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「テミセル」表現に関する一考察
―書き言葉における文末「てみせる。」の使用実態―
井上 直美
【キーワード】
テミセル、BCCWJ、描写表現のテンス、級外項目、日本語学習教材
【要旨】
本稿では、書き言葉における文末の「てみせる。」という形態に注目し、国立国語研究 所『現代日本語書き言葉均衡コーパス』を用いて、使用実態を調査した。
その結果、形態は「ル形」であっても、既に実現している事態について述べる「てみ せる。」が 8 割近くを占めていることが明らかになった。また、その中には、日本語学 習教材に記述されている「決意用法」にも「紹介用法」にも該当しないものが多数見ら れた。これらは、書き言葉特有の描写表現で用いられる「てみせる。」だと考えられ、デ ータ総数に対し、非常に高い割合で出現している。
現状、日本語学習教材には、この書き言葉特有の表現について記述がない。本稿は、
明らかになった使用実態から、主体的により上を目指す日本語学習者、つまりニア・ネ イティブレベルの学習者向けに、これらの表現についても記述が必要だと主張する。
1.はじめに
「テミセル」表現は、『日本語能力試験出題基準〔改訂版〕』に記載がなく、級外と呼 ばれる項目である。そのこともあり、日本語学習者向けの記述が少ない文法項目だと言 える。まず、記述があるものの中から日本語学習者向けの文法辞典の用例1を見てみる。
(1)ぼくはあしたの柔道の試合で必ず勝ってみせる。がんばるぞ。
(『どんな時どう使う日本語文型辞典』p.199)
(2)かれは柔道の型を教えるためにまずやってみせた。
(『教師と学習者のための日本語文型辞典』p.270)
1 本稿で提示する用例は、出典が示されているものを除き、国立国語研究所『現代日本語書 き言葉均衡コーパス』のものである。これらには括弧でID番号を付した。また、用例中の 下線は筆者によるものである。
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(1)は「がんばって達成しよう、達成できる、という話者の強い気持ちを他に示す 表現」と説明され、(2)は「紹介をしたり、理解をうながしたりするのに、実際の動作 で示すことを表す」と解説されている。このように文法辞典には2つの用法が記述され ていることがわかる。本稿では便宜的に(1)を決意用法、(2)を紹介用法と呼ぶこと にする。また、日本語学習教材2を見ても、「てみせる」の項目には「決意用法」または
「紹介用法」が記述されている。そして、「決意用法」は主語が一人称、かつ、「てみせ る」や「てみせます」のような「非過去形」で用いる例が挙げられている。
しかし、実際の用例を見てみると、(3)のように、主語が一人称、かつ、「てみせる。」 の形態でも、既に実現している事態を表し、決意用法に該当しないものがある。しかも、
紹介用法のように何かを紹介するために動作を見せたとも解釈できない。
(3)野ブタの言葉に俺は大袈裟に溜息を吐いてみせる。「じゃあ信じなきゃいい だろ。ま、おまえに信じられてもなにも嬉しくないけどな」一瞬、間があっ た。 (OB6X_00049)
日本語学習者は、様々な表現を習得する際、「ル形」なのか「タ形」なのかといった形 態と意味をつなぎ合わせて規則的に学習していく。そのように考えた場合、(3)のよう な用例は教材類の記述と合致せず理解が難しいことが予想される。現状、(3)について は教材類に示されていない。そこで、本稿は書き言葉の「てみせる。」という形態に注目 し、その使用実態を明らかにし、日本語学習教材類の記述について検討を行う。
本稿の構成は次の通りである。まず、2 章で先行研究について述べ、本稿の課題を明 確にする。3章で調査方法、および調査結果について述べる。4章で考察を行い、5章で 本稿の主張を述べる。
2.先行研究
「テミセル」表現に関する先行研究は大別して3つのアプローチがある。意味用法を 分類したもの(高橋1969、森田1977)、構文の観点から分析したもの(成田1981、澤
田2009)、文脈の観点から分析したもの(笠松1991)である。その後、前接動詞の語彙
的特徴、構文的特徴、文脈的特徴を複合的に記述した研究として成(2012)が挙げられ る。これらの先行研究では、日本語学習教材類に記述されている「決意用法」、「紹介用 法」に該当するもの以外にも、研究者の着眼により細かく意味分類が行われている。
また、「決意用法」の形態的特徴について言及したものとして、笠松(1991)、成(2012)
がある。笠松(1991)は、発話時点で未実現のタイプは「話し手が相手の反応をもとめ て、動作の実行の決意、動作の実現への自信を表す」(笠松1991:40)とし、すぎさら ずの形だとした。また、成(2012)も、決意用法を「豪語」と名付けて分類し、形態的
2 「テミセル」の記述が確認できた教材類を末尾の参考資料に記した。
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特徴として「未実現形」であることを指摘している。
「決意用法」以外については、成(2012、2014)が触れている。成(2012)は、「て みせる」を4分類した上で「豪語」以外の用法においては、「既実現形が多い」とした。
その後の成(2014)では、その 4 分類のうちの「偉業としての評価3」に特化した分析 を行い、形態的特徴として過去形が50.3%、非過去形が49.7%だとも述べている。つま り、「テミセル」表現の「決意用法」以外では、事態は既に実現しているが、形態的には
「既実現形」と「未実現形」が混在していることを指摘している。
以上のように、先行研究においては「テミセル」表現を意味別に分析したものが多く、
同じ意味で形態が異なる点については指摘のみであり、十分な説明がされていない。同 様に、同じ形態でありながら違う意味を表す場合についても分析が不十分である。この ことは日本語学習者にとって理解しにくい部分であると考えられる。また、管見の限り、
出現形態を限定して分析したものはない。そこで、本稿では書き言葉における「てみせ る。」という形態に注目し、事態実現の観点からその使用実態を明らかにする。
3.調査及び調査結果 3-1 調査方法
国立国語研究所『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(以下BCCWJ)を用いて用例調査
4を行った。用例の抽出方法は次の通りである。
本研究ではコーパス検索アプリケーション『中納言』を用いて、すべての年代、すべ てのジャンルを対象に用例の抽出を行った。
具体的には、キー「品詞:大分類:動詞」、後方共起1「語彙素:て」、後方共起2「語 彙素:見せる」を入力し検索した。その結果、2816件の用例を得た。その中から、ひら がな表記の「てみせる。」、漢字表記の「て見せる。」を取り出した。また、「強がってみ せる。」、「振り向かせてみせる。」のような用例も網羅するためキーを「接尾辞」、「助動 詞」に変更して検索し、同様に取り出した用例も加え、320例を考察対象とした。
3-2 調査結果
BCCWJ から抽出した用例について、共起する動詞や、事態実現の観点、動作主の人称
の観点から集計したものが表1および表2である。
3-2-1 共起する動詞ランキング
表1は、「てみせる。」と共起する動詞の上位10位までをランキングしたものである。
3 「偉業としての評価」とは、「動作主の意図とは無関係に、書き手(または話し手)が動作 主の行為を立派なこととして捉えることを表す。」(成2012:207)と規定され、次のよう な用例が挙げられている。
継投した背番号「10」の前沢一歩投手も、1回を無失点に抑えてみせた。
(成2014:100)
4 検索日:2018年2月21日、中納言2.4、データバージョン1.1。
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表1 「てみせる。」に現れる動詞ランキング(総数320)
順位 動詞 用例数 ヲ格 取らない
ヲ格 取る
再帰
動詞 割合 再帰動詞の用例 1 する 83 40 43 (1) 2% 白眼を指でむき出しにする
2 笑う 19 19
3 頷く 15 15
4 振る 12 12 (7) 58% 首/尻/手/~指を振る
5 なる 7 7
5 示す 7 7 (1) 14% 腕の表を示す
7 微笑む 6 6
7 広げる 6 6 (2) 33% 両手を広げる
7 やる 6 6 (0) 0%
10 出す 5 5 (2) 40% 舌/Vサインを出す 合計 166 87 79 (13)
表 1 から、「てみせる。」は、ヲ格をとらない「する」(にやりとする、まばたきする、
など)や、自動詞(笑う、頷く、微笑む)と共起しやすいことが読み取れる。これらは 動作主1人で完結する動きを表し、「影響が外の対象に向かわない」(庵 2012:140)タ イプの動詞である。反対にヲ格を取る「する」(証明する、分析する、など)の用例も多 く、別のタイプとなって表れていることが予想される。
3-2-2 事態実現の観点からみた主語人称別用例数
表 2 は、事態実現の観点から「てみせる。」の主語人称別に用例数をカウントしたも のである。事態が実現しているかは目視で文脈から判断した。
表2 事態実現の観点からみた「てみせる。」の人称別用例数
人称 一人称 二人称 三人称 非情物 合計
用例数 75 0 240 5 320
(既実現) (17)23% (0) (226)94% (5)100% (248)77.5%
(未実現) (58)77% (0) (14)6% (0) 0% (72)22.5%
表2からは、「てみせる。」は三人称主語文で用いられることが多いこと、また、主語の 人称により事態の実現のタイプに違った傾向が現れることがわかる。
3-2-3 調査結果のまとめ
動詞ランキングからは、「自動詞」や、ヲ格をとらない「する」のような、動作主 1
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人で完結する動きを表し、「影響が外の対象に向かわない」(庵 2012:140)動詞の多さ が顕著だと言える。ただし他のタイプの動詞も現れており、用法は多種となることが想 定される。また、主語人称と事態実現の観点から調査した結果、「ル形」でありながら既 実現を表す用例が8割近くを占めることが明らかになった。一人称主語文では未実現の 事態を、三人称主語文では既実現の事態を表すという傾向も見られた。
4.考察
調査結果から、書き言葉における「てみせる。」では、形態は「ル形」でも意味的には 未実現の事態と既実現の事態が混在していることが確認できた。それに加えて、主語の 人称によって事態が実現しているかには特徴的な傾向が見られた。そこで4章では、事 態が実現しているかどうか、「てみせた。」と置き換えられるかどうか、日本語学習教材 の「決意用法」、「紹介用法」に該当するかどうか、を主たる基準に据えて考察し用法を 分類する。
考察にあたり、あらかじめ分類について述べる。本稿では「てみせる。」の形態で出現 した用例を次の4つのタイプに区分する。①決意(未実現)、②仮定(未実現)、③恒常 性(既実現)、④1回生起(既実現)の4つである。①~③は「てみせた。」と置き換え ができないが、④は置き換えが可能となっている。以下、区分ごとに考察を行う。
4-1 ①決意の「てみせる。」(58例)
まず1つ目は、日本語学習教材の「決意用法」に該当するタイプである。
(4)ぼくはあしたの柔道の試合で必ず勝ってみせる。がんばるぞ。 ((1)再掲)
この決意の「てみせる。」は動作主の心的態度を表すもので、一人称主語文となる。これ から事態を達成するという決意の宣言である。しかし、決意だけであれば(5)で表現 できる。ただの決意ではないことが伺える。
(5)ぼくはあしたの柔道の試合で必ず勝つ。がんばるぞ。 (作例)
このように、決意の「てみせる。」は、これから事態を達成させて結果を見せることで自 分の能力を示す表現である。また、「てみせた。」に置き換えることは不可能である。
先述の表1、動詞ランキングからも決意用法との関わりが読み取れる。ランキング1
位のヲ格を取る「する」や、5位の「なる」は決意用法との関わりが強い。用例を考察 すると、決意の「てみせる。」と共起する動詞は、動作様態を表さず、結果事態の実現を 表す動詞が多いことがわかる。一番多いのは(6)のようなヲ格を取る「する」で、次 に(7)のような「なる」、その他には、(8)のような複合動詞「~切る」、「~出す」、 助動詞「~せる」、も現れやすいと言える。
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(6)うそだ!そんなことをいうなら、ぼくの足の位置が正しかったことを、証明 してみせる。 (PB2n_00069)
(7)「ぼくは将来、うちの会社の社長になってみせる。いや、少なくとも重役に はなるからねえ。」 (PB39_00458)
(8)いやいや、やはり私は八代丸の船長でありたい。荒波にばかり突っ込んでも 私は必ずや乗り切ってみせる。乗り切らなければならないのだ。
(PB13_00059)
また、「必ず」「きっと」「いつか」「絶対」といった副詞が共起しやすいことも特徴とし て指摘できる。
4-2 ②仮定の「てみせる。」(14例)
仮定の「てみせる。」は動作を用いて手順や方法を示すタイプである。実際には事態が 生起しておらず「てみせた。」に置き換えることは不可能である。また、決意用法のよう に動作主の心的態度を表すものではない。共起する動詞は(9)、(10)のように動作様 態を表すという特徴がある。
(9)例えば、腕を胸もと組んで、首を右へ左へ、交互にかしげてみせる。それだ けで、「ああ、考えているな」と相手にもわかります。 (LBh0_00016)
(10)make a long nose「〈人を〉ばかにする」は人に向けて鼻先に親指をあて他 の指を扇形に広げてみせる。 (PB58_00008)
これらは「紹介をしたり、理解をうながしたりするのに、実際の動作で示すことを表す」
(『教師と学習者のための日本語文型辞典』p.270)、という説明に当てはまることから、
事態未実現の「紹介用法」だと考えられる。
4-3 ③恒常性の「てみせる。」(17例)
事態既実現で、事態が複数回生起したと考えられる「てみせる。」を恒常性の「てみせ る。」とする。これは1回の事態ではなく、複数回生起した事態であることから、習慣 や属性といった恒常性を表す「ル形」を取る。そのため、「てみせた。」に置き換えるこ とはできない。このタイプには動作主の持つ能力や態度が恒常的であることを表す用例 が多い。また、日本語学習教材には記述がない。
(11)小遊三は「永遠の若い衆」である。加えて、『大工調べ』などを演じれば、
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ちゃんと棟梁の貫禄を出してみせる。【能力】 (PB57_00114)
(12)大人だって負けてはいない。若者のしゃべり方、たとえば「辛くない?」の アクセントを無視した【上昇】には眉をひそめ、「耳ざわり」「ことばの乱れ」
と嘆いてみせる。【態度】 (LBt8_00014)
(11)は、小遊三が題目に合わせて様々な年齢の役柄を演じ分けるという能力について 述べている。それが1回の事態ではなく、恒常性のある主体の属性として述べられてい る。(12)も若者のしゃべり方に対して大人が取るとされる態度について述べられてい る。よく生起する事態、つまり一般論のように捉えられる。
また、データには出現しなかったが、③恒常性の「てみせる。」にも「紹介用法」は現 れ得る。(2)の用例を(13)のように変更すると、常にその方法で紹介することが表せ る。この場合は事態既実現の「紹介用法」だと言うことができる。
(13)かれは(いつも)柔道の型を教えるためにまずやってみせる。 (作例)
4-4 ④1回生起の「てみせる。」(231例)
1回の出来事として結果事態が実現済みのものを、1回生起の「てみせる。」とする。
BCCWJに現れた文末の「てみせる。」の7割以上は、このタイプであり、「ル形」であっ
ても文脈から既に実現した事態だと判断できるものである。このタイプは「てみせた。」
に置き換えることができる。
4-4-1 「物語文のテンス」か「描写表現のテンス」か
「てみせた。」に置き換えられることに関連して、まず「ル形」、「タ形」の違いについ て考えたい。このことは発話時を基準としたテンスの問題として扱われることが多い。
しかし、実際には物語文などにおいて、既実現の事態であっても「ル形」をとることが ある。このような現象はテクストジャンルによるもの、いわゆる「物語文のテンス」と して説明される。
この「物語文のテンス」について、益岡(1991)、井島(2010)の記述がある。両者 とも物語文においてはいわゆる通常のテンスの形態とは異なることがあるとしている。
益岡(1991)はカメラの遠近調節のように、時制の転換が行われていると説明してい る。「タ」は遠くから生起した事象を眺める形を取るので話の筋を表し、「ル」は付帯的 な状況を近くから描写する際に用いられると述べている。井島(2010)は、「ル」と「タ」
の違いを物語時の視点か、表現時の視点かという、ウチ、ソトの視点の違いで説明して いる。その上で「ル」は眼前で物事が起きているような印象を与える効果があると述べ ている。
今回抽出したBCCWJの用例をみると、1回生起の「てみせる。」は書き手が回想しなが
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ら他者の様態描写をする際に用いられ、「てみせる。」のあとにも描写文が続き、そこで 区切れることなく出来事が展開していくことが多い。その点において、益岡(1991)、
井島(2010)の説明は合点がいく。
このように、「物語文のテンス」として説明すれば「てみせる。」が既に実現した事態 を表すことについて解釈可能である。BCCWJの用例に紐付けされたジャンル情報を見る と、確かに「書籍」、中でも「9文学」の割合が高い。しかし、「書籍(9文学以外)」や
「雑誌」、「全国紙」、「Yahoo!ブログ」等でも「ル形」が用いられているのである。
このことから、筆者は、書き手が回想しながら事態を描写する場合は、物語文のみな らず他のジャンルのテクストであっても同様のことが言えると考える。書き手は現実世 界でも仮想世界でも事態発生時を回想することでその時点の視点に立ち得るからである。
本稿は「物語文」と限定せずに、これを「描写表現のテンス」と捉え、書き手が回想し 描写する表現であれば、眼前で物事が起きているような印象、臨場感を与える効果があ るため「ル形」が用いられるという立場を取る。
4-4-2 1回生起の「てみせる。」の紹介用法(25例/231例)
まず、1回生起の「てみせる。」の中でも、日本語学習教材に記述があった「紹介用法」
に該当するものについて考察する。(14)以降、用例に「てみせた。」の形態も括弧で併 記し、置き換え可能かどうか検証する。また、既実現の事態であることが判断できるよ う、必要に応じその前後の文も引用することにする。
(14)「よし、良かったら丸。駄目ならペケ。みんなで一緒にやるんだよ。」両手
で丸とペケを作って見せる。(作って見せた。)「では、いくよ。発射3秒前、
3、2、1、0。どかーん」みんなにこにこ笑いながら頭の上に両手で大きな丸 を作る。 (PB23_00288)
(15)佐藤さんは胸の前で手を組み合わせ、待子さんの口調をまねてみせる。(ま ねてみせた。)おお、待子よ、君のその汚れ無き眼。それはうちの近くのペ ットショップで売れ残っている下がり目の柴犬五万八千円を思い出させる よ。 (PB49_00357)
(16)老人たちは、縄と木をどこからか持ってきた。集まっていた少年たちに、
それらを使って、どういうふうにヤシの木を運んだかを再現までしてくれ た。木を肩に担がせ、少年たちの隊列を整えると、「ホイサー、ホイサー」
と掛け声をかけ始めた。老人を先頭に、少年たちが広場をぐるりと回ってみ せる。(回ってみせた。) (PB43_00724)
このように、(14)~(16)の用例は、「てみせた。」に置き換えが可能であり、既に
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実現した1回生起の事態を表す。また、動作を用いて紹介したと捉えることができるこ とから、この場合も事態既実現の「紹介用法」だと考えられる。
4-4-3 1回生起の「てみせる。」の紹介用法以外(206/231例)
1回生起の「てみせる。」の中には、「紹介用法」とは捉えにくいものが多数出現して いる。これらは、実際の動作で紹介するというより、表情や態度、そして事態の結果を 見せたと考えられ、日本語学習教材には記述がない。また、この区分では表1のランキ ングで共起しやすいことを指摘した自動詞が多く見られた。また事態の結果を表す動詞 も多く表れている。
(17)別れ際のあたしの態度、頭痛のせいだと思ってくれたの。何つうか…放っ
とくと泣きそうだから、笑ってみせる。(笑ってみせた。)「で、わざわざお
見舞いに来てくれた訳?」ドアを大きく開けようとする。と、桂一郎が外か らノブおさえた。【表情】 (LBk9_00259)
(18)「東京地検のお友達とね」―へえ。潮は一瞬だけ動きを止めた。しかし、驚 きを表情に出さずに、冷静にうなずいてみせる。(うなずいてみせた。)潮の 言動はしっかり見張られているらしい。【態度】 (PB59_00335)
(19)この杉山のプレーで落ち着いた福井は3番・加守田から三振を奪い、この
回を三者交代に抑えてみせる。(抑えてみせた。)すると初回こそ不安を感じ
させたが2回以降は完全に吹っ切れ、青学打線に対して凡打の山を築いてい く。【結果】 (OY15_22200)
(20)千九百八十六年のゴルバチョフは、一方で民族問題を牧歌的に描写してみ
せる。(描写してみせた。)報告の他の部分と照らし合わせれば、ソ連の全歴
史を通じて唯一の具体的な成功であると思えるし、再建の政策はこの成功を
土台にできそうだ。【結果】 (LBf3_00025)
4-5 考察のまとめ
BCCWJにおける「てみせる。」は、「ル形」でありながら8割近い用例が既に実現し
た事態を表し、7割以上は「てみせた。」同様に1回生起の事態を表していることが明ら かになった。事態既実現の「てみせる。」は、その多くが「描写表現のテンス」を用いた 書き言葉特有の表現で、「てみせた。」と重なるということができる。また、事態既実現 の「てみせる。」には、日本語学習教材の「決意用法」、「紹介用法」に該当しないものが 多数出現していることもわかった。以上の考察内容をまとめたものが表3である。
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表3 BCCWJにおける文末「てみせる。」の使用実態
5.おわりに
以上の考察から、本稿では以下の(A)~(E)を明らかにした。
(A)事態未実現の「てみせる。」は「決意用法」の割合が高い。
(B)「紹介用法」は事態未実現、既実現のどちらにも現れる。
(C)事態既実現の「てみせる。」のうち、複数回事態が生起したと考えられるものは、
習慣、属性などの恒常性を表し、「ル形」が用いられる。
(D)事態既実現の「てみせる。」のうち、1回生起の事態を表す場合は、「てみせた。」 と置き換えが可能である。これは「描写表現のテンス」で説明できる。
(E)書き言葉の「てみせる。」には、日本語学習教材の「決意用法」、「紹介用法」の他 に、既実現の事態を描写する書き言葉特有の表現(表情・態度、能力・結果など)
が多数現れており、その割合は非常に高い。
(A)~(E)をふまえて日本語学習教材について述べる。本稿で明らかにした使用実 態は、日本語学習教材の記述と実際に目にする用例との間で齟齬をきたす可能性がある ことを示唆している。産出の観点から教材類に「決意用法」、「紹介用法」が記述されて いるのは妥当であるが、実際には書き言葉特有の表現のほうが圧倒的多数出現している。
区分 区分に対応する例文
日本語教材における(用法)/該当しない【用法】
タ形 置き 換え
用例数
(割合)
主 語 人 称
未 実 現 の ル
決
意 ・ぼくは明日の柔道の試合で勝ってみせる。(決意) 不可 58例
(18%)
一 人 称 が 多 い 仮
定 ・できなければ、実際にやってみせる。(紹介) 不可 14例
(4%)
既 実 現 の ル
恒 常 性
・彼はいつも大袈裟に溜息を吐いてみせる。【態度】
・彼はいつも三者交代に抑えてみせる。【能力】
※データにはないが(紹介)も現れ得る。(用例(13))
不可 17例
(5%)
三 人 称 が 多 い 1
回 生 起
・すると、彼は大袈裟に溜息を吐いてみせる。【態度】
・すると、彼は三者交代に抑えてみせる。【結果】
・すると、彼は実際にやってみせる。(紹介)
可 231例
(73%)
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しかも、日本語学習者がそれらの表現を目にした際、調べたくても記述がないのである。
そこで、筆者は「てみせる。」の書き言葉特有の表現についても、学習者レベルを絞っ て資料等に記述する必要があると主張する。具体的には、ニア・ネイティブレベルの日 本語学習者向け資料に記述するべきだと考える。ニア・ネイティブレベルについて、劉
(2015)は、上級以上でネイティブレベルに極力近づこうとする学習者のことを指すと 述べている。また、従来の「超級」といったネイティブ日本語指導者による受身的なラ ベリングではなく、学習者による能動的な学習姿勢に期待を込めたネーミングだとされ る。現状ではこのようなニア・ネイティブレベル向けの教材類は十分とは言えず、本稿 で示した「テミセル」表現以外の項目も含めて整備されることが望まれる。
最後に、本稿では(3)をはじめとした「決意用法」とも「紹介用法」とも言えない 表現について詳しく述べられなかった。この書き言葉特有の「てみせる。」を含め、「テ ミセル」表現全体の仕組みや出現条件についても、日本語学習者にわかりやすく体系的 に示す必要があると考えている。これについては稿を改めることにしたい。
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凡人社
佐々木仁子・松本紀子(2010)『日本語総まとめ N1文法』アスク
財団法人アジア学生文化協会(2014)『TRY!N1文法から伸ばす日本語』アスク 友松悦子・宮本淳・和栗雅子(2005)『どんな時どう使う日本語表現辞典』アルク 山田光子・遠藤由美子(2012)『N1文法 総まとめ』三修社
使用データ
国立国語研究所『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(通常版)
コーパス検索アプリケーション中納言使用(https://chunagon.ninjal.ac.jp/bccwj-nt/search)
付記
本稿は、第161回関東日本語談話会(2019年1月26日(土)、学習院女子大学)で口頭発 表した内容、及び埼玉大学教養学部に提出した卒業論文(井上 2019)の 5 章を修正し、加 筆したものである。関東日本語談話会の席上では、三宅知宏先生、佐藤琢三先生、村上佳恵 先生、田中佑先生をはじめ、多くの参会者から貴重なご教示を賜った。ここに記して御礼を 申し上げる。無論、言うまでもなく、本稿における不備、誤りは全て筆者の責に帰せられる ものである。
(埼玉大学教養学部学部生)