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学級担任を支援する学校教育臨床事例研究

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Academic year: 2021

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学級担任を支援する学校教育臨床事例研究

著者 池島 徳大, 鍵本 佳輝, 後藤 利明, 藤戸 輝子, 高

原 道雄, 山辺 佳津子, 小野 英子, 大西 吉要子,  奥畑 博子

雑誌名 教育実践総合センター研究紀要

巻 12

ページ 139‑143

発行年 2003‑03‑31

その他のタイトル The School Educational Clinical Psychological

Case‑Studies which support Classroom Teachers

URL http://hdl.handle.net/10105/86

(2)

1.はじめに

現在我が国の学校教育現場では、いじめ、不登校、

校内暴力などに代表される生徒指導上の諸問題に、

日々追われているといってよい状況にある。

平成13年度の文部科学省調査(2002)によると、暴 力行為の発生件数は学校内33,129件(前年度比4.2%

減)、学校外5,101件(同11.7%減)で、平成9年度以 来初めて減少した。いじめについては、25,076件(同 18.9%減)で6年連続の減少となったが、不登校児童 生徒数は13万8,696人(前年度比3.3%増)で、過去最 多となっている。

これらの諸問題に対して、文部科学省は、平成7年

度から臨床心理士等の資格をもつスクールカウンセラ ーを学校に配置するなど様々な施策を打ち出している が、解決には未だ遠い状況にあるといえる。

このようなときに、何といっても身近な存在である 学校教師の果たす役割は極めて大きいと言わねばなら ない。いじめや不登校などの問題で、個別の援助を必 要とする児童生徒は年々増えてきており、子どもと関 わる機会の多い学校教師がその援助の担い手として力 量を高めていくことが、今強く求められている。

東山(1985)は心にアプローチする教師に必要なも のとして、「知識・体験・自己(感受性)・伝達力」

の4つの要素をあげている。このうち「知識」の決定 的不足が子どもに対する感受性の方向性を誤らせてい

139

池島徳大

(奈良教育大学 教育実践総合センター)

鍵本佳輝(大淀町立大淀桜ヶ丘小学校)・後藤利明(上牧町立上牧第二小学校)

藤戸輝子(大和郡山市立平和幼稚園)・高原道雄(奈良市立大安寺西小学校)

山辺佳津子・小野英子(大和郡山市立矢田小学校)

大西吉要子・奥畑博子(香芝市立関屋小学校)

The School Educational Clinical Psychological Case-Studies which support Classroom Teachers

Tokuhiro IKEJIMA

(Center for Educational Research and Development,Nara University of Education)

Yoshiteru KAGIMOTO(Oyodo-Sakuragaoka grade school)

Toshiaki GOTO(Kanmaki-Daini grade school)

Teruko FUJITO(Heiwa Preschool)Mitio TAKAHARA(Daianji-Nishi grade school)

Kazuko YAMABE・Eiko ONO(Yata grade school)

Kiyoko ONISHI・Hiroko OKUHATA(Sekiya grade school)

要旨:学級担任を支援する目的で学校教育臨床事例研究会を構成し、問題事例への対応の方向性と改善点について 検討した。構成メンバーは、県内の公立幼稚園及び小学校の現職教員8名とコンサルタント1名の計9名である。

構成期間は、平成14年5月から11月末までの7ヶ月間。回数は10回である。検討事例は、①粗暴な行動をくり返す 小6・A男に対する指導事例、②不登校傾向を示す小6・B男に対する指導事例、③乱暴な行動を示す幼稚園児C 男に対する指導事例、④集団活動になじめないと担任に訴えてきた小4・D子に対する指導事例、の4事例である。

いずれの事例も現職教員が直接関わった事例である。事例提供者には、対象となる子ども、保護者、学級の子ども たちに対して観察及び面接を実施し、想記法にて記録しておくことを求めた。記録された事例報告書をもとに検討 した。事例検討の結果、いずれの事例においても教師と子ども(保護者)との間にリレーションが形成され、また 子どもの行動をポジティブに捉えて対処できるようになり、事例に若干差異はあるものの改善がみられた。

キーワード:学校教育臨床、コンサルテーション、リレーション、創造の病

(3)

ると指摘し、心を理解する理論や考え方などの「知識」

が教員には必要であることを説いている。これまでの 経験やカンに頼る指導があまりにも多かったことに対 する警告であろう。

自分が受け持つ学級の子どもに 積極的に関与 し ながら、問題行動の理解と改善の方向性について検討 していくことは、教師の実践的指導力を高めることに 大いに役立つ(池島 1997)。ここに担任教師が行う学 校教育臨床の意義がある。犬塚(1997)は、学校教育 臨床の視点について、「学校教育臨床の視点とは、臨 床のギリシャ語源であるクリニコス、すなわち、共に 在ること(withness)を基軸に、そこから子どもたち のリアリティに寄り添い(towardness)、寄り添う中 で見えてきた彼らの問題状況を的確に捉え、具体的な 手だてを講じ、さらにカリキュラム改革を視野に入れ た今後の学校教育の在り方・方向性を追求する視点を 指している。」と述べる。

本報告では、学級担任を支援する目的で構成された 学校教育臨床事例研究会において、積極的に子どもに 関与しながら具体的な手だてを講じていく学校教育臨 床の視点から、問題事例に対する対応の方向性と改善 事項について検討していく。

2.方法

2.1.対象

県内の公立幼稚園及び小学校の教員8名とコンサル タント1名で学校教育臨床事例研究会を構成。

2.2.方法

検討した事例は4事例。いずれの事例も、上記の構 成メンバーが所属する学級・園の幼児児童生徒(以下、

子ども)が対象である。事例提供者にはあらかじめ、

問題となる子どものプロフィール、保護者との関係及 び生育歴の聴取、学級の子ども同士の関わりの経緯、

教師との関わりの経緯、教師の内的体験(気づき)に ついて、面接法・観察法で得られた情報を想記法にて 記録しておくことを求め、記録された事例報告をもと に検討した。事例検討は構成員のみのclosedで行われ た。必要に応じて、電話あるいは面接によるコンサル テーションをコンサルタントが実施した。

尚、子ども理解を深めるために、当大学で実施した

「教育臨床実践講座(全3回)」を受講した。

Table1 学校教育臨床事例研究会の実施状況

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3.学校教育臨床事例研究会の実施経過

3.1.学校教育臨床事例研究会の実施経過 学校教育臨床事例研究会は、Table1に示したよ うに平成14年5月から11月までの7ヶ月間にわたり 実施した。いずれも、奈良教育大学附属教育実践総合 センターにて行われた。

4.結果とまとめ

4.1.学校教育臨床事例研究会で検討された 事例の検討

Table2に、学校教育臨床事例研究会で検討された 4事例の概要、対応の方向性、改善事項、教師の気づ きを示した。いずれの事例においても、教師と子ども

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Table 2  学校教育臨床事例研究会で検討された事例の概要・対応の方向性・改善事項

(5)

との間にリレーションが形成され、子どもを「ポジテ ィブな側面で捉える」ことに成功している。以下、若 干の考察を試みる。

(事例研究1・5)は、いつ学級崩壊になってもお かしくない学級での取り組みである。本児は低学年時 から何かと問題を起こし、親も問題の親と見られてき た。母親の教師に対する防衛的態度がかなりみられ、

信頼関係ができるまでにはかなりの時間を要した。そ の間、母親から様々な要求(例えば、運動会での特別 駐車要求など)が出され、担任は葛藤。徐々に担任と 本児との関係が深まるにつれ、本児が級友にピアプレ ッシャーを強く感じていることや友達に対して「見捨 てられ不安」を抱いていることが分かり、「子どもら しい子ども」という印象へ変化。集団の中の一人とし て見るとまだまだという感じは残るものの、低学年の 子どもの面倒をみるなど向社会的行動が増え、変化し 始めている。

(事例研究2)は、不登校傾向を示す小6・B男の 事例である。小5からの持ち上がりで、5年時の登校 渋りに対して担任は、彼の不安感に寄り添いながら自 力で登校できるまで支援。順調よく回復したが、小6 になりまた登校渋りが始まる。親が離婚することに対 する情緒的混乱が一因と考えられた。担任は、親和的 な態度で本児と信頼関係を築いていたため、子どもか ら親の離婚の悩みを打ち明けられる。9月に他校に転 校することになったが、子どもの心の扉が見事に開い てきている。

(事例研究3)は、乱暴な行動を示す幼稚園年長児 C男が、教職員の指導観の転換により見事に変容した 事例である。事例提供者は園長職にある教員であるが、

職員全体に指示しやすい立場にあるとはいえ、管理職 自らが正しい子ども理解にたち、職員の協力を得て子 どもと保護者に関わっていったことが、子どもの問題 行動を早期に改善させたといえる。

(事例研究4)は、集団になじみにくい小4・D子 の事例である。担任は、動作が遅いことや不潔な感じ がするところからのけものにされてきたD子と、早期 に関係を築こうとする。話をするのに時間のかかる子 で、動作も遅い。そのような子どもと付き合うのは、

多忙な教員にとってかなりのエネルギーを必要とした が、リレーションづくりを粘り強く行った結果、子ど ものみならず保護者とも信頼関係が築けるようにな る。本人の自己肯定感情も徐々に増えてきている。今 後は、D子を取り巻く子どもたちとの人間関係改善を 企図した介入を、さらに行っていくことが課題である。

4.2.学 校 教 育 臨 床 事 例 研 究 会 実 施 の 利 点 と 実施しにくい理由について

最終日の学校教育臨床事例研究会において、①事例 研究会実施の利点、②学校教育現場で事例研究会が実 施しにくい理由について、フリー・ディスカッション を行った。出された意見は、Table3に示した。

その他、学校現場で何らかの問題に直面した場合、

教員が抱く感情として次のような感想が出された。

①学校現場でアドバイスを求めても、「それは、ご 自身が考えることでしょう」と言われ悲しくなっ た時がある。

②うまくいかなかった場合、誰に言われなくても自 分を責めてしまうのが担任である。

③教師が立ち直れるのは、自分のつらい気持ちを受 け止めてくれる同僚教師の支えが大きいと思う。

4.3.発達可能的理解の促進

先に述べたように、現在、教員の多くは生徒指導上 の対応に追われ、対応がうまくいかないと自分の指導 力を責め続けることも少なくない。担任教師がこのよ うな事態からエネルギーを回復する道はないものか。

その一つの方策として、本報告に示したように、子

<事例研究会を実施する利点>

・他の事例を聞いて自分の指導に生かすことができる。

(応用が可能)

・他人事という感じではなく自分のこととして考えることがで

きる。 (感情移入的理解の促進)

・物の見方、とらえ方、考え方が広がる。

(知識の獲得と視野の拡大化)

・事例の中からにじみ出てくる担任の苦労が伝わり、逆にがん ばろうとする気持ちが不思議に湧いてくる。

(共感と心理的安定)

・担任である自分の中に肯定的な部分と独自性があることを発

見できる。 (リソースの発見)

<事例研究会を実施しにくい理由>

・時間的なゆとりがない。 (時間の制約)

・事例研究会で行われるような子どもの心理を理解し共感的に 関わっていくという素地は、学校にはあまりない。本人にき つく叱ったり保護者に対応を委ねたりすることぐらいの対応 で終わることが多い。 (指導の硬直性)

・問題が発生した場合、まわりの冷ややかな眼を気にしながら 過ごしている。学校では失敗談を言えない雰囲気がある

(非許容的雰囲気)

・身近に、指導や助言をしてくれるスーパーバイザーが少ない。

(学校教育臨床の専門家の不足)

Table3 学校教育臨床事例研究会実施の利点と学校で実施しにくい理由

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どもと向き合ってきた事象を客観的に眺め、言語化を 試みて真摯に振り返る機会としての事例検討会は重要 な意味をもつ。第三者的ではなく、子どもと向き合い ながら二人称的な関わりの中で生じた指導者の感情を 明らかしていくのである。このような事例検討会によ って、先述した東山(1985)のいう生徒理解のための

「知識」は生きて働いてくる。了解不能に陥っていた 子どもの行動に、そのような行動に陥らざるを得なか った意味(知識)が仮説的であっても与えられ、子ど も理解が促進されてくる。つまり、子どもの問題行動 の意味するところに光が与えられるのである。心の中 にストンと入る、あるいは「賦に落ちる」形で理解が 促進されることも少なくない。こうなると、子どもを ポジティブに捉えることができるようになり、具体的 な手だても見えてくる。そのようなことが起こってく るためには、指導上苦慮してきたことを安心して語り 合える、自己開示のできる場が何よりも必要であろう。

サリヴァン(Sullivan 1976)が心理臨床家の態度と して「関与しながらの観察」をあげたが、事例研究に いたる記録は観察を補強する意味で重要な役割を果た すと同時に、今述べたように相手との関係のなかで自 らの言動を振り返る、という利点がある。

行動の中に見られる否定的な部分に対して、発達可 能的な理解(いわば解決の「光」を見いだすこと)を 促進する機会として、学校教育臨床事例研究会が位置 づけられることが、今後益々求められてこよう。問題

の解決までには、様々な葛藤や苦しみを生じさせるが、

これもまた、エレンベルガーのいう「創造の病(cre- ative illness)」(Ellenberger 1980)と考えれば、我々 の心も救われ、エネルギーの糧となる。

引用・参考文献

1)文部科学省 生徒指導上の諸問題の現状と文部 科 学 省 の 施 策 に つ い て ( 速 報 ) 平 成 1 4 年 8 月

(2002)

2)東山絋久 鳴門生徒指導事例研究創刊号 1985 3)池島徳大 いじめ解決への教育的支援 日本教

育新聞社 1997

4)犬塚文雄 特別活動における教師の役割と課題

−学校教育臨床の視点から−日本特別活動学会 紀要第6号 p14 1997

5)サリヴァン/中井久夫・山口隆訳 「現代精神 医学の概念」 みすず書房 p21 1976

(Sullivan,H.S.    CONCEPTIONS  OF  MODERN PSYCHIATRY,  W.W.Norton  &  Company  Inc., New York, 1953)

6)エレンベルガー/木村敏・中井久夫監訳 「無意識の 発見 下」 弘文堂 p38 1980 (Ellenberger,H.F.

THE  DISCOVER  OF  THE  UNCONSCIOUS, Basic Books Inc.,New York, 1970)

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参照

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