二十歳青年の意識と体験 : 青年研究における属性 的アプローチの意義
その他のタイトル Twenty‑year‑old Youths' Consciousness and Experiences : Significance of Attributive Approach in Youth Study
著者 岩見 和彦, 瀧本 佳史
雑誌名 関西大学社会学部紀要
巻 16
号 1
ページ 247‑275
発行年 1984‑12‑21
URL http://hdl.handle.net/10112/00022752
二十歳青年の意識と体験
ー一青年研究における属性的アプローチの意義一―‑
岩 見 和 彦 ・ 瀧 本 佳 史
Twenty‑year‑old Youths'Consciousness and Experiences
— Significance of Attributive Approach in Youth Study ― ―
Kazuhiko Iwami and Yoshifumi Takirrioto
Abstract
Identity and experiences i n the psycho‑social moratorium o f contemporary youths are based on their attributive factors. Most important factors are two , sex and status i . e . students (undergraduate)/non‑students. We tried to show a presence and meaning o f differences due to these factors i n youths'consciousness and experien‑
ces date which have been gathered through our survey conducted t o twenty‑year‑old youths i n Suita City, Osaka i n 1982. Value consciousness was typologically analy‑
zed by HAYASHI's quantification theory. A s a result, i t was cleared that the con‑
sciousness types were more closely related to sex than status. This could b e att‑
ributed t o . ̲ , t h e sexual differentiation i n their socialization. Retrospective data consisted o f personal experiences involved their "significant others". The analy‑
sis by the breakdown and the quantification theory showed that two a t t r i b u t ̲ i v e fac‑
tors also brought a significant difference o f the experiences o f youths, but the retrospective data were not directly related to their present consciousness types.
key words : twenty‑year‑old youth i d e n t i t y consciousness type experience attributive f a c t o r sex undergraduate s o c i a l i z a t i o n s i g n i f i c a n t others quantification theory
抄 録
現代青年の心理一社会的モラトリアム期におけるアイデンテイティや体験の状況は,彼らの基 本的属性によって規定される。なかでも重要なのは,男と女,学生と非学生の 2 つの属性要因で ある。われわれは対象を二十歳青年にしぼった質問紙データ(吹田市調査)を素材に, 2つの領 域におけるこれらの属性差の存在と意味を明らかにしようとした。第 1 の領域は,彼らの価値感
・社会意識にかかわる項目に関するもので,林の数量化理論皿類による類型化分析が試みられ た。その結果,意識類型と強い関連をもつのは性差で,青年の性的社会化の大きな影響が確認さ れた。第 2 の領域では,「意味ある他者」を含んだ個人的体験にかかわる回顧的データを扱って いる。属性別ブレークダウンや数量化 I I 類による分析を試みた結果,ここでもやはり属性ごとに 有意な差があること,しかし回顧的データが現在の意識類型と直接関連するものではないこと,
が示された。
キーワード:二十歳青年アイデンテイティ 意 識 類 型 経 験 属 性 要 因 性 差 大 学 生 社 会 化 意味ある他者数最化理論
‑247‑
関西大学「社会学部紀要」第 1 6 巻第 1
号目
I まえがき I
I 意識類型分析
1 . 二十歳青年の意識類型 2 . 意識類型の性別分析 3 . 性差と学非差
次
皿 他者体験と経験の諸相
1 . 個人史のなかの「意味ある他者」
2 . 諸経験にみる二十歳青年 3 . 意識類型と体験要因
I ま え が き
現代青年の意識と行動を理解する試みのなかで, 「青年現象」を一般化するのに急で, 各種各 様の青年たちの存在のありようの差異について等閑視する傾向はなかっただろうか。「青年期の モラトリアムは, 時代や文化の型, そして青年の婦属する社会階級によって規定される」!)とい う当たり前の事実を明確化し,青年現象の態様を析出することが,社会学的青年研究の重要な課 題でなくてはならない。
従来,多くの青年調査は,その対象がかなりの年齢幅をもった青少年であったり,大学生や高 校生,あるいは勤労青年といった特定の属性に限定されがちであった。前者では世代としての青 少年層,後者では特定の集団所属が強調されるものの,その集計分析は,年齢や性差によるブレ
ィクダウンが形式的に試みられるにとどまることが多かったように思われる。
本稿は「吹田市青年意識調査」(昭和 5 7 年 1 0 月実施)の分析結果の一部である凡調査目的は,
「ともすれば世の大人たちから理解しがたいと言われている現代青年の心情と考え方を,できる かぎり質的な項目によって浮きだたせ,とりわけ<生きがい>をめぐる意識の諸相とその形成過
1) 栗原彬『やさしさのゆくえー現代青年論」(筑摩書房, 1 9 8 1 )p . 1 3 1 .
2) 調査結果の概要については,関西大学社会学部社会調査室「吹田市における「二十歳青年」—-<生き
がい>をめぐる意識の諸相」 ( 1 9 8 3 ) を参照。サンプリングは,吹田市青少年対策室作成「成人祭名簿」
をもとに, 1 1 2 9 人を等間隔に抽出,抽出率は約 5 分の 1 。郵送,留置法により後日訪問回収。調査期間 は昭和 5 7 年 9 月1 9 日 10 月1 9 日。サンプル構成は以下のとおり。
I 男 子 I 女 子
1合 計
1I . ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ . I
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ムロ
計 I 2 3 7 ( 4 4 . 6 ) I 2 9 4 ( 5 5 . 4 ) I 531(100)
「非学生」のなかには男子で 3 人 ( 4 .3%), 女子で 7 6 人 ( 3 6 .4 9 6 ) の短大を最終学歴とする者が含ま れている。分析上十分考慮すべき要因であるが,ここでは調査規模の制約もあり,上記の…部で囲まれ た 4 分類による分析にとどめることにした。
なお,本調査の質問項目作成に際しては,『大都市青少年の生活・価値観に関する調査』(東京都都民 生活局, 1 9 8 0 ) , 見田宗介「現代の青年像』(講談社現代新書, 1 9 7 4 ) , 松原治郎「現代青年の意識構造」
(弘文堂, 1 9 7 4 ) などを参考にした。
程を明らかにすること」を目指したもので,質問項目はひじょうに多岐にわたっている。ここで の方法的特徴は,先行の調査研究とは異なった集計分析水準を開示するために,調査対象者を二 十歳人口(昭和 3 6 年 4 月 2 日〜昭和 3 7 年 4 月 1 日生まれ)にしぽり,「学生」と勤労者など(「非 学生」と呼ぶ)の比較を可能にした点にある。回収率の低さ (47%) が及ぽす結果の歪みは無視 しえないものの,回答者の意識構造を上で述べたような方法意識から明らかにするための素材と しては,一定程度の意味をもっていると考えている。
今回の考察は多岐にわたる調査結果のうち,二十歳青年の意識と行動における<属性差の諸 相>を,主として 2 つの観点にしぽって整理検討することをねらいとしている。ここでいう属性 差とは,男性・女性と学生・非学生の二つの要因による差異の態様を意味している。そして 2 つ の観点とは, ( 1 ) 価値銀や態度次元での意識の類型化, ( 2 ) 個人史的データの数量的把握,を試みる ことであり,これらの作業をとおして青年研究における属性的アプローチの意義を見極めたいと 考える。
] I 意識類型分析
1 . 二十歳青年の意識類型
われわれが見つめようとする二十歳青年たちは,「黄金の 6 0 年代」「叛乱の 6 0 年代」と呼ばれ
「経済成長」の絶頂期であり, 時代目標の明確であった激動の 1 9 6 0 年代に, 乳・幼児期をおく る。次の十年間は目標が不明確で,社会全体が試行錯誤しながら個別化・多様化する目標の調整 が要求される協調の時代であった。二十歳青年たちはこの二つの時期に,家庭・学校という窓か
ら社会を見ることを通して,自らを社会化し,また自己定義を模索してきたはずである。
かれらはこの8 0 年代を生きる上で,形式的には学生という身分で猶予期間を生きる人々と,就 職したがゆえに猶予期間を早々に切り上げ二十歳という節目を生きる人々とに分化される。また 同じ二十歳青年といっても,男性と女性では異なった性的社会化の道筋を歩んできたにちがいな い。.とくに女性では,過ごしてきた生活空間に存在する伝統的性差別観ならびに性差別的社会構 造に拘束された意識の呈示が予測される。こうした枠組みをうけて,ここでは,二十歳青年たち はいかに社会を見ているのか,またいかに社会を反映し,いかに社会に拘束される存在なのかを 見るうえで,学生ー非学生,男性―女性の分類軸がいかなる役割を果たすのかを追究することに
したい。
分析に入る前に,二十歳青年たちの属性別にみた満足度から現代青年像を素描しておこう。表 1 にみられるように, 6 割以上は自分たちの生活程度は満足できる暮らしむきだと考えている。
女子学生の満足度は他属性と比較して高い。余暇時間の量に関しては正規分布を描かずヒ゜ークが 二つ存在するが,相対的に学生は余暇時間を充分に持っており満足度が高い。これに対し非学生
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関西大学「社会学部紀要」第 16巻第 1 号•
表 1 二十歳青年の属性別満足度
満 や ど や
や ち や
満 ら と 不
足 足 も 満
生活程度!学生•男 1 9 . 8 4 1 . 9 1 0 . 8 1 8 . 6
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..............・ ・ ・ ・ ‑ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ‑ . ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑
全 体 2 0 . 0 4 0 . 7 1 3 . 9 1 7 . 3 余暇時間(量) i 学生•男 2 6 . 9 2 5 . 1 1 5 . 6 2 2 . 8
i 学 生 ・ 女 2 2 . 4 3 1 . 8 1 0 . 6 2 3 . 5
i
ヽ非学生・男 1 1 . 4 3 1 . 4 1 5 . 7 2 1 . 4
i 非学生・女 1 2 . 9 3 2 . 1 8 . 1 3 0 . 1
: . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
... ● ● ●疇 ・ ・ ‑ ・ ‑ ・ ・ ・ ・ ・ 全 体 1 8 . 6 2 9 . 8 1 1 . 9 2 5 . 6
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歴 i 学 生 ・ 男 1 5 . 0 2 4 . 0 3 5 . 9 1 7 . 4
i 学 生 ・ 女 3 4 . 1 2 4 . 7 2 4 . 7 1 1 . 8
i 非学生•男 1 1 . 4 2 2 . 9 3 5 . 7 2 0 . 0
i
ヽ非学生.・.女. 2 3 . 4 2 3 . 9 3 2 . 5 1 2 . 4
...
全 体 2 0 . 9 2 3 . 9 3 2 . 8 1 4 . 9 日 本 社 会 i 学 生 ・ 男 1 . 8 1 1 . 4 2 8 . 1 3 1 . 7
i 学 生 ・ 女 3 . 5 3 0 . 6 4 2 . 4 i 非学生・男 2 . 9 7 . 1 3 0 . 0 3 5 . 7
i 非学生・女 0 . 9 6 . 2 4 6 . 4 3 0 . 1
i
‑
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ‑ ‑ ‑ ・ ‑ ‑ ‑ . . . . . . . . . 雫 . . .
............... . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 全 体 1 . 1 7 . 5 3 6 . 0 3 3 . 3 は不満とする者が多い。最もこの満足度の高い属性は男子学生である。
不
NA 満
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・ ・ ・ ・ ・ ‑ ‑ ・ ‑ ・ ・ ‑ ・ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ・ ・ ・ ・ 1 3 . 9 0 . 2
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...
. ‑ . . . . . ‑ ‑
...7 . 5
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. . . . . . . . . . . . . ‑ ‑ ‑ ‑ ・ ・ ・ ・ ・ ‑ ‑ ・ ‑ ・ 2 2 . 0
自己の学歴に対する満足・不満足では,回答の中心が男性で不満,女性は満足の側にある。な かでも女子学生は満足だとする比率が高い。各属性により何に満足し何に不満を抱くかの差はあ るにしても,二十歳青年たちは全般的に自分の生活には高い満足傾向を示すが,その生活を保証 している社会に対する満足度となると,満足だと答えるのは 1 0 分の 1 以下で,大半は不満を表明 している。
現代青年たちの生活満足度は相対的に高いのに,社会に対しては強い不満を持つというこの傾 向は,他の多くの調査結果と一致している。しかしそこには,やはり男女・学生非学生それぞれ の属性による差があることも事実なのである。では,こうした背景にはいかなる意識構造が横た わっているのだろうか。二十歳青年たちの生活・価値意識からみた意識構造の実相を明らかにし ていくことが,次の課題とならなくてはならない。
われわれが二十歳青年たちの生活・価値意識の諸相を明らかにするための分析に採用するデー
タは, 「生きがい」「大切なもの A•B•C 」「社会での成功」「うちこめる何か」「将来の具体的
展望」「社会への奉仕」「義理・人情」「変革志向」「秩序志向」「伝統志向」「個人本位」「享楽志 向」「女性の社会進出」「離婚観」「努力主義」「フリーセックス」「 1 0 万円足りない」「ベンチでキ ス」「大阪発 9時0 3分」「うまくいかない」「わからない字」「深夜放送」「お前がたより」「上司の 期待」「流行の服装」「 00 賞」「友達と旅行」「批判で解雇」「電車でタバコ」「妊娠」「占いの行 列」「遺児への寄付」「車内で人生論」「カップルが新車」「改札口で車いす」「青年心理の本」「理 想の社会」「理想社会実現の手段」の 4 0 質問領域である。
表 2 (全体)は,これら 1 0 4 アイテム・カテゴリーを数量化皿類によって分析した結果得られ た,意味のある 2 つの軸に対する各アイテム・カテゴリー別のスコアを示したものである。
析出された 2 つの軸の説明からはじめよう。まず I 軸のプラス側では, 「社会のため」になる ことをしている時, 「毎日の生活」に生きがいを感じる, 古いものは長い間ずっと受けつがれ残 ってきたものだから, そのよさを大切にすべきだという「伝統志向」, 男女のセックスの関係は 結婚などで拘束されるぺきでないという 「フリーセックスに反対」, つらくとも人間は絶えずよ りよいものを目指し努力するべきだという「努力志向」,大切にするものは「家族」,電車でタバ コを吸っている人を見かけると 「注意しなくてはと思う」, 少しでも社会のためになることをし なければという「社会への奉仕」の気持ちがある,が続き,社会規範に同調しつつ人生に対して 積極的な構えを示すアイテム・カテゴリーが並ぶ。
一方, マイナスの側に!まいちばん大切だと思うものは「地位• 財産」,一生懸命やっていても うまくいかないときは「あきらめる」,努力主義に「反対」,自分のやりたいことをやりぬくため には社会のルールを破るのも仕方ないという個人主義に「賛成」, 社会にでて成功するためには 何が重要かで「運やツキ」,車内で同世代の若者の人生いかに生きるべきかの論議を聞いて何を つまらないことをと「しらけた」気分になる,上司に,君には期待しているのだから,しっかり やってほしいと言われたとき「のるものか」と思う, が並ぶ。「地位•財産」が大切と現実主義 の一面ものぞかせるが,それを具体化する方向性をもたず,人生に対してあきらめのよさ,自分 本位,しらけの傾向,人生に対し斜に構える姿勢がみられる。
これらのことから I 軸は,社会規範を受容しまじめに生きるか,既存の規範に背を向け価値志 向的態度を忌避するか,という生き方の構えの相違に関連している。したがってこの軸は,<社 会規範遵守一社会規範非同調>の軸と解釈することができる。 I 軸における属性別スコア平均値 からすれば,学生ー非学生よりも男性ー女性がこの軸にそって分布することから女性は規範遵 守,男性は規範非同調の方向にある。
次に I I 軸に目を転じると, プラス側には個人本位に「賛成」, 自由に競争ができて,能力のあ る人はどんどん金持になれるが暮らしに困る人もでる社会が日本における理想社会であるとする
「自由主義社会」,大切なもの B グループでは,自分・家族の枠を越えた「会社(学校)」「国家」
「人類」「その他」が重要と考え, いつの世でも義理とか人情は大切にしなければならないには
「大切でない」,一家団槃のとき, あるいは毎日の生活すぺてが楽しく生きがいを感じる「毎日
‑251‑
関西大学「社会学部紀要」第
1 6
巻第1
号表 2 数量化皿類分析結果(二十歳青年)
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関西大学「社会学部紀要』第 1 6 巻第 1
号・団簗」などが並ぶ。
これに対してマイナス側には, いま自分が打ち込んでやれる何かを「もっていない」,女性も 家庭の外に出てどんどん活躍するべきには「どちらともいえない」, またこれからどう生きてい くかについて具体的な考えや展望を持たない,離婚に対しても明確な意見を持たない,占いの行 列には自分も並んでみようと思う,といった項目が続く。
I I 軸は,青年期モラトリアムを積極的に生きようとする姿勢と,反対にモラトリアムに埋没し その決着を保留し続ける姿勢とを,対照的に描き出している。その意味でこれは,二十歳青年た ちが能動的,主体的な行動のなかで自律性を確保しアイデンティティの統合を志向するか,ある いは受動的,他律的な生き方を甘受し自己定義を保留するという意味で,アイデンティティの統 合を必ずしも志向しないかを分けている。そこで 1 I軸は<ァイデンティティの統合志向一非統合 志向>の軸と解釈することができる丸
属性別スコア平均値からみると男性であることと,学生であることが,社会が青年たちに自由 を認めアイデンティティの統合志向を許可する条件である。女性,非学生は社会に拘束される存 在であり,アイデンティティを拡散したままで生きる確率が高い。しかし, 4属性にブレイクダ ウンすると男子非学生は統合志向を保有している。このことは男性優位社会を反映し,性差の存 在が色濃く影を落としていることを示唆している。
<社会規範遵守一社会規範非同調>の I 軸とくァイデンティティの統合志向一非統合志向>の I I 軸をクロスさせることにより,二十歳青年たちの意識の 4 類型を素描することができる。
第 1 類型<規範遵守・統合志向 25.6%> 一社会規範を遵守しつつアイデンティティの統 合を目指す模範的なイイコ
9まじめ青年のクイプである。自分,家庭を超えたところに視座を持 ち,社会のためになることをしなければという気持を保有し,体制に受容的であるものの人生に 対して積極的な構えを持つ。女子学生の属性別スコア平均がこの象限に布置される。
第 2 類型<規範非同調・統合志向 22.2%> —共通の目的志向は共有しないものの,個別 の目標に自律的にかかわりながらアイデンティティの統合を志向する模索青年のタイプである。
義理・人情などの伝統的な思考に反発し,自由や地位•財産を求め個人本位に賛成する。男女間 の問題にも解放的である。またお前がたよりと言われるとわずらわしく感じ,上司の期待にはの るものかと構える。社会秩序を維持するためにいやな思いをして法に従うなんてと考える。局 面,局面においてその都度社会規範に非同調的な態度を示すという側面をみせる,いわば最も青 年らしい青年像を示すのがこの類型である。男子学生,男子非学生の属性別スコア平均が布置さ れる。
3) 1 5 歳 29 歳までの年齢層を持つ青少年サンプルとする先行研究の分析結果では 1 軸に<社会規範同調一 社会規範非同調>. J I 軸に<他人志向ー自分志向>,皿軸に<活動的(外向)一非活動(内向)>を析 出している。男女差,年齢差,学非差が複合して軸を意味づけている。二十歳青年のみを対象にするこ の分析では年齢差は反映されない。『大都市青少年の生活・価値観に関する調査」(東京都都民生活局,
1 9 8 0 ) p p . 1 3 5 ‑ 1 3 7 .
第 3 類型<規範非同調・非統合志向 2 7 . 5 彩> 一 社 会 規 範 に 非 同 調 で あ り な が ら , 自 己 の 目標を模索する気もない,受け身でシラケ青年のクイプである。やっていることがうまくいかな いときはすぐにあきらめ,社会のためになることなどする気もなく,自分が参加する旅行スケジ ュールに対してさえ他者依存的である。生きがいは余暇であり,自分を打ち込んでやれる何かを 持たない,またこれからどう生きていくかについての具体的な考えや展望を持ちえない現代青年 の悩める部分を代表する類型である。
第 4 類型<規範同調・非統合志向 2 4 . 7 彩> ―‑社会規範に同調的で社会からも家庭からも 拘束されている忍従的な青年のタイプである。父母,家庭を大切に思い,夫婦間の愛情が失われ ても子どもがいるなら離婚すべきでないと考え,義理・人情を大切と考える。親から「お前だけ がたよりだから」と言われれば,親に心配をかけてはいけないと思い,上司に「君には期待して いる」と言われると期待に応えなくては,と思う。受動的ではあるが耐える姿勢を持つタイプで ある。この象限には女子非学生が布置される。
ここで男性―女性,学生一非学生の分類から構成される 4つの属性別グループと,二十歳青年 が内包している意識から析出した意識類型との関連を見てみよう(図 1 ・表 3) 。
青年がモラトリアムの期間を漂流する存在であるなら,それを具現する属性は,模索青年,ま じめ青年の構成比の高い男子学生である。この 1• 2 類型を併せた統合志向の構成比は 6 割を超
学生・男 非学・男 学生・女 非学・女 全 体
〈まじめ青年〉 〈模索青年〉
I , , " , , I
〈シラケ青年〉〈忍従青年〉
l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l l i l l l l l l l l l l l l
0 1 0 2 0 3 0 4 0 5 0 6 0 7 0 8 0 9 0 1 0 0 % 図 1 属性別にみた意識類型の構成比
表 3 属性別社会規範,アイデンテイティ統合
社 会 規 範 アイデンテイティ統合
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 遵 守 ; 非 同 調 志 向 i 非 志 向
学生•男 4 1 . 9 i 5 8 . 1 6 5 . 3 , ・ 3 4 . 7
: 非 学 生 ・ 女 学 :: : I : : : 5 1 . 2 l : : : 4 : 8 . 8 : : : 3 3 . 5 l : : : : : 6 6 . 5
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . r ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ < ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 全 体 5 0 . 3 , 4 9 . 7 I 4 7 . a : 5 2 . 2
‑255‑
関西大学「社会学部紀要」第 1 6 巻第 1
号える。学生という立場は,社会規範遵守の方向,規範非同調の方向のどちらをとるにしても,社 会からある種の自由を許容されることを意味する。規範非同調の方向をとる比率が過半数を超え るのは男子学生のみである。次いで統合志向の高いのは男子非学生である。職業的地位と役割か らの拘束が付加される分だけ,男子学生の得ているような奔放な自由は社会から許可されていな いにしても,逆に経済的な裏付けは学生より充分に保証されるため,彼らは学生とはまた異なっ たアイデンティティの統合志向を示すのであろう。男子非学生の特徴として規範遵守・統合志向 のまじめ青年と非同調・非統合のシラケ青年に分化することがあげられるのも,このことの反映 である。
女子学生は社会に存在する伝統的性差別観,性差別的社会構造の反映から規範を遵守すること を期待されるため規範非同調の方向をとりがたい。しかも社会的性役割を内面化する過程で自己 規制し自主的に規範に同調してしまう傾向が強い。男子学生では社会規範の枠を破って模索する ことの自由度も大きいが,女子学生は社会規範の枠内でアイデンティティの統合・非統合を志向 する。
女子非学生は非統合志向にその特徴をもつ。彼女たちは,女性であること,職業をもつことか ら社会的拘束を最も強く受けると考えられるが,模索青年の比率は女子学生より多く存在する。
しかしながらこの属性の特徴は,やはりシラケ青年,忍従青年の構成比の高さである。ここで女 性にその構成比が高かったアイデンティティの非統合の意味を考えれば,そこには二つのパタン が存在する。一つは就職するなどして自己限定,アイデンティティの統合をひとまず形の上では 完了した人々であり,他はアイデンティティの統合そのものを志向せず,アイデンティティ拡散 状態にあっても何らの痛痒も感じない人々である。
二十歳を少し経過した同年齢者に限定した青年の意識構造を,男性ー女性,学生一非学生すべ てのデータを含めた全サンプルの分析によって明らかにしようと試みた。そして分析結果は,性 差,学非差が数量化 I I I類分析で析出された分析軸に各々対応し, 4属性と 4類型とがほぼ一致す るというような両者の単純な対応関係を示しはしなかった。いうまでもなく,すべての二十歳青 年が歩調を合わせ暦年齢相応の「発達」をしているわけではない。また各々の自分史にも個性が あるのは必然である。個性的な意識形成過程の差異は,数量的な分折による類型化の試みのなか ではある程度犠牲にならざるをえないのだろう。 しかし,青年たちの意識類型分析によるかぎ り性差,学非差がなお重要な役割を果たしていることにはまちがいない。この点を見きわめるた めに次節では,性差をコントロールすることにより 4 属性の意味を深化させてみたい。
2 . 意識類型の性別分析
性差の意味を探るため男性と女性を個別に数量化 1 I I 類で分析するとどうなるだろうか
4)( 表 4) 数量化 I [ 類分析を異なる集団に適用して集団間の意識構造の差を明らかにしようとする考え方は以下を
参照。林知己夫「日本人の心は変わったか_調査からみた日本人の国民性」(日本人研究会編「日本
2) 。アイテム・カテゴリーに与えられたスコアの上位 1 0 位までに着目し解釈すると, I 軸は男 女とも前節での全体の数量化 l l I 類分析と共通で,<社会規範遵守一社会規範非同調>の軸と考え られる。 1 I 軸は男女ともマイナス側に「どちらともいえない, NA. 」が集まるので,<態度の明 瞭ー不明瞭>を分ける軸とも考えられる。しかしながら男女全体の分析結果との共通性を考慮に 入れれば,この軸はくァイデンティティ統合志向一非統合志向>を示すと解釈すべきかもしれな い。性別分析において 1 I 軸をめぐり 2 つのケースが存在するだろう。 1 I 軸に全くちがった次元の 軸が析出されるケースと,軸そのものは同次元でありながら軸の持つ意味内容に差が存在するケ ースである。
われわれの分析の場合,女性の分析結果では正負の傾向が一致しているが,男性の場合にはカ テゴリー・スコアの大きいものでみるかぎり相当数が正負逆に現れるといった結果がでている。
したがっで性別分析での I I 軸は後者のケースと想定される。 1 I 軸の意味内容を解きほぐすことが できれば性別分析は全体分析で明らかにできなかった何かを示唆するに違いない。
数量化 l l I 類においてはカテゴリーとケースに同時に値が与えられる
5)。 そこで,まずケースに 与えられる数値を用いて 1 I 軸が全体分析と性別分析において共通性を有するのか否かを検討し,
次にカテゴリーに与えられる数値が示唆するものを明らかにすることにしたい。
第 1 の課題のために,男女別の数量化皿類で析出された 2 つの軸から構成された 4 類型の構成 表 4 類型構成員の移動(男女全体分析ー→男女別分析)
(男性) 2 3 7 (女性) 2 9 4 7 4 → 5 9 : ‑ ― I 6 ャ : 7 1 → 6 0
>• ~,1IJ;I
4 4 → 6 7 :
. ( 4 3 ) ! i ‑ ‑ ‑ 3 ―
‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ : ‑ ‑ ‑ ‑ ‑ ‑
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