競争過程と反独占政策 87
競争過程と反独占政策
梶原禎夫
日本では昭和40年初期までは,寡占産業の中核企業も,生産効率の上昇に 比例した低価格政策はとらなかったという程度の独占的行動はみられても,
供給制限を伴った特別の高価格政策はとらず,むしろ市場占拠率をめぐる競 争や規模の経済の確保のために比較的低価格による無差別な大量需要の創造 に向っていたため,独占の弊害はそれ程顕著には現われなかった。このため か,公iE取引委員会によっても独占排除のための特別有効な措置がとられな かったばかりでなく,国際競争力の強化や合理化の名のもとに合併などを通 じて独占の強化が容認されてきた。また,同様に産業の能力維持の名のもと に不況を契機に安易にカルテルが認められ,独占的結合への行動が放置され たばかりでなく,行政指導による生産調整や設備投資の調整が行なわれ,独 占的結合への誘導さえ行なわれた。また,それまで価格と技術に重点をおいた 競争を行なってきた寡占企業も昭和30年代末∃紬こ入ると,卸売商や小売商へ の支配を強化し,流通過程における価格競争を排除し,独占価格を卸売や小売 の各取引水準で維持するための機構の確立に努力を傾けるようになった。寡 占企業により広汎に進められた,この流通系列化に対しても,不当な取引拒 絶,排他条件付取引,拘束条件付取引などについて公iE取引委員会による 若干の排除措置がある他は,有効な対策は殆ど講じられなかった。このよ うに独占的行動の条件を巷備してきた企業は,昭和40年代に入るとしだいに その本性を現わし始めた。張中皮の高い産業における価格の傾向的上昇が釘 著になり,寡占企業の協調による価格競争の排除と流通過程を通じての独占 価格の維持が目立ち始めた。独占価格はインフレーションの進行を加速した が,更にこのインフレーションの進行自体が,原材料費や労働費の上昇のた
°
めに企業に技術革進への投資を躊躇させ,独占的価格行動へとかりたてた。
特に昭和48年秋の石油危機を契機に企業の独占的苗場行動が鋸著になった。
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京占企業は支配下の中間I勾の協力も得て,供給HJIJI浪を行ない,大幅な価格引 上げを行なった。中間商もより大きな利幅をえて製造企業の独占的行動に協 力したため,流通過程での独占価格の引上げも容易であった。集中皮の高い ぷ占産業ではプライスリーダシップが充分に機能し,大幅で迅速な独占価格
の引上げが可能であったばかりでなく,比較 fl'~競争的であった産業でも,独
占的行動への姿勢を強めている企業問ではカルテルが容易に成立し,企業問 で一致した大幅な価格引上げ、が可能であった。昭和30年代を通じて比較的良 好であった産業のパフォーマンスは, 40年代lこ入るとしだいに悪化の傾向に
あったが,石油危機を契機に急速に劣悪な水準に低下した。
このように独占の幣害が広がし化するに伴い,公正取引委員会はもっぱらカ ノレテノレの摘発に努力を注いだが,集中度の高い寡占産業での純粋のプライス リーダシップに対してはカノレテノレとしての実証がえられない乙と,またカノレ テノレが摘発され,排除措置がとられでも価格は協定前の水準に戻されること はないことなど現行独占禁止法の限界が明らかになり,極端な独占体は分割 し,市場構造自体を競争的にすることや価格引下げ命令によってカノレテル価 格をカルテlレ前の価格に回復させることが可能になるように独占禁止法を改 正する方向に動き始めた。寡占企業の経路支配(流通支配)に対しては,現 行の独占禁止法でも規制可能であり,前述したように中間商に対する不公正 な取引方法については乙れまでもある程度排除措置はとられてきた,また昭 和49年9月からは再販売価格維持契約について独占禁止法の適用が除外され る品目が大幅に削減された。寡占企業が卸売商に対しその販売先を指定し,
同時に小売商に対しその仕入先を指定するー庖一帳合制も規制されるように なり,寡占企業による中間商に対する不公正な取引方法の規制が強化される 方向に動いているO
しかし,公正取引委員会においては,競争過程や競争導入の条件などが幅 広く捉えられていないために,これまでの独占禁止法の運用に問題があった し,また今回の改正案についても,たとえある程度研究者を動員して検討が なされたとはいえ,やはり同様の限界がありうると考えられるD 例えばこれ
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までそうであったように,価格競争を維持する効果が技術開発を促進するこ とも含めて充分広く把握されていないと不況を契機に安易にカノレテノレが認め られたり,特別法により多くのカルテノレが認められる結果になり,また市場 支配を目的とする合併を研究開発の合理化の名のもとに認める結果も生じ る。また,生産段階で占化が進んでいる現状では,流通過程で強い競争を 縫持する効果が特に高く評価されなければならないのに,これが充分認識さ れていないと,手占企業による専制的経路支配は問題とされても,経路支配 に対する規制には自ら限界が置かれることになり,選択的経路政策そのもの によるゆるやかな経路支配は放置され,かなり広汎にみられる,中間商問で の価格競争の排除に特別の規制がなされないことにもなる。
本稿では,価格競争下における消費者行動の変化や企業のマーケテイング 政策としての価格の性格に注目することによって価格競争と技術競争の述係 を識別し,価格競争を維持する効果を,独占化と結びつく製品差別化や大呈 広告を抑制し,技術開発を促進することも含めて幅広く促えるD また同ねに,
小売市場への価格競争の導入による消費者行動の変化に注目することによっ て小売商問の価格競争を独占的製造企業の支配から小売商や卸売商を脱脚さ せ,自立化に導びくことも含めて幅広く促えるO このように価格競争の効果 を幅広く評価するための競争過程についての分析を行ない,これを基礎に反 独占政策について若干の意見を出してみたい。
価格競争と技術進歩の連係
これまで,政府需要に基づいて推進される技術開発だけでなく,ここで問 題とする一般市場需要を基礎に,企業が自律的に進める技術開発もしばしば 独占と結び付けて考えられてきたわ。さらに,研究開発への投資能力やその 危険負担能力が独占[巾企業に求められたばかりでなく,技術開発の誘因が草 新的技術による超過利刊の獲得を長期にわたって可能にする独占的企栄の市 場支配力,特に価格競争排除力に求められてきた2) o技術開発への投資能力 や危険負担能力は,必ずしも法占的企業だけが持つものではなく,ある程度
90 経 営 と 経 済 の収益力を持つ企業であればよいことは自明のことであるが,技術開発の誘 因も独占的企業の価格競争排除力にあるかどうかも疑問であるo
産業の集中化が進むと,企業間相互依存関係の強化により,企業問での需要 移動効果が大きく,競争企業からの即座の反撃が予期される価格競争が排除 され,むしろ新需要や再購買需要の開拓と商標への需要固定のために製品差 別化と広告へ集中的に投資が行なわれるが,それだけでなく,しばしば技術開 発への投資も抑制されることに注意すべきであるO 集中度の高い産業はしば しば成熟度の高い産業であり,技術の未開拓領域が少なく,技術開発には巨大 な投資が必要であるばかりでなく,その危険度が高く,また技術革新は価格競 争と同様に企業問での需要移動効果が大きく,比較的容易に行なわれる競争 企業の対抗的追随技術開発により更に困難で危険を伴う次の技術開発を余儀 なくされるために,成熟度の高い高集中度産業では価格競争の排除と同時に 技術開発への投資も抑制されるのである的。高集中度産業における独占的企 業が価格競争の排除の下で行なう研究開発は製品差別化のための殆ど意味を 持たない小さな技術的変更を目ざすものが大部分なのである4) 技 術 革 新 に成功した企業は,価格競争の排除による超過利潤の維持のために製品差 別化の強化と大量広告による市場支配を行ない,更にわが国の場合に顕 著にみられるように流通過程での価格競争機会の削減のために卸売商や小 売商の支配を行なうため市場支配や経路支配を確立している独占的企業 が技術革新を行なうという誤った結論に導びかれ易いが,市場支配や経路 支配はむしろ技術革新の後に続いていることにも注意すべきである的。企業 聞に価格と技術についての自由な競争が行なわれているところでは,集中化 はそれ程進まず,集中化自体も技術草新に成功した企業lとより,価格競争と次 の技術開発を回避するために,製品差別化,大量広告,合併などを通じて促 進されてきたことに注目すべきである6)。そして,市場占拠率を高めた企 業群は,より危険の少ない,より高い利潤率の確保のために無差別な大量信 要の創造のために集中的に投資し,技術革新への投資は,その能力は持って いても価格競争の場合と同様に相互に回避しようとする傾向が強い。このよ うに独占的企業は技術開発能力は持っていても,開発への投資危険が大きい
競争・過程と反独占政JfZ 91 ためと競争企業の追随開発により更に新しい開発が必要になるため,それを 回避しようとする傾向が強いのである。
一般に技術草新は期待できる超過利潤により推進されるというより,それ を余儀なくさせる条件,つまり強い競争圧力に依存している場合の方が多い。
少なくとも,技術革新の速度は,独占的要素が強い市場より競争市坊におけ る場合の方が大きい。このような技術草新への誘因を,ここでは価格競争と の関係、で促えてみたい。
技術進歩と価格競争が直接述係し,同時に進行する機構が存在することは,
技術の未開拓領域が少ないため技術開発の危険も大きく,また顕著な産業需 要の拡大も期待できず,少数の企業問で相互依存関係が強い,集中度の高い 寡占産業でも,例えば割引小売商などにより製造企業の;立に反して価格競争 が導入されると,それに並行して製品の技術的草新が進行することによって,
その概略を促えることができると考える7) また,集中化がかなり進んでい る寡占産業でも,製品比較がお易なために価格競争の排除が困地な製品分野 では,価格競争と並行して製品の技術的草新が進行することによっても価格 競争と技術進歩の連係機構を促えることができると考える8)。
一般に価格競争が導入されると消究者行動は計画化ないし自立化に向かう。
消費者は価格に反応して商標選択を変更し,経験的知識をえて選択対象とす る商標の範囲を拡大し,特定商標への執着を止める傾向に向かう9)。乙乙で消 費者は価格への反応を強めるだけでなく,製品の仕様の違いなど実質差ない し技術差にも敏感になり,同時に製品差別化,特に純粋の差別化や心理的差別 化,広告,販売促進的サービスなどへの反応を低下させることに注目すべきで ある10)。価格競争と技術開発が同時に進められる一つの根拠はここにある。
価格競争と技術開発が述係するいま一つの根拠は,需要の価格引力性が大 きく,また生産に規模の経済があって,価格切下げに有利な条件があり,企 業間相互依存関係が強いにもかかわらず価格切下けーが行なわれる場合に競争 企業からの対抗的価格切下げによる反撃の効果を削減するための製品の実質‑
差を確立するために技術開発が必要になることである。つまり,価格切下 げのためには競争企業の追凶的価格切下げの影響を阻止または削減するため
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の歯止めとしての製品の実質差が準備されなければならない。一般に,価格 切下げに対する競争的反撃を阻止できるだけの製品差を達成できない場合,
また強力な競争企業の適応に対し,更に新しい製品の実質差を継続的に達 成できる可能性が低い場合,また次の製品差の開発努力を回避しようとす る場合などでは,価格競争の圧力によって創出された製品の実質差は,逆 に価格引上げへの圧力に転化される11)。製品の技術的草新に伴う価格引上 げは価格切下げに比べ企業間競争関係の撹乱は少なく,競争企業の迅速な適 応をそれ程必要としない。集中度の高い寡占産業では,企業間競争関係の撹乱 の回避のために製品の技術的草新と同時に価格引上げ政策がとられる可能性 が高いが,前述のようにむしろ高度に集中した寡占産業では,共同利潤の拡 大のために価格競争が排除され,技術開発そのものが停滞する傾向が強く,
企業間競争は使用上それ程の意義を持たない追加的製品機能や単純な製品差 別化,またこれらに関する広告に集中されるようになるO
以上で問題とした技術革新は,製品仕松つまり製品の技術構造や機能に関 するものであるが,生産工程に関する技術革新もある。工程革新については,
その導入上の危険は少なく,期待できる費用削減や生産能力の拡大,つまり 超過利潤の確保が動機になって推進されると考えられ,事実独占的企業も工 程革新への投資は積極的に進める場合が多い。しかし,乙の工程革新の導入 も市場が独占的である場合より競争的である場合の方がより急速に行なわれ る可能性が大きい乙とに注目すべきであるO 価格競争が破滅の脅威をもって 企業に工程草新を迫ることは自明のことであるが,一方工程草案rrによる限界 費用関数の下方へのシフトによる利益も独占の場合より市場が競争的である 場合の方が大きく,工程革新〈の誘因も独占的要素が強い市場よりむしろ競 争市場の場合が大きいと考えられる12)。
価格競争が技術開発を促進するという場合,乙の価格競争は企業の利潤を 長期にわたって圧縮し,研究開発への投資能力やその投資の危険負担能力を 大きく削減する程の過度の競争をさしているのではないことに注意すべきで あるo また,価格競争はインフレーションや超過需要のもとでも価格引上げ 幅と価格引上げ時点をめぐる競争として残っているが,インフレーションの
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進行中では生産要素の価格上昇を伴うため新投資を必要とする技術の導入は 抑制され,特に研究開発への長期投資は制限される可能性が大きし'0むしろ ここでは,製造企業聞には協定による価格引上げやプライスリーダーシップ などにより,集中度の高い寡占産業ではもちろん,比較的集中度の低い寡占産 業においてもより強力に価格調整が行なわれ,企業間関係の安定化が追求さ れる13) インフレーションの進行中には,技術開発が停滞するばかりでな く,実質所得の低下,またその低下しつつあるという認識が消究者間で高ま り,製品差別化や広告の効果も低下するため,企業問の価格調整には特別の 努力が払われるようになる。
以上の分析を基礎に,わが国の反独占政策について先ず述べたい乙とは,
価格競争を維持する効果を,製品差別化と広告への過剰な投資を抑え,技術 進歩を促進することも含めて幅広く評価し,広範な価格競争が維持される条 件を整備してゆく必要があるということであるO 例えば,これまで安易に認 められてきた不況カノレテノレ,合理化カノレテノレ,中小企業力jレテノレ,設的処理 カjレテノレなどの認可規準,行政指導による価格競争の排除や生産調整などに ついて再検討を行なうべきであると考える。むろん,カノレテjレが認められな ければ,その産業での価格競争は更に進行するが,それで直ちに技術進歩が もたらされるということではなく,価格競争の進行‑を通じて企業の技術草新 への姿勢の強化が期待できるのであるO
またインフレーションの進行中や超過需要の下での力jレテjレの実効性につ いての認識が改められなければならないと考えるO インプレーションや超過 需要の下では,カノレテノレがなくても一致した価格引上げは可能であったとし,
力jレテルの実効性が否定されることがあるが14) ,このj易合カjレテノレはより 大胆で,より迅述な価格引上げを可能にする役割をもっていることに注志す べきであるD インフレーションや超過需要の下では,カルテルがなくても純 粋のプライスリーダシッフ。が極めて有効に倒くため,企業問で一致した価格 引上げが可能なのは現実であるが,このような条件下でも企業は価格引上げ により担過市立さが消滅した1,1'1点における市場占拠不に│刻心を寄せているため,
!
日j;JiのようにU!li1名引上げωIri,¥と11!j= JU]をめぐるお門lが伐っているのである。 1t1
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なる価格引上げの契機をつくるためや一斉値上げによって顧客からの非難の 集中を避けるためだけでカルテJレ行為が行なわれるのでは決してない。
また,既に公正取引委員会によって提案されているように,カノレテル排除措 置のーっとしてカルテノレ価格をカルテノレ前の価格に一定期間もどすことも 一般にいわれているような価格統制の性格をそれ程もつものではない。つま り,カルテノレによって価格引上げが行なわれた場合でも,前述したようにカル テノレ前には企業間に価格の引上げ幅と時期をめぐる競争が残っていたにもか かわらず,乙れが不当な取引制限である共同行為によって排除されたのであ り,カノレテノレ破棄と同時に価格も原状にもどす乙とも競争条件をカルテル前 の状態に回復することに当然、合まれるからである15)。また,カノレテルの破 棄と併せて,カノレテノレの母体になっている組織の解散も行なわれるなら,カ ノレテノレによって価格引上げ幅についての基準が示されてしまっているとはい え,市場状況に大きな変化さえなければ,価格凍結期間の経過後に再び前の カjレテlレ価格にまで企業問で一致した価格引上げが実現するとは限らない。
企業合併については,主要な目的が市場支配でありながら,付随的目的で ある研究開発機能の強化と合理化,技術の効率的利用を強調するものについ ても,その審査規準の再検討が行なわれなければならないと考えるD 合併に より企業の研究開発能力が拡充されるのは事実であっても,技術開発への誘 因となる競争圧力の維持が重視されなければならなしiO特に今後は研究開発 機能の強化や合理化を強調する合併申請が増加すると考えられるので特に注 意が払われなければならない。またこれまで合併の認可に当っては,合併後 の市場占拠率の点から競争を実質的に制限しないとか,他に有力な競争企業 が存在するからという理由で認められてきたが,既に一般に指摘されている ように,企業間相互依存関係を強化する結果を生む,産業における企業数の 減少自体が問題とされなければならない。大企業聞の合併が阻止されなけれ ばならないととはもちろん,大企業と中小企業の合併,更には寡占化が進ん でいる産業では中小企業問の合併さえも再検討されなければならない。また 合併に類似した効果を生む企業聞の業務提携についても,合併の場合l乙準じ てその規制の再検討がなされなけばならない。
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割引小売商による価格競争の導入効果
わが国の場合,寡占企業による支配が強化されてゆく流通過程に草新的小 売商が価格競争を導入した効果は,少ないにせよある程度評価されなければ ならない。ガノレプレイス (]ohnK. Galbraith)は大規桜小売商の対抗力を 問題としたが16) 対抗力それ自体は,双方独占類似の状態を生むだけで対 抗力の面だけでは競争過程に大規模小売商がもたらした成果は充分には評価 されない。割引系大規模小売商の影響は,その対抗力によって独占的製造企 業の経路支配の一角を切り崩しただけでなく,流通過程に価格競争を導入し,
小売商一般の自立化を促し,さらに製造企業聞にも価格競争と技術競争を 引き起こしたものとして幅広く促えられなければならない。たとえ集中度の 高い寡占産業でも流通過程に割引小売商の割り込みが成功している場合には,
小売商問だけでなく,独占的製造企業問にも,その;立に反して価格競争が進 行する17) このような割引小売商による価格競争の導入を契機に製造企業 による最終需要の支配手段が無力化される傾向が羽われるが,逆に小売商は,
小売商問への革新的販売方法の没透もあって,それまでの一般小売価格の修 正と多商標の品揃えで消資者l乙自主的な選択機会を促供し,価格による刺激 で商標間流動性を高めた消費者に対し,独自の勤日力を発車Hするようにな る18)。製造企業は,販売のための顧客動員力について小売商への依存度を 高め,小売商に対する一方的支配は困難になるO また,革新的小売商の継続 的な市場割り込みによる小売!投開の多松化ゃれH~者の地理的移到性の拡大は,
消費者の居合il間流劫性も高めるが,この事実は製造企業にとって多松な経路 を通じての市場への供給を必要とし, jlilJ限的経路政策を不利にし,製造企業 による小売商の支配を更に因雌にするはずである。
一般に製造企業が広恒な市場没透をめざす場合には, '81J引小売I留にも依存 せざるをえず,その交渉力lこ従わざるをえない部分が生まれてくるが,特に 商標が市場で既に受容され,製造企業による特別の市要創造努力が必要でな い場合や商121間競争が激しい場合などでは,製造企業に対し大規税小売商の 交渉力が侵るのが普通であるlfl)。
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更に,大規模小売商は製造過程を統合し,商業者商椋 (privatebrand) を持つようになるが, しかしこの商業者商標の利用,従ってまた競争辺入上 の役割には限界がある乙とに注志すべきであるO 一般に商業者商棋は,製造 企業の全国商標 (nationalbrand)が導入され,市場地位を確立した後i乙, 全国商標の価格から割り引かれた価格で初めて消賢者が受容するに過ぎな し120〉。また,商業者商標の促進手段が主として価格であるため,製品は技 術差や差別化の程度が少なく,需要の商標間移動が大きいものに限られ る21)。商業者商標の製品内容が全国商棋に比較し,必ずしも劣位にあると は限らないが,小売商は自己の商標について大規模な市安創造機構を維持で きないため商業者商標はすでに市場地位を確立している全国商標との価格比 較でしか受容されない。しかしそれは地方的でしかなく,一般にその市場地 位は低いのが普通である22)。特に日本では寡占企業の商標に対し,商業者商 標の地位は極めて低い。今後は,消費者の製品の識別能力の向上により,商 業者商標が再評価され,また所得上昇により消費者の危険負担能力が拡大さ れたり,更に逆にインフレーションの進行により,価格に対する消費者の反 応が敏感になるなどの事情により商業者商標の市場地位の向上が期待できる 可能性はある23)。しかし前述のように,わが国の場合では,商業者商標の 地位が特に低いことと小売商が開発できる製品の範囲は限られるため,大規 模な製造過程の統合は不可能に近いと考えなければならない。また,本来多 品目の品j前えから成りたっている大規模小売商は,基本的には製造過程の統 合よりも多様な供給源に対する自由な評価者として譲歩を要求する方が適し ていることも否定できない。このように,製造過程の統合を行なった小売商 による競争導入効果をあまり期待する乙とはできないが,ただ小売商にとっ て安定した供給源の礎保という面では今後ある程度の志義をもってくること も考えられる24)。しかしやはり小売商は,生産への投資は最小限l乙止め,
供給源選択の自由を最大限に維持しておく必要があるO ただ,単なる仕株主:j 発注による商業者商標は,製造企業の全国商椋との競争価格から出発して発 注先を選択できるため,製造過程の統合の場合のような硬直牲は国主主でき,
主として価格アピーノレで促進するという姿勢も維持されるとゴ3えられるO ま
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た製造企業から商業者商標の下で初めて供給を受け,ある程度の割引価格が 認められることもある。しかし,いずれの場合も製造企業聞に価格競争を導 入する効果は,商業者商標の市場地位からみて,製造企業商標の直接割引よ
り小さくなるのは避けられないO
いずれにせよ,商業者商標については一部の製品領域について製造企業の 市場を圧迫しながら,その独占的価格行劫を若干抑制する役割が期待できる だけで,一部に期待が寄せられているように,製造企業が支配する経路lこ対 抗できるだけの新しい経路を構成するまでには至らない。特 ~r,独占的行動の 弊害が顕著になっている集中度の高い産業では,大規模小売商でも充分な製 品開発能力を持たない場合が多く,競争導入の必要性が最も高い産業分野で は商業者商標の確立自体が不可能である。更に注73すべきことは,商業者間 標の導入の動機が,しばしば高利幅の獲得と顧客固定である乙とであるo;IM 引系小売商の草新性は,製造企業の需要固定政策と独U‑i価格政策の修正にあ るが,このような劫機で導入される商業者商標は,そω革新性のために独自の 市場地位を達成した小売商が,草新性を圧縮し,独占的行!日u!こ向う肢体でも ありうる。ただ商業者商141の地位が低いために全国商収に対し低価格政策が とられるに過ぎず,可能であれば製品差別化を強化し,全国広告を行なって 競争的地位を強化し,独占的価格行動が可能な条件をつくろうとする傾向が みられることからもこれは理解できるはずである。商業者i羽根の性格を充分 吟味せず,その競争導入効果を不当に高く評価する多元的流通システム論25)
は,生産独占に対抗することよってではなく,生産独占と類似の政策をとる,
むしろ場合によっては消費者に近いために,生産独占以上の消技者支配をめ ざす生産と流通を統合した独 I~i 体を育成するための理論的基探となる危険を 含んでいる。ただこのような政策は,前述のように,小売商は大規脱化して も製品の開発やそのi!J場導入の能力を充分もつことができないため宍現不可 能ではあるが,後述するような, ',1;.1j引系小売商の自由な行動を促進するため の条件の整備のための反独Ili政策の主要性から注目を反らせる役;刊をもつこ とに注Jぷしなければならない。
;liリ引小売商が用いる W\~IM な fß{MH存政策の↑'1: 1各ゃ ;7411干についても吟味してお
98 経 営 と 経 済
く必要がある。割引系の大規模小売商がその品揃えの一部について短期間採 用する極端な低価格,つまり欠損利幅ないし負利幅の価格がどのような目的 で用いられ,それは周辺小売商,製造企業,消費者行動などに対しどのような 影響や効果をもつかについて吟味する。周辺小売商への影響の問題でまず指 摘されねばならないことは,エントリー・コストが大きい産業における製造 企業の侵略的価格政策とは異なるということである。消賢者は,購買に当って 便宜性など価格以外の要素も重視するため極端な低価格政策を実行しても,
競争者の徹底的な排除は不可能で,多数の競争的周辺が残ることになるO ま た,本来小売業へのエントリーは容易であり,たとえ主要な競争者を排除して も,独占的価格行動は厳しく制約され,極端な低価格による小売独占の魅力は 少ない。つまり,極端な低価格が小売商によって競争者の排除や独占の達成 に用いられる可能性は極めて低いといわざるをえない26) 。 事 実 , 極 端 な 低 価格政策は競争者の排除というより,単なる一時的な顧客動員のために,一 部の製品種類について極く短期間用いられるに過ぎない。
極端な低価絡政策が直接競争者の排除のために用いられる乙とはないにし ても,小売商聞に過度の価格競争を引き起こすかどうかの問題は残るD 極端 な低価格政策をとる比較的規枚の大きい小売商は,それぞれ特徴をもっ幅広 い品揃えをもつため,それらの聞に直接の競争的相互依存関係は薄いのが 普通であるO そのため,小売商問で極端な低価格が設定される製品に重複は みられず,反撃的価格切下げが行なわれることも殆どない。つまり,ある小 売商の極端な低価格を発端として,小売商聞に過度の価格競争が起こること は殆どありえない。更に,極端な低価格が設定される製品の多くは有力商事主で あり,この場合にはこれらの向棋の製造企業は卸売商を迎じて,または直接 的に小売商に支配力や影響力を及ぼしており,出荷政策によって小売商の背 後で小売商問で、の直接の価格競争にならないように極端な割引計画を調整す ることができる27)。この,J:J1合では,特に過度の競争に発展する成会はあり えない。しかし大型小売商の極端な低価格がいくらか価格競争の圧力を高め,
周辺小売商を圧迫することはありうる。そこで, 占+ω 1
がどの程度の影響を周辺小売向尚.に与与.えるカか〉ωH別n¥)りJJ題i迫目が│吟l吟今味されねばならなしいi9
競争過程と反独占政策 99 一般に大型小売商の顧客動員力の主力は,非広告製品とその価格であるO
極端な低価格がつけられる製品も含め,特別割引が行なわれる製品ーこれら については価格広告が行なわれるがーこの特別割引の製品は,補助的な!碩右:
動員力でしかないO 従って,一般に周辺小売商は大型小売RYiの価格広告が行 なわれる時の価格に対抗する必要はなく,まして極端な低価格に対抗する必 要は殆どない。周辺小売商は大型小売商の非広告時の価格,非広告製品の価 格を基準にその価格政策を調整するだけで充分である。大型小売商でも,ゴド 広告時の価格,非広告製品の価格は,周辺小売商が対抗できない担低くはな し128〕。また,このような大型小売商の杭端な低価格によって若干強化され た価格競争の圧力の下で小売商は消費者への必要なサービスの捉供や庖制へ の必要な投資が困難になるかという問題がある O このような弊 it~ を強制する 小売商は,一般に価格競争を回避し,製造企業からの指示や援助の下で製造 企業の無差別な需要創造と独占価格の維持に自らも高利│隔をえて協力してい るが29) 価格競争がいくらかでも強化されると実行が困難になるといわれ る消費者へのサービス提供や居舗への投資の大部分は,この需要創造的なも のである。それは特別の居合!日イメージやプレステイジで消費者を自己の居合il
に固定し,高価格を受容させるための居舗の差別化である。街取的に用いら れる極端な低価格には,このような居舗の差別化の需要創造効果や顧客の回 定効果を低下させる効果が期待できるO 消費者は価格による刺激を受けて価 格と製品そのものへの反応を強め,居合Ii問を流動し始める30)口 小 売 商 は サ ービスを消設者探従的なものから,製品についての消費者苦情の処:f:1n,打消i市3買 者の自主的t伏決」火た:と;定のための;製忠足l品情報のJ捉足供へとその政策の転換を余f儀義なくされ,
また居舗の内容も?消自Z費5者の庖制舗i内シヨツピンクやの使'1白丘3主
r
引:t↑性│ の転換を迫られる傾向が現われる。次に,小売商の根立;iiな低価格政策が製造企業 lこ与える影科,つまりそれは 製造企業の経路組織を破壊したり,製造企業問に製品の信頼性,耐久性,仕 様内容の低下を余儀なくさせるような価路競争を引き起こすかというrHlllilを とりあげてみたい。 IIIJ述のように,一般に特別主IJ引の対象とされる製品は,
消費者が既に充分受容している有力t{Of:~ll であり,短期間だけ採用される特定
100 経 営 と 経 済 小売商の極端な低価格によって,またこの低価格を契機にいくらか利幅の圧 縮があっても,これらの商標の取扱いを一般の中間前が拒絶することは殆ど ありえない。また,製造企業聞に製品の信頼性,耐久性,仕殺などの低下をも たらすような過度の競争を引き起乙す契機にならないかという問題がある が,特別割引をめぐって小売商聞にも価格競争に限度を設けようとする傾向 が強く,また特別割引の対象とされる有力向椋の製造企業ば,前述のように,
中間商に対し支配力や影評力を及ぼしており,小売商聞の価格競争をある程 度合iJ御できる立場にあるため,過度の競争が製造企業間に発生する基盤は少 ないといえるO むしろ街撃的に採用される:ii,u端な低価格は,消費者の中にあ る価格と製品内容,居舗と製品内容の辿合を破壊し,製造企業に製品の技術 的改善や新技術の導入を促進する効果が期待できると考えられるO
公正取引委員会では,審決例はないにせ,小売商がその品揃えの一部につ いて極く短期間用いる屈端な低価格も不当廉売,ないし不当顧客誘引として 規制の対象としており31)特に昭和48年8月には再販売価格維持契約につい て独占禁止法の指定品目の大幅削除と併せて提案された「小売業における特 定の不公正な取引方法」の指定によって仕入原価に一定利幅を加えた価格以 下での販売を不当廉売として規制しようとしたが,これは小売商の板端な低 価格政策の性格や効果が認識されないまま,常識的な判断に従って提案され たものに過ぎない。このような小売商の粧品jな低価格政策の性格や効果につ いては,例えば今村成和氏32) が小売商の不当日記売がありうることを指摘し ていることでも分るように,殆ど分析されておらず常識的理解の領域を出て いなかったといえる。また,前述した公正取引委民会の「小売業における特 定の不公正な取引方法」に関する指定案については,マーマティングや流通 経済を専攻する者からも若干の代表的立見が出されたが,その殆どが常識的 分析に止まり,中にはエントリー・コストが大きい産業の中核的企業が競争 者排除の目的で行なう侵略的価格政策と大規模小売商の競争価格や顧客刺激 のための低価格政策との区別さえできなかった者がいたことは,わが国にお けるマーケティングや流通経済についての分析水準の劣悪さを如実に示した
ものに他ならなかった。
競争過程と反独占政策 101
最後に,割引系大規模小売商の独占的行動の問題であるが,都市において みられる少数の大型小売商による小売市場の集中化はこれらの小売商の独占 的行動の基盤となる危険性をもっているのは事実である。つまり,大型小売 商は,市場割り込みのために低価格政策と草新的販売方法をとっているので あり,一旦満足できる市場地位を達成すると,周辺小売商に対しプライスリ ーダとなり刊引率を低下させ,特別の需要を創造し,高価格を受け入れさ せるための居舗の差別化への投資を強化し始める。特にわが国では,泊資者の 購買行動が都心部やその周辺に集中しているため,割引小売商も自然都心部 周辺に立地することになり,このような立地はエントリーコストが日く早 期に割引率を低下させ,その独占的行動が顕著にみられたO と乙ろが,現在 では割引価栴に対する反応がかなり広純化しているため,日本の坊合はその 機会がかなり制約されているにせよ支配 (j~-f1fJ見地位を達成した小売尚も叫引 率を低下させるとより高い割引率で新しし");J¥売商のエントリーを招く恐れが あり,その独占的行劫はかなりi!ilJ約されているのも事実である33)
更に,インフレーションの進行は的資者間に実質所得が減少しつつあるとい う認識を高め,消究者の価格への反応を高めると同時にそのHlfi貝行;Jl/Jを
34)
計画化させる効果をもっている 。インフレーションの進行により消沈者の 価格への反応が大きくなると,周辺小売商と協調路線をっとていた割引系大 型小売商が,再び2E新性を回復することにも注;立すべきであるお)。 寡占化し た産業では,インフレーションの進行中でも,価格引上げは述法な協定また はプライスリーダシップなどの方法で企業1mの価格行動に協調がみられるが,
小売商問ではこのような協調は欠如するのが普通であるD その結果,大型小 売商より周辺小売商の価格引上げl陥が大きくなりがちで,価格への反応を強
めている消費者は,大型小売商に吸収される結果になる36)口
さて以上の分析を恐慌にわが国の反独占政策について特に述べたいことは,
小売商問に価格競争を維持する効果を,一般小先i荷が独占的製造企業からの 支配から脱JJWするため経路が閃かれるという場合も合めて幅広く促え, ',lfIJ引 小売商の活IVJや発展を抑制しているみ:占企業の経路政策を排除してゆくべき であるということである。わが国の場合は,市場占拠ネのIiJjし、製造企業lこ
102 経 営 と 経 済 よる中間商の系列化やその市場行動の拘束が反独占政策によって充分排除さ れていないため,割引小売商はその独占性のためにもあるが安定した供給源 の確保のため割引率を低下させる事態に至っている場合も多いこと,および 新しい割引小売商のエントリーを困難にしていることに注目しなければなら ないD
このように わが国の割引小売商は,かつての革新性を失ないつつある が,しかし例えば強力な競合屈がある場合には,特別の競争価格を採用する とか,割引率は高くないにせよ価格広告を行なうとか若干の革新性を残して おり,また競争商標の品揃え,消費者の自由な選択の尊重,小さいにせよ小 売利幅の圧Fijiなどの傾向を生みだしたが,これらはいずれも独占的製造企業 のマーケティング政策に修正を迫ったものとして評価されねばならない口こ のような傾向は,消資者の購買行動の計画化の進行に支えられながら強化さ れてゆく可能性があり,既存の割引系小売商の革新性を強化するために,ま た新しい割引小売商の登場を促すために,その障害となっている独占的製造 企業の経路支配を反独占政策の強化によって排除してゆく必要があるo不幸 にもわが国においては,先にも言及したようにマーケティングや流通経済に ついての研究水準が極めて低いこともあって,寡占産業への割引系小売商に よる競争導入効果が一般に正当に評価されていなしiO特に,昭和48年に成立 した「大規模小売庖舗における小売業の事業活動の調整に関する法津J37)
は,従来の百貨庖法と異なり,独占的行動が顕著な百貨屈だけでなく,事実 上スーパーマーケットの規制も目的としたものであり,寡占化した産業や硬 直化した流通機構への革新的小売商による競争導入のダイナミックスとその 効果が政府(通商産業省)においても認識されていないために生れたもので ある。生産段階で寡占化が進み,独占の弊害が顕著‑になりつつある現状では,
割引小売商による価格競争の導入に期待が寄せられねばならないのに,周辺 小売商の保護の名のもとに,消費者の立場ーからばかりでなく,国民経済の活 動性を維持する観点からも決して好ましくない規制,しかし独占価格の維持 を追求する寡占企業にとってはさし当って好都合な規制が行なわれることに なったのである。
競争過程と反 j~I 占政策 103
このように,わが国では居舗の大規模化と併せ行なわれる小売業への草新 の導入はこれまで以上に制約を受けることになるが,しかし消費者の計画的 購買行動に沿った草新的販売方法や割引価格に対する消費者の反応について の認識が小売業界でもかなり広汎にゆきわたっている現状を考えると 価格 競争を含む草新的販売方法の導入は必ずしも大規模庖舗を媒体としない場合 もありうるので,革新的小売商の発達の余地がそれ程圧縮されているともい えない。特に,反独占政策の強化により寡占企業の経路支配を排除し,小売 商や卸売商の自由な市場行動を可能することによって必ずしも大規枚目舗を 媒体としないでも,草新的小売商の発達を促進することができる機会が残さ れているO 先にも述べたように,わが国では寡占企業の経路支配を排除する ための反独占政策が徹底しなかったため,ようやく育ち始めた割引小売商も 供給源確保のために早期に割引率を落とし,その革新性を失なっていったが,
さらに現在では「大規模小売居舗における小売業の事業活動の調整に関する 法律」によって強力な小売商による底的の大規校化を媒体とする草新と価j各 競争の導入の機会がある程度制約されるため,寡占企業の経路支配を排除し 中間商の自由な市場行動を保証する必要性はこれまで以上に大きくなったと いえる。
一般に,中間商の市場行動を抱束している,XJ;占企業の経路政策には,独 占価格の維持や競争者の排除に関するものと販売促進に関するものとがあるo
例えば寡占企業は卸売や小売の水準での独占価格の維持を目的として,中間 商に対し契約と同契約違反の場合最終的には取引拒絶によって再阪売価格の 維持を直接強制する他,単に再販売価格を示唆するだけであるけれども,中 間商に仕入先や販売先(または販売地域)を指定したり,競争製品の取扱い を制限することによって商収内競争や他商標との競争の機会を削減し,事実 上再販売価格を維持することがある38)。また,同様に寡占企業は販売促進を 目的として販売割当の強制や抱合せ販売を行ない,また競争者の排除も目的 として,一手販売契約によって特定地域での独占を保証したり,専売庖契約 などによって競争製品の取扱いを制限したりする39) 乙 の よ う な 寡 占 企 業 の経路政策のうち現行の独山禁止法でも,顧客,販売地域,価格などについ
104 経 営 と 経 済
ての抱束条件付取引は違法であり,一千販売契約や専売居契約など排他条件 付取引も競争者排除の程度が大きい場合は違法で,審決例もある40)口更に,
昭和49年9月からは,再販売価格の拘束について独占禁止法の適用が除外さ れる品目が大幅に削減され,また卸売商に対しその販売先を指定すると同時 に小売商に対してはその仕入先を指定するー庖ー1[1長合制の規制も強化される 方向にある41)。
経路支配の子段としてしばしば取引拒絶が用いられるが,これまでこの取 引拒絶は,たとえ独占的企業であっても,事業者が単独で行なう場合には,
取引拒絶を受けた事業者が他の取引先を見い出しうる限り,その不当性はな いものとみなされ42) ,ただ拘束条件付取引や排他条件付取引など不公正な 取引の強制手段として用いられる場合に限り,不当なものとして規制の対象 とされてきた43)。乙のように,独占的企業が行なう取引拒絶もそれ自体に は不当性はなく,独占力の行使のために用いられる場合に限り違法とされる だけでは,現代のように生産段階での集中化が進み,過剰な製品差別化や大 量広告による独占の弊害が顕著になっている条件下では,競争導入上の重 要な拠点が見逃がされているといわざるをえない。製品差別化と大量広告で 商標に対する消費者の特別の選好を創造し需要を固定している企業が,中間 商聞の価格競争の機会を排除するために限定的経路政策をとる場合だけでな く,その流通政策に従わせることー特に再販売価格の維持ーに特別の努力が 必要な中間商とは当初から取引しないという場合を問題としたいのであるo
つまり,現代の産業,特に消費財の産業に広汎にみられる製品差別化と大量 広告を基礎とした独占がその独占の政策に進んで協力する中間商だけを利用 する選択的経路政策によって流通過程における価格競争の機会が排除される 場合が問題とされなければならないと考えるのである。製造企業のこのよう な経路政策が安定した調達経路の確保のために小売商の自律性や革新性を後 退させ,また新しい革新的小売の登場を阻止してきた弊害は極めて大きいと いえよう。インフレーションの進行に伴う消費者の実質所得の低下や,原材 料費と労務賀の高騰により低価格政策が困難になることなどにより大量需要 の創造が困難になると,独占的企業にとってその流通政策に進んで協力する
競争過程と反独占政策 105 中間商だけを利用する選択的経路政策に不利な点は少なく,今後このような 経路機構によって独占価格が維持される場合が多くなることを考えると,独 占的企業が中間商を選択する自由の制限,つまり選択的経路政策そのものの 排除を行なう必要があると考える。
競争的でない産業における,極端に高い市場占拠率を占める企業を分割す ることが独占禁止法の改正案で提案されているが,かつて大型合併さえ阻止 できなかった事情を顧みると,かつてのように国際競争力の強化を強調する こともできず,また独占の弊害に対する国民の批判が高まっているとはいえ,
わが国の政府の構成や性格,分割方法をめぐっての難問などからみて,たと え独占禁示法に分割規定ができても実際に分割が行なわれる事態を考えるこ とはできない口ありえないことではあるが,たとえーっ二つの極端な独占を 分割し特定の産業を競争的にすることができたとしても,多くの産業で集中 化が進んでいる現状をみると,これだけで国民経済の構造を競争的にするた めの貢献度に極めて低いであろう。また特定の極端な独占が分割される場合,
その産業では他に独占力をもっ企業が存在しないか,またはその産業で主な 独占力をもっ企業のすべてが分割されない限り,どのような分割方法をとる にせよ,分割された企業のマーケティング力は分割に不比例的に低下し,む しろ二位またはそれ以下の独占力しかもたなかった企業のいずれかが急速に 市場支配を高めてゆく可能性が大きく,分割の対象とされた産業でさえ分割 はその産業を一時的に競争的にするに過ぎないであろう44)。むしろ今後は,
大型合併はむろんのこと,ある程度集中化が進んでいる産業では,すべての 合併を阻止することに最大の努力を払うべきであり,また同時に独占的企業 に対しては,不公正な取引の規制を強化し,更に進んで,その取引相手を選 択する自由の(!;Ij限,つまり選択的経路政策そのものを排除する方が述かに実 行が容易で,なお有効な独占対策ともなりうるであろう。
注1) Cf. Hen H. Vil1ard, Competi tion, Oligopoly, and Research,"
Journal 01 Political Economy, December 1958.
Richard R. Nelson, Mertin ,] Peck and Edward D. Kalacheck, Technology, Economic Growth a ld Public Policy (Brookings, 1967)