博 士 ( 農 学 ) 内 野 浩 克
学 位 論 文 題 名
テンサイの貯蔵腐敗に関する研究 学位論文内容の要旨
テ ンサ イ貯 蔵腐 敗病 の病 原糸 状菌 お よび 病原 細菌 の特定、これらによる菜根の品質 変化 、大 型バ イル にお ける 本病 の発 生 と微 生物 環境 の関係、および貯蔵腐敗病の制御 に関 する 研究 を行 った 。
1
. 貯蔵 腐 敗病 の病 原と 菜根 の品 質変 化貯 蔵 菜 根 に は
4
科19
属28
種 の 糸 状 菌 が 認 め ら れ 、 腐 敗 組 織 か ら12
属16
種 が 分 離さ れた 。菜 根表 面に 発生 する 糸状 菌 にか かわ らず 、内部の腐敗組織からはBotrytissp.
が高 率 で分 離さ れた 。接種試験の結果Botrytis sp.の病原性が最も強く、Fusariumsp.
、Penicillium sp.
お よびPhoma sp.
にも 明瞭 な病 原性 が 認め られ 、こ れら4
種 をBotrytis cinerea Pers. ex Fr.
、Fusarium culmorum (W. G. Smith) Sacc.
ヽPenicillium expansum Link ex Gray emend. Thom
、 お よ びPhoma betae Frank
と同 定し た。貯 蔵 腐 敗 病 罹 病 テ ン サ イ 、 灰 色 か び 病 罹 病 の
4
農作 物か ら分 離し たB. cinerea菌 株 は 、 全 てPDA
、 ―2
〜30
℃ で 生 育 し 、35
℃ で は 生育 しな か った 。1菌株 を除 き、 生 育最 適温 度は20
℃ であ った 。供 試し た 菌株 は全 てテ ンサイに明瞭な病原性を示した。手堀 収穫 した 菜根 では 、貯 蔵腐 敗病 の 病斑 がタ ッピ ングの部位に集中していたが、機 械収 穫に より 損傷 を受 けた 菜根 では 、 腐敗 個体 率の 増加とともに、全ての部位に病斑 が 出 現 し た 。
B. cinerea
の菌 叢 は角 皮感 染が でき ず、 菜根 の周 皮剥 離部 から のみ 感 染し た。 分生 胞子 接種 でも 同様 に傷 感 染が 可能 だっ たが、菌叢接種に比べると病斑は かな り小 さか った 。貯 蔵 腐 敗 病 に よ り 組織 が腐 敗 した 菜根 では 、根 中糖 分お よび
pH
が 明瞭 に低 下し 、 還元 糖が 顕著 に増 加し た。 ラフ ィノ ー ス、 プリ ック ス、全窒素も低下したが、カリウ ムお よび ナト リウ ムは 変化 しな かっ た 。罹 病菜 根を 、腐敗組織と未腐敗の組織に分割 し て 測 定 す る と 、 腐 敗組 織で は 根中 糖分 とpHが著 しく 低下 して いた が、 未腐 敗の 組 織で は、 これ らが 健全 な菜 根と 同等 の 値を 示し た。 菜根の腐敗面積と、根中糖分との 間に は高 い負 の、 還元 糖と の間 には 高 い正 の2次相 関が 認め られ た 。滅 菌し た菜根圧 搾汁 、ス クロ ース を炭 素源 とす る培 養 液にB. cinerea
ま たはP
.exl:,ansum
を接種す ると 、腐 敗菜 根と ほぽ 同様 の変 化が 認 めら れた が、 ラフィノースは低下しなかった。有機 酸で はク エン 酸が 顕著 に増 加し た 。
上 川地 方の 堆積 直後 から 常に 湿潤 な 状態 にあ るパ イルで、明らかな軟腐症状が出現 する こと を確 認し た。 埴土 、埴 壌土 お よび 砂壌 土畑 から土壌(畑土)を採取し、同時 に、 収穫 した 菜根 に付 着し 、パ イラ ー の除 土装 置に より除去される土壌(遊離土)を 採取 し、 これ らを 健全 なテ ンサ イに 塗 布し て貯 蔵す ると、埴土遊離土を塗布した時の み、激しい軟腐症状が出現した。症状の出現部 位からはグラム陽性球菌が分離された。
‑ 242
パ イ ル 内 で 軟 腐 症 状 を 生 じ た 菜 根 か ら 分 離 し た グ ラ ム 陰 性 桿 菌 は 、 夕 パ コ 葉 に 過 敏 感 反 応 を 生 じ 、Erwfnねcとuり 亡 〇 、 ′ 〇ra(JOneS)Bergey,HarriS0n,Breed,Hammerand Huntoonと 同 定 さ れ た 。 バ イ ル お よ び 土 壌 塗 布 実 験 に 用 い た 菜 根 か ら 分 離 し た グ ラ ム 陽 性 球 菌 に は 、 夕 バ コ に 過 敏 感 反 応 を 生 じ 、 ジ ャ ガ イ モ 塊 茎 お よ び テ ン サ イ 菜 根 に 明 瞭 な 壊 死 を 生 じ る 菌 株 が あ り 、 己euC〇noSf〇CmeSenfer〇fdeS(TSenkVSkii)Van Tieghemと 同 定 さ れ た 。 本 細 菌 に よ る 新 病 害 に 、 テ ン サ イ 口 イ コ ノ ス ト ッ ク 貯 蔵 腐 敗 病の病名を提案した。
パ イ ル 内 で 軟 腐 症 状 を 生 じ た 菜 根 は 、 糸 状 菌 に よ る 腐 敗 菜 根 と ほ ぽ 同 様 の 品 質 変 化 を 示 し た 。 滅 菌 し た 菜 根 圧 搾 汁 、 ス ク 口 ー ス を 主 な 炭 素 源 と す る 培 養 液 に 、L・ meSenferojdeSま た はE.car〇 め 、 ′ 〇raを 接 種 す る 時 も 、B.Cinereaま た はP. eX pansum接 種 時 と ほ ぼ 同 様 の 変 化 が 認 め ら れ た 。 し か し 、E.car〇 めv〇r a接 種時 に は ラ フ ィ ノ ー ス の 顕 著 な 低 下 が 認 め ら れ 、 有 機 酸 で は 、L.mesenfer〇jdes接 種 で D(−)―乳酸が特異的に増加 し、E.car〇f6v〇ra接種ではギ酸、D(−)一乳酸、L(十)―乳酸 お よびコハク酸が増加した。
2.パイル内に棲息する糸状菌 と環境
パ イ ル 内 の 菜 根 表 面 に 発 生 す る 糸 状 菌 に は 、5つ の 主 要 な 菌 叢 型 が 認 め ら れ た 。 Botrytis型 は パ イ ル の 全 て の 部 位 に 高 率 で 発 生 し た 。Penicimum型 も 全 て の 部 位 に 発 生 し た が 、Botヴtis型 に 比 べ て 平 均 発 生 率 は 低 か っ た 。 し か し 、 天 場 で の 発 生 率 は こ れ を 上 回 っ た 。Fusarium型 も 全 て の 部 位 で 観 察 さ れ た が 、 発 生 は か な り 少 な か っ た 。Cladosporium型 は 主 に 乾 燥 し た 側 面 に 、Geotrichum型 は 主 に 湿 潤 な 天 場 に 発 生 し た 。 バ イ ル 天 場 に お け る 糸 状 菌 発 生 個 体 は 、 堆 積15日 後 の11月 中 旬 か ら 認 め ら れ 、 以 後 、 漸 増 し た 。 発 生 す る 菌 叢 型 中 、BotWtis型 は11月 中 旬 か ら 認 め ら れ 、 漸 増 し た 。Penici11ium型 も 早 期 か ら 観 察 さ れ た が 、1月 以 降 に な っ て 漸 増 し た 。 Fusarium型 は2月 中 旬 以 後 に わ ず か に 発 生 し た 。C1adosporium型 は11月 中 旬 か ら 観 察 さ れ た が 、12月 中 旬 を 境 に 、 以 後 ほ と ん ど 観 察 さ れ な く な っ た 。Geotrichum 型 は 貯 蔵 期 間 の 前 半 に は 観 察 さ れ ず 、1月 中 旬 以 降 か ら 観 察 さ れ 、 急 増 し た 。 バ イ ル 天 場 の 空 間 内 に 浮 遊 す る 主 要 な 糸 状 菌 胞 子 はCぬ d〇sp〇num、B〇fry灯sお よ び Penjcjmumの3属 で 、Cぬdosp〇 numは 、 パ イ ル 堆 積 直 後 に は 構 成 比 の 半 分 を 占 め て い た が 漸 減 し 、 代 わ っ てB〇 打yfjSの 構 成 比 が 漸 増 し た 。BO打yfお の 構 成 比 と 、 パ イ ル 内 の 腐 敗 の 進 行 、 特 に 腐 敗 個 体 率 と の 間 に は 、 高 い 正 の 相 関 が 認 め ら れ た 。 底 辺22m、 高 さ4. 5m、 長 さ 約lOOmの パ イ ル を 、 平 均115日 間 貯 蔵 す る 実 験 を 、3力 年 行 っ た 結 果 、 パ イ ル 内 の 日 平 均 温 度 は3.5℃ 、 菜 根 の 腐 敗 程 度 は 、O〜5の 指 数 で 平 均0.20と な っ た 。 期 間 中 の 砂 糖 損 失 量 は 、 菜 根 が 含 有 す る 全 砂 糖 量 の5.5% に 達 し 、 日 平 均79g/t/dayと な っ た 。 腐 敗 程 度 、 砂 糖 損 失 量 と も 、 パ イ ル の 部 位 に よ り 大 き く 異 な っ た が 、 パ イ ル 内 温 度 と 密 接 な 関 係 が あ り 、 日 平 均 温 度 と 、 腐 敗 程 度 お よび砂糖損失量との間には 有意な正の相関が認められた 。
3.貯蔵腐敗病の制御
収 穫 し た 菜 根 を 、 短 期 間 に 最 大20% ま で 乾 燥 し て 貯 蔵 す る と 、 乾 燥 割 合 が 高 く な る に し た が っ て 腐 敗 が 激 し く な り 、 逆 に 、 長 期 間 に わ た っ て10% ま で 徐 々 に 吸 水 さ せ る と 、 吸 水 割 合 が 高 い ほ ど 腐 敗 が 減 少 し 、 根 中 糖 分 の 低 下 と 還 元 糖 の 増 加 が 抑 制 さ れ た。
手 堀 し た 菜 根 を 長 期 間 、 低 温 域 で 貯 蔵 し 、 呼 吸 お よ び 腐 敗 に よ る 砂 糖 損 失 量 を 比 較 し た 結 果 、 平 均9.3℃ で 貯 蔵 す る 時 の 、 呼 吸 に よ る 砂 糖 損 失 量 は59g/t/day、 腐 敗 に よ る 値 は 16g/t/day、 平 均4.5℃ で 貯 蔵 す る 時 は 、 各 々37g/t/day、12g/t/day
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と算出され、呼吸または腐敗による砂糖損失量とも、氷点に近づくほど抑制された。
殺菌剤および食品添加物による貯蔵腐敗病の防除効果を検討した結果、ジク口ラン とチアベンダゾールの効果が高く、両者では、ジク口ランが安定して貯蔵腐敗病の発 生と砂糖の損失を抑制した。
土壌133 点、菜根組織片36 点を材料に、3114 細菌株を分離し、B. cinerea とP . expans um の両病原菌に抗菌活性を有し、低温での生育が可能で、テンサイに対す る病原性がなく、かつ、選抜時のテンサイ葉根における根中糖分の低下の小さい Pseudomonas cepacja の5 菌株を得た。これらを処理した菜根を長期間貯蔵すると、
貯蔵腐敗病が明らかに抑制され、特にD −202 菌株では、腐敗株率および腐敗程度が、
無処理の3 分の1 まで抑制されたが、砂糖損失量を無処理より小さくすることはで きなかった。
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学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 教授 助教授
生越 小林 喜久田 近藤
学 位 論 文 題 名
明 喜六 嘉郎 則夫
テンサイの貯蔵腐敗に関する研究
本論文は、これまでほとんど研究のなかったテンサイ貯蔵腐敗病について、その病原糸 状菌および病原細菌の特定、これらによる菜根の品質変化、大型パイルにおける本病の発 生と徽 生物環境 の関係 、および 貯蔵腐 敗病の制御に関する研究をまとめたものである。
1.貯蔵腐敗病の病原と菜根の品質変化
貯蔵菜根 には4科19属28種の糸状菌が認められ、これらのうち12属16種は腐敗組織から も分離さ れた。中 でもめ びルム菌 が高率 で分離さ れ、菜根に対する病原性も強かった。
明らかな 病原性が 認めら れた糸状菌は4種で、めとげとおcinerea、Fusarium culmorum、 Penicillium expansumお よびPhomaぬtaeと伺定し た。テ ンサイお よび他作 物から 分離 した足cinerea菌株 は全て‑2〜30℃で生 育し、最 適温度 はほぼ20℃ で、35℃ では生育し なかった 。これら は全て テンサイに明瞭な病原性を示した。尻cinereaの菌叢および分生 胞子は、菜根に対して傷感染のみが可能で、両者の比較では菌叢の感染カがはるかに強か った。土質の異なる畑土、およびパイラーの除土装置により菜根から除去される土壌(遊 離土)を、健全なテンサイに塗布して貯蔵すると、埴土遊離土を塗布した時にのみ激しい 軟腐症状が出現し、グラム陽性球菌が分離された。軟腐症状を生じた菜根から分離され、
病原性の 認められ たグラ ム陰性桿 菌をErw由ぬ蝕mと〇m朋、グラム陽性球菌をZe口舶口D sC〇¢鯲印t帥刪 齬と同 定した。 五贓s印te朋州 おによる新病害に、テンサイロイコ丿ス 卜ック貯 蔵腐敗病 の病名 を提案し た。貯 蔵腐敗病 の罹病菜根、軟腐症状出現菜根、Ecむ B′醐、P餬卿S脚、五肥S餬£伽メ出Sまたは足飴r〇と〇レD.瓰を接種した圧搾汁または培 養液では、いずれも根中糖分およびpHの明瞭な低下と、還元糖の顕著な増加が認められた
。接 種 根 の中Ecむ8r餓 また はP齟卿 硲 肛 願の 接種 では、ク エン酸 が顕著に 増加し、 ム 卿餬t鮒ヱ,・(たぢの接種ではD(―)―乳酸が特異的に増加し、ゑc伽と〇m瓰の接種ではラフ イノースが顕著に低下し、比較的低分子の有機酸が増加した。腐敗菜根を、腐敗組織と未 腐敗の組織に分割して測定すると、根中糖分、pHの低下は腐敗組織でのみ認められた。菜 根 の 腐 敗 面 積 と 根 中 糖 分 ま た は 還 元 糖 と の 間 に は 、 高 い2次 相 関 が 認 め られ た 。 2.パイル内に棲息する糸状菌と環境
薬根表面 に発生 する5つの主要 な菌叢 型の中、Botrytis型、Penicillium型およびFusa 一245―
rium
型はパイルの全ての部位に、Cladosporiiun型は主に乾燥した側面に、Geotrichum型は 主に湿潤な天場に発生した。パイル天場において、Botrytis型は堆積直後から認められ、漸増し た。Penicillium型も 早期から 観察されたが、1月以降に漸増した。
Fusarium
型は2
月 中旬以 後にわずかに発生した。Cladosporium型は堆積直後から観察されたが、12月中 旬を境 にほと んど観察されなくなった。Geotrichum型は1月中旬以降から観察され、急増 した。パイル天場の空間内には主に Cladospor ium、BotrytisおよびPenicil liu挧の分生胞 子が浮遊しており、パイル堆積直後にはCladosporiumが構成比の半分を占めて。、たが漸 減し、 代わっ てBotrytis
の構成比が漸増した。めtrytJ期構成比と腐敗個体率との間には 高い正 の相関 が認められた。野外の大型パイルを、日平均温度3.5℃で平均l15日間貯蔵 した結 果、菜 根の腐敗 程度は0
〜5
の指数 で平均O
.20
、 期間中 の砂糖損失量は、日平均79g/t
/day
となった。パイル内温度と腐敗程度または砂糖損失量との間には有意な正の相 関が認められた。3.
貯蔵腐敗病の制御収穫した菜根を短期間に乾燥して貯蔵すると、乾燥割合が高いほど腐敗が激しくなり、
逆に、長期間にわたって徐々に吸水させると、吸水割合が高いほど腐敗が抑制された。手 堀した菜根を長期間、低温域で貯蔵した結果、呼吸または腐敗による砂糖損失量とも氷点 に近づくほど抑制され、平均4.5℃で貯蔵する時の値は、各々37 g/t/day、