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ドイツ刑事判例研究(98)

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(1)

海外法律事情

ドイツ刑事判例研究(98)

ド イ ツ 刑 法 研 究 会

(代表 曲  田   統)

妊娠中絶の宣伝

StGB 219a

山 本 紘 之

**

妊娠中絶に関する情報は,それが妊娠中絶の実行の申し出と結びつく 場合は,いずれにしても刑法219条

a

の構成要件を充足する。その際,

当該情報が宣伝としての性格を有しているかどうかは重要ではない。

AG Gießen, Urt. v. 24. 11.2017 = NStZ 2018, 416, medstra 2018, 126, ZfL 2018, 38, GesR 2018, 309, NJ 2018, 433.

《事実の概要》

 被告人は一般医として働いており,とりわけ妊娠中絶に従事していた。

 所員・中央大学法学部教授

**

 嘱託研究所員・大東文化大学法学部教授

(2)

また同人は,インターネットサイトを開設していた。当該ホームページ上 に同人は,その他の医療措置だけでなく,妊娠中絶を実施する旨も述べて いた。「妊娠中絶」というリンクを通じて,同人による妊娠中絶とその実 施,方法に関する一般的な情報を含む

PDF

がダウンロードできるように なっていた。そこには,部分麻酔,全身麻酔を用いた手術による場合,薬 物による場合が記されており,また,それぞれの方法を用いるべき理由と そうでない理由が述べられていた。被告人の実務においては,それらすべ ての妊娠中絶の方法がなされ,施術料金は健康保険または私費による旨も 示されていた。「あなたは何を持参すべきでしょうか? 刑法219条に基づ いてなされた助言に関するまたは刑法218条に基づく要件に関する証明書 です。血液型証明書,健康保険証,料金引き受け証明書または現金,専門 医の転院書も必要です。」というタイトルの下,まとめがなされていた。

 同人のウェブサイトは一般に開かれており,検索エンジンを通じて自由 にアクセスができた。

 同人は,この提供を通じて,通常の報酬を得て妊娠中絶を実施しようと していた。同人はホームページを開設していたことを認めているが,単に ホームページを通じて妊娠中絶に関する情報を蔵置しただけであり,その 実施を申し出たわけではないと主張した。妊娠中絶を実際に実施するため には,事前に助言がなされるか,要件を確定する手続がなされていなけれ ばならない,と被告人は主張した。被告人は単に,患者が有している可能 性について情報提供しただけである,と。

 ギーセン区裁判所は,刑法219条

a

にもとづく妊娠中絶に関する禁じら れた宣伝を理由として罰金刑を言い渡した。

《理由》

 公然と,妊娠中絶を実行し若しくは促進する自己若しくは他の者の労力 を提供し,広告し,推奨し,又は,その内容の説明を知らせた者は, ₂ 年 以下の自由刑又は罰金に処せられる。

 インターネットを通じて誰でも被告人のホームページにアクセスできた

(3)

のであるから,被告人は公然と申し出たと言える。

 同人は中絶を実施する体制が整っていることを表明したのであるから,

施術についての申し出もしていたと言える。

 しかしながら同人は,中絶に関する情報を提供しただけではなく,医師 としての活動のために提供したのである。申し出が施術と結びついていれ ば,情報を公表することそれじたいがすでに刑法219条

a

の構成要件を充 たしている。同条の公式の見出しとは異なり,その情報が特に宣伝として の性格を有している必要はない。

 被告人の見解は,医師が妊娠中絶を実施する体制が整っているという事 実に関する情報は刑法219条

a

に包摂されないというものであるが,現在 の判例とも, 同条に関する注釈とも一致しない(vgl. MüKoStGB, §

219a Rn. 4; Fischer StGB,

§219a Rn. 3; LG Bayreuth, ZfL 2007, 16 ff.)。

 被告人は自己の利益のために行動していたと言える。すなわち,同人 が,妊娠中絶に関する個々人の可能性の単なる情報をインターネット上の ホームページに蔵置していたのではなくて,健康保険または期日に直接持 参される現金払いによる報酬を得て妊娠中絶を行うことは,明白であっ た。それは患者獲得の古典的な形態である。

 被告人は,インターネットにおける施術の提供によって,広告の禁止を 遵守している他の医師に比して明らかに競争上の利益を得ていた。他の妊 娠中絶を実施する医師が助言の枠組みではじめて認知されることとなって いた一方で,被告人は,インターネットを用いることで一歩先んじること ができたのである。このことは,昨年,相談所を通じて被告人を訪れた患 者が ₂ 名しかいなかったことから優に裏づけることができる。

 妊娠中絶の広告の禁止は,基本法12条に違反することもない。たしかに 医師は,原則として,どのような施術がなされているかの情報を公開する 権利を有している。

 基本法12条 ₁ 項 ₂ 文に基づく自由な営業に関する医師の権利は,基本法

₁ 条において憲法上保護されている未出生の生命の権利を制約するもので あるから,その限りにおいて,情報を提供する権利が制限される。

(4)

 これは,刑法219条

a

において生じることである。同条を限定解釈する きっかけがあるわけではない。というのは,そうした方法による営業の権 利は,本件では未出生の生命権と関わるからである。すでに2016年 ₁ 月13 日のバイロイト地裁判決で示されているように,基本法 ₁ 条 ₁ 項から,未 出生の生命を保護する国家の義務が生じる。連邦憲法裁判所の判例に基づ いて,未出生の生命にも人間の尊厳がある以上,妊娠の全期間について堕 胎は原則として不法である(BVerfG Entscheidung88/203 ff.)ということ を出発点としなければならない。妊娠中絶に関する刑法218条以下の規定 全体は1995年施行され,218条

a

の導入によって一定の要件の下で妊娠中 絶が不可罰となった。それにもかかわらず,219条

a

に表れているように,

立法者の意思は,堕胎を公の場で通常のものとして表明し,商業化しては ならず,それゆえに罰するというものである(Fischer, StGB, 219a)。立法 者の意思によれば,堕胎を望む女子は,まずは国家の,すなわち中立の,

中絶の実施に関する利益を有しない相談所で情報提供を受けるべきなので ある。

 妊娠中絶を実施する用意のある医師に関する情報を求める女性の正当な 要求には,─堕胎の希望を引き続き有する場合は─相談所による詳細 な情報提供を通じて,中絶の用意のある医師のリストを受け取ることがで きるということによって,十分に考慮されている。この保護構想によっ て,特定の結論を目指さない,女性の情報関心を充たす助言を女性が受け ることが保証される。

 妊娠中絶に関する宣伝の措置を許容すれば,未出生の生命を保護する国 家の義務は画餠に帰してしまうであろう。

 被告人はまた,故意に行為していた。

 妊娠中絶に造詣の深い一般医である被告人は,その限りにおいて218条 以下の法規定を認識していた。すでに2009年頃に同人に対してなされてい た,同じ嫌疑による捜査手続きにおいて,手続きはギーセン検察庁によっ て明確な理由によって打ち切られていた。この関連において,同人の態度 の客観的な可罰性はバイロイト地裁の判断と明確に関連づけられていた。

(5)

その手続きは特に,回避不可能な禁止の錯誤を理由として,StPO170条に 基づいて打ち切られたのである。遅くともその時点で,被告人の法的助言 者の法的見解が,ギーセン検察庁やバイロイト地裁の判断とは異なってい ることに気づいていた。それゆえ,不法の認識に関しては,かつての捜査 手続きにおけるよりも,被告人に厳格な要求を行うことができる。しかし ながら同人は,可罰性の認識を持ちつつ妊娠中絶の実施に関するウェブサ イトを開設し続け,情報をオンラインで宣伝していた。その状況において 同人は,自己の行為は合法だと主張することは許されない。そのようにし て,不法の疑いはもはや存在しないという法的助言者の見解を,同人は信 頼してはならなかった(vgl. Lackner/Kühl StGB §

17 Rn. 4 f.)。これらにか

んがみれば禁止の錯誤は存在せず,現行法を強硬に否定しているにすぎな い。

《研究》

1.は じ め に

 本件は,標題が示すように,妊娠中絶に関する宣伝の可罰性が認められ た事案である。AGが40日分の罰金刑を言い渡したという事案であるが1), 社会の耳目を集めるにとどまらず,学術的な評釈類も多く公表されてい る2)

1) なお,比較法研究所研究グループ(ドイツ刑法研究会)における報告後,

LG Gießen による,本判決を維持する判決(LG Gießen, Urteil vom 12. Oktober 2018 ─ 3 Ns 406 Js 15031/15)に接した。

2) Berghäuser, Die Strafbarkeit des ärztlichen Anerbietens zum Schwanger-

schaftsabbruch im Internet nach § 219a StGB ─ eine Strafvorschrfit im Kampf ge-

gen die Normalität, JZ 2018, 497; Preuß, Strafbare Werbung für den Abbruch der

Schwangerschaft, § 219a StGB. Unerlässlicher Schutz für das ungeborene Leben

oder sachwidrige Kriminalisierung im Vorfeld eines erlaubten Verhaltens?, meds-

tra 2018, 131; Kaiser/Eibach, Aufhebung oder Änderung des § 219a StGB. Plädo-

yer für eine rationale Kriminalpolitik, medstra 2018, 273; Sasse, Anmerkung, NJ

2018, 434; Wörner, Anmerkung, NStZ 2018, 417, Gschwendtner, Eingriff erlaubt,

(6)

 検討に先立ち,本件で問題となったドイツ刑法219条

a

について概観し ておきたい。同条は,

妊娠中絶の宣伝

①公然と,集会で,又は文書(11条 ₃ 項)の頒布により,自己の財産 的利益のために,又は,著しく不快な態様で,

₁  妊娠中絶を実行し若しくは促進する自己若しくは他の者の労力,

又は

₂  その適性を示しつつ,妊娠の中絶に適した薬剤,器具,処理方法 を提供し,広告し,推奨し,又は,その内容の説明を知らせた者は,

₂ 年以下の自由刑又は罰金に処する。

( ₂ 項以下省略)

と定め,妊娠中絶の宣伝を罰するものである3)。これは,胎児の生命に対 する抽象的危険犯と一般的に解されている4)。すなわち,中絶そのものを 処罰するドイツ刑法218条に先立って,妊娠中絶が通常のもの,商業的な ものと捉えられてしまうような宣伝行為から胎児を保護しようとするもの である5)。この点は,判決文においても,フィッシャーのコンメンタール

aber nicht darüber reden. Die Debatte um das Werbeverbot für den Schwanger- schaftsabbruch nach § 219 a StGB, Vorgänge 2018, Nr 1─2, 143; Kubiciel, Reform des Schwangerschaftsabbruchsrechts?, ZRP 2018, 13; Schweiger, Werbeverbot für Schwangerschaftsabbrüche ─ Das nächste rechtspolitische Pulverfass?, ZRP 2018, 98; Duttge, Recht auf öffentliche Werbung für Abtreibungen?, medstra 2018, 129. また,本判決を意識したと思われる意見表明として, Beck, et. al., Stellung- nahme zum Straftatbestand der Werbung für den Abbruch der Schwangerschaft ( § 219a StGB)(https://www.jura.uni-halle.de/rosenau/aktuelles/stellungnahme _219a/ 最終閲覧2019年 ₁ 月31日) .

3) 和訳は, 法務省大臣官房司法法制部編『ドイツ刑法典』(法曹会,2007年)

140頁によった。

4) Statt vieler SK

9

-Rogall, 2016, §219a Rdn. 1.

5) Berghäuser, a.a.O. (Anm. 2), S. 499.

(7)

を引用しつつ,「219条

a

に表れているように,立法者の意思は,堕胎を公 の場で通常のものとして表明し,商業化してはならず,それゆえに罰する というものである」と述べられているところである。

 また,本判決が連邦憲法裁判所の第二次堕胎判決6)を引用していること にも注目すべきであろう。第二次堕胎判決は,助言を受けた受胎後12週以 前の中絶を違法でないと規定した当時の218条

a

および関連規定を,国家 の保護義務という観点から違憲としたものであるが,そのような胎児の保 護という思考があるがゆえに,胎児の生命に対する抽象的な危険であって も,医師の営業の自由の制約を正当化しうるものであり,可罰性を基礎づ けうるからである。

2.学界の反応

 このような,ドイツにおける胎児の保護の経緯にかんがみれば,本判決 が本件宣伝行為の可罰性を認め─さらに,それが

LG Gießen

によっても 維持され─たことは,一見すると自然に思われる。しかし,学界の主流は 本判決に批判的な態度を示している。そのほとんどは,219条

a

の限定解 釈の必要性を説いている。

 第一に,宣伝行為がただちに中絶につながる事案であれば格別7),本件 行為においては,助言や中絶の要件を確認する手続が行われるのであるか ら,中絶行為と直接のつながりがないという点を強調するものがある。そ の上で,本件のような客観的事実に関する摘示行為は,要件や手続の重要 性を枉げるものでないから同条の規範目的に沿うものとは言えず,可罰性 を否定すべきだとするのである8)

6) BVerfGE 88, 203. 同判決に関する代表的な邦語文献として,ドイツ憲法判例 研究会編『ドイツの憲法判例(第 ₂ 版)』(信山社,1999年)61頁以下(小山 剛)。

7) Wörner, a.a.O. (Anm. 2), S. 418は,本判決が引用する先例の LG Bayreuth ZfL 2007, 16がそのような事実関係であった可能性を示唆する。なお,同判決には

Goldbeck による賛成の評釈が付されている。

8) Wörner, a.a.O. (Anm. 2), S. 418 f.

(8)

 第二に,本判決が「同条の公式の見出しとは異なり,その情報が特に広 告としての性格を有している必要はない」と述べたのと逆に,公式の見出 しである以上,それを踏まえた解釈をすべきだという見解である9)。  こうした制限解釈は,文言解釈としては4 4 4 4 4 4 4 4やや苦しいと見る向きもある が10),少なくとも立法による手当は必要とする見解も少なくない。たとえ ば,「医師,病院または医院が,218条

a

第 ₁ 項ないし ₃ 項を提示し,当該 条項の定める要件の下で妊娠中絶を実施する旨の情報を提供する場合は,

219条 ₁ 項 ₁ 号は適用されない。218条

a

第 ₁ 項ないし ₃ 項を,医師または 法律で認められた相談所に示す必要はない。」といったように,助言の手 続きを仲介させ,中絶行為と直接にはつながらない宣伝を除外しようとす るものがある11)

3.若干の検討

 被告人がそのホームページでどのような文言を用いたのかは,公表され た判決文からは明らかではない。 しかし,「第二の合法な方法(zweiten

legalen Weg)」という言辞があったとの指摘がなされている

12)。ドイツの

現行法上不可罰となる,助言を受けた上での中絶行為を指して「合法な方 法」と呼んでいたという事実も訴訟において明らかになっていたのだとす れば,少なくとも本件行為に関しては,上記の制限解釈論が主張するよう な,単なる事実に関する記述にとどまるものとは言えない。というのは,

第二次堕胎判決が示すように,助言を受けた受胎後12週以内の中絶を「違 法でない(nicht rechtswidrig)」(違憲とされた旧刑法218条

a) とは言え

ないからである。もちろん,「合法」は「違法でない」とは異なり,前者 は構成要件に該当しない旨を示すにすぎないという解釈は,法理論上は当

9) Preuß, a.a.O. (Anm. 2), S. 134.

10) Jansen, jurisPR-StrafR 7/2018 Anm. 2, S. 3.

11) Berghäuser, a.a.O. (Anm. 2), S. 503. その他,政党による提案については,vgl.

Kubiciel, jurisPR-StrafR 5/2018 Anm. 1, S. 1 ff.

12) Duttge, a.a.O. (Anm. 2), S. 130.

(9)

然にありうる13)。しかし,当該表現は,本件ホームページの情報の受け手 である一般人をして,「違法でない中絶の方法がある」という誤認に導く ものと言わざるをえないであろう。本判決が認定した,本件病院における 中絶患者の多さも,その点を裏づけているように思われる。こうした点を 踏まえれば,本件行為の処罰は「中絶を通常のもの」と表明することを可 罰的な行為とする立法者の意思に沿うものと言わざるをえない。このよう に見てくると,本判決の結論はドイツの実務にとっては実は不自然なもの ではなく,219条

a

を適用した貴重な一事例にとどまることとなろう14)。  もちろん,本判決も言及する,「妊娠中絶を実施する用意のある医師に 関する情報を求める女性の正当な要求」に関する疑問は生じる。本判決を めぐる議論の背景には,そうした点もあろう。この点につき本判決は「相 談所による詳細な情報提供を通じて,中絶の用意のある医師のリストを受 け取ることができるということによって,十分に考慮されている」と応え ている。これについては,現行制度の評価に関わる点であるため皮相的に 扱うことは避けたいが,本判決に対する多くの反対意見にかんがみるに,

相談所の運用または立法といった政策的な配慮が必要であることを明らか にした事案ということができよう。

 なるほどたしかに,胎児の生命に対する国家の保護義務をどこまで認め るかという点をはじめ,そもそも中絶に関する法制度は日独で大きく異な っており,219条

a

に相当する規定は,わが国には存在しない。それでも なお,本判決はドイツの制度の問題点を浮き彫りにしたものであり,わが 国の制度設計にとって一定の示唆を与えるものと思われ,本判決を紹介し た次第である。

13) この点については,拙稿「治療中止における手続履践の刑法的意義」長井圓 先生古稀記念『刑事法学の未来』(信山社,2017年)254頁も参照。

14) Jansen, jurisPR-StrafR 7/2018 Anm. 2, S. 4.

参照