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大学生の意見文コーパスから見た文章表現指導の課 題

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大学生の意見文コーパスから見た文章表現指導の課

著者名(日) 中尾 桂子

雑誌名 大妻国文

40

ページ 1‑19

発行年 2009‑03

URL http://id.nii.ac.jp/1114/00001321/

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja

(2)

大学生の意見文コーパスから見た 文章表現指導の課題

大学生の意見文コl

機械可読のために電子化した大規模なテキストの集合体を現在ではコーパス と呼ぶが,そのコーパスを用いた日本語の研究では,一般に,関心の対象がテ

キス卜そのものであるテキスト志向ム言語志向とに大分されるoテキスト志

向の研究ではテキスト自体の性格づけが目的となり,ある特定の文学作品や作

1.はじめに

品群の特徴をみるために研究の補助手段としてコーパスが利用される。言語志 向の研究においても補助手段ではあるが,いずれにせよ,コーパス利用により その手法自体の分析も研究対象となっている(石川 2008)。それはコーパスの 利用が「傾向Jに依存した分析であるからで,統計的手法や,着眼点の妥当性 にも配慮が必要なためである。

一般に,コーパスを用いた研究では,語葉索引や語集の頻度表を作成し,そ れを元に言語の体系や機能を分析するための手がかりを探す。いずれの場合も 語句の頻度や出現環境(使用法)などでコーパスの特徴を分析するが,コーパ スの位置づけ,検証の手法をはじめとして,条件や制約もあり,コーパスを用 いた研究には批判も多し、。代表的な批判としては,コーパスが全言語現象のう ちのごく限られた部分だけを見ることになるという点にある。英語コーパス研 究では,特定の文章の表面的な言語使用は種々の偶然的要因に左右されること が多く,それで言語の性質を一般化するのには賛成できないという指摘や,チョ ムスキーが言う「生得的な能力」である言語や文法の解明に理想的なデータは 母語話者の直感であり,コーパスでは人間に生得的に内在する文法を考察する

ことはできないというもの,さらに,機械処理では誤用を判断できないことか ら,理論的な文法研究で行われる文法性の判断は求められないという批判など

(3)

である(McEneryet al.,  2006

しかし,複数のテキストや観測観点,手法を工夫することで,実際の利用を 実証的に検討する場合は,内省よりも,より客観的な分析が可能である。また,

言語の定性的モデルに加えて,定量的モデル化も可能である。コーパスの利用 は合理主義的立場ではなく,経験主義的立場に立つ分析である。コーパス言語 学の位置づけを逸脱せず,コーパスの性質をよく理解して利用範囲を心得た上 であれば,効果的に実態を明確にすることが可能である(Leech1992,斉藤 1998)。特に,学習者の記述を集めた学習者コーパスは,これまで,経験的に は指摘されていたが,実証的には把握されていなかった誤用の傾向を明らかに し,それによって母語話者別指導ポイントをの指摘しており,教育に還元でき る有益な情報が多いという利点が指摘され(Leech1992, Granger 2008,石川 2008),日本語コーパス研究にも示唆的である。

言語能力を向上させる目的で産出される学習者の記述を電子化テキストデー タベースとして利用することが,学習者コーパスの利用と言われるのならば,

日本人学生が日本語能力向上のために記述したテキストデータも学習者コーパ スとして言語教育の問題分析に利用し得る。また,母語話者であっても,言語 表現の学習は,社会的地位の変化と共に,自律的に継続して学んでいく性質の ものである。表現活動の発展につながる教育的効果やその課題を考えるために は,母語話者が産出する作文コーパス,すなわち,母語話者のための学習者コー パスを作成し,その分析を通して,学習者の文章特性や,分野別語棄特性の一 般化を分析することは,意義深い。それは,言語の基礎調査をも含む結果が分 析から得られると期待できることにある。もちろん,昭和の初めからの大規模 調査によって明らかにされてきた基礎研究の成果も多いが,めまぐるしく変化 する言語の実態に応じて常に出来る限り明らかにしたものを準備することで,

通時的にも意義深く,且つ,現在の教育に貢献する資料を提供することができ るのである。

以上のような考えのもと,本稿では,ある特定の母語話者のための学習者コー パスを用い,その分析手法と結果について考察を行う。これは,母語話者のた めの学習者コーパスの有効性の提示を試みるケーススタディーである。

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2.大学生の意見文の分析

大学生の作文の分析を積み重ねていくことは,文章表現指導における様々な

課題のうち,指導シラパスの調整を行うことや,学生の表現能力測定方法やそ

のための指標を考える上で必要なことである。

そこで,本稿では,語葉特性を明らかにするための手法を検討しながらテキ

スト特性を明らかにするという目的で,大学の1年次生が選択必修として履修 Jo  する一般教養科目,「文章表現」において,言語表現能力向上の一環で練習す る意見型作文を分析し,日本人大学生が記述した文章の特性を考察する。 今回利用する作文は, B5サイズの用紙1枚に, 30分以内に平均300字程度

で,大学生のアルバイトの是非に関する意見を記述したものである。大学生に

は,事前に,①意見②理由,③根拠となる例,④主張意見の再表明の4つの

部分から構成されるように意見を記述するよう指導している。対象学習者テキ

ストは全部で84名分になる。テキス卜の概要を以下にまとめる。

採集時期:日本人の大学1年生のl年次終了時(1月

採集文:「大学生にとってアルバイトは重要か」に対する意見記述文 採集人数:84人分( 05年度: 45人+06年度:39

採集条件:90分授業内の3040分の時間で書くよう指示 400字程度記述可能なB5サイズの用紙1枚配布 記述の際の注意:・文章力評価用実力テストである

・学生の能力向上の状況を分析する

−指導内容へのフィードパックに利用する

被採集者の客観的実力:日本語文章能力検定協会の『日本語文章能力 検定問題集3級』の問題で,おおよその平均 80点程度1

テーマ,分量,記述時間,執筆者の能力が同程度で,さらに,ある程度,定 形の構成に基づき書かれていることで,使用語集への外因の影響をある程度小

さくしている。

(5)

3.大学生意見文コーパスの作成

日本語のコーパス作成では,日本語が分かち書きではないために,単語認定 処理を行う必要があるが,最近は,ある程度の精度上の問題は必然のものと無 視し,フリーの形態素解析システムを利用することが多い。

本稿での語葉リスト作成にも,日本語用形態素解析システムを利用した。今 回は,茶茎(以下, ChaSen2.2)を用いており,形態素判定や品詞タグ付与にお ける解析結果は,全てChaSen2.2のデフォル卜の出力に準拠するものである。

ChaSen2.2は,毎日新聞の記事で訓練されているため,新聞記事以外の形態 素解析はそれほど高精度ではなく,テキストの種類によっては正答率70%を下 回る精度となる場合もあり,厳密な差の判断には向かない場合もあるが,有意 差のある傾向について検証を行う程度には十分な制度で形態素を認識すること が可能であるため,大量データ処理を行うには,大きな影響はないとする。

単語認定解析後は,品詞タグに基づき,名詞,動詞

た実質語と助詞,助動詞,接尾辞といった機能語とに分けることや, 1文中の 文字数,文字キャラクタの種類を計上しているが,これには, perl5.0を用い,

正規表現を利用してテキストから該当部分のみを取り出している。

4.大学生意見文コーパスの全体像

語葉数は表1のようにまとめられる。語葉計上においては,記号,数字,フィ ラーを除外したが,全体の延べ語数に関しては,助詞,助動詞等を含む。

また, l人の学生が記述した文章の平均語数や段落,文数と,さらに, 1 中の平均単語数を計上した結果を表2にまとめる。

1:語数全体(84人分)

全体(機能語) 実質語(名動形副)

延べ語数 22,413 7.077 異なり語数 1,699 1,035 TTR(Type Token Racio)  7.58(%)  14.62(%) 

75.8 先o) 146.2

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大学生の意見文コーパスから見た文章表現指導の課題 2:平均語数,段落数,文数

1文中の平均単語数 23  段落数 文数

総語数

224  10 

220ほどの語を利用して書いて 300字〜400字程度の文章を,

2を見ると,

おり,多くが4段落で書いていることがわかる。また,平均して10文で記述し l文中平均単語数が23であるO 文の長さが,中央値を基準としてどの ており,

lbのようになる。

ように分布するかをグラフで見ると,図1a, 

laから,平均単語数が23語辺りであるという表2の内容が目視できるが,

lbから10語以下からの平均語数であることがわかる。今回のコーパス作成 ここであがってい に当たっては,文章全体が未完のものは除外しているため,

10語以下からなる文は故意に書いたものではない。

副詞 2のとおり,名詞,動詞,

コーパス全体の実質語における品詞数は,

の順に使用頻度が高く,接続詞や形容詞が続く。

テキスト全体の概略に意見文コーパスの特徴が見られるか,中尾(2006)で 調査した小学校教科書5教科6学年分の語葉データ2 (以下,教科書コーパス と樺島・寿岳(1965)の巻末資料にある近代100小説のデータと比較 と呼ぶ)

すると,若干の違いが見られた。

stogr am ofidnum

巨 三 ヨ

♀ 

1 80 

1b:  1文辺りの平均単語数の分布

40  60  岨門cm 20 

図1a:1文あたりの平均単語数中央値

(7)

大学生品調内訳は名詞,動 詞以下,副詞,接続詞,形容 調 と 続 く が , 教 科 書 , 近 代 100小説では,形容詞,副詞,

接続詞と続き,品詞構成比率 に違いが見られた。また,大 学生作文は一文中の平均語数 が23語である。教科書は13.6 語,近代小説平均(実質語)

数は11.3語であることからす

動筒 34% 

2:実質語の品詞内訳

名聞 55% 

ると,大学生の作文は1文中の語数が多く,教科書や小説に比べると長めであっ た。近代100小説でも教科書でも説明記述の多い文章であり,また,教科書と 小説に大差がないことから,特に発達的見地から見た差は影響ないとすると,

大学生の文章で1文の情報量が多いのは特徴的な点だと言えよう。

では,意見文コーパスでは,副調,形容詞,接続詞として,どのような語が 利用されているかを見るため,表3' 4'  5に上位1015程度の語をあげてみ

た(品詞はchasen2.2に準拠する)。

また,コーパス全体での高頻度語を上位30語まで表6に取り出してみる。動 詞や名詞が多いが,「しかし」「また」といった接続詞も交じっている。ごく限 られた語を多用していることが伺え,ある程度,決まった使い方をしているの ではなし、かと推測できる。

3:使用副詞(2回以上利用)

頻度 副調 頻度 副詞 頻度 副詞 頻度 副詞

24  まず 最も ずっと 果たして 14  ほとんど もし きっと 何とか 13  もちろん 同時に きちんと 12  やはり 沢山 あくまでも ほどほど

より 決して 本当に どれほど 特に 何かと 別に ちゃんと 単に 大抵 そのまま どうしても 次に 早くから 初めて 一度 現に いくら

(8)

4:使用接続調(2回以上利用)

頻度 接続詞 頻 度 接続調 頻 度 接続調 頻 度 接続調 49  また 14  だから なので では 49  しかし 11  よって だが したがって 31  そして 11  つまり ただ または 23  なぜなら 次に でも そもそも 20  例えば そこで

5:使用形容間(2回以上利用)

頻度 形容詞 頻 度 形容詞 頻 度 形容詞 頻 度 形容詞 42  ない 楽しい ほしい 無い 38  多い 欲しい ありがたい 早い 28  良い 大きい 辛い 強い 14  LL 新しい 若い 安い 13  よい 難しい 広い 悪い

上手い 局い 近い よろしい 少ない 長い うまい すごい 厳しい 軽い 淋しい しんどい

6:高頻度実質語

単 語 品調 頻 度 標準偏差 標 準 化

する 動調/自立/ 628  28.29  21.96  思う 動調/自立/ 248  20.66  11.68  大学生 名詞/一般/ 268  220.63  1.18  なる 動詞/自立/ 226  220.53  0.99  自分 名詞/一般/ 167  220.43  0.73  できる 動調/自立/ 187  220.48  0.82  お金 名詞/一般/ 169  220.52  0.74  社会 名詞/一般/ 194  220.57  0.85  考える 動詞/自立/ 112  220.61  0.48  10  名詞/一般/ 115  220.69  0.49  11  名詞/代名詞/ 134  220.78  0.58  12  ある 動詞/自立/ 118  220.85  0.50  13  働く 動詞/自立/ 97  220.93  0.41  14  出る 動詞/自立/ 87  221.03  0.36  15  大学 名詞/一般/ 121  221.12  0.52  16  いう 動詞/自立/ 88  221.20  0.37  17  名詞/一般/ 67  221.30  0.27  18  わかる 動調/自立/ 37  221.40  0.14  19  稼ぐ 動詞/自立/ 60  221.51  0.24  20  それ 名詞/代名詞/ 55  221.61  0.22  21  学 生 名詞/一般/ 55  221.71  0.22  22  理由 名詞/一般/ 47  221.82  0.18  23  時間 名調/副詞可能/ 48  221.93  0.19  24  しかし 接続調/ 49  222.03  0.19  25  Jレノ〈イト 名調/一般/ 45  222.14  0.17  26  ない 形容詞/自立/ 42  222.24  0.16 

大学生の意見文

パスから見た文章表現指導の課題

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27  知る 28 29  また

32  U

動詞/自立/

名詞/一般/

接続詞/

動詞/自立/

但 一 ωω

一 必

222.35  222.46  222.57  222.68 

0.15  0.15  0.19  0.16 

また,語がどのような組み合わせで使われていたかを見るため,[名詞ー助詞ー 動詞]の組み合わせの連語で見た高頻度表現を上位30語 ま で を 表7に取り出し た 。 表7を見ると,同義語や類義語が多いことがわかる。表6までで観察され ているように,決まった内容をごく限られた表現で繰り返し利用しているよう すが伺える。

7: [名詞−助調−動調]コロケーション上位30

順 位 頻 度 名詞 助詞 動詞 順 位 頻 度 名詞 助詞 動詞 1  170  Jレノ〈イト する 16  10  お金 もらう 92  こと できる 17  勉 強 なる 66  社会 出る 18  社会 A..  出る 31  お金 稼ぐ 19  わかる 22  っける 20  お金 かせぐ 20  ノてイト する 21  大学 入る 19  ょう なる 22  付く 15  おろそか なる 23  一人暮らし する 13  仕事 する 24  アルノてイト 始める 10  12  いる 25  こと fJi  ある 11  12  なる 26  必要 fJi  ある 12  12  知る 27  小遣い もらう 13  11  大学生 なる 28  入れる 14  10  勉 強 する 29  自分 働く 15  10  考える 30  自分 稼ぐ

さらに,テキストの内容,学生の思考を考察するために,テキスト特徴を調 べる上で目を向けるような特性があるか,目視で把握するためにテキストマイ ニングシステム TextMining System3.0.4(以下, TMS)を利用して,語の 関連性や特徴語,その男女差を調べてみた。

3は,語のコロケーション関係をネットワーク図に視覚化したものである。

語と品詞から見た共起度の高さ,並びに,係り受け頻度で話題のまとまりを塊 で 視 覚 化 し た 。 図3を見ると,「アルバイト」,「大学生」,「社会」,「お金」,

(10)

3:コロケーションで視覚的に分類した話題別の語の関連性

「仕事」,「人」,「親」という語が,語集群,すなわち,語の塊を形成している ことが見て取れるが,この小語葉群は,線と矢印で群中のそれぞれの語の結び つきの強さが示される。矢印と線で示される語群から,語の関連性が伺え,そ れにより,思考の流れ,ならびに,物事に対する位置づけが,ある程度客観的 に示される。

例えば,「アルバイト」は多くの語と関連を持ちつつも,ある程度決まった 語とセットで利用されているのであるが,それが,表現という字面だけではな

し意味や機能的に結び ついている様子が矢印と線で視覚的に捉えられる。

3では,「アルバイト」を説明するために,「両立」「熱中」「面接」「行為」

「意義」「本末転倒」といった語が使用されていること,「大学生」は,「自己責 任」や「重用」,「日本J,「労働者」によって説明されており,「社会」は,「人 間」「役割」「職種」「手前」などといった語と関連があることが見て取れる。

「お金」は「条件」「労働」「娯楽代」「すごい」「実感」といった語と関連が深 く,「親」は「支援がない」「すねかじり」「負担」「よくない」などの語と関係

大学生の意見文

fスから見た文章表現指導の課題

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70  60  50  40 

30  20  10 

N r

ム士tl;態 組 制4<!Htt! ~話$翻~但ユ ~R/3lwot司跡

i~ 騨銀朴響勾咽控埠喜納動器叩君栂管制制 r::  1111日 記

4:頻度2回以上で好評な印象を与えられている語

10 

2

がある。「仕事」は,「まじめ」「達成感」「責任感」「辛いJとともに利用され ていることがわかる。

つまり,労働と アルバイトは勉強との対比で捉えられるもの,

これらから,

として考えられており,大学生と労働者とは異なる いうより勉強(社会勉強)

アルバイトとは一線を まじめに取り組むもので,

さらに,仕事は辛く,

こと,

ただし,労働者と仕事は社会とは別に捉えられていて,社会と 引かれている。

ある種概念的なものとして受け捉えているようである。お金を得る いうのは,

お金を管理する親に頼っているのは良く ことに対する感動が伝わり,同時に,

ないと考えられているようである。

TMSの内部辞書に「良い」イメージで登録されてい 4の縦軸O以上は,

る語を参照してテキスト内の語どうしの係り受けから判断される好評名詞と形 容詞の利用状況を現している。特徴的なもの以外は考慮しないが, 高頻度の

10 

「アルバイト」が「大学生」にとって好評な語であるということが明確である。

先の図3から判断された「アルバイト」に対するほどほどに熱中すべき取り組

(12)

みの対象というイメージが肯定的に捉えられていることを示している。

以上, TMSを利用して視覚的に全体を見てみたが,語の使用の均質性が,

内容の面からも確認できた。内容に関しては,お金が必要で,アルバイトを始 ti 

める(する,仕事をする)が,それは,お金が稼げることと,親の負担が減る

ということで肯定されるものであり,さらに,新しいことがわかるもの(社会 勉強)である。そして,アルバイトは労働とは異なり,勉強であることから,

真の辛さとは異なるが,その経験を通して,辛い社会に出た時に必ず役に立つ

ものだという捉え方があることがわかるが,また,その一方で,(大学の)勉

強がおろそかになることに対する否定的な意見を持ちがあり,あくまでも,勉 強が大事で,その一環にアルバイトが位置づけられており,お金儲けの利点に 感動を覚えながらも,それは二の次に位置づけていることがわかる。

文脈は人により,若干の個人差があるものの,多くの学生の文章は直裁的で 無個性な流れをとっている。すなわち,①お金が必要二争②アルバイトを始める

(する,仕事をする)二争③お金が稼げる今④親の負担が減る今⑤新しいことが わかる(社会勉強)特⑤(大学の)勉強がおろそかになるというもので,④と

⑤の聞は,逆説的に扱われ,④までとは反対の欠点であることから,それに気 をつけようという流れを形成している。

5.  CEEJUSとの比較

意見文コーパスの文脈に対する分析が妥当かどうかを客観視するため,石川 (2008)が行ったエッセイ分析と比較する。これは,日本語話者が英語で大学 生のアルバイトの賛否について書いた文章に,語葉テストの結果を加え,

CEEJUS  (Corpus  of  English  Essay  written  by  Japanese  University  Student)というコーパスにまとめて公開されているものである(石川HP

このエッセイも,本稿の意見文と同じく,テーマ,時間,量,注意が統一さ れた条件の元で記述されているO 石川(2008)の学生の日本語の能力は不明で

11  あるが,英語の能力は,中上級だとされる学生で,学校の偏差値で言うと,本 稿の日本語作文の記述者とは10以上の差で上回る。

石川(2008)の分析によると,日本人学生に特徴的な過剰使用語が指摘され

(13)

12 

ると言う。過剰使用されるものを,表8にまとめる。

8:過剰使用項目

過剰使用項目

1人称構文(We,I)  think Wecan  

It is構文(Itis  for)+ 主主i ihmaprodrtanbtadgoodpossiblneecesnasaruyraldiftfircuuelt 

接続詞 somoreoverbut:談話的機能果たさず Should構文

焼曲助動調の過小使用と相補

(義務の主観的,直接的主張)

縮約形 "t sdon   基本動詞文 getdoE want  

石川(2008)は,この過剰使用を母語干渉が原因だと言っており,また,英 語の能力は高く,時聞が余っているにもかかわらず,意見型エッセイのセオリー どおりの構成で,最低限の内容しか書かず,かっ,非常に,直裁的であると指 摘している。また,より高度な表現や語葉の使用が可能であるにもかかわらず,

意見型のエッセイでは能力を抑えて画一的なレベルにそろえられているという 現象も指摘している。

こちらは英語でのエッセイではあるが,日本語の記述との成績の違いにもか かわらず,意見文の文脈が簡素で直裁的である点が共通している点は,興味深 い。個人の能力とは異なった別のファクターが文章表現においては影響するこ とも予測されるためである。

以上, CEEJUSの分析結果は,本稿の分析結果と似ていることから,日本 人は意見型作文を書く場合に,外国語にも干渉を及ぼすほどの,ある種の文脈 の柳のようなものの存在があることが伺えた。これにより,意見文コーパス分 析の妥当性が判断できるだろう。

6.男女差

日本人学生の意見文コーパスから,男女同数に合わせて縮小し,使用語葉や 語句に男女差があるかどうかTMSで調べてみたが,優位さのある結果は得ら

れなかった。そこで,特徴語を抽出してみた。

(14)

M 両面面

,,̲,,̲ 

5a,図5bは,男女それぞれの学生の作文に特徴的に表れる語を示して

z e  

\ ︑

\ ︑

. 

\ ︑

図5a:女子学生テキス卜に高頻度の語図5b:男子学生テキス卜に高頻度の語

いる。図5は,折れ線が全体との関係を現しており, 2本の棒のうち,右側が 全体頻度,左側が属性頻度,すなわち,男性(または女性)を指している。男 女差を比較する上で,どちらのデータも語葉数を同数にそろえており,データ は標準化されている。図は指標の折れ線の高い部分の下の棒で全体のうち男女 属性値がどの程度を占めているかで特徴を判断するO

5aを見ると,女子学生は,「お金の大切さ」に関して言及していること が特徴的であると言えそうで,図5bを見ると,男子学生特有の特徴は明確と は言えないものの,「大学生に重要」であることや「アルバイトが重要」であ ることを必ず言及することが伺えることから,つまり,タイトルの繰り返しが 含まれていることが特徴的な点かと考えられる。

全体的に,本稿の意見文コーパスの女子学生は慣用的な語句の単調な繰り返 しがあり, トピックも画一的であると考えられる。また,同様に,今回の意見 文コーパスの男子学生は,タイトル中に含まれる語句を使用することが多く,

思考自体が個人的なスタンスによるため,バリエーションがあると考えられる。

13  以上から,若干ではあるが,使用する語集に男女差というものが存在し,そ れは,どちらかというと文脈の流れや内容における着眼点の差と言えるものか もしれないし,また,今回のコーパスにのみ見られる傾向かもしれないため,

(15)

さらに別のデータとも比較検証を行う必要がある。

作文分析でその学生の状況を判断することができるのはわかったものの,結 果については偶然の範鴎のものかどうかをよく見極める必要がある。学生へ還 元するための教育的配慮を検討する場合は,学期中に数回,定期的に分析を行 い,そのコーパスの男女の傾向を見極めた上で指導へと結び、つけることが必要 である。複数の実証的データを積み重ね,他のコーパスとの比較を積み重ねて いかなければならない。

7.意見文コーパスから見た指導における留意点

教科書コーパスや近代小説100のデータと比較して単語を品詞構成から見る と,目立つほどではなかったが,副詞,形容詞,接続詞の割合が異なっていた。

副調の詳細としては,表3にあるように,高頻度の副調には,「まず」「ほと んど」「もちろん」「やはり」「より」「特に」等,読者を意識して談話を進める ための語が多かったが,同時に,低頻度で多様な口語的表現の程度副詞が利用 されていることがわかった。また,接続調には,表4にあるように,「しかし」,

「そして」,「なぜなら」,「例えば」,「だから」,「よって」,「つまり」,「次に」,

「そこで」など,論理的な談話展開で利用される語が多かった。副詞と接続詞 の頻度,異なり語数を比較すると,接続調は特定の語を何度も利用しているこ とが多く,副詞はバリエーションがあった。

以上から,大学生の作文では,論理的で構成に配慮した文章を書こうとはし ているものの,どちらかといえば,読者の視線を意識するほうが勝っているよ うで,読者への語りかけが口語的で,使用語棄が人により多様であることが見 て取れる。このことから,意見文の構成は遵守されてはいても,言葉遣い,す なわち,語柔の使用が口語表現そのままで記述されている傾向があると言える。

また,テキスト中の語の関係から内容を見ると,学生の思考の流れが伺えた が,「アルバイト」,「大学生」,「社会」,「お金J,「仕事J,「人」,「親」といっ 14 

た特定の語を中心に語集群を形成していたことから,決まったトピックで,決 まった内容が記述されていること,つまり,均質な内容であることが明らかに なった。

(16)

「アルバイト」「両立」「熱中J「面接」「行為」「意義」「本末転倒」とし、った 語が使用されており,「大学生」は,「自己責任」や「重用」,「日本J,「労働者」

によって説明される。また,「社会」は,「人間」「役割」「職種」「手前」など

L

といった語と関連があり,「お金」は「条件」「労働」「娯楽代」「すごい」「実

感」といった語と関連が深く,「親」は「支援がない」「すねかじり」「負担」

「よくない」などの語と関係があった。「仕事」は,「まじめ」「達成感」「責任 ~

感」「辛Lリとともに利用されることから,アルバイトは勉強との対比で捉え I~

られるもの,つまり,労働というより勉強として考えられており,大学生と労

働者とは異なること,さらに,仕事は辛く,まじめに取り組むもので,アルパ イトとは一線を引かれ捉えられていることがわかる。ただし,労働者と仕事は

社会とは別に捉えられていて,社会というのは,ある種概念的なものとして捉

えているようであるoまた,お金を得ることに対する感動が伝わり,同時に,

お金を管理する親に頼っているのは良くないと考えられていた。

語の使用を共起語や関連性という観点から見ると,大学生は,決まった語句 を何度も利用し,お金が必要で,アルバイトを始める(する,仕事をする)が,

それは,お金が稼げることと,親の負担が減るということで肯定されるもので あり,さらに,新しいことがわかるもの(社会勉強)だという捉え方が明確で あった。そして,アルバイトは労働とは異なり,勉強であることから,真の辛 さとは異なるが,その経験を通して,辛い社会に出た時に必ず役に立つものだ とするが,また,その一方で,(大学の)勉強がおろそかになることに対する 否定的な意見を持ちがあり,あくまでも,勉強が大事で,その一環にアルバイ トが位置づけられており,お金儲けの利点に感動を覚えながらも,お金は二の 次に位置づけているという流れが明確になった。

そして,この傾向は, CEEJUSとの比較により,日本人大学生にある程度 共通の画一的な特徴であることが伺えた。日本人大学生は,大学生とアルバイ

トに関連する平均的な思考形態というものがあり,また,その画一性から,話 の進め方のベースは直裁的で無個性な流れをとっていた。

一方,品詞構成比率と文長に差が見られたこと,さらに,記述内容の等質性 から,本稿で分析した大学生の意見文の傾向が,ある程度ではあるが,明らか

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になった。これにより,大学生には,形式上の技能向上と論理,思考面を深く する指導がさらに必要で,かっ,両方をふまえた上で自分の意見を表現する訓 練に十分な時聞が割けるよう,指導者はコースデザインやシラパスの改善,検 討を繰り返す必要があると考えられる。

文章中の語嚢から,品詞と語構成,談話トピックと談話構成の傾向が現れて いることが把握できたが,今回本稿で明らかになったことが,直ちに,意見文 一般に見られる特徴かどうかはまだよくわからない。今後,さらに,テーマを 変えた意見文コーパスを作成するなどにより,意見文としての特徴を検証する 必要があるだろう。

また,作文分析は,学生の文章の実体解明に役立つと考えられるが,教育的 配慮を検討する場合は, 1度だけの調査ではなく,指導開始前,開始後も,終 了後も,ある程度定期的に分析を行うべきである。記述者の傾向を見極めるこ

とが,その記述者への効果的な指導に結び、つくことによる。

8.文章表現という科目が内包する課題

言語活動は,言語使用者そのものを現すものであることから,ことばを用い た表現は,思考,感情を効果的に表現し,運用するということに主眼が置かれ てきた'o しかし,大学新入生の書く文章に,個性や創意工夫を取り扱う以前 の問題として位置づけられる,文法的な問題が増え,伝達という技能的な能力 が不十分であるという点が危ぶまれるようになってきたら結果,現在,多く の大学で,アカデミックライティングに主眼を置いた文章表現教育が必須,ま たは,准必須の扱いで履修が義務づけられるようになってきているら

しかし,この「文章表現」という科目がどのようなものかの認識は一様では なく,文章で思考を表現する訓練が目標なのか,思考を表現するときの決まり を表現目的に応じて学ぶことが目標なのか,そもそもの思考活動を文字化する ことが目標なのか,その辺りが漠然としている。

また,書き方の規則を教えることは専門家を必要とするような指導教科では ないとして,必ずしも大学の方向性を理解しているとは限らない若手講師や外 部の非常勤講師にゆだねられる場合が多く,コースの達成目標や評価基準にお

表 4 :使用接続調( 2 回以上利用) 頻度 接続詞 頻 度 接続調 頻 度 接続調 頻 度 接続調 4 9  また 1 4  だから 7  なので 3  では 4 9  しかし 1 1  よって 5  だが 3  したがって 3 1  そして 1 1  つまり 5  ただ 2  または 2 3  なぜなら 9  次に 4  でも 2  そもそも 2 0  例えば 8  そこで 3  又 2  = ヵ 表 5 :使用形容間( 2 回以上利用) 頻度 形容詞 頻 度 形容詞 頻 度 形容詞 頻 度 形容詞
図 3 :コロケーションで視覚的に分類した話題別の語の関連性 「仕事」,「人」,「親」という語が,語集群,すなわち,語の塊を形成している ことが見て取れるが,この小語葉群は,線と矢印で群中のそれぞれの語の結び つきの強さが示される。矢印と線で示される語群から,語の関連性が伺え,そ れにより,思考の流れ,ならびに,物事に対する位置づけが,ある程度客観的 に示される。 例えば,「アルバイト」は多くの語と関連を持ちつつも,ある程度決まった 語とセットで利用されているのであるが,それが,表現という字面だけではな し
表 8 :過剰使用項目

参照

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