症 例
症 例:32歳 男性 主 訴:手足のむくみ 現病歴:平成21年4月初旬に咽頭痛を自覚し 近医を受診。咽頭培養にて溶連菌が検出され抗 生剤にて加療。4月中旬より手指のむくみを自 覚するようになり,4月20日近医を受診。尿検 査 に て 蛋 白400mg/dl, 尿 沈 渣RBC30-49/HPF, 血液検査にて総蛋白5.4g/dl,アルブミン2.4g/ dl,クレアチニン2.88mg/dlを指摘され,精査 加療目的に4月23日入院。 既往歴:24歳:猫ひっかき病 家族歴:母:IgA腎症 弟:バセドウ病 母 方叔母:バセドウ病 生活歴:飲酒歴:機会飲酒 喫煙歴:なし 入院時身体所見:身長 182cm,体重 105kg, 体温 36.4 ℃,血圧159/99 mmHg,脈拍: 90/分 整,意識清明,蝶形紅斑なし,眼瞼 浮腫あり, 眼瞼結膜 貧血なし,眼球結膜 黄疸なし,口腔: 粘膜潰瘍なし,頚部:リンパ節腫大なし,胸部: 両下肺野で呼吸音減弱,心音:雑音なし,腹部: 膨隆,軟,圧痛なし,肝脾触知せず,四肢:両 手指,手背,両下腿に浮腫あり,出血斑なし, 皮膚:脱毛なし,網状皮斑なし 図1 図2特異な細動脈病変を呈したループス腎炎の1例
鎌 田 真理子 佐 野 隆 酒 井 健 史
古 谷 昌 子 根 本 千香子 渡 会 梨紗子
青 山 雅 則 中 野 素 子 内 田 満美子
坂 本 尚 登 鎌 田 貢 壽
図3 図4 尿一般 pH 5.5 比重 1.025 蛋白 (3+) 8.4 g/day 潜血 (3+) 糖 (-) 尿沈渣 RBC 50-99 /HPF WBC 20-29 /HPF 硝子円柱 (1+) 顆粒円柱 (2+) 上皮円柱 (1+) 蝋様円柱 (1+) 尿生化学 NAG 80.3 U/l β2ミクログロブリン 11.7 μg/l FENa 0.1 % 動脈血ガス分析 Room Air pH 7.418 PaCO2 32.2 Torr PaO2 70.7 Torr HCO3- 20.3 mmol/l BE -3.7 mmol/l SaO2 95.4 % 血算 WBC 4.0×103 /μl Neut 68.8 % Eos 0.0 % Lymph 24.1 % Mono 6.9 % Baso 0.2 % RBC 3.78×106 /μl Hb 11.0 g/dl Ht 32.2 % Plt 5.4×104 /μl FRA 0.3 % 凝固 PT 10.8 sec APTT 34.5 sec Fib 576 mg/dl FDP 9.08 μg/dl D-dimer 4.07 μg/dl 赤沈 86 mm/1時間値 生化学 TP 5.3 g/dl Alb 2.2 g/dl TB 0.5 mg/dl GOT 29 IU/l GPT 22 IU/l γ-GTP 20 IU/dl LDH 450 IU/l T-chol 239 mg/dl TG 301 mg/dl UN 59 mg/dl Cr 3.18 mg/dl UA 11.4 mg/dl Na 136 mEq/l K 5.1 mEq/l Cl 110 mEq/l Ca 7.3 mg/dl P 5.0 mg/dl 免疫 CRP 1.07 mg/dl IgG 1371 mg/dl IgA 430 mg/dl IgM 50 mg/dl C3 29 mg/dl C4 4 mg/dl CH50 10 U/dl ASO 54 IU/ml ASK 80 倍 抗核抗体 320 倍 (Homogeneous) 抗DNA抗体 ≧300 IU/ml 抗dsDNA抗体 660 IU/ml 抗Sm抗体 30.1 U/ml 抗SS-A抗体 10.8.0 U/ml 抗SS-B抗体 75.8 U/ml ループスアンチコアグラント 1.22 sec PA-IgG 389.0 ng/107cells 抗CL-IgG抗体 14 U/ml 抗CL・βGPⅠ ≦1.2 U/ml MPO-ANCA <10 EU PR3-ANCA <10 EU 抗GBM抗体 <10 EU クリオグロブリン (-) ハプトグロビン <10 mg/dl 直接クームス 弱陽性 間接クームス 陰性 入院時検査所見
図5 図6 図7 図8 図9 図10
図11 図12 図13 図14 図15 図16
図1:入院時の胸部レントゲンでは心胸比 57%と心拡大を認め,肺うっ血像と両側胸水を 伴っていました。 図2:心電図では四肢誘導の低電位,Ⅰ・ aVR・aVL,V3-6に陰性T波を認めました。 図3:HE染色を示します。標本中の糸球体 は24個で,全節性硬化を示す糸球体は認めま せんでした。全ての糸球体にはメサンギウム細 胞の増殖が認められ,核の断片化を伴う強い管 内増殖性病変も認められました。また,6個の 糸球体には左の糸球体にみられるような細胞性 半月体の形成を認めました。 右の糸球体には係蹄の肥厚が認められワイ ヤーループ病変と考えられました。 図4:右の糸球体には,係蹄内腔を狭小化す る程の強い細胞増殖を認め,核の断片化を伴っ ていました。また,ワイヤーループ病変と考え られる係蹄の肥厚と一部の血管腔にはヒアリン 血栓が認められました。 左の糸球体の血管極には細動脈の内皮下に多 量の沈着物を認めました。この糸球体を拡大し たものを示します。 図5:糸球体には細胞増殖が認められ,血管 極の細動脈には内皮下に多量の沈着物と血管壁 の一部に変性像を認めました。 図6:PAS染色を示します。糸球体にはメサ ンギウム細胞の増殖が認められ,血管極の細 動脈内腔は狭小化し,内皮下と血管壁内にPAS 陽性の沈着物を認めました。 図7:他の糸球体にも同様にメサンギウム細 胞の増殖が認められ,血管極の細動脈内腔の狭 小化と内皮下にPAS陽性の沈着物を認めまし た。 図8:PAM染色を示します。糸球体にはメ サンギウム細胞の増殖と癒着が認められ,血 管極の細動脈内腔は狭小化し,内皮下に多量の 沈着物を認めました。点刻像やspikeは認めず, 一部の基底膜に二重化を認めました。 図9:Masson染色を示します。 糸球体にはメサンギウム細胞の増殖と癒着病 変を認め,血管極の細動脈には,赤く染色され る多量の沈着物により内腔の狭小化が認められ ました。 図10:蛍光抗体法所見を示します。 IgG,IgA,IgM,Fibrinogenは糸球体にfringe patternでの発光を示し,更に細動脈にも内皮に 一致した発光を示していました。 図11:C1q,C3,C4も 同 様 に 糸 球 体 に fringe patternでの発光を示し,更に細動脈にも 内皮に一致した発光を示していました。 図12:電子顕微鏡所見を示します。 血管極の細動脈内には内腔に多量の高電子密 度物質が充満して認められました。 図13:内皮下からメサンギウム領域に,高 電子密度物質の沈着を認めました。 図14:(左側の基底膜の右側)左の基底膜 上皮下に高電子密度沈着物を認めました。 (右側の基底膜の右側)右の基底膜内皮下に 高電子密度沈着物を認めました。
図15:内皮細胞質内にvirus like particlesを 認めました。 私たちは本症例の糸球体病変を,ISN/RPSに よるループス腎炎2003年分類によりびまん性 ループス腎炎のⅣ-G(A)型と診断しました。 また,細動脈には特異な血管病変の合併を認め ました。 図16:入院後経過を示します。 SLEの診断で第2病日からステロイドパル ス療法を3日間施行し,その後はプレドニン 60mg/dayの内服を開始しましたが,尿量の減 少と血清クレアチニン値の上昇を認めたため, 第4病日から血液透析を開始しました。 更に, 第10病日からは免疫吸着療法を併用しました。 また,入院時よりわずかな破砕赤血球を認 めていましたが,第16病日に突然,破砕赤血 球の増加を伴う血小板減少が認められ,破砕 赤血球症候群の診断にて第17病日より血漿交 換療法と血液濾過透析を施行しました。この 時,下痢や腹痛などの症状はなく,測定した ADAMTS13活性は正常でインヒビターも陰性
でした。血漿交換を4回施行後,血小板は上昇 傾向となり血漿交換を中止しました。また,尿 量も増加し,第38病日には透析を離脱しまし た。 その後,プレドニンは漸減し,第55病日よ りエンドキサンを追加しました。経過中,補体 は上昇傾向を示し,抗dsDNA抗体は免疫吸着 療法・血漿交換療法施行後に速やかに陰性化し ました。
入院時エコー所
<腹部エコー 2009/4/21> 腎サイズ 右 117×59mm 左 117×57mm 肝腫大,脾腫あり 脾臓周囲に少量の腹水貯留 <心エコー 2009/4/24>LV wall motion 全周性にhypokinesis,EF46% 少量~中等量の心嚢液貯留あり RA・RVのcollapseあり IVC 13/8mm 呼吸性変動あり
本症例のまとめ
ネフローゼ症候群と腎機能障害で発症し, SLEと診断した。 腎生検にて,糸球体に管外,管内の増殖性病 変とwire loopを認め,細動脈には特異な血管 病変を認めた。 ステロイド治療中,破砕赤血球増加を伴う血 小板減少を認めた。 血漿交換療法を施行し,破砕赤血球の減少, 血小板数の回復,腎機能の改善を認めた。考 察
び ま ん 性 ル ー プ ス 腎 炎 にNoninflammatory Necrotizing Vasculopathyを合併した。 治療により細動脈病変の血流が再開した事で 破砕赤血球症候群の病態が生じた可能性が考え られた。討 論
鎌田(真) よろしくお願いします。症例は32 歳,男性です。主訴は手足のむくみです。現病 歴ですが,平成21年4月初旬に咽頭痛を自覚し, 近医を受診しました。咽頭培養にて溶連菌が検 出され,抗生剤にて加療されました。4月中旬 より手指のむくみを自覚するようになり,4月 20日近医を受診し,尿検査にて蛋白40mg/dL, 尿沈渣にて赤血球30 ~ 40HPF,血液検査にて 総蛋白5.4g/dL,アルブミン2.4g/dL,クレアチ ニン2.88mg/dLを指摘され,精査加療目的に4 月23日に入院しました。 既往歴には猫ひっかき病。家族歴には母が IgA腎症,弟とおばにバセドー病と自己免疫疾 患があります。飲酒歴は機会飲酒程度,喫煙歴 はありません。入院時の身体所見ですが,血圧 159/99と高血圧を認め,眼瞼浮腫を認めました。 胸部聴診所見では両下肺野で呼吸音の減弱を認 めました。また両手指,手背,両下腿に浮腫を 認めました。 入院時の検査所見です。尿所見では尿蛋白 3+,1日の蛋白排泄量は8.4g/day,潜血3+,尿 沈 渣 で は 赤 血 球50 ~ 99HPF, 赤 血 球20 ~ 29HPFを認め,また多彩な円柱を認めました。 尿生化学ではNAG,β2-microglobulinの上昇を 認めました。 血液ガス分析ではPaO2,70Torrと低酸素血 症を認め,また軽度の代謝性アシドーシスを認 めました。血算ではリンパ球約1000μLと減 少しており,また正球性正色素性貧血を認め, 血小板は5.4万/μLと減少していました。破砕 赤血球も少量認められました。凝固系ではfi-brinogen,FDP,D-dimerの上昇と,赤沈の亢進 を認めました。血清生化学では総蛋白5.3g/dL, 血清アルブミンが2.2g/dLと低下していました。 LDHの上昇とトータルコレステロールとトリ グリセリドの上昇を認めました。 尿 素 窒 素 は59mg/dL, 血 清 ク レ ア チ ニ ン 3.18mg/dLと上昇を認め,尿酸カリウム,クロール,リンも上昇していました。 免疫ではCRPの上昇とIgAの上昇,補体の低 下を認め,自己抗体は抗核抗体,抗DNA抗体, 抗ds-DNA抗体,抗Sm抗体,抗SSA抗体,抗 SSB抗体,TA,IgCの上昇を認めました。また 軽度の抗カルジオリピンIgG抗体の上昇を認め ました。haptoglobinの低下と直接クームス,弱 陽性も認めました。 【スライド】 入院時のレントゲンでは心胸比 57%と心拡大を認め,肺うっ血像と両側胸水を 伴っていました。 【スライド】 心電図では四肢の誘導の低電位と 1aVR,aVL,V3からV6の陰性T波を認めました。 【スライド】 腹部のエコーでは両側腎臓の腫大 と肝腫大,浮腫,脾臓周囲に少量の腹水貯溜を 認めました。心エコーではLV wall motionは全 周性にhyperkinesisを呈し,PFは46%と低下し ていました。また少量から中等量の心嚢液貯溜 も認めました。米国リウマチ協会によるSLEの 診断基準のうち,腎障害,心外膜炎,血液異常 として溶血性貧血,リンパ球減少,血小板減少, 免疫異常として抗ds-DNA抗体陽性,抗Sm抗 体陽性,抗カルジオリピンIgG抗体陽性,抗核 抗体陽性の計5項目を満たし,SLEと診断しま した。以上よりループス腎炎による急速進行性 糸球体症候群の病態と考えられ,検査のために 第6病日に腎生検を施行しました。 HE染色を示します。標本中の糸球体は24個 で,全節性硬化を示す糸球体を認めませんでし た。すべての糸球体にはmesangium細胞の増殖 が認められ,核の断片化を伴う強い管内増殖性 の病変も認められました。また6個の糸球体に は,左の糸球体に見られるような細胞性半月体 の形成を認めました。また右の糸球体には係蹄 の肥厚が認められ,wire loop病変と考えられま した。 【スライド】 右の糸球体には係蹄内腔を狭小化 するほどの強い細胞の増生が認められ,核の断 片化を伴っていました。またwire loop病変と 考えられる係蹄の肥厚と,一部の血管腔内には hyalin血栓を認めました。左の糸球体の血管極 には,細動脈の内皮下に多量の沈着物を認めま した。この糸球体を拡大したものを示します。 糸球体には細胞の増殖が認められ,血管腔の細 動脈には内皮下に多量の沈着物を認めました。 また一部に変性像も認めました。 【スライド】 PAS染色です。糸球体にはmesan-gium細胞の増生が認められ,血管極の細動脈 内は狭小化と,内皮下にPAS陽性の沈着物が 多量に認められました。 【スライド】 ほかの糸球体にも同様にmesan-giumの増生が認められ,血管極の細動脈,内 腔の狭小化と内皮下にPAS陽性の沈着物を認 めました。この部分です。 【スライド】 PAM染色です。糸球体にはme-sangium細胞の増殖と,癒着病変が認められ, 血管極の細動脈や内腔は狭小化し,内皮下に多 量の沈着物を認めました。点刻像やスパイク像 は認められませんでしたが,一部,二重化を認 めるような所見もありました。 【スライド】 Masson染色を示します。糸球体 にはmesangium細胞の増殖と癒着病変をこちら の糸球体でも認めております。血管極の細動脈 には赤く染色される多量の沈着物により内腔が 狭小化していました。 【スライド】 ほかの糸球体にも血管極の細動脈 に赤く染色されるような沈着物を認めました。 この糸球体にもwire loop病変を認めています。 【スライド】 蛍光抗体法ではIgG,IgA,IgM,
fibrinogenは糸球体にfringe patternで発光を呈 し,さらに細動脈の内皮にも発光を示しました。 【スライド】 C1q,C3,C4も同様に,糸球体 にfringe patternの発光を示し,さらに細動脈に も,内皮に一致した発光を示しました。 【スライド】 電子顕微鏡所見です。血管極の細 動脈内には内腔に多量の高電子密度物質を認め ました。 【スライド】 また内皮下からmesangiumの領域 に高電子密度物質の沈着を認めています。 【スライド】 左側の基底膜の上皮下に高電子密
度物質を認めました。右側には内皮下に高電子 密度物質の沈着を認めています。 【スライド】 内皮細胞内にvirus-like particlesを 認めました。 【スライド】 わたしたちは本症例の糸球体病変 をISN/RPSによるループス腎炎2003年分類よ り,び慢性ループス腎炎のIVG(A)型と診断 しました。また細動脈には特異な血管病変を認 めました。 入院後の結果を示します。SLEの診断で,第 2病日よりステロイドパルス療法を施行し,そ の後はプレドニン60mgの内服を行いました。 尿量の減少と血清クレアチニンの上昇を認めた ため,第4病日より透析を開始しました。さら に第10病日から免疫吸着療法を施行しました。 また入院時より,わずかな破砕赤血球を認めて おりましたが,第16病日に突然,血小板の減 少を伴う破砕赤血球の増加を認めました。その ため,破砕赤血球症候群の診断にて,第17病 日より,血漿交換療法と血液ろ過透析を開始し ました。このときに下痢や腹痛の症状はなく, 測定したADAM13活性は正常で,inhibitorも陰 性でした。 血漿交換療法を4回施行後,血小板は上昇傾 向となり,血液ろ過透析と血漿交換は中止をし ました。またその後,尿量の増加を認め,クレ アチニンも低下傾向となり,透析を離脱してお ります。その後,プレドニンを漸減し,第55 病日よりエンドキサンを追加しました。結果, 中補体は上昇傾向を示し,抗ds-DNA抗体は免 疫吸着療法,血漿交換療法後,速やかに陰性化 しております。 【スライド】 本症例のまとめです。ネフローゼ 症候群と腎機能障害で発症したSLEと診断し ました。腎生検にて糸球体に管外,管内の増殖 性病変とwire loopを認め,細動脈には特異な血 管病変を認めました。ステロイド療法中,破砕 赤血球の増加を伴う血小板減少を認めました。 血漿交換療法を施行し,破砕赤血球の減少,血 小板数の回復,腎機能の改善を認めました。 【スライド】 Appelらが1994年の『JASN』に 報告したSLE腎血管病変の病理分類を示しま す。SLEの 血 管 病 変 をuncomplicated vascular immune deposits,noninflammatory necrotizing vasculopathy,thrombotic microangiopathy,true
vasculitisに分類し,またそれぞれの病理学的特 徴を血管障害部位,沈着物,血管内皮,血管壁 の炎症で分類しています。本症例の細動脈には IgG,IgA,IgM,C1q,C3,C4,fibrinogen の 沈着と血管壁の壊死所見からnoninflammatory necrotizing vasculopathyに相当する血管病変と 考えました。 【スライド】 またAppelらは,それぞれのSLE 血管病変の臨床的特徴を頻度,糸球体病変,高 血圧の有無,腎不全の有無,予後で分けていま す。noninflammatory necrotizing vasculopathy は
WHO分類で主にIV型の糸球体病変を示し,高
血圧,腎不全も合併し,また予後は不良とされ ており,本症例の糸球体病変と臨床的特徴に一 致していました。
【スライド】 考察を示します。び慢性ループス 腎 炎 にnoninflammatory necrotizing vasculopathy が合併したと考えました。このような血管病変 が合併したために,治療により細動脈病変の血 流が再開したため,破砕赤血球症候群の病態が 生じたと考えました。以上です。 座長 ありがとうございました。ただいまの発 表につきまして何かご意見はございますでしょ うか。どうぞ。 山口 先生,組織を見てから治療を始められた わけですよね。 鎌田(真) 治療を始めたのは。 山口 組織を見る前からですか。 鎌田(貢) 実は私が初診しましたが,この方 は急性糸球体腎炎として紹介されてきました。 身体所見に特徴的所見はなく,AGNの発症期 にネフローゼ症候群にはならない事,血小板減 少が見られることがAGNとは一致しませんで した。来院日の夕方にはループス腎炎であろう と診断しました。血小板減少のために腎生検が
できず,翌日から腎炎と血小板減少の改善を目 的にステロイド療法を開始しました。ステロイ ドパルス療法を開始した直後から血小板が増加 したので,すかさず腎生検としました。治療3 日目か4日目に腎生検をしています。この様な 条件を持つ腎組織です。 山口 こういう血管病変があるときに,最初に ステロイドパルスで行くよりも,血漿交換を先 にやって,それからやるようにと,僕はだいた い言っています。先にそっちを取ってあげない と,どうしてもいろいろな形でdefectが残って しまうものですから,そこの経過を知りたかっ たもので,すみません。 座長 ほかに何かご質問はありますでしょう か。臨床経過からすると,SLEでHUS,TTPを 合併したような感じも見えますが,necrotizing vasculopathyというふうに,HUSとは違うと考 えたのでしょうか。 鎌田(真) はい。HUSとしては腹痛とか,消 化器症状などはなくて,TTPとするとADAM13 inhibitorが 陰 性 だ っ た と い う こ と も あ っ て, HUS,TTPではないと考えています。 座長 ほかに何かご質問はありますでしょう か。それでは病理の先生,よろしくお願いしま す。 山口 今座長の言ったポイントですよね。そこ をもう少しあとでディスカッションしていただき たい。この血管病変をどういうふうにとらえるか というのは,一つ問題になると思いますので。 【スライド01】 Masson染色で見ますと,やは り索状に尿細管の萎縮,間質の線維化がだいぶ 進んでいるという印象を受けます。まずはつぶ れた糸球体はそんなにないわけですが,尿細管 間質系の障害が非常に強いということだろうと 思います。 【スライド02】 このように尿細管の萎縮傾向 と,びまん性の間質の線維化ですね。それから 糸球体の病変はあとで出てきますが,主に血管 極部のところにfibrinと,それからhyalinとが ミックスしたような形でthromboticな変化が出 ているわけですね。ですからhyalinだけではな くて,fibrinも一緒に混ざっている。もちろん hyaline thrombiも一緒にあります。 【スライド03】 こういうところは萎縮が非常 に強くて,cellular crescentも出ていますし,分 葉状でhypercellularな糸球体の病変。 【スライド04】 先ほどお示しになったように, きれいな糸球体によってはwire loop lesionが主 体の糸球体もあります。少しendocapillaryな変 化も含まれて,二重化もところどころ見えてい るということだろうと思います。だいぶ多いで すね。二重化もある。
【スライド05】 hyaline thrombiとwire loopはだ いたい一緒に出てくることはよくあるように思 います。糸球体が非常に大きくなって,尿細管 極の方に少しloopがInvaginationみたいな形で 出てきてしまっています。 【スライド06】 例の硝子様物ですが,血管極, 輸入細動脈から血管極にかけて硝子様物。こっ ちはefferenceだろうと思いますが,だいぶcol-lapsと二重化が出てきていますし,こっちは crescentが主体です。 【スライド07】 PAS陽性にPASに濃染するも のが確かに壁内にあって,ただ必ずしもそれに 染まらない弱陽性のfibrinか,あるいは血漿が 一緒に混ざってきて少し細胞が絡んでいるとい うところがあります。 【スライド08】 Massonで見ると,少し網目状 といいますか,fibrinが混ざっているような形 のものが見られますし,これも壁在性には硝子 物が主体で,内腔にはいろいろなものが混ざ り合っているという形でしょうか。末梢にはそ んなに目立たないですね。やはり血管極に近い loopに少し血栓が及んでいるということだろう と思います。 【スライド09】 われわれのところにはfibrino-genがなかったのですが,IgGはあまりついて いないですが,IgAは糸球体主体に出て,IgM が確かに細動脈の壁に一部出ている。これがも しかしたら入り口のところに濃く染まっている
ものかもしれないです。IgGはちょっと分かり づらいように思います。 【スライド10】 C1q,このへんが糸球体全体に 出てしまって,C4,それからC3もおそらく動脈 壁に少し出ているのかな。このへんがC1q,動 脈壁かどうか分かりませんが,入り口のところ にはありそうだということだろうと思います。 【スライド11】 糸球体はendocapillary,マク ロファージ系の細胞が非常に多くて,subendo の 沈 着 が 全 体 に あ っ て,intramembranous, paramesangial,mesangial matrix,あらゆるとこ ろに沈着がある。endocapillaryで少し軽いinter-position,partialなinterpositionが見られる。 【スライド12】 血管極部のところです。ちょ う ど 入 り 口 の と こ ろ,densityの 非 常 に 強 い deposit様のものがほとんど詰まっている状態 で,たぶん全部,それかというと,このへんが fibrin様のものが少しミックスになっていると いうふうに思います。 【スライド13】 先ほど示されたように,上皮 下沈着物,内皮下沈着物に少しfinger print様の 構造があって,virus-1ike particlesがありますか ら,SLEで間違いない所見だろうと思います。 【スライド14】 そういうことで一応,いちば ん新しいHeptinstallのもので,lupusのvascular lesionはいくつかに分けられていて,お示しの
ものがnoninflammatory necrotizing vasculopathy。 そこでlupus vasculopatchyということですね。 あとthrombotic microangiopathyの中に,この方 はリン脂質抗体,APSがあるということで,そ れに伴うTMA。 そうすると,これとこれをどうやって,鑑別 するのはなかなか難しいということが言われ てはいます。鑑別点は比較的,こちらはfibrin, あるいはfibrinの関連物質の沈着が主体である。 ただ,カルジオリピンとか,いろいろなもの はほかのIgGとかIgMとか,補体系も一緒に含 んでいるわけで,その沈着が一緒に来るという わけで,なかなか鑑別が難しいです。それから TMAの場合はどちらかというと,細動脈から 血管極部にかけて主体的に来ますが,こちらは 細動脈からもう少し太いオーダーでも沈着が見 られるということだろうと思います。 【スライド15】 われわれのvasculopathy,lupus vasculopathyを経験したやつは,比較的,小葉 間動脈の壁内に,内皮下にべったり来て,C1q がこのように来て,あまりTMA的な病変はな い形のものを経験しております。 【スライド16】 この症例は膜の変化を言うの を忘れてしまいましたが,PAMで見ますと, やっぱりbubblingとか,糸球体の半分以上に及 んでいるので,+Vもあるかなということ。主 体はやはり細動脈から血管極部にかけてfibrin-ogenが一応陽性にはなっていましたから,そ れがミックスの形で出てきていますので,一応 抗リン脂質抗体に伴うTMAと考えてHeptinstall の記載だとIgGが意外とない,ネガティブであ るというとこちらに入る。こちらはIgGがだい たい主体のことが多いという記載なので,わた しとしてはAPSに伴うTMAの方がいいのでは ないかと思います。以上です。 座長 ありがとうございました。重松先生,お 願いします。 重松 重松のスライドをお願いします。 【スライド01】 32歳の男性ですね。そして弱 拡大の写真で分かるように,すべての糸球体に, 糸球体の変化と,それから血管の変化。糸球 体の変化は管内増殖あるいは管外増殖ですね。 wire-loop的な病変,それも一緒に混じって,多 彩な糸球体病変,血管病変を呈しております。 【スライド02】 これは要約的な糸球体病変に なると思いますが。lupusのときには血栓なの か,血栓ではなくてdepositionで起こっている 変化なのかの区別は非常に大事になってきま す。血栓だということになると,本症例は抗リ ン脂質抗体が陽性ですから,その関連のthrom-boticなものになります。血管内に沈着してい るのが分かりますが,あまり太くなってくると, だんだんそれが分からなくなる。こちらは糸球 体血管腔の中にthromboticな変化があって,こ
れをhyaline thrombiと見るか,あるいはTMA で起こってきたthromboticな変化と見るか。こ れはIFを参考にして調べなければいけません が,とにかくdepositionとthromboticなものが混 在して血管と糸球体の中に見られるということ です。こちらはwire-loop的な変化が主である。 間質はかなり強い浮腫があって,あまり細胞の 浸潤はないということですね。 【スライド03】 こういう管外性の病変を示す ところもある。 【スライド04】血管炎の分布ですが,こういう 大きな小葉間動脈レベルになると,ほとんどな いです。若い男性ですからelastosisもあまり強 くない。入り口の輸入動脈あたりにdepositive な 変 化 でnoninflammatory necrotizing
vasculopa-thyという表現に相当するような変化を呈して いると思います。 【スライド05】 PAMで見ますと,ここでも血 栓ではなくて何か内腔がありますから,これは depositiveな変化で起こっていると見られると 思います。 【スライド06】 これは管外増殖です。一方こ ちらはmatrixの増殖がほとんどなくて,おそら く炎症細胞がmesangiumの中にも入り込んでい る像だと思います。 【スライド07】 こうなってしまうと,あまり ひどくなってしまって,これは血栓なのか分か りません。なるべく早期の病変で,血栓なのか, depositive lesionが進展して血管壁を破壊的にし たのかということをよく見る必要があろうかと 思います。 【スライド08】 これもそうですね。こうなっ てしまうと血栓かもしれないですね。 【スライド09】 Masson染色で血管腔内物質が, 非常にきれいな赤い色をしているのが印象的 です。 【スライド10】 これは輸入動脈にメインに起 こってくるという特徴がとらえられていると思 います。 【スライド11】 この症例ではbiopsyの周りに 脂肪性の被膜がついています。そこにけっこう すごい炎症所見がありました。これはHEです が,このレベルの血管には,明らかな血管炎が あります。血管の外膜からその周囲にかなりの リンパ球性の反応があります。 【スライド12】 これはPAS染色です。小さな 血管,糸球体に輸入動脈レベルの血管に普通で はない変化,つまり血管の内膜の増殖があった り,管腔に炎症細胞が増殖しているという所見 があります。 【スライド13】 いろいろ探し回りますと,内腔 は保たれていて,血管の周囲に炎症がある。た だ糸球体に見られたものとは組織像が全く違い ます。こちらはcellularのリアクションが強い。 【スライド14】 最後にもう少し血管炎らしい のが加わります。ここに炎症細胞の接着があっ て,そして管内に細胞が増殖して,一種の貫通 性の血管炎が起こっています。ただ,これは糸 球体の病変とは全く違うタイプの血管炎を示し ております。ただ,血管炎がけっこうほかの臓 器にもあるのではないかということを示唆する 所見だと思います。 【スライド15】 先ほど血管炎がある症例では, IgGはあまり強くないよと言われたとおり,や はりIgGはそれほど強くないですね。C1q,C3, こちらがメインの沈着を示している。C1qが血 管の病変の中にも出ているということです。 【スライド16】 糸球体の病変ですが,これは マクロファージがおそらくmesangiumにも入り 込んでいるところだと思います。これは血管で すね。血管の中にいるマクロファージです。 【スライド17】 これは何回も出てきましたが, あらゆるところにdepositionが出てくるという lupusの特徴が出ています。 【スライド18】 これは内皮下,depositがかなり 強い。mesangial depositがあるということです。 【スライド19】 これもlupusに特徴的なvirus-like particleということです。 【スライド20】 これは非常に貴重な写真だと 思うのですが。これはnoninflammatory
necrotiz-ing vasculopathyと言われる一つの所見でしょ う。残念ながら山口先生もおっしゃったように, fibrin様のものが混じっているところまではい いのですが,血管腔の中までべったり入ってき ます。あるいは血管腔がどこかに隠れてしまっ ているのかもしれません。けれども糸球体の入 口部に特徴的な変化があるということで,こう いう名前がついている。僕もあまりこういう血 管をみる経験がなかったので,非常にいい勉強 をさせてもらいました。 ということで演者が示された所見,山口先生 の所見に,異論はありません。以上です。 座長 今のご発表に関しまして何かご質問はあ りますでしょうか。 乳原 虎の門病院腎センターの乳原です。先ほ ど演者の方が,これはHUSではないだろうと いうことでおっしゃったわけですが,まず溶血 性貧血があって,血小板減少がある。カルジオ リピン抗体が陽性ですから,そういう場合にカ ルジオリピン抗体が陽性ということで,本来な らAPSでいいだろうと考えられるわけですが, 実際にAPSの場合には必ずといっていいほど, 腎外病変が出てくるだろうと思います。腎外病 変は何か,どこかに血栓ができたとか,多いの は動脈病変ですね。例えば脳梗塞とか,いろい ろなことを起こしてくると言われていますが, そういうものはなかったのでしょうか。 鎌 田( 真 ) 特 に 脳 梗 塞 の 所 見 な ど は な く FDPD dimerの上昇もさほど変わりがなかった と思います。ヘパリンをしっかりそのころは 使っていて,血栓予防はかなりしていたので, その影響もあるかもしれないのですが。 あと,免疫吸着をしたころには,血漿交換を する前に,もうカルジオリピン抗体は陰性化を していたと思います。破砕赤血球が出現したと きにカルジオリピン抗体が陰性だったので,ま たAPSも考えにくいかなと思っていますが。 乳原 実際にはAPSの場合には腎外病変が先 に出てきてしまったりします。抗カルジオリピ ン抗体が,SLEのときに2,3割は陽性に出る ことがあります。そのときの腎病変はどうだろ うかということが問題になります。APSについ て多くの症例を集めている,北海道大学の渥美 先生にお聞きしますと,腎不全を呈することは ほとんどない。カルジオリピン抗体が陽性の場 合にむしろ脳とかの腎外病変の方がAPSの症 状がでやすいと言われました。ということで腎 病変はあっても,極めてというか,機能障害ま で来すことは極めて少ないということをよく言 われていますのでAPSがこのような血栓病変 から腎不全を起こしたとは考えにくいだろうと 考えます。 溶血性貧血と血小板減少があると。もう一つ 先ほど言いましたように,APSは腎不全がきたし にくいということを合わせますと,この人の場合 は腎不全も急激な腎不全が来ているということ で,それを合わせると臨床的にはHUSというこ とになってしまいます。さらに発熱とか,あとは 意識障害,そういう神経症状が出てきたらTTP ということになりますが,この場合は意識障害と しての脳血管障害はなかったわけですか。 鎌田(真) 意識障害も全くなく,経過中,ずっ とクリアで来られまして,発熱も入院後はずっ と熱もなく,微熱が出ることもなく,経過しま した。 乳原 だとしたら,三徴候が合致しますから。 HUSで全然問題はないと思います。この患者 の場合は,かなり激しい糸球体病変ともう一つ 細動脈病変がある。血小板減少とか,溶血性貧 血もあり,腎症も激しい変化があるSLEだから といって,急激に腎臓が悪くなることは通常な いわけです。やはり腎不全が急性に悪くなるよ うな症例は,HUS,TTPを考える。SLEにHUS を合併した症例だと考えられないのでしょう か。特にHUSのような場合には,こういう細 動脈病変でimmunoglobulinが沈着する場合には 激しい経過を取るのではないでしょうか。 座長 どうぞ。 鎌田(貢) 乳原先生の考えには疑問がありま す。このSLE症例でHUS,TTPはどういう機
序で起こっていると想定されますでしょうか。 乳原 IgGのような免役グロブリンが糸球体の 細動脈にくっつき病変をおこす。
鎌田(貢) 特発性TTPではvon Willbrand factor cleaving enzyme(ADAMS13)に対する自己抗 体(inhibitor)が発症に関与していますが、こ のような例では糸球体内皮障害は強いものの、 IgG沈着はほとんど見られません。また典型的 HUSは、病原性大腸菌が産生するverotoxinが 血管内皮細胞上のGb3に直接に結合して内皮障 害を発症させますが、このようなHUSでもIgG の沈着は見られません。HUS、TTPは、あくま でもthrombotic microangiopathy(TMA)として 発症し、障害部位の血管壁に免疫グロブリンの 沈着を伴いません。 また、抗リン脂質抗体は直接的に血管内皮を 障害して破砕赤血球症候群を起こしますが、一 次性のAPSでは血管障害部位への免疫グロブ リンの沈着はみられないとされています。マイ トマイシンCによるHUSも直接的な血管内皮 細胞障害によりますが、IgGの沈着は見られま せん。HELLP症候群でも血管内皮障害部位へ のIgG沈着は見られません。このように、破砕 赤血球症候群を呈する疾患では、障害局所への 免疫グロブリンの沈着は見られずに、内皮障害 が発症するのが一般と思います。 本 例 で はADAMS13は 正 常 で、ADAMS13 inhibitor も見られず、特発性TTPに見られる自 己免疫機序は見られません。 一方、本例では細動脈や糸球体に大量の免疫 沈着物を認めていますが、この沈着物が破砕赤 血球症候群を引き起こしたとするのは、類例が ないように思います。 乳原 ADAMS13の場合は,やはりSLEの場合 はなかなか出にくいということがすでに言われ ていまして,出る症例もあるようですが,ほか のSLE以外でTMAを呈したような症例を見て みると,immunoglobulinの沈着があまりはっき りしないということで,SLEでimmunoglobulin の沈着がはっきりしているということで,僕は SLEのimmunoglobulinの関係した細動脈病変, またはそれと関係したTMAとわたしは思った のですが。 鎌田(貢) 悪性高血圧で見られる破砕赤血球 は、ほとんどの場合で赤血球の1%以下で、稀 に数%になります。一方、特発性TTPや病原 性大腸菌が原因のHUSでは、破砕赤血球の割 合が5-30%にもなります。破砕赤血球の割合を 見るだけでも、ある程度は原因疾患や機序を想 定することができます。 この方の破砕赤血球は、最初は1%以下でし たので、特発性TTPやHUSの機序は働いてい ないであろうと考えていました。ところがステ ロイド治療が少し経過し、その効果が出てく る時期に、突然に破砕赤血球が4%くらいに増 加しました。血管病変や糸球体病変に対する治 療効果が出てくる時期に一致して破砕赤血球が 増加したこと、この時期に臨床症状の増悪や腎 機能の増悪を伴わなかったことから、輸入細動 脈や糸球体での血流再開が、破砕赤血球症候群 の増悪をもたらした可能性を考えています。輸 入細動脈や糸球体での破砕赤血球の形成は、悪 性高血圧などで見られるような、内皮障害に続 発する破砕赤血球症候群ではなかったかと考 えています。この症例の破砕赤血球症候群を、 HUS/TTPと簡単に片付けることには疑問があ ります。 乳原 では,もう一つだけ言わせてください。 HUS,TTPのときに,まず臨床で最初はHUS かなと思って考えていて,当初はなかなかすぐ に破砕赤血球というか,haptoglobinが下がらな いことがあります。しかし,経過を観察してい ますと遅れて破砕赤血球の増加,Hptの低下が おこるのも事実です。むしろimmunoglobulinに より細動脈が障害を受けてきて,糸球体に入る 血液の中の,赤血球は細動脈を通りますからそ こを通るとき障害を受ける。そこでトラップさ れ,修飾を受けて破砕赤血球がどんどん増えて しまうと考えたらいかがでしょうか。 鎌田(貢) 破砕赤血球の割合を見ていますと、
2つのグループがあるように思います。悪性高 血圧では、多くの症例の破砕赤血球比率は1% 前後以下です。このような例では、血管内皮障 害に続発して赤血球の破砕が起こるのではない でしょうか。 一方、特発性TTPやHUSでは、破砕赤血球 の割合は10-30%以上にもなります。このよう な疾患では、血管内皮障害によるだけでなく、 赤血球の変形能にも障害が起こって、大量の破 砕赤血球が形成される可能性を考えています。 この症例の破砕赤血球は4%程度ですので、 特発性TTPやHUSの破砕赤血球割合には届い ておらず、どちらかといえば悪性高血圧の機序 に近い可能性を考えます。 山口 鎌田先生,細動脈から血管極部にかけて あれだけhyaline materialが沈着していますが, やっぱりprimaryには内皮細胞障害がないと起 こらないと思います。そうすると。 鎌田(貢) APSですか。 山口 だからその区別は別にして,とりあえず あそこにあれだけmassiveに出るのには,内皮 細胞障害が先にないと起こらない現象だろうと 思います。それでは内皮細胞障害をどう考える かですよ。どうして起こったか。例えば,それ に対する抗体があるとか。 鎌田(貢) 今,持ってるデータの範囲では, APSの関与は完全には否定はできませんが。 山口 TMAはあのあたりに非常に内皮細胞障 害を起こしやすいのですね。急激に圧が変わり ます。 鎌田(貢) ですから,SLEの沈着物によって 起こったのか,それともAPSのようにTMAから, 血栓や内皮障害が起こって,この病態に進展し たかのいずれかであるかが,よく分からない。 山口 われわれの症例を一例を見せましたが, あれは全くthromboticなTMAの所見はないです。 べったりついても,それだけでは起こらない。 結局,現象としてTMAは起こしてこない。た だべったりくっついているだけ。 座長 どうぞ。 北澤 今のTMAはやっぱり内皮細胞障害主体 だと思います。noninflammatoryの場合には同 じような内皮細胞障害が来るのでしょうか。僕 は電顕を見ていて,TMAらしくないなという, 内皮細胞障害から見てそう思ったのですが。 noninflammatoryの方の内皮細胞障害の程度と いうのは知らないものですから,電子顕微鏡の 内皮細胞障害から今の鑑別はできないものかと いうことを疑問に思ったのですが。僕は今まで 経験したTMAの内皮細胞障害とはものすごく あの症例は軽いなと思ったのですが。 座長 重松先生,いかがでしょうか。 重松 血管病変はTMAのときに見られる細動 脈の変化は,もっとserous insudationが強いで すね。糸球体の方には,わたしも出しましたが, 一部にthrombotic microangiopathy様の変化が同 時進行していることは確かだと思います。今, 問題になっているのは,どうも糸球体病変にか なりび慢的なHUS,TTP様の病変が進展したの ではないかということで議論が進んでいます。 しかし電顕で見ますと,そんなに強い内皮下の 浮腫が全節にひろがっているということはない ですよね。ということで,わたし自身はあまり TTP/HUS説には乗っていないということです。 座長 山口先生はさっきTMAの方が。 山口 ですから同じHUSでも細動脈型と糸球 体型と広く分けられるのですよ。もちろんミッ クスしてくるタイプがある。細動脈型というの もあるのですね,同じTMAというかHUSでも。 ですからそれは理由は分かりません。ただ糸球 体の末梢側に,非常に顕著に出てくるというタ イプと,必ずしもそちらには出なくて,血管極 部型に細動脈型で出てくるタイプもあるという ことです。 座長 どうぞ。 角田 横浜南共済病院の角田です。話題がそれ てしまうのかもしれませんが,われわれもやっ ぱりSLEの活動性が高いときに下肢に突然,壊 死みたいな感じになって,実際,調べてみると APSも否定的だし,HUSみたいなものでもな
いし,どうして血栓はないのに,末梢のそうい う循環不全みたいなところから壊死を起こすよ うな症例があって,そういうものnoninflamma-tory necrotizing vasculopathyという風に考えると 個人的には思っていたのです。 さっき乳原先生がおっしゃったみたいにAPS だとすると,やっぱり腎臓だけに限局するとい うのは,SLEの病態を考えるうえではちょっと おかしいかなと僕も個人的に思って,頭のMRI とか眼底所見で何らかの血栓があれば,腎病変 に関してもAPSが関与するものと考えればい いと思いますが,それがないということなので, あとはSLEには一部,抗内皮細胞抗体みたいな ものができるので,そういうものも関係してい るのかなという印象を受けました。この方はち なみに下肢に潰瘍みたいなものがあったのかど うかというのは,いかがでしょうか。 鎌田(真) 入院時,皮疹はあって,それは皮 膚科の先生に診ていただきましたが,特に膠原 病と関係がないということで,紫斑などは出現 しませんでした。あと潰瘍もできたりというの はありませんでした。 角田 最後に重松先生がお示しになった脂肪織 のところにけっこう細胞浸潤があって,いわゆ るlupus profundusみたいな感じで,それも末梢 の循環障害のときに何かが関与しているのかな と思ったので,とても興味深い症例をありがと うございました。 座長 どうぞ。 大橋 虎の門病院の大橋です。お話を聞いてい ると,いわゆる病名としてのTMA,HUSとい う言葉と,病理所見としてのTMAがごちゃご ちゃになると議論がかみ合わないと思います。 本例は病名としてのHUS,TMAとは組織像も 違うと思いますが,TMAの病態があるかとい うところが問題だと思います。 先ほどSLE,vasculopathyに関する教科書の 分類がいろいろと紹介されましたが,個人的に SLEの活動性が非常に高いときに似たような細 動脈病変を経験したことがあります。分類に は困るのですが,SLEと関係ない人に見られる TMAの変化とは違う印象があり,SLE特有な 変化とも思えます。Heptinstallの教科書では似 たような写真をTMAと表現されています。 わたし個人としては,おそらく糸球体と連 続した細動脈病変があるので,引き金はやは りimmune depositというか,やっぱりimmune complexと関係した病変とは思いますが,やは り細動脈の内皮障害を合併して,他疾患に見ら れるようなTMA所見が合わさっているために こういう独特の所見が見られると思います。あ まりこの病態をどちらにあてはめるかという議 論をしていてもすっきりしませんし,SLE独特 の病態内皮障害に伴う破砕赤血球の出現を伴う ようなアクティビティの高いときに,出やすい 病態と解釈しています。 疑問点は治療を開始してから出始めている点 です。わたしの経験した例は非常にアクティブ なときに生検をして得られたものですから,こ ういう治療を開始後に出てくるというのは,は たしてどう説明すればよいのか分かりません。 その点はコメンテーターの先生に教えてほしい のですが。 座長 よろしいですか。治療に関してですが, 血漿交換が著効したようにも見えますが,nec-rotizing vasculopathyの治療に関しては,文献的 にはありますでしょうか。 鎌田(真) necrotizing vasculopathyそのもので はありませんが,ループス腎炎の血管病変を 伴っているものに対しても,血漿交換の明らか な治療効果がないという文献がたしかあったと 思います。 座長 vasculopathyといいますと,ステロイド とか免疫抑制製剤の方がむしろ効きそうな感じ はしますが。よろしいでしょうか。 そうしましたら,これで前半の部を終わらせ ていただきたいと思います。活発なご討議,あ りがとうございました。15分ほど休憩を取ら せていただきたいと思います。
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