奈良教育大学学術リポジトリNEAR
学級における社会的受容に関する発達心理学的研究
(VIII) ― 高校生における選択の安定性 ―
著者 上田 敏見
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 7
ページ 91‑99
発行年 1971‑03‑31
URL http://hdl.handle.net/10105/6219
学級における社会的受容に関する発達心理学的研究(㎜)
高校生における選択の安定性
上 田 敏 見 (心理学致室)
I 問 題
集団内で子どもが他に与える選択の安定性については,かなり古くから若干の研究が企てられてき た。たとえば,Cr i日weユエ,J.H・(1939)ぱ小学生について6週間隔の安定性を分析している
し,Northwaア,M.L・(19蝸),Spe roff,B.J、(1955)は幼児を対象として同様を安定 性の検討を行なった。これらは,いずれも,子どもの与えた選択の変化の率(%)を大童かにとらえ るにとどまったが,Horrook日、J.瓦・,& Thom=pson,G.G・.(1946), Thom=p日。n,G・.
G.,&Ho・ro・k・,J.亙.(1947).Hor・o・k日,丁.瓦.,&Bukθr,M.E.(1951)
,Sko rθpa,C.A.,Ho r r o c k目,J.E.,&Tho皿p80n,G.G.(1963)の一連の
研究は,幼児から成人レベルまでの被験者について,変動得点(FユuCtuatiOn8COrθ)を用 いた安定性の発達的分析を行凌ったものである。その結果によると,与えた選択の安定性は,ほほ年 令の上昇につれて増大する傾向を示した。
筆者も,1964年に小学生について与えた選択の安定性の分析を試み走が,本研究に拾いでは高校 生について与えた選択の安定性をたしかめ,さらに選択規準則拾よび社会測定的地位別の検討を加え
るものである。具体的にいえば,本研究の目的は,次の4仮説を検証することであ瓦 仮説1、期問Iカ月の選択変化得点は期間3ヵ月のそれより低いであろう。
仮説2、一般的規準による変化得点は,特殊的規準のそれより低いであろう。
仮説3 女子の変化得点は男子のそれより低いてある㌔
仮説4 社会測定的地位の高いものの変化得点は、地位の低いものの変化得点より低いであろう。
II 方 法
本研究の被験者 奈良県立生駒高校の2年生4クラス・男子137名,女子81名・計218名。
これらのクラスは,いずれも進学組であるが,知能・家庭の社会経済的地位在との点からみて,ごく 普通の標準的なサンプルとみなすことができる。
ソシオメトリック・テスト上記の被験者に対し11967年5月中旬,6月中旬,9月中旬の3回 にわたり, 好き , ピクニック , 化学実験 の3規準によるソシオメトリ・ソクス・テストを 反復実施し走。制限選択数は3名とした。教示は次のと拾りであった。
rこれからみをさんにやっていただく調査は,成績をしらぺるものではありませんし,関係者以外
の人と見せ合わ在いようにしてください。」
な釦,2回目,3回目の実施に際しては,r前回の調査でえらんだ人と同じでも,また1ちがった 人でもよろしい。」を付加した。
このソシオメトリ・ソク・テストぱ,rグループ調査」と名付けられ,次のようを質問がプリントさ れて拾り,反応が求められた。
(D このクラスの中で,あなたが一番好きな友人は誰ですか。好きな順に3人書いてください。男 でも女でもよろしい。
{21もし,このクラスの誰かとグループを組んでピクニソクに行くとすれば,あ浸だは誰といっし よに行きたいですか。好きな順に3人書いてください。男でも女でもよろしい。
(3i化学の時間,実験室で実験をする時,あを定は誰といっしょのグループになりたいですか。好 きな順に3人書いてください。男でも女でもよろしい。
テストぱ4クラス同時に施行され走。実施条件の斉一性を保つための事前の十分な訓練をうけた,
心理学専攻学生4名がこれにあたっ走。各クラスのホームリレーム担任教諭は、第1回目の調査時に のみ立合ったが,2回目,3回目は不在であった。を拾,本研究てば,上記1一、を一般的規準,12j,(31 ぱ特殊的規準と見傲すことにしね
皿 結 果
変化得点の真由
各被一験者の第1回目にえらんだ3名と、第2回目,第3回目のそれとが各選択規準別に比較され,
それぞれの変化得点が次の手続きによって算出され烏
(1)9点法 〜=ればHo rrO ck臼らのfユu c tuat i on s coreを準用したものである。たと
えば,第2回目にえらばれた3名が,第1回目の被選択者と順位を含めて完全に一致する場合,変化 得点はゼロと計算される。もし,第2回目にえらぱれた3名が,第1回目の被選択者と氏名は同じで あるが選択順位に拾いて変動がみられる場合には,1順位異なる毎に1点を付与する。第2回目の被 選択者が第1回目の被選択老中に含まれていない新人で占められた場合,その新人が第1順位にえら ばれているときぱ4点,第2順位にえらぱれているときは3点,第3順位にえらぱれているときは2 点が,それぞれ付与される。このようにして得られた変化得点はO(被選択者の変化が全然みられな い場合)から9(3名会負が変化した場合)までの範囲で分布することにをる。
(ii)3点法 第2回目にえらぱれた3名が,第1回目の被選択者と順位を含めて完全に 致して いる場合,変化得点は,9点法による計算と同様,七回とされる。第2回目にえらぱれた3名が.第
1回目の被選択者と異をる場合には,その変化した人数が1名のときはI点,2名のときは2点,3 名全員のときは3点が与えられる。順位の変動は得点に算入されをい。したがって,このようにして
得られた変化得点の範囲は,O〜3である。ちなみに,上田,杉村,島崎の検討(1963)によれば
」=記の9点法とこの3点法の変化得点問の相関は,小学校.2年生で.746,4年生で.792,6年
生では.853 てあっ走。
結集(o選択の安定性と期問
期間別(Iカ月と3ヵ月)に与え走選択の対象に歩ける変化を変化得点で表示したものがT ab−
1e 1である。これによれば,3規準のいずれに赤いても,また,9点法・3点法のいずれに拾いても 傾向としては3ヵ月の変化得点平均の方が高いようであるが,有意差が認められたのは,男子9点法 の ピクニック (t=2,413,P<.05),男子3点法の 好き,(t:2,547・P<.05)・男 子3点法の ピクニック (t=2,699,P<.01)のみであう旭女子における期間の有意差は,
いずれの規準の場合にも認められなかっ烏
Tabユθ 1. 選択変化得点平均
9 点 法 3 点 法
規 準 奄鯛 1ヵ月 3ヵ月 1ヵ月 3ヵ月
■一I
男 子 4.206 4−480 I,238 1.420
好 き 女 子 3,16− X 3.418 O,961 0.949
全 3.917 4.105 1,135 1.249 男 子 4.576 5.259 1.261 1.610
ピクニック 女 子 4,620・ 4,275 1.363 1.165
全 4.593 4,880 1.324 1.497 男 子 5,114 5.6I5 11476 1.685 化学実験 女 子 4.556 4.772 1.363 1.493 全 4.907 5.272 11549 1.612
結果12)遺択の安定性と規準
期間別・・採点決別にTa bユe 1 にもとラく分散分析を行をつ走結果は・Tabユθ2〜Tab1θ 5に示したと拾りで、規準による変化得点の差はすべての場合に拾いて有意水準に達した。Tabユθ 1から, 好き の変化得点が最低で, ピクニック 化学実験 の順に得点が高くをっているこ とがわかるが,この各規準間の差の検定結果を示したのがTabユe6である。Tabユθ6に明らかな ように,3個の例外を除き,規準 好き に拙ける変化得点は他の2規準のそれより有意に低いこと、
つまり,規準 好き における逮択の安定性が他規準による安定性よりすぐれていることがわかる。
Tabユe2. 分散分析表
(Iカ月・9点法の場合)
変動因 af SS MS F
山 規 準 2 54.1744
27雨ザ
男 個 体 129 1797.9000 13.9372 4.6189*
子 残 差 258 778.4923 3.0174
全 体 389 2630.5667
規 準 2 69.5152 .34.7576 8.3530**
女 個 体 76 839.4372 lI.0452 2.6544 子 残 差 152 632.4848 4.1611
全 体 230 1541.4372
一■ 規 準 2 I06.0387 53.0194 38.6874**
全 個 体 206 2664.1449 12.9327 9.4368**
体 残 差 412 564.6280 1.3705
全 体 620 3334.8116
27雨ザ
Tabユθ3. 分散分析表
(1ヵ月・3点法の場合)
.変動因i df i 坦 MS F
規準 女個体 子残差
2
76
152
8.3203 105.8398 68.6797
** 4.1602 9.2081 1.3926 3.0823 0.4518
全体 230 182.8398
規準 全個体 体残差
2
206 412
10.9404 286.2013 200.7263
**
5.4702 11.2278 1.3893 2.8516 0.4872
全体 620 497.8680
Tabユθ4. 分散分析表
(3ヵ月・9点法の場合)
,
旦。二
SS. MS 且
規 準 2 83.4205 41.7103 86234**
男 個 体 129 1995.6257 ]5.4700 3.1983*
子 残 差 258 1247.9128 4.8369
全 体 389 332619590.
女 子
全 体
個体 規準 全体 残差 規準 個体 残差 全体
2
78 156 236
2
208 416 623
74.2863 945.8903 879.0970 1899.2236 106.96i7 3085.2615 3176.7C50 6368−9282
37.1182 12.1268
5f352
53.4809 14.8330 7.6363
6.5868**
2.1520
7刀035**
1.9424
Tabiθ5. 分散分析表
(3ヵ月・3点法の場合)
変動因 血 且且 血且 且
男 子
女 子
全 体
規準 個体 残差 全体 規準 個体 全体 残差 規準 個体 残差 全体
2
129 258 389
2
78 156 236
2
208 416 626
4.5590 227.0859 125.4410 357.0359 11.8734 114.2785 79.1266 205.2785 13.8693 362名616 207.1307
5832616
2.2795 1.7600
04862
5.9367 1.4651 0.5072
69347
1.7416 0.4979
4.6884 8.6199*
I1.7049**
2−8886
13.9279**
3.4979*
Tabユθ6. 規準閻の差の検定結果
(tの値)
期 瑛
好き一ピクニック
間 性
ピクニック」ヒ学 実験
好き一菱叢
9 男 1.718 2,498* 4−215**
点 女 仙13** 195 4.2I9**
1
法 全 5,884** 2,733** 8,617**
カ 3 男 0.271 2534* 2,805**
月
点 女 3,717** O 3,765**
法 全 2,755** 1.968 4,722**
9 男 2,856** 1−305 4,161**
点 女 2,269* 1.316 3,584**
3
法 全 2,866** 1.450 4,316**
カ 3 男 2,197* O.867 3,064**
月
点 女 1.906 2,895** 4,802**
法 全 3,596** 1.666 5洲9**
(注) ** P<.O1 * P<.05
結果(3)選択の安定性における性差
Ta bユe7.は,男子と女子の選択変化得点平均尚の差(男一女)を表示したものである。これに よると,期問3ヵ月の場合には,規準・化学実験・の3点法を除くすべてに釦いて、女子の変化得点 は男子のそれより有意に低く(規準 好き 一9点法t二2,707.3点法t=3,584、規準・ピクニ ック・_9点法t=4,029,3点法t=3,167,規準・化学実験・一9点法t=3,415),女子の選 択の安定性がよりすぐれていることを示した。期尚1ヵ月の場合では,規準・好き・に拾いてのみ同 様を有意差が認められた(9点法t=2,884,3点法t:2,377)。
T abユθ7. 性差(変化得点平均の差)
期 尚 好 き ピクニック 化学実験
9点法 1,037** 山0.044 O.558 1ヵ月 3点法 O.277* 一〇、102 O,l13
9点法 1,062** O.974** O.843**
3ヵ月 3点法 0,471** 0445** O.I92
(注) ** P<.O1 * P<.05
表中の数値は,(男一女)
の偽
集結果【4〕選択の要定性と社会測定的地位
5月,6月,9月の3回にわたって実施したソシオメトリック・テストのそれぞれに拾いて各生徒 が得た社会測定的地位得点を合計し、その総点の高いものを各クラスから1O名ずつ合計40名をえ
らび出して社会測定的地位の上位群を構成した。同様に,その総点の低いものを各クラスから1O名 ずつ合計40名をえらび出して社会測定的地位の下位群を構成し九⊃Tabユθ8.ぱ,このようにし て構成された社会測定的地位の上・下位群の選択変化得点平均拾よびS Dを示したものである。これ によると,期尚1ヵ月,9点法による・ピクニック・,・化学実験・の2規準を除く他は,すべての 場合に拾いて社会測定的地位の下位群の選択変化得点平均が高くをっている。しかしをがら,統計的 検定にかけてみると,両群の変化得点平均間には有意差を認めることができをかっ烏
Ta b1e8 社会測定的地位と変化得点
上 位 群 下位群
期間 規 準 M SD M SD
好 き 3,90 2.29 4,68 2.62
1
9点法 ピクニック 4,73 2.48 4,63 2.52
化学実験 5,13 2.30 4−65 2.12
カ
好 き 1,10 0,75 1,38 0.94
3点法 ピクニック 1,28 0.89 1.30 I.00
月
化学実験 1,35 0.92 1,45 0.92 好 き 4,58 1.86 4,90 2.79
3
9点法 ピクニック 4,85 2.81 5.4⑰ 2.82
化学実験 4,83 3.69 5,40 2.70
カ
好 き 1,28 0.87 1,53 0.89
3点法 ピクニ.ソク 1,45 0.97 1,63 1.04
月
化学実験 1,45 0.32 1,70 0.87
IV 考 察
まず仮説1は十分支持されなかった。Ta bユθ1、にみられるように,この結果は予測された傾向を 示してはいるが,有意にそれが確証づけられたのは男子の3カ所のみであっね女子に拾いて全く有 意差が出現しなかったのは,結果制にも明らかをように,その選択の安定性が男子より高いためであ ろうと解釈される。全体として,この被験老の発達水準では,さらに長期(たとえば,6ヵ月,1カ 年)をへだてた安定性を分析してみることが必要であろうと思われる。
仮説2は,本研究で用いられた3個の規準に関する限りては十分支持されたといえるであろう。し
安定性が高い,といえるかどうかは,今後さらに多様を特殊的・具体的規準を用いた分析をまった上 でなければ,にわかに断定することはさし控えたい。
仮説3ぱ大体に拾いて支持されたといえよう。1ヵ月間隔てば規準・好き・に拾ける性差のみが 有意水準に達したに過ぎなかったが,3ヵ月間隔に在ると,3点法による・化学実験・における性差 がわずかに有意水準を逸した他は,すべて有意の性差が認められた。このようにして,女子は男子よ
りも,与えた選択がいっそう安定していることが明らかにをった。しかも,この性差は,1ヵ月ぐら いの間隔による分析てば必ずしも明確化し凌いが,3ヵ月間隔ではきわめて明白と在り.より長期問
(5ヵ月と1Oカ月)を隔てて同様を性差を認めた筆者の研究(1964)の結果と一致するものであ
る。