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家族小説としてのOliver Twist ―共同体から近代家族へ―

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Academic year: 2021

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家族小説としての Oliver Twist

―共同体から近代家族へ―

小 野 寺   進

I

小説が誕生したまさにその初期の頃から、子供はこのジャンルの中心となる登場人物の一人であ った。それはまた、家族形態が共同体を中心とした伝統的家族から近代家族へと移行した時期でも ある。近代家族の発生とは、言い換えれば、

Philippe Ariès

の言う「子供期の発見」のことであり1、 近代小説が近代家族の物語のことであるとするならば、子供がその中心的な登場人物になっている ことは当然のことと見なされるだろう。よって子供を主人公とした物語は、小説というジャンルの 祖型と言えるかも知れない。

Home, Sweet Home

と謡われたように、ヴィクトリア朝の人々の生活の中心は家庭であった。

家族でお祈りする時は全員が集まり、日曜日の朝には一家で教会へ行き、毎年休暇に一家で出かけ、

リビングのテーブルの上には家庭向け雑誌が置かれ、暖炉の上には家族の写真などが飾られた2

Dickensの小説群のほとんどにおいて、子供が主人公であったり、そうでなくても主要な役割を演じ

ていたりと、様々な家族模様が物語の中心に据えられている。それ故家族が

Dickens

の小説群の骨子 となっているのは当たり前のことであると言えるかも知れない。中でも特に子供を主人公に据えた 最初のイギリス小説と言われている

Oliver Twistにおいて

3、物語が主人公

Oliverの謎めいた出生で始

まり、Oliverのアイデンティティの確立でもって終わるように、物語の中心を構成しているものこそ が家族なのである。

ジャーナリストから小説家へと転身をしたDickensの少年時代の読書体験は次のようであったと言 われている。もちろんこれは虚構の主人公で語り手のDavidが語ることではあるが、それが

Dickens

のものとほぼ同定されることはここで改めて言うまでもないだろう。

From that blessed little room, Roderick Random, Peregrine Pickle,

Hamphrey Clinker, Gil Blas, and Robinson Crusoe, came out, a glorious

host, to keep me company. (David Copperfield, p. 55)

(2)

んだ。とりわけその傾向は初期の作品に見られ、

Oliver Twist

においても、初期の版には

the Parish Boy's Progress

という副題が付いていたように

John BunyanのThe Pilgrim's Progress

の影響や、また 1846年以降の版で表題がThe Adventure of Oliver Twistと変更されたように18世紀のピカレスク小説 群などの影響を受けていることは、多くの批評家の指摘を待つまでもない。

本稿では、そうした指摘に対し異論を唱えるものではなく、この小説が第一義的に「家族小説」

であると措定した上で、主人公

Oliver Twistの伝記作者である語り手がOliver

のアイデンティティを 確立し、彼の家族小説を完成させようとする物語であると共に、子供を主人公に据えた最初の小説 と言われているように、小説が持つ歴史である共同体から近代家族への移行のメタフィクションと して読めることを論じたい。

II

Oliver Twist

の物語は、一人の男の赤ん坊が救貧院で産声を上げるところから始まり、冒頭から家

族といったテーマがこの小説の底辺に流れていることが明らかにされている。素性のわからない女 から孤児として生まれた

Oliver

には最初から両親の不在が示されることになる。救貧院から

Sowerberry

氏の葬儀屋を経て、ロンドンへ出たOliverは、盗賊団の棲家に身を寄せることになる。そ

こから

Oliver

の運命は二転三転としていく。孤児から泥棒の仲間になり、悪の深みへとはまってい

くOliverの姿は、物語が18世紀のピカレスク小説をその下敷きとしていることを示すものであるが、

しかし肝心の

Oliver

は最初から最後まで純真無垢のままで、決して悪に染まることはない。数多く の批評家たちがこれまで指摘してきたように、孤児として救貧院で生まれ育ったにもかかわらず、

彼の非のうちどころのない英語アクセントは、生来の善良さと生まれの良さを指し示す。それは

Fagin

やNoah ClaypoleやBumble氏の下層社会の育ちがわかるような崩れた英語よりは、Brownlow氏

を取り巻く人々やMaylieたちの言葉に近いことがわかる4。男の子が物語の主人公として成長してい くDavid CopperfieldやGreat Expectationsとは本質的に異なるものであることもこの点から理解される であろう。

では、結末まで向かって突き進むOliverの人生の旅物語は、どのようなものなのだろうか。冒頭 から孤児であることで両親が不在であることが示されているが、Oliverは生んでくれた母親の不義の 結果であることで、存在自体は確証され、他方その不義の相手である父親は特定されず謎のままで

ある。

Oliver

の不義の子という社会的汚名のレッテルが剥がされるのは、彼の家族の起源が発見され、

アイデンティティが確立し、社会的地位を確保した時である。つまり

Oliver

の旅は社会の波に飲ま れながら自己の出生の秘密を探るものであると言えよう5

素直で心優しいOliverが怒りを爆発させ、暴力に訴える場面がある。それはOliverがNoah Claypole を打ちのめす場面で、

Oliver

は次のような人身攻撃を受けたのである。

(3)

‘Yer know, Work'us,’ continued Noah; emboldened by Oliver's silence; and speaking in a jeering tone of affected pity: of all tones the most annoying: ‘Yer know, Work'us, it carn't be helped now; and of course yer couldn't help it then; and I'm very sorry for it; and I'm sure we all are: and pity yer very much. But yer must know, Work'us, yer mother was a regular right-down bad un.’

‘What did you say?’ Inquired Oliver, looking up very quickly.

‘A regular right-down bad un, Work'us,’ replied Noah, coolly. ‘And it's a great deal better, Work'us, that she died when she did, or else she'd have been hard labouring in Bridewell, or transported, or hung:

which is more likely than either, isn't it?’

(Oliver Twist, p.41)

Oliver

Noahから死んだ母親が極道女だと罵られ、その血が煮えくり返ったのである。その結果母

親を慕う子供の情愛を示すものであると同時に、母親の名誉を死守するため、無口で弱虫だった

Oliver

が勇気を奮い起こして、Noahを殴り倒してしまうのである。こうした母親の名誉を回復ある

いは格上げすることは、逆説的に出生の起源から

Oliver

自身の名誉を回復せしめ、自らを格上げす ることに他ならないのである。

Freudは子供が自己の出生に纏わる幻想を抱くことをファミリー・ロマンス(家族小説)と呼んだ。

これは子供が空想活動において、自分の両親をもっと偉い両親に置き換えようとすることで、その 際、子供は自分が捨て子であるとか、あるいは母親が不実を働いたために自分が私生児であるとか を想像するのである6。この

Freud

のファミリー・ロマンスを敷衍し、近代小説の起源からその発展 にいたる推移をその精神分析的図式に類比させたのがMarthe Robertである7。彼は子供が両親に対す る性の違いを認識するのを境に、前段階を「捨て子プロット」、後段階を「私生児プロット」として 分類する。

「捨て子プロット」とは、成長過程において、両親の中に自分に対する愛情と注意が離れていく のを知った子供は、両親から離れたいという欲望を抱き、自分はもっと高貴な両親の「捨て子」だ と想像することにより、過去の記憶に残された「失われた楽園」を取り戻し、全幅の信頼を寄せて いたときの両親との同一化を企てようとするものである。これに対し、「私生児プロット」の方は、

性に対する差異に関連して、母親はいかなる場合も「確実」であるが、父親の方は「常に不確実」

であることを認識した子供は、父の不在と母親が内緒で不貞を働いたという幻想を抱き、自分は不 義の子であるというと想像する。その結果、自己の出生の起源を変更しようとする欲望は、不在で ある高貴な父親へと向けることになるのである。

(4)

で転々とし、成り上がっていき、立派な一人前になったところで、素性正体がわかるというもので ある。その物語パターンは

Freudを基点にし、Marthe Robert

によって文学に類比させられたファミリ ー・ロマンスを準えているとも言えよう。Oliver Twistはこうしたピカレスク小説を下地にしながら も、決定的に違うのは、主人公は成長もしなければ、成り上がろうとする欲望すら見せないところ にある。

III

Oliver

の家族小説は彼自身と周囲との関係で展開していく。救貧院を起点とする

Oliver

の家族探し

の旅は、二つの大きな出会いを通じて自分の居場所を見い出していくことになる。一つは、本屋で

Mr. Brownlow

のハンカチを盗んだかどで嫌疑をかけられ、無実であることが判明した後、Mr.

Brownlow

の家に引き取られたことで、もう一つは、Sikesに連れられ町はずれの民家に押し込み強盗

に入った時に、ピストルで撃たれ、気を失い、

Mrs. Maylie

に身を寄せることである。

前者において、まず気を失ったOliverが目覚めた後、彼を見た

Mr. Brownlowは、部屋に飾ってい

る絵と対比して、眼も、頭も、口も、顔の造作の一つ一つが同じで、しかもその瞬間の表情が完全 に似ていて、正確に絵を写したかのようで、叫び声を上げてしまうのである。

No, no, replied the old gentleman. Why! what's this? Bedwin, look there!’

As he spoke, he pointed hastily to the picture above Oliver's head, and then to the boy's face. There was its living copy. The eyes, the head, the mouth; every feature was the same. The expression was, for the instant, so precisely alike, that the minutest line seemed copied with startling accuracy! (Oliver Twist, p. 81)

これは

Oliver

の素性が後に明らかになる際の伏線として提示される。Mr. Brownlowの家での毎日が

Oliver

にとっては幸福な日々であり、天国そのもののように思われたのである。そして

Oliver

はMr.

Brownlow

Oh, don't tell me you are going to send me away, sir, pray! (Oliver Twist, p. 96)と懇願する

が、それは

Oliver

が示す自らの意志と願望でもある。

後者においては、Oliverが運び込まれたのは、Mrs. Maylieと娘のように育てられた

Rose

が住む家 で、そこで再び幸せな日々を送ることになる。そこで

Oliverが感じたのは家族の絆であり愛情なの

である。重病になって死の瀬戸際にいる

Rose

が、Harryが来たことをきっかけに回復していく。Rose

に対して

Harry

がプロポーズする場面で、一番大切なものは家庭であると次のように述べる。

(5)

My hopes, my wishes, prospects, feeling: every thought in life except my love for you: have undergone a change. I offer you, now, no distinction among a bustling crowd; no mingling with a world of malice and detraction, where the blood is called into honest cheeks by aught but real disgrace and shame; but a home — a heart and home — yes, dearest Rose, and those, and those alone, are all I have to offer. (Oliver Twist, p.402)

HarryとRose

が築こうとする家庭こそがOliverの理想でもある。最終的にOliverはMr Brownlowの養

子になるが、

Oliver

の暖かい誠実な心からの最後の願いは二つの家族が結びついて

a little society

を作りあげることで、それが叶ったことを語り手は次のように述べている。

Mr Brownlow adopted Oliver as his son. Removing with him and the old housekeeper to within a mile of the parsonage-house, where his dear friends resided, he gratified the only remaining wish of Oliver's warm and earnest heart, and thus linked together a little society, whose condition approached as nearly to one of perfect happiness as can ever be known in this changing world.

(Oliver Twist, pp.

412

-

3

)

これはかつて結ばれる筈であった二人、Mr BrownlowとOliverの祖父の姉が、Oliverを介して、両家 が一つになって家族を築きあげることを意味する。この絆は単純世帯が中核をなす近代家族のもの と言える。近代的価値体系では、共同体への忠誠よりも個人主義を、集団の団結よりも個人の自己 実現を是認するのである8。これと対峙するのが、Oliverが逃げ出した救貧院や

Faginが家父長として

君臨する盗賊団という共同体なのである。

救貧院は貧民が共同で生活する場であり、Oliverの場合は似た年頃の子供たちと共同生活をする。

Twist

という名前自体が

Mr Bumble

によってアルファベット順に付けられたように、救貧院では個人

の個性は黙殺され、ただ欲張らない従順な子供になることを強いられるのである。もしこの制度に 反抗するならば、直ちに懲罰を課せられることになる。Oliverはくじ引きでもっとお粥を貰いに行く ことになり、これにより監禁の罰に処せられるが、血の絆で結ばれていない子供たちは彼をかばう ことも助けることもしない。

この救貧院からSowerberryの葬儀屋に年季奉公に出された

Oliverは、そこを逃げだしロンドンへ向

かう。途中、Jack Dawkinsと知り合い、Faginを頭とする盗賊団の巣窟へと連れて行かれることにな る。そこは大人から子供まで身寄りの無い者たちが仲間として共同生活を送っているが、お互いに 絆はなく、自分を守るためであるなら、仲間さえも他人に売ってしまう世界である。例えば、

Oliver

(6)

ちが疑われないよう追跡の一団に加わるとか。もし判事に

Fagin

一味のことをばらそうものなら、す ぐに口を塞いでしまおうとするのである。その好例がSikesとNancyである。NancyはOliverを助ける ために、Rose MaylieとMr BrownlowにOliverを巡る陰謀とFagain一味のことを密かにうち明ける。

しかし、Nancyの動きを見張っていたNoah Claypoleによって密告が暴露され、Sikesの手によって殺 害されてしまう。

SikesとNancy

の物語はこの小説において突出しており、その凶悪な殺人との絡みで単独で論じら

れることも多く、Oliverとの関連で論じられることはむしろ少ないように思われる。しかし、家族と いう観点から見ると、極めてその関連が密であることがわかる。NancyがRoseにOliverの素性に関わ る話をした際に、

Rose

Nancy

をもっと安全な場所に連れて行って、悪事の世界から足を洗う手助 けを申し出たのに対し、Nancyは仲間の中に乱暴者だけど離れられない男がいると次のように言う。

I wish to go back said the girl. I must go back, because—how can I tell such things to an innocent lady like you?—because among the men I have told you of, there is one: the most desperate among them all: that I can't leave; no, even to be saved from the life I am leading now. ... ... I must go back. Whether it is God's wrath for the wrong I have done, I do not know; but I am drawn back to him through every suffering and ill-usage; and I should be, I believe, if I knew that I was to die by his hand at last.

(Oliver Twist, pp 304-5 )

もちろんこの男が

Sikes

である。小さい頃から自堕落な生活を送ってきた

Nancy

は、かつて両親や家 庭や友達が灯してくれた暖かい火を、Sikesのお陰で再び暖かく燃えそうになっていると信じている からであり、彼女は自ら帰る家を

a home as I have raised for myself with the work of my whole life

(Oliver Twist, p. 354)と語る。Nancyが望む理想とする世界は正に Rose

とHarryが築こうとしている家

庭であるが、彼女が住まう現実世界はその対極にある。それは

Nancy

の場合は盗賊団という共同体 の世界に身を置いているが故に、決して家庭を築くことはできずに、死をもって人生を終えるとい う運命の下にいることの象徴となっているのである。

このように

Oliver

は救貧院や盗賊団の共同体の世界とBrownlow—Maylieの近代家族の世界という 二つの世界を揺れ動くのである。

IV

Oliver Twistにおいては、Oliver

の誕生から状況を伝えてくれる、小説の登場人物とは別の存在で

物語世界外にいる語り手が導入されている。語り手は同時に次のように解説や注釈の役割をも付与 されている。

(7)

Everybody knows the story of another experimental philosopher who had a great theory about a horse being able to live without eating, and who demon- strated it so well, that he got his own horse down to a straw a day, and would unquestionably have rendered him a very spirited and rampacious animal on nothing at all, if he had not died, four-and-twenty hours before he was to have had his first comfortable bait of air. (Oliver Twist, p. 4)

こうした語り手の存在は語りの問題を対読者へと向けることになる。語り手が作者として物語に登 場し読者に対して前口上を語るという手法は、古くはギリシア悲劇に始まり

Chaucer

を経て

Fielding

などへ受け継がれてきた伝統である。読者を前に語り手である「私」は、Oliver Twistなる人物の伝 記作者であることを次のように明らかにしている。

That Oliver Twist was moved to resignation by the example of these good people, I cannot, although I am his biographer, undertake to affirm with any degree of confidence ...(Oliver Twist, pp. 39-40)

更に自らを時代を記録する歴史家

(historian)

とする語り手は、物語の創作上のテクニックについて次 のように語る。

As sudden shiftings of the scene, and rapid changes of time and place, are not only sanctioned in books by long usage, but are by many considered as the great art of authorship: an author's skill in his craft being, by such critics, chiefly estimated with relation to the dilemmas in which he leaves his characters at the end of every chapter: this brief introduction to the present one may perhaps be deemed unnecessary. If so, let it be considered a delicate intimation on the part of the historian that he is going back to the town in which Oliver Twist was born; the reader taking it for granted that there are good and substantial reasons for making the journey, or he would not be invited to proceed upon such an expedition. (Oliver Twist, p.

118

)

his craft being, by such critics, chiefly estimated

という表現からOliver Twistの物語は作者の手によ る創作物であり、虚構の物語であることが明示されている。しかし、伝記作者でありながら語り手

は、

Oliver

の生涯を孤児という誕生から、アイデンティティを確立し、

Brownlow

氏の養子になるま

(8)

て、当該人物を誕生から墓場までの一生を描き出す必要があるのだが、ここでは

Oliver

の誕生から 少年時代までの極短い期間しか扱っていない。その理由としてはこう考えられるのではないだろう か。つまり、自分の物語を語ってもらうには語り手が必要だからだと。David CopperfieldやGreat

Expectation

のように自叙伝という形式においては、語り手は成長して大人になった主人公が「私」

として、自分の幼少の頃から大人になるまで、自己を回想する。しかし

Oliver Twist

においては

Oliver

が少年のまま物語を終えるので、Oliverが語り手となり、自己の過去を冷静に回想するという

ことはできないからに他ならないのである。

このようにOliver Twistにおいては、語り(或いは書き手)が意識的に全面に出ているように、物 語を書くという行為が

Oliver

の物語で重要な役割を果たしている。まず

Mr. Bumble

Twist

という名 前を命名し、MonksとFaginがOliverを悪に引き込むことにより彼の人生の物語が自らの意志ではな く他者によって作り上げられていく。それはまた、Robert Tracyが述べているように、Oliver Twistと いう物語の主題は

Oliver Twistについて書くことであると言えよう

9

V

Marthe Robertが精神分析的図式に類比させて近代小説の誕生から発展までの推移を論じたように、

Oliver Twist

において、語り手が伝記作者(或いは歴史家)として

Oliver

の虚構物語を構築していく

様は、社会学的な類比によって、書くという行為を通じて共同体から近代家族への移行のメタフィ クションとして読むことができる。もっとも、物語に描かれている時代や背景などは書かれたより ほんのひと昔前のものではあるが。近代小説の誕生は 17 世紀であるとか 18 世紀であるとか言われ ているが、それが近代家族や子供と切り離すことができない関係にあるとするならば、

Oliver Twist

をもって真にイギリス近代小説が完成したと言えるのではないだろうか。そういった意味では、

Oliver Twist

は英文学史上重要な位置を占める作品と成り得ているのである。

Dickens

からの引用はすべてThe Oxford Illustrated Dickens版に拠る。

1. フィリップ・アリエス『<子供>の誕生:アンシャン・レジーム期の子供と家族生活』

杉山光信・杉山恵美子訳. みずず書房, 1980年.

2. Walter E Houghton, The Victorian Frame of Mind

(London: Yale University Press, 1957) pp.341-2.

3. Barry Westburg, The Confessional Fictions of Charles Dickens

(Illinois: Northern IllinoisUniversity Press, 1977)

p.1. Westburgは Oliver Twistが子供を主人公とした最初の小説であることの理由として次のように述べてい

る。

There were, of course, books written for and about children that appeared before Oliver Twist. Thomas Day's Sandford and Merton (1789), a moralizing tale about children, was perhaps the most popular. Among other writers who used fictional accounts of children of educational and propagandistic purposes were Maria Edgeworth (Parent's Assistant,

1800) and Mary Sherwood (The Fairchild Family,1818). But these writers did not produce serious fiction about the

child in the sense that Dickens did in his novel. p. 29n.

4. Michal Peled Ginsburg, ‘Truth and Persuasion: the Language of Realism and of Ideology in Oliver Twist,’

(9)

Novel

20

(1987) pp.220-36; Barry Westburg, op. cit., p.23.

5. Catherine Waters, Dickens and the Politics of the Family

(Cambridge: Cambridge University Press, 1997) pp. 29-

38. その中でWatersは

It (Oliver Twist) is a novel about the hero's retrieval of lost family origins, about the discov- ery of his identiry and social position through the recovery of his birthright. (p.29.)であると主張している。

6. Sigmund Freud,‘Family Romances,’The Standard Edition of the Complete Psychological Works of Sigmund

Freud

24vols (London: The Hogard Press and Institute of Psychoanalysis, 1953), IX, pp.236-41.

7. Marthe Robert, Roman des origines et origines du roman

(Paris: Grasset, 1972) (マルト・ロベール『起源の小

説と小説の起源』岩崎力・西永吉成訳 河出書房新社, 1975年)

8. エドワード・ショーター『近代家族の形成』, 田中俊宏・岩橋誠一・見崎恵子・作道潤 訳, 昭和堂, 1987年, p.21.

9. Robert Tracy,‘ “The Old Story”and Inside Stories: Modish Fiction and Fictional Modes in Oliver Twist,

Dickens Studies Annual vol. 17. (New York: AMS Press, 1988), p.26.

参照

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