一九九イギリス一九八一年偽造法の「虚偽」文書概念とその拡大(二・完)(都法五十四-二)
イギリス一九八一年偽造法の「虚偽」文書概念と その拡大(二・完)
山 科 麻 衣
1 はじめに
2 イギリスにおける文書偽造罪
( 1 ) 文書偽造罪の認知件数
( 2 ) 文書偽造の規定について
( 3 ) 一九一三年法からの変化
3 「虚偽(
False )」の意義
( 1 ) イギリスにおける偽造の概念
( 2 ) 虚偽文書の該当性判断
4 判例における「虚偽( False )」の意義
( 1 ) 「虚偽」と有形偽造の関係
( Donnelly 2 ) 自己名義による虚偽の鑑定書―ドネリー( )事件
二〇〇
( More 3 ) 仮名口座の払戻請求書―モア( )事件
( False 4 ) 日本法との比較(大阪高判平成一六年一二月二一日)―有形偽造と虚偽( )概念の齟齬
5 作成・変更にかかる「情況( Circumstances )」 (九条一項g号)の理解を巡る対立
( False 1 ) 虚偽( )概念の範囲 ( Jeraj 2 ) 信用状の存在という「情況」―イェライ( )事件 ( Warneford and Gibbs 3 ) 作成者の身分という「情況」―ワーンフォード アンド ギブス( )事件
( 4 ) 作成の情況に関する偽りの意義
( Atunwa 5 ) 文書自体の虚偽―アトゥンワ( )事件
( 6 ) 判例における「虚偽」の理解の拡大
6 小括―イギリスにおける偽造罪解釈の現状(以上第五四巻第一号)
7 日本における偽造罪解釈の拡大
( 1 ) 「名義の偽り」の判断の詳細化
( 2 ) 日本における偽造罪の拡大範囲
( 3 ) イギリスにおける偽造罪拡大との関係
8 イギリスにおける偽造罪の理解―主観的要件
( 1 ) 主観的要件の規定
( 2 ) コモン・ローの時代の主観的要件―詐取する意図の必要性
( 3 ) 一九一三年法における主観的要件―詐取する意図の拡大
二〇一イギリス一九八一年偽造法の「虚偽」文書概念とその拡大(二・完)(都法五十四-二)
( 4 ) 経済的損失に制限されない「意図」―ワーキングペーパーによる用語変更の提案
( 5 ) 二重の意図の内容
( 6 ) 主観的要件に関する具体的判断
(ⅰ) 権利侵害が生じる確実性
(ⅱ) 義務に関する権利侵害(c号)
(ⅲ) 二重の意図の証明
9 「文書自体の虚偽」という客観的要件との関係
( 1 ) 主観的要件が示す財産犯としての性質
( 2 ) 客観的要件の広がり
10
イギリスと日本の文書偽造罪の拡大の傾向
( 1 ) 日本における文書の信用性を維持するための制度的要請
( 2 ) イギリスにおける財産犯処罰の必要性
11
小括 ―「虚偽」性の相違と偽造罪解釈
( 1 ) イギリスと日本における偽造の拡大傾向
( 2 ) 偽造罪解釈の方向性とこれから
二〇二
7 日本における偽造罪解釈の拡大
( 1 ) 「名義の偽り」の判断の詳細化
我 が 国 に お い て も、 近 年 は 有 形 偽 造 の 成 立 を 広 く 認 め る 傾 向 が あ る。 特 に、 最 決 平 成 一 五 年 一 〇 月 六 日
(刑集五七巻九号九八七頁)
は、 国 際 運 転 免 許 証 に 形 状・ 記 載 内 容 等 を 酷 似 さ せ て「 国 際 旅 行 連 盟
(INTERNATIONALTOURINGALLIANCE,‘ITA’とも示される)
」 を 発 給 者 と し て 表 示 し た 国 際 運 転 免 許 証 様 の 文 書 を 作 成 し た 事 案 で、 私 文 書 偽 造 罪
の成立を認めた。国際旅行連盟という団体は実在しており、文書に表示されていたのも国際旅行連盟であったこと
か ら、 弁 護 人 は 作 成 名 義 に 偽 り の な い 内 容 虚 偽 の 文 書 を 作 成 し た に す ぎ ず、 無 形 偽 造 で あ る と 主 張 し た。 し か し、
最高裁は、文書の記載内容、性質に照らして当該文書の名義人を「ジュネーブ条約に基づく国際運転免許証の発給
権限を有する団体である国際旅行連盟」と理解し、実際の作成者である国際旅行連盟は国際運転免許証の発給権限
を与えられていなかったとして、偽造を認めて い
)(0(
る 。
これは、国際運転免許証の発給権限を有する、という文書が正確に作成されるために必要な「情況」を名義に読
み込んだのと同様といえる。つまり、我が国における解釈の中でも、無形偽造となりそうな事案において、その文
書の記載や内容等に照らして、名義人をより具体的に解釈し、偽造罪の成立を認めている。
ま た、 東 京 地 裁 平 成 一 五 年 一 月 三 一 日 判 決
(判時一八三八号一五八頁)は、 縁 組 意 思 を 欠 く 無 効 な 養 子 縁 組 を し た
被告人が、縁組後の氏名により消費者金融業者借入基本契約書及びカード会員入会申込書を作成提出して、キャッ
二〇三イギリス一九八一年偽造法の「虚偽」文書概念とその拡大(二・完)(都法五十四-二)
シングカードの交付を受けた事案で、被告人は戸籍上の氏名を署名していたにも拘らず、有印私文書偽造罪の成立 を 認 め て い る。 本 件 で 問 題 と な っ た 文 書 は、 「 申 込 者 に 対 し て 融 資 を す る か 否 か、 ま た、 キ ャ ッ シ ン グ カ ー ド を 発
行 す る か 否 か の 審 査 」 を 行 う 上 で 情 報 を 得 る た め の も の で あ り、 「 融 資 の 申 込 に 際 し て 行 う 審 査 の 目 的 は、 戸 籍 の
外観によって形式的に顧客となろうとするものを特定、識別するに止まらず、上記各事項を確認することによって、
返済の意思や能力など、当該申込者の人格そのものに帰属する経済的信用度を判断し、申込者が融資を受ける適格
を有する者か否かを判断することにあると解されるのであるから、その審査にとって極めて重要な判断資料として
機能する本件各申込書は、社会通念上はもとより、取引信義則上も、申込者の人格に帰属する経済的信用度を誤ら
せることがないよう、その人格の本来的帰属主体を表示することが要求され、その帰属主体を偽ることが許されな
い性質の文書というべき」と認めた。そして、本件における被告人の養子縁組は、縁組意思を欠く無効なものであ
る か ら、 「 当 時 の 被 告 人 の 戸 籍 上 の 記 載 に 基 づ く 表 示 で あ っ た と し て も、 本 件 養 子 縁 組 が 無 効 で あ る 以 上、 各 被 害
会社に対し、以後の融資契約等の法律効果の帰属主体を、本件養子縁組以前のAすなわち被告人とは別個の人格で
あるCと偽り、その結果、融資契約等の法律効果が帰属する人格の経済的信用度を誤らせるもので、虚偽の人格の
帰 属 主 体 を 表 示 し、 各 文 書 の 作 成 名 義 を 偽 る も の に ほ か な ら ず、 い ず れ に つ い て も 有 印 私 文 書 偽 造 罪 が 成 立 す る 」
としている。経済的信用度を判断するための文書であるから、その名義人も、経済的効果が帰属する者が読み取ら
れるのであ っ
)(1(
て 、その帰属主体が「いわゆるブラックリストに載っており、新たな融資を受けられないA」である
のに、 「C」と表示することは、名義を偽ったと評価するものである。
このように、名義を偽ったといえるか一見疑問が生じる事案についても、文書の役割や性質を検討し、当該文書
における名義人解釈を実質的に行うことで、名義の偽りを認めてきている。その名義人解釈の仕方として、文書が
二〇四
正確に作成されるために必要な「情況」を読み込むのと同様の場合もある。我が国においては、名義の偽りという
偽造の判断のメルクマール自体は変更されていないものの、様
々な文書の性質に応じて名義人の解釈を詳細に行う
ことで、無形偽造とも思われる事案について、偽造罪の成立を広げている傾向が窺われる。
( 2 )日本における偽造罪の拡大範囲
このように、名義人の解釈を文書の役割や性質に鑑みてより実質的に行うことを更に進めて考えると、我が国に
お い て は 無 形 偽 造 と 考 え ら れ る ド ネ リ ー 事
)(((
件 の 事 案 に つ い て も、 有 形 偽 造 と 認 定 す る 余 地 は 生 ま れ る と 思 わ れ る。
宝石鑑定書の名義人を「実際に宝石を鑑定し、正規に鑑定書を作成する権限のある支配人」などと捉えれば、実際
の作成者は「宝石を鑑定していない支配人」であるとして名義の偽りを認める説明ができるためである。このよう
に名義人の解釈を無条件に操作していくことを許すのであれば、無形偽造となる範囲はほとんど無くなり、イギリ
スのように偽造罪の成立範囲は拡大していくであろう。
しかし、現在我が国において、そのような解釈は採られていない。一見すると無形偽造と思われる事案について
も有形偽造を認める範囲を拡大する傾向にあるとはいえ、名義人の解釈を無条件に詳細化しているのではない。偽
造の対象とされた文書の性質から、その責任主体と捉えるべき名義人を実質的に理解する必要がある場合に限り名
義人の解釈を具体化し、偽造罪を成立させているのである。現状の裁判所の判断内容を検討する限り、文書に関す
るあらゆる作成の「情況」を名義に読み込んで、広く偽造を認めているものではないと解すべきであろう。
二〇五イギリス一九八一年偽造法の「虚偽」文書概念とその拡大(二・完)(都法五十四-二)
( 3 )イギリスにおける偽造罪拡大との関係
「 文 書 自 体 の 虚 偽 」 を、 一 九 八 一 年 法 九 条 一 項 に 列 挙 さ れ る よ う に 文 書 の 作 成 に 係 る 重 要 部 分 を 偽 っ て い る も の
と 考 え る の で あ れ ば、 偽 造 罪 の 成 立 範 囲 は 我 が 国 の 有 形 偽 造 の 成 立 範 囲 と か な り 近 く な る は ず で あ る。 「 名 義 の 偽
り」の考え方も、記載された内容の文書について、その責任主体が誰かという問題であるから、結局のところ文書
の作成に係る重要部分の偽りが問題とされ、形式的な氏名だけでなく、場合に応じて肩書きや権限なども名義の中
に 読 み 込 む た め で あ る。 九 条 一 項 g 号 の「 情 況( circumstances )」 の 要 件 も、 名 義 人 の 解 釈 の 中 に 読 み 込 む こ と の
で き る「 情 況 」、 つ ま り 当 該 文 書 の 信 用 性 を 担 保 す る た め に 必 要 な、 重 要 な 前 提 事 実 に 限 っ て 適 用 さ れ る と 考 え る
道も十分あり得る。
しかし、イギリスにおける運用の現状としては、そのような重要な前提事実に関する虚偽に限るとする解釈がな
さ れ て い る と は い え ず、 広 く「 文 書 自 体 の 虚 偽 」 を 認 め て い る。 そ の た め、 「 名 義 の 偽 り 」 と い う 偽 造 の 判 断 基 準
を崩さない日本法の考え方とは結論として「ずれ」のある判断がなされている。
このように、日本とイギリスにおける偽造の考え方、解釈の拡大範囲とその方向性には相違があるといえる。こ
のような相違が認められるのは、文書偽造罪の罪質に対する理解の違いが大きく影響しているものと思われる。そ
こで、イギリスにおける偽造罪の位置づけについて、考えてみたい。
(
60) 一審及び高裁も、偽造罪の成立を認めている。東京高判平成一四年五月二八日(高刑集五五巻二号一頁)は、「文書偽造の本
質は、文書の作成名義人と作成者との間の人格の同一性を偽ることによって、文書に対する公共の信用を害することにあると解
されることからすると、当該文書の作成名義人が誰であるかは、単に名義人記載部分だけを局所的に取り上げて判断するのでは
二〇六
なく、公共の信用の観点から、文書全体の記載や形状、及び、これらの点から窺われる当該文書の機能、性質等をも含め、総合
的かつ合理的に判断する必要がある」とした上で、本件文書の名義人を、その記載内容や形状等を踏まえて判断すると、「ジュ
ネーブ条約に基づき国際運転免許証を発給する権限を有する団体としてのITA」とみるのが相当と判断している。(
61) なお、本件では養子縁組が無効であったことも判決理由に示されているが、本件文書が経済的信用度を判断するためのもので
あることを強調していることからして、偽造の成否を判断するに際しては文書の性質が重視されていると思われる。佐伯仁志
「刑法判例の動き」ジュリ一二六九号(二〇〇四年)一五三頁は、「本件は、縁組とこれにともなう氏の変更が無効とされた事例
であり、その意味で偽造罪の成立を認めやすい事例であったが、申込者の人格に帰属する経済的信用度を誤らせないことを重視
する判決の論理からは、縁組が有効であっても偽造罪が成立するように思われる。」と指摘する。(
62) 拙稿「イギリス一九八一年偽造法の「虚偽」文書概念とその拡大(一)」法学会雑誌第五四巻第一号(二〇一三年)五六六頁。
8 イギリスにおける偽造罪の理解―主観的要件
( 1 )主観的要件の規定
イギリスにおいて、文書偽造罪が財産犯の一種として捉えられていることは、教科書等の記載の位置づけからも
窺われるところであ る
)(((
が 、最もわかりやすく示されるのは、主観的要件に関する条文の規定の仕方である。
一九八一年法一条において、日本法における文書偽造と大きく異なる規定部分は、主観的要素に関する要件であ
る。 一 条 は、 「 人 が そ れ を 真 正 な も の と し て 受 け 取 る よ う 誘 導 し、 か つ、 そ の よ う に 受 け 取 る こ と に よ っ て そ の 受
領者又は第三者にとって権利侵害となるような作為・不作為をするよう誘導するために、自ら用いる又は他人に使
用させる意図で」虚偽のインストゥルメントを作成した場合に偽造罪の成立を認めており、こうした意図を有して
いたことが文書偽造罪の成立に必要な主観的要件である。
二〇七イギリス一九八一年偽造法の「虚偽」文書概念とその拡大(二・完)(都法五十四-二)
これは、①虚偽のインストゥルメントを誰かに本物であると受け取らせる意図と、②人がそのように受け取るこ とで受領者又は第三者の損害となるような作為又は不作為を誘発する意図という二つの意図に区別 さ
)(((
れ 、有罪判決
のためには、この二重の意図( double intention )について証明されなければならないとさ れ
)(((
る 。
( 2 )コモン・ローの時代の主観的要件―詐取する意図の必要性
このような主観的要件は、イギリスの偽造罪においては古くから要求されてきた。
文 書 偽 造 罪 に つ い て、 コ モ ン・ ロ ー の 犯 罪 と し て の 歴 史 の 中 で は、 最 初 は 単 に 公 共 の 文 書( writings of a public
character ) が 保 護 さ れ る も の だ っ た。 そ し て、 そ の 犯 罪 の 成 立 に お い て は、 被 告 人 が 偽 造 文 書( falsification ) を 用 い て 騙 す 意 図( intention to deceive ) を 有 し て い た こ と が 証 明 さ れ る こ と で 十 分 で あ っ た。 つ ま り、 被 告 人 が 誰 か
から詐取すること( to defraud )を意図していたことは必要ではなか っ
)(((
た 。
し か し な が ら、 判 例 法 は、 「 重 要 性 の 低 い 性 質 の 文 書( writings of an inferior charact e
)(((
r )」 と 呼 ば れ た も の の 保 護 の 方 向 に 進 ん で い っ た。 そ し て、 そ の よ う な 文 書 の 偽 造 は、 「 そ れ か ら 誰 か が 権 利 侵 害( prejudice ) を 受 け な い 限 り 」 犯 罪 に な ら な い と 考 え ら れ た。 「 権 利 侵 害( prejudice )」 と は、 何 ら か の 種 類 の 経 済 的 損 失 で あ り、 訴 追 側 は、
被告人が単に騙すだけでなく、被害者となる誰かから詐取する意図を有していたことを証明することが必要だ っ
)(((
た 。
この重要性の低い性質の文書というものは、私的性質の文書を指していたものと思われる。ホジソン 事
)(((
件 では、虚
偽の大学の卒業証書を作成した行為につき、詐取する意図がなかったとして偽造罪の成立が否定された。
詐取する意図の必要性が問題となったホジソン事件は、被告人が、外科医大学の卒業証書( a diploma of the Col -
lege of Surgeons )につき、真実のメンバーの名前を抹消し、彼自身の名前を代わりに入れることによって、虚偽の
二〇八
卒業証書を作成し、彼が大学のメンバーであると信じさせる意図をもって二人の人にそれを見せた、という事案で
あった。 本件において、被告人が外科医であるという理由によって、他人が彼のことを良く思うようにさせる以外に、彼
が何らかの目的のために文書を変更したことが証明されることはなか っ
)(0(
た 。つまり、彼は何らかの特定の詐欺又は
個人への権利侵害を犯すために偽造、行使する意図を有していなかったため、詐取する意図があったとはいえない
として、無罪判決が出さ れ
)(1(
た 。なお、付随的意見として、この外科医の大学の卒業証書は、公的文書ではないと言
及されている。
このように、私的性質の文書に関しては、それを用いて誰かから何かを詐取する意図で偽造される場合にのみ文
書偽造罪の成立を認めるものと理解されてきた。
( 3 )一九一三年法における主観的要件―詐取する意図の拡大
後の一九一三年法では、総則的な定義を定める一条において、偽造罪の成立に必要な主観的要件は、詐取する意
図 又 は 騙 す 意 図( intent to defraud or deceive ) と 定 め ら れ て い た。 個 別 の 規 定 と し て、 公 的 な 性 質 を 有 す る 特 定 の
ドキュメントと印章を扱う三条と五 条
)(((
は 、そこでは単に騙す意図( intent to deceive )のみがある場合でも、詐取す
る 意 図( intent to defraud ) ま で 認 め ら れ る 場 合 で も 犯 罪 と な っ た。 こ れ に 対 し て、 二 条 は 私 的 性 質 の 文 書 を 扱 う
もので あ
)(((
り 、詐取する意図が認められる場合のみ偽造罪が成立するものとされて い
)(((
る 。
つまり、コモン・ローにおいて意図の内容が区別されてきたことを引き継いでそのまま明文化し、偽造の対象と
なる文書の種類によって要求される意図を異にしていた。
二〇九イギリス一九八一年偽造法の「虚偽」文書概念とその拡大(二・完)(都法五十四-二)
騙 す こ と( deceive ) と 詐 取 す る こ と( defraud ) と い う 区 別 さ れ る 二 つ の 意 図 の 内 容 の 違 い に つ い て は、 バ ッ ク
レー裁判官( Buckley J. )の説明によれば、 「騙すこと( to deceive )は、 虚偽であることを真実であると人に信じさ
せ る こ と、 そ し て 人 が 騙 す こ と を 知 り 又 は 虚 偽 で あ る こ と を 信 じ て 実 行 す る こ と だ と 理 解 す る。 詐 取 す る こ と( to
defraud ) は、 騙 す こ と に よ っ て 奪 う こ と、 つ ま り 騙 す こ と に よ っ て 人 に 損 害 と な る 行 為 を さ せ る こ と で あ る。 よ
り簡潔に表現すれば、騙すことは偽りによって一定の心理状態を引き起こし、詐取することは騙すことによって一
定の行動を引き起 こ
)(((
す 。」とされる。
つまり、詐取する意図というのは、偽造した文書を本物と信じさせるといった被行使者の内面に働きかけるとい
う意味での「騙す」意図では足りず、文書を行使された者が文書によって騙されたことで一定の行為に出ることを
意図することまで必要とするもので あ
)(((
る 。
バッシー 事
)(((
件 では、上記バックレー裁判官の説明を用いて、詐取する意図の存在を認め有罪判決を出したが、そ
の結論に対しては批判がなさ れ
)(((
た 。問題は、騙すことによって人に損害となる行為をさせる意図という「詐取する
意図」の要件の中で、 「損害」や「権利侵害」の内容をいかに考えるかという判断に関わるものである。
バッシー事件は、虚偽文書を行使して入学許可を得たという事案である。被告人は、学生として入学を認められ
るためにイナ・テン プ
)(((
ル に出願した。後日、彼の代わりの誰かが、被告人がダラム大学付属のアフリカにあるネイ
ティブカレッジの試験に合格し、かつ優れた人格の人間であることを示す偽造したドキュメントを提出した。そし
て、それゆえ被告人は学生としてイナ・テンプルへ入学する許可を 得
)(0(
た 。第一審で有罪判決とされた偽造と行使の
罪について、何らかの詐取する意図の証拠は存在しなかったと被告人は主張した。単なる騙す意図は証拠が証明し
たが、被告人の行為によって引き起こされた法曹学院評議員の心理は、何らかの明白な損失は導かなかったと訴え
二一〇
た。 こ の 判 決 に お い て、 ス ウ ィ フ ト 裁 判 官( Swift J. ) は 前 述 の「 騙 す こ と は 偽 り に よ っ て 一 定 の 心 理 状 態 を 引 き 起
こ し、 詐 取 す る こ と は 騙 す こ と に よ っ て 一 定 の 行 動 を 引 き 起 こ す 」 と い う バ ッ ク レ ー 裁 判 官 の 説 明 を 引 用 し た 上、
以 下 の よ う に 述 べ て 詐 取 す る 意 図 を 認 め た。 「 こ れ ら の 虚 偽 の ド キ ュ メ ン ト を 作 成 す る こ と、 そ し て、 そ の 後 そ れ
ら を 行 使 す る こ と に よ っ て、 被 告 人 は 詐 取 す る こ と を 意 図 し て い た。 も し 法 曹 学 院 評 議 員 が 真 実 を 知 っ て い た ら、
彼らの権利だけでなく義務も全く認めない人が学生として入学することを認めたのであるから、被告人は法曹学院
評議員に彼らの権利侵害となる行為をさせることを意図していた。 」
つまり、本来であれば(騙されることがなければ)学生と認めなかった者を学生として認めることが、騙すこと
によって引き起こされた一定の行為にあたり、これを権利侵害として詐取する意図を認めたものである。
しかし、このバッシー事件判決に対しては、バックレー裁判官が伝えることを意図した意味に従っておらず、彼
の使った用語の論理的に間違った解釈であるとの指摘がなさ れ
)(1(
た 。「金銭的損害又は経済的損害( a pecuniary or an
economic injury ) を 与 え る 何 ら か の 意 図 が な け れ ば、 法 律 上 詐 取 す る 意 図 は な く、 そ の よ う な ケ ー ス は コ モ ン・ ロ
ーではフォージェリーとして罰せられてこなかった。コモン・ローにおいて詐取する意図は犯罪に必須の要素であ
り、 そ れ ら が 整 然 と そ の よ う に 扱 わ れ る こ と に 私 は 満 足 す
)(((
る 。」 と ラ ド ク リ フ 裁 判 官( Lord Radcliffe ) が 述 べ た よ
う に、 文 書 偽 造 の 対 象 を 私 文 書 に 拡 大 し て き た コ モ ン・ ロ ー の 時 代 の 考 え 方 か ら し て、 「 詐 取 す る 意 図( intent to
defraud )」 の 内 容 と し て 問 題 と さ れ る「 損 害 」 や「 権 利 侵 害 」 と は、 経 済 的 な も の が 想 定 さ れ て き た と い え
)(((
る 。 そ
の た め、 「 本 来 認 め な い は ず の 入 学 を 認 め た 」 と い う こ と を フ ォ ー ジ ェ リ ー の 意 図 の 内 容 と し て 要 求 さ れ る「 権 利
侵害」に含めて考えることに抵抗があったものと思われる。
二一一イギリス一九八一年偽造法の「虚偽」文書概念とその拡大(二・完)(都法五十四-二)
( 4 )経済的損失に制限されない「意図」―ワーキングペーパーによる用語変更の提案
しかし、その後の判例は、このような経済的損失を導く意図をはっきりと認めがたい事案についても、偽造罪の
成立を認める方向に動いていく。一九八一年法が制定される前のワーキングペーパーでは、文書偽造罪における主
観 的 要 件 に つ い て、 一 九 六 八 年 セ フ ト 法 の 規 定 の 中 で 使 用 さ れ て い る よ う な、 「 不 誠 実 に( dishonestly )」 と い う 文
言を用いて説明することが提案されて い
)(((
た 。セフト法における「不誠実に」とは、 「権限なく」 、又は「正当な権利
行 使 で な く 」 と い っ た 意 味 で あ っ
)(((
た 。 私 的 文 書 に つ い て 要 求 さ れ て き た「 詐 取 す る 意 図( intent to defraud )」 と い
う用語は、前述のように「騙す」という手段を用いて「奪う」ことで経済的な「損害」を与えるといった財産犯の
意 図 に 近 い 内 容 と し て 理 解 さ れ て き た も の で あ る が、 バ ッ シ ー 事 件 の み な ら ず、 「 奪 う 」 こ と で 経 済 的 な「 損 害 」
を生じさせることを意図したとはっきり認められない場合でも、偽造罪の成立を認めるものが出てきたことにより、
経済的損失に制限されない用語を用いた主観的要件に変更しようとしたことがこのような用語変更の提案の背景と
して考えら れ
)(((
る 。次に挙げるウェルハム 事
)(((
件 は、分割払購入の申込書と契約書という私的性質の文書の偽造に関し、
被告人に金銭を騙し取る意図が認められない事案であったが、詐取する意図を認めた。
ウェルハム事件では、詐取する意図の意義が問題となった。車の販売会社の営業部長であった被告人は、複数の
金融会社と分割払い取引をして、会社に対して前払金の支払いを受けた。その際に、被告人が分割払購入申込書と
分割払契約書を偽造したものである。被告人の主張は、金融会社の側には貸し付ける金銭の準備があるが、現行法
で要求される信用制限の問題があるために貸し付けができないと聞いていたことから、偽造した文書を準備したも
のであって、法定の信用制限を充たしていることを調査する関係当局を騙す目的はあったが、文書を用いて金融会
二一二
社から金員を詐取する意図はなかったというものであ っ
)(((
た 。
本 件 で は、 「 詐 取 す る 意 図 」 に つ い て 広 い 理 解 を 示 し、 偽 造 罪 の 成 立 を 認 め て い る。 つ ま り、 金 融 会 社 か ら 金 銭
を詐取する目的はなかったとしても、信用制限を調べる当局に対して、騙されることがなければ、彼らがしなかっ
た 何 か を し、 彼 ら が し た は ず の 何 か を し な い よ う に さ せ る 意 図 は、 「 詐 取 す る 意 図( intent to defraud )」 に 等 し い
と判断している。
つまり、ここでは詐取する意図を認めているものの、それは経済的損失を与える意図ではなく、金融取引におけ
る信用制限を避けるために騙すという目的も詐取する意図に含めて考えていることになる。そのため、この決定に
従う限り、詐取する意図というものは、経済的損失を負わせたり、金銭的利益を作り出したりするための意図なし
に成立することになる、と指摘されて い
)(((
る 。
このように、従来考えられてきたよりも、広い範囲で詐取する意図が認められることが明らかにされたことから、
そ れ を 文 言 上 で も 明 ら か に す る 意 味 で、 「 不 誠 実 」 と い う 用 語 を 用 い て 主 観 的 要 件 を 規 定 す る こ と が 提 案 さ れ た の
で あ
)(0(
る 。
し か し、 前 述 の 通 り、 セ フ ト 法 上 の「 不 誠 実 に 」 の 意 義 と し て は、 「 正 当 な 権 限 な し に 」 と い っ た 自 己 の 権 利 を
信じていたか否かという主観的要件として理解されてきたものであり、相手に何らかの損害を与える意図、という
偽造罪において従来要求してきた意図とは離れたものとなる。セフト法上の意味での「不誠実」は、偽造罪の成否
に関係がないことは、キャンベル 事
)(1(
件 によって確認さ れ
)(((
る 。
キャンベル事件は、偽造について誠実な行為であるとの認識が被告人に認められた事件である。口先のうまいE
は、彼女が自分の勤める自動車会社から販売代金の正当な返金を受ける唯一の方法は、Eのために虚偽の名前で小
二一三イギリス一九八一年偽造法の「虚偽」文書概念とその拡大(二・完)(都法五十四-二)
切手を作り出すことだと被告人に話した。被告人は、それを信じて、G.N.宛てに会社が振り出した小切手を受 け 取 り、 虚 偽 の 名 前( G.N. ) を 用 い て そ れ を 被 告 人 自 身 に 裏 書 し、 口 座 に 充 当 し て、 一 日 以 内 に そ れ を 現 金 で 引 き
出 し
)(((
た 。被告人は、引き出した金銭を疑いなくEに払い渡し、Eに騙されていることに全く気付かなかった。偽り
の 小 切 手 を 行 使 す る こ と に 関 し、 被 告 人 は、 誰 も 損 を す る 人 は い な い 状 況 で、 誠 実 に 行 動 し て い る と 信 じ て い た、
という事案であった。
フ ォ ー ジ ェ リ ー に よ る 彼 女 の 有 罪 判 決 を 維 持 し た 控 訴 審 裁 判 所 に お い て、 公 判 裁 判 官 は、 不 誠 実( dishonesty )
はフォージェリーのために必要な要素ではないと正しく決定した。小切手の虚偽の署名を本物として銀行が受け入
れること、それにより銀行に義務ではないことをさせることを彼女は意図していたのであるから、主観的要件(メ
ンズレア)の両方の要素は、ここに存在する。それゆえ、彼女が銀行に永続的又は一時的損失を与えないことを意
図していたことは関連性がない、と述べている。
このように、正当な権利を与えられたと信じることは、フォージェリーの成立には関連性がないと考えられてい
たことから、セフト法で使用されている「不誠実に」という用語をフォージェリーで使用することはその理解を混
乱させると考えられた。また、一九八一年法の制定においては、虚偽のインストゥルメントを用いて損害を与える
意図について、より明確な概念を定めるべきとの判断から、ワーキングペーパーで提案された「不誠実に」という
用 語 は 採 用 さ れ な か っ
)(((
た 。 そ の 結 果 と し て、 ‘ defraud ’ と い う 用 語 で も ‘ dishonestly ’ と い う 用 語 で も な く、 意 図 の 内
容を具体的に示す一九八一年法の規定の仕方が採られたのである。
二一四
( 5 )二重の意図の内容
一九八一年法で要求されている二重の意図は、①虚偽のインストゥルメントを誰かに本物であると受け取らせる
意図と、②人がそのように受け取ることで受領者又は第三者の損害となるような作為又は不作為をするよう誘導す
る意図という二つの意図を要求するものである。つまり、一定の心理状態を引き起こす意図だけでなく、②損害と
な る よ う な 作 為 又 は 不 作 為 を 誘 発 す る 意 図 ま で 必 要 と さ れ る の で あ る か ら、 内 容 と し て は 詐 取 す る 意 図( intent to
defraud ) に 近 い も の と し て 規 定 さ れ た と い え
)(((
る 。 も っ と も、 前 述 の ウ ェ ル ハ ム 事 件 の 判 断 に 従 っ
)(((
て 、 経 済 的 損 失
をもたらす意図から外れる部分についても、一〇条一項c号の規定によりカバーされている。したがって、前述の
バッシー事件も、このc号の類型の権利侵害に含まれるものとな ろ
)(((
う 。
権利侵害( prejudice )の内容は、一九八一年法の一〇条で網羅的に明らかにされて い
)(((
る 。
一〇条一項
二項及び四項の制限のもと、本法本章の目的のため、誘発されることを意図された作為・不作為は、それが実現したなら
次の各号の一に該当する場合に限り、人の権利侵害である。
(a) いずれかの結果を生ずる場合―
(ⅰ) 一時的又は永続的な財産上の損 )((
(失
(ⅱ) 報酬又はより多い報酬を得る機会が失われるこ )(((
(と
(ⅲ) 報酬以外の方法による経済的利益を得る機会が失われるこ )(((
(と
二一五イギリス一九八一年偽造法の「虚偽」文書概念とその拡大(二・完)(都法五十四-二) (b) いずれかを得るはずだった機会を誰かに与えてしまう結果を生ずる場合―
(ⅰ) 報酬又はより多い報 )(((
(酬
(ⅱ) 報酬以外の方法による経済的利 )(((
(益
(c) その作為・不作為が、偽りのインストゥルメントを真正なものとして受け取ったことの、又は偽りのインストゥル
メントのコピーを真正なインストゥルメントのコピーとして受け取ったことの結果としての、その受領者の何らかの
義務の履行に関わりある場 )(((
(合
二項 強制的義務を負う者が履行する行為、及びそれを行う権限を有しない者がその行為をしないことは、本法本章の目的のた めには無視され )(((
(る。
一九八一年法の規定からすると、a号及びb号は、何らかの形で経済的な損失が生じるような行為を誰かにさせ
る こ と を 権 利 侵 害( prejudice ) の 内 容 と し て 定 め て い る が、 c 号 は、 経 済 的 な 損 失 に 関 わ ら ず、 偽 造 文 書 を 用 い て
義務履行に関する何らかの行為をさせる場合を定めている。したがって、一九八一年法においても意図される権利
侵害の内容は経済的損失に限られるものでは な
)((((
く 、ウェルハム事件のような事案でも偽造罪の成立を認めることが
で き
)((((
る 。
( 6 )主観的要件に関する具体的判断
(ⅰ)権利侵害が生じる確実性
一〇条にいう権利侵害の確実性の要否が問題となったのが、ガルシア 事
)((((
件 である。
二一六
ガルシア事件は、旅行案内業者として営業していた被告人が、正式な販売権限がないにも拘わらず、トランスワ
ールドエアラインのチケットを真正なチケットとして旅行者に販売したというものである。これを購入した多数の
旅行者は、偽造されたチケットを使用してトランスワールドエアラインの航空機を利用して旅行していた。そこで
弁護人は、チケットを使用した又は使用するつもりだった人、すなわち旅行者は、一時的又は永続的な財産の損失
を必然的に受けるものではなく、被告人は旅行者の権利侵害を意図していなかったと主張した。
判 旨 で は、 一 〇 条 の ‘ will resu l
)((((
t’ と い う 言 葉 は、 も し そ れ が 生 じ れ ば、 確 実 に 経 済 損 失 を も た ら す 出 来 事 を 意 味
す る も の で あ っ て、 潜 在 的 な 権 利 侵 害 で は 十 分 で は な い と し、 旅 行 者 が「 明 ら か に 権 利 侵 害 を 受 け て い た 人 で あ
る」ということは不適切であると判断した。そのため控訴審裁判所は、有罪判決を破棄した。
経済的損失を問題とするa号又はb号においては、何らかの経済的損失が確実に生じることを意図したことの証
明が必要とされており、これは、二つ目の意図の内容として、ほぼ財産犯と同様の意図が存在したことが要求され
ているといえよう。ただし、条文上要求されるのはあくまで意図であり、客観的な損失の発生ではないから、確実
に損害をもたらすことを意図しながら、結果的に損害が生じなかった場合(財産犯でいう未遂の場合)も、この要
件は充足するはずである。
(ⅱ)義務に関する権利侵害(c号)
経済的損失の有無を問題としない一〇条一項c号は、前述のバッシー事件の事案の他、いずれも一九八一年法制
定前のケースであるが、以下のようなケースに適用されると考えられて い
)((((
る 。ハリス 事
)((((
件 は、保釈保証人が見つか
っているため、被告人の釈放を正式に許可すると述べる虚偽の書状を、被告人が 州刑務所の所長に対して 治安判事
二一七イギリス一九八一年偽造法の「虚偽」文書概念とその拡大(二・完)(都法五十四-二)
の名前を用いて書いた事件である。ここでは、刑務所長の囚人の保釈という義務履行に関し、虚偽文書によって影 響を与える意図であったとして、c号の問題となる。トシャック 事
)((((
件 は、航海技術に関する試験を受けることで授
け ら れ る、 熟 練 者 で あ る こ と の 証 明 書 を 得 る た め に、 船 員 が 虚 偽 の 証 明 書 を 作 成 し た 事 案 で あ っ た。 モ ア 事
)((((
件 は、
警察隊への入隊を不正に得る意図で、虚偽の推薦状を偽造した事案であった。
いずれも地位や資格を得るために虚偽文書を作成・行使したものであり、文書が経済的損失に直接関わるものと
は言い難いが、偽造罪が認められている。一九八一年法では、こういったケースについて、被行使者の義務履行に
関する権利侵害の意図が認められ、一〇条一項c号に該当することになる。
(ⅲ)二重の意図の証明
二重の意図につき、両方の意図の存在をそれぞれ証拠により証明する必要があるかが問題となった事件が、トビ
ーレ 事
)((((
件 である。被告人は、妻子が数年間にわたり外国にいるにも拘わらず、妻の名前で児童手当支給に関する書
類 に 署 名 す る こ と に よ り、 児 童 手 当 を 受 け 取 っ て い た。 被 告 人 は、 そ の 手 当 を 受 け 取 る 権 限 が あ る と 信 じ て い た、
と主張した。
判 旨 で は、 三 条 の 主 観 的 要 件 の 解 釈 に つ い て、 「 同 条 の 解 釈 に は 二 つ の 可 能 性 が あ る。 ま ず、 証 明 さ れ な け れ ば
ならないのは、誰かがインストゥルメントを本物として受け取るよう誘導する意図だけと考える場合である。この
解釈では、一度そのような意図が証明された場合、インストゥルメントを本物として受け入れたことによって、人
が実際に彼又は第三者の権利侵害をもたらす作為又は不作為をしたかどうかは、単純に客観的問題である。他に採
り得る解釈としては、誘導する意図と、彼又は第三者の権利侵害をもたらす作為又は不作為を他者がするよう誘導
二一八
する意図という二重の意図についての証拠が必要と考えるものである。…(中略)私たちの見解によれば、一九八
一 年 法 の 三 条 と 一 〇 条 を 一 緒 に 読 む と き、 二 重 の 意 図 の 証 拠 が 必 要 で あ る こ と は 明 ら か に な る。 」 と し て、 ① 虚 偽
のインストゥルメントを誰かに本物であると受け取らせる意図と、②人がそのように受け取ることで受領者又は第
三者の権利侵害となるような作為又は不作為をするよう誘導する意図という二つの意図は、それぞれ証明されるこ
とが必要であることを明らかにした。
そ し て、 本 件 で は、 二 つ 目 の 意 図( 児 童 手 当 を 所 掌 す る 社 会 保 障 大 臣 に 権 利 侵 害 を も た ら す 行 為 を さ せ る 意 図 )
があったか否かを検討する必要があることにつき陪審員に説明を欠いた誤りがあるとして有罪判決が破棄された。
二重の意図は、それぞれが証拠によって証明される必要があると考えられている。
(
fences Against Property)」の中で文書偽造罪を扱っている。 USSELLONRIMEECILUNERes2 R C 1216 (J.W.C T ed.,12th ed.1964) (Of-)」の中で文書偽造罪を扱っており、は、「財産に対する犯罪 63CARD,CROSS & JONES,CRIMINAL LAW,504 (R. Card ed.,20th ed.2012)Fraud and related offenc-) は、一二章の「詐欺及び関連犯罪(
(
64SMITH & HOGAN, CRIMINAL LAW, 22 (David Ormerod ed.,13th ed.2011).CARD,CROSS & JONES, supra note 63,at 510.) ここでは、一つ 目の意図について「自己又は第三者が、虚偽のインストゥルメントを、誰かにそれを本物であると受け取らせる目的で使用する」意図とされる。後述のキャンベル事件(R.v.Campbell. (1985) 80 Cr.App.R.47.)において、二重の意図が必要であることが確認さ
れている。
(
( 65Attorney Generals Reference No 1 of 2001 Under Section 36 Criminal Justice Act 1972 (G and S) [2002]EWCA Crim 1768.)
’
( 662 RUSSELLON CRIME, supra note 63,at 1238.) 671 Hawk.P.C.c.70,s.11.) ホーキンズがこのように呼んだものである。
(
( 682 RUSSELLON CRIME, note 63,at 1238.supra)
( 69R.v.Hodgson. (1856) Dearsly and Bell 3.) 70THE LAW COMMISSION, CRIMINAL LAW, REPORTON FORGERYAND COUNTERFEIT CURRENCY,para 30. (LAW COM. No55) (1973).)