独 占禁止 政策50年 とカル テル規制
和 田 健 夫
は じめ に
「私 的 独 占 の 禁 止 及 び 公 正 取 引 の 確 保 に 関 す る法 律(以 下 「独 占禁 止 法 」)」は , 1947年 に制 定 ・施 行 さ れ て 以 来 今 年 で50年 目 を迎 え る。 本 稿 は,独 占 禁 止 法 運 用 の な か で 中心 的 地 位 を 占 め て きた カル テ ル規 制 を 回顧 す る もの で あ る。まず, カ ル テ ル規 制 に 関 す る 規 定 の 変 遷 につ い て 説 明 し(1),資 料 に よ って カ ル テ ル規 制 の傾 向 を簡 単 に 分 析 した 後(ll),カ ル テ ル規 制 に 関 す る い くつ か の 課 題 ご と に,状 況 を 明 らか に しつ つ 今 後 の 問 題 点 につ い て検 討 す る(皿)。
1規 定 の変 遷
1.規 制 の は じ ま り
戦 前 の 日本 は カル テ ル の 母 国 で あ っ た 。 大 企 業 体 制 の も とで 形 成 され は じめ た カ ル テ ル は,財 閥 と と も に,昭 和 初 期 の 大 恐 慌 を境 に政 府 の 保 護 を 受 け飛 躍 的 な発 展 を遂 げ た 。 そ して 、1931年 の 重 要 産 業 統 制 法,1925年 の 重 要 輸 出 品 工 業 組 合 法 及 び輸 出 組 合 法(こ れ らは い ず れ も強力 な ア ウ トサ イ ダ ー規 制 を と も
な っ て い た)を は じめ とす る多 数 の統 制 立 法 に よ っ て,カ ル テ ル は次 第 に政 府
*本 稿 は,日 韓 比 較 法 文 化 研 究 会 で の 報 告(1996年2月26日,延 世 大 学,ソ ウ ル) 及 び 公 正 取 引 委 員 会 に よ る 日本 の 独 占 禁 止 政 策50年 に 関 す る 調 査 研 究 第2回 検 討 委 員 会 で の 報 告(1996年6月14日,関 西 経 済 研 究 セ ン ター,大 阪)に 加 筆 ・修 正 を 加 え た
も の で あ る 。
〔23〕
の経 済統 制 の手 段 と して機 能 す る よ うに な っ た。 戦 争 中 は,国 家 総 動 員 体 制 の も とで 強 固 な組 織 的 基 盤 を与 え られ,統 制 会,統 制 会社 と して,日 本 経 済 を網 の 目の よ う に覆 い つ く した1)。
戦 後 の 占領 軍 総 司 令 部 に よ る経 済 民 主 化 政 策 は,カ ル テ ル に 対 す る戦 前 の 法 的 ・経 済 的 政 策 に180度 の 転 換 を もた ら した 。財 閥解 体,過 度 経 済 力 の 集 中排 除 と と も に各 種 の私 的 統 制 団 体 の解 散 が徹 底 的 に行 わ れ た2)。1947年 制 定 の 独 占 禁 止 法(以 下 「原 始独 占禁 止 法 」)は カ ル テ ル を厳 格 に規 制 し て い た 。ま ず2条
4項(現6項)・3条 後 段 にお い て 「不 当 な取 引 制 限」 を 禁 止 し,関 連 して4条 で は,価 格 の 決 定,数 量 の 制 限,顧 客 ・販 路 の制 限 等 の 「特 定 の 共 同行 為 」 を,競 争 に対 す る 影 響 が 問 題 とす る程 度 に至 らな い 場 合 を 除 きそ れ 自体 と して禁 止 し て い た 。 さ らに6条 は,4条 が 規 定 す る共 同 行 為 を 内容 とす る 「特 定 の 国 際 的 協 定 又 は 契 約 」 を 国 際 取 引 又 は 国 内 取 引 の 一 定 の取 引 分 野 に お け る競 争 に対 す る影 響 が 問 題 とす る 程 度 に至 ら ない 場 合 を除 い て締 結 し て は な ら ない こ と を規 定 し て い た 。 ま た,5条 は 「私 的 統 制 団 体 」 の 設 立 及 び参 加 を禁 止 して い た 。
1948年 に は原 始 独 占 禁 止 法 を補 完 す る 「事 業 者 団 体 法 」が 制 定 され た。同 法 は, か つ て事 業 者 団 体 が統 制 団 体 と して 発 達 し,競 争 制 限 的 な機 能 を 果 た して い た こ と か ら,そ の 活 動 を法 に よっ て 規 制 す る こ とを 目的 と して い た 。 同法 は,あ ら ゆ る 形 態 の 結 合 体 を 「事 業 者 団 体 」 と定 義 し(2条),こ れ に 公 正 取 引 委 員 会 へ の 届 出 義 務 を 課 し(3条),10項 目 の 許 容 活 動(4条)と18項 目の 禁 止 行 為(5条)を 規 定 して い た 。 禁 止 行 為 に は,競 争 制 限 に至 る 以 前 の段 階 で 規 制 す る予 防 的 な 規 定(こ の なか に は 競 争 政 策 上 中 立 的 な性 格 の 行 為 を 禁 止 す る規 定 も あ っ た)が 含 ま れ て い た(事 業 者 団体 法 に つ い て は 後 述 皿4)。
1)詳 細 は,吉 田 仁 風 編 ・日本 の カ ル テ ル(1964)20頁 以 下 。
2)閉 鎖 機i関令(1947),原 始 独 占禁 止 法5条 及 び 総 司 令 部 覚 書 「統 制 団 体 除 去 政 策 に つ い て の 解 釈 及 び 実 施 に 関 す る 件 」(1948)に よ り,数 多 くの 経 済 統 制 関 係 の 閉 鎖 機 関 が 整 理 さ れ た 。 詳 細 は,公 正 取 引 委 員 会 事 務 局 編 ・独 占 禁 止 政 策 三 十 年 史 (以 下 「三 十 年 史 」)(1977)28頁 以 下 参 照 。 なお,経 済 統 制 自体 は 戦 後 も しば ら くの 問 は 続 い た が,民 間 の 私 的 統 制 団 体 に よ る統 制 行 為 は 一 切 廃 止 さ れ,す べ て 政 府 又 は 公 的 機 関 に よ っ て 行 うの が 原 則 と さ れ た 。
独 占禁止 政策50年 とカル テル規制 25 2.1949年 と1953年 の 法 改 正
現 在 の独 占禁 止 法 は,1949年 と1953年 の 二 回 に 亘 る法 改 正,と くに1953年 の 改 正 に よ っ て 形 作 られ た 。1953年 改 正 は,原 始 独 占 禁 止 法 の性 格 を変 え た とい わ れ る。 これ らの改 正 に よ っ て,原 始 独 占禁 止 法 が 有 して い た予 防 的 な諸 規 定 及 び 占領 政 策 の 延 長 線 上 の法 と して の性 格 が ほ ぼ取 り去 られ た。 規 制 は,原 則 的 に,競 争 に 悪 い影 響 を 与 え る か 否 か と い う基 準 に よ っ て,す な わ ち,「 一 定 の取 引 分 野 に お け る競 争 の実 質 的 制 限 」 と 「公 正 な競 争 を 阻害 す る お そ れ」 と い う二 つ の 要 件 に よ っ て 行 わ れ る こ と に な っ た3)。 カ ル テ ル 規 制 に 関 し て い え ば,4条 お よび5条 が 削 除 さ れ た 。 ま た,す で に1952年 の 改 正 に よ り大 幅 に緩 和 され て い た 事 業 者 団体 法 は廃 止 され,同 法 の 禁 止 規 定 の 一 部 が独 占禁 止 法8 条 に 移 さ れ た 。 さ らに,1953年 改 正 は適 用 除外 の 範 囲 を拡 大 し,新 た に 「不 況
カ ル テ ル」(24条 の3)と 「合 理 化 カ ル テ ル」(24条 の4)が 適 用 除 外 に加 え ら れ た(適 用 除外 立 法 に 関 し て は後 述 皿2)。
一 般 に1949年 と1953年 の 改 正 は,独 禁 政 策 の 理 念 を 後 退 させ た と して 否 定 的 に評 価 さ れ る 。 しか し,独 占禁 止 法 が 誕 生50年 を迎 え,日 本 の 経 済社 会 に 定 着 しつ つ あ る現 段 階 で 回顧 した 場 合,そ の よ うな 評 価 は一 面 的 で あ る こ とが わ か る。 た しか に,予 防 規 定 を削 除 し,カ ル テ ル の 適 用 除外 を認 め る な ど当 初 の厳 格 な規 制 は緩 和 され,そ れ を後 退 と評価 す る こ と も可 能 で あ る。しか し なが ら, 企 業 結 合 規 制 に み られ る よ う な厳 格 な 規 定 を撤 廃 し,規 制 基 準 を競 争 の 実 質 的 制 限 や 公 正 競 争 阻 害 性 に統 一 す る こ と に よ り,独 占禁 止 法 は,企 業 社 会 に受 入 れ られ,経 済 の 変 化 に耐 え 得 る法 に な る こ とが で き た の で あ る。
3)も ち ろ ん,改 正 に よ っ て こ の よ う な性 格 が す べ て 取 り払 わ れ た わ け で は な い 。 現 在 で も事 業 者 団 体 に よ る カ ル テ ル を 規 制 す る8条 に は 予 防 的 な規 定 が 残 っ て い る 。 ま た 独 占 禁 止 法1条(原 始 独 禁 法 の そ れ と 実 質 的 に は 同 じ)は,「 公 正 且 つ 自 由 な 競 争 の 促 進 」 を 遂 行 す る 手 段 の 一 つ と し て 「事 業 支 配 力 の 過 度 の 集 中 を 防 止 」 す る こ と を掲 げ て お り,そ れ に 対 応 して,9条(持 株 会 社 の 規 制),9 条 の2(大 規 模 会 社 の 株 式 保 有 の 規 制),11条(金 融 会 社 の 株 式 保 有 規 制)が 置 か れ て い る 。
3.強 化 改 正
独 占禁 止 法 は,そ の 後1977,1991,1992年 と三 回 の重 要 な改 正 を受 け た。 こ れ らは い ず れ も規 制 強 化 の た め の改 正 とい う点 で,過 去 の 二 回の 法 改 正 と異 な っ て い る。 と く に1977年 の 改 正 は独 禁 政 策 の転 換 点 と もい うべ き意 義 を有 して い る 。 この 改 正 が 実 現 した 背 景 に は 当 時 の政 治 お よ び経 済状 況 が あ っ た 。 日本 経 済 は,1960年 代 の 高 度 成 長 を経 て安 定 成 長 の段 階 に入 りつ つ あ り,同 時 に,物 価, イ ン フ レを始 め とす る種 々 の 経 済 問 題 に しば しば 悩 ま され た 。 こ れ らの 問 題 を 通 じて,当 時 産 業 全 体 に わ た っ て進 行 し て い た 寡 占や 大 企 業 体 制 の弊 害 が 指 摘 さ れ る よ うに な っ て い た 。1973年 の第 一 次 石 油 危 機 が 引 き金 とな って 全 国 を襲 っ た狂 乱 物 価 は,日 本 の経 済 体 制 の矛 盾 を 国民 に 認 識 させ た。 この よ うな 状 況 の も とで,公 正 取 引 委 員 会 は 内 部 で 独 占 禁 止 法 の 強 化 改 正 の作 業 を 開始 した 。 総 選 挙 に よ って 大 幅 に議 席 を 失 った 時 の 政権 は,国 民 の 支 持 を 回復 す る た め に こ の 動 き を と らえ,同 法 改 正 を政 策 の 中 に 取 り入 れ た 。 改 正 に至 る まで に は さ ら に紆 余 曲 折 が あ っ た が,こ の で き ご とは,独 占禁 止 法 が 国 民 の 問 で 認 知 され て い た こ と,ま た そ れ を 支 え る社 会 的 基 盤 が 形 成 され て い た こ とを示 して い る。
1977年 改 正 で は,寡 占や 企 業 集 団 に対 す る規 定(独 占的 状 態 の 規 制,価 格 の 同 調 的 引 上 げ の 理 由 報 告 制 度,大 規 模 会 社 に よ る株 式 保 有 の 総 量 規 制)の 新 設 と と もに,カ ル テ ル 規 制 の 強化 が 行 わ れ た 。 前 述 の狂 乱 物 価 の背 後 に,多 くの 便 乗 値 上 げ カル テ ル が 介 在 して い た こ とが 明 らか に な り,従 来 の カル テ ル規 制 の 実 効 性 に 疑 問 が 生 じた 。 カ ル テ ル 形 成 を抑 止 す る た め の 方 策 が 必 要 で あ る と 考 え られ,カ ル テ ル に よ る利 得 を剥 奪 す る課 徴 金 制 度(7条 の2,18条 の3) が 導 入 さ れ た4)。 ま た,カ ル テ ル に対 す る排 除 措 置 命 令 の 強化 と して価 格 の 引
き下 げ 命 令 も検 討 さ れ た が,価 格 へ の 過 剰 介 入 を懸 念 す る 意 見 もあ り実 現 しな か っ た5)。
最 近 の1991,1992年 の 改 正 は,経 済 の 国 際化 や 規 制 緩 和 の 潮 流 の な か で 独 禁 4)詳 細 は 和 田 健 夫 「課 徴 金 制 度 につ い て 」 経 済 法 学 会 年 報8号66頁 。
5)今 村 成 和 ・私 的 独 占 禁 止 法 の 研 究(四)皿(ユ976)409頁,実 方 謙 二 ・独 占 禁 止 法 と 現 代 経 済 〔増 補 版 〕(1977)111頁 。
独 占禁 止政 策50年 とカルテ ル規制 27 政 策 の 役 割 が 再 評 価 され つ つ あ る 時 代 の改 正 で あ っ た 。1989年 か ら1991年 に か け て 行 わ れ た 日米 構 造 問 題 協 議 の 影 響 も無 視 で き な い で あ ろ う。1991年 の 改 正 で は,課 徴 金 制 度 の 抑 止 力 を 高 め る た め に 金 額 の 引上 げ が 行 わ れ た 。さ ら に1992 年 に は,刑 事 罰 の 強 化 の た め の 改 正 が 実 現 した6)。 この 改 正 は,自 然 人 事 業 者 及 び従 業 員 ・役 員 に対 す る刑 罰 と,法 人 及 び 法 人 で な い 団 体 に対 す る刑 罰(罰 金)と を切 り離 し(そ れ ま で 両 者 は連 動 して い た),違 反 行 為(と くに カ ル テ ル)
の効 果 的 な 予 防 の た め に,後 者 の 罰 金 を 実 効 性 の あ る 額 に ま で 引 き上 げ た(95 条)。 この よ う に,最 近 で は,カ ル テ ル に 対 す る制 裁 を強 め て 発 生 を予 防 す る
とい う点 に 関心 が 高 ま っ て い る(後 述 皿5)。
五 運 用 の 概 観
こ こで 「カ ル テ ル 規 制 」 とい う と き,事 業 者 の 共 同 行 為 を 規 制 す る独 占禁 止 法3条 後 段(1953年 改 正 以 前 は さ らに 旧4条),事 業 者 団 体 の 共 同行 為 を規 制 す る8条(同 改 正 前 は事 業 者 団 体 法),国 際 カ ル テ ル を 規 制 す る6条 の 運 用 を 意 味 して い る。 条 文 の 適 用 で み る と,3条 後 段 と8条 の 適 用 事 例 数 が 圧 倒 的 に 多 く,日 本 の 独 禁 政 策 が カ ル テ ル規 制 を 中 心 に行 わ れ て きた こ とが 明 らか で あ る(後 掲 の 表1参 照)。 そ し て そ の傾 向 は今 後 も変 らな い で あ ろ う。
カ ル テ ル 規 制 に重 点 が 置 か れ て き た こ との 理 由 の 第 一 は,日 本 の 企 業 の協 調 的,カ ル テ ル 志 向体 質 で あ る。 日本 企 業 は,技 術 開発,製 品 開発 及 び 差 別 化 等 の 非 価 格 的 な分 野 で は 激 しい競 争 を展 開 し,市 場 占拠 率 の 拡 大 を 目指 す 傾 向 を もっ て い る が,価 格 に つ い て は協 調 ・横 並 び を好 む体 質 を も っ て い る とい わ れ る 。
第 二 に,公 正 取 引 委 員 会 に とっ て の 資 源 配 分 が 考 え られ よ う。 他 の 規 定 違 反 (私的 独 占,不 公 正 な 取 引 方 法,企 業 結 合)の 場 合 は,違 反 行 為 の 法 的 構 成 や 違 法 性 の 判 断 が むず か し く,証 拠 の 収 集 に も手 間 が か か る。 そ れ と比 べ る と,
6)詳 細 は 和 田 健 夫 「課 徴 金 制 度 の 改 正 」 商 学 討 究42巻2・3号261頁 。
カ ル テ ル は 明 白 な 競 争 制 限 的 行 為 で あ り,問 題 が 比 較 的単 純(協 定 が あ った か な か っ た か)で あ る。 実 際 に も過 去 の 多 くの事 件 は,カ ル テ ル の 証 拠 が相 当 明 白 な ケ ース で あ っ た と思 わ れ る(後 述 皿3)。した が っ て,カ ル テ ル を 規 制 す れ ば, 少 な い コス トで大 きい 競 争 維 持 効 果 を 達 成 で きた 。
初 期 の 昭 和24,25年 度 に適 用 件 数 が 集 中 して い る の は(表1),法 の 励 行 を 強 要 した 総 司 令 部 の 方 針 の 表 れ で,事 件 の 多 くは些 細 な もの に 過 ぎ な か っ た 。 しか し,こ の時 期 の 審 判 決 の なか に は,新 聞販 路 協 定 事 件,合 板 入 札 価 格 協 定 事 件 の よ う な理 論 的 に興 味 深 い 事 例 が あ る。 そ して,占 領 期 間 が 終 了 し,前 述 した独 占禁 止 法 の緩 和 改 正 が 行 わ れ た1953年(昭 和28)年 を境 に,カ ル テ ル 規 制(と い う よ り も独 禁 政 策 そ れ 自体)は 後 退 す る。 公 正 取 引 委 員 会 が,値 上 げ の協 定 が 存 在 した こ と は認 め なが ら,そ れ が 「拘 束 力 あ る 申 し合 せ 」 で な か っ た こ とを 理 由 に事 件 を不 問 に した 昭 和34年 の 新 聞代 一 斉 値 上 げ事 件 は後 退 期 に お け る 象 徴 的 な で き ご とで あ っ た 。
独 禁 政 策 ・カル テ ル規 制 が蘇 生 す る の は,1960年 代 に入 っ て か らで あ る。 そ の 背 景 に は,高 度成 長 期 に入 っ た 日本 経 済 が 消 費 者 物価 の 高騰 に悩 ま され る よ う に な り,そ の対 策 と して政 府 が カル テ ル 規 制 の 強化 を打 ち出 した こ とが あ る1)。
昭 和37年 度 〜 昭和47年 度 の 問 は,3条 後段 違 反 よ りも事 業 者 団 体 に よる8条 違 反 が 多 い(表1)。 違 反 事 例 の 多 く は,中 小 企 業 の カ ル テ ル ・地 方 規 模 の カ ル テ ル で あ っ た。 そ の た め に,全 国規 模 の 大 企 業 の カ ル テ ル に 対 す る規 制 が 不 十 分 で あ る と批 判 され た 。しか し,こ の傾 向 は昭 和46年 度 を境 に 変 化 して い る。
す な わ ち,第 一 に,消 費 財 を対 象 とす る 販 売 業(主 と し て小 売 業)・ サ ー ビス 業 の カ ル テ ル か ら,生 産 財 を対 象 とす る製 造 業 の カル テ ルへ 主役 が 交 替 した2)。
ま た,こ の 時 期 を境 に し て大 企 業 に よ る カ ル テ ルが 中 小 企 業 カ ル テ ル の 数 を 上 回 る よ うに な っ てい る。これ に対 応 して,公 正 取 引 委 員 会 は 昭 和48年 こ ろ か ら,カ ルテ ルが 事 業 者 団 体 の場 で 行 わ れ た よ う な 場 合 に は,そ れ ま で 主 と して8条 違
1)公 正 取 引 委 員 会 ・三 十 年 史165頁 。 2)公 正 取 引 委 員 会 ・三 十 年 史311頁 。
独 占禁止 政 策50年 とカ ルテル規 制 29 反 で 処 理 す る 方 法 を 改 め,3条 後 段 を適 用 す る よ う に な っ た 。3条 後 段 の 違 反 件 数 が8条 違 反件 数 を上 回 る よ うに な る の は そ の こ とを 反 映 し て い る 。
昭 和48年 度 が 最 も違 反 件 数 が 多 い(表1)。 こ れ は,前 述 した よ う に,当 時 の狂 乱 物 価,石 油 危 機 に よ る原 材 料 費 の 値 上 が りに便 乗 して 多 くの企 業 が 値 上 げ カ ル テ ル に走 っ た こ と を物 語 っ て い る。 公 正 取 引 委 員 会 が 力 を入 れ て カ ル テ ル と闘 っ た 時 期 とい え る3)。 しか し,こ の事 実 は,違 反 行 為 を除 去 す る にす ぎ な い排 除 措 置 命 令 で は カ ル テ ル の発 生 を十 分 に 抑 止 で きな い こ とを意 味 し て い た。こ の 当 時,同 じ企 業 が 何 度 もカ ル テ ル違 反 を起 こす とい う現 象 が み られ4), カ ル テ ル 規 制 の 実 効 性 に 疑 問 が 投 げ か け られ た 。 カ ル テ ル を行 う イ ンセ ン テ ィ ヴ そ の も の を抑 制 す る 必 要 が あ っ た。 そ の た め に は違 反 者 か らカ ル テ ル に よ る 利 得 を剥奪 す る のが 最 も有 効 とさ れ,前 述 の 課徴 金 制 度 が 導入 され た 。
昭和52年 度 以 降,違 反 事 件 数 が 減 少 した理 由 は よ く判 ら ない が,同 年 の 改 正 に よっ て 導 入 され た 課 徴 金 制 度 の影 響 が 考 え られ る。 これ は,課 徴 金 に よ る カ ル テ ル 抑 止 効 果 が 立 ち所 に 現 れ た とい う よ り も,新 制 度 の 導 入 に よっ て 公 正 取 引 委 員 会 自 身 が カ ル テ ル の 摘 発 に慎 重 に な っ た 結 果 で あ る と思 わ れ る 。 課 徴 金 は カ ル テ ル を発 見 した場 合 必 ず 徴 収 しな け れ ば な らな い 。 そ の計 算 の た め の 資 料 収 集 の 煩 雑 さや 予 想 さ れ る企 業 の 抵 抗 が,当 初 は,カ ル テ ル を摘 発 す る意 欲 を抑 制 す る よ う に働 い た の で は な い か と考 え られ る。 この 当 時,非 公 式 な処 理 で あ る警 告 や 注 意 の 件 数 が 増 大 して い る こ とが 指 摘 され て い る5)。1980年 代 に 入 る と,規 制 の 矛 先 が 政 府 規 制 産 業 や 自 由 業 に も 向 け られ る よ うに な り,ま た 公 共 工 事 に 関 す る入 札 談 合 が 初 め て 独 占禁 止 法 を違 反 に 問 わ れ る な ど,カ ル テ ル規 制 の 範 囲 が 拡 大 して くる(こ れ らの 点 は 後 述 皿2,4)。 そ して1990年 代,カ ル テ ル 規 制 は再 び増 勢 の 傾 向 に あ る。
3)同 上309頁 は,こ の と き の 現 象 を,「 カ ル テ ル は 不 況 の 子 」 と い う 旧 来 の 常 識 を 塗 り替 え た か の 感 が あ る と評 価 し て い る 。
4)た だ し こ の こ と は 日本 企 業 の 一 般 的 な 傾 向 で あ り,と く に こ の 時 期 に そ れ が 顕 著 で あ っ た と い う こ と で あ る 。
5)和 田 健 夫 「課 徴 金 制 度 に つ い て」 経 済 法 学 会 年 報8号94頁 。
違 反 カ ル テ ル の 内容 を2条6項 の 例 示 行 為 に当 て は め て み る と,最 も多 い の が 「対 価 の 決 定,維 持,引 き上 げ」 を 目的 とす る もの(価 格 カ ル テ ル)で あ る 。 こ の こ と は,企 業 に とっ て 価 格 カ ル テ ル が,集 団 に よ っ て 利 益 を獲 得 す る最 も 安 易 な 手 段 で あ る こ とを示 して い る 。 しか し,他 方 で,ゆ る い 結 合 で あ る カ ル テ ル の 参 加 企 業 は,他 の 参 加 企 業 を 出 し抜 い て 一 人 だ け よ り多 くの利 益 を あ げ よ う とす る,い わ ゆ る カ ル テ ル破 りの イ ン セ ンテ ィ ヴ を もつ 。 したが っ て,実 際 の 違 反 事 例 で は,合 意 の 実 効 性 を担 保 す る た め に制 裁 金,監 視 制 度,顧 客 争 奪 の 禁 止 等 の 補 完 措 置 が と られ て い る こ とが 多 い 。価 格 カ ル テ ル に次 い で 多 い の が 「数 量 の制 限 」(数 量 制 限 カ ル テ ル)で あ る。 そ の 他 に,「 取 引 の相 手 方 の 制 限」 も しば しば見 ら れ る行 為 で あ る が,価 格 決 定 や 数 量 制 限 に付 随 して 行 わ れ る場 合 が 多 い。 公 正 取 引 委 員 会 は,1980年 代 に 入 っ て,公 共 的 な入 札 をめ ぐ る受 注 調 整 カ ル テ ル(い わ ゆ る談 合)に 対 す る規 制 を始 め た 。 これ が 談 合 の 実 態 や 入 札 制 度 の 問 題 性 を社 会 に知 ら しめ る結 果 とな り,制 度 改 革 の 議 論 を引 き 起 こ し た6)。1990年 代 に増 加 して い る違 反 件 数 の 多 く は談 合 に 対 す る もの で あ り,談 合 摘 発 へ の取 り組 み が 現 在 の カル テ ル規 制 の 課 題 と な っ て い る7)。 ま た,公 正 取 引 委 員 会 は,1991年 の 「流 通 ・取 引 慣 行 に関 す る独 占 禁 止 法 上 の 指 針(以 下 「流 通 ・取 引 慣 行 ガ イ ドラ イ ン」)に お い て,共 同 ボ イ コ ッ トに も3条 後段 や8条1項1号 を適 用 す る と い う方 針 を示 して い る8)。
6)最 初 の 事 件 が,(社)静 岡 建 設 業 協 会 に対 す る 件,昭 和57年9月8日 勧 告 審 決,審 決 集29巻66頁,(社)清 水 建 設 業 協 会 に対 す る 件,昭 和57年9月8日 勧 告 審 決,審 決 集29巻70頁 。2つ の 審 決 は建 設 業 界 を 巻 き込 ん だ 大 議 論 を惹 起 した 。 た と え ば
ジ ュ リ ス ト759号 の 特 集 参 照 。
7)最 近 で は 公 共 機 関 と の種 々の 取 引 に 関す る 受 注 調 整 が 違 法 と さ れ て お り,談 合 事 件 の 内 容 が 多 様 化 し て い る(談 合 王 国1)こ とが 特 徴 的 で あ る。 最 近 の 例 と して,た
と え ば,鹿 島 建 設 ほか65名 に 対 す る件(埼 玉 土 曜 会 事 件),平 成4年6月3日 勧 告 審 決, 審 決 集39巻69頁,ト ッパ ン ・ム ー ア ほ か3名 に対 す る件(シ ー ル談 合 事 件),平 成5 年4月22日 勧 告 審 決,審 決 集40巻89頁,㈹ 山梨 県 建 設 業 協 会 に対 す る一 連 の 事 件, 平 成6年5月15日 勧 告 審 決,審 決 集41巻151〜179頁,兼 松 ㈱ ほ か36名 に 対 す る件(O DA談 合 事 件),平 成7年4月24日 勧 告 審 決,審 決 集42巻107頁 。
8)公 正 取 引 委 員 会 「流 通 ・取 引 慣 行 に 関 す る独 占 禁 止 法 上 の 指 針 」(1991年7月)「 第 2。 共 同 ボ イ コ ッ ト」。 丹 宗 曉 信=来 生 新=畠 山 武 道=稗 貫 俊 文=向 田 直 範=和 田 健 夫 ・論 争 独 占 禁 止 法(1994。 以 下 「論 争 独 禁 法 」)131頁 〔和 田 健 夫 〕 参 照 。
欝斯料序鼻審㎝O笹伴尋寺導︼マ満琶旬N
各年度 の法条別適用件 数 表1
十きロ
6 7 0 2 8 0 3 4 7 1 1 6 8 9 3 6 4 20り0114ワ臼ドD り041 7
01050000000040016
07040000000010015
0202100000005032 40 3 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 4 0 09白‑
3
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1表 の 数 字 は各 年 度 の 法 条 別 適 用 審 決 件 数 で あ る が 、 同 一 事 件 に2以 上 の 法 条 を適 用 し た例 も あ る の で 、 各 年 度 の 審 決 数 と は必 ず し も一 致 しな い 。
2数 字 の な か に は、 違 反 事 実 な しの審 決 及 び審 判 開 始 決 定 を取 り消 した審 決 も含 ま れ て い る。
皿 カ ル テル 規 制 の 課 題
1.カ ル テ ル 規 制 の 範 囲
1.共 同 行 為 ・不 当 な取 引 制 限 の行 為 類 型
原 始 独 占 禁 止 法 の も と で の カ ル テ ル規 制 の 中心 は,2条4項(現 行 法2条6 項)・3条 後 段 と旧4条 で あ っ た。ま た事 業 者 団体 の 活 動 は事 業 者 団 体 法 に よ っ て 広 範 な 規 制 に服 して い た 。不 当 な取 引 制 限 を禁 止 す る3条 後 段 は,事 業 者 が
「共 同 し て そ の 事 業 活 動 を拘 束 し,又 は遂 行す る」 行為 を,「 一定 の取 引 分野 にお け る競 争 を実 質 的 に 制 限 す る」 場 合 に 禁 止 して い た(2条4項)。 そ して 旧4条 は,こ の 範 疇 に入 る行 為 の うち,「 共 同 して 価 格 の 決 定,数 量 の 制 限, 顧 客 ・販 路 の 制 限,技 術 ・設備 の 制 限 をす る」 行 為(同1項1〜4号)に つ い て は,「 一 定 の 取 引 分 野 にお け る競 争 に対 す る影 響 が 問 題 とす る 程 度 に至 ら な い もの で あ る 場 合 」 を 除 き(同2項),そ れ 自体 と して 禁 止 して い た 。 公 正 取 引 委 員 会 は 当 初,事 業 者 が 決 定 に参 加 して い る 限 り,競 争 関係 の 有 無 及 び 事 業 活 動 に対 す る制 限 の 有 無 に か か わ りな く,4条 の共 同 行 為 の 当事 者 に含 め る解 釈 を とっ て い た。 そ して,4条 の 違 法 性 の 基 準 が 厳 しか っ た こ と も あ っ て,現 行 法 で は19条 の 問 題 で あ る よ う な行 為(再 販 売 価 格 維 持 行 為,拘 束 条 件 付 取 引) が4条 に よ っ て規 制 され て い た 。 不 当 な取 引 制 限 の場 合 も同様 で あ る。 初 期 の 解 釈 で は,「 共 同 し て事 業 活 動 を拘 束 し,又 は 遂 行 す る」 行 為 は,か な り広 く 理 解 され て い た。 「相 互 拘 束 」 と 「共 同遂 行 」 は 別 個 の行 為 類 型 と して 取 り扱 わ れ1),一 体 と し て把 握 で きる 競 争 制 限 的 行 為(計 画)に つ い て は,そ れ 自体 が 相 互 拘 束 あ る い は 共 同遂 行 に 該 当す る もの と して,競 争 関係 の 有 無 及 び 事 業 活 動 に対 す る制 限 の 有 無 に か か わ らず,3条 後 段 の 適 用 が な され て い た2)。
1)公 正 取 引 委 員 会 が1953年 ま で は,こ の よ う な 解 釈 を と っ て い た こ と は,東 宝 ・ 新 東 宝 事 件(注6)に お け る 同 委 員 会 の 答 弁 か ら明 らか で あ る 。
2)た と え ば,松 竹 株 式 会 社 外2名 に 対 す る 件,昭 和23年5月13日 審 決,審 決 集1 巻18頁,松 竹 株 式 会 社 外66名 に 対 す る件,昭 和25年2月27日 審 決,審 決 集1巻114 頁,北 海 道 バ タ ー 株 式 会 社 外8名 に 対 す る件,昭 和25年9月18日 審 決,審 決 集2
独 占禁止 政策50年 とカルテ ル規制 33 公 正 取 引 委 員 会 の この よ う な運 用 は1953年 を境 に 変 更 を余 儀 な くされ た 。 そ の 契 機iの第 一 は1953年 の 新 聞販 路 協 定 事 件 東 京 高 裁 判 決3)で あ る。 周 知 の よ う に,こ の判 決 は,共 同 行 為(不 当 な取 引 制 限 の 場 合 も同 じ)を,競 争 関 係 に あ る事 業 者 が,相 互 に 一 定 の事 業 活 動 の 制 限 を共 通 に 設 定 す る行 為 と規 定 した 。 した が っ て,当 事 者 の 一 方 だ け にそ の制 限 を課 す る よ う な行 為 は,私 的 独 占又 は 不 公 正 な 競 争(取 引)方 法 に あ た る場 合 が あ る と して も,こ こに い う共 同行 為 にあ て は ま ら な い 。 また 異 種 又 は取 引 段 階 を異 にす る 事 業 者 が相 集 ま っ て 契 約 協 定 等 の 方 法 に よっ て 事 業 活 動 に一 定 の 制 限 を設 定 す る場 合 で あ って も,こ れ らの 者 の う ち 自 己 の 事 業 活 動 の 制 限 を共 通 に受 け る者 の 問 に の み 共 同 行 為 が 成 立 す る こ と に な る4)。 東 京 高 裁 は後 に この 限 定 的 解 釈 を と っ た理 由 を,旧4 条 に お い て は2項 が 競 争 へ の 実 質 的 影 響 を 違 法 要 件 と して は い な い もの の,競 争 へ の 影 響 を無 視 して い る わ け で は な い こ と に鑑 み て,1項 の解 釈 と し て も そ の 点 を取 り込 む た め,共 同 行 為 に 参 加 す る事 業 者 を競 争 関 係 に あ る 者 に限 定 し た もの で あ る と説 明 し て い る5)。 また,新 聞 販 路 協 定 事 件 判 決 は,不 当 な取 引
巻103頁,株 式 会 社 中 山 太 陽 堂 外6名 に対 す る件,昭 和26年3月15日 審 決,審 決 集2巻255頁,株 式 会 社 朝 日新 聞社 ほ か26名 に 対 す る 件(注3)。
3)東 京 高 裁 昭 和28年3月9日 判 決,行 集4巻3号609頁 。 本 件 の 解 説 と して,今 村 成 和=厚 谷 裏 児 編 ・別 冊 ジ ュ リ ス ト141号 独 禁 法 審 決 ・判 例 百 選(以 下 「独 禁 法 審 決 ・判 例 百 選 」)(第 五 版)30頁 〔藤 田 稔 〕。 原 審 決 は,株 式 会 社 朝 日 新 聞 社 ほ か26名 に 対 す る 件,昭 和26年4月7日 審 決,審 決 集3巻4頁 。
4)判 決 は さ ら に,「 競 争 関 係 に あ る 数 個 の 独 立 の 事 業 者 が 相 互 に 自 己 の 事 業 活 動 に 共 通 の 制 限 を設 定 して こ の 共 同 行 為 を 成 立 させ る に つ い て は,往 々 に して こ の 共 同 行 為 者 た る 事 業 者 以 外 の 者 が 指 導,介 入,助 成 等 の 方 法 に よ っ て こ れ に加 巧 す る こ と が あ り得 る 。 しか し こ れ らの 競 争 関 係 に も立 た ず 或 は共 通 に 事 業 活 動 の 制 限 を も 受 け な い 単 な る加 巧 者 は,そ れ が 何 等 か の 事 業 を な す 者 で あ る と 否 と,個 々 で あ る と否 と,ま た そ れ を 自 己 の 名 に お い て あ る い は 自 己 の 計 算 に お い て す る と 否 と を 問 わ ず,す べ て こ こ に い う 共 同行 為 者 あ る い は 事 業 者 に あ て は ま ら な い も の と解 す べ きで あ る」と述 べ て い る 。しか し刑 事 罰 適 用 の レベ ル で は 加 巧 者 で あ っ て も責 任 を 問 わ れ る こ と は,最 近 下 水 道 談 合 刑 事 事 件 東 京 高 裁 判 決 に よ り示 さ れ た(平 成8年5月31日 判 決)。 こ の 判 決 で は,談 合 を指 導 し た 下 水 道 事 業 団 の 職 員 が 不 当 な取 引 制 限 の 常 助 罪 に 問 わ れ た 。
5)シ ー ル 談 合 刑 事 事 件(注12)。 お よ び,新 聞 販 路 協 定 事 件 の と きの 担 当 判 事 で あ っ た 浅 沼 武 氏 の 回顧 談 参 照(公 正 取 引 委 員 会 ・三 十 年 史489頁)。
制 限 の行 為 類 型 が 「相 互 拘 束 」を中 心 に理 解 され るべ き こ と を暗 示 して い た が, こ の点 は 東 京 高 裁 が 同 じ く1953年 に下 した 東 宝 ・新 東 宝 事 件 判 決6)に よ っ て 明 確 に され た 。 こ れ らの 判 決 に よ り,共 同行 為(不 当 な取 引 制 限)は 事 業 者 が 合 意 に よっ て そ の競 争 行 動 を直 接 に 制 限 し合 う場 合 に成 立 す る こ とが 明 らか に さ れ た。 原 始独 占禁 止 法 の 時 代 と比 べ て,不 当 な取 引 制 限 の 適 用 領 域 が 明 確 に な り,と くに私 的 独 占の 行 為 類 型 との 関係 で,「事 業 活 動 抑 圧 型 」と 「競 争 回 避 型 」 とい う両 者 の 区別 の 図 式 が で きあ が っ た。
二 つ の判 決 は公 正 取 引 委 員 会 の 実 務 に影 響 を与 え た。 審 決 の 「法 の 適 用 」 欄 で は,違 法 行 為 を 定 義 規 定 が 掲 げ る類 型(「 対 価 の 決 定,維 持,数 量 の 制 限, 取 引 相 手 方 の 制 限 」 等)に 従 っ て示 す よ う に な った 。 ま た,た と え ば,① 売 手
と買 手 の 団体 交 渉 に よっ て 価 格 協 定 が 結 ば れ て い て も,い ず れ か の側 の 共 同行 為 と して と ら え交 渉 の 相 手 方 を法 の 適 用 か ら除 外 した事 件7),② メ ー カ ー,卸 売 業 者 及 び卸 売 業 者 か ら購 入 す る販 売 業 者 の 団体 が 集 団 的 に 各段 階 の販 売価 格 を決 定 した事 案 で,メ ー カー と卸 売 業 者 が 別 個 に 各 取 引 段 階 で 不 当 な取 引 制 限 を行 っ た と構 成 し た事 件8),③ メ ー カ ー が 再 販 売 価 格 を協 定 した事 件 にお い て, 再 販 売 価 格 を決 定 す れ ば そ こか ら中 間 販 売 業 者 の 口銭 ・マ ー ジ ン を差 し引 くこ
とに よ っ て 自 らの 仕 切 価 格 も決 ま る(あ るい は決 定 し た)こ と を認 定 した う え で,製 造 業 者 の 販 売 分 野 に お け る競 争 を 実 質 的 に 制 限 す る と構 成 した 事 件9),
6)東 京 高 裁 昭 和28年12月9日 判 決,高 民6巻13号868頁 。
7)雪 印 乳i業㈱ ほ か 飲 用 牛 乳 製 造 業 者4名 に 対 す る件,昭 和49年5月22日 勧 告 審 決, 審 決 集21巻30頁 。
8)株 式 会 社 石 塚 特 殊 硝 子 製 作 所 ほ か16名 に 対 す る件,昭 和42年12月11日 勧 告 審 決, i審i決集14巻79頁 。
9)た と え ば,住 友 セ メ ン ト㈱ ほ か セ メ ン ト製 造 業 者7名 に 対 す る件,昭 和48年12月26 日勧 告 審 決,審 決 集20巻20頁,サ ン ヨ ー 食 品 ㈱ ほ か 即 席 ラ ー メ ン製 造 業 者5名 に 対 す る 件,昭 和49年3月26日 勧 告 審 決,審 決 集20巻346頁,旭 硝 子 ㈱ ほ か パ ー ク ロ ル エ チ レ ン 製 造 業 者5名 に 対 す る 件,昭 和49年4月15日 勧 告 審 決,審 決 集21巻 1頁 な ど。 ま た,公 正 取 引 委 員 会 は,鐘 淵 紡 績 株 式 会 社 ほ か9名 に 対 す る 件,昭 和40年5月20日 審 決,審 決 集 ユ3巻18頁 で は,メ ー カ ー が 小 売 価 格 を 協 定 し,こ の 価 格 を守 ら な い 小 売 業 者 に 対 して は 販 売 業 者 を通 じ て 出 荷 停 止 措 置 を とる こ と を 申 し合 せ た 事 実 を と ら え て,共 謀 に よ る 小 売 業 者 の 事 業 活 動 の 支 配 と し て3条 前 段(私 的 独 占)の 適 用 を試 み た こ と が あ る(証 拠 不 十 分 で 違 反 事 実 な し と さ れ た)。
独 占禁止 政策50年 とカル テル規制 35 な どに もそ の影 響 の 跡 を み る こ とが で き る。
しか し,当 事 者 を競 争 事 業 者 に最 初 か ら限定 す る この 解 釈 は 学 説 の 批 判 を受 け て き た10)。 そ し て 最 近 に な っ て この 点 に 関 し新 た な 動 きが み ら れ る 。 た と え ば,公 正 取 引 委 員 会 は,前 述 の1991年 流 通 ・取 引慣 行 ガ イ ドライ ン にお い て, 事 業 活 動 に 対 す る 制 限 の 目的 が 共 通 で あ れ ば十 分 で あ る と して,非 競 争 事 業 者 を も不 当 な 取 引 制 限 の 当事 者 に 含 め る新 しい 見 解 を示 した11)。
東 京 高 裁 は,新 聞 販 路 協 定 判 決 か ら40年 後 の シ ー ル 談 合 刑 事 事 件12)に お い て 同 じ問 題 に直 面 した 。 こ の事 件 で は,指 名 業 者 で は な い た め に形 式 的 に は競 争 関 係 に は ない が,受 注 予 定 者 の 決 定 に重 要 な役 割 を 果 た し,そ の 者 の 同意 な し に は談 合 が 成 立 し ない 関係 に あ っ た事 業 者 を不 当 な 取 引 制 限 の行 為 者 とす る こ とが で きる か ど うか が 問 題 とな っ た。 東 京 高 裁 は,前 述 の よ う に,1953年 判 決 が 限 定 的 な 解 釈 を と っ た理 由 を示 した う えで,4条 が 削 除 さ れ 「競 争 を実 質 的 に制 限 す る こ と」 が 共 同 行 為 の 積 極 的 な違 法 要 件 と な っ た 現 行 法 の も とで,
「は た して右 判 例 の よ う に 『事 業 者 』 を競 争 関 係 に あ る 事 業 者 に 限 定 す べ きか 疑 問 が あ る」 と しな が ら,本 件 に お い て は,問 題 の事 業 者 は 「実 質 的 に は競 争 関係 に あ っ た 」 との理 由 で 不 当 な 取 引 制 限 の 当 事 者 に含 め た 。 こ の1993年 判 決
今 村 成 和 氏 は こ れ らの 審 決 が,新 聞 販 路 協 定 事 件 判 決 の 悪 い 影 響 を受 け て い る と 述 べ て い る(今 村 成 和=伊 従 寛=後 藤 英 輔 ・独 占 ・公 正 取 引(1965)92頁,金 沢 良 雄 編 ・独 禁 法 審 決 ・判 例 百 選(第 三 版)37頁)。 そ の 意 味 す る と こ ろ は,お そ ら く,こ れ らの 審 決 が,「 競 争 関 係 に あ る 事 業 者 」 は 同 じ取 引 段 階 に な け れ ば な ら ず,そ こ で の 事 業 活 動 に対 す る 制 限 で な け れ ば 相 互 拘 束 は 成 立 し な い と い う 硬 直 的 な 理 解 に も とつ い て き る よ う に み え る こ と を指 し て い る も の と思 わ れ る 。 10)独 禁 法 審 決 ・判 例 百 選(第 四 版)41頁 〔和 田 健 夫 〕 参 照 。
11)流 通 ・取 引 慣 行 ガ イ ド ラ イ ン 「第2共 同 ボ イ コ ッ ト」 参 照 。 事 業 者 が 取 引 先 事 業 者 と共 同 して 他 の 事 業 者 と の 取 引 を拒 絶 し,一 定 の 取 引 分 野 に お け る競 争 の 実 質 的 制 限 を す る 場 合 に は 不 当 な 取 引 制 限 に 該 当 す る と され る 。 指 針 に よ る と,そ の 場 合,事 業 活 動 の 相 互 拘 束 は,「 内 容 が 行 為 者(た と え ば 製 造 業 者 と販 売 業 者) す べ て に 同 一 で あ る 必 要 は な く,行 為 者 の そ れ ぞ れ の 事 業 活 動 を制 約 す る もの で あ っ て,特 定 の 事 業 者 を排 除 す る 等 共 通 の 目的 の 達 成 に 向 け られ た も の で あ れ ば 足 り る 」 と説 明 さ れ て い る 。 こ の 評 価 に つ い て は 丹 宗 ほ か ・論 争 独 禁 法131頁 以 下 〔和 田 健 夫 〕。
12)東 京 高 裁 平 成5年12月14日 判 決,高 刑46巻3号322頁 。 本 件 の 解 説 と し て,独 禁 法 審 決 ・判 例 百 選(第 五 版)32頁 〔川 浜 昇 〕。
は,限 定 的 解 釈 に疑 問 を呈 して は い るが,具 体 的 な事 案 との 関 係 で み れ ば,1953 年 判 決 の 解 釈 の枠 組 み は維 持 しつ つ,競 争 関係 を実 質 的 に み る とい う新 た な判 断 を 示 し た もの と考 え られ る13)。
公 正 取 引 委 員 会 の 実 務 に 影 響 を与 え た 第 二 の 契機iは前 述 した1953年 改 正 で あ る 。 この 改 正 に よ り旧4条 は 削 除 さ れ た 。 新 聞販 路 協 定 事 件 東 京 高 裁 判 決 の 影 響 も受 け て,そ れ まで カ ル テ ル(縦 の カ ル テ ル)と して 規 制 さ れ て い た行 為 は 不 公 正 な取 引 方 法 の 禁 止 の領 域 に属 す る こ と とな っ た の で あ る 。
2.課 題
共 同行 為 ・不 当 な 取 引 制 限 の 当 事 者 の 範 囲 は,シ ール 談 合 刑 事 事 件 東 京 高 裁 判 決 や 流 通 ・取 引 慣 行 ガ イ ドラ イ ン に見 られ る よ うに,今 後 も実 質 的 な観 点 か ら合 理 的 な 解 釈 が 行 な わ れ る で あ ろ う。 しか し,逆 に不 当 な取 引 制 限 の 行 為 類 型 の 内容 が あ い ま い に な る お そ れ が あ る 。 と くに私 的独 占の 行 為 類 型 と の 関係 が 問 題 で あ る。 こ れ ま で 私 的 独 占 と不 当 な取 引 制 限 の行 為 類 型 は,ス テ レオ タ イ プ的 な 区 別 が な さ れ て きた が,そ の境 界 は そ れ ほ ど明確 で は な か っ た 。 私 的 独 占 の適 用 事 例 が 少 な か っ た た め,実 際 に ほ とん ど議 論 を呼 び起 こ さな か っ た に す ぎ な い 。 前 述 の よ う に流 通 ・取 引 慣 行 ガ イ ドラ イ ンが 共 同 ボ イ コ ッ トに不
13)東 京 高 裁 は ま た,2条6項 で い う事 業 者 を,「同 質 的 競 争 関 係 に あ る 者 に 限 る と か, 取 引 段 階 を 同 じ くす る者 で あ る こ と が 必 要 不 可 欠 で あ る とす る考 え に は 賛 成 で き な い 」 と も述 べ て い る。 流 通 段 階 で どの よ う な 機 能 を果 た して い る か に か か わ り な く,共 同 し て 取 引 価 格 を 決 定 して い る 限 り,競 争 関 係 は 存 在 す る の で あ り,不 当 な取 引 制 限 の 当 事 者 とな る 。 公 正 取 引 委 員 会 も,こ の よ う な 運 用 を す る よ う に な っ て い る(た と え ば,中 部 ト ヨ タ リ フ ト㈱ ほ か14名 に 対 す る 件,昭 和55年4月
4日 勧 告 審 決,審 決 集27巻1頁,武 田 薬 品 工 業 ㈱ ほ か 醸 造 用 活 性 炭 製 造 業 者11名 に 対 す る 件,昭 和57年7月28日 勧 告 審 決,審 決 集29巻51頁 。 た だ し,課 徴 金 賦 課 の 場 合 は 重 要 な 問 題 と な る)。 こ の 談 合 に 対 す る 審 決 に お い て も,公 正 取 引 委 員 会 は,問 題 の 事 業 者 が,指 名 業 者 の 一 名 の もの(Bと す る)と の 間 で 実 質 的 な 入 札 参 加 者 と な る 合 意 を結 び,入 札 に 関 す る 事 項 全 般 に つ い て 指 示 し,Bを して 入 札 に 参 加 さ せ,受 注 予 定 者 の 決 定 に 関 す る 話 し合 い に は 問 題 の 事 業 者 が 出席 して い た こ と を 認 定 し,不 当 な 取 引 制 限 を,Bで は な く問 題 の 事 業 者 と他 の 指 名 業 者 と の 問 に 成 立 す る と して い る(ト ッパ ン ・ム ー ア㈱ ほ か3名 に 対 す る 件,平 成5 年4月22日 勧 告 審 決,審 決 集40巻89頁)。
独 占禁 止政 策50年 とカルテ ル規制 37 当 な取 引 制 限 又 は事 業 者 団 体 に 関 す る 規 定 を 適 用 す る方 針 を示 した が,「 共 同 ボ イ コ ッ ト」 と よば れ る行 為 は 多 様 な形 態 を も ち,私 的 独 占 と して と ら え た 方 が 妥 当 な場 合 も あ る 。不 当 な 取 引 制 限 が 課 徴 金 の 対 象 と な る こ と を考 え れ ば(後 述5),事 業 者 に とっ て は,私 的 独 占 と不 当 な取 引 制 限 の い ず れ に 問 わ れ る の か が 関 心 事 とな る。 今 まで 以 上 に 私 的 独 占 と不 当 な取 引 制 限 の 行 為 類 型 の 区 別 の 検 討 が 求 め られ る こ と に な る で あ ろ う14)。
2.カ ル テ ル の 許 容
戦 後 の法 制 度 が カ ル テ ル の 原 則 的 禁 止 に転 換 した とは い え,必 要 な場 合 に は これ を認 め るべ きだ とす る主 張 は カ ル テ ル 規 制 の歴 史 の なか で繰 り返 し登 場 し て きた 。 こ こ に は,ど の よ う な状 況 にお い て も カ ル テ ル は 許 さ れ な い の か とい う単 純 な,し か し基 本 的 な 問題 が 横 た わ っ て い る。 競 争 制 限 的 な協 定 で あ っ て も,事 業 者 の 側 で そ の 目的 ・背 景 が 正 当 で あ る こ とを根 拠 に適 法 性 を主 張 す る こ と は あ り う る。 カ ル テ ル規 制 が 強 化 さ れ,規 制 緩 和 に よ っ て独 占 禁 止 法 の 適 用 領 域 が 拡 大 す る と と も に こ の種 の 紛 争 は 増 加 す る か も しれ な い 。こ の項 で は,
カル テ ル の 適 用 除 外 の 議 論 を 立 法 と解 釈 の=二つ の レベ ル で 回 顧 す る。
1.適 用 除 外 立 法
カ ル テ ル規 制 の 歴 史 は,同 時 に カ ル テ ル の 適 用 除外 法 の 制 定 ・運 用 の 歴 史 で もあ る。 こ こで も,1953年 の独 占 禁 止 法 改 正 が 契 機 に な っ て い る 。 こ の改 正 に よ り,独 占 禁 止 法 自身 が カ ル テ ル の 適 用 除外 を認 め た だ けで な く,こ れ以 降 数 14)こ れ ま で 不 当 な 取 引 制 限 の 事 件 の な か に は,私 的独 占 と して 問 うべ きで あ っ た と 評 価 さ れ る ケ ー ス も あ る 。 た とえ ば,旭 ガ ラ ス ㈱ ほ か ソ ー ダ灰 製 造 業 社3名 に 対 す る 件,昭 和58年3月31日 勧 告 審 決,審 決 集29巻104頁 〔ソ ー ダ灰 輸 入 カ ル テ ル 事 件 〕,日 本 油 脂 株 式 会 社 ほ か 産 業 用 爆 薬 製 造 業 者5名 に 対 す る件,昭 和50年12 月11日 勧 告 審 決,審 決 集22巻101頁 〔ダ イ ナ マ イ トの 共 同 生 産 会 社 事 件 〕 な ど。
逆 に,た と え ば 日本 医 療 食 協 会 に 対 す る件(平 成8年5月8日 勧 告 審 決,審 決 集43 巻 登 載 予 定)は3条 後 段 を 適 用 す べ き だ とす る見 解 もあ る 。 私 的 独 占 の 行 為 概 念 を 論 じ た も の と して,鈴 木 孝 之 「私 的 独 占 の 行 為 概 念 と構 成 要 件 の解 釈 」 正 田 彬 教 授 還 暦 記 念 論 文 集 刊 行 会 編 ・国 際 化 時 代 の 独 占 禁 止 法 の 課 題(1994)387頁 。