九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
金属配位官能基を有するDNA配位子の合成と機能評価
末田, 慎二
九州大学工学応化分子分子システム工学
https://doi.org/10.11501/3135034
出版情報:Kyushu University, 1997, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
金属配位官能基を有するDNA配位子の合成と機能評価
平成1 0年1月
末田 慎二
目 次
第1
:章 序論
第2章 金属配位官能基を有するアントラキノン誘導体とDNAの相互作用 15
2・1 緒言
2・2 金属配位官能基を有するアントラキノン誘導体の合成
15 18 2-2-1 8-(anthracene-9, 10-dione-l-yl)-4,8・di辺a-4-methyloctylamine (3)の合成 18 2-2-2 11-(anthracene-9,10-dione-l・yl)-3,7,11-triaza-7・methylundecanoic acid (1)の合成 20 2-2-3 N-[8-(anthracene-9, 10-dione-l-yl)-4,8-diaza-4-methylocthyl]iminodiacetic acid (2)の合成 22
2・2-4 まとめ 25
2-3 アントラキノン誘導体とDNAの会合挙動 26
2・3-1 DNA共存下でのアントラキノン誘導体の吸収スペクトル 26
2-3-2 Scatchard解析による結合定数の決定 27
2-3-3 アントラキノン誘導体とDNAの会合挙動における塩濃度の効果 32
2-3-4 まとめ 36
2-4 金属イオン共存下でのアントラキノン誘導体とDNAの会合挙動 38
2-4-1 Cu(II)共存下で、の解析 38
2-4-1-a モル比法による錯体組成の決定 38
2-4-トb Scatchard解析による結合定数の決定 42
2-4-1-c プラスミドDNAの切断反応 45
2-4・2 ランタノイド金属イオン共存下での解析 50
2-4-2・a モル比法による錯体組成の決定 51
2-4ーユb Scatchard解析による結合定数の決定 55
2-4・2-c プラスミドDNAの切断反応 58
2-4-3 まとめ 61
2-5 結言 62
第3章 金属配位官能基を有するオリゴヌクレオチドとDNAの相互作用 63
3-1 緒言
3-2 イミノ二酢酸修飾ピリミジン7量体 3-2-1 オリゴヌクレオチドの合成
3-2-2 イミノ二酢酸修飾ピリミジン7量体(4)の合成
3-2-2・a ニトリロ三酢酸ジエチルエステル(8)の合成 3・2・2-b スクシンイミドエステル(9)の合成
3・2-2-c オリゴヌクレオチド(10)の合成 3-2-2-d オリゴヌクレオチド(4)の合成
3-2-3 イミノ二酢酸修飾ピリミジン7量体(4)とDNA二本鎖の相互作用 3-2-4 まとめ
3-3 イミノ二酢酸修飾ピリミジン14量体(その1 )
3・3・1 イミノ二酢酸修飾ピリミジン14量体(5)とDNA二本鎖の相互作用 3・3-1-a 測定条件の検討
3-3-1-b 複合体の安定性に及ぼす金属イオンの効果
3-3-2 まとめ
3-4 イミノ二酢酸修飾ビリミジン14量体(その2 )
3-4-1 イミノ二酢酸修飾ピリミジン14量体(6)とDNA二本鎖の相互作用 3-4-1-a 複合体の安定性に及ぼす金属イオンの効果
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3-4-トb 熱力学パラメータの算出 102
3-4-2 まとめ 105
3-5 結言 106
第4章 オリゴヌクレオチドとランタノイド金属イオンの複合体の発光挙動 108
4-1 緒言 108
4-2 核酸塩基からのエネルギー移動に基づいたランタノイド金属イオンの発光 110
4-2-1 T吹田)系 112
4-2-1-a Tb(lli)ー一本鎖DNA複合体の発光挙動 112
4-2↓b Tも但1)ー三本鎖DNA複合体の発光挙動 115
4-2-2 Eu佃)系 124
4-2司2-a Eu(田)ー一本鎖DNA複合体の発光挙動 124
4-2-2・b Eu(III)-三本鎖DNA複合体の発光挙動 126
4-2・3 まとめ 130
4-3 0-フェナンスロリンからのエネルギー移動に基づいたランタノイド金属イオンの発光 132
4-3-1 Tb(III)ー フェナンスロリン ー三本鎖DNA複合体の発光挙動 134
4-3-2 Eu(III)ー フェナンスロリン ー三本鎖DNA複合体の発光挙動 142
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145
148
第5章 結論 149
参考文献 155
第1章 序論
デオキシリボ核酸(DNA)は生体細胞内にある遺伝物 質であり、 すべて の生命現象に関する情報をその分子内に 内在さ せた高分子である。 DNAは 原核 生物 から真核 生物に至るま であらゆる生命体の遺伝 を司り、 その基 本 構 造は 生体問で不変である。 DNAの高次構造につい ては、 1 953年にワトソ
ンとクリックに よって、 DN A二重らせんモデルが提唱され た1 )。 それ以来、
DNAは構造既知の単なる化学 物質(高分子)として捉えることが できるよ う になり、 化学者や薬学者さらには物理学者にとっての研究対象となって い った。 このよ うな流れの中で、 DNA 化学 を 中心として様々な 研究領域の
融合が起こり、 分子生物学とい う新しい 分野が誕生した。 この分子生物学 の発展によって、 今まで謎に包まれていた多くの生命現象が科学的に分子
レベルで解き明かされてきている。
DN A二重らせんの構造及びその基本構 造を図1 - 1に示す。 DNAの構 成単 位はヌクレオチドであり、 これは核酸塩基、 糖、 リン酸の三種の要素から なる。 ヌ クレオチドが脱水縮合、 つまり リン酸ジエステル結合でつなが っ
たものが DNA である。 DNA を 構成している4つの塩基、 A (アデ ニ ン)、
G (グアニン)、 T (チミン) 、 c (シトシン )のうち、 AとT、 GとCが水 素結合を介した塩基対をつくり、 2重ら せんの疎水的コアを形成している。
そ し て 、 そ の外側に は糖とリン 酸 が交互に 結 合 し た親水 的 な骨格
(b ack bo n e) がある。 さらに、 特にB型DNAで明瞭に観ることが できるが 、
グルーブ (溝)と呼ばれる2本のポリヌクレ オチドの間 に できる空間 も DNAの構造を記述する際には、 重要なlつの構造的な特徴である。 そ して、
このグルーブには、 鎖の間の距離が長いメジャーグルーブ(主溝)と短い マイナーグルーブ(副溝) がある。 DNAの二重ら せんは一見剛直な棒状構 造に思われるが、 実際に は塩基配列によって、 そのコンホメーシ ョ ンは微
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図1-1
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妙に異なっている。 さら に、 環境(塩濃度、 温度など)や、 薬物やタンパ ク質の接近によってもコンホメーションが変化する柔軟な構造を有してい る。
このようなDNA は、 その遺伝情報を保持、 発 現するうえ で、 多くのタン パク質と相互作用する。 例えば、 DNAの複製過程においては、 DNAポリメ ラーゼと相互作用し、 DNAからmRNAへの転写過程においては、 R NAポリ メラーゼや何種類もの調節タンパク質と相互作用する。 また、 生体内には 特定のDNA塩基配列を認識し、 一組の隣接するヌクレオチド間の ホスホジ エステル結合 を切断するヌクレアーゼと呼ば れる一連のタンパク質も存在 する。
これら のDNA結合性タンバクの多く は、 二回対称性を有するこ量体を形 成し、 DNAと相互作用する。 このとき認 識されるDNA塩基配列もまた、 二 回対称性を有して おり、 いわゆる回文配列となっている。 例えば、 調節 タ ンパク質のlつで あるCroタンパク質 は、 À DN AのOR3領域の1 7ヌクレオ チド対のDNA配列に二量体として結合する2 )。 生物が、 何故進化の過程に
おいて、 このよつな二量体としての 相互作用 を選択したのか は不明である。
しか しながら、 このような二 量体としての相互作用 は、 人工のDNA結合性 配位子を設計するうえで の1つ の指針となりえ、 研究対象として興味深い。
本研究で は、 このような二量化という現 象を積極的に利用し、 実験系を構 築した。
また、 DNA はタンパク質だけで なく、 多くの小分子(薬 物)とも相互作
用することが知ら れている。 DNAは、 生物における複製 とタンパク質合成 という中心的な役割を果たしているので、 このような相互作用によるDNA の修飾は、 細胞代謝を大きく変化させ細胞のガン化をもたらせ た り、 細胞 の成長を弱めたり、 ある場合には停止させてしまうこともある 。 こ れら の 性質から、 このような分子は制ガン剤、 発ガン剤 などと関連し、 研究 が な さ れてきた。
-3-
この ような DNA結合性配位子のDNAとの相互作用の様式には、 大きく分 けて次の3通りがある。 1)DNAの塩基対間への 平行挿入 (インターカレ ーション)、 2 )骨格問にできる溝(グル ープ)への結合、 3)薬物の反 応活性部位によるDNAへの共有結合であ る。 本研究では、 こ のうち1 )の インターカレーションと、 2 )の結合モードに分類さ れるDNAオリゴヌク レオヂドの三本鎖(三重らせん)形成に着目した。
インターカレータとDNAの相互作用の摸式図を図1-2に示す。 ここ で言 うインターカレーションとは、 平面性の芳香環化合物がDNAの隣り合う塩
基対問へ平行挿入される現象であり、 1961年にLermanによってはじめ て確 認された現象である3 )。 特に化合物の大きさが塩基対のそれと類似の縮合環 3個から なる化合物で最も広く観られる。 DNA鎖はインターカレータとの 結合によって伸長し、 らせんが巻き戻される。 さらにX線構造解析では、
塩基対、 インターカレータを含めて、 3.4Àの芳香環の重なり間隔が保た れ ているといっ種々の物理化学的性質を示すことがわかっている。
一方、 DNAオリゴヌクレオチドの DNA三本鎖(三重らせん )形成は、
DNA化学の中で、 現在知られているうち最も高い塩基配列選択性を有 する DNAの認識モチーフの一つである410 連続した プリン部位に対してオリゴ ビリミジンはHoogsteen型の水素結合 (C+ - GC、 T-AT) を介して三本鎖を 形成することによ り、 二本鎖DNAに対して相補的に結合 する。 その構造は
図1 -3に示すように、 三本目のオリゴピリミジン鎖はプリン鎖に対して平行 に配向し、 ターゲットとなっている二本鎖のメジャー グルーブに沿って巻 き付いた ようなかたちになる。 DNAオリゴヌクレオチドの三本鎖形成は その高 い塩基配列選択性のため 、 二本鎖DNAの 配列特異的な切断試薬や遺 伝子発現制御手段としての活用が検討されている5)6)O
ところで、 生体内には数多くの金属 イオンが存在しており、 DNAはこれ らの金属イオ ンとも相互作用 する。 構造上、 核酸はリン酸基、 糖部分及び
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DNA三重らせんの塩基のベアリング(a)とその模式図(b)
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図1-3
核酸塩基 などの錯形成可能な部位を多数有している。 そのため、 核酸と金 属イオンとの相互作用に関する研究が古くから行われている7).8)。 その結果、
生物学的に重要なアルカリ金属やアルカリ土類金属のみならず、 遷移金属 とも相互作用することが確認されている。 例えば、 アルカリ金属イオン濃 度を上げるとDNA二重らせんの融解温度(Tm)が 高く なる。 これは負に帯 電したリン酸基聞の反発力がカチオンによって補われるためである。 また、
Mg(II)はリン酸基同志を結び付けるので、 tRNAの高次構造の安定化に重要 であることが証明されている。 逆に、 Cu(II)等はリン酸基より もむしろ塩 基 と相互作用して、 DNAの二重らせん構造を不安定化する効果を有してい る。 さらに、 DNAの損傷を引き起こす金属イオン も数多く存在 し、 これら の金属イオンは制ガン、 発ガン作用に関連するものもあり、 活発に 研究が 行われている。
また、 金属イオンは単独でDNAと相互作用するだけでなく、 DNA配位子
と錯形成し協同的に 相互作用するものもある。 逆の見方をすれば、 天然の DNA配位子の中には 金属イオンと錯形成して、 はじめてその機能を発現す るものが存在する。 そのような金属依存性DNA配位子の うち代表的なもの を図1-4に示す。 この中で抗腫蕩抗生物質であるブレオマシンは、 異常アミ ノ酸と糖が複雑に 結合した化合物であり、 その分子内に 金属錯形成部位を 有している。 そして、 その活性発現にはFe (11)等の遷移金属イオンを 必要 とすることが 知られている9)。 また、 クロ モマイシンA3 については DNAと の複合体中に、 Co(I1)やZn(l1)等のイオン半径が0.85 Å以下の二価の遷移
金属イオンを取り込むことが実験的に証明されている10)。 クロモマイシン A3は、 生理条件下において負電荷を有することも知られており、 二価金属 イオンを取り込むことにより この負電荷 を中和し、 DNAに対する結合親和 性を増大させているものと考えられる。 また同様に、 抗腫蕩抗生物質であ るアドリアマイシンやダウノマイシンについても金属イオンと錯形成する ことが示されており、 薬理活性発現における金属イオン の必要性が示唆さ
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図ト4 代表的な金属依存性のDNA配位子
(a)ブレオマイシン, (b)クロモマイシンA3, (c)アドリアマイシン,
(d)ドウノマイシン, (e) Znフインガータイプのタンノてク
(c) (d)
れている11) -1 3)。 その他、 DNA結合性タンパクの認識モチーフとして非常に よく知られているZnフインガータイプの タンパク等もその一例であるI.q。
Znフインガーは、 アミノ酸配列中の一対のシステインとヒスチジン残基が 亜鉛イオンに 結合し、 その結果両方の残基対に挟ま れたアミ ノ酸配 列をル ープ状に突出させた構造を有している。 亜鉛イオンが構造因子として タ ン パク質の構造形成 に積極的に関与し、 さらにDNA認識という機能を タンパ ク質に授けるもので、 亜鉛の生体での新しい役割という点において非常に
興味深い。
このように天然には金属依存性のDNA配位子が数多く存在し、 これらの 研究例については枚挙に暇がない。 こ れらのDNA配 位子はDNAと の相互作 用 において、 DNA-金属イオン-DNA配位子の三元錯体を形成していると考
えることができる。 しかしながら、 三元錯体の形成は示唆されるものの、
依然として金属イオンの結合位置や役割などが明らかにされていないDNA 配位子も数多く存在 する。
本研究では、 天然に観られるDNA-金属イオンーDN A配位子の三元錯体の 生成を人工のDNA配位子を用いて検証し、 このような三元錯体の本質を 明 らかにす ることを目的のーっとしている。 また、 その一環として本 研究で は、 DNA配位子のDNAへの結合を金属イオンによって制御できるシステム
の構築を検討した。 このような基礎的な検討 により、 天然のDNA結合性配 位子の作用機序の解明や 新規な薬剤開発に対する何らかの知見が得られる ものと期待できる。
人工のDNA配位子としては、 金属配位官能基をDNA結合性配位 子に導入 した化合物を設計した。 DNA結合性配位 子としては、 先述したDNAインタ ーカレータ及び、 三本鎖形成が可能なDNAオリゴヌクレ オチドを用いた。
本研究で設計した金属 配位官能基を有 するDNAインターカ レータは、 天 然のDNA配位子と比べる と非常に簡略化された構造を有して お り、 DNA
金属イオン -DN A配位子の三元錯体の形成に必要な最少限の構成要素から成
-9-
っている。 それゆえ、 三元錯体に関する最も本質的な知見を得ることが可 能であると考えられる。 図1 -5に、 その三元 相互作用の模式図を示す。 また、
適当な金属配位官能基を選択することにより、 金属イオンと の錯形 成によ り、 DNA 配位子全体のプラス荷電を増大させることも可能であると考えら れる。 プラス荷電 の増大により、 ポリアニオン であるDNAに対する親和性 が増大すること が予想されるため、 金属イオンによるDNA結合活性の制御 も可能であると考えられる。
DNAインターカレータは、 その基本構造が非常に単純であるにも関わら ずDNAに対する結合能を有するため、 インターカレータを基体としたDNA 配位子については、 DNAと の相互作用に関する 基礎的な知見を得るのに適 している。 しかしながら、 その構造が単純であるが故に、 DNAへの塩基 配 列特異的な結合はほとんど期待できない。 そこで、 本研究 では、 三本鎖形 成によりDNA二本鎖への塩基配列特異的な結合が可能なDNAオリゴヌクレ オチドを基体としたDNA配位子も設計した。 ここで、 標的 となるDNA塩基 配列と しては、 先述したような天然のDNA 結合性タンパクの認識サイトと なっているC2対称配列を選んだ。 そして、 このような配列へのDNAオリゴ ヌクレオチドの結合を、 金属イオンによって制御することを積極的に試み た 。 遺伝子の発現には、 DNAへのタンパクの 結合が必要不可欠である。 そ
れゆえ、 タンパクのDNAへの結合を三本鎖形成により阻害することによっ て、 遺伝子の発現を制御すること が可能である。 このような観点から、 本 研究は、 金属イオンによって遺伝子の発現が制御 でき るシステムの構築を 目指したも のであるとも言え る。
上記の目的 のために、 末端に 金属配位官能基を導入したDNAオリゴヌク レオチドを設計、 合成した。 そして、 金属配位官能基 (金属キレート配位 子)と 金属イオンと の間の2 : 1錯体の形成を利用して、 オリゴヌクレオチ ドの二量化を試みた。オリゴヌクレオチドのDNA二本鎖に対する親和性(三 本鎖形成能)は、 二量体として協同的に結合すること によって 増大するこ
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インターカレーション部位 金属イオン
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図1-5 DNA-金属イオン-DNA配位子の三元相互作用の校式図
とが予想されるため、 金属イオンによ るDNA三本鎖形成の制御が可能 であ ると考えられる。 図1-6に、 C2対称配列にDNA オリゴヌクレオチドが、 金 属錯形成を通じて二量体として結合した様子を模式的に表したものを示す。
先述したよう に二量化という戦略は、 まさに、 DNA結合性タンパ クがDNA に結合 する際に用いてい るものであり、 このような観点から本研 究は、
DNA結合性タンパク のモデルという意味においても興味深い 。
また、 このC2対称、配列へのオリゴヌクレオチドの結合を金属イオンによ って制御するというシステムは、 別の見方をすれば、 C2対称、配列を選択的 に認識するシステムとしても捉えることができる。 従って、 オリゴヌクレ オチドがこのような C2対称配列に結合したという情報を何らかの形で、 簡 便に、 高感度に取り出すことができるならば、 C2対称、配列を検出 するシス テムを構築することが可 能である。 ここで、 本研究では、 特異な遅延蛍光 を発することが知られているランタノイド イオンに着目した。 すなわち、
ランタノイドイオンを オリゴヌクレオチド を二量化させるため の制御因子 (金属イオン)として利 用し 、 その発光現象を 利用したC2対称配列の検出 システムの構築を検討した。
本論文は、 これ らの研究成果をま と めたものであり、 全体は5章からな る。
第2章では、 金属配位官能基を有するDNAイ ンターカレータと DNAと の 相互作用 について 述べる。 金属イオン共存下、 非共存下 において、 DNAイ ンターカレータ(DNA配位子)とDNAと の相互作用を検討し 、 DNA-金属 イオンーDNA配位子の三元相互作用並びに、 金属イオンによるDNA配位子 の結合活性の制御の可能性について検証した。
第3章では、 金属配位官能基を有するDNA オリゴヌクレオチド とDNAと の相互作用 について述 べる。 ターゲットとなるDNA二本鎖への オリゴヌク レオチド の結合能 ( 三本鎖形成能 )を、 金属イオン共存下、 非共存下にお
-12-
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金属配位官能基を有する DNAオリゴヌクレオチド
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DNA二本鎖図1-6 DNAオリゴヌクレオチドが金属鈴形成を通じて二量体として 協同的に結合した枝子を模式的に表した図
いて複合体の融解曲線を測定することにより評価し、 金属イオンによる三 本鎖形成制御の可能性について検証した。
第4章では、 金属配位官能基を有するDNAオリゴヌクレオチドを用いた C2対称配列の検出法の開発について述べる。 制御因子となる金属イオンと してランタノイドイオンを用いて、 その発光を利用したC2対称、配列の検出 システムの構築を検討した。
第5章は、 第2章から第4章までの総括であり、 DNA-金属イオンーDNA 配位子の三元相互作用や、 金属イオンによるDNA配位子の結合活性の制御、
DNA検出システムの開発に関して得られた結果を、 要約して述べる。
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2-1 緒言
第l章で述べたように天然のDNA結合性配位子の中には、 分子内に金属 錯形成部位 を有し、 金属イオンと協同的に相互作用してその活性を発現す
るものが存在する。 これらの系ではDNA-金属イオン-DNA配位子の三元錯 体が形成 していると考えられる。 本研究では、 人工の単純な配位子を使っ てこのような三元錯体を構築し、 その 性質について検討を行うことを目的 としている。 特に、 低濃度の金属イオン によって効果的にDNA配位子の結
合活性を制御することが できるかどうかについて検討を行う。
このような観点からすでに金属配位官能基を有 するDNA配位子がいくつ か合成され、金属イオン共存下でのDNAとの会合挙動が検討されている(図 2-1)。 これらの化合物はDNA結合部位としてアントラキノン環 を有 して おり、 DNAへインターカレーシ ョ ンする。 福田らによって合成されたクラ ウンエーテル型インターカレータはアルカリ金属及びアル カリ土類金属と 協同的に相互作用して、 DNAに結合することが報告されている1 5)。 この イ ンターカレータとDNAの親和性は、 クラウン環と金属イオンとの親和性を
反映しており、 共存金属イオンによるDNA結合活性の制御が可能である。
また、 井原らによって合成されたポリアミン型インターカレータは、 Cu( 11) と協同的に相互作用してDNAへ結合し、 さ らにDNAを効率よく切断するこ とが報告されている16)。
しかしながら、 クラウンエーテル型インターカレータに関しては、 水溶 液中 でのクラウンエーテルの金属イオンとの錯形成能力が非常に低いため、
実質的に明確な三元複合体が形成されているとは言い難い。 この点ポリア ミン型インターカレータに関 しては、 ポリアミン部位とCu (11)との親和性 が非常に高いため、 安定な三元複合体が形成されていると考えられる。 し
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図2-1 これまでに報告されている金属配位官能基を有するDNAインターカレータ
か し、 中性のpH領域では配位子自体の電荷がCu(II)との錯形成前後で大 き く変化しない ため、 DNAとの親和性はそれほど大きく変化しないこ とが判 っている。 したがって、 金属イオン による DNA配 位子の結合活性の制御と いう 観点から は、 金属イオンとの錯形成により正電荷が増大するような配 位子が望ましい。
このような事柄を踏まえて、 安定な三元複合体を形成し 、 しかも金属イ オンとの錯形成により正電 荷が増大するこ とが期待される新たな DNA イ ン
タ ーカレータ(1、 2)を設計し た(図2-2)。 こ れら の化合物は DNA結合 部位としては先の化合物と同様にアントラキノン環を有している。 アント ラキノン環は 電荷を有していないため、 錯形成部位における電 荷の効果が 現れやすいと考えられる。 また、 金属結合部位と しては化合物1について はグリシン部位、 化合物2については イミノ二酢酸部位を有している。 こ れらの化合物は中性pH領域では、 金属イオンとの錯形成によりプロトンf
lつ放出されるだけ であるの で、 + 2以上の 正電荷を有 する 金属イオンと の錯形成によりトータル電荷が増大することが予想、される(図2 -3)。 また、
特にイ ミノ二酢酸は数多くの 金属イオンと錯形成 する こ とが知られており、
この ような観点から化合物2については様々な 金属イオンを使った解析ず
-16-
可能であると考えられる。
以下本章では、 化合物1、 2の合成、 これらの化合物のDNAとの相互作用 について順に述べて行く。
o HN ハ� 中 ./"..ノへ 自 ーCH2COOH
〈 λ 人 CH内 一
〆グ��、、 ο
lふλJl)
CHっCOOH
o HN�N /"'.../'N' ζ
11 1 ),,, CHっCOOH
Jグ\ノ久、/七... CH3 ど
()[J(コ
。 1 。 2
図2-2 金属配位官能基を有する新規なDNAインターカレータ
H ① ハ
日刊へ/へぽJへ目了yu
�ノ'-../、 CH3 ζ 00
kλJlJ
� 1f � +10
Mn+
。
1
He ハ
o
HN�Ñ交�Ñ"'"ずudh バ oピ ω
Mn+o
HNヘペ
γJ fj
Dα〉き と心 γ
図2-3 中性pH領域で予想され る化合物1、 2の金属イオン(Mn+)との錯 形成に伴う荷電状態、の変化
-1 7-
2-2 金属配位官能基を有するアントラキノン誘導体の合成
以下に示すスキームに従って、 アントラキノン誘導体1、 2を合成した。
o CI H2Nハ、/ヘヤ戸、/"'- NH2 CH3
。
o HN�N /'../'NH2 JヘÅ Á. C凡
亡J[ J(J 。
。 3
CICH2COONa NaOH/ジオキサン .水
o HN�N/'、/"トJH2
�/λ,/七、CH 3
lふJL Jl)
。 3
o HN�N/へJへN-CH2COONa メ久ノヘ/丸 CH3
lムλJl)
o 1
or
CH勺COONa o HN�、/戸、 N /'、/"N'-'.",
�久
、九
州COONakλJl)
o 2
2-2-1 8-(anthIacene-9, 10-dione-1-yl)-4,8-diaza-4-methyloctylamine (3 )の 合成
o CI
rlíγy
、、/"-... �.. グ
。
H2Nハ、/ヘ
ru〈
NH2CH3
1 -クロロアントラキノ ン1.88g (7.8mmol )に N,N-ビス(3-ア ミノフロ ビル)メチルアミン 25ml (155mmol)を加え、 700Cで2時間加熱還流した。
放冷後、 塩酸を100 ml加えてpH をlに調整し、 等体積のエーテルで3回 抽出操作を行い洗浄した。 水相を水酸化ナトリウム 水溶液でpHを9に調整 した後、 等体積のジクロロメタンで3回抽出操作を行った。 ジクロロメタ
ー18-
ン相を減圧濃縮後、 シリカゲルカラム処理(展開溶媒クロロホルム:メタ ノール:ジエチルアミン= 10:1:1 ) を行い、 目的成分を分取した。 化合 物の同定は、 元素分析、 lH-NMR測定により行った。
性状
収量(収率)
赤色固体(吸湿性大) 1 . 4 6g ( 5 4% )
元素分析
H C N CjN
実測値 7.16 69.63 11.28 6.17
計算値 7.28 69.96 11.66 6.00
(3+0.5 H20)
lH-NMR ( CDCb, 400MHz )
S値(ppm) 帰属 積分比 分裂
9.77 p 0.9H J=4.7
8.26 。 1.0H d J=7.5
8.23 1.0H d J=7.5
7.75 m 1.0H J=7.5
7.69 n 1.0H t J=7.5
7.59 k 1.0H d J=7.3
7.53 1.0H d.d. J=7.3, 8.3
7.08 1.0H d J=8.4
3.39 a 2.1H br.
2.78 f 1.9H t J=7.0
2.51 C 2.0H J=7.0
2.44 d 2.0H J=7.0
2.26 h 3.0H S
1.92 b 2.1H qUln J=7.0
1.80 。σ 2.9H S
1.66 e 1.9H qUln J=7.0
r、r 0
/1 、lv\/ O CH3 O1 1 ノ、vn\fH pN
、グ K
骨〈|、a
J
〉'
E
h 〈c Na / d
\/巴 f、
Ng H9 -
n r' iT ìí "'1 I h
π1
-19-
2-2-2
11-( anthrac ene-9,1 O-dio ne-1-yl)-3, 7, 11-triaza-7 -methylund eca noic acid (1)の合成
Q Hm戸、/ヘヤ/'-.../へNト�2 tク,/λ..._/七... CH3
にJL �J
n _NaOH c|叩OONa/ジオキサン .水。 3
o HN�N �N-CH2COONa
�/λ,/七、CH3
lふλJl)
o 1
先の合成で得られた3 0. 9 0g (2.56mmol) とモノクロロ酢酸 ナトリウム
0.3 0g (2.56mmol)をジオキサンー水( 2 : 1 )混合溶媒15mlに溶解した。
6Nの水酸 化ナトリウム水溶液を0. 86ml( 3に対して2当量) 加え、 5 00Cで 加熱撹祥を行った。 このときTLCにより反応追跡を行った。 その結果、 図 2-4に示すように反応の進行に伴って2つの成分が出現してきた。 反応 は2 日間行ったのであるが1日目からはほとんど変化はなく原料成分3は減少 しなかった。 そこ でこの時点で溶液 に塩酸を加えて中和し反応を終了した。
新たに出現した2つの成分のうち、 原点から少し移動している成分 が目的 の化合物1であると予想して、 シリカゲルカラム処理(展開溶媒 クロロ ホルム:メタノール:ジエチルアミン=5 : 1 : 1)を行い分取した。 分取し た成分について、 さらにクロロホルムから再結晶を行い精製した。 得られ た結晶についてIH-NMR測定及び元素 分析を行った。 こ れらの結果より、
得られた結晶は目的の化合物1であると判断できた。
性状
赤色国体(吸湿性大)
収量(収率) 28 .7m g ( 2 .6%)
元素分析
実測値
(1+1.7H20,Na塩)計算値
H 6.34
C 59.74
N 9.10
N一6/二コC一6
6.42 5 9.78 9.10 6.5 7 -20-
図2-4
4t 上昇先端
原料3
f I
川 山く
化合物1ピJ
44 原点_j し__j
反応前 2時間後 10時間後 24時間後 48時間後
(原料3)
TLCによる反応追跡(プレート;シリカゲル , 展開溶媒;クロロホル ム:メタノール :ジエチル アミン=5 : 1 : 1)
'H-NMR ( D20, 400MHz )
S値(ppm)
帰属 積分比 分裂
7.50 j, k, 1 3.0H 口1
7.30 m 1.0H m
6.92 n 1.0H J=7.3
6.67 。 1.0H d J=7.3
6.36 1.0H d J= 10.4
3.71 p 2.0H S
3.36 a 1.9H br.
3.24 C, d 3.9H J=8.4
2.98 h 3.0H S
2.89 f 2.1H J=6.7
2.27 b 2.0H m
1.93 e 2.0H m
a h C d 白 f σ n
o
HN
ハ�ヤ
/"'...ンへんcH2COOH
。
一CH 'l
••-1 . h
l y l U
-21-
乞2-3 N-
[8 -(anthr acene-
9,1O-dione-l-yl)-4事8-diaza-4-methyl octhyl]
iminodiacetic acid (2)の合成
o HN�N /'-.../へNH2 A λ 人 CH..,
亡lJCJ
� n - � _NaOH cICH2COONa /ジオキサン .水。 3
CH..,COONa
�川/戸��I '- c.
o HN ._.. N ' ._... N
11 1 ;." CH勺COONa
�ノに/k CH3 2
亡1JCコ
。 2
3 1.10g (3.13mmol)とモノクロロ酢酸ナトリウム 1.8 2g (15.65m mol) をジオキサンー水(1 : 1 )混合溶媒20mlに溶解した。 6Nの水酸化 ナトリ ウム水溶液1.5 7m 1 ( 3 に対して3当量)加え、 1000Cに加熱して還流を行 った。 この際、 1の合成のときと同様にTLC により反応追跡、を行った(図
2-5)。 その結果、 今回は反応時間の経過と共に原料3のスポットは明ら かに 減少していき、 3時間後には完全に消失した。 また、 1の合 成の ときと同 様に 反応時間の経過と共に原点付近に2成分が現れたのであるが、 原点か ら少し移動した成分( 化合物1)は30分後に最大 になり、 その後減少して いき 3時間後にはほとんど消失した。 一方、 原点成分については反応時間 の経過と共に増大していった。 このようなこと から、 原点成分が目的の 化 合物2であると予想された。 3時間後に加熱 をやめ、 塩酸を加えて反応 溶
液を中和した。
反応溶液を減圧濃縮した後、 残溢を水に溶 解した。 塩酸を加えて溶液の pH を1--2 に調整し、 析出してきた物質を分取した。 この物質が単一物で あるかどうかを確かめるために逆相HPLC分析を行った。 その結果、 図2-6
に 示すように主に二つのピーク(5. 2分と7.8分)が確認できた。 二つのピ ークをそれぞれ 分取し、 'H-NMR測定及び元素分析を行った。 その結 果、
7.8分のピークが目的物2であると判断できた。 以下に7.8分のピークにつ いての元素分析及び'H-NMR測定の結果を示す。
なお、 5.2分のピークについてはアミン部位が四級化した化合物であるこ と が示唆された。
- 22-
く 上昇先端
〈〈 原料3
山 山 山 リ
く4f 化合物1化合物2一」 L_j
反応前
15分後 30分後 1時間後 2時間後 3時間後
(原料3)
図2-5 TLCによる反応追跡(プレート;シリカゲル,展開溶媒;クロロホ ルム:メタノール: ジエチルアミン=5 : 1 : 1)
-う
5.2分 〆
\、7.8分
15-
n m
図2-6 化合物2 (粗精製物)の逆相HPLCクロマトグ ラム カラム Asahipak ODP-50 4.6併x 150 (mm)
溶離液 溶液A : 0.1%τEAA緩衝液 溶液B:アセトニトリル
グラジエント A : 75%, B : 25%を20分間でA : 65%, B : 35%
流速 1.0ml / min 検出波長 510nm
-23-
性状 赤色固体(吸湿性大) 元素分析
実測値 計算値*
H 7.40 7.54
C
62.09 62.16
N 8.84 8.88
川一ω∞C一77
*計算値は以下のようなかたちで算出した
酢酸とトリエチルアミンの量はIH-NMRスペクトルの積分比に基づいている
CH門COOH
o HN/"'-..ゾへN /ヘゾへN/ ζ
11 1 I "
�久、 CH3 CH2COOH
LλJl)
。
+ 0.57 CH3COOH + 0.76 N(CH2CHÚ3 + 0.8 H20
IH-NMR ( D20, 250MHz )
S イ直 (ppm)
帰属 積分比 分裂
7.30 j, k, 1 2.9H m
7.03 m 0.9H m
6.70 n 0.9H J=7.1
6.40 。 0.9H d J=7.1
6.12 0.9H d J=8.6
3.72 。σ 4.0H S
3.3--3.1 a, c, d, q 10.8H π1
2.87 h 3.1H S
2.66 f 1.9H π1
2.15 b 2.1H 打1
1.90 P 1.7H S
1.77 e 2.0H m
l.26 r 6.8H Jニ6.9
P 凸
CH3COO'"'
ê ...c H t::'I .9 J(写�CH2COOe
o HNへ/へN�、/ヘNY又
o 11 I b ;" , e H' 】 θ ①
n � λγ ぺ i
CT3 CH2COO H N(CH2CH3)31. 11 11 Î '
日 q rm、/へ〉片\グj
1 11 k
o
-24-
2-2-4 まとめ
こ こでは金属配位官能基を有するアントラキノン誘導体の合成について 報告した。 化合物3はトクロロアントラキノンとN,N-ビス(3-アミノフロヒ ル)メチルアミンを無溶媒でそのまま反応させること により 得た。 目的物の
精製は類似のアントラキノン 化合物の精製法16)を参考にし、 シリカゲルカ ラム処理により行った。 この反応に関しては、 ほほ満足できる収率で反応 が進行した。 化合物1、 2について は化合物3とクロロ酢酸ナトリウムとの
反応において、 量比及び温度を調節してそ れぞれ得 た。
化合物1の合成 では油浴の温度を500Cに調節し、 化合物3とクロロ酢酸ナ
トリウムを 等モル反応させた。 反応溶液のTLCから判断して、 この反応条 件では化合物1は十分に生成していないように思われた。 さらにシリカゲ ルカラム処理と再結晶による二段階の精製を行ったため、 最終的 な 収量 は
かなり低いものと な った。
化合物2の合成では、 油浴の温 度を上げて1000Cに調節し、 化合物3 に対
してクロロ酢酸ナトリウムを5モル等量加えて 反応 を行った。 この場合、 反 応溶液のTLC及び粗精製物のHPLCから判断して 化合物2は十分に生成して いるように思われた。 しかし、 HPLCを使って 精製を行ったため非常に手 聞が かかった。 また、 当然のこと ながら 精製物 はHPLCに使った溶離液の 塩の形で得られた。 すなわちこの場合 TEAA緩衝液 を用いたため、 トリエ
チルアミンと 酢酸を対イオンと して持つ塩の形で得られた。 し かし、 DNA との相互作用の解析は、 こ れらアントラキノン誘導体 に対して過剰量の緩 衝斉iJを含む系で行うため、 対イオンについては実質問題はないと 思われる。
ー25-
2-3
アントラキノン誘導体とDNAとの会合挙動
DNAに 薬物が 相互作用するとき 、 どのよう な会合様式でどれ くらい強く 相互作用するかを明らかにすることはその薬物の機能や結合選択性 など 薬 物の生理的、 薬理的活性を知 る上で重 要である。 第1章で述べ たように DNAと 相互作用する 薬物は数多く知られており、 その会合形態も親和性も 様々である。 また結合モードによってDNA二重らせんの受ける化学的、 物 理的な影響も異なって くる。 例えばインターカレーションによってはDNA 二重らせんの巻きもどしゃ鎖の伸長、 それに伴う対カチオンのはぎとりが 起こ り、 グルーブパインデイングによっては鎖の屈曲が引き起こされ る。
本研究で設計し たアントラキノン誘導体についても、 まずターゲットと する金属イオンを共存させ ない条件でDNAとの会合挙動を 検討 することは その基礎的な性質を知る上で重要である。 溶液系で小分子とDNAとの相互 作用を調べる 手法としては透析法、 分光学的手法、 フィルターパイ ンデイ ング法、 溶媒抽出法 などが知られてい る!?)~20)0 アントラキン環はDNAと相 互作用 すると吸収スペクトルに長波長シ フトと淡色シフトが観測される1 6)。
そこでアントラキノン誘導体とDNAとの相互作用は分光学的手法によって 調べた。 こ こで、 アントラキノン誘導体としては、 化合物1、 2だけで なく それら の合成前駆体である化合物3についても同様に検討を行っ た。
2-3-1
DNA共存下でのアントラキノン誘導体の吸収スペクトル
測定
(実験操作)
20μMアントラキノン誘導体、 200μM HEPES (pH7 .0)、 O.lM NaCl及び
所定濃度のDNAを含む溶液を調製し 、 約5分間放置して平衡に達せしめた 後に吸光度を測定した。 DNAとしては仔牛胸腺(calfthymus) DNAを用い
-26-
た。 仔 牛胸腺DNAはプローブ型超音波発生装置で超音 波照射した後、 エタ NaCl、 2.5倍量のエタノールを加え一晩放置後、 40C、
(O.3M ノール沈殿
NaCl そして 10mM
により回収し、 乾燥させた。
10000rpmで10分間遠心)
以後、 用いる仔牛胸 これをストック溶液として用いた。
腺DNAはすべてこのような処理を行った。
水溶液に 溶解し、
(結果)
DNA添加に伴うアントラキノン誘導体の吸収スペクトル変化を図2-7に 3共にDNA 濃度の増加に伴い、 吸収スペクトルには明 2、
示す。 化 合物1、
その結果を表2-1にまとめ らかな長波長シフトと淡色シフト が観測された。
この現象はインターカレータに特徴的な挙動であるため、 これら て示す。
それらのアントラキノン部位を DNAへインターカレートさせていると考えられる。
の化合物はDNAとの相互作用において、
化合物1、 2、 3のDNA添加に伴う長波長シフト と淡色シフト
表2-1
淡色シフト(%) 長波長シフト(nm)
26 11
1
8 15 2
28
Scatchard解析による結合定数の決定
3 12
2-3-2
吸収 3-2の結果より化合物1、 2、 3はすべてDNAへインターカレートし、
そこでDNA添加に伴う吸収スペ スペクトルに変化が生じることが判った。
Scatchard解析2 1)を行うことにより 3のDNAに対する結合定数を求めた。
クトル変化を特定波長において追跡し、
化合物1、 2、
勺ー勺ん
[DNA] (凶1) [DNA] (μM)
0.15 � 10
1 I 0.20 1 [DNA] (pM)
2 ).15
�j!
3
50 100 150 250 1000
祖司医尺国
1//1\
ヰE生R話d t非gM 4iM∞ー
0
350 400 450 500 550 600 650
波長(nm)
。 。
350 400 450 500 550 600 650
波長(nm)
350 400 450 500 550 600 650
波長(nm)
図2-7 DNA添加に伴うアントラキノン誘導体1、 2、 3の吸収スペクトル変化 1、 2、 3: 20μM, NaCl: O.lM, HEPES(pH7): 0.2mM
(実験操作)
1 mM仔牛胸腺DNA、 20μMアントラキノン誘導体、 0 . 2mM H EP ES ( pH 7.0 ) 、 0.1MN aClの試料溶液 Aと、 これからDNAのみを除いた試 料溶液B
を調製した。 試料Aの吸光度を測定後セル中から所定量を抜き取り、 同量 の試料Bを加えて約5分間放置して平衡に達した 後吸光度を測 定した。
DNA濃度がほとんどゼロになるまでこの操作を繰り返した。
試料の吸光度からインターカレータの DNA に対する結合率を求め、 ν、
νjc を算出した。 この結果を次に 示すMcGhe e-vo n-Hi pp elの式2 1)を用いて 非線型最小二乗法により最適化し、 結合定数Kを算出した。
74(lーの){ï 一口� }
,-1
ν =[DNAに結合したイン ターカレータ 濃度]j[ DN Aリン酸濃度]
c : DNAに結合していないインターカレータ濃度
n インタ ーカレータがDNA に結合したときに占める占有座席数
(結果と考察)
図2-8に化合物1、 2、 3のDNA添加に伴うS1 0nm における吸光度変化を、
図2- 9 にこれより求めた化合物1、 2、 3のS catchardプロットを示す。 これ らの結果より得られ た結合定数K の値を表2-2にまとめて示す。
表2-2 化合物1、2、 3 の DNAに対する結合定数K O.lM NaCl 、 0.2mM HEPES (pH 7.0)、 2S0C
不。土口ノ口\X片E司女米治うL
K X10斗(M"l)
1 4.79
2 l.04
3 1l.7
-29-
'凶 () 1
ー九九円「
。一向〈
0.11 0
0.15 0.14
0.13
0.12
Cコ
〈
0.11
0.10
0.09
。
1 2 3
0.10ド
・ 、、... \
B九円l「l 卜
A斗 勺コ 内ノ担 ハU ハU ハU
。{町〈
• •
• •
0.09 」
1500 よ-
500
_j_
1000
。 200 400 600 800 2000 200 400 600 800
DNA濃度/μM DNA濃度/μM DNA濃度/μM
図2-8 DN A添加に伴う化合物1、 2、 3の吸光度変化
1、 2、 3: 20μM, NaCl: O.lM, HEPES(pH7): 0.2mM
3
•
•
•
1.60
• 0.45
0.70
0.15 0.14
2.80
2.40
2.00
ν 0.13 0.12
0.042 0.036
ト 3: 20μM, NaCl: O.lM, HEPES(pH7): 0.2mM
寸60-×(υ\ミ)
2
•
• . 、 .、
•
•
ν 0.030 0.40
0.024 tzA
ハU0.10 0.09
ν
3とDNAの会合におけるScatchardプロッ
2、
2、
0.65
0.60
0.55
0.50
0.08 0.07
1、
1、
寸to-×(U\ミ) 1
•
•
図2-9
1.90
1.50
1.10 寸aO{
×(υ\ミ)
tu--
�e ① 凸 PW〈〉ヘヤ/、〈N-CH2COOU
�ノ久、ノミ CH3 "2
(l JC)
、/、r� 1
。
円① ①CHっCOOG o HNへ/ヘN�へN� 己 (
�/ζ 己H3 H、CH2COOO
(l JCJ
、/、� 2
0
+1 。
�e ①
o HN戸、〈 内 �ヘトJH3
� .A. Á CH'1
亡l JCJ
� " J..., n "V' 3
、 ノ
Y し
+2
図2 -1 0 中性pH領域で予想、される化合物1、 2、 3の荷電状態
表2-2より結合定数は 3、 1、 2の順に小さくなっていることがわかる。
本実験条件下のpH7では、 1、 2、 3はそれぞれ図2 -1 0に示すような+1、 0、
+2の荷電状態で存在すると予想される22)。 したがって、 ポリアニオン鎖で
あるDNAとの相互作用において、 より正の荷 電を多く有し た化合物ほど DNAとの親和性が高くなったものと考えられる。
2-3-3
アントラキノン誘導体とDNAの会合挙動における塩濃度の
効果
DNA と相互作用する小分子の会合挙動は溶液中のイオン強度に大きく影 響されることが知られている23). 24)。 化合物ト ム 3 についても この影響
を調べるために 、 Na C 1 濃度を変化させてS c at ch ard解析を行っ たo
Scatchard 解析については先と同様の方法で行い、 各NaCl濃度における
結合定数を算出した。
内/臼勺コ
(結果及び考察)
表2-3 化合物 1、 2、 3 の DNAへの結合定数に対するNaCl 濃度の効果 0.2mM HEPES (pH 7. 0)、 250C
NaCl 濃度σの 結合定数KX 10-'σの
1 2 3
0.01 11.6 2.47
0.05 7.55 1.00 32.3
0.10 4.79 1.04 11.7
0.50 1.63
1.00
3.30 1.85
各NaCl 濃度 における 化合物1、 2、 3の結合定数 を表2-3に示す。 これよ りNaCl濃度が増大するにつれて、 その結合定数は小さくなる傾向に あるこ とがわかる。 この挙動に対 しては次のような説明が可能である。 まずポリ アニオン鎖で あるDNAは系中の塩濃度が増大するとリン酸基聞の静電的な 反発がおさえられて、 二重らせんが安定化し、 二重らせん の構造変化を も たらすような小分子 は一般にDNAに接近、 相互作用しにくくなる。 さらに 化合物1 、 3 は正電荷を有す るた めに 、 そ れらがDN Aと会 合す る際に は DNAリン酸基の 対イオンである N どをはぎとる必要がある。 そのためこれ らの化合物とDNAとの相互作用は一種のイオン交換反応であると考えられ、
系中のNa+濃度が増大するにつれ、 これらの 化合物はDNAと会合しずらく なると考えられる。 このようなことからNaCl濃度の増大に伴い結合定数が
低下したものと考えられる。
さて、 高分子電解質理論(polyelectrolyte theor y)をDNAと インターカ レータの相互作用に導入したRecordやWilsonらの取り扱いによると23)、
DNAと小分子の相互作用は次の2つのステップを含むと考えられる。
D 一一ー D* + 2n(ψ-ψ*)Na+ r'l\ 114 、、‘,,,
勺可}「コ