水中ポンプを利用したコンデンサーの エネルギー変換の実験
出口 山 哲 之*
(平成元年10月31日受理)
Experiments on the Energy Conversion of Capacitors Using a Water Pump
Noriyuki TOMIYAMA
(Received Oct.31,1989)
1.はじめに
コンデンサーは電荷を蓄積する働きをなし抵抗器及びコイルと並ぶ重要な電気回路素子 である。高校・大学物理では重要な教材として位置付けてあり,抵抗器やコイル等と組合 せて直流及び交流回路の性質を理解させるための実験が幾つか取上げられている1》。
コンデンサーの静電エネルギーの概念は学習者に定着しにくいようである。その原因の 一つに,コンデンサーの性質は直流では極めて短時間の過渡現象を伴い精巧な測定器や高 度な数学的知識を要求されるので実験を容易に行いにくいことが挙げられる。近年,大容 量のコンデンサーが商品化されて漸くエネルギーに関する実験が手軽にできるようになっ た。これまでに,静電容量の大きな電解コンデンサーを用いた抵抗線によるジュール熱の 測定2),電気二重層コンデンサーを用いた豆電球の点灯や糸に吊した重りをモーターで引 上げる方法の演示実験例3)が報告されている。ところで,抵抗を通してコンデンサーを充電 する際に,電源によってなされる仕事量の半分はコンデンサーに電荷を蓄積するための仕 事,残りは抵抗を加熱するための仕事であることが知られている4)。このことは大変興味深
いことであるが,物理教科書,参考書で指摘して分りやすく説明した例は数少なく,実験 報告は見当らない。そこで,超大容量0.1F級の電解コンデンサーの充電及び放電の際のエ
ネルギーで水中ポンプのモーターを駆動させて水を送出す仕事に変換する教育用実験装置 を開発し,前述の事柄について水を媒体にして実験的に検証した。
ここでは,開発した装置の製作法及びその装置を用いコンデンサーに蓄積される静電エ ネルギーの授受について調べたことを報告する。
*長崎大学教育学部物理学教室
2.実験装置
2.1 水中ポンプの製作
水中ポンプの構造を図1に示す。ローター は合成樹脂製の羽根(1.2×1.2×0.05c㎡)6 枚を回転軸(直径0.2cm)の周りに隣合う羽根 の開き角が60度をなすように接着剤で張合せ,
これを市販のフィルムケースを半分に切断し た円筒(高さ2.8cm,内径2.8cm)に格納した。
円筒の下部に内径0.5cmの吸水口,側面に内径 0.5cmの送水口を取付けた。ローターを駆動さ せるために定格電圧12V,巻線抵抗約17Ωの 直流小形モーターを用いた。図2のように,
直瀧一外
高さ約2,8cm 直径約3.1cm
の
淋口
L』::言、;ちゐ・一ター
嚇ロ
図1 水中ポンプの構造 図2 水中ポンプの外観 これらは厚さ1.3cmの木製のフレーム(縦17.8−
cm,横7.6cm,奥行4.Ocm)に取付けた。これ を透明な合成樹脂製の水槽(9×11×19㎡)
に溜めた水(約1800cc)の水面近くにローター 部分が全部浸るように支持台に固定した。水1懸 中ポンプの送水口に連結された管から送られ1 る水量はメスシリンダー(容積500cc,最小目 盛5cc)で測定した。送水の際はローター部 分が空中に露出しないように水槽に水を適宜 補給した。定格電圧12Vのもとで送水量は毎 分約1000ccであった。
2.2 コンデンサーの充電及び放電実験 回路
装置の外観を図3に示す。直流安定化電源
(菊水電子製P A B18型)はO Vから20Vま で連続可変で,最大出力電流1.2A定格であ る。超大容量の電解コンデンサー(マルコン 製)は静電容量定格値0.15F(耐電圧35V)
のものを二個用いた。充電・放電回路を表示 したパネルは合板(44×32×0.4c㎡)を用い,
切換スイッチ及びコンデンサーの接続端子を 取付けた。基本回路図は図4に示す。一台の 水中ポンプは回路表示パネルに取付けた切換
図3
源
弔魁流 直
充電及び放電実験装置の外観 直流安定化電源(左側)、回路表示パネ ルと超大容量コンデンサー(中央)、水 中ポンプと水槽、メスシリンダー(右 側)から成る。
S翼2
水中ポンプ即1
①○
スイッチS町
②
血丁ざ占OIa一 ︺d止τ
ザ 妙み
IPl
O
図4 充電及び放電回路
スイッチを使い充電回路の水中ポンプWP1,放電回路の水中ポンプWP2として交互に 用いた。コンデンサーC1,C2を一個用いる場合は端子a−b間,c−d間(またはa
−f問,e−d間)を導線で結線する。二個用いる場合,直列接続は端子a−b問,c−f 間,d−e間を結線し,.並列接続は端子a−b−f間,c−d−e間を結線する。前者の
合成容量は0.075F,後者は0.30Fとなる。何れも電源及びコンデンサーの正負の極性に注 意して接続する。
3.実験方法
[1] 図4の回路で,直流電源の出力電圧(充電電圧)E[V]を1Vから13Vまで 1V毎に変え,最大充電電流及び放電電流1.2Aのもとで次のように測定した。
(i)スイッチsw1を①にしてコンデンサー充電の際のWP1の送水量〃[cc]を測っ た後,直ちにSW1を②にして放電の際のWP2の〃を測った。
(ii)スイッチsw2を入れることによりwP1の負荷抵抗を通さずsw1を①にして コンデンサーを充電した後,直ちにSW1を②にして放電の際のWP2のπを測った。
[2] 図4の回路で,直流安定化電源に内蔵された電流制御回路を作動させて,充電電 圧E[V]を1Vから13Vまで1V毎に変え,定電流0.10Aのもとで定電圧充電を行い,
WP1の班を測定した。
[3]充電電圧10V,最大充電電流及び放電電流L2A のもとで次のように測定した。
(i)静電容量o.15Fのc1,c2を取付けた図5の 回路で切換スイッチを①にしてC1を充電後,スイッチ を②にしたとき,端子a−b間に水中ポンプWP Oを接 続しπを測った。WPコ0を除去し,C1を再充電後スイッ チを③にしてC2を充電した。スイッチを②に戻し,直 ちに端子a−b問にWP O,とc−d間1こWP2とを接続
しそれぞれのπを測った。
(ii)図6の静電容量o.15Fのc1,c2の直列回路 で切換スイッチを①にしたときはWP1の送水量を測る またはスイッチを②にして充電する場合について,直ち にスイッチを③にして端子a−c間にWP2を接続し皿 を測った。同様にC1,C2を再充電後端子a−b問,
b−c問にWP2を接続しそれぞれのκを測った。
(iii) 図6の回路の端子b−c間に,別に用意された 0.15Fのコンデンサーを並列に取付けC2の静電容量 o.30Fにした場合(c1<c2)について,前項(ii)
と同じ要領で測定した。
E
② o
ゆ の
二L這L_.
E c1◎ C2◎π﹁﹄
図5 コンデンサーの並列回路
ユ
1◎1一ら①
1 ②
一……門P2
◎コ≡一一」
図6 コンデンサーの直列回路
4.実験結果と考察
一般に,コンデンサーに蓄積される静電エネルギーは詳しい計算の結果4)次のように説 明される。図7のように直流電源の出力電圧をE[V],抵抗値をR[Ω],コンデンサー の静電容量をC[F]とする。スイッチSを入れて充電開始後,コンデンサーに蓄積され る電気量は指数関数的に増加し最終的に9[C]に達し,コンデンサーの端子電圧γ6[V]
は電源電圧E[V]に等しくなり回路の電流は流れなくなる。次のような関係がある。
9=CE (1)
性と良い一致を示す。コ ンデンサーに蓄積された エネルギーは充電回路の 負荷抵抗Rの有無には無 関係であることを示唆す
る。
[2]水中ポンプの モーターを最小駆動電流 0.10Aで駆動させ定電圧 充電を行った結果,図10 のように良い直線性が認 められる。式(1)によれば このとき電圧Eの変化に 対し送水量皿はモーター の負荷抵抗に供給された 電気量9に良く対応する。
実際に,水中ポンプの送
灘瀞灘 [J]蠣σ鴨、r態。
となる。一方,コンデンサーに蓄積された静電エネルギーU[J]
は次式で与えられる。
R
U一告CE2 (3)
抵抗で費やされるエネルギーU・[J lは 図7充電回路
U1号OE2
(4〉
で与えられる。このように電源によってなされた仕事量四の半分に当たるエネルギーがコ ンデンサーに蓄積され,残りは抵抗で費やされ熱に変わる。抵抗値Rは時定数RC[s]
に関わり,コンデンサーの充電及び放電時間を決定する。抵抗が接続されていない場合は 電源の内部抵抗で前述の場合と等量のエネルギーが費やされることが知られている。通常,
電源の内部抵抗は外付けの抵抗1〜に較べてかなり小さい。
[1] (i)図8のように,並列接続した静電容量o.30Fのコンデンサーを用いた場合 がWP1及びWP2の送水量Mは最も多い。次いで,単一,直列接続の順になる。それぞ れの静電容量のコンデンサーについて一定電圧のもとで充電の際のWP1の〃(図中○印)
と放電の際のWP2の〃(図中△印)は良い一致を示す。WP1及びWP2のモーターに よってなされた仕事量は等しいと考えられる。このことはWP1の負荷抵抗Rで費やされ たエネルギーひとコンデンサーに蓄積されたエネルギーUは等量であることを示唆する。
送水量班は電圧Eの変化に対して直線的でないが,水中ポンプのモーターの許容電圧12V 以下3Vまでの範囲で使用すれば問題ない。
(ii)図9は図8の特
」1デ/サーの電気容置 0 30F
250 z50
0充電
△櫨
幽菊
200
15G
10G
50
△故電
015F り
望 判
0075F
o 15
200
ドo
100
50
電醜圧EIV
!0
図8 充電(放電)電圧と水中ポ ンプの送水量との関係 最大充電(放電)電流1.2A O印:充電のとき,
△印:放電のとき
o
コノテンサ の ぬいのド
ロパ
鞭駈ト四
く lo 1『
図9 放電電圧と水中ポンプの 送水量との関係
最大充電(放電)電流1.2A △印:放電のとき
水管から容器中に放れる水流は定電圧充電時間が長いために終始一定の流速のように実感 させられる。通常,コンデンサーに蓄積される電荷は指数関数的に増加するのに対し,負 荷抵抗に供給される電荷は指数関数的に減少する。前項[1]の(i)の場合,WPlか
らの送水は最初勢いよく次第に衰える様子は幾許かこのことを実感させる。この場合,放 電の際の測定や電源に電池を使用するときは定電流制御回路5)を作製して実験装置に組込 み,測定のつど一定の低電流値に調節しなければならない煩雑さが生じる。ここで開発し た装置は定性的な演示実験や学生実験への活用を目指すものでこのような回路を付加しな
くてもその機能は十分に果しており測定の操作も容易である。
[3](i)図5の回路でc lの充電直後のwP oの送水量は108ccとなる。c1を再充 電後,充電されていないC2に並列接続し充電後のC1,C2両端の水中ポンプの送水量
はどちらも54ccとなる。当初,10Vで充電されたC1に蓄積された電気量は(1)式を使っ て求めると1.5Cとなる。C2充電後,C1,C2の端子電圧の測定値はどちらも5.OVと なり,これらの電気量は0.75Cとなる。送水量の変化は同一容量のそれぞれのコンデンサー に電気量を均等に分配することに対応する。
(ii),(iii)測定結果をそれぞれ表1(a),(b)に示す。各端子問のWP1,WP2の送水 量は同一量を示す。充電回路のWP lの負荷抵抗がない場合でもWP2の送水量は変わら ない。電気量σ及び静電エネルギーUはコンデンサーの端子電圧y6の測定値と静電容量 Cの定格値をそれぞれ(1〉及び(3)式に代入して求められる。9は一定値を示すが,Uは同じ 値にはならない。このことから実験(ii)及び(iii)の各場合の送水量〃はコンデンサー
に蓄積される電気量9に良く対応する。電源によってなさ
れた仕事量WとWP1の負荷抵抗で費やされるエネルギー 350 0充竃
コノデンサーの電気容量 0 30FU はそれぞれ(2)式及び(4)式から求められる。充電開始時の
表1 水中ポンプの送水量とコンデンサーの諸量との比較 (a)
接続 子
コンデンサ の静電容 C[F]
水中ポンプ P2の送 量〃lccl
コンデンサ の端子電 y6〔V]
電気量妊C]
計算値)
静電エネルギ U[J]
(計算値)
a−C 0075 54 10.0 0.75
3.8
a−b 015 54 5.0 0.75
1.9
b−c 0.15 54 50 0.75 19
水中ポンプWP1の送水量54
(b)
接続 子
コンデンサ の静電容 C[F]
水中ポンプ P2の送
量〃[cc]
コンデンサ の端子電 yo[V]
電気量妊C]
計算値)
静電エネルギ u〔」]
(計算値)
a−C 0.10 67 10.0
1.0 5.0
a−b O l5 67
6.7 1.0 3.2
b−c 0.30 67
3.3 1.0 1.8
水中ポンプWP1の送水量67
馴藁
30D
250
200
150
100
50
0
015F
5F
充電電圧 E[Vl 5 10
図10 定電流充電特性 充電電流0.10A
15
負荷抵抗両端の電圧の測定値は10.ovであるから,実験(ii)のときのwは7.5J,u は3.75 J,コンデンサー全体(接続端子a−c間)のUは3.75Jとなる。実験(iii)のときの四 は10J,U〆,Uはそれぞれ5Jとなる。このように電源は抵抗とコンデンサーに略々均等 にエネルギーを供給することが分かる。負荷抵抗が無い場合でもコンデンサーに蓄積され る静電エネルギーは前者と同じ値となる。
5.おわりに
本装置の特長は,負荷抵抗やコンデンサーに供給される電荷の量(電気量)を水中ポン プの送水量の違いによって示すことができるところにある。電源は回路の負荷抵抗やコン デンサーに大量の電荷を供給し,水中ポンプを駆動させる仕事とコンデンサーに電荷を蓄 積する仕事をする。このような抵抗が接続されていなくてもコンデンサーに供給される電 気量は前者と同じであることが分る。実際に,水中ポンプの送水管からの水流は勢いよく 容器中に放れた後,徐々に衰弱し数秒から数十秒後に停止する。このような水流は回路の 導線中の目には見えない電荷の流れ(電流)を学習者に実感させることができる。最終的 に容器に溜められた送水量からコンデンサーに蓄積された電気量を類推させることができ
る。
以上の.ように,本装置の特長を活かすことによりコンデンサーの働きを学習者の視覚に 直接訴えることができる。コンデンサーの静電エネルギー概念のイメー.ジ化に補助となる 演示実験または学生実験用装置として大変有用と思われる。
本稿は,日本物理学会物理教育分科(1989年10月,鹿児島大学)で,口頭発表した内容 に加筆,修正を加えたものである。
参考文献
1)例えば,後藤道夫,岸野安彦,馬目秀夫:実験指導シリーズ,物理,講談社(1982)83.
2)宍戸てる子,阿部英太郎:日本物理学会講演予稿集第4分冊(1985.10)294.
3)安田明:物理教育31−4(1983)217.
4)ゼルドヴィチ著,宮本敏雄他訳:科学技術のための微積分入門(応用編),東京図書(1962)235.
5)戸川治朗:トランジスタ技術3月号,C Q出版社(1987)356.