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  第一節 旧特許法下における特許発明の技術的範囲をめぐる議論

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(1)

特許発明の技術的範囲と﹁特許請求の範囲﹂との関係についての分析と検討

q

小島 喜一郎

 序章問題の所在       ︑

 第一章﹂特許請求の範囲﹂と特許発明の技術的範囲の関係の歴史的展開

  第一節 旧特許法下における特許発明の技術的範囲をめぐる議論

  第二節 現行特許法への改正過程における議論      ︑      ・

  第三節 現行特許法の一部改正と特許発明の技術的範囲の明確化

 第二章現行特許法の下での﹁特許請求の範囲﹂と特許発明の技術的範囲の関係

  第一節 企業活動における法的安定性確保の要請

  第二節  ﹁特許請求の範囲﹂の作成と特許発明の技術的範囲

  第三節 特許権付与手続における発明の要旨の認定

  第四節 特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の導出        

特許発明の技術的範囲と﹁特許請求の範囲﹂との関係についての分析と検討     ︵都法四十五い一︶ 二一±

(2)

二二二

第三章 ﹁特許請求の範囲﹂にもとつく特許発明の技術的範囲の導出の限界とその対応

 第一節特許発明の技術的範囲の減縮解釈

 第二節 特許発明の技術的範囲の拡大解釈

 第三節 特許発明の技術的範囲の解釈の妥当性の検討

終章結びに代えて1法的安定性の確保と特許発明の実質的価値の保護との調和へ向けてー

序章 問題の所在

 発明者が自らの発明について特許権を取得しようとする場合︑発明者︵出願人︶は保護を求める発明の範囲を﹁特        ユ  許請求の範囲﹂︵特許法三六条二項︶という書面に明記する︵特許法三六条五条︶︒このため︑﹁特許請求の範囲﹂は︑

特許権付与手続では︑特許審査の対象を示す機能を果たし︑特許権付与後には︑その公開︵特許法六六条三項四号︶

を通じて︑特許権の効力の及ぶ技術の範囲︑すなわち︑特許発明の技術的範囲を一般の第三者に公示する機能を果た

すこととなる︒

 とりわけ︑後者の機能は︑独占・排他的権利である特許権により︑一般の第三者が不測の損害を被ることのないよ

う︑法的安定性を確保するという極めて重要な役割を担っており︑そのため︑我が国の特許法はこのことを明示的に         確認している︵特許法七〇条一項参照︶︒

 ところが︑特許権侵害訴訟をはじめとする特許権侵害の存否が争われる場面では︑特許発明の実質的価値に応じた

(3)

    保護のためとして︑﹁特許請求の範囲﹂を離れて特許発明の技術的範囲を導出する必要性が説かれている︒いわゆる   

@ 

@「 知技術の除外﹂や﹁均等論﹂と三た法理の提唱で誓・しかし・このような﹁特許発明の技術的豊の競﹂

    を認めることは︑・特許発明の技術的範囲を公示するという﹁特許請求の範囲﹂に課せられた機能を損ない︑法的安定

    性を害することに繋がるのではないかとの懸念を生じさせる︒もっとも︑特許権付与手続での様々な制約や︑特許出

   ︐願から特許権行使に至るまでの時間的ずれ等を考慮すると︑特許発明の技術的範囲の解釈が必要な場合もあるのでは

    ないかとも考えられる︒

     そこで︑本稿では︑特許発明の技術的範囲に関わる特許法の諸規定の趣旨を︑その立法過程に遡って検証し︑その・

    後の特許法の運用を精査する︒そして︑特許発明の技術的範囲の解釈をめぐる判例の動向︑ならびに︑学説を分析し︑

−   特許発明の技術的範囲の解釈の問題点ならびに必要性について検討・考察を行っていく︒

     ︵・︶実用新案権は︑自然法則を利用した技術的思想に関する排他独占的権利である点︵実用新案法二奎項二六条︶い新規

      性.進歩性を権利付与の要件としている点︵実用新案法三条︶︑権利の及ぶ範囲が実用新案権者︵出願人︶の責任において

       作成された﹁実用新案登録請求の範囲﹂に基づい︑て定められる点︵実用新案法二六条︶等において︑特許権と共通する︒平

       成五年改正により実用新案権に関しては審査手続の簡略化が図られているものの︑特許権と実用新案権の性質は酷似してい

       ると言い得る︒そこで本稿では︑基本的に︑両者を区別することなく扱うこととする︒

        ノ      シ

゜︑︑   ︵2︶ 吉藤幸朔︵熊谷健一補訂︶﹃特許法概説︹第一三版︺﹄二七九頁︵平成一〇年︶は同規定を確認規定として説明する︒      ︵3︶ ﹁特許請求の範囲﹂の記載を離れて特許発明の技術的範囲を導出することを︑﹁特許発明の技術的範囲の解釈﹂と呼ぶこ

     とがあり︑本稿もこれに従う︒辰巳直彦﹁特許侵害訴訟における特許発明の技術的範囲と裁判所の権限−特許発明の技

       術的範囲の拡大と減縮1﹂工業所有権法学会年報一七号一七頁・一九頁︵平成五年︶を参照︒

      へ   ぜ 特許発明の技術的範囲と﹇特許請求の範囲﹂との関係についての分析と検討     ︵都法四十五−一︶ 二二一二

(4)

二二四

第一章 ﹁特許請求の範囲﹂と特許発明の技術的範囲の関係の歴史的展開

 我が国の特許法が有する︑特許発明の技術的範囲の導出方法に関する規定︵特許法七〇条一項︶は︑現行特許法︵昭

和三四年法律一二一号︶ではじめて採用されたものである︒そこで︑本章では︑同規定を設ける背景となった︑旧特

許法︵大正一〇年法律九六号︶以前における特許発明の技術的範囲に対する考え方を概観し︑その上で︑この規定が

いかなる議論の末に設けられ︑どの様な変遷を辿ったのか見ていくこととする︒

第一節 旧特許法下における特許発明の技術的範囲をめぐる議論

 現行法が特許発明の技術的範囲の基礎とする﹁特許請求の範囲﹂に関し︑旧法は何ら規定しなかったものの︑旧特

許法施行規則がこれを規定していた︒同規則は︑第二章﹁出願﹂で︑特許出願の際に明細書を提出すべき旨を規定し

︵旧特許法施行規則三七条︶︑その明細書中に︑﹁特許請求ノ範園﹂として︑﹁登明ノ構成二訣クヘカラサル事項ノミ        ベ ヲ一項二記載スヘシ﹂旨を規定していた︵旧特許法施行規則三八条︶︒

 このように︑旧法下では施行規則が規定するのに対し︑現行法下では本法︵特許法三六条五項︶が規定するという

違いがあるものの︑両者とも︑﹁特許請求の範囲﹂の内容については︑出願人をして特許出願する発明の構成の全て       ︵5︶ を記載させる点で共通する︒

 しかし︑特許発明の技術的範囲について見ると︑旧法は︑その確認が特許庁の審判の対象とされる旨を規定するの        みで︵旧特許法八四条一項二号︶︑現行法と異なり︑特許発明の技術的範囲の導出方法を定めていなかった︒そのた

(5)

め︑旧法下では︑﹁特許請求ノ範園﹂と特許発明の技術的範囲とがいかなる関係にあるのか︑また︑何を基準として

特許発明の技術的範囲を導出するかは︑専ら︑判例や学説の解釈に委ねられていた︒

 大審院は︑次の︹1︺において︑この問題に関する明確な判断を示した︒

       ︹1︺大判大正=年一二月四日民集一巻六九七頁

 【 鮪タ︼ 被上告人︵控訴人・原告︶は︑上告人︵被控訴人・被告︶による帽子の製造販売が︑パナマ帽子に関す

   る自己の特許権を侵害するとして訴え提起︒帽子の材料となる﹁線條﹂につき︑﹁特許請求ノ範園﹂には︑

   紙撚︑綿糸又は麻糸の数条を併合したものにセルロイド性塗料を塗布して作られた一本の﹁線條﹂と記載さ

   れていた︒それに対し︑上告人実施の帽子の﹁線條﹂は︑一本の紙撚にセルロイド性塗料を塗布した﹁線條﹂

   であった︒上告人はこの相違を根拠に特許権を侵害していないと主張した︒   

 ︻判旨︼ 上告棄却︒

     ﹁特許登明ノ範園ハ専ラ其ノ特許明細書二依リテ之ヲ定ムヘク而シテ特許明細書ヲ解繹判断スルニ當リデ

   ハ其ノ記載セル特許請求ノ範園等ノ字句二拘泥スルコトナク登明ノ性質及目的又ハ登明ノ詳細ナル説明等ト

   相待チテ新規ナル考案ノ旨意ヲ明ニシ以テ特許椎ノ範園ヲ定ムルコトヲ得ルモノトス﹂

 こめ︹1︺は︑前記のように︑﹁特許請求ノ範園﹂を含めた明細書の記載および図面を総合的に解釈して特許発明

の技術的範囲を決定すべきとする︒そして︑この原則に従って特許発明の技術的範囲を導出し︑﹁特許請求ノ範園﹂

記載の構成要件を充足しない技術である上告人製品もそこに含まれるとして︑特許権侵害を肯定すべきとの具体的結

   特許発明の技術的範囲と﹁特許請求の範囲﹂との関係についての分析ピ検討     ︵都法四十五ー一︶ 二二五

(6)

       二二六

       論を示した原判決を支持した︒そのため︑この判決の先例的意義は極めて大きなものとして受け止められ︑そこに示         された特許発明の技術的範囲の導出に関する見解は︑その後の大審院判決にも踏襲された︒

 学説も︑﹁特許請求ノ範園﹂が特許発明の範囲を明記するためのものであるとしつつも︑それとその他の明細書の       り 記載とを一体のものとして︑発明の性質・目的を参酌しつつ特許発明の技術的範囲を導出すべきとし︑大審院と同様

の理解を示していた︒さらに︑明細書と図面に表されていない技術であっても︑それが技術的常識にもとついて容易         に推定される場合には︑当然に特許発明の技術的範囲に属するとする見解も示されていた︒

 以上のように︑旧法下の判例・学説は︑いずれも︑﹁特許請求ノ範園﹂のみならず︑それを含めた明細書の記載と

図面とを総合的に解釈して特許発明の技術的範囲を決定すべしとし︑﹁特許請求ノ範園﹂の記載と異なる技術的範囲       ロ  を特許発明の技術的範囲として導出することを当然視していた︒もっとも︑このような旧法下の見解では︑特許発明

の技術的範囲が不明瞭なものとなるとの認識はあったようであり︑この点が︑次に述べる昭和二五年にはじまる特許

法の改正作業において問題視され︑その解決が正面から取り組まれることとなる︒.

第二節 現行特許法への改正過程における議論

 前節で述べたように︑旧法下では︑﹁特許請求ノ範園﹂のみならず︑それを含めた明細書全体や図面を総合的に解

釈して︑特許発明の技術的範囲を導出すべきとしていた︒しかし︑現行法は︑これと異なり︑﹁特許請求の範囲﹂に

もとついて定める旨を規定する︵特許法七〇条一項︶︒そこで︑いかなる理由でこの規定が設けられるに至ったのか

を知るため︑旧法から現行法への改正作業の経過を辿っていく︒

(7)

   第一款 工業所有権制度改正審議会における問題意識と立案作業の推移      ・

   :戦後︑日本国憲法が制定されたことに伴い︑実定法規全体の見直しが図られることとなった︒その一環とし℃︑終

  戦から五年が経過した昭和二五年一一月に︑特許庁長官を会長とする工業所有権制度改正審議会が通商産業省︵現・

   経済産業省︶に設置され︑特許法など工業所有権関係法規全体の根本的な改正作業が着手さ幾・同審蓮云は・旧工

   業所有権制度全体の共通の問題を扱う﹁︑一般部会﹂︑旧特許法・旧実用新案法・旧意匠法固有の実体的事項を扱う﹁特

   許部会﹂︑旧商標法固有の問題を扱う﹁商標部会﹂に分けられ︑このうちの特許部会が特許発明の技術的範囲に関わ

   る問題を扱った︒       ︐     −

    同部会には︑昭和二六年一月八日付で︑特許庁より︑審議室の名をもって︑﹁特許法の改正に関して問題となるべ        む    き点1その一︵実体規定の部︶﹂と題する文書が提出された︒同文書では︑﹁特許権について﹂・の﹁一.特許権の効力﹂

   の項目において︑﹁特許権の内容は特許請求の範囲に記載せられた事項に限ること︒︑︵弁理士会︶﹂︑ならびに︑﹁前記       へ    のような規定を︹旧法︺第三五条に規定すること︵弁理士会︶﹂︵︹︺内引用者挿入︶を特許発明の技術的範囲に関

   わる事柄として取り上げる旨が明らかにされた︒

    さらに︑同年五月︑工業所有権制度改正調査審議室の名の下︑前記文書の訂正版である︑﹁特許法の改正に関して        む    問題となるべき事項︵実体規定の部︶︵訂正版︶﹂と題する文書が提示された︒同文書でも︑﹁以下の問題事項は工業

  所有権制度改正調査審議会特許部会に於て特許法改正に関して検討を要するものとして取り上げたものである﹂と

   し︑﹁第三章特許権について﹂︐の﹁一︑特許権の効力﹂において︑﹁特許権の内容は特許請求範囲に記載された事項

  ︐に限ること︒﹂を挙げ︑引き続き︑これを議論する旨が記された︒

   .その後︑特許発明の技術的範囲に関する議論が積極的になされた形跡は認められないもののバこれと関連する事項

      特許発明の技術的範囲と﹁特許請求の範囲﹂との関係についての分析と検討     .︵都法四十五ー一︶ 二二七

(8)

二二八

として重点的に行われた︑牽連発明︵旧法七条︶の取扱いに関する議論では︑﹁特許請求の範囲﹂に特許発明の構成        び 要件が記載されていることを前提としている︒ここから︑当初に示された方針通りに︑旧法下での特許発明の技術的

範囲の不明瞭さという問題を解決するために︑特許発明の技術的範囲は﹁特許請求の範囲﹂にもとついて定まる旨を

明示する規定を設けるという方向で意思統一が図られていたことが分かる︒        ロ   特許部会における議論は︑﹃工業所有権制度改正審議会特許部会答申案︵案︶﹄︵昭和三一年七月一七日付︶として︑

特許庁により取りまとめられた︒そこには︑﹁特許庁意見﹂として﹁権利範囲は﹃特許請求範囲各項﹄により定まる

ことを明らかにする﹂旨が記載され︑その﹁補説﹂として︑箇条書形式で︑﹁○請求範囲各項に含まれないものは技

術的思想としての一発明に含まれるものであっても権利範囲には属しない︒技術的思想としての一発明は出願のはば

を定めるだけであって権利範囲を定めるものではないということになる﹂︑﹁○英米流に権利範囲は請求範囲の厳格な

文理解釈で決まるという考え方をとるということではない﹂︑﹁○請求範囲各項に記載するのは文字通り権利を要求す

る範囲となる﹂と記載された︒

 これは昭和三一年七月一七日開催の第一四三回特許部会議に提出され︑同文書の﹁権利範囲は﹃特許請求範囲各         項﹄により定まることを明らかにする﹂との記述に関し︑活発な議論が展開された形跡が認められる︒そうした議論

の中で︑﹁権利範囲は﹃特許請求範囲各項﹄により定まることを明らかにする﹂ことについて︑若干の疑問が呈され

たことも窺われる︒しかし︑審議室名で示された昭和三一年一一丹一九日付﹃工業所有権制度改正審議会特許部        お  会答申案︵案︶︵特許法関係︶﹄二頁においても︑また︑昭和三一年一二月二一日付﹃工業所有権制度改正審議会答申           案︵特許部会関係︶﹄二頁においても︑﹁第三 第七条および特許請求範囲の記載に関し次のように改正する﹂として

「(

O︶特許請求範囲各項には権利を要求する事項を記載する﹂と明記されるに至っている︒

(9)

       ︐︵21︶  とりわけ︑後者の昭和三一年一二月二一日付答申案に関する﹃特許部会答申案説明書﹄では︑答申案に示された改

正により︑﹁従来権利の範囲が不明瞭であると言われた批判もかなり解消されよう﹂と記述され︑特許法改正による

特許発明の技術的範囲の明確化という目的が明らかにされている︒また︑昭和三一年一二月二一日開催の工業所有権       ︵22︶ 制度改正審議会第二回総会においても︑特許部会長の大貝委員により︑この通りの答申案説明がなされている︒        ︵23︶  そして︑最終的な﹃工業所有権制度改正審議会答申説明書﹄八頁おいても︑﹁第三 第七条および特許請求範囲の

記載に関し次のように改正する﹂として︑﹁︵三︶特許請求範囲各項には権利を要求する事項を記載する﹂ことを明ら

かにすると共に︑その説明として︑﹁︻説明︼特許権の範囲は特許請求範囲の解釈のみによつてきまるものなのか︑ま︑

たは特許請求範囲を含めた明細書の全体の解釈からきまるべきものなのか︑この点については説が分かれる︒答申は       ︵24︶ この点について前者の立場をとり︑それを明確に打ち出してゆこうとするものである﹂とされた︒     −

 以上の経過から︑工業所有権制度改正審議会は︑発足当初から︑旧法下において特許発明の技術的範囲が不明瞭で

あったと認識し︑この解消を目指して次の二点に留意し︐ていたことが分かる︒

 第一は︑特許権の効力︵旧特許法三五条︶に関する事柄として︑特許発明の技術的範囲が﹁特許請求の範囲﹂にも

とついて定まる旨を明文で規定する必要性である︒

 第二は︑前述の﹃工業所有権制度改正審議会答申説明書﹄において︑旧特許法七条という出願に関連する規定の改

正に関わる事柄として︑特許発明の技術的範囲に言及しているところに見られるように︑特許発明の技術的範囲の明−  ︐

確化のためには︑これを特許権付与後の問題としてのみ捉えるのではなく︑特許権付与の段階で意識すべき問題とし

ても捉え︑出願に際して︑特許発明の技術的範囲を示す書面として﹁特許請求の範囲﹂を作成させることの重要性で

ある︒      ト

   特許発明の技術的範囲と﹁特許請求の範囲﹂との関係についての分析と検討     ︵都法四十五−一︶ 二二九

(10)

二三〇

そして︑これ等の留意点は︑次に述べる特許法案に漸次反映されていくこととなる︒

第二款 内閣法制局による法令審査の経緯

 工業所有権制度改正審議会においてなされた議論の成果は︑昭和三二年八月一六日付の特許庁﹃特許法案︵第三読

   会ごとして取りまとめられ︑内閣法制局による法令審査︵法制局第一読会︶に付された︒同法案では︑出願に際し

て﹁願書﹂を提出し︵四三条一項︶︑﹁願書﹂に﹁発明の名称﹂︵四三条二項一号︶︑﹁図面の略解﹂︵四三条二項二号︶︑

﹁発明の詳細な説明﹂︵四三条二項三号︶と共に︑﹁特許請求の範囲﹂︵四三条二項四号︶を記載する旨を規定し︑そ

の上で︑﹁特許権の範囲は︑願書に添附された明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない﹂︵六

八条︶とされた︒

 この法案の特徴は︑特許発明の技術的範囲を﹁特許請求の範囲﹂にもとついて定める旨の明文規定が︑審議会発足

当初からの方針︵前項参照﹀に沿って設けられたところにある︒しかし︑旧法と同様に︑﹁特許請求の範囲﹂の具体         的内容を何ら規定していないため︑特許発明の技術的範囲の明確化を図る姿勢が明示されていないとの批判が成り立

つ余地が存在した︒そのため︑内閣法制局における審議において︑旧法下では旧特許法施行規則が定めていた﹁特許       ︵27︶ 請求の範囲﹂の内容を︑本法で規定することとされた︒

 これに沿って︑続く︑法制局第二読会に提出したと見られる︑昭和三三年一月=二日付の特許庁﹃特許法案︵第四     読会︶﹄では︑前記﹃特許法案︵第三読会︶﹄六八条を六六条に移行し︑特許発明の技術的範囲が﹁特許請求の範囲﹂

にもとついて定められる旨を規定するのみならず︑四三条を移行させた三七条に︑﹁第二項第四号の特許請求の範囲       ぬ  には︑発明の詳細な説明に記載した範囲の発明であってその発明の構成要件のみを一発明ごとに一項に記載しなけれ

(11)

       ︵30︶ ばならない﹂と﹁特許請求の範囲﹂の具体的内容を定める項︵五項︶が追加された︒        ︵31︶  さらに︑法制局第三読会に提出したと見られる︑昭和三三年四月三日付の特許庁﹃特許法案︵第五読会︶﹄では︑

前記・﹃特許法案︵第四読会︶﹄六六条は七〇条に︑三七条を三六条に移行し︑各々で︑﹁特許発明の技術的範囲は︑願

書に添付された明細書の特許請求の範囲に基づいて定められなければならない﹂︵七〇条︶﹁第二項第四号の特許請求

の範囲には︑発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠ぐことのできない事項のみを記載しなければならない﹂.︵三

         ︵32︶        六条五項︶と規定した︒そして︑その後の︑法制局第四読会に提出したと見られる昭和三三年=月二〇日付﹃特許

 ︵33︶       ︵34︶ 法案﹄︑ならびに︑法制局第五読会に提出したと見られる昭和三四年一月一二日付﹃特許法案﹄でも︑細かい文言が

訂正されたものの︑特許発明の技術的範囲と﹁特許請求の範囲﹂に関するこれ等の諸規定は維持され︑最終的に︑現

行特許法︵昭和三四年法律一二一号︶として制定されるに至った︒

 以上の内閣法制局による法令審査の経過から分かるように︑エ業所有権制度改正審議会で設定された︑特許発明の

技術的範囲の明確化のために特許発明の技術的範囲を﹁特許請求の範囲﹂にもとついて定める旨を明文で規定する方

針は︑そのまま特許法案に反映され︑内閣法制局もこれを一貫して支持した︒ ︑さらに︑内閣法制局による法令審査を通じて︑特許発明の技術的範囲を﹁特許請求の範囲﹂にもとついて定める旨

の規定と共に︑特許権者︵出願人︶が﹁特許請求の範囲﹂に特許発明の構成の全てを記すべき旨も本法で定めること

で︑﹁特許請求の範囲﹂を離れて特許発明の技術的範囲を導出する旨の主張を封じ︑特許発明の技術的範囲の明確化

へ向けて︑特許法規定の充実化を図つたのである︒

      ρ

特許発明の技術的範囲と﹁特許請求の範囲﹂との関係についての分析と検討     ︵都法四十五ー一︶ 二一三

(12)

二三二

第三節 現行特許法の一部改正と特許発明の技術的範囲の明確化

 前節で述べたように︑昭和三四年の特許法全面改正において︑特許発明の技術的範囲が不明瞭という旧法下の問題

を解消し︑法的安定性を確保するという趣旨の下に︑﹁特許請求の範囲﹂の具体的内容を示す規定︵特許法三六条五

項︶と︑特許発明の技術的範囲が﹁特許請求の範囲﹂にもとついて定まる旨の規定︵特許法七〇条︶が設けられた︒

しかし︑昭和三四年改正後の数次に渡る一部改正で︑これ等の特許発明の技術的範囲に関わる規定には変更が加えら

れている︒そこで︑一連の一部改正を経た現在も︑前記の立法趣旨が維持されているか否かを検討していく︒

第一款  ﹁特許請求の範囲﹂の内容に関する規定の改正

 まず︑﹁特許請求の範囲﹂の内容に関する規定の改正を辿ると︑昭和三四年の現行法立法当初には︑﹁特許請求の範

囲には︑発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない﹂︵特許

法三六条五項︶と規定されていた︒これには︑昭和五〇年一部改正により︑﹁ただし︑その発明の実施様態をあわせ

て記載することを妨げない﹂との但書が加えられた︒さらに︑昭和六二年一部改正により︑いわゆる多項制が導入さ

れ︑﹁特許請求の範囲﹂の記載は﹁特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項︵以         下﹁請求項﹂という︒︶に区分してあること﹂︵特許法三六条四項二号︶としつつ︑各請求項について=の請求項に

係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である特許請求の範囲の記載となることを妨げない﹂︵特許法三六条五

項︶とされた︒そして︑平成六年一部改正により︑﹁特許請求の範囲には︑請求項に区分して︑各請求項ごとに特許

出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める全てを記載しなければならない︒この場合におい

て︑一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である特許請求の範囲の記載となることを妨げない﹂︵特

(13)

︸       ︵36︶    許法三六条五項︶と改められ︑現在に至っている︒

    これらの経緯から︑特許出願人が︑特許権による保護を求める技術的範囲を︑﹁特許請求の範囲﹂に忠実かつ十分

ー  に反映できるようにする方向で︑改正が行われてきたことが分かる︒そのため︑﹁特許請求の範囲﹂には︑発明を特

   定するために必要な事項の全てが記載されており︑特許権者は﹁特許請求の範囲﹂に記載された技術的範囲について        −       ︑       ︵37︶    のみ特許権による保護を求めていると判断する根拠が︑より一層強固なものとなっている︒したがって︑昭和三四年

   全面改正において示された︑特許発明の技術的範囲の明確化という﹁特許請求の範囲﹂の内容に関する規定の立法趣    .

   旨は︑一連の改正を通じて維持されていると解するのが相当である︒

−第二款 特許発明の技術的範囲の導出に関する規定の改正      

  次に︑特許発明の技術的範囲の導出に関する規定の改正について見ると︑平成二年一部改正により︑﹁願書に添附

 した要約書の記載を考慮してはならない﹂と定める項が︑また︑平成六年一部改正により︑﹁願書に添附した明細書

 の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して︑特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものと

 する﹂と定める項が追加され︑現在に至っている︒      ・

  これ等の改正により︑﹁特許請求の範囲﹂以外の資料を参酌し︑特許発明の技術的範囲を導出することが許された

 こどから︑これ等の改正を通じて特許発明の技術的範囲の明確化を図るという立法趣旨に対する意識は薄らいだとの

 理解も成り立ち得ないではない︒

  しかし︑−﹁特許請求の範囲﹂以外の資料の参酌は︑﹁特許請求の範囲﹂に記載された用語の意義を解釈する目的に限

 定されており︑﹁特許請求の範囲﹂を離れて特許発明の技術的範囲を導出することを許してはいない︒さらに︑前述

    特許発明の技術的範囲と﹁特許請求の範囲﹂との関係についての分析と検討     ︵都法四十五ー一︶ 二三三

(14)

二三四

のように︑﹁特許請求の範囲﹂の内容に係る規定の改正により︑﹁特許請求の範囲﹂記載の技術的範囲についてのみ特

許権者が特許権による保護を求めたと判断することに対する根拠がより強固なものとなっている点を考慮に入れる

と︑特許発明の技術的範囲の導出に関する規定の改正は︑本条が創設された昭和三四年当初の特許発明の技術的範囲        ︵38︶ の明確化という立法趣旨を何ら変えるものではないことは明らかである︒

︵4︶ 旧特許施行規則三七条は︑特許出願の際に明細書及び必要な図面を提出する旨を定める︒そして︑同規則三八条は︑明細

  書に︑﹁登明ノ名稻﹂︑﹁獲明ノ性質及目的ノ要領﹂︑﹁圖面ノ略解﹂︑﹁獲明ノ詳細ナル説明﹂︑﹁登明相互ノ關係﹂︑﹁特許請求

  ノ範園﹂を記載する旨を定めると共に︑﹁登明ノ詳細ナル説明﹂には﹁登明ノ構成︑作用︑効果及實施ノ態様ヲ記載スヘシ﹂

  旨を︑また︑﹁特許請求ノ範園﹂に﹁登明ノ構成二訣クベカラザル事項ノミヲ一項二記載スヘシ﹂旨を定めていた︒

︵5︶ また︑﹁特許請求ノ範園﹂に限らず︑その他の明細書の記載︑ならびに︑提出すべき書面の種類・内容に関しても︑旧特

  許法施行規則は現行特許法とほぼ一致している︵前注︵4︶参照︶︒なお︑用語の変化が︑内容の同一性に影響を与えない

  ことについては︑第一章第三節参照︒      

︵6︶ 旧特許法八四条一項柱書は﹁審判ハ本法又ハ本法二基キテ登スル政令二規定スルモノノ外左二掲クル事項二付之ヲ請求ス

  ルコトヲ得﹂とし︑同条同項二号に﹁特許纏ノ範園ノ確認﹂を挙げる︒旧法の﹁特許纏ノ範園﹂と現行法の﹁特許発明の技   術的範囲﹂とが同義のものであることについては後注︵32︶参照︒

︵7︶ 本件の判例評釈として︑平野義太郎・判民︵大正=年度︶四四五頁︒

︵8︶ ︹1︺を代表的大審院判例として挙げる学説として︑清瀬一郎﹃特許法原理︹第四版︺﹄一二八頁︵昭和=年︶︑豊崎光

  衛﹃工業所有権法︹新版・増補︺﹄一二〇頁︵昭和五五年︶︒

︵9︶ 大判昭和七年六月二九日兼子・染野﹃判例工業所有権法︵二︶﹄二二七頁︒

︵10︶ 清瀬・前掲書注︵8︶一二六頁は︑特許発明の技術的範囲の確定は主として特許明細書の解釈問題であるとし︑明細書は

  一体として︑かつ︑発明の性質及び目的を参酌して解釈すべしとする︒そして︑新規の方法により新規の事物を発生させる

  発明は広く解釈し︑新規の方法によるが古い事物を発生させる発明は狭く解釈すべきと述べる︒安達祥三﹃特許法﹄七〇頁

  ︵昭和五年︶もこれと同様の立場をとっている︒

︵11︶清瀬ピ前掲書注︵8︶の著者が︑大正四年に京都帝国大学に学位請求論文として提出した﹃髄明特許制度ノ起源及登達﹄

(15)

  二四二頁では︑こうした見解が述べられている︒もっとも︑同書二四〇頁では︑明細書は特許権の範囲を明らかにするもの

  であり︑発明者の専権に属する範囲とム般世人の自由使用に属する区域を分界するものであって︑特許請求の範囲の部分は

  厳格に解釈すべき旨を強調している︒両者を比較すると︑明らかに姿勢の違いが見られパ草創期における我が国の特許法専

 門家の混迷の一端を窺わせる︒ ︐   ・      °    また︑吉原隆次﹃全訂特許法詳論﹄﹂九四頁︵昭和五年︶は︑特許権の範囲は明細書及び図面によって判断すべきであり︑

  明細書及び図面によって容易に推定されない部分まで拡張して発明の内容を推定すべきではないとしつつ︑しかし︑発明は

  技術的思想であり発明の内容は完全に明細書に記載し︑図面に表すことは困難であるので︑明細書に記載されず︑図面に表

  されない部分であっても常識によって容易に推定すべきものは発明の内容をなし︑特許権の範囲に属するとする︒当時の特

  許局の要職にあった者の筆になるものであることを勘酌すると︑ここにバ特許担当主務官庁の姿勢を見ることができるとい

  える︒

︵12︶ 旧特許法施行規則三八条︵前注︵4︶参照︶の定めにもかかわらず︑こうした特許発明の技術的範囲の導出方法を採用し

  ていた理由については︑吉原・前掲書注︵11︶一九四頁参照︒また︑こうした旧法の見解と現行法との関係について述べた

  ものとして︑吉藤.前掲書注︵2︶五二七頁︑豊崎・前掲書注︵8︶二〇九頁︒もっとも︑旧法以前においても︑﹁特許請

  求の範囲﹂の記載方法について︑数度の変更がなされた点には留意する必要があゐ︒この点につき︑吉藤・前掲書注︵2︶   二七九頁参照︒       ︑       ︑ ︐      ︐      ︐

︵13︶ ﹃工業所有権制度改正審議会最終結論関係資料昭和三一年一〇月〜昭和三一年一二月﹄所収﹁工業所有権制度改正審議会

  第二回総会議事録﹂四頁︒なお︑︐以下の立法関係資料は︑特許庁職員閲覧室工業所有権参考資料センター所蔵による︒

︵14︶ ﹃工業所有権制度改正審議会特許部会議事要録︵第一読会︶昭和二五年一二月一日〜昭和二六年九月二八日﹄所収︒

︵15︶ 前掲資料注︵14︶所収︒

︵16︶ ﹃工業所有権制度改正審議会特許部会議事要録︵第三読会二︶昭和二九年五月四日〜昭和三〇年七月一五日﹄︑等参照︒

︵17︶ ﹃工業所有権制度改正審議会特許部会議事要録︵第四読会︶昭和三一・年二月一九日〜昭和三二年七月二五日﹄所収︒ ︑︵81︶ 前掲資料注︵17︶所収﹃第一四三回特許部会議事要録﹄三頁によれば︑以下のような質疑が展開されている︒

   吉原﹁﹃特許請求範囲により定まる﹄というのが分からない︒請求を具体的にするために多項制の採用はよい︒しかし請

     求範囲︹発明の説明︺の趣旨から伺われるため記載していない場合はどうか︒むしろ請求︹明細書︺の要旨全体から

  特許発明の技術的範囲と﹁特許請求の範囲﹂との関係についての分析と検討     ︵都法四十五ー一︶ 二三五

(16)

二三六

    判断すべきではないか︒﹂−

  斉藤﹁請求人が広く考えたが︑これだけしか書かないと言うことがある︒﹂

  吉原﹁それは権利放棄になる︒請求人の無知のため︑または悪い弁理士に頼んだために記載が不当に狭いときはどうか︒﹂

  斉藤﹁そのときは例外的に全体から判断する︒﹂

  渡辺﹁しかし︑役所のほうでこのままの請求範囲では狭すぎるから広くなるように訂正しろと教えることはしない︒﹂

  大貝﹁﹃権利範囲は特許請求範囲各項による定まる﹄という表現は︑ゆきすぎではないか︒請求範囲以外は権利に関係し

    ないと解される︒請求範囲の訂正をすれば権利になるという制度は認めるのか︒﹂

  荒玉﹁その通り︒﹂

  大貝﹁詳細に説明しても請求範囲にないからだめだとやられるのが不安だというのだから︑﹃数項で書くことができる﹄

    としたらどうか︒﹂

︵19︶ 前掲資料注︵13︶所収︒

︵20︶ 前掲資料注︵13︶所収︒

︵21︶ 前掲資料注︵13︶所収︒

︵22︶前掲議事録注︵13︶参照︒もっとも︑﹃特許部会答申案説明書﹄では︑﹁第三のうち最も重要な点は︵三︶でございまして

  他はそれに附帯したことともいえる﹂と記載されていたのに対して︑前記昭和三一年一二月二一日開催の工業所有権制度改

  正審議会第二回総会における大貝委員による答申案説明においては︑﹁第三のうち最も重要な点は︵一︶でございまして他

  はそれに附帯したことともいえる﹂と訂正されている︒そのため︑このことを根拠として︑﹁︵三︶特許請求範囲各項には権

  利を要求する事項を記載する﹂という点はそれほど重要視されていなかったのではないかという評価も成り立ち得ないでは

  ない︒しかし︑旧特許法七条は一個の出願において請求可能な発明の範囲に関する規定であり︑同条の改正に関して︑

  ﹁︵一︶第七条ただし書きを﹃二以上の発明であつても︑それらの発明が相互に関連を有しかつ単一の技術的思想に包含さ

  れる場合はこの限りではない﹄という趣旨に改める︒﹂という事項を﹁最も重要な点﹂とするのはむしろ当然であり︑昭和

  三一年=一月二一日付﹃工業所有権制度改正院議会答申案︵特許部会関係︶﹄の記載は誤記と考えるのが自然である︒した

  がって︑﹁︵三︶特許請求範囲各項には権利を要求する事項を記載する﹂として︑﹁従来権利の範囲が不明瞭であると言われ

  た批判もかなり解消されよう﹂とする意識に変化はなかったと理解するのが素直である︒このことは︑前述の﹃工業所有権

(17)

    ︑制度改正審議会特許部会答申案︵案︶︵特許法関係︶﹄︵昭和三一年七月一七日付︶において︑﹁請求範囲各項に含まれないも

     のは技術的思想としての一発明に含まれるものであっても権利範囲には属しない︒技術的思想としての一発明は出願の幅を     

     定めるだけであって権利範囲を定めるものではないということになる﹂の記載からも裏付けられる︒

   ︵23︶ 特許庁編﹃工業所有権制度改正院議会答申説明書﹄八頁︵昭和三二年︶︒ 一 ︵42︶同説明書には︑引き続き︑﹁とはいえ−杓子定規な−茎⇒扇釈に徹してゆこうピするもので婁く︑特許請轟囲に記載

     されていることから通常の専門家がその発明の内容として認めることのできる程度の事項は︑特許権の範囲内に属するもの

     として考えてゆくという︑ある程度の幅は残されている﹂との記述も見ちれ︑これをもって︑改正の段階において︑﹁特許

     請求の範囲の記載﹂を離れて特許発明の技術的範囲を導出すゐ法理である︑後述の﹁均等論﹂を肯定しているとの見解も示

     されている︒中山信弘﹃工業所有権法︵上︶﹄︑三五二頁注五︵平成五年︶︒しかし︑後述するに特許法案の特許発明の技術的

     範囲をめぐる規定の変遷に鑑みると︑こうした見解には賛成できない︒

   ︵25︶ ﹃特許法案法制局第一読会用昭和三二年八月一六日〜昭和三三年一月八日﹄所収︒

   ︵26︶ 現行特許法への改正において︑当初は︑旧法下と同様に︵第一章第一節参照︶︑﹁特許請求の範囲﹂の内容を施行規則で定

     めることが目指されたようである︒このことは︑・﹃特許法案︵特許庁内審議用︶﹄所収の︑昭和三二年一月一六日付﹃特許法

     案︵第一読会︶﹄三九条ならびに︑昭和三二年四月二六日付﹃特許法案︵第二読会︶﹄四〇条が︑各々の二項で︑願書添付の

     明細書の項目につき︑﹃特許法案︵第三読会︶﹄四三条と同様の内容を規定し︑さらに︑三項で︑前者が﹁前項各号の記載に     ︑

     ついては省令で定める﹂とし︑後者が﹁前項各号に掲げる事項の記載については︑省令で定める﹂としていたことからも窺

     い知ることができる︒そして︑昭和三二年一月一六日付﹃特許法案︵第一読会︶﹄の検討段階で︑三項を削除するか︑それ

     とも︑本法で﹁特許請求の範囲﹂の具体的内容について定めるかにρいて︑議論が分かれていたようである︒そして︑昭和

     三二年四月二六日﹃特許法案︵第二読会︶﹄の検討段階で︑﹁三項は削除すべきであろう﹂という意見と︑﹁特許請求の範囲

     の記載については法律で定めては﹂という意見とが出ていることが文書で明らかにされている︒

  °︵27︶ 前掲資料注︵25︶所収﹁法制局審議経過﹂では︑﹃特許法案︵第三読会︶﹄四三条に関し︑﹁施行規則第三十八条第二項以

     下を法律に上げる︒﹂︵前注︵4︶参照︶として︑﹁特許請求の範囲﹂の内容を本法で定める旨が明らかにされると共に︑併 ︑ ︑

     せて︑﹁特許請求の範囲等の書き方について研究︒﹂とし︑その重要性を指摘している○

   ︵28︶ ﹃特許法案︵法制局第二読会以降の分︶昭和三十三年一月十三日〜昭和三十四年一月十二日﹄所収︒

     特許発明の技術的範囲と﹁特許請求の範囲﹂との関係についての分析と検討     ︵都法四十五ー一︶ 二三七

(18)

︐      二三八

︵29︶ 発明の詳細な説明について︑昭和三三年一月=二日付特許法案三七条に︑﹁第二項第三号の発明の詳細な説明には︑その   発明の構成︑作用︑効果及び実施の態様を︑その発明の技術の分野における通常の知識を有する者が容易に実施できる程度

  に記載しなければならない﹂という四項が加えられ︑特許発明の具体的内容の開示という機能が与えられた︒ここに︑特許

  発明の技術的範囲の公示機能を果たす﹁特許請求の範囲﹂との役割分担が施されていることを見ることができる︒

︵30︶ 昭和三三年一月二二日付特許法案では︑出願書類に関する規定︵三七条︶に︑﹁発明の詳細な説明﹂の内容関する項︵四

  項︶︑﹁特許請求の範囲﹂の内容に関する項︵五項︶の他︑﹁追加の特許﹂.に関する三項が加えられている︒

   これと同時に︑同法案について︑三七条五項に反する記載が拒絶事由ならびに無効事由となる旨を規定することが検討さ

  れ︑これ等の規定は平成六年一部改正に至るまで維持された︒品川澄雄﹁改正法施行一〇年を振り返ってー最近一〇年間に

  おける特許権侵害訴訟における判決の動向﹂特許管理三二巻一号二九頁︵昭和五七年︶が指摘するように︑これ等の規定は︑

  ﹁特許請求の範囲﹂の記載と異なる技術が特許発明の技術的範囲に含まれる旨の主張をより一層明確に封じる機能を持つも

  のの︑特許権にもとつく保護を求める発明の範囲の決定は特許権者︵出願人︶の責任に属する事柄であることに鑑みると︑

  特許庁の介入を許すかのようなこれ等の規定は適切さを欠く︒そのため︑平成六年一部改正で︑﹁特許請求の範囲﹂に発明 ゜

  の全てを記載すべきとの規定の違反が︑拒絶事由・無効事由とならないとされた︒特許庁編﹃工業所有権法逐条解説︹第一

  六版︺﹄=四頁︵平成=ご年︶︒しかし︑これ等の規定が設けられたところに︑特許発明の技術的範囲の明確化に向けた積

  極的な姿勢を見て取ることができる︒

︵31︶ 前掲資料注︵28︶所収︒

︵32︶ 特許発明の技術的範囲の導出に関する規定︑ならびに︑﹁特許請求の範囲﹂に関する規定のいずれも︑表現が改められて   いるものの︑その内容に変更は加えられていないものといえよう︒なお︑ここではじめて︑旧法で用いられていた﹁特許権

  の範囲﹂︵旧特許法八四条一項二号︶︵前注︵6︶参照︶が︑﹁特許発明の技術的範囲﹂という用語に置き換えられている︒

  このことから︑両者が同義のものとして意識されていたことが分かる︒

︵33︶ 前掲資料注︵28︶所収︒

︵34︶ 前掲資料注︵28︶所収︒

︵35︶ ﹁特許請求の範囲﹂の内容を定めるこの規定は︑平成二年一部改正により︑願書添附の書類として﹁要約書﹂を追加した

  ことに伴い︑特許法三六条四項二号から特許法三六条五項二号に移行された︒

(19)

︵63︶平成六竺部改正で︑﹁特許請求の範囲﹂に発明の全てを記載すべきとの規定の違遅反が︑拒絶事由・無効事由とならない

  とされたが︑これは︑管︑特許発明の技術豊囲の明確化という立法趣旨を揺るがすものではない︒このことに三ては∵   前注︵30︶参照︒      川

︵73︶ 特許庁編・前掲書注︵30︶=四頁は︑現行特許法三六条五項⑳規定により︑﹁①特許出願人が自らの判断で特許を受け

二ることによって保護を求めようとする発明について記載するのであり︑②そこに記載した事項は︑特許出願人自ちが﹃発明

  を特定するために必要と認める事項の全て﹄ど判断した事項であることが明確となる﹂と述べ︑この点を明確に指摘してい      −

∴る︒また︑特許庁審査基準室編﹃解説・平成六年改正特許法の運用三ハ九頁︵平成七年︶は︑特許庁どレては・均等論や認

  識限度論等の保護範囲の考え方に影響ざれることなく︑基本的な姿勢が常に一貫していることを強調している︒

︵38︶ 特許庁編.前掲書注︵30︶二一二頁も︑︐特許法七〇条二項が︑・特許発明の技術的範囲が﹁特許請求の範囲﹂にもとついて

  定められるとの基体原則を何ら変更するものではないこと︑また︑同項が﹁特許請求の範囲﹂記載の用語の意義の解釈につ

  いて規定したもので︑﹁特許請求の範囲﹂を離れて特許発明の技術的範囲を導出することを許容しだものではないことを強  ゜︑

  調する︒同項は︑︑本稿第二章第三節で述べる︹4︺が示されたことを契機として設けられたものであるが︑その趣旨は︑︑︹4︺

  が︑特許権行使時における特許発明の技術的範囲の導出について述べたものではなく︑特許付与手続における発明の要旨の

  認定方怯について述べたものであるという︑︹4︺の先例的意義を明確にし︑特許発明の技術的範囲は特許法三六条六項に

  則って導出されるべき旨を確認するところにある︒中山信弘編﹃注解特許法︹第一二版︺︵上︶﹄七七三頁︹松本重敏・小池豊︺

   ︵平成一二年︶︒一

第二章 現行特許法の下での﹁特許請求の範囲﹂と特許発明の技術的範囲の関係

 旧法から現行法への全面改正では︑特許発明の技術的範囲の明確化という立法趣旨の下に︑﹁特許請求の範囲﹂の

内容を定める規定と︑︐﹁特許請求の範囲﹂にもとついて特許発明の技術的範囲が定まる旨の規定が設けられた︒そし

   特許発明の技術的範囲と﹁特許請求の範囲﹂との関係についての分析と検討     ︵都法四十五ー一︶ 二一二九

(20)

二四〇

て︑その趣旨は︑その後の特許法一部改正を経た現在に至るまで一貫して維持されている︵前章参照︶︒そこで︑次

に︑これらの規定が︑特許実務において︑どのように位置づけているのか見ていくこととする︒

第一節企業活動における法的安定性確保の要請

 一般に︑発明の実施を通じて経済的利益の獲得を目指す企業にとっては︑競業他者よりすぐれた技術を採用するこ

とが重要となる︒とりわけ︑技術競争の著しい現代社会では︑他者が先行する技術分野に資本を注力しても︑充分な         事業機会を期待できないことはもとより︑投資した資金の回収すら望めないこともある︒それ故に︑事業計画の策定

段階で先行技術を正確に把握することが極めて重要であり︑その一環として︑先行特許の調査が実務上広く行われて

溺・  もっとも︑先行特許の調査は︑先行技術の把握という目的に止まるものではなく︑他者の特許発明の技術的範囲を

正確に把握するという内容をも含んでいる︒企業は︑この作業を通じて︑いかなる技術が他者の特許発明の技術的範

囲に属するかを知り︑その実施権の取得や代替技術の選択により特許権侵害を回避し︑他者の特許権行使に伴う訴訟        も 追行等の負担や︑高額な損害賠償の支払義務の発生等を予防することが可能となる︒それ故に︑企業実務では︑特許

発明の技術的範囲が明確であり︑この問題をめぐる法的安定性が確保されていることに対する要請は極めて強く︑そ       ゼ れは企業活動を行う上で必要不可欠な事柄ともなっている︒

 したがって︑特許発明の技術的範囲に関わる現行特許法の各規定は︑こうした実務の要請に合致したものであり︑

また︑これを前提とすることで︑企業活動も円滑に行われていると言うことができる︒

(21)

第二節  ﹁特許請求の範囲﹂の作成と特許発明の技術的範囲

 、

チ許発明の技術的範囲は︑﹁特許請求の範囲﹂にもとついて定められるところ︵特許法七〇条一項︶︑特許法は︑出

願の際に︑﹁特許請求の範囲﹂に発明の構成の全てを記載し︵特許法三六条五項︶︑願書に添付することを義務付ける

 ︵特許法三六条二項︶︒そのため︑特許権取得へ向けて﹁特許請求の範囲﹂を作成する際に︑特許発明の技術的範囲

が問題となる︒

 特許権付与後に︑特許権にもとつく充分な保護を実現することのみを考えるならば︑特許発明の技術的範囲ができ

る限り広くなるように︑﹁特許請求の範囲﹂を作成すればよい︒具体的には︑﹁特許請求の範囲﹂に記載する構成の数

は最小に留めるよう努めると共に︑各構成についても具体的に特定することなく抽象的に記述することと癌・

 しかし︑このように広い技術的範囲を覆う﹁特許請求の範囲﹂は︑特許要件である新規性・進歩性︵特許法二九条︶

の未充足を理由として︑特許庁による特許審査において拒絶査定を受けたり︵特許法四九条二号︶︑特許権付与後に

−無効とされる︵特許法一二一二条一項二号︶可能性を多分に含むという問題を孕んでいる︒なぜなら︑現実には︑出願

に際し︑公知技術の全てを把握することは極めて困難であり︑また︑仮に︑公知技術の全てを把握することができた

場合においても︑そこからの進歩性の有無を見極めることに非常な困難を伴うからで紮・

 もちろん︑特許査定を受けることのみを目的とす︑るのであれば︑先行技術との違いが明確になるように︑構成要件

の数を増やし︑各構成を具体的に記述すればよい︒しかし︑そうするとい特許権付与後に特許発明の技術的範囲が狭

くなるため︑競業他者による特許権の回避を容易ならしめ︑充分な保護を望むことができなくなる︒

 こうしたことから︑特許発明の技術的範囲を広く望むことと︑特許査定を受けやすくすること︵特許無効︐審判を受

けにくくすること︶とを両立させるために︑いかなる﹁特許請求の範囲﹂を作成するかが大きな問題となる︒そして︑

   特許発明の技術的範囲と﹁特許請求の範囲﹂との関係に︑ついての分析と検討     ︵都法四十五−一︶ 二四一

(22)

二四二

特許出願後には︑技術的範囲を拡大する方向で﹁特許請求の範囲﹂を補正︒訂正できないため︵特許法一七条の二︑

=一六条︶︑特許出願前の願書作成の段階で︑これ等のことが考慮されなければならなくなる︒

 特許出願実務では︑﹁特許請求の範囲﹂に技術的範囲が最も広くなるような請求項を記載した上で︑技術的範囲が

狭まるものの︑代わりに︑拒絶査定を受ける可能性が低くなるという関係に立つ請求項も記載するという︑多項制を

活用した﹁特許請求の範囲﹂の作成が行われている︒このことから︑特許権による充分な保護を目指すにあたり︑特

許発明の技術的範囲に関わる規定を前提に︑特許発明の技術的範囲の外縁を示す書面として﹁特許請求の範囲﹂を作

成しているものと理解できる︒

第三節 特許権付与手続における発明の要旨の認定       ち      特許法は︑特許庁をして︑出願発明が特許権付与に値するか否かを事前に判断させる︑審査主義を採用している︒

そのため︑特許庁がいかなる発明に特許権を付与しているのか︑すなわち︑発明の要旨のどのように認定しているか       び  が︑特許発明の技術的範囲の問題を考える上で重要となる︒

 この点につき︑特許庁︑および︑特許庁審決の取消訴訟に関して専属管轄を有する東京高等裁判所︵特許法一七八

条一項︶は︑現行法施行当初から︑﹁特許請求の範囲﹂のみにもとついて発明の要旨を認定すべきであり︑例外的に︑       ロ  それも不明瞭な用語の意義を明らかにするためのみに﹁発明の詳細な説明﹂を参酌することが許されるとしている︒

こうした見解は︑最高裁も採るところと見られ︑次に示す︹2︺・︹3︺において︑こうした理解を前提とする判断を

示した︒

(23)

       ︵48︶ ︹2︺最判一小昭和四七年一二月一四日民集二六巻一〇号一八八八頁    .

 ︻事実︼ 上告人出願の﹁フェノチアジン誘導体﹂について︑﹁特許請求の範囲﹂中の﹁式中Aは分岐を有するア

   ルキレン基﹂という記載を﹁式中Aは分岐を有することあるアルキレン基﹂に訂正することの可否が争われ

   た︒上告人は︑明細書の他の部分に照らすと誤記であることは明らかであるから﹁特許請求の範囲﹂を拡張

   するものではないと主張したところ︑特許庁は︑﹁特許請求の範囲﹂の記載のみに着目して︑特許法=一六

   条二項︵現.四項︶に違背するとの審決を下し︑原審も特許庁の審決を支持した︒

 ︻判旨︼ 上告棄却︒

     ﹁特許出願に際し願書に添付すべき明細書の﹃特許請求の範囲には︑発明の詳細な説明に記載した発明の

   構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない﹄︵三六条五項︶ものとし︑また︑﹃特許発明

   の技術的範囲は︑願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基いて定めなければならない﹄︵七〇条﹀

   ものとするのであつて︑明細書中において特許請求の範囲の項の占める重要性は︑とうてい発明の詳細な説

  ︑明の項または図面等と同一に論ずることはできない︒すなわち︑特許請求の範囲は︑ほんらい明細書におい   ・

   ℃︑対世的な絶対権たる特許権の効力範囲を明確にするものであるからこそ︑前記のように︑特許発明の技

   術的範囲を確定するための基準とされるのであつて︑法一二六条二項にいう﹃実質上特許請求の範囲を拡張

   し︑又は変更するもの﹄であるか否かの判断は︑もとより︑明細書中の特許請求の範囲の項の記載を基準と

   してなされるべく︑所論のように︑明細書全体の記載を基準としてなされるべきとする見解は︑とうてい採

   用し難い︒﹂

特許発明の技術的範囲と﹁特許請求の範囲﹂との関係についての分析と検討     ︵都法四十五ー一︶ 二四三      ︐

(24)

二四四

       ︵49︶ ︹3︺最判一小昭和四七年一二月一四日民集二六巻一〇号一九〇九頁

 ︻事実︼ 上告人出願の﹁あられ菓子の製造方法﹂について︑﹁特許請求の範囲﹂に記載された﹁三乃至五叩﹂を︑

    ﹁三乃至五℃﹂に訂正することの可否が争われた︒上告人は︑出願発明があられ菓子の製造方法であること

   に照らすと︑誤記であることは明らかで︑﹁特許請求の範囲﹂を拡張するものではないと主張したところ︑

   特許庁は︑﹁特許請求の範囲﹂の記載のみに着目して︑特許法一二六条二項︵現・四項︶に違背するとの審

   決を下し︑原審もこれを支持した︒

 ︻判旨︼ 上告棄却︒

     ﹁特許出願に際し願書に添付すべき明細書の﹃特許請求の範囲には︑発明の詳細な説明に記載した発明の

   構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない﹄︵三六条五項︶ものとし︑また︑﹃特許発明

   の技術的範囲は︑願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基いて定めなければならない﹄︵七〇条︶

   ものとするのであつて︑明細書中において特許請求の範囲の項の占める重要性は︑とうてい発明の詳細な説

   明の項または図面等と同一に論ずることはできない⁝特許請求の範囲は︑ほんらい明細書において︑対世的

   な絶対権たる特許権の効力範囲を明確にするものであるからこそ︑前記のように特許発明の技術的範囲を確

   定するための基準とされるのであつて︑法一二六条二項にいう﹃実質上特許請求の範囲を拡張し︑又は変更

   するもの﹄であるか否かの判断は︑もとより︑明細書中の特許請求の範囲の項の記載を基準としてなされる

   べき﹂と述べ︑明細書の全文を通じて実質的に発明の要旨を認定すべきとした上告人の主張を退けた︒

もっとも︑前記の二つの最高裁判決は︑いずれも︑特許法=一六条四項による訂正の可否が争われた事例に関する

(25)

判決であり︑発明の要旨の認定について直接言及したものではない︒しかし︑﹁特許請求の範囲﹂のみにもとついて

発明の要旨を認定すべき旨を最高裁として明示したことは︑大きな意義を有するものであった︒そして︑これ等の最        ︵50︶ 高裁判決の後︑東京高裁も︑﹁特許請求の範囲﹂のみにもとついて発明の要旨を認定する立場を踏襲していく︒

 このような流れの中︑最高裁は︑次の︹4︺において︑発明の要旨の認定方法に関する直接の判断を示した︒

      ︵51︶  − ︹4︺最判二小平成三年三月八日民集四五巻三号一二三頁

 ︻事実︼ 被上告人︵原告︶出願の﹁トリグリセリドの測定法﹂について︑特許庁は﹁特許請求の範囲﹂記載の﹁リ  ×

   パーゼ﹂をリパーゼ一般と解し︑特許法二九条の特許要件を充足しないと審決した︒しかし︑原審の東京高

   裁は︑﹁リパーゼ﹂の意義は︑明細書全体にもとづき︑﹁Raリパーゼ﹂と解されるべきとして前記審決を取

   消した︒これを不服として特許庁が上告したのが本件である︒

 ︻判旨︼ 原判決破棄差戻︒

     ﹁要旨認定は︑特段の事情のない限り︑願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされる

   べきである︒特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか︑あるい  ︐ ︑

   は︑一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの

   特段の事情がある場合に限って︑明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない︒

   このことは︑特許請求の範囲には︑特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載

   しなければならない旨定めている特許法三六条四項二号の規定︵本件特許出願については︑昭和五〇年法律

   第四六号による改正前の特許法三六条五項の規定︶からみて明らかである︒﹂

  特許発明の技術的範囲と﹁特許請求の範囲﹂との関係についての分析と検討ξ    ︵都法四十五ー一︶ 二四五

参照

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