自然運動に関する一考察一その1一
附属中学校 堀江 美波
1 序 論
茨城大学の学生として卒論を手がけた時には,ダンスの主にB・吻一ケα㍑πgに関心を持ち,
抑απ鵬gの理念と実際とについての研究を行りた。その時,B・吻一齢απ鵬gの中心課題は,一 つに,自然運動の体得にあることを考察するに至った。この着眼は,ダンスの歴史的背景からも,
また現在,体育の分野にダンスが教材としてとりいれられていることを考えるとき,さらに究明 してゆくべき,私自身の課題であるように思える。
今,中学校の現場において,スポーツ・ダンス・体操の各分野を指導する時,その根本的な課 題,特に肉体のトレーニングの究極がこの目然運動にあるように思えてならないのである。
ふりかえハて,1)自然運動とは何か,2)ダンスの発生と自然運動との関連 3)体育の中 でのスポーツ・ダンス・体操と自然運動との関連や指導上の位置づけ等の観点から,私自身の指 導上のポイントを把握してみたいと思う。
2 本 論
1)自然運動とは
江口隆哉氏によると,自然運動とは, 「解剖学・生理学的に,そして心理学的・物理学的に合 理でなければならない」としている。
。物理学的合理について一人間は,一つの物体とみなすことができるので,物理学的法則に支 配される。物体の第一の力源は,重力である。それに抵抗力が均合^ている場合は停止。何らかの の理由で破れた場合に運動が起る。そして,すべての運動は,「重心移動」 「落下」「てこ」そ フ他いろいろ物理的なことに支配され,それに合致した運動が,はじめて合理的運動となる。そ のために「点・線・面・中心・支点・軸・角度・方向」等の考え方が必要になってくる。
。解剖学的・生理学的な合理について一運動が,合理的であるかどうかは,人体の構造に適し ているか否かが,まず吟味されなければならないが,それと同時に,機能的なことが考え合わさ れなければならず,そこから,人体の運動する場合の,いろいろ、な性質が生れてくる。即ち・有 機性・交叉性・方向性・同時性その他である。また,人間や動物の動きが,自然物や,植物と異 なる最も大きい原因は,人間や動物は重力による力源のほかに,機能的な, 「筋肉の収縮力」と
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教育研究所紀要第五号
いう,特異な力源を,持りていることである。この力源が,重力に抗する大きな力源となるので ある。その筋力をいかに駆使するかによって,運動が,合理的になってくるわけである。筋肉を 可能な限り働かせるということは,その収縮力を強めることであり,同時に反対側の拮抵筋とな る筋肉が妨げをしないように,完全にゆるむようにすることである。そして,筋肉を練ることに よって,関節,靱帯,骨格,諸器官の機能をもち,高めていくことになるので,そこから,総合 的な,合理的な運動が,生まれてくるわけである。
。心理学的・哲学的な合理について一人間のすべての運動が,内的なものの表現として,たと えそれが,いかに単純にみえる運動であ(ても,内的なものとの,関連のある運動である。従っ て,舞踊の場合は,すべての運動が精神的なものと強いつながりをもち,まず,内的な感情があ り,その発露として,運動がおこる。運動のための運動というこ は,少くとも,舞踊において は,考えられないことであり,不合理であることを知らなけれぽならない… と臼然運動の合理 性を説いている。
同じく,神野寛の著「これからの学校舞踊」によれぽ,
自然運動は,体の重心から導かれる,緊張と解緊の交互作用による,リズミカルな振動的運動 であり,一切の正しい運動の経過は,次の三つの法則によハている。①あらゆる自然運動は,全 身の共同動作によ西て生まれる。②あらゆる意志動作は,肉体と重力との争いを含んでいる。③ 一切の意志衝動は,無意識に重心,特に体の重心に集中すぺき…としている。さらに,目然運 動は,運動領域を方法的に拡大する。周期的リズムによるところの恒常性と,有機性とが,大切 な要素であるとしている。・物理学的には,重力・落下・慣性・拠物・振動・運動・回転・てこ
・弾性・反動,・生理学的には,機能,。解剖学的には,構造,。心理学・哲学的には,精神等 が,自然運動をなす際に,密接な関連をもち,影響するものとしている。さらに緊張と解緊は,
エネルギーの経済使用の上にあるべきとし,・強直運動より 縮運動・直線運動より曲線運動
(即ち,振動的・円周運動)・収縮運動より伸展的運動・局部的より全体的・意志的より慣性的
・律動的… である方が,その法則に,より叶nているとしている。またB・伽の思想を中心に 渡辺江津氏がまとめたところの自然運動の定義は,①リズミカル(律動的であること ②全身的
・総合的であること ③緊張と解緊の,巧みなコンデネーションによる運動であること ④最も 経済的なエネルギーの使用であること ⑤腰を中心にした重心移動の運動であること… として
いる。
以上,自然運動について考察してきたが,自然運動は,律動的であり,緊張と解緊の巧みなコ 一デネーション,腰を中心にした重心移動,最も経済的なエネルギーの使用であるとするならぽ また,物理学的,生理・解剖学的,心理学的,哲学的に合理的な運動であるとするならば,これ はあらゆる運動の基本原則にあてはまるのではないだろうか。
2)ダンスの発生と自然運動との関連
教科におけるダンスとは,創作ダンスとフォークダンスに分かれているが,ここでは特に創作 ダンスに観点をあててみたい。
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堀江:自然遅動に関する一考察(その1)
ダンスの発生は,本能説,模倣説等にあげられるように,人間の踊りたい欲求が由来であり,
原始時代より,勿論,文字・言語活動の起る以前から,生活の手段として起ってきたものである。
それらは狩猟舞踊にみられるように,獲物を得るための心身のωαηπ伽9叩であったり・動物へ の愛情から,また動く物への関心から模倣運動をしたり,あるいは収穫のよろこびをあらわすも のであハた。部族間の士気を高める戦闘舞踊や,自然に対する祈りの祈疇舞踊や農業舞踊であっ たりもした。古代ギリシャでは,青年の学ぶべき学科として舞踊が貴ばれ,さらに宗教的になり 儀式化するとともに,また人間の肉体に対する感覚は,闘士を必要とする国家の形式も手つだ6
て,強靱で美しい姿体が,美術品等からうかがわれる。しかしキリスト教の影響をうけ,心身二 元論の立場から,人間の本来の欲求を斥け,魂や精神こそ第一のものとする厳しい戒律の起^た 中世は,舞踊にとりては,まさに,暗黒時代といえるものでありた。貧しい生活の中で,何の娯 楽もまた費用も持たない人々は,教会の司教が,信者を集めるために催した踊りを喜んで踊り,
次第に戒律を厳しくした教会から舞踊の禁止令が出された時,農民達は踊りを,地下の酒倉での 踊りに変えていりてしまった。しかし根強い舞踊への欲求は放浪する舞踊家兼音楽家達によって 踊りつがれ,それらが今日のフォークダンスを支えているのである。一方,ルネサンスがイタリ
アを中心に起ハたとき,バラレ(踊る)というイタリア語からバレエがイタリアの宮廷を背景に 一
生まれた。1189年にディ・ボッタによ(てミラノ公爵がレアッツオとアラゴンのイサベラ王 女の結婚式に行われた幕間狂言が,バレエの原型とされている。イタリァからフランスへと文化
の中心が移り,ルネサンスが次々と人々に生きている人間の偉大さを想い起させている時ザフラ ンスの王室ではルイ14世が,自ら,舞台に立nて踊nたといわれるほど,国家の保護のもとに クラシックバレエが貴ぽれていた。クラシックという用語は,1661年に専門の王立舞踊学校
(オペラ座の前身)が設立され「クラシック」はクラス(学級・学校)の形容詞化されたもので この学校で基礎が確立されたため,古典舞踊と訳されている。これ以前には,フォークダンスの 中のいくつかのステップが貴族の人々の優雅な踊りに変化してワルツやマズルカを美しい衣裳で 踊ハた舞踏会は社交の場としても発達し,ついに観賞用の舞台芸術に高められて,クラシックバ
レエをうみ出していnたとも考えられる。またオペラの一・幕として,歌と音楽と踊りと詩とが結} ぴあわされたものとして,流行したりしていた。貴族的感覚が他の芸術ジャンルにおいてもみら
れるように,せん細で耽美的なものに打ちこんでいうたが,ルイ14世以後;初めて女子の舞踊 化が誕生し,いわゆるバレーリストからバレリーナへ と美の対象が変化し,現今にいたりている。
農民の国でありたロシアは,文明国として同じ皇室のフランスやイギリスの姿から先ず何よりも 舞踊をと,国立の舞踊学校を創立し,フランスから講師を呼び,ディアギレフらの素晴らしい演 出家を育てた。音楽等にみられる深い国民感覚の豊かさが㍉チャイコフスキーの作品を生み,こ こにバレーは,新らしい息吹をあびて,復興する。「白鳥の湖」 「眠れる森の美女」「くるみ割 の人形」等名プリマドンナを中心に,ドラマチックな展開をみせ,今日まで数知れぬ興業を呼ん でいるのである。しかし決まハたストリ〜,決ま^た技巧から脱皮するために,「牧神の午後」
等にみられるニジンスキー等を中心とする新しい感覚のバレーがおこり,次々と作品が発表され
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教育・研究所紀要第五号
て,バレエの新作がロシアや「白毛女」に見られるように日本からも製作されて,現代的なバレ エ,バレエのテクニックを使nて思想や生の感情を表現しようとする動きが起nてきてはいる。
ところで,バレエ・の基礎は,何かというと,何よりも,古典的に形成されてきた,型のマスタ 一のためのテクニックのトレーニングである。Vαg・初ひα加就加4(ワガノワ法)を「バレエ」松 山樹子著によってみると,
工 E必θγo・ご偲8α∠αBαγ鷲 (バーのレッスン)
1. Po8拷Zoπ4θ3 P ¢43;p♂ ε(基本の5つのポジションとプリエ)
バットマン・ タンデュ バットマン ・ タンデュ ・ ジュデ2. Bα66蹴¢π68『孟¢π面3 3. Bα髭θ加召π68孟彦π伽3Jθ683
ロン・ド・ジ瀞ンブ・ア・テエル アン・ドウオォル アン・トウダン 4. Roπ434εプα7π加α 功7γ6;¢π♂θんoγ8 ;θπ4召〔オαπ3 バットマン・フォンデュ ノ㍉トマン・デヴェロッペ 5. Bα拷伽6π孟3Fo雇ω 6. Bα㍑伽¢撹3 Dθ〃6♂o塑θ
パットマン・フラッペ プティ・バットマン・シュール ル・フウニドニピエ
7. Bα㍑襯θπ 8F7αpμ 8. P¢ ご3 Bα髭θ膨撹3鋤7♂αoo鉱一ゴθ・ρε堀
ロン・ド。ジ却ンブ アン・レエル グラン・バットマン・ジュテ 9. Roπ4348プα励¢召π♂α乞γ 10. Gγαπ4 Bαμ侃ε撹8 J¢ごθ3
リンパリング
11 L加加γ面π9
エグゼルシス・オ・ミリュー 皿 E躍召γo宛3α私加記乞¢〃
エグゼルシス・ア・ラ・パ馬ル ポール・ド・ブウ
1. E 貯o乙oθ3α♂αBαγ粕 の復習 2. Poγ渉磁Bγ碗8
3,稽古場や舞台での方向 4.体の方向♂宕號藩磁叢猛,、
ポーズ アテァユウド アラペスク
皿 Po3ε α・Aμ拷認彦 ムAγαゐ¢39〃ε
IV基本的なPα8
1)連結的・な補助的なpα8
パ・ド曹ブウレ パ・クーリュ パ・クーペ 1.Pα3 α1θ60葛7γご¢ 2. Pα3 00窃γ鉱 3. Pα3 00鉱ヌ)8
プリック・フラ.。ク 4.F・♂ごo −∫♂αo
2)跳ぶPα3
1.両脚で踏みき・「て,両脚同時に床に降りる場合
(i)錦臨・・(2)C磁濡繊『飯。(3)P謡㊧,
スウブルソウ i4)So秘、うγ¢3απど
2.片脚で踏み切って,両脚でおりる場合
0 .ハ・ザ.。サンプル
(1)Pα3A88侃配ε
3.片脚で踏みき^て,片脚でおりる場合
パ・グリサアド パ・ジュテ グラン ジュテ
i1)Pα3〆 83α吻 (2)ノ)α3ブ¢6召 (3)Gγαπ¢ブ撹6
ω譲蒼磁 (,)幽ミ脇。加 (6)毒ト議厩
oi7)鑓ζ咳。_ ⑧(雛告 (,)μ鑓読。、、,
4.両脚で踏みきって,片脚でおりる場合
(1)諸盗彪識, (2),講盗芝『渉巖、
(3)R脇ト脇脇7御論ソ搬・,『(痂凱器9。, 、
oi5)威撚,(、)諮勧・・
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堀江:自然運動に関する一考察(その1)
V 脚を打ちつけるパBα髭¢γご卵
パ・バッテユ
i1)Pα・ゐα伽・ , ロワイヤル アントルシャ ・ カトル アントルシ瀞 ・シス アントルシャ(2)E磁γ¢oんα≠ (α)Royα♂ (・)Eπ云γ8・んα≠−3勘 (ゐ)Eπ孟r80んα孟一9%α6γθ
アントルシャ ・ トロワ アントルシャ ・ サンク アントルシ岬 ・ ユイット
id) Entrechat−一一 H琵i t (e)Eπ6γ80んαぎ一 γo乞8 (プ)E撹γθoんα6−08πg
アントルシャ ・ セット
i9)Eπ云γ・θoんα6−8jP屍
アントルシャ ・ ド ・ ヴォル プリゼ
i3)Eπ孟7εoんα6 (z¢ ひo♂¢¢ (4)Bγ 8・
トウール
班 回転するpα8=T侃73
1.場所を移動しないで回転するpα8
ピルエツト バットマン・スウエトニュ・ア・トウールナン
i1)Bα6 ¢雛¢πご80π孟θπ葛oπ オo秘γ7)α説 (2)Pごγo私6髭θ
(3)A盈躍號狐濡篇載ウ銑。. ωκ密鴛論ト脇
フウィテ。アン・トウールナン グラン・フウィテ。アン・トウールナン
i5)Fo娚μ8脇孟o拠γjPαπ彦 (6)Gγo加伽Foひ彦μ2θπ孟o解παπ6
⑦薪識餓 のR議講 読脇魏レのR雛繁7°盈1脇
ランヴェルセ働アン。エカルテ ツRαπひ¢γ8θ侃¢oαγ翻
2.位置を移動しながら回転するpα8
(1)夢鍛 繊盃、. ②鵡㍗読1脇 G)慌鵠認脇李窒
3.空中で回転するpα3
トウウル・アン・レエル ジュテ・アントルラッセ ジュテ・アン・トウールナン
@ (2)Jθ6¢ 召πγ¢♂αo¢ (3)Jθ孟¢ επ 置o%γπαπ6(1)To%γ3 θπ♂αア
ソオ・ド・バスク アンボアテ・アン・トウールナメント
(4)Sα励♂¢加3g粥 (5)E肌606功脇60解π伽6 等があげられる
バレエは,舞台芸術として,上記のようなトレーニングのもとに発達してきたが,音楽,美術,
文字,演戯等の総合芸術の形をととのえてきた。そもそも舞台でのバレエは,オペラのこまの踊 りとして発表されたのであるが,総合芸術としてのバレエは,一方において,音楽や文字への依 存を示すことになnた。文字のストーリーかち場面の構成を考え,音楽に合わせて,踊りをつく るという形式である。表現する内容や方法が次第に整えられてくるにつれ,それらな固定化し形 式美への追求となり,さらには,いかに上手に踊れるかという,いわゆる,技巧・テクニックの ための舞踊へ,移行していりたのである。その恥美的な傾向は,ロシアバレーによる華々しい復 興により改められてはきたものの形式的「型」を持つ古典芸術でしかなか^た。伝統としての価 値,求道的トレーニングの歴史にその偉大さを認めながらも,我々の思想感情を表現する一手段 として,音楽・美術・文学と同等の分野をみいだそうとした新しい舞踊家がまず,このバレエの
「型」を打ち破ろうとしたのは当然であハた。新らしい舞踊家は表現のための手段として,舞踊 的身体をもつこと,つまり思想を表現する際に,美的に表現ができ,表現する内容を動きとして
くみ出せる身体を求め,その理念を自然運動に求めた。そして芸術としての舞踊は, 「人間の行 なう目然運動で,われわれの思想,感情を美学的法則に従一て表現する芸術である」と定義され るに至った。ところで,先述のバレエのテクニックのための基本的な運動は,小林信次氏によっ て,「定型運動」とよぼれ次のように定義づけられている。 「各種の舞踊が要求するところの表 現運動に対して,その表現運動の根底を形成する基本的な運動を,定型に規則した運動」と。ま
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た邦正美氏は「あるものを組立てるための基礎的個々の運動の総称で「型のための運動である」
としている。これらの定型運動の利点と幣害について小林氏は,(1)定型運動が,記号的役割を果 たすので舞踊の伝達ならびに指導にあたっては便利な存在となっている,(2)定型運動の練磨によ って,典型としての形式美を,極限まで形式するために必要な存在となっている。(3)定型運動が 練習過程として一つの目標となっている,(4)定型運動が,練習過程において,基礎的な体力を養 成するために必要となりている等をあげ,幣害としては,(1)定型運動の反復練習をすることによ ハて運動が,固定化されるために,創造性を失う結果を招くことにな・った。(2)定型運動の反復練 習をすることによnて,運動性が固定化されるために,運動性に融通を欠く結果を招くようにな
る,(3)定型運動の反復運動をすることによ{て,形式にとらわれやすくなるので,ともすれと内 面性が軽視される結果を招くようになる等をあげている。
新らしい舞踊,つまり創作舞踊の根底をなしたものは,自由な運動による,自由な表現である。
L磁侃は,「新らしい舞踊の運動は,限られた数の伝統的な説叩3や身振りから,運動を解放し ようとすることである」といnている。そのような観点に立つ時,思想・感情を表現するために,
作品によ・(て,あらゆる動きができ,また,無限の動きをうみ出すことが必要となる。そこでこ れらの「動きをつくりだせる体」をつくることの必要からうまれたのが,新しい自然運動を中心
とする体系である。あらゆる動きが,その感情のままに合理的に美的に表現できる体を「舞踊す る身体」あるいは「舞踊的身体」とすれば,これをつくるための方法ともいえる。アメリカにお いては,Dαπ・εB・吻Tγα翫碗gあるいはDα肥¢Bo4yB協♂伽πg と呼ぽれるものである。そこ でこれらの体系は,「舞踊的身体を育成するための方法として,選ぼれた運動」ということがで
きる。ここで,「舞踊的身体」についてふれると,邦正美氏は α)美しい身体であり の生 理的に正しく発育した身体であり ・)律動的な運動をなす身体であり の:豊富な運動感をも った身体であり の力学的に最も合理的な運動をなす身体であり 〆)最も美しく,最も自由 な運動のできた身体であり g)即ち,自然運動のできる身体であり ん)表現力に富んだ身体 である一としている。また江口隆哉氏によれぽ,α)いかなる動きもできる身体 のどんな 運動をも合理的にできる身体 の合理的自然運動のできる身体 の感情の表出がその身体を 通れぽ,美的なあらわれとなる身体 の思いのままに舞踊ができる身体である一としている。
つまり,「いつでも舞踊のテクニックを必要に応じて,無限に創造することのできる身体であり,
それは生理学上健全に発育した身体であるばかりでなく,自然運動の法則に従って訓練され,自 然運動のできる身体である」し「自然運動のできる身体」を育成することが新しい舞踊のトレー ニングに課せられた課題でもある。
19世紀の半ぽから,舞踊家は,表現の必要から人間の身体の運動を体系づけようとし,体育指 導者達は,人間の運動をつきつめ感動と表現を根拠とした新らしい体操をうちたてようとしてい
た。
Fγαπooz3−D8♂8αγ孟θ, G¢oγ92−P6膨πy, H6己ω 9−Kα〃鵬y既 B卵8−Mθπ8¢π協¢ん, D召γα M侃z♂oη E那記¢−Jα9%¢3−Dα♂oγozθ, G3α♂γα一Dαπoα篤 E♂z3α加≠ん一Dαπoα篤 R馳ゐ♂プー
噛130一
一
堀江:自然運動に関する一考察(その1)
Bo4亀R翻o♂∫ 一〃侃一L励o窩MαγγyWz卯α篤 L説功W8γ㍑oん8等である。
D¢面α弼θは,運動と表現の法則発見に尽力し「解緊」を原則として,そこから身体の陶治体 系をつくろうとした。G卯γ卯D臓鰐は映画によって人間の自然運動を研究し,自然運動にお ける生理的法則を確認し,また全体的総合的な運動の提唱をした。H認ω砂Kα〃麗yθγは,美しい 姿勢や運動における重心の問題をとりあげ,人間の調和教育の前提から出発し運動の多方性を強 調した。B633 M侃3脇説酌 は女子の身体練習に役立つ一連の体系をA伽γ乙・αで発展させ,ドイ
ツにもこれを普及させて日常生活運動をその基調とした。DθぬMαπz島γは,全人間を対象とし て,保健的芸術体操をこころみた。内的衝動と解緊が主である。E痂♂2 Jαq%¢8Dα♂・γ・z8身ま自 然運動を基調とし,舞踊運動に対するそくぽくを大胆にたちきハた。小児の自然状態をその観点 の中心とした。E面3α加島 は運動の分類を試みた。 R記・∠〆B・伽 は運動のRyz%那の本質を根 本的に示した人で,体操と律動と表現の研究が一つの運動体系としてまとめられ,体育が人間教 育として文化形成としての位置づけがなされた。R認・♂〆〃・πL励・πは舞踊の空間形成の根本理 論をうちたてた。舞踊譜(Tαπz8んπ∫の作成のいとぐちをつくる。MθγγyWε卿πは創作舞踊 の方法論を,運動・空間・表現の問題としてほりさげ,舞踊は魂の表現であるとしている。W砂一
㎜πによって完成されたM・磁γ膨一T伽z創作舞踊は,舞踊詩時代のもさく的な方法から脱して 最も若い芸術として大きく踏みだしたともいえる。
以上のような人々の努力によって,自然運動を中心とする新しい舞踊が形成されたのである。
この発生,特に,新しい舞踊の発生は,新しい体操の発生と相まって,人間の欲求を表現する一・
手段として,束縛されない自然の動きを生み出し,体系づけられていったといってよい。トレー ニングも表現も全て,自然運動の正しい理解と究明が要求されるのである。
舳
R)体育の中でのスポーツ・ダンス・体操と自然運動の関連や指導上の位置づけ
ダンスと体操は,歴史的に,前記のように,近代舞踊の革命が新しい体育と密接な関係をもち
新しい体操が,新しい舞踊の理念と大きな共通点をも・(ている。新しい舞踊も新しい体操の要素 馬
にその発展をまつことがきわめて大きい。すなわち,その時代(1800年〜現代)における人 間の運動に対する考えが,舞踊の運動およびその教育法に大きな変革をもたらした。
新指導要領の改訂によハて,体育は,スポーツ,ダンス,体操の三分野に大別された。
体操は,もともと,健康の保持増進あるいは,身体や体力の向上をめざしてつくられる運動で,
体育のこの面の目標と直結した運動である。
スポーツは,もともと運動的な遊びの発展したもので,身体や体力を高めることをめざしてつ くられた運動ではない。本来の特性からは,スポーツを行なうこと自体を目的とするものであり,
この点は明らかに「体操」と区別される。スポーツには,それぞれ,スポーツの行ない方をきめ たものとしてのルール(競技規則)やマナー(行動のしかた)があるし,そのスポーツを行なう ための合理的な身体運動としての運動技術がある。もちろん運動技能は体力を基盤にしたもので あり,スポーツを行なうことによハて体力を維持したり,高めたりすることができる。
ダンスはスポーツと同じように,体力を高めることを直接のねらいとした運動ではない。従来
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どおりフナークダンスと創作ダンスの二つの系列が含まれているが,フォークダンスは一定の音 楽にのって,きまった踊り方を踊るものであり,スポ障ツの方に近い位置を占め,創作ダンスは,
いろいろな題材を選んで,思想や感情をリズミカルな身体の動きで表現するもので,創造性が大 きな役割をする運動である。これらのダンスが,体力を高めることに役立つことも言うまでもな いo
体操と舞踊の歴史に同一出発点がありたためか,また健康な生活の条件として,健全な身体が 求められるためか,体操は舞踊が運動を体系化しているように,部分的な運動と全身的な運動や,
リラクセーション(解緊)をねらいとする運動,バテンス(平衡性)をねらいとする運動,リズ ムをねらいとする運動などに分けて指導することができよう。
ところで,体育の指導に関する指導上の基点を図示してみると,目標は,体育を通しての人間 形成で, 健康の保持増進と体力の向上が考えられる。種目と技能の目標との関連は
人体活動を通しての人間形成 一 目標
種 目 技 能
体 操
ノ ス ポ ー ツ 。
より健康的に
器械運動 より難しく
陸上競技 美しく
水 泳 正しく
格 技 より 速く
球 技 遠く
ダ ン ス ・ 高く
創 作 より 強く
フォークダンス より楽しく より創造的に
また指導上の方法をねらいとあわせて考えるとき,できない状態からできる状態への段階的な指 導が考慮されるべきである。
より難しさの要求される器械運動では,易しい段階から,また美と正確さから考えるときF・㎜
の研究から導入するかあるいは模倣によりて体得させることができる。F・侃は静止的であり分 析的であるため,方法として映像化されるもので,機械の利用も考えられる。
これらを研究する時必らず運動の軌跡が問題になるが,これはやはり正しい目然運動つまり正 しい重心の移動が中心の課題となる。
そして,運動は,F・㎜と空間と時間と力に分析され,前述のL磁飢 の提唱する基礎的な運 動にわけられて,力学的な展開の可能性をもつ。あらゆる運動の分野が,この観点から研究され るとき,原理・生理・解剖・力学その他あらゆる体育のジャンルに協応する分析が可能となり,
一132一
堀江:自然運動に関する一考察(その1)
必要となりてくる。これは,従って,勿論,記録目標をねらいにもつ・陸上や水泳においても同 様といえる。練習プロセスにおいて記録の目標値を下げることも一一方法であるが・積極的な指導 は,やはり運動の正しいF・㎜とF・㎜ の水(あるいは土や器具)に対する作用に戻る。新しい 記録は,新しい走法と泳法によるとしても,その運動は,やはり正しい筋の緊張であり,解緊で あり,いわぽ全身運動としての自然運動により近づくことによ一5て成し得る。
より強く,より楽しくという要求をもつ,Gα駕を含んだ格技や球技について考えてみると,
正に格技は,正しい技の体得であり,自然運動として考えることができる。具体的には球技にお いての回転レシーブや,ショットのフォロースルーとか,一つ一つの技術の体得は,F・㎜の研 究や運動力学にのっとったDπ〃 による体得がそのねらいを達成する手段であろうが,その
F・㎜はすでに述べたとおり自然運動による正しい運動軌跡の学習であり肉体的には筋肉と神経 のトレーニングというべきである。
体操はいうまでもなく,自然運動のトレーニングであり,この点で,ダンスのトレーニングと 近い立場にある。
また創造性の要求されるダンスの初歩的指導は,即興法によるが,これは,精神の解放をもね らい,ダンスがドイツにおいて,D侃・απの即興的・感動を主体とした初期の創作舞踊のルート と一致している。Dαπ・απ以後,その舞踊のエキスを自然運動として体系化していったことを考 えるとき,無意識の運動の中に目然運動は存在し,精神の解放つまりリラクゼーションをも含む
ものである。心身の相互作用はいうまでもなく,緊張・弛緩において一・体とな一て作用し,新し い体操が兵式体操の軍隊式にとってかわったのも,精神の解放が肉体の解放を呼び,より社会的 存在としての人間性をめざめさせるものである。
体育でねらう,社会的態度の育成は,これらの目然運動を習得するプロセスにおいて,G7侃p翫g によるのα伽γ8砺pや分担への自覚,勧α加ω・擁や心理的なバランスの調整を育成し,できない 状態からできる状態へあるいはよりできる状態へ移行するときそのなα乙㍑πgの意志が,体育と
して評価すべき意欲といえる。
体力を育成し技能を高めるとき,その体力育成の方法として,様々のサーキストやインターバ ルなどの練習が試みられるが,全て方法において身体の自然運動の原理に基づくトレーニングを
経て育成されるものである。 ●
3 結 論
自然運動が,ダンスにおけるBo吻一なα魏碗9のねらいであるという着眼から・あらゆる運動 の理想が,この自然運動にあるという予測に立一て,歴史的背景と,指導上の方法論から研究を 展開した。究極,自然運動は全ての運動の根本原理であり,体育科教育において技術的な問題点 は,自然運動の解明に負うところが大きい。さらに自然運動の解明と,ダンスの自然運動のトレ
一ニング,体育科における指導上の研究をすすめていきたいと思う。また体育指導のポイントを o
自然運動において,指導をすすめていきたいと考えている。
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教育研究所紀要第五号
自然運動の解明は,Lα加πの運動分析,体育科教育の組織化,運動力学の体系化等から進めて ゆきたいと考えている。
参 考 文 献
舞踊概説:邦正美著 舞踊:邦正美著
教育舞踊:邦正美著 教育舞踊原論:邦正美著 動きのリズム:邦正美著 舞踊創作の理論と実際:渡辺江津著 学校における舞踊:江口隆哉著
舞踊創作法:江口隆哉著 これからの学校舞踊:神野寛著 舞踊美学:小林信次著 舞踊美の探究:松本千代栄著
芸術舞踊教程:木村駒子著 バレエ・技法と鑑賞:松山樹子著
おどりの美学:軍司正勝著 児童のためのリズム体操:G8〃H8磁加γ著 リズム体操:B・伽著 運動とリズム:日本リズム運動協会著
ダンスの指導:大学女子体育研究著 大谷武一体育選集 1・皿・皿:大谷武一著 新しい体操への道:大谷武一著 世界の体育の歴史:丸山哲郎・鈴木英久・村山貞次 共著 基本体操の真想:新体育社 正しき体操の指導:酒井龍蔵・新井福蔵 著 ソ連女子の芸術体操:ソビノブ著 身体運動の力学:R・プロア著 運動の力学:M・G・スコット著 教養の生理解剖学:田多井吉之助・長田泰公著 スポーツ基本運動:スタフォードダンカン著
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