はじめに
「倫理」の授業については多くの高校で多くの教員がさまざまな取り組みを展開してい る。先哲の考え方や宗教,日本人の思想や現代の諸課題などを教科書に沿って展開する授 業もあれば,「いのちの授業」とも言える内容を組み込んで授業を展開している教員もいる。
すべての学校に「倫理」が専門の教員がいるわけではないので,専門ではないが「倫理」
を担当することになった教員がそれぞれ工夫しながら授業を展開しているというのが現状 である。各教員の各単元に対する得手不得手もあり,各学校に一人ということも多いので 授業展開を共有することが難しい科目でもある。一方で,学習指導要領にも書かれている ように,先哲の考え方などを学習することは,高校生にとって人間としての在り方生き方 を考えていく上で手掛かりとなる概念や理論を学習することであり,自己の生き方につい てより深く思索する力や論理的に思考し説明したり対話したりする力の育成など,人間 的,精神的な成長の糧となる欠かせない科目でもある。
本稿で取り上げる「宗教」について,世間で一般的に言われていることは,キリスト教・
イスラームや仏教などを信仰する世界の多くの人々と日本に住む私たちの宗教に対する認 識には大きな差があるということである。どのような情報をどのくらい持っているのかは はっきりしないが,漠然と「宗教は嫌い」と言ってしまう生徒もいる。学習指導要領を再 度確認し,高等学校公民科の教科の特質を踏まえ,国際社会に生きる日本人としての在り 方生き方を育む授業設計や教育方法や「主体的,対話的で深い学び」や「思考力を高める 授業」の展開等について,「宗教」の単元の自らの授業実践を振り返り,宗教への理解や 倫理的な観点,異なる文化や宗教をもつ人々を理解し共生に向けて思索する手掛かりとな る場面などを確認し,人間としての在り方生き方についての自覚を育む授業にむけた研究
高校「倫理」の「宗教」の単元の指導
─人間としての在り方生き方についての自覚を育む高校公民科指導の考察─
堀 俊
の一助としたい。
1 教育基本法の宗教教育の規定
教育基本法の宗教教育の規定を確認しておく。
第 15 条 宗教に関する寛容の態度,宗教に関する一般的な教養及び宗教の社会生活にお ける地位は,教育上尊重されなければならない。
2 国及び地方公共団体が設置する学校は,特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活 動をしてはならない。
2 学習指導要領での「宗教」の扱いについて
平成 30 年3月に告示された新学習指導要領を確認しておく。学習指導要領の「倫理」
の目標は,「人間としての在り方生き方についての見方・考え方を働かせ,現代の諸課題 を追究したり解決に向けて構想したりする活動を通して,広い視野に立ち,人間尊重の精 神と生命に対する畏敬の念に基づいて,グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和 で民主的な国家及び社会の有為な形成者に必要な公民としての資質・能力を育成すること を目指す。」としている。
具体の宗教に関わる記述としては,2の「内容」の「A現代に生きる自己の課題と人間 としての在り方生き方」の(1)「人間としての在り方生き方の自覚」のア「次のような 知識及び技能を身に付けること。」の(イ)において「幸福,愛,徳などに着目して,人 間としての在り方生き方について思索するための手掛かりとなる様々な人生観について理 解すること。その際,人生における宗教や芸術のもつ意義について理解すること」とある。
また,内容Aの(2)「国際社会に生きる日本人としての自覚」のア「次のような知識及 び技能を身に付けること。」の(ア)「古来の日本人の心情と考え方や日本の先哲の思想に 着目して,我が国の風土や伝統,外来思想の受容などを基に,国際社会に生きる日本人と しての在り方生き方について思索するための手掛かりとなる日本人に見られる人間観,自 然観,宗教観などの特質について,自己との関りにおいて理解すること。」となっている。
3の「内容の取扱い」についての(3)「次の事項に配慮するものとする。」のイ「内容A については次のように取り扱うものとすること。」の(ウ)において「人間の尊厳と生命
への畏敬,自己実現と幸福などについて,古代ギリシアから近代までの思想,キリスト教,
イスラーム,仏教,儒教などの基本的な考え方を代表する先哲の思想,芸術家とその作品 を,倫理的な観点を明確にして取り上げること。」としている。
また,2の「内容」のB「現代の諸課題と倫理」の(2)「社会と文化に関わる諸課題 と倫理」では,「様々な他者との協働,共生に向けて,人間としての在り方生き方につい ての見方・考え方を働かせ,他者と対話しながら,現代の諸課題を探究する活動を通して,
次の事項を身に付けることができるように指導する。」とあり,アで「福祉,文化と宗教,
平和などについて倫理的課題を見いだし,その解決に向けて倫理に関する概念や理論など を手掛かりとして多面的・多角的に考察し,公正に判断して構想し,自分の考えを説明,
論述すること。」とし,3の「内容の取扱い」では,ウの(エ)で「文化と宗教」につい ては,文化や宗教が過去を継承する人類の知的遺産であることを踏まえ,それらを尊重し,
異なる文化や宗教をもつ人々を理解し,共生に向けて思索できるように指導すること。」 としている。
3 「宗教」に関する教科書の掲載状況について
高等学校「倫理」の三社の教科書において,キリスト教,イスラーム,仏教がどのよう に取り上げられているかを確認した。各教科書の章立てと見出し,小見出し及び掲載の ページ数は以下の通りである。
■実教出版「高校倫理 新訂版」
第1編青年期の課題と人間の自覚 第2章「人間としての自覚」
○第2節キリスト教~ 10 ページ
1.古代ユダヤ教:神との契約,神が与えた律法,預言者とメシア 2.イエス:イエスの教え,愛の神,神と隣人への愛
3.キリスト教の誕生と展開:イエスの死とキリスト教の誕生,イエスの贖罪の死,パ ウロと信仰義認,キリスト教の発展,スコラ哲学
○第3節イスラーム~4ページ
・イスラームの誕生,より徹底した一神教,『クルアーン』とシャリーア,イスラーム
神学
○第4節仏教~8ページ
1.仏教以前のインド思想:輪廻と解脱,真実の自己の探究
2.ブッダの教え:ブッダとその教団,苦とその原因,四法印,慈悲の実践 3.大乗仏教の成立とその教え:大乗経典の教え,空の思想と唯識思想
○宗教の死生観~2ページ
・生の意味と死後の世界,キリスト教イスラームの天国地獄,仏教ヒンドゥー教の輪廻,
現代人の関心,社会貢献の重視
○世界宗教の姿~2ページ
・キリスト教の信仰世界,イスラームの世界,仏教と瞑想
■東京書籍「倫理」
第2章「人間としての自覚」
○3節キリスト教~9ページ
1.旧約聖書の倫理:古代イスラエルの民とユダヤ教の世界,救世主の待望 2.イエスの教え:神の愛,神への愛と隣人愛
3.キリスト教の展開:イエスの死とキリスト教の成立,キリスト教の発展とパウロ,
教父哲学とアウグスティヌス,スコラ哲学とトマス・アクィナス
○4節イスラーム~3ページ
1.ムハンマドとイスラームの教え:イスラームの誕生,イスラームの教え 2.イスラームの展開:イスラーム共同体の拡大,イスラーム文化の展開
○5節仏教~8ページ
1.古代インドの思想:仏教以前の思想
2.ブッダの思想:苦しみからの解放,無常・無我の教え,慈悲の実践 3.仏教の展開:部派仏教,大乗仏教の成立
○思想の窓「宗教とは何か」~1ページ
■数研出版「改訂版 倫理」
第2編人間としての自覚 第1章西洋思想の源流
○第2節キリスト教~9ページ
1.古代ユダヤ教:イスラエルの神,預言者と救世主
2.イエスの教え:福音と神の国,神の愛,神の愛と隣人への愛
3.キリスト教の成立と発展:イエスの死とキリスト教の成立,パウロの伝道,キリス ト教の発展
○第3節イスラーム ・・・『クルアーン』の教え~3ページ
・ムハンマドの生涯,イスラームの教え,イスラーム文化の展開 第2章東洋思想の源流
○第1節古代インドの思想と仏教~9ページ
1.古代インドの社会と思想:カースト制度,ウパニシャッドの思想
2.ブッダの思想:ブッダの生涯,ガウタマの悟り,四諦・中道,慈悲の精神 3.仏教の展開:部派仏教,大乗仏教の成立,現代の私たちと仏教
○世界の主な宗教と宗教間対話~1ページ
以上のように,各教科書の掲載ページ数を見ると,キリスト教はユダヤ教を含めて9~
10 ページ,イスラームは3~4ページ,仏教はバラモン教ウパニシャッド哲学を含めて 8~9ページという分量になっている。
内容的には三社ともほぼ同じで,キリスト教では,ユダヤ教,一神教,イエスの教え,
原始仏教の成立,パウロ,アウグスティヌス,トマス・アクィナスである。イスラームで は,ムハンマド,一神教,クルアーン,六信五行,ジハードなどが書かれている。仏教で は,仏教以前のバラモン教(ヒンドゥー教),ウパニシャッド哲学,ブッダの教え,四苦 八苦,四諦,八正道,四法印,慈悲,原始仏教,大乗仏教の成立,空の思想などがその内 容である。
4 授業の展開
実際の授業展開のポイントを概観しておく。
(1)世界宗教と民族宗教と日本人の宗教観~「宗教」の単元のプロローグ
○世界の宗教人口(2017 年)
・キリスト教 24
.
5 億人(32. 9 %
),イスラーム 17.
5 億人(23. 6 %
),仏教 5.
2 億人(7%
),ヒンドゥー教 10
.
2 億人(13.
7%
)(インドの民族宗教),ユダヤ教は 1500 万人(0.
2%
), 全体では 74.
3 億人※世界人口の7割を超える人が神を信じている。日本では人口の 29%が神を信じていな い
(出典:「JMR調査レポート(2018 年度)」東京基督教大学国際宣教センター日本宣教リ サーチ)
○世界宗教
・民族や国家の枠を超えた,人類に開かれた普遍的な宗教。特定の民族に限定されず,す べての人間に開かれた普遍性をもつ。個人の内面的な宗教的自覚を重んじる。キリスト 教は隣人愛や黄金律を説き,仏教では,生きとし生けるものすべての幸福と平和を願う 慈悲の心を説き,すべての人を救いの対象とする。イスラームでは神アッラーは絶対的 な存在であるが,人間同士は平等であり,神アッラーを信仰する者はすべて同胞として 迎え入れ,孤児や貧しい人を助けよと説いている。こうしたことからキリスト教,イス ラーム,仏教は世界宗教になった。
○民族宗教
・特定の民族の間で信仰される宗教。民族の共同体と伝統の中で形成される。一般的に閉 鎖的・排他的な傾向をもちやすい。ユダヤ教にあっては「選民思想」(神から選ばれた 民族で,律法を守ることで神の恩恵によって救済が約束された民族であるという思想)
○日本人の宗教観
・統計をみると日本においては,神道と仏教を信仰する人がそれぞれ 8
,
500 万人余,キリ スト教やその他の宗教を信仰する人があわせて 1,
000 万人余となっている。宗教を信仰 していない人が人口の約3割いるとの統計と考えあわせると,重複してカウントされて いることがうかがえる。日常生活をみると,初詣では神社やお寺に参拝し,結婚式では 教会,葬式は仏式で行うなどのことはよく見られる。仏壇と神棚の両方がある家も多い。宗教に関する意識は,歴史,文化,政治などさまざまな要因が絡み合って根付いており,
国によって違いがある。日本人は多くの宗教や神を寛容に受け入れ,さまざまな宗教に 関わっている。日本古来の宗教が多神教であることも影響している。
・「八百万神」(やおよろずのかみ):古代日本人は,雨・風・嵐・雷などの自然現象や巨木・
巨石・山・海・太陽・動物など,およそ人が畏れ敬う感情をいだくものに名をつけ,神 としてみんなで祀った。祟り神であると同時に,誠意を尽くして祀れば恵みの神とも なった。自然物に宿る目に見えない神々の信仰
・多神教:ヒンドゥー教や古代ギリシア神話の神々も多神教。
○一神教
・ユダヤ教,キリスト教,イスラームは一神教。ただ一つの神を信仰する宗教。神は,全 知全能で万物の創造主とされている。これらの宗教は西アジアの砂漠地帯で生まれ,荒 涼とした砂漠を超越する天上の唯一の支配者が崇拝の対象になった。
(2)ユダヤ教,キリスト教,イスラーム,仏教の授業の概要
○ユダヤ教について
・ユダヤ教は,唯一絶対の神ヤハウェとの契約と選民思想,律法主義,民族の苦難から発 するメシア思想などがある。
・代表的な律法がモーセの「十戒」
・ヘブライ人=イスラエル人=ユダヤ人。紀元前 10 世紀にはダビデ王,ソロモン王のも とで栄えたが,紀元前6世紀までにイスラエル王国,ユダ王国が滅び,それ以降は 20 世紀までユダヤ人の国はできなかった。
・聖典は『旧約聖書(キリスト教から見て神との古い契約)』
○キリスト教について
・キリスト教では「神の無差別・無条件の愛(アガペー)」とその神の愛に対する「神へ の愛」と「隣人愛」を説く。隣人愛や黄金律を示す言葉や「山上の垂訓」,「放蕩息子の たとえ」などの内容を読み具体にイメージする。
・イエスは 30 歳で神の子を自覚し伝道を開始するも,ユダヤ教の祭司階級から神を冒と くするとして訴えられ,十字架にかけられた。十字架での刑死後に復活し,イエスこそ 救世主キリストであるとの信仰が生まれ,弟子たちが教会を起こして布教した。ローマ 帝国で4世紀に公認され,その後国教となった。
・キリスト教会は,16 世紀の宗教改革によってカトリックとプロテスタントに分かれた。
・聖典は『聖書(旧約聖書と新約聖書)』。
○イスラームについて
・イスラームは,唯一絶対のアッラーへの絶対的帰依を説く。信者はムスリム。開祖であ るムハンマドは「最大にして最後の預言者」。イスラームでは,人類の祖アダム,アブ ラハム,モーセ,イエスなども神の啓示を受けた預言者。
・六信五行は,イスラームにおいて信仰すべき6つの内容が「六信」,信者が実践すべき 5つの宗教的義務が「五行」。五行は,ラマダーンの月の断食は,飢えの体験を通して 飢える人に思いをはせ食物を恵む神に感謝するなど,それぞれ意味を有する。
・聖典は『クルアーン(コーラン)』。神アッラーがムハンマドに啓示した教えを記したも の。読誦する。『クルアーン』では「すべてのムスリムは兄弟である」とし,社会的弱 者を助け,連帯して生きることを説く。
・偶像崇拝の禁止や聖戦(ジハード),飲酒や豚肉食の禁止などの禁忌(タブー)も特徴。
○仏教について
・仏教がおこる前の古代インドのアーリア人の民族宗教であるバラモン教とその根幹とな るウパニシャッド哲学を概観。梵我一如,因果応報,輪廻転生。
・仏教の開祖はガウタマ・シッダッタ(ブッダ,釈迦とも呼ばれる)。ガウタマ・シッダッ タは釈迦族の王子だったが,人生に悩み,四門出遊後に出家し,6年間苦行したが,心 の平安が得られず,菩提樹の下で瞑想し悟りを開いた。
・仏陀とは,世界や人生についての普遍的真理を悟って「真理に目覚めた人」のことで,
仏教は,仏陀になるための教えであり,仏教は,永遠の真理(法,ダルマ)への自覚(悟 り)を説く。
・ブッダは,まず「一切皆苦」「四苦八苦」という現状を認識した。そして,苦の原因は「我 執と煩悩」である。すなわち,執着する心や怒り,無知などが苦の原因であるとする。
そこからブッダが悟った真理(ダルマ,法)は「縁起の法」「諸行無常」「諸法無我」で ある。欲望を滅し執着心を捨て去ることで心安らかな「涅槃寂静」の境地に立てると説 いた。
・ブッダの死後教団が形成され,約 100 年後には上座部仏教と大乗仏教に分裂した。上座 部仏教は,戒律を守り自分一人の悟りの完成を目指す。のちに東南アジア諸国に伝わり 南伝仏教ともいう。大乗仏教ではブッダの慈悲と利他の教えを受け継ぎ,自分一人の救 いではなく,一切衆生の救済を目指すようになった。中国や日本にも伝わり北伝仏教と
もよばれる。
・聖典は,ブッダの教えを「経」,ブッダの制定した戒律を「律」,ブッダの教えを解釈し 議論したものを「論」,あわせて「三蔵」。ブッダ入滅後の原始仏教では口伝,その後仏 典結集が行われた。大乗仏教が発展すると般若経,華厳経,法華経などの大乗経典がつ くられた。
5 授業展開上の留意事項
・教育基本法第 15 条にある「宗教に関する寛容の態度と宗教に関する一般的な教養」と いう点では,各宗教が史的にどのように展開してきたかということや,教義については 資料に基づいて理解を促す。
・各宗教の教義については,キリスト教の「隣人愛,黄金律」,イスラームの「孤児や貧 しい人を助けよ」として連帯して生きることを説いているところ,仏教の一切衆生に対 する慈悲と他者の救済を第一に考える利他の教えなどの共通項を手掛かりに,宗教の意 義についての考察を深めさせる。
・視聴覚教材の「十戒」のビデオ(チャールトン・ヘストン)やクルアーンの読誦のCD などを活用して具体的にイメージをもたせる。
・『旧約聖書』の創世記や出エジプト記,『新約聖書』の4つの福音書のイエスの言行など の部分を資料として示し,具体的にイメージをもたせる。
・自己との関わりにおいて理解するようにするために,グループワークなどの時間を設け て,自らの体験や他者との情報共有によって思索を深めさせる。
・授業のまとめとして,最も印象に残っていることや共感できると感じたことなどをテー マにグループで話し合いをさせた。グループワークの対話の中で,人によって思いの違 いがあることや共感するところなどを共有し,在り方生き方について考察することがで きた。
・各人での考察やグループワークを行うにあたって重要なことは,どの科目にも言えるこ とだが,設問・発問の仕方である。宗教の授業において「共感するところや印象に残っ たところはどのようなところか」という発問から,「どういう点で共感したか」「なぜ印 象に残ったか」をさらに踏み込んで考えさせることで,思考力を高めたり,考えたこと を表現することにつながる。「人にとって宗教とはどのような存在か」「なぜ人は宗教を
信仰するのか」という漠然とした発問も,出てきた回答をもう一歩突き詰めて発問する ことで,もう一歩踏み込んだ思索をさせることができ,その過程において思考力や表現 力を育むことができる。
・学んだことを使って自分のこととして考えるという取り組みを進めると,さらに思考力 を育むことにつながるが,そこにさらに自ら問いを立てて考えることができるとさらに 深い思索につながる。教員からの発問という手段と,生徒が主体的に問いを立てて思索 するという手段も用いて,生徒の実態を踏まえて授業設計を行うとより深い学びになっ ていく。
・生徒の中には信者もいる。教授者のバイアスがかかることも考えられる。学習指導要領 にもあるように,生徒が,他者とよりよく生きる自己を形成しようとする態度や,多面 的・多角的で前向き考察ができるように配慮することを常に意識したい。
おわりに
これからの時代に求められる力について,学習指導要領の公民科の目標では,「社会的 な見方・考え方を働かせ,選択や判断の手がかりとなる概念や情報を適切かつ効果的に調 べまとめること,それを活用して多面的・多角的に考察したり,公正に判断する力や議論 する力の育成,現代の諸課題を主体的に解決する態度や人間としての在り方生き方につい ての自覚を深めること」などがあげられている。「倫理」の科目で扱う内容は,人間とし ての在り方生き方について思索するための手掛かりになるとともに,グローバル化する国 際社会で主体的に生きていくための知識としても,世界の人々を理解していく上で欠かせ ない内容でもある。学習指導要領で示されている「倫理」の目標には,「他者と共により よく生きる自己の生き方についてより深く思索する力を活用して,論理的に思考し,現代 社会に生きる人間としての在り方生き方についての自覚を深める」とある。現在の高校生 を見ていると,日常生活の中で,「倫理」で扱う分野の情報をほとんど持っていない状況 があり,思索を深めたり,多面的に考察したり,人間としての在り方生き方を自覚すると いうようなことはなかなか行えていないように思われる。このことから「倫理」の授業で は,まずは先哲の思想や宗教などについての基本的な知識や,見方や考え方を意識して思 索の手掛かりとするという視点で授業を構成したい。
「宗教」の単元では,「人生における宗教の意義や基本的な考え方を,倫理的観点を明確
にして取り上げること」となっていることから,自己との関わりにおいて理解できるよう にしたい。そうした視点で「宗教」の単元の授業を行うことで,授業を通して宗教への理 解や倫理的な観点,異なる文化や宗教をもつ人々を理解し,共生に向けた思索を深め,「主 体的,対話的で深い学び」および「思考力を高める授業」を展開したいと考えている。
そのためには,第一に,手掛かりとなる各宗教の内容,出てくる逸話や教義を具体的に イメージさせることである。出てくる言葉も普段は使わない言葉などもあるので,かみ砕 いてイメージさせることで「主体的」に追究できるようにしたい。第二に,思索を深める ためにどのような発問を用意できるか,グループワークの討論でどのようなテーマを提示 することができるかが重要である。幸福とか愛に着目するのか,正義とか善あるいは真理 などに着目するのか,他者とともによりよく生きる自己の生き方を意識させるようなテー マや質問を精査して提示できるようにさらに工夫し,「対話的で深い学び」へと向かわせ る授業としたい。そして,グループワークや授業の振り返りなどを通して生徒が自身の中 で思索を深めることで「思考力」を育み,これまで以上に「主体的,対話的で深い学び」,
「思考力を高める授業」となるように授業設計や教育方法を追究していきたい。
これからの時代を生きる高校生に,「倫理」の授業を通して,倫理的な観点から他者や 社会とのかかわりを考え,人間尊重の精神や生命に対する畏敬の念をもち,思索を深め,
生徒一人ひとりが「人間としての在り方生き方についての自覚」を育むことができるよう な指導法をさらに研究していきたい。
【参考資料】
高等学校学習指導要領(平成 30 年3月告示)文部科学省 実教出版「高校倫理 新訂版」
東京書籍「倫理」
数研出版「改訂版 倫理」
山川出版社「倫理用語集」
JMR調査レポート(2018 年度)東京基督教大学国際宣教センター日本宣教リサーチ