モロコシの多様化選択と品種の生成 : エチオピア 西南部におけるクシ系農牧民エルボレの事例から
著者 宮脇 幸生
雑誌名 国立民族学博物館研究報告
巻 16
号 4
ページ 843‑870
発行年 1992‑03‑31
URL http://doi.org/10.15021/00004258
宮 脇 モ ロコシの多様化選択 と品種 の生成
モ ロ コ シの 多 様 化 選 択 と品 種 の 生 成
エチオ ピア西南部におけ るクシ系農牧民エルボ レの事例か ら
宮 脇 幸 生*
Diversified Selection of Sorghum bicolor and Development of Indigenous Varieties:
A Case from the Erbore in Southwestern Ethiopia
Yukio MIYAWAKI
This paper describes native methodology of sorghum cultivation and selection of indigenous varieties in an agro-pastoral society in south- western Ethiopia. It shows how the people have developed their varieties through their diversified selection practices.
The Erbore are a Cushitic agro-pastoral people dwelling along the Weito River. Seasonal flooding of the river provides them with fertile in- undated plains and allows them to cultivate sorghum in a large number of varieties in the semi-arid environment.
Sixty-one vernacular varieties of sorghum have been collected through an interview with 28 informants. The inventory of Erbore varieties exhibits diverse difference in frequency of reference by infor- mants in terms of recognition and cultivation. Eleven varieties are
recognized by the majority of the informants, while 23 varieties are refer- red to only by single informants. Five varieties are cultivated by more than 10 informants, while 32 varieties are cultivated by none.
Informants differing in age give different inventories of varieties.
Older informants tend to refer to less-known varieties than younger infor- mants.
These differences reflect both the properties of each variety and the process of selection practices. Some well-known varieties have useful
大阪府立大学,国 立民族学博物館共同研究員
Key Words : Ethiopia, Erbore, sorghum, indigenous varieties, diversified selection
キ ー ワ ー ド:エ チ オ ピ ア,エ ル ボ レ,モ ロ コ シ,在 来 品 種,多 様 化 選 択国立民族学博物館研究報告 16巻4号
properties such as pest-bird resistance. Such varieties constitute the core varieties preferred and cultivated by most people. These varieties have been preserved from generation to generation. Other varieties con- stitute the fringe varieties. Some of them are known only to the older generation by their names. This probably means that they have recently been discarded and lost.
The diversity of the indigenous varieties have been maintained through diversified selection practices. The process is twofold. First, a morphologically distinct mutant (yoofo) is preserved and kept for the next season. Cultivation of one variety on one spot enables people to recognize the morphological distinctiveness of such a mutant. Second, the new variety is given a name and multiplied experimentally. Through this process, its properties are carefully observed. If some of its proper- ties are judged to be useful, the variety will be kept to be sown again. If judged to be useless, it will be discarded.
The diversity of the indigenous varieties are the result of an ongoing process of selection and preservation. The natives' criteria and practices related to these activities are the important issues to be considered.
は じめ に
エ チ オ ピア の モ ロ コシ 調 査地 域
L 地 形 ・気 候 ・植 生 2.言 語 ・社 会 3.生 業
エ ル ボ レの モ ロ コ'シ栽 培 1.モ ロ コシ の利 用法 (1)食 用
(2)儀 礼 用 (3)そ の 他 2.モ ロ コシ の栽 培
3.モ ロ コシ の 品種 名 と知 識 の 社 会 的 配 分
(1)想 起 され た 品 種
(2)品 種 に 関 す る知 識 の社 会 的 な配 分 (3)実 際 に栽 培 され て い る品種 4.品 種 を 弁 別 す る基 準 品 種 多 様 化 の ダイ ナ ミズ ム
1.品 種 の 多 様 化 と系 統維 持 の メ カ ニ ズ
ム
(1)在 来 種
(2)外 部 か ら の新 品 種 の 導 入 (3)新 品種 の創 出
2.認 知 選 択 と実 用 選 択 3.実 用 選 択 の 意 味 結語
宮脇 モ ロコシの多様化選択 と品種の生成
は じ め に
いわ ゆ る 「未 開社 会 」 で は,さ ま ざ まな栽 培 植 物 に お い て 多 様 な 品種 が保 持 され, ま た そ の純 粋種 が 維 持 され て い る こ とが知 られ て い る。Andersonは,グ ァテ マ ラの イ ンデ ィア ンの 伝 統 的 農業 を例 に 引 きつ つ,彼 らの 栽 培 す る トウモ ロ コ シが,品 種 の 点 で,い か に厳 密 な 選別 が で きて い るか につ い て報 告 して い る。 そ して 「交雑 しや す い作 物 」 で あ る トウ モ ロ コ シの純 粋 種 の維 持 に 対 して,彼 らが どれ ほ ど注 意 を払 って い るか につ いて 注 目 し,未 開 民族 が育 種 に無 頓 着 で あ る とい う,そ れ まで の 通 念 に対 して,反 論 を加 え て い る[ANDERSON 1952】。 Levi=Straussは 「野 生 の 思 考 」 の 中 で このAndersonの 報 告 を,広 く 「未 開社 会 」 に見 られ る 「弁 別 的 差 異 へ の 関 心 」 の経 験 的活 動 に おけ る具 現 の 証 左 と して取 り上 げ た 【L.EVI=STRAuss 19621。 そ れ まで ほ とん ど顧 み られ る こ との な か った 「野生 の思 考 」に お け る 「差 異 と分 類 へ の 関心 」 と, そ の精 緻 な シス テ ムを 提 示 したLevi=Straussの 功 績 を,こ こであ らた め て 強 調 す る まで もな い だ ろ う。 け れ ど も栽培 植物 に お け る 品種 の多 様 化 とい う現 象 は,性 急 に 一 般 論 の 中 に解 消 して しま うに は,あ ま りに も多 くの問 題 を は らんだ トピ ッ クで は な い
だ ろ うか。 それ は い まだ,経 験 的 な 調 査 を必 要 と して い る課 題 な ので あ る。
栽 培 植 物 の 在 来 品 種 の地 域 的 な多 様 性 は,Vavilovの 研 究 以 来,作 物 栽 培 の 起 源 地 の指 標 と して注 目され て きた 。 さ らに 近年 で は,遺 伝 資 源 保 存 の立 場 か ら,遺 伝 的 に も多様 性 に富 んだ 在 来 種 の保 存 の 必 要 性 が 唱 え られ て い る 【H舐LAN 1975】。 こ うした栽 培 起 源 論,あ る いは 遺 伝 資源 収 集 の立 場 か らな され た 考 古 学 的,植 物 学
的 調査 は,こ れ ま で に もか な りの数 に 上 る。 け れ ど も,地 域 社 会 に生 き る人 々が,多 様 な在 来 種 を ど の よ うに して認 知 し,選 抜 し,維 持 し続 げ て きた のか につ い て の 人 類 学 的 な調 査 が開 始 され た のは,つ い最 近 の こ とに す ぎな い[BRUSH et al.1981】 。 仮 に 以上 の よ うな民 俗 的 社 会 に 見 られ る作 物 栽 培 の方 法 論 に関 す る調 査 研 究 を,広
く土 着 の 民俗 的 科 学 研 究 【FUKUI l987】の一 環 と して と らえ るな らば,こ れ らの 新 た な 研 究 動 向 の特 徴 は,以 下 の よ うな諸 点 に 求 め られ るだ ろ う。 まず 第1に,こ う した 土 着 の 知 識 に西 欧科 学 の尺 度 を 当 て る こ とに よ り,そ れ を劣 った もの,あ るい は 逆 に 意 外 に 優 れ た もの とみ なす よ うな,一 元 的 な価 値 判 断 を避 け る こ とで あ る。 第2に, こ う した 土 着 の知 識 を,で きあ い の図 式 的 な もの と して と らえ るの で は な く,知 識 の 社 会 的 な 配 分 や そ の 運 用 に つ い て 繊 細 な ま な ざ しを 向 け る こ と で あ る [BOSTER 1985b1。 第3に,品 種 の多 様 性 の よ うな現 象 を,単 な る 「結 果 」 とみ な す の で は な く,
国立民族学博物館研究報告 16巻4号
ヒ ト と植 物 の 間 に と りな され,常 に 生 起 し,進 行 しつ つ あ る プ ロ セ ス と し て と ら え る こ と で あ る 。 そ して 第4に,「 土 着 の 科 学 」 を,「 西 欧 科 学 」 の よ うに,人 々Y'意 識 さ れ て い る 知 識 や,意 図 的 に 行 わ れ て い る 方 法 に 限 定 して と ら え る の で は な く,さ ら に 人 々 の 意 識 し て い な い 行 為 の 持 つ 機 能 的 連 関 を も と り込 む 形 で と ら え る こ と で あ る
【重 田 19911。
こ の よ うな,品 種 の 多 様 化 と そ の 維 持 を め ぐ る 人 一 植 物 間 の 関 係 に つ い て は,栄 養 体 繁 殖 の 作 物 で あ る ア ン デ ス の ジ ャ ガ イ モ 【JAcKsoN etal.1979;BRUSH etal.
1981;JoHNs and KEEN 1986】,キ ャ ッ サ バ 【BOSTER 1984,1985a,1985b],エ チ オ ピ ア の エ ン セ ー テ 【重 田 1988】,パ キ ス タ ン の ナ ツ メ ヤ シ[松 井 1991】 に つ い て 詳 細 な 報 告 を 見 る こ と が で き る。 そ れ に 対 し てJ種 子 繁 殖 の 栽 培 植 物 に つ い て は,筆 者 の 知 る か ぎ りで は,シ エ ラ ・ レオ ネ の イ ネ 栽 培 に つ い て の 報 告 が な され て い る に 過 ぎ な
い[RicxnFtns 1986]0
本 稿 の 目的 は,以 上 の よ うな 研 究 動 向 の 上 に た ち,ア フ リ カ の 代 表 的 な 種 子 繁 殖 の 作 物 で あ る モ ロ コ シ 栽 培 を め ぐ る,人 と植 物 の 相 互 作 用 の 実 態 に つ い て 報 告 す る こ と に あ る 。 対 象 と す る 社 会 は,エ チ オ ピ ア 西 南 部 の ク シ 系 農 牧 民 エ ル ボ レで あ る 。 本 稿
で は 特 に,こ の 社 会 に お い て 品 種 の 多 様 化 と系 統 維 持 が い か な る や り方 で 行 わ れ て い る か に つ い て 論 及 し,民 族 社 会 に お け る 品 種 の 選 抜 ・育 種 の 動 的 側 面 を 強 調 す る 。 そ し て 品 種 多 様 化 の プ ロ セ ス にごは,人 々 の,栽 培 植 物 の 形 態 的 特 徴 に 対 す る 微 細 な 差 異 の 認 知 だ け で な く,実 用 上 の 基 準 に 照 ら した 取 捨 選 択 が 関 与 し て い る こ と,さ ら に は 表 立 っ て は 意 識 さ れ な い 行 為 や 慣 習 が,品 種 の 選 択 と 維 持,そ し て 多 様 化 を 可 能 に す
る,潜 在 的 な 条 件 と して 機 能 し て い る こ とを 明 ら か に す る 。
エ チ オ ピ ア の モ ロ コ シ
モ ロ コ シ(S.bicolor(L)Moench)は ア フ リ カ 原 産 の イ ネ 科 の 作 物 で あ る 。 モ ロ コ シ と そ の 近 縁 野 生 種 は 形 態 的 な 変 異 が 大 き く,こ と に 栽 培 種 の モ ロ コ シ に は,顕 著 な 多 型 が 見 ら れ る こ と が 知 ら れ て い る。 栽 培 種 の モ ロ コ シ を 初 め て 網 羅 的 に 分 類 し た Snowdenは,32種,158も の 品 種 を 認 め た[HaRLarr grid DE WET 1972】。 近 年 に な っ てde WetとHarlanに よ り,小 穂 の 形 状 に 基 づ い た よ り簡 潔 な 分 類 が 提 示 さ れ て い る 。 そ れ に よ れ ばS.bicolor(L.)Moenchは,4系 統 の 野 生 種 を 含 むarundinaceum亜 種
と5系 統 の 栽 培 種 を 含 むbicolor亜 種 に 二 分 さ れ る 【DE WET, HARLAN and PRICE 1976]o
宮脇 モ ロコシの多様化選択 と品種の生成
bicolor亜 種 は そ の 中 に, bicolor, guinea, ka丘r, caudatum, durraと い う5系 統 の 栽 培 種 を 含 ん で い る 。 これ ら は 小 穂 の 形 状 が 異 な っ て い る だ け で な く,地 域 的 な 分 布 に
も 偏 りが 見 られ る(表1)。
エ チ オ ピ ア で は 栽 培 種5系 統 の う ち,durra, bicolor, guinea, caudatumの4系 統 が 栽 培 さ れ て い る[STEN‑‑.ER, HARLAN and DE WET 19771。 こ の う ち 最 も ひ ろ く栽 培 さ れ て い る の はdurraで,標 高1000メ ー トル か ら2000メ ー トル の 東 部 高 原 地 帯 を 中 心 に 栽 培 され る 。durraは も と も と イ ン ドで 起 源 し た 系 統 で あ る 。
エ チ オ ピ ア 西 部 お よび 西 南 部 の 高 地 で は,durraとbicolorの 中 間 型 が 栽 培 さ れ る 。 散 開 型 の 花 序 を 持 ち,果 皮 に ポ リ フ ェ ノ ー ル(タ ン ニ ン)を 含 有 す る こ の 種 は,カ ビ な ど に 侵 さ れ や す く冷 涼 で 湿 潤 な こ の 地 方 の 気 候 に 適 応 した も の と思 わ れ る 。 一 方 西 南 部 低 地 の 乾 燥 した サ バ ンナ 地 帯 で は,caudatumが 栽 培 さ れ る 。 こ の 地 域 は ナ イ ル 系,ス ル マ 系 の 牧 畜 文 化 が 卓 越 し,ス ー ダ ン南 部 の ナ イ ル 系 牧 畜 文 化 と の 共 通 性 を み る こ と が で き る 。Stemlerら に よ れ ば,こ の 地 域 で 栽 培 さ れ て い る caudatumも 同 様 に,ナ イ ル 系 牧 畜 民 文 化 に 特 有 の 系 統 で あ る 。
こ の ほ か,西 南 部 高 地 の ク シ 系 農 耕 民 コ ン ソ で は,西 ア フ リ カ に 多 く見 ら れ る guinea種 の 栽 培 が 確 認 さ れ て い る[STEMLER 8f QI.1977】 。
エ ル ボ レに 見 ら れ る モ ロ コ シ の 多 くはcaudatumで あ り,ナ イ ル 系 牧 畜 文 化 と の 共
表1 栽 培型 ソル ガ ム5系 統 の形 状 と栽 培 地 域
小 穂 の 形 状 花序 の形状 栽 培 地 域
bicolor
細 長 い 穎 果,そ れ を包 み 込 む 長 い 穎 を持 つ。散 開型 ア フ リカ全 域 の ソル ガ ム 栽培 地 域 に 小 規 模 に 見 られ る。イ ン ド,
ビル マ,中 国。
guinea
片 方 の 腹 面 の へ こん だ 凸 レンズ 型 の 穎 果。 成 熟 時,大 き く開 い た苞 穎 に 対 して90度 ね じれ る。散 開型 シエ ラ ・レオ ネ か らナ イ ジ ェ リ ア東 部 に か け て の 比較 的 雨量 の 多 い 西 ア フ リカ地 域 。
caudatum
偏 平 で,先 端 が くちば しの よ うに とが った穎 果 。密 穂 型 ・堅 穂 型 ・散 開 型
チ ャ ド,ス ー ダ ン,ナ イ ジ ェ リ ア,ウ ガ ン ダ な ど,中 央 ア フ リ カ の サ バ ン ナ 地 帯 。
kafir
丸 く小 さ な穎 果。 密穂型ア フ リカ 南 部 。
durra
穎 果 は倒 立 した卵 型 。 苞 穎 に 水 平 な ひ だ が入 る。密穂型
イ ン ド,中 近 東,エ チ ナ ピ ア,
"
ス ー タ ン 。
Harlan and de Wet[1972】 よ り 作 成
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通 性 が うか が わ れ る1)。 東 部 で 栽 培 され るdurraは 確 認 で き な か っ た 。
調 査 地 域
1.地 形 ・気 候 ・植 生
本 稿 で 報 告 す る 調 査 の 対 象 と し た エ ル ボ レ(Erbore)は,エ チ オ ピ ア の 西 南 部 サ ウ ス オ モ 州 に 居 住 す る,人 口2000人 程 の ク シ 系 農 牧 民 で あ る 。 エ ル ボ レの テ リ ト リー は,北 緯4度50分 か ら57分,東 経36度45分 か ら37分 の 間 に 位 置 し,面 積 約400平 方 キ ロ メ ー トル,標 高500メ ー トル ほ ど の 半 乾 燥 低 地 で あ る 。 テ リ ト リ ー の 東 端 を 北 か ら 南 に ウ ェ イ ト川(Limo)が 流 れ,ケ ニ ア 国 境 に あ る ス テ フ ァ ニ ー 湖(Chelbi)に 注
ぐ。 エ ル ボ レは こ の ウ ェ イ ト川 下 流 の 沿 岸 地 域 か ら,ス テ フ ァ ニ ー 湖 の 北 岸 に か け て 居 住 して い る(図1)。
エ ル ボ レの テ リ ト リ ー を 含 む エ チ オ ピ ア 西 南 部 の 一 帯 の 低 地 は,年 間 の 降 雨 量 が 200ミ リか ら600ミ リの 半 乾 燥 地 帯 で あ る 。 こ の 地 域 の 降 雨 パ タ ー ン は,年 に2回 の 雨 季 を 持 つ こ と に よ り特 徴 づ け られ る 。 降 雨 月 は2月 か ら7月 お よ び9月 と10月 の8か 月 で,特 に4月 に 集 中 的 な 降 雨 を み る 【G㎜CHU 19771。 月 毎 の 平 均 気 温 は 年 間 を 通 じて 変 化 が 少 な く,2度 か ら3度 の 偏 差 内 に と ど ま る。 北 緯4度15分,東 経35度45 分 に 位 置 し,エ ル ボ レ と 同 一 の 気 候 帯 に 属 す る ト ゥル カ ナ 湖 西 岸 のLokitaungの 観 測 値 に よれ ば,年 平 均 の 最 高 気 温32度,最 低 気 温22度,年 間 の 平 均 気 温 が27度 で あ る [BUTZER 1971]o
エ ル ボ レ は,1年(guh)を12の 月(le)に 区 分 し,そ れ ぞ れ に 名 称 を 与 え て い る が,日 常 的 に 用 い られ る の は 降 雨oy基 づ い た 季 節 的 な 区 分 で あ る 。 前 述 の よ う に,エ ル ボ レの 居 住 地 域 の 気 候 は,年 に2回 の 雨 季 に よ っ て 特 徴 づ け られ る 。 エ ル ボ レは, 最 も 雨 量 の 多 い2月 か ら6月 に か け て の 大 雨 季 をguh,9月 か ら11月 の 小 雨 季 を Nagai,こ れ ら の 間 に は さ ま れ る12月 か ら1月,7月 か ら8月Y'か け て の 乾 季 をmar
と 呼 び,1年 を 名 称 上 は3つ,実 際 に は4つ の 季 節 に 区 分 し て い る 。
guhとhagaiの 降 雨 は,ウ ェ イ ト川 に 大 規 模 な 氾 濫 を もた らす と い う点 で,エ ル ボ レ の 農 耕 活 動 に と っ て た い へ ん 重 要 な 意 味 を 持 つ 。 ウ ェ イ ト川 は,エ ル ボ レの 居 住 地 域 で も,乾 季 に は 幅 が10メ ー トル,深 さ50セ ン チ ほ ど の 小 河 川 に す ぎ な い 。 け れ ど も
1)今 回 調 査 地 で 収 集 した21サ ン プ ル の う ち,caudatumが20サ ン プ ル, durra‑bicolorの 中 間
型 が1サ ン プ ル で あ っ た 。
宮脇 モ ロコシの多様化選択 と品種の生成
図1 エ ル ボ レ とそ の近 隣 民族
雨 季 の 氾 濫(heeron)期 に は,川 の 片 方 の 岸 だ け で も,幅50メ ー トル,時 に は100メ ー トル に も わ た っ て 冠 水 す る 。そ して こ の 氾 濫 の 期 間 は,2か 月 か ら3か 月 に わ た る(図 2)o
エ ル ボ レの テ リ ト リー の 大 半 は,マ メ 科 の 灌 木 の ま ば ら に 生 え る サ バ ン ナ で あ る が, ウ ェ イ ト川 の 両 岸 は,幅1キ ロ に わ た っ て 川 辺 林 に よ り覆 わ れ て い る 。 こ の 川 辺 林 を , エ ル ボ レはdelと 呼 び ,サ バ ンナ(afai)へ の 遷 移 地 帯 を な す 疎 開 林 をkoraと 呼 ん で い る 。 後 に み る よ う に,サ バ ン ナ で は ウ シ の 牧 畜 が,川 辺 林 で は 河 川 の 季 節 的 な 氾 濫
国立民族学博物館研 究報告 16巻4号
図2 氾濫原農耕 の生業暦
を 利 用 した氾 濫 原農 耕 が行 わ れ て い る。
2.言 語 ・社 会
エ ル ボ レ語 は,ク シ語 派,東 ク シ語 の 中 の 低 地 東 ク シ語 群 に 分 類 され て お り,近 年 の 研 究 で は こ と に,ト ゥ ル カ ナ 湖 の 北 岸Y'居 住 す る ク シ 系 農 牧 民 ダ サ ネ ッ チ (Dassanetch),お よ び 南 東 岸 に 居 住 す る ク シ 系 漁 撈 民 エ ル モ ロ(Elmolo)と の 近 縁 性 が 指 摘 さ れ て い る 。19世 紀 の 前 半 頃 に は お そ ら く,こ れ ら の 祖 語 を 話 す 民 族 が,ト
ゥ ル カ ナ 湖 北 岸 か ら ス テ フ ァ ニ ー 湖 北 岸 に か け て 分 布 し て お り,そ の 後 サ ン プ ル (Samburu)の 北 上,旱 魃 や 牛 疫 の 流 行,ト ゥ ル カ ナ(Turkana)の レ イ デ ィ ン グ な ど の た め 東 西 に 分 断 さ れ た も の と 推 定 され て い る 【HAYWARI)1984】 。
エ ル ボ レは 現 在,北 を ク シ 系 農 牧 民 ツ ァ マ イ(Tsamai),西 を オ モ 系 農 牧 民 ハ マ ル (Hamar),東 を ク シ系 牧 畜 民 ボ ラ ナ(:. .)と 接 し て い る 。 ツ ァ マ イ,ボ ラ ナ と は,そ の 隣 接 地 域 で は 通 婚 関 係 を も つ が,ハ マ ル と は 互 い に レ イ デ ィ ン グ を し あ う敵 対 関 係 にこあ る 。
エ ル ボ レは,ふ た つ の 大 地 域 集 団 か ら成 っ て い る 。ひ と つ は 北 方 に 居 住 す る集 甲 で,
宮脇 モロコシの多様化選択 と品種 の生成
南 方 の 集 団 か ら ア ル ポ レ(Arbore)と 呼 ば れ て い る 。 ア ル ポ レは さ ら に ガ ン ダ ラ ブ ((ヲαπdα厂σδ)と ク ラ マ(Kulama)に 二 分 さ れ る 。 ガ ン ダ ラ ブ は エ ル ボ レの 居 住 地 域 の 北 端,ウ ェイ ト川 の 西 岸 に 位 置 し,戸 数 約200>エ ル ボ レの 集 落 中 最 大 の ゴ ン ド ロ
・ミ(Gondoraba)と い う定 住 集 落 に,ク ラ マ は 東 岸 に 位 置 す る ビ ル ビ ロ(Bilbilo)と い う定 住 集 落 に 居 住 す る 地 域 集 団 で あ る 。 さ ら に ゴ ン ド ロバ の 北 方 約6キ ロほ ど の と こ ろ に は,エ ル ボ レ語 で は ク イ レ(Kuile)ツ ァ マ イ 語 で は ガ ン ダ ・ ボ ゴ ル キ ロ (Ganda Bogolkilo)と 呼 ば れ る ツ ァ マ イ の 首 長 村 落 が あ り,そ こ に は ゴ ン ド ロバ か ら 移 住 し,ツ ァ マ イ の 首 長 筋 と 姻 戚 関 係 を 持 つ エ ル ボ レ の 集 団 が 居 住 して い る 。 も う一 方 の 南 に 居 住 す る 集 団 は,北 方 集 団 か ら マ ル レ(Marle)と 呼 ば れ て い る 。
マ ル レは ム ラ レ(Murale)と エ グ テ(Egute)と い う二 集 団 か ら 成 っ て い る。 マ ル レ は か つ て は ス テ フ ァ ニ ー 湖 北 岸 の ス ラ(Surra)地 域 に 分 布 し て い た が,ハ マ ル と の 戦 闘 の 後 に,ウ ェ イ ト川 の 東 岸 に あ る ニ ャ チ ャ(Nyacha)と い う集 落 に 移 動 し,現 在 に 至 っ て い る 。
ガ ン ダ ラ ブ お よ び ク ラ マ の 地 域 集 団 に は そ れ ぞ れ,カ ウ ォ ッ ト(kawot)と 呼 ば れ る 首 長 が い る 。 こ れ ら の カ ウ ォ ッ トは 降 雨 儀 礼 を つ か さ ど り,そ の 力 能 は エ ル ボ レの み な らず 近 隣 の ボ ラ ナ の 崇 敬 も 集 め て い る。
こ れ ら の い くつ か の 地 域 集 団 を 貫 い て い る 共 通 の 制 度 が,ジ ム(ノim)と 呼 ば れ る 年 齢 階 梯 制 で あ る 。 現 在 ジ ム に は 上 か ら 順 に,オ ッ バ ル シ ャ(obbarsha),ギ ダ マ
(gidama),マ ロ レ(marole),ワ タ ー ニ ア(wataan ia)と い う4つ の 階 梯 が あ る 。
3.生 業
エ ル ボ レ の 生 業 は,ウ シ,ヤ ギ,ヒ ツ ジ の 牧 畜 と,モ ロ コ シ,ト ウ モ ロ コ シ を 主 と す る 農 耕 か ら 成 っ て い る 。牧 畜 を 担 う の は,年 齢 階 梯 ワ タ ー ニ ア に 属 す る若 者 で あ る。
彼 ら は 数 人 で ブ リ ッチ(furich)と 呼 ば れ る 牧 畜 キ ャ ン プ を 作 り,数 十 頭 の ウ シ,ヤ ギ,ヒ ツ ジ と と も に 暮 ら す 。 数 日 か ら数 週 間 一 か 所 に と ど ま り,周 辺 の 牧 草 を 食 べ 尽
くす と,新 た な 放 牧 地 を 求 め て 移 動 す る。 定 住 集 落 の 周 囲 に 広 が る サ バ ン ナ に は,こ の よ う な プ リ ッ チ が い くつ も,新 た な 牧 草 を 求 め て 遊 動 し て い る 。
エ ル ボ レ に と っ て ウ シ は,大 き な 社 会 的 価 値 を 持 っ て い る が,実 際 の 食 生 活 を み る と,ミ ル ク や パ タ ー な ど の 乳 製 品 を ひ ん ば ん に 利 用 す る 点 を 除 け ば,家 畜 の 占 め る 割 合 は,そ れ ほ ど大 き い と は 言 え な い 。 む し ろ 彼 ら の 食 生 活 は,モ ロ コ シ や トウ モ ロ コ シ の よ うな 穀 物 に 依 存 して い る 。 そ し て これ ら の 穀 物 の 大 半 は,季 節 的 な 河 川 の 氾 濫 に よ っ て 冠 水 す る,川 辺 林 の な か に 開 か れ た 畑 か ら も た ら さ れ る の で あ る 。
国立民族学博物館研究報告 16巻4号
図3 ウ ェイ ト川 周辺 の 自然 環 境
エ ル ボ レ は 耕 作 地 を,ピ ー(bii)と ル チ(luchi)に 分 類 し て い る 。 ピ ー は,サ バ ン ナ(afai)に 作 ら れ,2年 か ら3年 で 遷 移 す る 天 水 利 用 の 耕 作 地,お よ び 疎 開 林 (kora)に ご開 か れ,不 定 期 に 冠 水 す る 耕 作 地 を 指 す 。 ピ ー は 年 間 の 収 穫 が1回 に す ぎ ず,規 模 か ら い っ て も エ ル ボ レ の 農 耕 活 動 に お い て 占 あ る 重 要 性 は 小 さ い 。 こ れ に 対 し て ル チ は 川 辺 林(del)の 中 に 開 か れ,ウ ェ イ ト川 の 季 節 的 な 氾 濫 に よ っ て 定 期 的 に 冠 水 す る 耕 作 地 で あ る 。 川 の 氾 濫 に よ っ て,上 流 か ら黒 色 の 肥 沃 な 沖 積 土(konon) が も た ら さ れ る 。 そ の た め ル チ で は,少 な く と も年 に2回,年 に よ っ て は3回 の 収 穫 が 可 能 で あ る 。 エ ル ボ レ の 農 耕 活 動 は,こ の 定 期 的 な 冠 水 地 を 主 要 な 舞 台 と して 展 開
さ れ て い る の で あ る(図3)。
ル チ で 栽 培 さ れ て い る 作 物 は,モ ロ コ シ(rub),ト ウ モ ロ コ シ(,, ),サ サ ゲ (ha〃1),カ ボ チ ャ(bote),ヒ ョ ウ タ ン(kalu),ワ タ(futa)で あ る 。 こ れ ら の 作 物 は,川 の 氾 濫 の 引 く年 に2回 の 乾 季 に,播 種 と収 穫 が 行 わ れ る 。 作 付 面 積 か ら み る と モ ロ コ シ と ト ウ モ ロ コ シ が 最 も 広 範 に 栽 培 され て お り,な か で も モ ロ コ シ は 多 様 な 品 種 を 擁 す る と い う点 で,他 の 作 物 と は 際 立 った 相 違 を 示 して い る 。
宮脇 モ ロコシの多様化選択 と品種の生成
エ ル ボ レ の モ ロ コ シ 栽 培
1.モ ロ コ シ の 利 用 法
モ ロ コ シ は 多 目的 な 作 物 で あ る 。 さ ま ざ ま な や り方 で 調 理 さ れ る だ け で な く,儀 礼 や 建 築 材 料 に も 使 用 さ れ る 。
(1)食 用 未 成 熟 の 穎 果 は,そ の ま ま 軽 くあ ぶ っ て 食 され る 。 成 熟 した 穎 果 は 粉 に 引 き,そ れ に 湯 を 加 え て ポ リ ッ ジ(buuru)に し た り,ホ ッ トケ ー キ の よ うな 形 の パ ン(Lassa)に 焼 い て 食 さ れ る。 ま た 発 酵 さ せ て ビ ー ル(farso)に す る 。 糖 分 を 含 ん だ 茎 は,表 皮 を む い て 生 の ま ま 噛 む 。
(2)儀 礼 用 一 般 の 世 帯 の モ ロ コ シ の 播 種 に 先 立 っ て,g8加 加 と い う品 種 の モ ロ コ シ が,首 長 に よ り播 種 さ れ る 。 ま た こ の 品 種 の モ ロ コ シ は,新 生 児 の 授 乳 前 に 行 わ れ る 儀 礼(herdodussin)で も,コ ー ヒ̲y,い れ て 新 生 児 に 与 え ら れ る 。
(3)そ の 他 生 の 茎 は,家 畜 の 飼 料 に 用 い ら れ る 。 ま た 乾 燥 し た 茎 は,出 作 り小 屋 の 屋 根 や 側 壁 を 葺 く の に 用 い ら れ る 。
2.モ ロ コ シ の 栽 培
河 川 の氾 濫 が 引 く と,冠 水 に よ って 沖 積 土 の もた ら され た 耕 作 適 地(luchi)が, 各世 帯 に 分 配 され る。 ル チ の各 世 帯 へ の 分 配 は,ム ラ(murra}と 呼 ば れ る幾 人 か の 長 老 た ち の合 議 に よ って決 定 され る。 現 在 ゴ ン ドロバ で は7人 の エ ル ボ レが,ツ ァマ イ の 首長 村 落 で は3人 の ツ ァマ イが ム ラ とな っ て い る。 ル チ は 世 帯 単 位 で 耕 作 され て お り,そ れ ぞ れ の耕 作 地 は,サ ーバ ン(saaban)と 呼 ば れ る数 本 の 杭 を 目印 と して 打 つ こ とに よ って,と な りの畑 か ら区 別 され る。 川 岸 か ら数 十 メ ー トル 奥 ま った所 に あ る小 高 い河 岸 段 丘(dibbe)が 定 期 的 な冠 水 地 を 区 切 って お り,そ の 河 岸 段 丘 の上 に,畑 を 見下 ろす よ うに して 出作 り小 屋(bara)が 作 られ て い る。 また耕 作 地 の 中央 部 に は 鳥 追 い の た め の 見 張 り台(konna)と,穀 物 の 乾 燥 台(doru)が 作 られ る(図 4)0
さて,河 川 の 氾濫 が 引 き,各 世 帯 に耕 作 地 が 分 配 され る と,モ ロ コ シの播 種 が行 わ れ る。 男 が 数十 セ ンチ 間隔 で掘 り棒 に よっ て穴 を 掘 り,そ こへ 女 が一 握 りの種 を蒔 い
ノ
て行 く。 い く度 か の 除 草 の後,出 穂 し,穎 果 が 結 実 す る と,鳥 追 い が 始 まる。 穎 果 が
国立民族学博物 館研究報告 16巻4号
図4 冠 水 薪 作 地(luchi)の 見取 図
熟 す と,ま ず 最 初 に 熟 し た 穂 を い くつ か 翌 年 の 播 種 用 に 保 存 して お く。 そ れ ま で は, そ の 畑 に 生 え て い る モ ロ コ シ を 他 者 に 分 け 与 え て は な ら な い と さ れ て い る 。 そ の 後 残
りの 穂 が 収 穫 さ れ,耕 作 地 に あ る乾 燥 台 の 上 で 乾 燥 さ れ る 。 エ ル ボ レは,モ ロ コ シ の 1回 目 の 収 穫 で と れ る 穂 を ゴ ス(gO5),そ の 収 穫 後 の 茎 か ら 出 穂 す る 穂 を チ ャ カ リ
(chakali),さ ら に そ の 収 穫 後 の 茎 か ら 出 穂 す る 穂 を ア カ(aka)と 呼 び,い ず れ も食 用 に 用 い て い る2)。 た だ し ア カ は,も っ ぱ ら ビ ー ル の 醸 造 用 に 用 い ら れ る。
3.モ ロ コ シ の品 種 名 と知 識 ㊧ 社 会 的 配 分
ツ ァ マ イ の 首 長 村 落 ガ ン ダ ボ ゴ ル キ ロ,お よび ゴ ン ド ロバ で,28人 の エ ル ボ レか ら 自 分 の 畑(luchi)に 作 付 し て い る モ ロ コ シ の 品 種 名 と,そ の ほ か に 知 っ て い る 品 種 名 を あ げ て も ら っ た3)。 イ ン フ ォ ー マ ン トは い ず れ も,年 齢 階 梯 ワ タ ー ニ ア 以 上 に 属 す る 成 人 の 男 性13人,女 性15人 で あ る(表2)。
2) 字 義 通 り に は,"go3","chakali", aka"は そ れ ぞ れ,「 播 種 」,「 若 芽 」,「 祖 母 」 を 意 味 す
る 【HAYWARD 1984]。
宮脇 モ ロコシの多様化選択 と品種の生成 結 果 は 表3の 通 りで あ る。 この表 は,品 種 名 が,言 及 され る頻 度 の多 い順 に 上 か ら 下 へ,イ ン フ ォ ーマ ン トが,言 及 品 種 名 の 多 い順 に 左 か ら右 へ と並 べ て あ る。
表2 イ ン フ ォー マ ン トの年 齢 と性 別
(1)想 起 され た 品種
28人 が 言 及 した 品 種 名 は,の べ407,計 61品 種 に の ぼ った。 一 見 して 明 らか な よ う
に,品 種 に よ って そ の知 名 度 には 大 き な差
年齢 階梯 性別
(年齢) 男 女 計
obbarsha(51‑60)
4 3 7
gidama (41‑SO) 2 6 8
maro[e (31‑40) 3 3 6
wataania(21‑30)
4 3 7
計
13 15 28
が あ る 。28人 全 員 に 知 ら れ て い る の は,ガ バ ボ(gα 加 わo)と い う品 種 の み,半 数 以 上 の 人 々 に よ っ て 言 及 され た 品 種 も,ll品 種 で あ る 。 逆 に61品 種 の お よ そ3分 の1に
あ た る23品 種 は,一 人 の イ ン フ ォ ー マ ン トに よ っ て 言 及 さ れ て い る に す ぎ な い 。
(2)品 種 に 関 す る知識 の社 会 的 な配 分
最 も多 くの品 種 名 を あ げ た の は,最 年 長 の年 齢 階 梯 オ ッバ ル シ ャに 属 す る 男性 で, 25種 の品 種 名 を あ げ て い る。 最 も少 なか った 者 で も9種 の 品 種 名 を あ げ て お り,平 均
で14.5,最 頻 値 は16で あ る 。
と ころで,品 種 名 の認 知 に 関 して,性 別 ・年 齢 に よる差 が 見 られ るだ ろ うか。
モ ロ コ シ の 播 種 と,種 子 の 保 存 は 女 性 が 行 う。だ か ら,エ ル ボ レ の 男 性 の 何 人 か は, モ ロ コ シの 品 種 に つ い て は 女 性 の方 が 詳 しい と語 った 。 け れ ど も実 際 は,耕 作地 で作 物 の栽 培 に 携 わ る男 性 の 姿 を 見 かけ る こ とは 多 い。 今 回 の 調 査 で も,男 性 の あ げ た品 種 数 の 平 均 が14.5,女 性 が14.6で,差 は 見 られ な い 。
表4は,イ ン フ ォ ー マ ン トを 左 か ら年 齢 階 梯 に 基 づ い て 降 順 に 並 べ た も の で あ る 。
3)エ ル ボ レの モ ロ コ シ の 品 種 名 は,単 音 節 か ら 成 る も の と,複 音 節 か ら 成 る も の が あ る。
1)単 音 節 か ら 成 る 品 種 名 の ほ と ん ど は,そ れ 自 体 で は 意 味 の な い 音 節 で あ る(eg.
gめ 始o,losuro, dintsな ど)。 た だ し,そ れ が 由 来 し た 民 族 名 を 表 す も の や(eg. murso,ス ル マ 系 農 牧 民Mursiよ り伝 来),他 の 言 語 に お い て は 意 味 の あ る 複 音 節 と な る も の(eg.
aka〃244海,隣 接 す る ク シ 系 農 牧 民Tsamaiの 言 語 で, aka ma acchi(Where did he go?)を 表 す) も 少 数 含 ま れ る 。
2)複 音 節 か ら 成 る も の に は,a.単 音 節 の 品 種 名 に,そ の 品 種 の 形 状 を 表 す 修 飾 語 を 付 加 し た も の(eg. adi ya kunma「 短 いadi」, e〃zado bora「 赤 いe〃aado」 な ど), b.そ の 品 種 を も た ら し た り,そ の 品 種 が 生 じた 畑 の 所 有 者 の 名 前 を 付 加 した も の(eg. emado iya baje rBa‑
jeの 父 の(畑 か ら生 じ た)emado」, emado tsagae「Tsagaeの も た ら したemado」 な ど), C.そ の 他 の 単 語(そ の 品 種 の 形 状 を 連 想 さ せ る も の か?)を 付 加 し た も の(e〃tado enokk厂 子 ヤ ギ のemado」 な ど)が あ る。
品 種 名 の 中 に は,emadoと い う語 を 含 む も の が 多 く見 ら れ る 。 こ れ ら の 品 種 は,"emado"
と い う単 一 の 品 種 か ら 派 生 した も の と も 考 え ら れ る 。 け れ ど も 後 に み る よ う に,他 民 族 か ら
も た ら さ れ た も の の 中 に も,emadoと い う語 を 冠 す る 品 種 は 多 い 。 あ る い はe〃zadoと い う
語 は,何 ら か の 特 徴 を 共 有 す る 品 種 に 冠 せ られ て い る の か も し れ な い 。
国立民族学博物館研究報告 16巻4号 これ を 見 る と,最 年 長 の オ ッバ ル シ ャ(推 定 年 齢si‑6a才 。 以 下 同 。)の あ げ た 品 種 数 の 平 均 が15.6,以 下 順 に ギ ダ マ(41‑50)14.6,マ ロ レ(31‑40)12.2,ワ タ ー ニ ア (21‑30)15.4と な っ て お り,マ ロ レに 属 す る も の の あ げ た 品 種 数 が 少 な い 点 を 除 け ば, 顕 著 な 違 い は 見 ら れ な い 。 け れ ど も言 及 し て い る 品 種 名 に 注 目 す る と,年 代 に よ る 明 らか な 違 い が 目に つ く。 マ ロ レ,ワ タ ー ニ ア の 若 年 世 代 の あ げ た 品 種 は,言 及 頻 度 が 5以 上 の 知 名 度 の 高 い 品 種 に 集 中 し て い る の に 対 し て,オ ッバ ル シ ャ,ギ ダ マ の 年 長 世 代 は,言 及 頻 度4以 下 の,あ ま り知 名 度 の 高 く な い 品 種 に 言 及 す る 割 合 が 顕 著 に な っ て い る。 年 長 世 代 に よ っ て の み 言 及 さ れ る 知 名 度 の 低 い 品 種 群 は,あ る い は か つ て は 栽 培 され た け れ ど,現 在 で は 失 わ れ て し ま い,若 年 世 代 の 目 に 触 れ る こ と の な い 品 種 を 多 く含 ん で い る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。 た と え ば 品 種 番 号31のg傭g俶 は3人 の イ ン フ ォ ー マ ン トに よ って 言 及 さ れ て い る が,現 在 で は 誰 も 栽 培 せ ず,種 子 も な く な っ て し ま っ た と い う。
(3)実 際 に栽 培 され て い る品 種
最 も多 くの 品種 を 栽 培 して い る者 で9種,最 も少 な い 者 で3種,た い て い の 者 は5 種 か ら6種 の品 種 を1筆 の畑 に栽 培 して い る。 品種 の認 知 と異 な り,実 際 に栽 培 して い る 品 種 数 は,イ ン フ ォ ー マ ン ト問 で 大 き な 差 は な い 。 品 種 別 に 見 る と,1.
'/////(品 種 名 の前 の 数 字 は 品 種番 号 を 示 す 。 以 下 同 。)が 飛 び抜 け て人 気 が あ り, 28人 中27人 が栽 培 して い る。 け れ ど も この 品 種 を 含 め て10人 以 上 に よ って 栽 培 され て い る品種 は5品 種 だ け,逆 に61品 種 の 半 分 以 上 に あ た る32品 種 は,少 な くと も この28 人 のイ ン フ ォ ーマ ン トの 中 では,名 前 に よ って の み知 られ て い る にす ぎ ない 。 以 上 か ら明 らか な よ うに,品 種 に よ りそ の 知 名 度,栽 培 頻 度 に は顕 著 な差 が 見 られ
る。 一 方 で は 多 くの人 に知 られ,ま た 栽 培 され て い る 少数 の 中核 的 な品 種 群 が あ る。
他 方 で は,少 数 の人 に しか知 られ ず,ほ とん ど栽 培 され る こ と もな い多 くの 周 辺 的 な 品 種 群 が あ る。 さ らに い く人 か 年 長 世 代 に よ って 想起 され た 周辺 的 な 品種 の中 に は, 現 在 では 全 く栽培 されず,種 子 も失 わ れ て 系 統 の 絶 え て しま った もの もい くつ か 含 ま れ て い る。 この こ とは,後 に 明 らか に す る よ うに,エ ル ボ レの モ ロ コシ の品 種 が 置 か れ て い る,選 抜 と淘汰 の過 程 を表 して い る ので あ る。
4.品 種 を 弁 別 す る基 準
次 に これ らの 品 種 を弁 別 す る基 準 につ い て考 え て み よ う。
栽 培 植 物 の品 種 の認 知 と選 択 に 関 して,色 彩 や 形 態,大 き さな どの 外面 的 な特 徴 の
表3 エ ル ボ レにお け る モ 卩 コ シの 品種 の認 知 と栽 培
イ ン フ ォー マ ン ト番 号 24
年 齢 階 梯 4 品 種 名 性 別 m 1 gababo
2 akado 3 losuro 4 dinta 5 organte
828 18 3 1 1 f m m
1 16 6 12 15 9 2 11 20 14 7 22 19 17 23 413442331431212
ffffmfffmmfmmfm
541013272632521 312343242 fffmfmfmm iiiiiiiiiiiioiiiiiiiiiiiiiii
100101 111100011111110111110
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o aoOOoi of i ooi oioOOO O O
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6 emado iya merkowa 7 kurkurich 8 gaabo 9 emado 10 bongwadi
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11 kolme 12 harich 13 emado bura 14 garaite 15 woigochu
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16 waakole 17 tumur 18 bun 19 loto 20 adi
0100 000
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21 burnaaso 22 emado enokk 23 emado bora 24 nongolebok 25 gabo iya kuri
iaia ioi
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26 jaja 27 ugamo 28 akamachi 29 murle 30 emado tsagae
oi o
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0
0
0 0 00
0 1
0 000
11
0
31 gaugau 32 emado kunma 33 anichunmo 34 emado iya baje 35 organte iya hamokuri
0
0 0 0
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0 0
11
36 adi ya kunma 37 udu 38 goode 39 yerbowakoch 40 ark umo
a a
1
0
0 0
0
1
41 berten 42 goremaja 43 akamai 44 emado iya ziini 45 emado karat
a
00 0
0
46 nongolekanyatom 47 adi ya derda 48 emado eze 49 maana 50 akado to derda
0 0
0
0
0
51 emado shula 52 erbookach 53 arkunbo 54 bongwadi iya baje 55 goremacha
0 0
0
0
0
56 gaabo ta derda
57 emado ege losuro 58 gaabo ta kunma 59 sula
60 kerra
a a
0 0 0
61 murso
a25 21 19 T9 18 16 16 16 16 16 16 16 15 14 14 14 13 13 13 12 12 12 12 11 10 10 9 9 6475566655436555664954437444
28 27 26 22 21 19 17 17 16 16 14 11 11 11 10 io 10 9 9 9
8 8 6 6 6
5 5 4 3 3 3 2 a 2 2 2 2 2 1 1 1 1 1 1 1 1 i l i i 1 1 i 1 1 1 1 i i 1 i27 19 12 10 5 10 4 4 8 7 7 2 2 1 3 2 0 3 2 0
4 0 2 1 1
1 0 0 2 1 0 2 1 0 0 0 0 0 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 00 0 0 0 0
0*そ の 品種 に言 及 した イ ンフ ォー マ ン トの 累 計 **実 際 に 作 付け して い る イ ンフ ォー マ ン トの 累 計
***言 及 した 品種 の 累計
****作 付 け して い る 品種 の累 計
表4 年 齢 順 に み た モ ロ コ シの 品種 の認 知
イ ン フ オ ー マ ン ト番 号 24 1 15 12 14 27 25 86211751326 9192310321 1828162022174
年 齢 階 梯(年 齢) obbarsha(60‑51) gidama(50‑41) marole(40‑31) wataania(30‑21) 品種 名
1 gababo 2 akado 3 losuro 4 dinta 5 organte
性 別
6 emado iya merkowa 7 kurkurich 8 gaabo 9 emado 10 bongwadi 11 kolme 12 harich 13 emado bura 14 garaite 15 woigochu 16 waakole 17 tumur 18 bun 19 loto 20 adi 21 burnaaso 22 emado enokk 23 emado bora 24 nongolebok 25 gabo iya kuri 26 jaja 27 ugamo 28 akamachi 29 murle 30 emado tsagae 31 gaugau 32 emado kunma 33 anichunmo 34 emado iya baje 35 organte iya hamokuri 36 adi ya kunma 37 udu 38 goode 39 yerbowakoch 40 arkumo 41 berten 42 goremaja 43 akamai 44 emado iya ziini 45 emado karat 46 nongolekanyatom 47 adi ya derda 48 emado eze 49 maana 50 akado ta derda 51 emado shula 52 erbookach 53 arkunbo 54 bongwadi iya baje 55 goremacha 56 gaabo ta derda 57 emado ege losuro 58 gaabo ta kunma 59 sula
60 kerra 61 murso
m f m f m f m 1111111
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0摘要
性 別
m 男 f 女
年 齢 階 梯 1wataania 2marole