ドイツ刑事公判改革と証拠申請権制限論
著者 田淵 浩二
雑誌名 静岡大学法政研究
巻 8
号 2
ページ 25‑86
発行年 2003‑12‑10
出版者 静岡大学人文学部
URL http://doi.org/10.14945/00008775
靱
ドイツ刑事公判改革と証拠申請権制限論
田 淵 浩 二
は じ め に 制 限立 法 の動 向 理論 的 考 察 日本 の刑 事 手 続 改 革論 への 示唆 一
は じ め に これ
ま で筆 者 は︑ ド イ ツ刑 事 訴 訟 法 の特 色 であ る 証拠 調 べ請 求 権
︵
①l o︼ X■ oげ 品口
紹 房 o日 oこ に関 す る研 究 を重 ね きて た が︑ 証拠 調 べ請 求権 制 論限 の動 向 の考 察 最を 後 残に し て いた
︒ ド イ ツ刑 訴 法 は︑ 二 四 四条 三項 な いし 五項 に お いて
︑ 証 拠 申 請
︵ lo o¨ 8● 露け じ の却 下 理由 を 法定 し
︑ ま た︑ 二四 五
ドイツ刑事公判改革と証拠申請権制限論
二 五
四 三 二 一
法政 研究 八巻 二号
︵二〇
〇三 年︶ 一二 ハ 条 に お い て︑ 職 権 ま た 訴は 訟 係関 人 によ り直 接 法 廷 に取 り寄 せ ら れ た証 拠 在︵ 廷証 拠
﹁¨
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①お 日けけ︻ oこ よの り 広 範 な 取 調 べ義 務 を定 め て いる 後︒ 者 は︑ 八一 七 七年 成 立 のラ イ ヒ刑 事 訴 訟法 二 一九 条
︵現 行 法 三二
〇条
︶ が︑ 被 告人 に人 的 証 拠 を直 接 召 喚 す る権 利 認を め︑ か つ二 四四 条
︵現 行 法 二 五四 条
︶ が︑ こ の召 喚 手 続 を経 て法 廷 に出 頭 し た 人的 証 拠 や そ の他 の法 廷 に直 接 取 り寄 せ ら れ た証 拠 の取 調 べを
︑ 裁 判 所 義に 務付 け た こと に淵 源 を持 つ︒ 二四 五条 の証 拠 調 べ請 求 権 は︑ 一九 七 九 年 に刑 事 訴 訟 法 が 改 正 さ れ る以 前 ま で は︑ 証拠 申 請 の手 続 を 経 る こ とな く裁 判 所 に取 調 べ義 務 を
︵1
︶
負 わ せ た こと から
︑
﹁自 律 的 証 拠提 出
﹂
→二 o● o日
① 0l o一 3 Rど
配●
︶ の権 利 と呼 ば れ る︒ 他 方
︑ 前 者 に つき 当初 のラ イ ヒ刑 訴 法 は
︑ 証拠 申 請 に対 し て裁 判 所 の
︵理 由 付 き
︶の 決 定 よに る却 下 が必 要 であ る こ と のみ 定を め て いた
︒ し かし
︑ 証拠 申 請 の却 下 が
﹁不 法 な防 御 侵 害
﹂ 当に た ると し て争 わ れた 上告 事 例 を通 じ て︑ 却 下 基 準 に つき
︑
﹁証 拠 予断 の禁 止
﹂
︵く o3 P qa ol oい 紹 ユ︻ N¨ o け¨ Oこ と呼 ば れ る ール ルが 形 成 さ れだ︵
︒ そし てヽ と り わけ マッ ク ス
・ア ル ス ベ クル
︵ X> 3︼ 配o
︶ の功 績 によ り︑ 証 拠 申 請 の正 当 な却 下 理 由 の体 系化 が進 んだ︵ ド︒ イ ツ では ヽ 却 下 理由 法が 律 限で 定 列 挙 され て るい 証 拠 申 請 権 を
︑
﹁正 規 の証 拠 申 請権
﹂
︵喘 R
①日︻︼ 8
①l o一 脇● 露け 明
﹃①
︐o こ と か
﹁自 律 的 証 拠 申 請 権
﹂ cけC o● o日 8
①ω
■①¨ 紹 日ユ 明
﹃8
︶ 呼 ん で いる
︵
︒4
︶
これ ら の証 拠 調 べ請 求 権 を 制 限 す る 動 き は ラ イ ヒ時 代 から み ら れ た︒ まず 第︑ 一次 世 界 大戦 後 の貧 窮 の中 ︑ 一九 二四 年 の いわ ゆ る
﹁エ ミ ンガ ー令
﹂ O ox 日同 ヨ¨ 口
①祈 に︶ よ り︑ 区 裁 管 轄 事 件 や 一定 の地 裁管 轄 事 件 に つき 証 拠調 べ義 務 が緩 和 さ れ た︒ 次 に︑ ナ チ ス政 権 下︑ 一九 二 五年 の
﹁刑 事 手続 お よび 裁 判 所 構成 法 改 正滅︵
﹂ は︑ 判例 によ り 成形 さ れ た適 法 な却 下 理由 を立 法 化 す るが 当︑ 該 条 文 は
﹁証 拠 予断 の禁 止
﹂ の法 理 の適 用対 象 を
︑ 地 裁第 一審 事 件 に制 限す る た め に制 定 さ れ たも ので あ たっ さ︒ ら に︑ 第 二次 世 界 大 戦 中
︑ 一九 二 九年 の わい ゆ る 簡﹁ 素化 令
﹂︵ oく o︼﹃鳳 8
︐c 凋
∽︲く
①8 a ロ ロじ よに り︑ 証 拠 調 べ請 求 の権 利 規 定 は完 全 に消 滅 す る︒
︵ 8
︶
戦 後 西︑ ド イ ツ で は︑ 一九 五〇 年 の いわ ゆ る
﹁法 統 一化 法﹂
︵ 8 照
①﹃
①︻3 o o︼
︐ 口 品 紹 o∽
①じ によ り︑ 証拠 調 請べ 求
︵9
︶
権 に関 す る規 定 が復 活 し た︒ そ の後 は六
〇 年 代 半 頃 ま で︑ 被 疑 者
・被 告 人 の地 位 強を 化 す るた め の改 革 が進 め ら たれ
︒ し かし
︑ 六
〇年 代 後 半 よ り大 規 模 訴 訟 の長 期 化 が 問 題視 さ れ始 め︑ 七
〇年 代 に入 る と立 法 政策 は 訴訟 の長 期化 対 策 へと
1︵0
︶
転 じ る︒ まず
︑ 七 四年 一二 月 九 日 に大 規 模 事 件 対 策 を 目的 と し た第 一次 刑 事 手続 法 改 革 法 が成 立 し た︒ こ れと
︑ 権 利 濫 用 に対 処 す る こ とを 目 的 と し た第 一次 刑 事 手 続 法 改 革 法補 想濃
︵同 年 一二 月 二〇 日成 立
︶ およ び 刑法 施 征滅
︵同年 月二 二日 成 立
︶の 三法 が 七 五年 一月 一日 に施 行 さ れ た こと から
︑ コ 九 七 五年 刑 事 訴 訟 改
﹂革 と呼 ば れ て いる
︒ し かし
︑ こ の 時 は 証拠 調 べ請 求 権 に関 す る規 定 に手 は加 えら れな か たっ
︒ 戦 後
︑ 証 拠 調 べ請 求 権 を 制 限 す る改 正 行が わ れ た の は︑ 一九 七九 年 刑 事 手 続 改 正潤︵ が 最 初 であ る︒ こ の法 律 によ り︑ 在 廷 証拠 の自 動 的 な取 調 べを 定 ため 二四 五条 が 改 正 され 被︑ 告 人 は常 に証 拠 申 請手 続 必が 要 にな たっ
︒ 八 二年 には
︑ 二 四四 条 の証 拠 申 請 権 の制 限 を 含 立む 準法 備 作 業 が 開 始 す るが
︑ 法案 提 出 には 至 ら な か たっ
︒ 九
〇 年 一〇 月 の東 西 ド イ ツ 統 一に よ り︑ 司 法 負 担 の軽 減 が 一層 緊急 の課 題 にな り︑ 翌年 ︑ 一〇 州 共 同 連で 邦参 議 院 証に 拠 申 権請 制の 限 を含 司む 法 負 担軽 減 潔響 が提 出 さ れ た︒ し かし
︑ そ の結 果 一九 九 二年 一月 一 一日 成に 立 し た 司法 負 担 軽 海滅 は︑ 外 国 に在 住 す る証 人
︵在 外 証 人︶ の証 拠 申 請 権 を 制 限
︵現 行 の 二四 四条 五 項第 二文 の挿 入︶ す る にと ど ま たっ
︒ 続 く九 四年 には 当︑ 時 の
・︵6
︶
与 党会 派 6 C∪
\o∽ おC よび フ
∪毛 し か 連ら 邦 議会 提に 出 さ れ た わい ゆ る
﹁犯 罪 対策 法 案
﹂が
︑ スピ ード 審 議 によ り成
︲︵7
︶
立 し た
︒ こ れ によ り︑
﹁簡 易 手 続
﹂ oO oo
︐ロo︼ 鴨ュ 8
①く
︻喘ギ oし が改 革 さ れ︑ 区 裁 の単 独 裁 判 官 によ る簡 易手 続 に お い て 正 規 の証 拠 申 請 権 廃が 止 さ れ た︒ さら に九 五年 には 第︑ 一次 負 担 軽 減 法 よに り実 現 でき な か たっ 証 拠申 請権 の制 限 条 項 を
︲︵8
︶
含 んだ 第︑ 二次 司 法負 担 軽 減 法 案 が︑ 三州 共 同 で連 邦 参 議 院 に提 出 され たが 連︑ 邦議 会 にお いて 審 議未 了廃 案 なと たっ
︒ イド ツ刑 事公 判改 革と 証拠 申請 権制 限論 一 一七
法政 研究 八巻 二号 二︵
〇〇 三年
︶ 一 一八 以 上概 略 し た よう に︑ こ の間 のド イ ツで は︑ 訴 訟 の迅 速 化 な いし 司 法 の負 担 軽 減 の必 要 性 を 理由 に︑ 数度 にわ た り証 拠 調 べ請 求権 を制 限 す る立 法 的 試 みが 行 わ れ て きた
︒ し かし
︑ 実 現 され た 改 正 は わず かな 部 分 に留 ま たっ
︒ そし て九
〇 年 代 議の 論 通を じ て︑ 単純 に証 拠 申 請権 を 制 限 す る こと の問 題 性 が認 識 さ れ︑ そ の後 制は 限 論 下は 火 にな たっ 感 があ 犯︵
︒ そ こ 本で 稿 で は︑ まず 七︑
〇 年 代終 わ り か ら の証 拠 調 べ請 求 権 制 限 立 法 の動 向 を確 認 し︑ 次 に︑ わず か な改 正 にと ど ま っ た理 由 を 理論 的 側 面 から 考 察 し
︑ 最後 に︑ こう し た ド イ ツ の理 論 状 況 から 日本 は ど よの う な 示唆 得を る こと が きで る か を 考 え て み た い︒ 二
制 限 立 法 動の 向
︵こ 一九 七 九年 刑 事 手続 改 正法 一九 七 九 年 刑 事 手 続 改 正 法
︵一 九 七 八年 一〇 月 五 成日 立 ︑ 一九 七 九年 一月 一日 施 行
︶ は︑ 刑 事 手 続
︑ とり わけ 大 規 模 手続 の無 駄 を 排 し
︑ 手 続 の経 過 を集 中 さ せ︑ 負 担 軽を 減 す る こ と︑ およ び
︑ 防御 権 の侵 害 にな ら な 範い 囲 で︑ 手続 と は
2︵0
︶
異 質 の目 的 から 行 わ れ る 訴 訟 上 の権 利 濫 用 を 防 止 す る こと 等 を 目 的 と し て制 定 さ れ た︒ 主 な改 正点 は︑
①刑 訴 法 一五 四 条 よお び 一五 四 a条 よに る手 続 打 切 り権 限 の拡 大
②︑ 参 審 裁 判 所 の裁 判長 に対 す る略 式命 令 権 限 の明 記 と略 式命 令 対 象 事 件 の拡 大
③︑ 管 轄 競 合 の整 理︑
④ 召 喚 証 人 が出 廷 でき な い場 合 の適 時 の申 出 義の 務 付 け
⑤︑ 忌 避 を 申 立し てら れ た裁 判 官 の暫 定 的 手 続 関 与 制 度 の導 入︑
⑥ 書 証 朗の 読 の例 外 の拡 大
︵い わ ゆ る
﹁自 己 閲 読
﹂ o3︼F くけ o﹃︼
8 EC 手 続 の導 入
︶︑
⑦ 共 同 被 告 人事 件 にお け る各 被 告 人 およ び そ の弁 護 人 の出 廷 義 務 の緩 和
︑
③ 刑 訴 法 二 四五 条 の改 正
⑨︑ 判決 理由 の簡 素
化
︑
⑩ 裁 判 所 の構 成 対に す る不 服 申 立 て時 期 の制 限
⑪︑ 公判 外 の裁 判 官 によ る尋 間 調書 の内 容 の録 音 テー プ よに る記 録 2︵︲
︶ 等 で あ る
︒ こ の法 律 よに り︑ 在 廷 証拠 の取 調 義べ 務 を 定 めた 刑 訴 法 二 四五 条 は︑ 自 動 的 に取 調 べ義 務 が 発生 るす 場 合
︵一 項
︶と
︑ 証 拠 申 請 行を う 必要 が あ る 場合 含 一項
︶に 区 別 さ れ た︒ そ し て︑
﹁裁 判 所 よに り 召 喚 さ れ か つ出 廷 し た証 人 およ び 鑑 定 人 並 び に刑 訴 法 二 一四 条 項四 に従 い裁 判 所 たま 検は 察 官 によ り取 り 寄 せら れた そ の他 の証 拠 方 法﹂ は前 者 に︑
﹁被 告人 ま た 検は 察 官 によ り 召喚 され か つ出 頭 し た 証人 およ び 鑑 定 人並 び にそ の他 の取 り 寄 せ ら れ た証 拠方 法
﹂ 後は 者 に位 置 付 け ら れ た︒ そ の結 果︑ 被 告人 が 法 廷 直に 接 顕出 し た証 拠 に つ いて も 証拠 申請 手 続 を と る こ とが 必 要 にな り︑ これ にあ わ せ て︑ 従 来 解 釈 よに り 認 めら れ てき た︑ 在 廷証 拠 の取 調 べ拒 否 事 由 が 在︑ 廷 証 拠 の証 拠申 請 に対 す る却 下 理由 とし て︑ 立 法化 さ れ た︒
2︵2
︶
法 案 は
︑ こ 点の に きつ 改 正 の提 案 理由 を 次 よの う に説 明 し て るい
︒ 二﹁
四 五条 は︑ 包 括的 な事 案 解 明
︵二 四四 条 二項
︶ の原 則 と 訴訟 関 係 人 証の 拠 調 べ の利 益 とを 補完
︑ 強 化 し て いる
︒ も とっ も︑ 現行 法 によ れば 後 者 は と り わけ 拠証 申 請 権
︵二 四四 条 三項 な いし 五項
︶ によ り保 障 さ れ て るい
﹂︒ こ﹁ の 二重 保に 障 さ れ た︑ 広 範 か つほ と ん 無ど 制 限 な 証 拠 調 べの 利 益 実を 現 す る た め の訴 訟 上 の権 利 は︑ 一定 の訴 訟 上 の権 利 濫 用 の可 能 性 を作 り出 し て おり
︑ 回避 能可 な 手 続 遅 延 起を こさ せ︑ 事 柄 の本 質 から は必 要 でな い証 拠 調 のべ 拡 張 や︑ そ れ よに る手 続 の空 転 を も たら す 可能 性 が あ る︒ 二四 四条 三項 な いし 五項 の証 拠申 請 権 が 明 ら か に不 必 要 な証 拠 調 べを 回避 す る ため の充 分 な 手 段 を 設 け て るい のに 対 し 在︑ 廷証 拠 の無 制 限 な使 用 義 務 によ れば 不︑ 適 切 な証 拠 方法 で あ れ使 用 し︑ ま た証 明 済 み の事 実 あで れ さら に討 議 し な け れば な らず 事︑ 件 と は関 係 な い事 実 が 手続 持に ち 込 まれ 得 る︒ イド ツ刑 事公 判改 革と 証拠 申請 制権 限論 一一 九