地域金融構造‑のアプローチ ( Ⅰ Ⅰ Ⅰ )
斎 藤 一 朗
〔日 次〕
は じめ に
Ⅰ. これ までの研究
ⅠⅠ.地域金融研究の方法論的課題
(以上第46巻 第2・3合併号)
ⅢⅠ.銀行資本の運動の機能的側面
Ⅰ Ⅴ.
銀行資本の運動の空間的側面(以上 第46巻第4号)
Ⅴ.
地域金融構造の分析枠組 み と主要論点 地域金融研究の分析課題地域金融構造の分析視角
地域金融構造の分析概念 フ レーム ワーク 地域金 融研究の政策論的側面
むすび にか えて
(以上本号)
〔 2 5 1 〕
Ⅴ.
地域金融構造の分析枠組み と主要論点 地域金融研究の分析課題銀行資本の循環範式
G‑W 〈 A p m‑B k‑G'
を 「経済時間範式」であると同時 に 「経済空間範式」として捉 えるな らば,銀行資本 は自らの循環 を以て,預金循 環G。 ‑BK
‑G。'と貸出循環GL・ ・ ・ BK
‑GL'が展開す る空間 を重層的 に編成 す る。裏返 して言 えば,銀行資本は預金循環 と貸出循環が完結す る空間を編成 し て,は じめて自らの循環 を貫徹す ることがで きるのである。そ して,銀行資本の 取 りうる許容 リスク範囲を一定 とす るな らば,預貸不均衡の均衡化 を動因 とする銀行資本の空間編成 は,外延的な拡大 を指向す ることとなる。
その一方で,銀行資本 は,本支店の立地体系 によってその骨格が与 えられ る空 間を,自らの内部空間 として指定する。この内部空間の措定 こそが,営業地盤 と
しての 「地域」の析 出にほかな らない。銀行資本はこの独 自の 「地域」概念 を以 て,自己中心的な空間運動 を展開す るのである。この場合,銀行資本の空間意識 において析 出された内部空間 としての 「地域」と生活圏や行政 圏を単位 とす る地 域が,その領域 において一致す る保証 はない。別言すれば,内部空間 としての「地 域」を措定 しつつ外延的な空間運動 を展開す る銀行資本 にとって,生活圏・行政
圏 としての地域 は展開空間の部分でこそあれ,すべてではないのである。
もちろん,そ うした銀行資本の空間運動は,生活圏・行政圏 としての地域 に対 して,ときには無視す ることので きない影響 を及ぼすであろう。すなわち,銀行 資本の空間運動 は,金融取引の制度的枠組み と地域経済のマ クロ的条件 との相 互依存関係 を通 じて,当該地域の金融構造 を規定す るのみな らず,実物経済 との 連関を通 じて地域経済全体の盛衰 にも影響 を及ぼ し,ひいては地域 間格差 を形 成する要因 ともなる。この意味において,銀行資本の蓄積運動 こそが地域経済の 金融的側面 を動態的に規定するといって も過言ではない。
この ような認識 に立 って,地域金融研究は,銀行資本の空間運動 に規定 された 地域金融の構造的特質 と,地域 を基本単位 として展開す る金融の地域的分業一 金融の地域構造‑ の解明を通 じて,地域経済が発展過程で直面す る諸問題 を金
地域金融構造‑のアプローチ
( Ⅰ Ⅰ Ⅰ ) 253
融的側面か ら検討す るこ とを自か らの課題 として設定す る。この意味 において, 地域金融研究は金融論か ら派生す る一研究分野であるが,以下の二点において, 金融論 とは異なる地域金融研究 としての独 自性 を もっている。第一 は,金融構造の捉 え方である.金融論では専 ら国民経済的な観点か ら,各 経済主体の金融活動や経済主体間 を結ぶ金 融仲介機能の在 り方 に注 目す る。 そ の際,国民経済が展開す るところの国土空間はいわば質点 として認識 され,その 空間的な拡が りはさほ ど問われない。しか し,国土の部分空間である地域の金融 構造 を捉 えるためには,その地域 における金融伸介機 能の在 り方 を主体 的な側 面か ら明 らかにす ることは もとよ り,金融仲介機能の立地 ・配置 とこれ を軸 とし
て展開す る資金の域 内外流動 も併せて検討す る必要がある。すなわち,経済主体 間 を結ぶ金融仲介機 能の態様が異 なれば,金融構 造の類型が異 なるこ とはい う
まで もない。しか し,金融仲介機能の態様 が同一の類型に属 した として も,金融 仲介の空間的形態が異な るな らば,金融構造が同一であるとはいえない。それゆ え,地域の金融構造 を解明す るためには,これ を金融仲介 の機能軸 (あるいは主 体軸)と空間軸の両軸か ら統一的 に捉 える必要があろう47)0
第二 は,国民経済的 に構築 された金融 システムを前提 としなが らも,地域経済 の発展 に向けて, どの ような 「地域金融 システム」が望 ましいのか を検討す るこ とである。 もちろん,「地域金融 システム」は国民経済的な金融 システムを構成 す るサブ・システムであ り,それ 自体で独 自的・自律的に存在す るわけではない。
しか しなが ら,国民経済であるか地域経済であるかに関わ らず,経済発展 ‑社会 的分業の拡大 に とって,整備 された金融機構 の存在 は不可欠である。それゆえ, 適時的に変化 してゆ く制度的 ・技術的諸条件 と経済 主体 の行動パ ター ンを呪み なが ら,「地域経済の発展 に向けて,どの ようにすれば地域の経済発展 に必要 な 通貨が安定的に供給 され,必要 な資金が円滑 に蓄積 され融通 され るのか」を政策
47 )
こうした地域金融構造の捉え方は,千葉編〔 1988 〕第 1
章 (矢田俊文執筆)および矢 田編 〔1990〕第 2
章 (同)の示唆によるところが大 きい。矢田は,国民経済の地域構 造を,①再生産構造と,(診それに規定された諸生産部門・諸機能の立地・配置,素材・価値の地域的循環の両面から捉えている。
的に検討 してい くこ とは,地域金融研究の課題のひ とつである48)0
地域金融構造の分析視角
では,この ような研究課題 をどの ような分析視角か ら検討す るか。ⅠⅠで指摘 し た 「地域的視角」の問題点 を克服す るうえで,分析視角 を提示 してお くこ とは必 要であろう。
「地域的視角」が抱 える方法論的課題 をご く簡単に述べ るな らば,① そ もそ も
「地域的視角」には統合的な分析 フ レーム ワークがな く,個 々の研究テーマが散 在 し,研究全体‑の位置づ けが希薄である,②行政 圏 としての地域の境界性 とそ こでの特性抽 出を強 く意識 した結果,地域的 な特性 の形成論理や地域金融問題 の所在が見失われて しまった,(卦国民経済的 な金融 システムの構成要素で ある 地域金融 を問題 としなが ら,金融の地域構造 との関連性 がほ とん ど等 閑視 され きた とい うことである。これ らの問題点 を踏 まえて,研究課題 を機能 と空間,マ クロとミクロとい う視角か ら区分す ると,地域金融研究のパ ースペ クテ ィブは 表 1の ように示 され る。
第一 は,ある特定の地域 に固有の金融現象 を,その機能的な側面か らミクロ的 に分析 しようとす るものである。ここでは,地域 に走在す る銀行資本の利潤追求 行動の分析 を基軸 として,銀行資本の周辺 に位置す る地域住民の貯 蓄行動や企 業の資金調達 ・運用行動,政府 ・地方 自治体等公的セクターの財務行動な どが, 主要な分析 テーマ とな る.
4 8 )
ちなみに,杉村〔 1991
〕第3
章および同〔 1 99 5
〕第5
請では,地域金融機関経営の 立場から,地域金融機関,地方自治体,地域企業,地域の大学,そして地域住民から 成る地域内ネットワーク体制の強化 と,それを基盤 とする「自立水平型地域金融シス テム」の構築を提唱 している。だが,杉村が提唱する「自立水平型地域金融システム」は,いわば銀行資本の論理に基づ く「地域」の主体的再編であり,本稿でいうところ の「地域金融システム」とはニュアンスを異にすることを注意 しておこう。本稿の立 場は,生活圏・行政圏としての地域に視座を据え,地域で自律的に展開する銀行資本 の金融仲介活動を基軸 としながらも,それを望ましい方向に誘導する地域的な金融 インフラの整備やそれを補完する政策金融の在 り方を含めて,生活基盤・産業基盤 と
しての 「地域金融システム」を考えようというものである。
地域金融構造へのアプローチ
( Ⅰ Ⅰ Ⅰ )
表 1 地域金融構造の分析視角ミ‑クロ的な分析視角 マ クロ的な分析視角 対 機 能的側面 ①銀行資本 をは じめ ②地域経済 の実物的 秦 (主体的側面) 地域 に定在 す る経 側 面 と金 融的側 面
と し て
地の 済 諸主体 の ミクロ のマ クロ的相互作
行動 用
空間的側面 ③城 内サブ空 間 にお ④域 内サブ空間間 . 域
金融 け る金融伸介機 能 対城外 におけ る金
2 55
第二 は,地域金融の機能的側面 をマクロ的 に分析す るものである。例 えば,銀 行資本のバ ランス ・シー トや地域的なセグメ ン ト情報 を主要な手がか りとして, 地域 に定在す る個 々の経済主体が どの ような預貸連 関 によって取 り結 ばれてい
るのか,地域経済の実物的発展 と地域金融のマ クロ的 な相互作用 は どの ような ものなのか を取 り上 げる。
第三は,地域の金融現象 を空間的・ミクロ的 に検討す ることである。ここでは 地域の空間性 に着 目して,域 内サブ空間における金融伸介機能の配置 を類型化 す る。すなわち,金融仲介機能が城内サブ空間にどの ように配置 され,いかな る 業態がそこでの金融仲介活動の主要な担 い手 となっているのか。城 内サブ空間 における金融仲介活動の特色は何 か (例 えば,域 内サブ空間の預貸金総量や一人 当た りの預貸金の分布,預貸金利 の分布,預貸率の分布 な ど) を検討す る。
そ して第四は,地域金融の空間的側面 をマ クロ的 に捉 えるこ とであ る。 これ は,城 内サブ空間間の資金的連関 (‑城内資金連関)と域外 との資金的連関 を明 らかに しようとす るものであ り,地域の金融構 造 に関す る研究 と金融の地域構 追 (国民経済的な資金循環の空間的な編成)に関す る研究の接点なす49)。 さらに は,域 内の産業配置 と地域金融の空間的側面の対応関係 を検討す るの も,ここで
49 )
拙稿〔 1 996
〕では,北海道における資金連関の空間的側面に着目して,預貸金の地域 連関表の提示を試みている。の課題である。
さらに, これ ら4つの分析視角か ら明 らかにされた地域の金融構 造について の知見 を,より豊富な もの とす るためには, もうふたつの視角が必要 となろう。
ひ とつは,同一時点における他地域 との比較である。全国平均 との対比や他の 地域の金融構造 との比較分析 を可能を限 り行 うことである。 しば しば金融の地 域特性 として指摘 され るところの ものが,はた して分析対象地城 に固有の もの なのか,あるいはまた他の地域 において もみ られ るものなのか,これを明 らかに す ることが重要である。
もうひ とつは,同一地域 における異時点間の比較である。現在それぞれの地域 で成立 している金融構造は,いずれ も,その ときどきの歴史的な状況のなかで生 成 されて きた ものである。金融取引の制度的枠組みや地域経済のマ クロ的条件 に変化が生 じるな らば,地域の金融構造 もまた変化 しうる。地域の金融構造がこ れ までにどの ような条件の もとで形成 され, また どの ように変化 を遂げて きた のかを明 らかにす ることは,今後の構造変化 の方向性 に見通 しを与 えるもので ある。
地域金融構造の分析概念 フレームワーク
それでは,以上で述べた視角に基づ いて,地域金融構造の分析概念 フレームワ ークを素描 してみることに しよう。
先に述べたように,地域の金融構造は基本的に,当該地域 に本支店 を配置す る 銀行資本の蓄積運動 に規定 され ると考 えている。このため,分析の焦点はさしあ た り預貸構造に当て られる。ここでいうところの預貸構造 とは,①金融に関わる 法 ・規制 ・慣行等,金融取引の前提 となっている制度的枠組み,②地域経済の産 業構造や,それ と密接 に関連す るところの再生産構造 といったマクロ的な諸条 件,③それ らを前提 とした銀行資本の金融仲介行動パ ター ンという
3
着の相互 依存関係 である。すなわち,銀行資本はq)と② を与件 に,預金取引‑貸付可能な 貨幣資本の析出‑貸出取引 という一連のプ ロセスか ら成 る金融仲介活動 を展開 す る.この金融仲介活動の結果 は(参にフィー ドバ ック し,銀行資本の蓄積運動 に地域金融構造へのアプローチ
( I I I ) 2 57
とっての新 たな与件 をなす。しか し,ときには②の変化が銀行資本のイノベ‑チ イブな行動 を惹起 し,この動向を追認す るかたちで(彰が改編 されることもある.ところで,こうしたフィー ドバ ック・プ ロセスの在 り方は,必然的に,銀行資 本の本支店バ ランス・シー トに反映 され,そこにおいて集約的に表現 される。本 稿でのアプ ローチの基本は,地域 に走在す る銀行資本のバ ランス・シー トを地域 における預貸構造のいわば表象 として捉 え, これ を帰結す る預貸取引の地域的 特性 を,先の
4
つの分析視角か ら解明 しようとす るものである。本稿の分析概念フレームワークは,図
6
に示 され るように,「金融環境要因」‑ 「銀行資本の収益メカニズム と行動パ ター ン」‑ 「地域金融の構造特性」 (「機 能的特性」 と 「空間的特性」)か ら構成 され る。以下では,各概念 と概念間の関 係 について説明 しよう。
図6 地域金融構造の分析概念 フレームワーク
金 酸 環 境 要 因
金 地 融 域 敢 経 済 引 の の 制 マ 度 ク 的 ロ 枠 的 組 条 み 件
金 融 環 境 要 因 の 変 化
銀行資本の収益メカニズムと行動パ ターン
金敵環境の変化に適応するための萌整行動
銀 行 資本 に よるイ ノべ ‑テ ィプ な行 動
地 域 金 融 の 構 造 特 性
≡ ≡ ≡ ≡ ≡ ; … ≡ ≡ ≡ > ‑特 性
構 造 特 性 の 発 生 ・維 持 ・ 消 滅
新 た な 地 域 金 融 の 構 造 特 性
「金融環境要因」は,大 き く区分 して 「金融取引の制度的枠組み」と 「地域経 済のマ クロ的諸条件」か らな り,銀行資本の蓄積運動 に とっての外生的条件 をな す50)。 もちろん,銀行資本のイノベ‑テ イブな行動‑ 「金融環境要因 (金融取引 の制度的枠組 み
)
」とい うフ ィー ドバ ックの可能性 を否定す るものではないが, 行動追認的な制度の改編 を問 うこ とは, ここでの分析 に本質的な意味 を もたな い。 それゆえ,大筋 においては,「金融環境要因」‑銀行資本の蓄積運動 とい う 一方的な因果関係 を想定 している。「銀行資本の収益 メカニズム と行動パ ター ン」は,地域金融構 造の動態 を説明 す る基本的な変数である。すなわち,「金融環境要因」に制約 されなが ら,銀行 資本 は金融伸介 を生業 として,自らの蓄積運動 を展開す る。だが,銀行資本が地 域 における金融仲介の担 い手 とな りうるの は, 当該地域 での活動が 自らの資本 蓄棟 に寄与す る限 りにおいてである。この意味で,地域 における「銀行資本の収 益メカニズム と行動パ ター ン」の如何 は,銀行資本 を動機づ け,蓄積運動 を通 じ て形成 され る 「地域金融の構 造特性」 を大 きく左右す る。
「地域金融の構造特性」は,「金融環境要因」 と 「銀行資本の収益 メカニズム と行動パ ター ン」によって規定 された預貸取引の状態である。ここでは多様 な構 造特性 を,経済主体の側面 において捉 える 「機能的特性」と空間的な側面 におい て把握 す る 「空間的特性」のふたつ に区分 している。前者では,「金融環境要 因」
と「銀行資本の収益 メカニズム と行動パ ター ン」に規定 された預貸取引の ミクロ 的・マクロ的な態様 と,預金取引に条件づ け られ る貸付可能な貨幣資本の形成 に 焦点が当て られ る51)。後者では,金融伸介機能の域 内配置 とこれ を巡 る資金の城 内外流動 に着 目して,銀行資本が金融の空間的分業 をどの ように編成 ・再編 して
50)銀行資本の蓄積運動を巡る金融環境 としては,これ以外にも,国民経済的あるいは地 域的な情報 ・技術の集積 ・発展を挙げることができる。だが,情報 ・技術の在 り方の みを取 り上げて,これが銀行資本の蓄積運動にどのような影響を与えているのかを 把握することは極めて困難である。それゆえ,ここでは暗黙の裡に,情報・技術の集 積は 「金融取引の制度的枠組み」と 「地域経済のマクロ的諸条件」に反映されるもの
と仮定 している。
5
1)もう少 し敷街すれば, ミクロ的な分析視角から,(丑貸付可能な貨幣資本の 「原料」と地域金融構造へのアプ ローチ
( Ⅰ Ⅰ Ⅰ )
259 い るのか 一預貸 空間の分化 と蓄積 運動の 「場」 としての統合 一を説明す る52)0地域金融研究の政策論的側面
ところで,国民経済 において成立す る金 融構 造 が実物経済 の反映 で あ るよ う に, 「地域金 融の構 造特性 」もまた地域経 済の実物的側面 を反映 す るこ とはい う まで もない。 しか し, その一方 において, 「地域金融の構造特性」は地域経済 の 実物 的側面 に働 きか け, その発展 の方向や 速度 を決 定づ け る要 因 と して も作 用 す る。
この ような金 融 と実物経済 の相互作用 を もう少 し詳 し く述べ るな らば,国民 経済 で あ るか地域経済 で あ るか に関わ らず, あ る特 定 の時空 間 において展 開す る ところの金 融 は, ふたつの機 能 を通 じて実物経済 の発展 に寄与す る と考 え ら る。
ひ とつ は,一般的交換手段 ・決済 手段 としての通貨 を安定的 に提供 し,経済取 引 を円滑 に維持す るこ とで あ る。い うまで もな く,実物経 済の拡大 は社会的分業
に基づ く貨 幣的 な交換経 済の成立 を前提 とす る もので あ り,経済発展 は社会
しての預金が どのような属性一預入元,預入原資,預入ロット,預入期間,預金金利 等‑を備え, どのような実物的 ・制度的諸要因に条件づけられて蓄積 されてきたの か,(卦そこで明らかにされた預金の地域的属性が貸付可能な貨幣資本の形成にどの ような影響を及ぼ しているのか,③貸出金が どのような属性一貸出先,貸出ロット, 貸出期間,資金使途,貸出金利,担保 ・保証等‑を備え, どのような実物的 ・制度的 諸要因に条件づけられて実行 されてきたのかを明らかにする。さらに,マクロ的な分 析 視角からは,総体 としての預貸資金の循環特性に着 目する。
52 )
なお,金融仲介機能の域内配置については,①銀行資本はどのような立地パターンを 以て本支店ネットワークを編成 しているのか,②そのネットワークのなかで分析対 象地城の預貸業務はどのように位置づけられているのか,そ して③所与の位置づ け の下,銀行資本は本支店をどのように城内展開 しているのかに,主たる関心が寄せ ら れる。また,重層的に展開する資金の城内外流動の方向と規模は,城内本支店の預貸 率 と預貸差額から推定される。預貸率それ自体は,本来,銀行経営の健全性指標のひ とつであるが,その高低は店周空間における資金的な自給指標 として も解釈できる。それゆえ,預貸率は各々の店周空間を預金空間と貸出空間に区分する際のメルクマ ール となるとともに,その城内格差はそのまま店周空間間の機能的差異を表現する。
銀行資本は,この機能的に異なる店周空間間の資金移動を通 じて,分化 した預貸空間 を自らの蓄積運動の 「場」 として統合 ・編成 している。
的分業の拡大プ ロセスにほかな らない。交換経済には安定的な一般的交換手段・
決済手段が不可欠であるか ら,整備 された決済 システムの存在 によっては じめ て,社会的分業の拡大 ‑経済発展はその基礎 を与えられ るのである。
他のひ とつは,資金 を遊休 させている主体か らそれ を必要 としてい る主体‑
融通 し,経済全体で限 りある資金 を効率的に活用す ることである。もし,個 々の 経済主体が 自らの資金だけで経済活動 を営 まなければな らない とした ら,ある 者 は適当な投資機会 を見 出 しえず資金 を遊休 させ るであろう し,ある者 は適 当 な投資機会 を目前 に しなが ら資金不足で実行で きないか もしれない。それゆえ, 資金 を円滑 に仲介す る金融機構の存在 は,経済循環の加速化や循環規模の拡大 にとっての必要条件 をなす ものである。
わが国の経済発展 を振 り返 ってみて も,その飛躍的な発展 は,決済 システムや 資金仲介機構の整備 を抜 きに しては成 しえなかった といって も過言ではない。
しか し,金融 システムはあ くまで も国民経済 を基盤 に構築 されるものであ り,也 域経済の 自立的ない しは内発的な発展 とい う参照軸 に照 らしてみ ると,そこに はい くつかの解決すべ き課題が存在す る。ここでは,外来的な開発政策 によって 経済発展の基礎 を与えられ続 けて きた北海道 を例 に,それが直面す る金融問題
を摘記 してみよう53)0
まず第‑ は,北海道経済が 日本経済の地域構造のなかで原材料供給地 ・商品消 費地 として補完的 に発展 して きたため,元来,自立 した経済 を支 える金融機能 を 欠いていることである。北海道では,その広域性 か ら金融機関‑のアクセスが限 定的であ り,その結果 は,現金通貨 に傾斜 した通貨構成 に現われている。これは, 内国植民地的な資金循環「財政 ・政策金融による地域への資金投下 と民間金融 を通 じる資金の城外流出‑ と相侯 って,経済発展の金融的な陰路 となっている.
第二 は,相対的に低 い所得水準 と貯蓄性 向か ら平均的な金融資産の保有規模 が小 さく,資産運用 に際 しては リスク回避的な傾向が強いことである。裏返 して 53)北海道金融に関する最近の実証分析については,拙稿〔1994C〕,同〔1995
a
〕,同〔1995b〕,同 〔1995C〕,同 〔1996〕を参照されたい。
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地域金融構造へのアプローチ
( Ⅰ Ⅰ Ⅰ ) 2 6 1
言えば,民間か らリスク ・マネーが析出 しに くい体質であるといえる。そ して第三は,地場の資金需要が限定的であるため,金融機関が地元での資産 運用難 を解消 しようとす ると,必然的に リスクが高 まって しまうことである。こ の傾向は,小体で リスク耐性の脆弱な(しか しなが ら,中小の都市や郡部の金融 仲介活動 を主 として担 う)協同組織金融機関ほ ど顕著 に顕れている。金融機関が 域内に存立す るか否かは,北海道金融のワーキングを左右す る重大 な問題 とな
っている。
これ までの地域開発は, ともすれば実物的な側面 に傾斜 しが ちで,金融的に は,政府系金融機関によるプ ロジェク ト・ファイナ ンスの在 り方が議論の中心で あった。もちろん,外来的な開発政策 による地域 インフラの基礎的整備 は,地域 経済の発展 を図 るうえで重要な要素であ り,そこにおいて政策金融は一定の役 割 を果 た してきた。だが,地域経済の 自立的 ・内発的な発展 を具 に望むな らば, 時間 とともに変化 してい く 「金融環境要因」と 「銀行資本の収益 メカニズム と行 動パ ターン」を見据 えつつ,「どのような金融 システムが地域経済の発展 に必要 な通貨 を安定的に提供 し,所要資金 を円滑 に蓄積 し融通す るのか」を検討す る必 要がある。
むすびにかえて
本稿では,これまでの研究 を踏 まえて,地域の金融構造 を分析す ることの必要 性 を指摘 し,その分析 フレームワークの素描 を試みて きた。もとより,本稿で示 した分析 フレームワークは,地域金融の全体像 をカバーす るほ どの射程 をもつ ものではない。いわば地域の金融構造の中核部分 について骨格 を示 したにす ぎ ず,地域金融研究の方法論 としては,なおい くつかの課題 を残 している。残 され た課題 を簡単に整理 して,むすびにかえよう。
まず第一 に,本稿 では銀行資本 による金融仲介のみを対象 に議論 を展開 して きた。だが周知の ように,金融取引の類型は,(丑取引の対象である資金の移転ル ー トー直接金融か,間接金融か‑,②貸 し手が所有す る金銭消費貸借契約上の債
権 (‑金融資産)の流動化方法 一相対型か,市場型か‑の組み合わせ か ら,
4
つ に区分す るこ とがで きる。本稿 では,この うちの間接金融ルー トの主要部分 を取 り上 げたにす ぎない。地域 においては間接金融が未だ主流 にあるとはいえ,直接 金融ルー トのウエイ トが高 まっている昨今, これ を無視す るこ とはで きないであろ う。
第二 に,間接金融ルー トのなかで も,郵便貯金 ・政府系金融機 関や協同細戯 金 融機関による金融仲介 については, これ を明示的 に取 り上 げえなか った。 しか し,銀行資本の利潤原理 とは異 なる政府系金 融機 関や協 同組織金融機 関の行動 原理 を定式化 した うえで,本稿 で示 した分析 フレームワー クに組み込む こ とは 基本的 に可能であると考 える。
第三 は,財政資金の地域的流動である。地域経済 のマ クロ的条件 に とって,地 方 自治体の公共投資 を中心 とす る支出活動 は無視す るこ とので きないファクタ ーのひ とつであ り,マ クロ的条件 に規定 され た地域の金融構 造 とも密接 に関連 す る。 また,公金取引の在 り方や地方債の発行 ・流通 は,地域の金融構造に より 直接的な影響 を与 える。この意味で,地域の金融構 造 を解 明す るに際 しては,財 政資金の地域的流動 についての分析が必要である。本稿 では,この財政資金 につ いては触れていない。今後の課題 と致 したい。
(了)
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