1358号138頁,金判889号38頁。本判決に対する評釈と しては,大澤康孝・判批・ジュリ980号(1991)110頁,石田満・判批・ 保険 業法の研究Ⅱ (文眞堂,1992)162頁,森田章・判批・商事1346号(1994)45 頁,木下孝治 損害保険代理店の説明義務と顧客による商品選択 損保58巻2 号(1996)179頁,鈴木辰紀 損害保険代理店の告知義務−26サイミマンフタ ンポ特約を巡って 早商366・367合併号(1996)201頁以下がある。

2) 判時1443号146頁,判タ767号236頁,金判889号31頁。本判決に対する評釈と しては,吉田直・判批・金判895号(1992)44頁,石田・前掲注⑴186頁,石田 満・判批・ 平成3年度重要判例解説 ジュリ1002号(1992)102頁,藤田勝 利・判批・リマークス5号<下>(1992)124頁,石田満・判批・商法(保険・

海商)判例百選〔第2版〕(1993)22頁,石田満・判批・損害保険判例百選

〔第2版〕(1996)20頁,鈴木・前掲注⑴201頁以下,久保田安彦・判批・保険法 判例百選(2010)14頁がある。

3) 金判941号26頁。本判決に対する評釈としては,木下・前掲注⑴182頁がある。

4) 判タ887号226頁,金判974号26頁。本判決に関する評釈としては,吉田直・

判批・金判992号(1996)48頁,木下・前掲注⑴184頁がある。

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紙面の都合上,それぞれの詳細な分析は注記の各評釈等に譲り,ここでは 上の年齢未満不担保条項の判決を概観してみることにする。ここでは,代理 店が自動車保険の更改に際して,保険契約者の長男・長女が運転免許を取得 したことを知悉しながら,26歳未満不担保条項を付帯したまま契約を更改し てしまった。確かに満期通知および成約後に送付された保険証券にも, 26 サイミマンフタンポ という文字が記載されてはいたものの,契約者は,年 齢未満不担保という仕組みに興味も関心もなく,加えて満期通知や保険証券 をほとんど見ることもなかったため,この免責条項を認識していなかった。

その後契約者は,長女が運転中に惹起した事故の人損・物損の支払いを求め たがこの免責によって支払がなされなかった。そのため保険会社に対して保 険募集取締に関する法律11条1項(現行保険業法283条1項)の損害賠償責 任を追求した。

2) 重要事項の説明

東京地裁 王子支部は,まず年齢条件不担保の重要性について次のように 述べる。

運転者の年齢が26歳未満の場合,保険者が保険事故による損害を担保し ないという特約を付すかどうかは保険による担保の範囲を著しく制限するも のであるから,保険募集の取締に関する法律第16条第1項第1号の重要事項 に当り,保険契約更新において保険代理店は保険契約者にこれを十分説明し,

告知しなければならない 。

当時の募取法16条は現行保険業法300条に相当するが,そこには, …保険 募集人…は,保険契約の締結又は保険募集に関して,次に掲げる行為…をし てはならない。 一 保険契約者又は被保険者に対して,虚偽のことを告げ,

又は保険契約の契約条項のうち重要な事項を告げない行為 と規定されてい る。本件判決は,年齢条件不担保がこの規定による説明の対象事項であるこ とを大前提に置いた。

さらに判決は続ける。すなわち,〔保険契約者〕方の運転可能の人的構成

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に変化がなかった昭和60年度については右認定のような,満期前の葉書送付 による前年度の保険契約の告知と契約更新の意思確認くらいで告知は十分に 行なわれたといえるが,昭和61年8月の更新契約においては,右認定のよう に同年七月に〔保険契約者の長女・長男〕の両名が相次いで普通自動車の運 転免許を取得して〔保険契約者〕方の運転可能の人的構成が一変し,しかも 保険代理店である〔A〕の代表者である〔B〕は更新契約前にこれを知悉し ていたのであるから,この年度については前年度とは異なる告知がなされる べきであり,〔A〕は〔保険契約者〕に対し,前年度と同じ内容の契約では

〔保険契約者の長女・長男〕が本件自動車を運転して事故を起した場合には 保険金は貰えないことを説明すべきであるが(説明,告知の方法,程度は保 険契約者の経験,知識,職業などで異なるべきであるが,〔保険契約者〕は 右認定のように過去に自動車保険の経験を有するものの,一介の大工であり,

保険に関する知識は極めて貧弱であったと思われるから,説明は判りやすい,

親切なものであるべきである),〔A〕は前年度の場合と同じく,満期前の葉 書の送付による前年度の契約内容の告知と契約更新の意思確認だけで契約を 更新したことは前記認定のとおりであるから,更新時における重要事項の説 明,告知としてはそれは不十分であり,不親切であったといわざるをえな い 。

3) 説明義務違反類型の形成

判決はこの部分で,本件における代理店A代表者Bの対応が業法300条 1項の義務違反に該当すると明確に認定した。その際, 説明,告知の方法,

程度は保険契約者の経験,知識,職業などで異なるべき とし,実際に本件 契約者が大工であったというような個別事情まで汲み上げる基準を採用した。

この東京地裁判決を仮に一般論化できるとすれば,業法300条1項1号の説 明は,保険契約者の 個性 に応じて程度・内容が変化することもあり得る。

のみならず,東京地裁は 〔保険契約者〕方の運転可能の人的構成が一変し,

しかも保険代理店である〔A〕の代表者である〔B〕は更新契約前にこれを

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知悉していた という事情を明らかに考慮にいれている。そのうえで, 説 明は判りやすい,親切なものであるべき とした。ということは,代理店が 個別に有する保険契約者情報も当該代理店の説明義務に大きな影響を及ぼす ということになる。だとすれば,業法300条の説明義務はかなり厳しいもの と化す。この点がセンセーショナルだったばかりに,この東京地裁判決への 関心は,もっぱら業法300条1項1号の 説明義務 の内容分析として集中 することになった。

しかしながら,実は東京地裁判決は,その後の[募集上の責任 の論議を 方向付けるべき,今ひとつ別の特徴を有していた。上記の説明義務違反の認 定に続いて,判旨はただちに保険会社の保険業法283条1項(募取法11条1 項)責任を導くのである。元来,業法283条は民法715条と同種の監督責任と 解されてきた。だとすれば,283条が成立するためには,まず募集従事者の 独自の民事責任,とくに民法709条の責任が成立し,その上で保険会社が当 該募集従事者の行為を抑止するための 監督義務 に違反していると構成し なければならないはずである。しかしそもそも業法300条はあくまで監督法 規であり,直接的に民事責任の根拠とする法律構成には無理がある。この点 につき, 募取法16条1項1号は,重要事項についての不実告知および不告 知を禁止するという先進的な法規定であり,しかも刑事罰をともなう強い規 制であったため,その違反から直ちに不法行為責任を導くことが判例上もス ムーズに受け入れられ,それが今日の説明義務違反を理由とする不法行為責 任の法理を先導する役割を果たした と指摘される。確かに,東京地裁判 決のように, ①代理店の業法300条1項1号違反→②代理店の民法709条違 反→③保険会社の業法283条1項責任 という構成の中で,①と②を限りな く同一視すれば,保険会社の283条責任を導き出しやすい。そのため 募集 責任 をめぐる論議の中で,この構図だけが突出し,ついにはあたかもそれ 以外の募集責任の構図を描くことができないような風潮にさえ陥っていった。

5) 山下友信 保険法 (有斐閣,2010)181頁。

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4) 控訴審判決

念のために確認しておくが,この風潮は,東京地裁とは逆の判断をしても 同様である。実際,東京地裁の判断は控訴審で覆される。すなわち,東京高 裁判決は,次のように判示した。

確かに, 本件特約のような運転者の年令制限に関する特約が付された場 合には,保険契約者にとつて,一方では保険料の割引による減額が施される といった利益も受けるが,他方では保険契約の内容として担保範囲を著しく 縮小させるものであるから,右特約に関する事項は,前掲16条1項1号にい う保険契約の契約条項のうちの 重要な事項 に該当すると解される 。し かし, 右告知は,特段の事情のない限り,相当の方法,態様,程度により,

通常の常識をもった保険契約者等(保険申込者)に右事項を認識,理解させ うるものであって,右認識,理解のもとに当該本件契約者(申込者)が契約 につき任意の意思決定ができるものであれば足りるというべきである 。

そして, どのような内容の契約を締結するかは,契約者が,その必要に 応じ,その意思で決めるべきものであって,保険契約の募集に当たる者のす べきことではなく,特段の事情のない限り,後者の告知義務は,各契約の内 容を誤りなく理解させるに必要な説明をすることに止まり,それ以上にどの タイプの契約が相手の家族構成に応じて最も適当であるかは,契約を勧める うえでのサービスないしは営業上の配慮に止まるものと解さなければならな い 。

代理店の説明義務をある意味で 類型的 なそれにとどめた東京高裁判決 は,本件の代理店には説明義務違反が認められず,したがって民法709条の 不法行為責任が生じないと解した。確かに一審とは逆の結論が導かれはする が,結局のところ, ①業法300条1項1号の成否→②代理店の民法709条責 任の有無→③業法283条責任の成否 という構図の中で,しかも①と②との 同一視の中で募集責任論議を展開していることは全く変わりないのである。

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3 信義則上の義務をベースとする B 類型

1) B 類型に属する判決群

以上とは異なり,保険業法上の説明義務違反以外の理論構成により,しか も代理店独自の責任のみを認定する判決群が,平成の一時期に集中して登場 した。東京地裁平成6年3月11日判決 の事案(BMW判決)では,ディー ラー代理店が満期更改の際に保険料収受を怠ったが,自動車の販売時からそ の代金にはじまる 車両に関する諸費用 を自ら保険契約者のもとに出向い て取り立ててきた事情等からして,代理店には 信義則上,本件保険契約の 目的達成のため〔保険契約者〕と協力すべき義務がある と判示された。松 山地裁今治支部平成8年8月22日判決 の事案(松山タオル業者判決)では,

乗合代理店が顧客の契約の 付け替え をしようとしたところ,付け替え先 の保険会社から引き受け拒絶をされてしまい,満期に至った契約が宙に浮い てしまった。判決は,代理店には 〔保険契約者に対して〕新たな保険契約 の締結ができていないことを伝えるべき信義則上の義務がある と判断した。

6) 判時1509号139頁。本判決に対する評釈としては,出口正義・判批・損保58 巻2号(1996)227頁,行澤一人・判批・損害保険判例百選〔第二版〕(1996)

40頁,山野嘉朗 損害保険代理店の義務・責任と賠償責任保険 愛学41巻4号

(2000)41頁,木下孝治 保険料の不払と保険会社による保険免責の主張の可 否 損保ジャパンほうむ49号(2003)69頁,大塚英明=東京損害保険代理業協 会法制委員会 損害保険代理店委託契約書コンメンタール (東京損害保険 代理業協会,2005)51頁,山野嘉朗 保険代理店の責任 平山高明先生古稀記 念論集 損害賠償法と責任保険の理論と実務 (信山社,2005)283頁,田爪浩 信 損害保険代理店の満期管理に関する法的責任 損保67巻2号(2005)107 頁,大塚英明 損害保険募集における対契約者責任の法的性質⑴ 早法85巻3 号(2010)86頁がある。

7) 保険毎日新聞(代理店版)1997年4月14日。本判決に対する評釈としては,

山下典孝 満期管理に関する法的責任 損保ジャパンほうむ49号(損保ジャパ ン,2003)43頁,大塚・前掲注⑹ 損害保険代理店委託契約書コンメンタール 55頁,山野・前掲注⑹ 保険代理店の責任 284頁,田爪・前掲注⑹96頁,

大塚・前掲注⑹ 損害保険募集における対契約者責任の法的性質⑴ 92頁があ る。

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そして,前橋地裁高崎支部平成8年9月7日判決 の事案(前橋ガラス店判 決)では,顧客の妻とのトラブルから満期に至った契約の更改確認に消極的 であった代理店に, 日ごろ契約者と身近に接し,各種保険の手続を代行し たり,保険料の徴収等の事務を担っている保険代理店としては,単に保険契 約の満期前に形式的に契約更新の時期にあることを通知するだけでは足りず,

従来の火災保険契約の更新手続を履践しない契約者に対し,信義則上,契約 更新の意思の有無を確認すべき義務を有している という判断が下された。

2) A類型との比較業法283条責任

これらの判決はすでに多くの論者により分析されてきた。ただ本稿では,

それらを個別に捉えるのではなく,募集における民事責任の法構造の中でど のように位置づけるべきかという観点から3判決を包括的に取り扱う。その 切り口は,A類型の責任の核心となる保険業法283条1項の責任である。こ れらの3判決で業法283条1項はどのように認識されていたのであろうか。

まずBMW判決では, 募取法11条1項に該当するには,損害保険代理店 が 募集につき 保険契約者に損害を加えたことが必要であるところ,〔代 理店〕の義務違反行為は,保険契約締結後に生じたものであって,募集行為 とはいえないし…〔保険契約者〕及び〔代理店〕との間の具体的な事情のも とで発生した信義則上の義務違反であるから,これを募集と密接な関係のあ る行為とすることもできない として,保険会社の責任を考慮すべき余地は ないとした。つぎに,松山タオル業者判決でも,〔代理店〕の〔保険契約 者〕に対する通知義務は,両者の個別具体的な事情に基づく信義則上の義務 であって,保険契約に関する一般的な義務ではな く, 保険会社…に契約

8) 保険毎日新聞(代理店版)1996年12月9日2頁。本判決に対する評釈として は,山野・前掲注⑹ 損害保険代理店の義務・責任と賠償責任保険 43頁,山 下典孝・前掲注⑺44頁,大塚・前掲注⑹ 損害保険代理店委託契約書コンメン タール 56頁,山野・前掲注⑹ 保険代理店の責任 287頁,田爪・前掲注⑹ 98頁,大塚・前掲注⑹ 損害保険募集における対契約者責任の法的性質⑴ 94 頁がある。

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締結拒否の通知義務がな いため,〔保険会社〕が募取法11条1項の責任を 負わないというべきである とした。さらに,前橋ガラス店判決でも,

〔保険会社〕が不公平な手段等を用いて〔保険契約者〕が本件保険契約を更 新する機会を積極的に奪うなどの行為に出たものではなく,保険募集取締法 の趣旨等に照らしても,直ちに…〔保険会社〕に責任を問うことはできな い とする。このように結論的には,3判決ともに業法283条1項の責任を 否定した。

3) 業法283条排斥の根拠

とはいえ,各判決の理由付けには疑問の余地がある。BMW判決は代理 店の義務違反行為が保険契約締結後に生じたものであると認定した。しかし それは,契約が有効に成立したという前提の下で,事案の解決が責任開始条 項の援用の可否に収斂されたためである。全体像をこのような単純な図式に 直してしまうと,この事件における代理店の過誤は,単なる保険料収受懈怠 であることになってしまう。だとすれば,代理店と保険契約者の間に信義則 による特殊な義務が生じるなどという複雑な構造を敢えて採用する必要はな い。この事案の核心は,契約更改の前の段階の代理店と保険契約者との関係 が,契約締結後の保険料未収受に深く関わっていることにある。別の2判決 の事案と比べBMW事件ではこのような誤解が生じやすかったとはいえ,

この事件でもやはり代理店の過誤は保険契約締結前からの事情を考慮しなけ ればならない。

また,BMW判決は,代理店の過誤を 募集と密接な関係のある行為と することもできない と指摘する。しかし代理店委託契約書には,代理店の 業務の内容として, 保険契約の維持・管理 が明定されている。

当初,この項目は,同じく委託契約書に定められた 委託業務 のうち,

その他保険募集に必要な事項で会社が特に指示した業務 に包含されるも のと捉えられていた。保険契約の維持・管理がその後にとくに明示的に規定 された最大の理由は,ひとえに代理店の自立的業務遂行を促進する趣旨であ

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ったと言われる。とりわけ,昭和30年代から40年代,兼業代理店(修理工場 代理店やディーラー代理店)のみならず専業代理店までもが,保険契約を 取りっぱなし に置き,その後何らのケアも行わないことが問題視された。

契約の維持・管理 は,代理店と契約者との距離を近からしめ,ひいては 募集業務における代理店の自立性を高めるための切り札と目されたのである。

そのような経緯から,損保各社は満期にかかる予定の契約につき満期通知を 作成するものの,代理店がそれを受け取った上で各契約者に送付するという 実務が定着した。

以上のような経緯を見れば代理店の更改業務は,契約の維持・管理として,

代理店が本来行うべき中核業務の一つに数えられる。業法283条1項の 募 集 に,こうした主要業務が含まれないとは考え難い。

さらに,松山タオル業者判決では 保険会社…に契約締結拒否の通知義務 がな いこと,前橋ガラス店判決で 〔保険会社〕が不公平な手段等を用い て〔保険契約者〕が本件保険契約を更新する機会を積極的に奪うなどの行 為 がないことが,業法283条1項の適用排除の根拠とされるが,これは明 らかに誤りであろう。同条の責任は,民法715条と同様の監督義務違反に基 づくものである。したがって,保険会社の直接的不法行為あるいは義務懈怠 などを想定してしまうと,同条の適用範囲を逸脱することになる。

4) 製販分離と代理店の営業権

説明義務違反をベースとする責任構成において,保険業法283条1項の規 定は,損害保険募集における契約者保護規定としてシンボル的な役割を果た してきた。BMW判決,松山タオル業者判決および前橋ガラス店判決は,

それに頼らずに代理店独自の 損害賠償責任 理論を展開し,募集責任の新 たな類型を確立しようとした。確かにその点でこれらは先駆的な意義を有す る。しかし,肝心の283条排斥の理由が上述したとおり,必ずしも適切なも のとはいえない。

だとすれば,同条排斥の根拠をどこに求めるべきなのだろうか。その理論

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構成の鍵は, 製販分離 と 代理店の営業利益 にあると考えられる。

かねてより,例えばBMW判決について 代理商…たる保険代理店の独 自の顧客網,取引関係上生ずる接触が,契約類似の信頼関係を形成し,信義 則上の責任を生み出す ,あるいは前橋ガラス店判決について プロ(専 門家)としての代理店と,これを信頼している契約者との関係を重視したも という指摘はなされていた。これらはいずれも,代理店の独立性を重 視するものではあるが,業法283条の非適用を導く意図で書かれたものでは ない 。しかしこれらの指摘を敷衍すると,実は3判決の事案が,本来,保 険会社の登場すべき場面でないことがわかる。

確かに,代理店は損保会社の 代理人 として締約代理権を有する。この 契約形成(ないし保険料受領,告知受領)代理権という点から見れば,言う までもなく,代理人にすぎない代理店を独自の法的主体と捉える余地はない。

しかしながら,そもそも代理店は, 代理店業 という事業を行うことに よって,自らの生計を立てている。代理店は商法27条や会社法16条などに登 場する 代理商 ,すなわち 商人 (商法4条)に該当する。多くの代理店 は,代理店委託契約に基づく委託業務を自らの責任において日常の 事業=

利益追求活動 として営むひとつの 企業 である。この側面から見ると,

損害保険会社の企業性とは別に代理店自体の有する企業性を強く意識する必 要が生じる。

ところで,昭和40年9月22日最判 は,企業の 営業(事業) を, 一 定の営業目的のため組織化され,有機的一体として機能する財産(得意先関 係等の経済的価値のある事実関係を含む)の全部または重要な一部 と定義

9) 行澤・前掲注⑹41頁。

10) 山野・前掲注⑹ 保険代理店の責任 289頁。

11) 山野教授は, この場合,代理店は,重要事項の告知義務といった保険業法 上の義務に違反してはいないので,保険会社の責任は追及できない (山野・

前掲注 282頁)とされるが,283条の前提となる代理店の責任が業法上の義務 違反である必要はないのではあるまいか。

12) 昭和40年9月22日最高裁大法廷判決・民集19巻6号1600頁。

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したことで,企業法の分野ではたいへん有名な判決である。この判旨でも触 れられているとおり,組織的・有機的な一体として企業が機能するとき,

得意先関係等の経済的価値のある事実関係 が生まれる。それは,営業を 実際に遂行することによってしか発生しえない 顧客の吸引力 である。こ うした企業の潜在力は,暖簾,老舗あるいはブランドなど様々な言い方で表 されるが,一般に グッド・ウィル と総称されることが多い。

損害保険代理店の場合も,この点は他の企業と異なるものではない。代理 店が成約に応じて代理店手数料を得る以上,保険契約申込人を 吸引 すべ きグッド・ウィルは,代理店営業の盛衰を左右する。そして,代理店営業を 始めたときには未だ未成熟であるグッド・ウィルは,代理店の 営業主 の 才覚次第で増大していく可能性をもつ。もちろんそれは,新規契約の開拓ば かりではなく,短期で更改を繰り返す損害保険契約の特性から,契約更改の 際にも発揮されることになる。つまり,当該代理店の契約維持・管理の努力 が既存契約者に高く評価される場合,契約を更改する契約者は多くなろう。

だとすれば,契約の更改は代理店のグッド・ウィルに因ることになる。そこ に企業としての代理店の独立した事業成果が認められ,それに基づいて代理 店はますます経営を円滑に進めていける。こうして,前橋ガラス店判決の言 うように 日ごろ契約者と身近に接し ,顧客に信頼されればされるほど,

代理店は独自の営業利益を増大させるのである。 保険は目に見えない商品 であって高度の商品知識を要求されるのに,販売商品が一般に各社同一であ ることから,その顧客層をつくることは必ずしも容易ではなく,経営基礎を 固めるには通常相当の期間を必要とする。そこでは長年の営業活動によって 形成された顧客層の存在が契約の更改・継続の事実的可能性とあいまって,

代理店の財産を組成している という指摘も ,上述のような代理店のグッ ド・ウィルを強く意識している。

とくに3判決の事案が,契約の更改に関わるものであった点に注意すべき であろう。いわゆる 満期更改権 が保険会社と代理店のいずれに帰属する

13) 小瀬村邦夫・損害保険判例百選〔第二版〕(1996)85頁。

(13)

のかは,これまで代理店に関する法的論争で主役を演じてきた。アメリカの 代理店委託契約(agency agreement)では保険会社自身が Records and expirations are your right という条項を設けていることも多い。つまり 

保険会社の側で,この代理店の権利についてかなり鷹揚な姿勢を見せている。

そこまで明瞭ではないにせよ,現在のわが国でも契約更改における代理店独 自の営業権益は確実に意識されてきた。ことに,松山タオル業者事件を見る と,満期契約の 付け替え が行われているのであり,まさに代理店が満期 更改権を自らのものとして利用しようとした。その過程での過誤に,付け替 え前の保険会社はもちろんのこと,契約を拒否した保険会社は何ら関わるも のではあるまい。

ここにおいて,代理店チャネルの保険販売においては,製販分離を強く意 識しなければならない。顧客の開拓から成約にいたるまでの過程は,全て代 理店の独自の努力に裏付けられている。そしてその努力は,上に見たように 代理店独自の企業的利益=グッドウィルとなって結実する。だとすれば,代 理店は保険商品の販売者としてその経済的利益の対価としての販売責任を負 うべきである。その販売責任の法的理論構成こそ,3判決で述べられた信義 則上の顧客保護義務違反である。

逆にいえば,保険商品の製造者である保険会社は,本来,販売責任のみが 問題となる場面では,その責任を問われることはない。説明義務違反をベー スとする募集責任では,代理店に対する保険会社の監督的行動の懈怠が業法 283条1項責任を基礎づけた。ところが,製販分離を徹底するとき,そもそ も製造者である保険会社がその保険商品の販売を担う代理店を監督するとい う構図は導かれない。そのため,3判決が構築した 代理店の販売責任 に は,業法283条の入り込む余地がなかったのである。換言すれば,業法283条 は,製販分離の上に成り立つ代理店独自の販売責任を予想していなかったと も言えよう 。

14) このように理論的な側面から考察すると,業法283条の適用が否定されてし まう。それは契約者保護に欠ける方向性を持つという懸念があるかもしれない。

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助言義務 違反の C 類型とその位置づけ

1) 助言義務の認識

ところで,前掲東京高裁平成3年6月6日判決を契機として,一方で,

…どのタイプの契約が相手の家族構成に応じて最も適当であるかは,契約 を勧めるうえでのサービスないしは営業上の配慮に止まるものと解さなけれ ばならない と判示している。これは,一般論としては…助言義務を否定す る趣旨と考えられる が,他方で, 保険募集の実情に照らして,保険契約 者が募集主体に保険の選択について一任状態であることは少なくなく,その ような場合においては,募集主体において適切な助言義務を負うことがあ という指摘がなされている。ここにいう助言義務とは, 保険募集に 当たり,個々の保険契約者の保険需要に適合した保険を勧誘しなければなら ないという義務 を指す。したがって,いわゆる適合性をも内包したかな り広範なアドバイス義務が想定されている。

この指摘に見られるように,従来,こうした義務は説明義務違反をベース とする募集責任の延長線上でしか捉えられてこなかった。すなわち,募集に おいて 説明義務 に反すると業法300条違反により代理店に民法709条の責 任が発生し,保険会社は業法283条1項の責任を負う。しかしそれを超えた 助言義務 の領域に入ると,業法300条1項の重要事項の要件に該当せず,

説明義務違反をベースとする募集責任は発生しない。もし説明義務違反をベ ースとしてとくに業法283条を機能させようとすれば, 募集主体としては,

保険契約者側の個別具体的事情を知らなければ適切な助言はできないという 論理的関係があるから…保険契約者に対して,保険選択に必要な情報につい

筆者としては,この部分の消費者保護は,最終的に代理店の損害賠償責任保険 の充実をもってこそ実現されるべきと考えている。その結果,製販分離の体制 の下で代理店の販売主体としての独立性が確立される。しかし,それが未だ不 完備だとすれば,政策的に業法283条を持ち出す意義は残るかもしれない。

15) 山下・前掲注⑸183‑184頁。

16) 山下・前掲注⑸183頁。

(15)

て質問等により調査する義務を負うことになる 。しかし,この論者が自 認されるとおり,この 質問義務 まで要求される保険の種目・内容は相当 に微妙であろう。

2) B 類型と C 類型との相関性

翻って,このような助言義務を代理店独自の責任を認めた3事案と擦り合 わせるどのように理解されるであろうか。

代理店が販売担当者として保険商品の種類・内容に精通し,消費者はその ことに対する信頼に基づき保険商品を購入する。上の指摘の中で述べられた 一任状態 は,この信頼関係の極端な(かつ多少歪な)発現場面であろう。

代理店は 日ごろ契約者と身近に接し たがゆえにこの信頼を得ることがで きる。全ての努力はもっぱら自身の企業的利益を増大させるためのものであ る。そして, 契約者と保険代理店の関係(継続的関係,リスク・コンサルタ ント的役割等)が深いほど代理店に要求される義務の程度が高くなる とくにコンサルタント業務を行えるような営業体制を擁する代理店は,営業 権を十分に確立していると考えられる。したがって,業法283条1項1号に 頼った救済よりはむしろ,代理店独自の責任を主として消費者保護態勢を組 むことが理論的には適切であろう。助言義務を果たすために必要な顧客情報 は,保険商品の製造者である保険会社ではなく,販売担当者である代理店が 入手する。そしてそうした情報が代理店独自のグッド・ウィルを形成するの であれば,この情報の利用過誤による責任は,代理店自らが負わなければな らないのではあるまいか。

要するに,助言義務違反による募集責任の構図は,基本的には,更改に際 して代理店独自の責任を認めた3判決の事案と同根であり,むしろこの類型 の拡張事案として捉える方が適当である。

17) 山下・前掲注⑸184頁。

18) 山野・前掲注⑹ 保険代理店の責任 289頁。

(16)

5 製販分離の下での製造物責任的構造D 類型の提唱

このように製版分離の体制を徹底して捉えると,説明義務違反をベースと するA類型以外では,保険会社の保険契約者に対する責任が発生しにくい ように思われる。とくに代理店独自の信義則上の義務違反をベースとするB 類型および助言義務違反をベースとするC類型においては,業法283条によ る保険会社の責任が大幅に後退する。

しかしながらその反面,やはり製版分離の徹底を貫くと,あらたに保険商 品の製造者としての保険会社の責任を構成する可能性が生まれる。いわば保 険商品におけるプロダクト・ライアビリティーである。

保険商品自体に保険契約者の視点から構造的欠陥が認められる場合には,

いかに販売を行う代理店が説明義務を果たそうとも,契約者の損害を招くで あろう。また,保険商品の複雑な構造を販売担当者である代理店に販売可能 な程度まで教えていなかった場合もこれに含めてよいであろう。例えば,保 険会社の側が,会社の利益(事務の合理化等)だけのために短期の間にめま ぐるしく約款を改訂するなど(とりわけ担保範囲の財物の項目,複数等級に 該当する傷害の等級繰り上げがある場合,該当等級の切り上げ等),保険契 約者にとって目的の判別しがたい商品改変が行われると,この製造者として の保険会社の責任が発生し易くなるであろう。

とくに代理店独自の信義則違反をベースとするB類型および助言義務違 反をベースとするC類型において,この責任を明確にしておくべき最大の 理由は,次のような懸念が存するためである。すなわち,① 募集につい て の枠内にあることから保険会社が敢えて業法283条1項責任を履行する。

→②業法283条3項により,代理店賠償責任保険の保険者に,当該保険会社 が求償する。→③業法283条1項で支払った損害の全額を求償できるように,

すべての責任を代理店のものであると強弁する。すでに代理店賠償責任保険 の成立時から,こうした保険会社の モラル・ハザード は危惧されていた ところではある。代理店賠責はあくまで代理店の損害賠償責任のみをてん補

(17)

するための保険である。保険会社が業法283条を奇貨として,自らのD類型 の責任を代理店に転嫁することは許されない。

6 終わりに

さて,以上述べてきたとおり,保険販売における民事責任には,いくつか の類型がある。しかし保険業法は,そのすべてに対応仕切れているわけでは ない。代理店チャネルの販売において,製販分離体制の確立や代理店賠償責 任保険の導入などは,保険募集における民事責任の構造そのものに大きな変 化を促す要因である。今後,業法283条を中心に据えた責任構造のみを硬直 的に信奉するのではなく,より多面的に各種の責任類型を理論づけていく必 要があろう。

(筆者は早稲田大学大学院法務研究科教授)

参照

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