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九州大学学術情報リポジトリ

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

電子およびアルゴンイオン-炭化水素衝突によるフラ グメントの生成機構

渡慶次, 学

九州大学総合理工学研究科分子工学専攻

https://doi.org/10.11501/3123081

出版情報:Kyushu University, 1996, 博士(工学), 課程博士 バージョン:

(2)

第五章

Ar+ーG,H2n(n=1ム3)衝突による励起水素原子の生成過程

5-1緒言

分子が光を吸収し、或いは電子や荷電粒子、中性粒子と衝突して生成する解離生成物の 並進・振動・回転エネルギーは、反応のダイナミクスを反映しており、それらの解析を行うこと で解離過程(フラグメントの生成過程)を理解することができる。 光、電子、荷電粒子、中性 粒子と分子との相互作用はそれぞれ異なり、フラグメントは異なった解離過程を経て生成し うると考えられ、これらを比較検討することは興味深い。

1975年から、電子一分子衝突で生成する励起水素原子の発光スペクトルを高分解能で 観測し、そのスペクトルの半値幅の解析から励起水素原子の平均並進運動エネルギーを求 め、その励起解離過程を研究することが行われはじめた[1-4]0 しかし、平均並進運動エネ ルギーを求める方法には二つの重大な欠点がある[5,6]0 (1)平均をとる方法(励起源子の 並進運動エネルギー分布がBoltzmann分布かδ関数的分布かどちらかを仮定)により平均 値が異なる。 (2)ゼロピーク成分に適用できない。 当研究室で、はこれらの欠点を正すため に、発光スペクトルをより高分解能で測定し、半値幅のみならず、スペクトル線形(Doppler 線 形)全体を利用して解離フラグメントの速度分布に何らかの仮定をおかずに解析し、その並 進運動エネルギー分布を求めることに成功した[7,8]0 その後、この手法を用いて多くの電子 一分子衝突系に適用し、数多くの成果を報告してきた。 当研究室では励起水素原子の Bahner発光を対象にしてきたのに対して、最近、Ajelloら[9-12]は当研究室で開発されたこの 手法を真空紫外領域のL戸nan発光に適用して、電子一水素衝突による水素分子の解離過 程を検討している。 このように解離フラグメントのDoppler 分光法は、分子の解離過程を理 解する上で非常に有効な手法といえる。

この解離フラグメント(励起原子)のDoppler 分光法は、1963年に分子の光解離に対して ZareとHerschbachによって定式化され[13]、その後、レーザーを用いて数多くの系で適用さ れている[14,15]。 しかし、粒子衝突と光解離では解析法が異なり、粒子衝突の解析は光解 離のように容易ではない。 また、この手法は高分解能測定を基にした解析が必要なために、

イオン衝突のような発光強度の弱い実験では本質的に困難であり、これまで上記の電子衝 突以外の系!こ適用されたことはなかったo イオン衝突の場合、励起源で、あるイオンの強度 (イオンビーム強度)が電子衝突に比べてかなり弱いために、発光断面積が電子衝突と同程 度で、あっても、得られる発光はかなり弱くなる。 本研究では、励起源の強度を上げるのでは なく、C CDカメラを用いて検出器側の感度を向上させ、高分解能測定を可能にし、世界で初 めて解離フラグメントのDoppler分光法をイオン一分子衝突で生成する励起水素原子に適用 した。

本章では、アルゴンイオンーアセチレン・エチレン・エタン衝突で生成する励起水素原子の 生成過程について述べる。 アルゴンイオンーアセチレン・エチレン・エタン衝突で生成する励 起水素原子のB油nぽ-<l,ß発光をイオンビームに対して900の方向から高分解能で測定し、そ

(3)

の並進運動エネルギー分布を求めた[16,17]0 また、Balmer発光をイオンビームに対して 450, 0。の方向から測定し、Doppler線形の角度依存性を求め、励起水素原子(n=3,4)の生成

過程を考察した。

5-2実験

5-2-1実験装置[15]

実験装置は第四章で述べたイオン一分子衝突発光スペクトル装置と以下に述べる点を除いて 全て同じである。 Doppler線形の角度依存性を測定するためにイオンービームに対して900方向 以外に、450, 00方向から測定できるように、若干ガスセルを改良した。 00方向測定の場合、

ファラデーカップを使って電流をモニターすることはで、きないので、2枚の平行プレートの一方 に高電圧を印可してイオンビームを曲げて、もう一方のプレートでイオン電流をモニターした (図5-1)0 450方向測定は、ガスセルの450方向に観測用の石英製窓をつけて行った。

Heat Sink

lon Beam

Wien Filter

lon Optics

Deflection Plates

Current Meter

Emission

Detection System

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Window

図5-1 イオン衝突発光スペクトル測定装置(00方向測定)

(4)

5-2-2発光強度の試料圧依存性

アルゴンイオンーアセチレン・エチレン・エタン衝突で、生成するBalmer-a,ß発光強度の試料 圧依存性は第四章で述べた方法で求めた。 図5-2に衝突エネルギー2.5 keVでアルゴンイ オン-エタン衝突で生成するBalmer-a発光の結果を示す。 その他のアルゴンイオン-エタ ン衝突で生成する Balmぽ-ß発光およびアルゴンイオンーアセチレン-エチレン衝突で生成す るBalmer-a,ß発光も図5-2と同様な結果を示した。 測定は第四章のCH(A2必x2I1)発光の試 料圧依存性(図4-5)と同様の条件で、行っているにもかかわらず、Balmer発光は CH(A弘ー だ町発光とは異なった依存性を示しているo つまり、 アルゴンイオン-アセチレン・エチレン・

エタン衝突で生成する励起水素原子炉=3,4)は、CH(A2ð)の場合とは異なり、一次過程のみ で生成している。 これは過去の報告されているアルゴンイオンーアセチレン衝突で生成する 励起水素原子(n=4)の結果[19]と矛盾がない。 高分解能発光スペクトル測定はいずれの分 子の場合も1.5x10・3 Torr程度で、行った。

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図5-2 発光強度の獄料圧依存性(アルゴンイオンーエタン衝突 ) イオンビーム電流: 1.7-2.5μA

5-2-3偏光度測定

偏光度の測定は光学系の偏光特性を考慮して行わなければならない。 偏光度測定を行 うために、 測 定 システ ム の石英レ ンズの前に可視領域用の 偏 光子 (SIGMA KOKI,

SPF3 0C32)を設置した。 D2ランプ(HAMAMATSU, L-1637)の発光は偏光していないとして、

偏光子の偏光方向がイオンビームに対して平行な場合のBalmぽ発光の強度I{( と垂直の場 合の強度I?を測定し、その比I{(/If!を光学系の偏光補正因子Gとして測定システムの偏 光特性を補正した。

(5)

(5-1)

実際の衝突で生成したイオンビームに対して平行な Balmer発光強度Iア と垂直な発光強度

IfPと理想的な(補正された)/"と/1の関係は次式で与えられる。

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Iょ I:xp G

従って 、 偏光度pは次のように書ける。

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偏光 補正因子および偏光度測定は偏光子を回転させて、平行-垂直の操作を繰り返す 度に信号を記録した。 各衝突エネルギー毎に、平行一垂直の操作を約10-20回行ったo 測定はBalmer-a,ßの両発光について行ったが、Balmer-ß発光は強度 が弱く、ふらつき が大

きいために偏光度を求めることは できなかった。

5-2-4試薬および測定条件

本実験で、用いた試料ガス(アセチレン・エチレン・エタン)および イオンソースガスは全て第 四章の測定に用いたものと閉じである。

典型的な測定条件を以下に示す。

アルゴンイオン衝突エネルギー イオンビーム 電流

イオンソース圧 フィラメント電源

アノード電源 偏向板電源

Wienフィjレター電源(磁場) Wienフィ}l"ター電源(電場) 分解能

測定時間(観測角900)(エタン)

(エチレン)

: 0.4, 0.5, 1.0, 1.5, 2.0, 2.5 keV : 0.1 - 2μA

: 8x10-2 TOIT

16.0A, 15 V

: 8.0A, 80V (放電時)

: 130 V (衝突エネルギー:2.5 keV) : 1A,1V (衝突エネルギー : 2.5 keV)

: 20V (衝突エネルギー:2.5 keV)

: 0.024 nm(FWHM) ,試料圧依存性: 0.3 nm(FWHM) , 偏光度測定:0.024 nm(FWHM)

:5min(衝突エネルギー2.5keV, Balmer-a) 10 min (衝突エネルギー2.0-1.0keV, Bahner-a) 15 min (衝突エネルギーOふ0.4keV, Balmer-a) 20 min (衝突エネルギー2.5keVBahner-ß) , 30 min (衝突エネルギー2.0-1.0keV, Bahner-ß) 40 min (衝突エネルギー0.5ke V, Balmぽ-ß) 10 min (衝突エネルギー2.5-1.5keVBalmぽ-a), 15 min (衝突エネルギー1.0keV, Balmer-a)

(6)

(アセチレン )

5-3結果と考察

30 min (衝突エネルギー0.5keV, Balmer-a) 40 min (衝突エネルギー0.4 keV, Balmer-a) 10 min (衝突エネルギー2.5ke V, Balmer -ß ) 20 min (衝突エネルギー2.0 keV, Balmer-ß) 40 min (衝突エネルギー1.5keV, Balmer-ß) 50 min (衝突エネルギー1.0-0.5keV, Balmer-ß) : 10 min (衝突エネルギー2.5keV, Balmer-a)

20 min (衝突エネルギー2.0-1.5keV, Balmer-a) 30 min (衝突エネルギー1.0 keV, Balmer-a) 40 min (衝突エネルギー0.5keV, Balmer-a) 15 min (衝突エネルギー2.5keV, Balmer-ß) 20 min (衝突エネルギ-2.0 keV, Balmer-ß) 30 min (衝突エネルギー1.5-0.5keV, Balmer-ß)

5-3-1

Balmer発光のDoppler線形-900方向測定一[16,17]

アセチレン・エチレン・エタンをアルゴンイオンと衝突させると、可視領域に解離フラグメント H・やCH・からの発光を生じる[20]0 アルゴンイオンーアセチレン・エチレン・エタン衝突で、生 成する励起水素原子のBalmer-a,ßの発光強度は、CH(A2ð-X2I1)発光とは逆に、エタン、エチ レン、アセチレンの11慎で弱くなる。

因子3 rこ衝突エネルギー2.5 keVで、測定したアルゴンイオンーアセチレン・エチレン・エタン 衝突で生成したBalmer-a 発光のDoppler線形を示す。 3つの分子から得られたDoppler線 形は、非常に類似していることがわかる。 Doppler 線形は幅の狭い中心のピーク(遅い成 分 )と幅の広がったウイング(速い成分)の二成分から成っているo 狭い中心のピークの線 幅は約2λで、炭化水素分子の電子衝突で生成するBalmer線の線幅[21 -お捗り僅かに広 い。 一方、広がったウィングの線幅は約5Åで、電子衝突の結果と比較すると非常に大きい ことがわかる。 図5-4 rこ衝突エネルギー2.5 keVで測定したアルゴンイオンーアセチレン・エ チレン・エタン衝突で、生成したBalm怯P発光の Doppler 線形を示す。 Balmer-ß 発光の Doppler線形も Balmぽ4 の場合と問機にお互い類似しており、二成分からなり、狭い中心の ピークの線幅は電子衝突で生成するBalmer 線とほぼ同じ幅を持ち、広がったウィングの線 幅は電子衝突の場合より広い。

図5-5にアルゴンイオンーエタン衝突で、生成するBalmer-α発光のDoppler線形の衝突エ ネルギ一依存性を示す。 Doppler線形は明らかに衝突エネルギーに依存しており、線幅と 狭い中心のピークの相対強度(狭い中心のピークに対する広がったウィングの量)は衝突エ ネルギーの低下とともに減少していく。 図5-6,5-7にそれぞれアルゴンイオンーエチレン、ア セチレン衝突で生成するBalmer-a発光のDoppler線形の衝突エネルギー依存性を示す。

いずれの場合もエタンの場合と問機な衝突エネルギー依存性を示す。 図5-8から因子10 に エタン、エチレン、アセチレンのBalmer-ß発光のDoppler線形の衝突エネルギー依存性を示 す。 Balmer-ß発光の場合もBalmぽ4発光と同稼にお互い類似しており、同様な衝突エネル

(7)

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アルゴンイオンーアセチレン衝突で生成するBalmぽ4発光の Doppler線形の衝突エネルギー依存性(900)

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アルゴンイオンーエタン衝突で生成するBalmer-ß発光の Doppler線形の衝突エネルギー依存性(900)

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図5-9 アルゴンイオンーエチレン衝突で生成するBahnぽ-ß発光の Doppler線形の衝突エネルギー依存性(900)

(14)

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図5-10 アルゴンイオンーアセチレン衝突で、生成するBalmer-ß発光の Doppler線形の衝突エネルギー依存性(900)

(15)

ギ-依存性を示す。

生成した励起水素原子の並進運動エネルギー分布は解離する親分子の励起状態の ポテ ンシャルと密接に関係しているので、電子一分子衝突で生成する励起水素原子のBalmer発 光のDoppler 線形は、個々の親分子に依存した特徴的なスペクトルの形状を示す[24,25]0 しかし、アルゴンイオンーアセチレン・エチレン・エタン衝突で、生成した幅の広がったウイング (速い成分 )は観測したエネルギー領域の全ての衝突エネルギーで、お互い類似しているo こ れは、幅の広がったウィングを持つ励起水素原子の生成機構は 3つの分子で同じであること を示唆している。

衝突によって生成したフラグメントの運動が近似的に等方的と仮定してよく、かつ Doppler 線形が十分によい分解能で測定されている場合、解離フラグメントの Doppler 線形C F(ðλ) ) を波長微分すれば発光しているフラグメントの並進運動エネルギー分布(口(E) )を得ること ができる[7,8]0

日(E)= -dF(ω)/d以 (5-4)

ここで、AλはDopplerシフトで、ある。 本研究で得られたDoppler線形は近似的に対称形であ るので、少なくとも近似的にはアルゴンイオン衝突で生成する励起水素原子の並進運動エネ jレニギ一分布を求めることができる。

図5-11 に衝突エネルギー2.5keVで、測定したアルゴンイオン-アセチレン・エチレン・エタン 衝突で、生成したBahner-a発光のDoppler線形(図5-3)を波長微分することで、得られた励起水 素原子炉=3)の並進運動エネルギー分布を示すo 図中には各々並進運動エネルギー値に2 つのポイント(黒丸)がある。 これは、Doppler線形の中心CBalmer 発光の遷移波長)から右 側の部分と左側の部分の波長微分に対応している。 これら2点の差が実験誤差を表してい る。 図5-3のDoppler線形の類似性から予想されたように、3つの分子は閉じ並進運動エネ ルギ一分布を持つ。 並進運動エネルギー分布は約10 eVと約1∞eVの2つのピークを持 っているo 前者は遅い成分、後者は速い成分で、それぞれ図5-3のDoppler線形の幅の狭 いピークと幅の広がったウィングに対応している。 速い成分の並進運動エネルギーは非常 に大きな並進運動エネルギーを持っている。 このような大きな並進運動エネルギーを持つ 励起水素原子の生成はこれまで報告されてなく、本研究で初めて見出された。

図5-1 2 にアルゴンイオンーエタン衝突で、生成する励起水素原子(n=3)の並進運動エネル ギ一分布の衝突エネルギー依存性を示す。 図5・5のDoppler線形から予想されたように、

明らかに並進運動エネルギ一分布は衝突エネルギーに依存している。 速い成分のピーク は衝突エネルギーの低下とともに並進運動エネルギーの低い方にシフトする。 これは遅い 成分が弱くなるために、衝突エネルギーが1.0 keV以下では2つのピークの区別が困難にな ると考えられる。 図5-13,5・14にアルゴンイオンーエチレン、アセチレン衝突で生成する励起 水素原子炉=3)の並進運動エネルギー分布の衝突エネルギー依存性を示す。 Doppler線形 と同様に、エチレン・アセチレンから得られた並進運動エネルギ一分布はエタンの場合と同じ 衝突エネルギー依存性を示す。 図5・15,5-16,5-17にアルゴンイオン衝突で、エタン、エチレン、

アセチレンから得られた励起水素原子(n=4)の並進運動エネルギー分布の衝突エネルギー 依存性を示す。 3つの分子から得られた励起水素原子炉=4)の並進運動エネルギー分布も

(16)

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図5-13 アルゴンイオンーエチレン衝突で、生成する励起水素原子(n=3) の並進運動エネルギー分布の衝突エネルギー依存性

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(22)

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図5-17 アルゴンイオンーアセチレン衝突で、生成する励起水素原子(n=4) の並進運動エネルギー分布の衝突エネルギー依存性

(23)

励起水素原子(n=3)の場合と同じように同じ衝突エネルギー依存性を示す。

アルゴンイオンーアセチレン・エチレン・エタン衝突で、生成する励起水素原子(n=3,4)の速い 成分の並進運動エネルギー分布のピークと衝突エネルギーの関係を図5-18に示す。 3つ の分子はn=3、n=4にかかわらず、実験誤差範囲内で閉じ衝突エネルギー依存性を示してい る。 従って、速い成分の生成機構は3つの分子で同じであると結論した。

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3 2.5

1.5 2 0.5

回50

Collision energy (keV)

速い成分のピークの衝突エネルギー依存性 企エタン(Balmer-a) .エチレン(Balmer-a)

・アセチレン(Balmer-a)

ムエタン(Balmer-ß)く〉エチレン(Balmer-ß) 実線と破線は本文参照

図ふ18

(24)

平均並進運動エネルギーが衝突エネルギーとともに増加する傾向は、電子衝突の場合で も観測される[21-23]0 電子衝突の場合、励起水素原子は異なる複数の過程を通して生成し ており、通常、よりエネルギーの高い励起状態は、より大きな並進運動エネルギーを持つ励 起水素原子を生成する。 ある 1 つの過程を通して生成した励起水素原子の並進運動エネ ルギ一分布はしきい値近傍を除いて衝突エネルギーに依存しない。 従って、平均並進運動 エネルギーの増加は、より高い励起状態を経由して生成する励起水素原子の相対的な割合 が増加していることを示している。 一方、本研究の速い成分は、単一の過程で生成している ように思われる。 本研究で観測された速い成分の並進運動エネルギーは衝突エネルギー とともに増加しており、電子衝突のような親分子の励起状態を経由した解離過程で生成する モデルで説明することはできない。 さらに、速い成分の並進運動エネルギーは非常に大き すぎて励起状態の解離では説明できない。 解離の余剰エネルギーは、二電子励起状態の ような非常に高い反発型の励起状態でもせいぜい20eV程度である。

以上のことを考慮すると、アルゴンイオンーアセチレン・エチレン-エタン衝突で生成する励 起水素原子の速い成分は、炭化水素分子中の1つの水素原子とアルコンイオンとの直接衝 突で生成していると考えられる(図5-19)。 つまり、

(1 ) 炭化水素(R-H)内の1つの水素原子(H)とアルコンイオンが衝突する。

(11 )その水素原子は大きな並進運動エネルギーと励起エネルギーを受け取り(momentum­

仕ansfer)、励起水素原子(H.)として解離する。 これは非断熱過程である。

。11) 解離・励起の問、残った分子(R)はスペクテーターとして振る舞う。

⑨ =⑪

R = C2H. C2H3• C2Hs

図5-19 衝突のモデル

図5・18の破線はアルゴンイオンと水素原子の衝突を弾性衝突モデルで計算した結果であ る。 質量m 品 、 速度v. ...のアルゴンイオンと質量mH,速度νHの水素原子が中心衝突した

(25)

場合、衝突後の水素原子の並進運動エネルギー(仰mHv� )は次のように書ける。

1 4m ,m., 官

-mHν3=1\ m Ar' Ar+'m口,JJ、空× 三" I \I'" 'J -mAr' .Ar 2+ σ-5)

ここで、ν'は衝突後の水素原子の速度である。 実際の衝突は中心衝突のみで、はないので、

その平均は次のようになる[26]0

;

-mH

(

= 1/ 2mfHロ ×

;

mb+

ι

m +m口I -

\ Ar‘ “1

(5-6)

図5-18 の破線は式(5-6)から求めた平均並進運動エネルギー値である。 破線は実際の速い 成分のピークの衝突エネルギー依存性と同線な傾向を示すが、約 20 eV の差がある。 しか し、実際の衝突はアルゴンイオンと水素原子の衝突ではなく、アルゴンイオンと炭化水素分 子の衝突である。 つまり、励起水素原子が生成するためには、R-H結合解離エネルギー

(エタン:4.33 e V[27],エチレン:4.29 e V[27] ,アセチレン:5.71 eV[28])と水素原子の励起エネ

ルギー(H.(n=3):12.09 eV, H.(n=4): 12.95 eV[29])を差し引かなければならない。 弾性衝突 モデルに基づいて計算した励起水素原子の平均並進運動エネルギーからそれらの寄与を 差し引いた結果を図 5-18 rこ実線で示した。 その効果を考慮することで、観測値と計算値は 実験誤差内で一致した。 この結果は、提案したモデルが速い成分の生成機構として妥当で あるということを示している。

電子衝突とは逆に、アルゴンイオン衝突で生成するBalme r線の発光強度は炭化水素分 子内の水素原子数の減少とともに小さくなる。 提案したモデルでは、アルゴンイオンと炭化 水素分子内の1つの水素原子との衝突確率は分子中の水素原子数とともに大きくなる。 こ れもまた、提案したモデルの妥当性を示している。

Kitaら[30]はアルカリイオン(日必く350 eV)一窒素・二酸化炭素衝突で生成する散乱イオン の飛行時間測定(TOF)を行った。 彼らはエネルギー口ススペクトルの構造が入射イオンと 分子内のある特定の1つの原子との相互作用、イオンー原子衝突、つまり、本研究のような スペクテータ-モデルで説明することができると報告している。

本研究の光学分解能は電子衝突の場合(Fabry-Pérot干渉計を用いて分解能 0.001 nm) [21・23]より悪いので、正確に比較することはできないが、並進運動エネルギー分布の遅い 成分のピークは、ほぼ電子衝突の場合と等しい。 従って、遅い成分のピークは電子衝突の 場合と同様に親分子の解離性励起を通して生成していると結論した。

第四章で述べたように[20]、アルゴンイオンー炭化水素分子衝突で生成する CH(A2Ó)状態 はcharge-仕ansferで親分子の励起イオン状態を経由して生成しており、比較的遠距離の相互 作用、つまり、衝突パラメーターの大きな衝突で、生成している。 実際、CH(A2Ó-X2fI)発光の 回転線の線幅は分解能程度(約0.1 nm)なので、CH(A2Ó)状態の並進は冷えている。 一方、

励起水素原子の速い成分はかなり衝突パラメーターの小さい衝突で生成しており、同じ衝突 系で、衝突パラメーターの異なる解離機構が存在する。

(26)

5-3-2 Balrner発光のDoppler線形_00方向測定-[31]

前節で、提案したモデルが正しいとすると、イオンビームに対して 00方向から Baln町発光を 観測すればDoppler線形は前節で、示したような左右対称形ではなく、速い成分が短波長側 に偏った非対称形になると考えられるo そこで、ガスセル等を改良して00方向から発光を観 測できるようにした(図 5-1)0 0。方向の観測で、はフィラメントからの発光が測定する Balmer 発光に重なってくるので、S/N 比が非常に悪くなり、発光強度の弱い発光については測定が 困難で、あった。 実際に測定で、きたのは(解析可能な S/N比のスペクトル)、Balmer-a発光は

エタンの2.5-1.5 keV、エチレンの 2.5 keV、アセチレンの 2.5 keV、Balmer-ß発光については全

く測定できなかった。

図5-20 に衝突エネルギー2.5 keV で狽IJ定したアルゴンイオンーアセチレン・エチレン・ヱタン 衝突で生成したBalmer-a発光のDoppler線形を示す。 Doppler線形は900方向の結果と同 様に分子依存性はほとんどなく、幅の狭いピーク(遅い成分)と幅の広いウィング(速い成分) の二成分からなる。 しかし、Doppler線形は予想された非対称形ではなく、やや前方(短波 長側)に分布は多いが約0.3入を中心としたほぼ対称形で、あるo つまり、この結果はアルゴ ンイオンーアセチレン・エチレン-エタン衝突で生成した励起水素原子(n=3)の速い成分は前 方でけでなく、後方にも生成していることを意味している。

図5-2 1 にアルゴンイオンーエタン衝突で生成するBalmer-a発光のDoppler線形の衝突エ ネルギ一依存性を示す。 Doppler線形は900方向の結果と同様に衝突エネルギーの低下と ともに速い成分の線幅は狭くなり、遅い成分の相対強度は減少していく。 測定で、きなかった より低い衝突エネルギーやエチレン・アセチレンの結果は、900方向と測定で、きた 00方向およ び次節で述べる450方向の結果を併せて考えると、おそらく分子依存性はなく、衝突エネル ギ-依存性も同様の振る舞いを示すと思われる。

得られた Doppler線形は非対称形(正確な対称形ではない)で中心がずれているために、

前節のようなDoppler線形の波長微分により並進運動エネルギー分布を求めることができな い。 しかし、衝突エネルギー2.5 keV で生成したDoppler線形の速い成分は約10λの線幅を しており、非常に大きな並進運動エネルギーを持つ励起水素原子が生成していることがわ かる。 図5-2 2 (こ衝突エネルギー2.5 keV でアルゴンイオンーエタン衝突で生成したB油nぽー α発光の00,900方向のDoppler線形の比較を示す。 00方向で観測したDoppler線形の幅の 広いウィング(速い成分)は、900方向の Doppler 線形と比較するとかなり大きな幅をしている ことが分かる。 これは 900方向に生成した励起水素原子より大きな並進運動エネルギーを 持つ励起水素原子が 00方向(1800方向)に生成していることを意味している。 この様な大き な並進運動エネルギーは弾性衝突のような大きな運動量移行を伴う衝突を考えないと説明 することはできない。 従って、前方に生成した励起水素原子は前節で述べた生成機構を経 て、後方に生成した励起水素原子は次のような二段階(rめound)衝突を経て生成していると 考えられる。

(1)炭化水素(R-H)肉の1つの水素原子(H)とアルゴンイオンが衝突する。

(11) その水素原子(H)と残った分子(R)が衝突し、水素原子は大きな並進運動エネルギー と励起エネルギーを受け取り(momenωm-transfìぽ)、励起水素原子(H.)として反跳され る。

(27)

(a)

",

.

I

. ・・."J .ー・・ァ ..--- .

(lffλyd・ ~品JW4

CJ)I

吟-

Cコ、cgv一告の)

(b)

-..・

、AV一ωCO

VC ...;1f4"l'・

(c)

• • -

-10 -5 。 5 10

Doppler shift (A)

図5-20 Balmぽ4発光のDoppler線形(衝突エネルギー2.5 keV, 00) (a)アセチレン(b)エチレン(c)エタン

(28)

2.5 keV 、

-

-

-

(ω日一Cコ、CC」tD

E---C)

2.0 keV

l-

--­・4...

, �

1.5 keV

-・

・'.. a司.

,1

"J

-10 -5 。 5 10

Doppler shift (A)

図5・21 アルゴンイオンーエタン衝突で、生成するB油nぽ4発光の

(29)

L- ­ 司 .・

但)

-

-

2

】'

-

、‘za,Fhu (ωtcコ.2」SP一ωCOHC

5 10

アルゴンイオンーエタン衝突で生成するBalmer-a発光の Doppler線形の角度依存性(衝突エネルギー2.5keV) (a) 00方向 (b) 900方向

Doppler shift (刈

-10 -5

図5-22

(30)

つまり、後方に生成した非常に大きな並進運動エネルギーを持った励起水素原子は図 5-23 に示したような二段階衝突で生成していると考えられる。 Doppler線形の類似性から、3つの 分子の速い成分は閉じ生成機構で生成している。

⑪λ

⑪λ@入R FJeR 主〈

図5-23 衝突のモデル(後方散乱)

R

Doppler 線形の中心のピーク位置のずれの原因として、次の 2つの理由が考えられるo (1)親分子の励起状態経由の遅い成分にも運動量移行の寄与がある。 (2)速い成分の分 布のピークが短波長側にず、れているために遅い成分のピークが見かけ上、中心からず‘れて いるように見える。 図5-21に示したようにアルゴンイオンーヱタン衝突で、生成するBalmer-a 発光は、衝突エネルギーを変化させても遅い成分の中心のピーク位置は変化しない。 衝突 によって移行する運動量は衝突エネルギーに依存するので、(1)が正しいのなら遅い成分の ピークは衝突エネルギーを高くすると短波長側にシフトしてし、くと考えられるO また、アルゴ ンイオンーエタン衝突で、アルゴンイオンからエタンに移行する運動エネルギーは非常に大き く(同11体球中心衝突を仮定すると、衝突エネルギー2.5keVで約 2.4 keV)、約0.3 Aの中心の ずれは説明できない。 従って、Doppler線形の中心のピーク位置のずれは、(2)の速い成分 の分布のピークが短波長側にずれているためだと考えられる。

5-3-3 Balmer発光のDoppler線形-450方向測定一[31]

アルゴンイオンーアセチレン・エチレン・エタン衝突で、生成する励起水素原子炉=3,4)の生成 過程を詳細に検討するために、Balmer-a,ß発光をイオンビームに対して450方向から観測し た。 図5-24 rこ衝突エネルギー2.5 keVで測定したアルゴンイオンーアセチレン・エチレン・エ タン衝突で生成したBalmぽ4発光のDoppler線形を示す。 得られたDoppler線形は900,00 方向の結果と同様に分子依存性はなく、幅の狭いピーク(遅い成分)と幅の広いウィング(速

い成分)のニ成分からなる。 しかし 、速い成分は前方(短波長側)のみに分布しており、

Doppler線形は非対称形をしている。 従って、速い成分はイオンビームに対して1350方向に

参照

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