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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

読譜学習に関する心理学的研究

著者 今井 靖親, 木村 順子

雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要

巻 19

ページ 115‑124

発行年 1983‑03‑23

その他のタイトル A Psychological Study on Learning to Read Musical Notes.

URL http://hdl.handle.net/10105/6535

(2)

読譜学習に関する心理学的研究*

今井靖親榊・木村順子*榊

(心理学教室)   (奈良市立平城小学校)

 現在の学校教育における音楽教育では、小学校1年生から楽譜つきの教科書を用いて学習する が、実際に音符の記号そのものの意味を理解して歌ったり、弾いたりするように指導されるのは、

小学校2年生からである。r学習指導要領」 (文部省、1977)の小学校2年生の部分を見ると

(2)内容一A.表現一の項に、「四分音符・八分音符などを理解し表現すること」とある。このよ うに、学習指導要領では、小学校2年生の四分音符から始まって、最終的には、ハ長調から二短 調の4つの調について、楽譜を見て歌う(視唱)または演奏する(視奏)が可能になる、ことが 目的とされているし、事実、教科書を通して、それに応じた内容を段階的に学習することが要求 されているのである。

 このように、r読譜能力」、すなわち、r楽譜に書いであるものを音楽として表現する。音程を つけて歌ったり、演奏したりすること。」(目黒,1966)を養うことは、今日の音楽教育の重要 な課題の1つなのである。

 しかしながら、小学校の段階から、児童・生徒に読譜能力をつけるための、さまざまな教授・

学習が行われているにもかかわらず、読譜能力がある、身についている、という者は少ない。今 井・奥(ユ978)は、読譜能力について、小学校6年生・中学3年生・高校2年生・大学2年生 の被験者に対し、ぺ一パーテスト(音符の名称と長さ、階名と調)、ソルフェージュテスト(リ ズム、音高、旋律、階名模唱、聴音)を用いて調査を行っている。その結果、11〕学年が進むにつ れて、リズムがよくとれるようになるが、知識として知っていても、実音化できないものが多い、

12〕ハ長調は階名素読できるが、実音化できない、13〕旋律(読譜能力を見るテスト)の正答率は、

小学校6年生で約2%、大学2年生でも約20%にすぎない、ことが明らかになった。この調査を 見ても、r読譜能力のある者」としては、小学生でいえば、ピアノを習っているごく限られた一 部の子どもたちが該当するだけであり、大人(学生)になっても非常に少ない、ということがわ かる。このデータは、前述したように、「読譜」が小学校の音楽教育の目的に掲げられているに もかかわらず、実際には、その学習がいかに困難な課題であるかを証明したものと言えよう。

 ところで、このr読譜」という行為を4つのプロセスに分析してみると次のようになる(相原 1975)。11〕メロディが歌える、12〕メロディを階名あるいは音名で歌える、13〕メロディが階名あ るいは音名に翻訳されて聞こえてくる、(4〕階名を音に翻訳する。音楽的には、(4〕の段階が、最終 的に真の意味のr読譜」であるということができるが、一般に、「読譜」できる者が少ないのは、

* A Psycholo鎮。al Study on Learning to Read Musical Notes一

神Yasuchika Imai(Department of Psychology,Nara University of Education,Nara)

淋* imko Kimura (Heiio Elementary Schoo1,Nara)

一u5一

(3)

上記の12〕と13〕の段階における学習を十分に積んでいないからである、と今井・奥(1978)は指 摘している。

 最近の音楽教育でも、たとえば、階名模唱を多くするなど、読譜能力を高めるための努力はな されているが、それに続いて、実際に音譜をどのように教えていくか、という指導法は、必ずし も明確には示されていないのが現状である。いっぽう、心理学の分野においても、教育心理学や 学習心理学の観点から「読譜学習」をとりあげた研究報告は、きわめて乏しく、たとえば、過去 約30年間に「教育心理学研究」に発表されたこの種の論文は、わずかに次の1つだけである。

 永野・上沢(1961)は、読譜能力の1つである、音符を見て楽器を弾く視奏能力について、

幼稚園年長児を対象に、色音符がオルガン学習にいかなる効果を及ぼすかを検討する実験をおこ なった。被験者を実験群と統制群の2つに分け、A旗遊び,B色ぬり,Cカラーノート,Dオルガ

ン弾き,の4つの段階について訓練した結果、色音符で訓練した被験者のほうが、普通の音符で 訓練した被験者よりも、早く正確にオルガンが弾けることがわかった。しかし、この実験におい ては、被験者が少なかったこと、たとえ彼らの提唱する方法が有効であるとしても、学習完了ま でに多くのプロセスと時間を必要としすぎること、の2点に問題が残されている。

 心理学的に言えば、五線上の音符という記号の位置とその名称,それの持っ音高,あるいは、

楽器の、たとえばオルガンやピアノであれば、鍵盤の位置、というユ対2の対連合学習がなされ た時に、初めてr読譜」ができたと言えるのである。ピアノを習っている子どもがよくr読譜」

できるのは、このような対連合学習を繰り返しおこなってきた結果であると考えられる。「読譜」

をこのようにとらえた場合には、そのレディネスとして、たとえば、音符の形の弁別と記憶,五 線の位置の弁別と記憶,数唱や数と物との対応,読字・語彙理解など,さまざまな能力が考えら れる。もちろん、このような諸能力は、音楽におけるr五線に書かれている音符を実音に変換す

る」というr読譜」の定義からすれば、かなり低次元のプロセスのものでしかないが、これらの レディネスに関連した何らかの学習を始めることは、4〜5歳の幼児期から十分可能であると言

えよう。

 そこで、本実験では、幼児・児童を対象として、r読譜」の視唱能力に至るレディネスの一部 として、音符とその読み(階名)における効果的な学習方法について検討する。具体的には、メ ロディの一部として音符を与える群(メロディ群)、音だけを与える群(単音群)、階名のみを 与える群(階名群)について比較する。また、補足的に、読譜学習と読字学習との関連について

も合わせて検討をおこなう。

実   験   I

方   法

 実験計画  11〕読譜学習方法の効果の検討  3x2x4の要因計画が用いられた。第1の要

因は学習方法の種類(メロディ群,単音群,階名群)、第2の要因は性(男,女)、第3の要因

は試行(第1試行,第3試行,第5試行,把持テスト)である。

(4)

 12膿達差の検討  2x2×4の要因計画が用いられた。第1の要因は年齢(幼稚園年長児,

小学校1年生)、第2の要因は性(男,女)、第3の要因は試行(第1試行,第3試行,第5試 行,把持テスト)である。なお、(ユ〕、12〕とも第1、第2の要因は被験者間の要因、第3の要因は 被験者内の要因である。

 被験者  奈良教育大学附属幼稚園と大和郡山市立南郡山幼稚園の年長児60名(男児,女児各 30名)、奈良教育大学附属小学校1年生20名(男子.女子各10名)。年齢の範囲は年長児5歳2 か月から6歳2か月・小学校1年生6歳2か月から7歳3か月。平均年齢は次の表1に示すとお

りである。

    表1 被験者の構成

メロディ群

幼 稚  園 年  長 児 単 音 群

階 名 群

小学校且年生

男 女

5歳9か月 5歳9か月 5歳9か月5歳9か月 5歳9か月 5歳8か月 6歳9か月 6歳9か月  材料 11盾階表カード  図1に示したように、1.8

㎝間隔の五線が書かれたユ6㎝×30㎝のカードに、ト音記 号とドからソまでの全音符が4.5㎝間隔に5個連続して 記されたものである。

 (2〕学習課題力一ド  図2に例示したように,1.8㎝

間隔の五線が書かれたカードに、ト音記号とドからソま    図1 音階表カード での全音符が1個ずつ記されたも

の5枚である。なお、メロディ群 では「ドレミドのうた」を用いた が、その譜例は図3に示されてい        廿

る。

 手続き  実験は被験者の所属      図2 学習課題カードの倒

する幼稚園または小学校で個別に行なわれた。被験者に氏名や年齢などを尋ねた後、学習課題力 一ドを1枚すっ提示し、音符を指さして、読めるかどうかを尋ねた。その結果、1つでも読めた 者は以後の実験から除外した。

 11廠講学習方法の効果1二ついて  ①音階に関する説明 音符の学習に入る前に、被験者に対 して音符に関する導入的な知識を与えるために、音符の説明が行なわれた。すなわち、音階表カ ードを被験者に提示し、各群に次のような教示を与えた。

 lajメロディ群及び単音群  rこれから音楽の勉強をしましょう。このカードを見てください。

線がたくさん引いてあるでしょう。その上に丸が並んでいますね。いくつ丸がありますか。5つ ですね。この丸を見て歌を歌うことができるのですよ。わたしが歌ってみるから、よく聞いてく ださい。」 実験者が音符を1個ずつ指しながら、ドからソまでの音階を歌い、さらに次のように

・一

P17一

(5)

      教示しれ r全部ちがった音が出たでしょう。今       日は○Oちゃんにこのような勉強をしてもらいま       すよ。しっかり覚えてくださいね。」

   ドドドドドしミレト ししレレ川≡レ    lb〕階名群  rこれから音楽の勉強をしましょ       う。このカードを見てください。線がたくさん引

      いてあるでしょう。その上に丸が並んでいますね。

  ミミl l1川1 い・,乃丙、し1片   いくつ丸がありますか。5つですね。この丸には       名前があるのですよ。わたしが読みますから、よ

       芦   く聞いてください。」実験者が音符を1個ずつ指

  リリ,、.ノン角、い  ㍉ 内 … レ   しながら、ドからソまでの階名を唱え、さらに次       のように教示した。「全部ちがった名前だったで

       しょう。今日は○Oちゃんにこのような勉強をし       てもらいますよ。しっかり覚えてくださいね。」

  ド  三レ  ド

       ②読譜学習 音階に関する説明に引き続いて読

  図3 譜例「ドレミレドのうた」   譜学習が行われた。被験者に学習課題カードを1 枚すっ提示し、音符を指しながら、各群に次のような教示を与えた。

 同メロディ群  「これは、ド、ド、ド、ド、ドレミレドのドですよ。歌ってください。」実 験者が歌い、被験者にrド」の音を模唱させた。レからソについても同様の教示を与え、学習さ

せた。

lb〕単音群  rこれは、ドですよ。歌ってください。」実験者が歌い、被験者に「ド」の音を 模唱させた。レからソについても同様の教示を与え、学習させた。

 lC〕階名群  「これは、ドですよ。言ってください。」実験者が階名を読み、被験者に模倣さ せた。レからソについても同様の教示を与え、学習させた。

 以上のような手続きで、音符5個の提示を1試行とする学習試行が続けて3回行われた。その 後、r今度はOOちゃんが先に歌って(または言って)ください。」という教示を与え、被験者 が読めるかどうかを5個の音符についてテストした。以上のようにして、学習3試行、テスト1 試行が交互に5回行われた。したがって、学習は全部で15試行、テストは5試行になる。学習課 題カードの提示順序を20通り作り、上言己の学習試行、テスト試行において、すべて異なった順序 で提示した。

 ③把持テスト  1週間後に把持テスト1試行が行われた。すなわち、学習課題カードを提示 し、次のような教示を与えた。「この問、音楽の勉強をしたね。どのくらい覚えられたかな。(

音符を指して)これは何でしたか。歌って(言って)ください。」提示順序は、読譜学習時の習 得第1試行のものが用いられた。

 12廃違差について  小学校1年生の被験者に対し、前述のメロディ群と全く同様の手続きで

①音階表の説明・②読譜学習,③把持テストが行われた。

 実施期間  1980年5月24日〜7月9日。

(6)

結   果

 採点方法  正答に対しては1点、誤答に対してはO点を与えた。

 学習方法の効果についての分析  図4は、各群の習得テスト及び把持テストにおける群別の 平均得点を示したものである。習得テストの成績について、群と性を被験者間の要因,試行を被 験者内の要因とする3×2x3の分散分析

       Hメロディ群

を行なった。その結果、試行の主効果が1点      ●・一…一・○単音群        3       ←一一一→階名群

%水準で有意であった(F=25.47,d∫=2 とユ08)。そこで、主効果の検定をおこな ったところ、すべての試行間に有意差が見        2

られれまた、群と試行の交互作用が5%

鶯了練1㌫繰111  //二∴\

               1       \

        ったところ、メロディ群で、すべての試行     γ       !.        \    ・!.       \       一〇

問に,また単音群で第1試行と第5試行の 間に,階名群で第1試行と第5試行の間に 有意差が見られ、さらに第5試行でメロデ

       第1試行    第3試行    第5試行   把持テスト

ィ群と階名群の問に有意差が認められた(      リ<.05

f=2.22,d∫=162,P<.05)。このほか   図4 1・3・5試行における各群の成績 群と性と試行の交互作用が5%水準で有意であった(F=2.93・d∫=4と108L

 次に、習得第5試行と把持テストを被験者内の要因として、3×2×2の分散分析をおこなっ たところ、群の主効果が5%水準で有意であった(F=4.02,d∫=2と54)。そこで主効果の横

1をお1な1たlll・メロl/111名点H1111111一一一一一一一一服11

111(111.ll,1/111,1/.1),14H年長幼朋子●…、、.....1年生男子 音群と階名群の間(ば22・d∫=54・P @    !チヘ

・…)に有意差が認めら仇  、  1/! \

 発達差についての分析  図5は、各年        ・  、        ミ・、

齢の習得テス1及び把持テス/における男 !/   、

       

女別の平均得点を示したものである。習得2     ・        !

テストの成績について一年齢と性を被験者    o!

間の要因,試行を被験者内の要因として2

×2×3の分散分析をおこなった。その結1 果、年齢と試行の主効果がそれぞれユ%水 準で有意であった(順にF=17.05,ψ二1

と36;F:36.22,d∫=2と72)。そこで、    第1試行  第3試行  第5試行  把持テスト 試行の主効果の検定をおこなったところ、    図5 メロディ群における成績

一119一

(7)

すべての試行間に有意差が認められた。

 次に、習得第5試行と把持テストを被験者内の要因として、2x2x2の分散分析をおこなっ たところ、年齢と試行の主効果がそれぞれ1%水準で有意であった(F=17.59,d∫=1と36;

F=15.97.d∫=1と36)o

 習得第5試行における各音符の読みについての分析  すべての群,年齢をこみにして、第5 試行において正しく読まれた音符の統計を求めたところ、rド」(55)が他の音符rレ」(33),r

ミ」(32),rファ」(31),rソ」(22)よりも有意に多い、という結果が得られた。

議   論

 11〕習得テストにおいて、習得第5試行のみではあるが、メロディ群と階名群に有意差が見られ、

統計的には有意でなかったが、第3試行における平均正答数も、メロディ群が階名群を上回って いる。このことから、メロディ群が階名群よりも成績がよいと言えよう。メロディ群と単音群に ついての比較でも同様のことが言える。また、メロディ群のみにおいて、習得テストの各試行間 にそれぞれ有意差が見られた。これは、メロディ群では、学習を重ねるごとに成績が上昇して行 ったことを示している。このように、習得テストのみを考えれば、メロディ群が学習能率がよく、

他の2郡よりも成績がよかった。すなわち、3つの学習方法の中では、メロディ群は効果的な指 導法であると言える。その理由として、次の2点を挙げることができる。第ユに、メロディ群で は、rドレミレドのうた」という子どもにとって有意味な材料を用いたため、子どもが興味を持 ち、学習意欲を高められたこと。第2に、階名群→階名,単音群→階名と音高,メロディ群→階 名と音高とメロディ,というように、メロディ群には他の郡よりも学習の手がかりが多く与えら れ、また同一の階名自体の学習量も多かったことである。

 習得第5試行の成績においては、メロディ群と階名群の間に差が見られたのに、把持テストに おける成績の比較では、両者に差が見られなかった。そこで、さらに把持率について調べてみた ところ、メロディ群63.4%,単音群78.8%,階名群72.0%であった。これらについて〆検定 をおこなったところ、メロディ群と単音群の問に有意差が認められた(κ2:5.77,ψ一ユ,P<

.05)。また、有意差がなかったとはいえ、標本値ではメロディ群は階名群よりも把持率が低い。

このことから、メロディを利用する方法は、学習しやすいが忘却もしやすい、という特徴がある と言える。

 次に、謀反応をr侵入」とr無答」に分けて分析してみたところ、侵入については、3つの学 習方法の中でメロディ群が最も多かった。これは、メロディ群がrドレミレドのうた」で、他の 学習方法よりも、学習時に多くの音を聞かされていたので、音符の名称同士に混同が生じやすか

ったためだと考えられる。メロディ群の把持テストにおける成績低下の原因のユつとして、侵入

数の多いことを挙げるべきであろう。無答については、習得テスト,把持テストを通じて 名辞

が最も多かった。これは、他の2群では、音高とかメロディのr音の意味づけ」によって、学習

が有意味材料の対連合学習になったのに対し、単音群では、そのような音の意味づけを欠き、学

(8)

習は、より困難とされている無意味材料の対連合学習になったためだと推測される。

 ②小学校1年生と幼稚園年長児とを比較してみたところ、習得テスト,把持テストを通じて、

前者のほうが後者よりも成績がよかった。1年生は年齢的には年長児とユ年の差しかないが、す でに音楽を教科として学んでいるうえに、記号や位置の弁別,記憶など、知的発達のレベルが高 いことを示している。

 (3〕男子と女子の性差は、どの群にも見い出されなかった。ただし、標本値は、平均正答数が年 長児男子1.18,同女子1.14,小学校1年生男子3.03,同女子2.67と、わずかに男子のほうが 成績がよい。また、単音群,階名群の女子は、学習の伸びが悪く、特に階名群女子は、習得第5 試行における成績が悪かった。全般的には男子のほうが学習効率がよかったと言える。

 一一般に、音楽の学習や国語の読みの学習においては、男子よりも女子のほうの成績がよい傾向 が見られるが、本実験では性差は認められなかった。その理由の1つとして、次のような推論が 可能であろう。本実験では、ピアノを学んでいない子どもが被験者として選ばれたが、現在、全 体的に男子よりも女子のほうにピアノを学んでいる子どもが多いことを考慮すると、本実験の被 験者(女子)は、音楽的にや、能力の低い者が選ばれているかもしれない。

 (4咽々の音符について検討してみたところ、rド」が他の音符に比べて最も成績がよかった。

他の音符は、五線上での弁別が必要であるのに対し、「ド」には加線(下線一線)が付されてお り、これが被験者に「横棒」がある記号として、特別な位置的・形態的手がかりを与えたためだ と考えられる。

 以上のように、本実験では、音楽でいう「読譜」の低次元の段階であるr音符の読み」に限定 をした「読譜学習」の効果的な指導法について検討した。その結果、①メ□ディ群、単音群にお いては、実験者が「わたしの歌ったように歌ってください」と教示したのにもかかわらず、学習 段階で音高をつけて歌った者、すなわち「読譜」した者は、全被験者を通して、わずか2名であ

ったこと,②また、階名群のように、音高をつけないr読み」においても、被験者には単なるr 記号の名称の記憶」以外に、記号の位置の弁別が必要とされたことの2点から、本実験における 課題は、年長の幼児にとってきわめて困難なものであり、それはまた、音楽でいう真の意味での

「読譜」が、いかに困難な課題であるかを示唆している。しかしながら、r読譜学習」以前に、

r階名模唱」の訓練を多く積んでいたならば、r読譜学習」の段階において、音高プラス階名の 読み一.という「読譜」も決して不可能ではなかったように思われる。

 ところで、1年生では、習得第5試行の平均正答数が3.70であり、約75%の者が学習できて いた。これは、幼稚園年長児から小学校工年生にかけて、すなわち5歳から6歳の時期が、r読 譜」のレディデスとしての「位置弁別能力」やr階名の読み能力」の獲得期であることを示唆し ている。前述したように、今日の音楽教育では、小学校2年生から読譜学習が行なわれるが、r 階名模唱」などに十分親しんでおれば、小学校1年生からでも読譜指導は可能ではないかと思わ

れる。

一121一

(9)

実   験   皿

目   的

 実験Iでは、幼児・児童の読譜能力について考察をおこなったが、音楽心理学者のMursell and G1eun(ユ938)は、読譜能力とr読み」(読字能力)を関連づけ、r読み」の際、人は単に 文字や単語としてではなく、フレーズや単語のまとまりとして読んでいるように、読譜能力を高 めるためには、音楽的に意味のあるフレーズ的表現に注意を集中させるような学習をおこなうと よい、という見解を述べている。しかし、彼ら自身による読字学習と読譜学習の関連性の実験的 検討はなされていない。また、従来の研究の中にも、「読字」と「読譜」の関連性を調べたもの は見当らない。そこで、本研究の補足実験として、r読字」と「読譜」の関係について実験的な 検討をおこなう。

方   法

 実験計画  読字学習,読譜学習の2要因についての実験が計画された。

 被験者  大和郡山市立南郡山幼稚園の年長兄工8名(男女各9名)であった。年齢の範囲は、

5歳3か月から6歳2か月であり、平均年齢は5歳9か月である。

 材料 ω読字学習  読字学習課題カード 図6に例示したように、5.O㎝×5.0㎝のカード に、ゴシック体で、字画数3の漢字r寸」、r士」、r也」、r千」、「与」がユ文字ずつ記されたも の5枚である。 12〕読譜学習 ①音階表カー

1貫1111㍗二=幾千与

 手続き ω読譜学習  実験Iの単音群に

おける手続きと同様に、①音階に関する説明、   図6 読字学習課題カードの例

②読譜学習、③把持テストがおこなわれた。 12庸字学習 ①読字学習 読譜学習の把持テスト に引き続いて読字学習がおこなわれた。まず、読字学習課題カードをユ枚ずつ提示し、文字を指 さして被験者に読めるかどうかを尋ねた。その結果、1字でも読めた者は以後の実験から除外し た。その後、カードの文字を指さしながら次のような教示を与えた。rこれから字の勉強をしま しょう。字の読み方を教えてあげますから、しっかり覚えてくださいね。これは『す』です。O

○ちゃん言ってください。」実験者が漢字を読み、被験者に模倣させた。なお、漢字は、次のよ うに清音一音節読みをさせた。 r寸」→「す」、r士」→「し」、r也」→rや」、r干」→「ち」、

r与」→rよ」。

 以上のような手続きで、文字5個の提示をユ試行とする学習試行が3回おこなわれた後、「今 度は○○ちゃんが先に読んでください。」という教示を与え、被験者が学習した文字を読めるか

どうかを、5個の文字についてテストした。こうして、学習3試行、テストユ試行が交互に5回

(10)

行なわれた。なお、学習課題カードの提示順序を20通り作成し、上記の学習試行とテストにおい て、すべて異なった順序で提出した。

 ②把持テスト ユ週間後、読譜学習と同様の手続きで、把持テストが1試行おこなわれた。

 実施期間  1980年6月2日〜6月22臥

結   果

 採点方法  読字学習,読譜学習とも、正答に対しては1点、誤答に対してはO点を与えた。

 読字能力と読譜能力の関連性 111ピアスンの相関係数 被験者の正答をもとにピアスンの相関 係数を算出した結果、読字学習と読譜学習の成績に相関が認められた (r=.5ユ,ψ=16,P

<.05)。 (2〕直接確率にもとづく検討 表2に示すように被験者を、①読字学習、読譜学習の        表2 読手能力と読譜能力の関連

読字学習成績高

説譜学習成績高  読譜学習成績低 計

1ユ

読字学習成績低

計 18

成績が両方とも高い者、②読字学習の成績は高いが、読譜学習の成績が低い者、③読譜学習の成 績は高いが、読字学習の成績の低い者、④読字学習、読譜学習の成績が両方とも低い者の4つの

グループに分け、直接確率を用いて関連の程度を調べたところ、有意な関連が認められた(P≒

.02)。なお、上記の成績の高低の基準には、読字学習3.27、読譜学習1.50の平均得点が用 いられた。

議   論

 本実験の結果により、読字学習と読譜学習には有意な相関があって、読字学習の成績のよい者 は読譜学習の成績もよく、読字学習の成績の悪い者は、読譜学習の成績も悪いことが明らかにさ れた。このように、読字学習と読譜学習の間に密接な関連が認められたが、これは2つの学習が

ともに記号とその読み(発音)との対連合学習である点に共通性があることを示唆している。

 ところで、わが国の学校教育では、普通、読字学習は小学校1年生から読譜学習は小学校2年 生から開始されるものである。寺でに読字学習については、福沢(1959),杉村(1974),今 井(1980)らによって、その有効な指導法として、r文字法」、「単語法」などの心理学的検討 がおこなわれているが、読譜学習についての研究は皆無の状態である。本実験の結果から示唆さ れたように、読字学習と読譜学習は全く別個な学習ではなく、むしろ、きわめて類似性・共通性 の高い学習活動であるとすれば、読譜学習についても、読字学習と同様に、もっと有効な指導方 法が研究されてもよいのではあるまいか。

一123一

(11)

要 約 と 結 論

 本研究の目的は、主として幼児の読譜学習における効果的な学習方法について検討し、補足的 に読譜学習能力の発達、読字学習との関連についても検討することであった。そのために2つの 実験がおこなわれた。

 実験I (1〕読譜学習方法の効果の検討 平均年齢5歳9か月の幼児を、メロディ群、単音群、

階名群に分け、ドからソまでの音符を提示し、その読みを模唱(模倣)させた。各被験者に対し て、学習3試行、テスト1試行が交互に5回おこなわれ、ユ週間後、把持テストがおこなわれた。

12〕発達差の検討平均年齢6歳9か月の小学生に対し、上記のメロディ群と同様の手続きで学習 がおこなわれた。主な結果は次のとおりである。①メロディ群が3群の中で最も成績がよかった。

②小学生のほうが年長幼児よりも成績がよかった。③男女差は認められなかった。

 実験Iより次のことが示唆された。(1〕メロディのような、子どもに学習の動機づけを与える有 意味材料は、読譜学習に有効である。12〕幼稚園年長児から小学校1年生までの時期に、音符とそ の読みの学習が可能である。

 実験皿  平均年齢5歳9か月の幼児について、読字学習と読譜学習の関連性が調べられた。

同一の被験者に、上記の単音群と同様の読譜学習と、漢字の清音一音節読みの読字学習がおこな われた。その結果、読字学習と読譜学習には有意な椙関があることが明らかにされた。

引  用  文  献

相原末治 ユ975 読譜指導の障害  子どもがわかる・できる授業を  音楽教育研究,4,

    44−5ユ.

福沢周亮 1959 国語学習の心理学的研究11〕 入門期における読みの学習指導法  日本     心理学会第23回大会発表論文集,W−30,1−2.

今井靖親・奥忍 1978 音楽 教科学習の心理学第皿部第5章,図書文化 125−150.

今井靖親 1980 文字指導の心理学的研究 保育学年報1980年版,187−198.

目黒三策(編) ユ966 標準音楽辞典 音楽之友社.

文部省 且977 学習指導要領.

Murse11,J.L。&Gleun,M ユ938 Educational Psycholgy of Music(供田武嘉津訳     1965 音楽教育心理学 音楽之友社).

永野重史・上沢慧子 1961 幼児のオルガン学習に及ぼす色音符の効果 教育心理学研究,

    9,92−100.

杉村健 1974 幼児における単語の読みの学習 教育心理学研究,4,44−51.

付記 本研究の実験に快く御協力くださった大和郡山市立南郡山幼稚園、奈良教育大学附属小

   学校一同幼稚園の諸先生方、児童、園児の皆さんに心から感謝いたします。

参照

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