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1990年代における世界小売企業の国際化推進力

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1990年代における世界小売企業の国際化推進力

著者 田村 正紀

雑誌名 同志社商学

巻 61

号 6

ページ 1‑27

発行年 2010‑03‑15

権利 同志社大学商学会

ドウシシャ ダイガク ショウガッカイ

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000007423

(2)

1990 年代における世界小売企業の国際化推進力

田 村 正 紀

Ⅰ 小売国際化の分析フレーム

Ⅱ 企業国際化のロジット・モデル

Ⅲ 国際化進展の推進力

21

世紀に入って,イオンやファーストリテイリングなど,わが国を代表する流通企 業が小売国際化を,今後のもっとも重要な成長戦略として位置づけ始めた。しかし世界 の代表的流通企業,とくにその売上高トップ

100

についてみると,かなりの企業によっ て小売国際化が基本戦略として明確に意識されたのは

1990

年代のことである。そのき っかけはソ連,東欧における共産圏の崩壊,アジア市場の急成長などがある。

そして

90

年代後半には,小売国際化は地球規模で定着し始めた。ウォルマート,カ ルフール,テスコ,メトロ,コストコなど世界トップ

10

に入る企業が日本市場に相次 いで参入したこともその一環であった。しかし,90年代後半でも,トップ

100

の小売 国際化の程度の分散はかなり大きく,国際化の進展は企業間で多様である。この点で,

この時期は企業レベルで見た小売国際化の推進要因の歴史的検討には好都合な期間であ る。小論の目的は,この期間での世界の先端流通産業を構成した企業,つまり小売業の 売上高世界ランキング

100

位に入る企業を対象にして,小売国際化を推進させた要因を 実証的に明らかにすることである。分析されるデータは,1996年から

1998

年にかけて のトップ

100

のクロスセクション・データである。

Ⅰ 小売国際化の分析フレーム

従来の研究における問題

企業の小売国際化の推進力を巡っては多くの議論がある。小売国際化研究の創始者,

ホランダーはかって国内市場機会の消滅が,小売国際化の重要な推進力であることを強 調し

1

た。その後,カッカ

2

ーは,1970年代から

80

年代にかけてのヨーロッパ小売業によ るアメリカ小売業の買収事例についての観察に基づき,その本国市場の飽和が重要な推

────────────

Hollander, S. C.,(1970)Multinational Retailing, MSU International Business and Economic Studies, MSU, East Lasting.

Kacker, M.,(1985),Transatlantic Movements in Retailing,Quorum.

317)1

(3)

進力として作用していることを指摘した。

トレッドゴール

3

ドも同じ考え方を共有し,持続的国内成長への機会制約が,多くの小 売商にとって国際化の推進力であったと述べている。さらに,国際化データに基づく,

国民市場国際化の推進力についての実証研

4

究によれば,本国市場の飽和は,欧州企業だ けでなく,他の地域でも現在作用している。

他方で,ウィリアムズとアレキサンダーは,すでに

90

年代の初頭に英国小売商につ いてのサーベイ調査の結果に基づき,市場飽和仮説を批判してい

5

る。かれらの主張によ れば,市場飽和は小売国際化の主要な推進力ではない。それよりももっと重要な推進力 は,第

1

に,企業の成長指向,第

2

に,進出市場の市場規模や成長性とニッチ型の市場 機会であり,第

3

に,各企業が持つ小売フォーミュラの国際訴求力や,革新的な小売提 供物による競争優位性である。

同じような主張は,近年,ヴィダによっても行われている。彼女はアメリカ小売商の サーベイに基づいて,小売国際化の推進力は,その小売商に特異な競争優位性,企業規 模と本国市場での拡張性,その企業とその戦略経営チームの国際市場指向などにあるこ とを発見した。しかし,小売商の業務フォーマットも,また国内市場機会の欠如も,小 売国際化の推進力ではな

6

い。

しかし,小売企業国際化のプッシュ要因(国内市場の飽和)とプル要因(進出市場の 成長や企業の成長指向)をめぐる従来の実証研究には,とくにデータ範囲にかんして,

2

つの問題点がある。

まず,従来の研究におけるデータ範囲は,世界の特定国あるいは特定地域の企業デー タに基づいている。この点で,データ範囲は地球全体から見れば,きわめてローカルで ある。この種のデータによって,国際化推進力としてのプッシュ要因とプル要因の相対 的重要性を検討すると,問題の性格上,地域的な歪みが生じる危険がある。また,特定 国に限定されたデータでは,たとえ推進要因が発見されたとしても,その要因が他国に も当てはまるかどうかはわからない。つまり,それが多くの国の国際化に当てはまる一 般的な要因であるのか,あるいはその国に特殊的な要因であるのかがわからない。

次に,多くの研究,特に事例研究は,国際化企業のみを観察対象にして,非国際化企 業を対象にしていない。国際化企業のデータだけでは,たとえ国際化企業に共通してい

────────────

Treadgold, A.,(1988),Retailing without Frontiers,Retail and Distribution Management, Vol.16, No 6, pp.8−

12.

4 田村正紀,「国民市場における小売国際化」流通科学大学,流通科学研究所モノグラフNo.58 20055 月。

Alexander, N.,(1990),Retailers and International Markets : Motives for Expansion,International Marketing Review,Vol.17, No.4, pp.75−85, Williams, D. E.,(1992),Motives for Retailer Internationalization : Their Im- pact, Structure and Implications,Journal of Marketing Management,Vol.8.

Vida, I.,(2000),An Empirical Inquiry into International Expansion of US Retailers, International Marketing Review,Vol, No.4/5, pp.454−475.

同志社商学 第61巻 第6号(2010年3月)

2(318

(4)

る推進要因を発見できたとしても,その要因が小売国際化の必要十分条件であるという 保証はない。たしかに,国際化企業に共通してみられる要因は国際化の必要条件であろ う。しかし,この必要条件と同じような条件を備えていても,まったく国際化していな い企業が存在するかもしれない。その際,その推進要因は小売国際化の必要条件であっ ても,十分条件とは言えない。その条件が存在すれば必ず国際化するとはいえないから である。

企業国際化の二つの段階

どのような要因が企業を小売国際化に走らせるのだろうか。その検討のためには,何 よりもまず,企業レベルでみた小売国際化の過程的特質を明確に理解しておく必要があ る。企業レベルでの国際化の指標は,外国売上高,活動国数,および外国売上高依存率 である。外国売上高は,企業の国際活動の絶対的規模から見た国際化指標であり,活動 国数は国際化の地理空間的拡大の指標である。外国売上高依存率は,企業組織の活動自 体が相対的にどの程度国際化しているかを示す指標である。国際化するにつれて,これ らの三種の指標の動きは次のようになる。

国際化をしていない企業では,活動国数は本国市場だけであるから

1

であり,外国売 上高,海外売上高依存率はゼロである。小売商がその活動を本国市場だけでなく,外国 へ拡大するとき,企業レベルでの小売国際化が始まる。それにつれて,その小売商の活 動国数は

2

以上になり,外国での売上高が計上され,外国売上高依存率がゼロでなくな る。国際化に向かって一歩踏み出すと,活動国数,外国売上高,海外売上高依存率は,

企業によって異なる組み合わせパターンを描く。

国際化しているかしていないかの指標は単一である。しかし。国際化の進展の程度を はかる指標は複合化する。これが三種の指標から見た,企業国際化の過程的特質であ る。この過程的特質から見ると,小売企業の国際化過程には,明確に区別すべき二つの 段階がある。第一は,国際化するかしないかの段階であり,これを以下で始動段階とよ ぼう。第二は,国際化を始動して後,それをさらに進展させていく段階で,これを進展 段階とよぼう。

国際化の推進力の分析は,これら二つの段階に分けて行う必要がある。小売商の活動

国数が

1(本国市場のみ)から 2

に増えるということは,それが

2

から

3

へ,そしてさ

らに多くの国へ増えることとは,質的に異なる意味を持つ。小売国際化の推進力を検討 する際に,今ままでの諸研究が行ってきたように,国際化している企業だけに焦点を合 わせるだけでは不十分である。

国際化企業の特徴は,非国際化企業との比較でみた場合により鮮明になる。さらにこ の比較研究の重要性は,小売業世界ランキング

100

位という世界の先端流通産業をとっ

1990年代における世界小売企業の国際化推進力(田村) 319)3

(5)

10 20

活動国数

30 10%

20%

30%

40%

パーセント

てみても,第

1

図に示すように,全く国際化していない小売企業が半数近くいるという 事実にもある。小売国際化の推進力の検討の第

1

歩は,国際化した企業と国際化してい ない企業との,比較研究でなければならない。

国際化の始動を巡る仮説

企業が国際化しているかいないかを,第

1

表に示す国際化ダミー変数

P

によって表 すことにしよう。Pは企業が本国のみで活動している(非国際化)場合にゼロという値 をとり,その他の場合,つまり活動国数が

2

以上(国際化)の場合に

1

という値をと る。世界ランキング

100

位内の企業について,この国際化ダミー変数の平均値は,国際

1図 世界小売トップ100企業の活動国数 1998

データ源:Chain Store Age, M+M Planet Retail, Euromonitor, Price

Water Houseなどの源データによるデータベース

1表 変数の定義

変 数

国際化ダミーP 0=活動国が本国のみ 1=その他 本国市場の飽和要因:

本国小売販売額成長率 D 本国市場の小売販売額成長率(1996から19998年の3 カ年複利年率%)

世界ランク100位内企業占拠率 C 本国市場の小売販売額に占める,同国を本国とする世 界ランク100位内企業の小売販売額計の比率(%)

小売販売額シェア M 企業売上高/本国市場小売販売額×100 企業戦略行動要因:

売上高成長率(%) G 1996年から1998年の3カ年複利成長年率(%)

専門店ダミー F l=専門店部門を持つ 0=持たない 売上高 S 企業売上高(1998年,米国ドル)

同志社商学 第61巻 第6号(2010年3月)

4(320

(6)

化している企業の比率に等しいから,確率であると解釈することができる。この確率に 影響する要因は何かを問うことによって,1990年代後半の小売国際化の推進力を分析 することにしよう。

企業レベルでの小売国際化の推進力のイメージは,プッシュ/プル表の背後にある論

7

争によって概略的に与えられている。それによれば,推進力は三種の要因群からなる。

第一は,本国市場の飽和要因,第二は,外国における市場機会,そして第三は成長動 機,競争優位性,企業資源などの企業戦略特性である。90年代に行われた論争の潮流 は,本国市場の飽和要因を主要な国際化動機であるとする受動要因説を批判し,それよ りもむしろ第二と第三の能動的要因を小売国際化の主要な推進力として強調し,市場飽 和要因を二次的な推進力として位置づけた点にある。その主導者は,アレキサンダーと ウィリアムズであった。

しかし,ここでまず注意しなければならない点は,これらの主張の基礎になった経験 的根拠は,かならずしも強固なものではないということである。彼らの根拠は,1980 年代の後半から

90

年代の初頭に行われた国際化の動機についてのサーベイ調査であっ た。この調査の次のような特徴を持っている。

・英国小売商の中で国際化している企業を対象にしている。

・大企業だけでなく,中堅企業も含まれている。

・調査対象企業数が少ない。アレキサンダーの主張は

26

社のデータ,ウィリアムズ の主張は

42

社のデータに基づいている。

・業種が専門店業種に偏っている。アレキサンダーの場合の業種構成は,家庭用品・

衣服

8

社,他の非食品

11

社,食品

3

社,混合小売業

3

社などであり,ウィリアム ズの場合には,衣服・はきもの類

19

社,食品

2

社,家庭用品

8

社,混合

5

社,そ の他

8

社である。

彼らの調査では,成長指向,ニッチ型市場機会,小売フォーミュラの国際訴求力,革 新的小売提供物に基づく競争優位性などが国際化動機の上位を占める。

近年,同じような主張をしているヴィダの調査も,国際化企業と非国際化企業を比較 している点を除けば,同じような特徴を持ってい

8

る。対象はアメリカ企業のみであり,

その標本数は

80

社である。その年間販売額の中央値は

10

億ドルである。以下で分析さ れる世界小売ランキング(1998年度)100社の中央値が

102.6

億ドルであることと比較 すれば,彼女のデータの多くが中堅企業であることがわかる。また,小売フォーマット は専門店

48

社,総合量販店

22

社,食品中心のコンビネーションストア

10

社であり,

アレキサンダーやウィリアムズのデータと同じように,専門店に偏っている。ちなみ

────────────

Alexander, N.,(1997),International Retailing,Blackwell,田村正紀,前掲論文,20044月参照。

Vida, I.,(2000),op. cit.

1990年代における世界小売企業の国際化推進力(田村) 321)5

(7)

に,以下で分析される先端流通産業(世界小売ランキング上位

100

社データ)での専門 店の比率は

23% である。

アレキサンダー,ウィリアムズ,ヴィダなどの調査結果は,彼らのサーベイにおける 以上のような調査対象企業の特徴によって生み出されている可能性が強い。小売国際化 は,1990年代になって地球規模で展開し始めた。そしてその規模から見ると,その動 きを先導している企業は,あきらかに世界を代表するトップ

100

位に入る企業である。

これらの企業についても,アレキサンダー,ウィリアムズ,ヴィダのような主張を支持 する経験的証拠を発見できるだろうか。これが問題である。

世界の先端流通産業における,国際化の始動の推進力に関しては,三種の要因のうち で,とりあえず外国における市場機会は考慮外においても良い。なぜならここではどの 特定国に国際化するかは問われていないからである。検討すべき問題は,市場飽和要因 と企業戦略要因が,国際化ダミー変数をどのように規定しているのかということであ る。

市場飽和要因にしても,また企業戦略行動要因にしても,それらを構成する要素的な 要因について,従来の研究は明確な操作的定義を与えていない。そこでまずこれらの要 因を,データの利用可能性を考慮しながら,明確に定義する必要がある。企業にとって の本国市場の飽和は,主として,小売市場成長の停滞,競争の激化,公共規制の強化に よって生じる。以下の分析では,小売市場成長を本国小売販売額成長率によって表し,

競争の程度を本国市場における世界ランク

100

位内の,その国を本国とする企業の占拠 率(売上高ベース)によって表すことにしよう。

前章でも指摘したように,公共規制の程度を計量的に指標化することは概念的にもデ ータ的にも難しい。しかし,企業レベルでみると,特定企業に働く公共規制の程度につ いては関連する指標がある。それはその企業の本国市場占拠率である。多くの国におけ るように,公共規制が政治的に中小小売商保護を動因として行われるとき,その規制の 矛先は本国市場占拠率が高いトップ企業群に対してより強く働く。つまり,出る杭は打 たれるという打杭効果が働く。

この打杭効果は,かって日本でもダイエーやイトーヨーカ堂にたいして生じ

9

た。ま た,それはフランスではハイパーマーケットの創始者カルフールがいち早く国際化した 重要な要因であっ

10

た。さらに,アメリカではウォルマートの出店に際しても,この種の 要因が強く働き始めてい

11

る。さらに,近年の英国や米国におけるように,流通業への独

────────────

9 田村正紀,『先端流通産業−日本と世界−』,千倉書房,2004年。

10 Burt, S.(1986),The Carrefour Groupthe First 25 Years,International Journal of Retailing, Vol.1, No.3, pp.54−78

11 Stone, K. E.,(1995),Competing with the Retail Giants,John Wiley and Sons, Quinn, B.,(1998),How Wal- mart is destroying America(and the World)and What You Can Do about it, Ten Speed Press.

同志社商学 第61巻 第6号(2010年3月)

6(322

(8)

禁法規制の動きのある

12

国では,本国市場占拠率は,それが地域空間独占と関連すると き,公共規制と関連を持つことになる。

従って,以下の分析では本国市場占拠率を各企業が現実にあるいは潜在的にうける公 共規制の測度として用いることにしよう。本国市場占拠率における売上高数字には外国 売上高を含んでいるため,それは本来的な意味での市場占拠率ではない。従ってここで は,それを市場占拠率の近似的な指標として利用している。かなりの数の企業について 外国売上高と本国売上高をデータ的に分離できないことがその理由である。

企業の戦略行動特性としても多様な要因が指摘されてきた。能動的推進力を最初に強 調したアレキサンダーやウィリアムズは,企業の成長動機,小売フォーマットの競争優 位性などを推進力と指摘してい

13

る。また小売国際化過程の概念的研究でも,競争優位性 が小売国際化の重要な促進要因になると想定されている。その内容はユニークな商品,

品揃え,小売コンセプトや魅力的な市場イメージ,さらには価格訴求力などであ

14

る。

以下の分析では,これらの要因に関わる変数として,企業の売上成長率を取り上げ る。売上成長率の高い企業ほど,その成長指向も高いであろう。また,売上成長率の高 い企業ほど,革新的な小売フォーマットを持ち,競争優位性を持っているはずである。

このように,競争優位性そのものを測定する代わりに,売上成長率によって成果の観点 から競争優位性の程度を測定することにしよ

15

う。

戦略行動特性として,もう一つの重要な要因は小売フォーマットのユニークさであ る。この点について,特に専門店業態はユニークなフォーマット持ちやすい。ベネト ン,ローラ・アッシュレイ,ボディショップ,タイラック・アンド・ソックショップ,

イケアなど,ユニークな専門店フォーマットを持つ企業は,フランチャイズ方式を採用 することによって歴史的に急速な国際展開を行ってき

16

た。その小売ブランド・コンセプ トが国際的な訴求力を持つかぎり,フランチャイズ方式はフランチャイザーにとっては 小さい資本投資と,人的資源に投資を必要としない。それによって投資危険をフランチ

────────────

12 cf. Wrigley, N. and M. Lowe,(2002),Reding Retail : A Geographical Perspectives on Retailing and Con- sumption Spaces,Arnold.

13 Alexander, N.,(1990),op. cit., Williams, D. E.,(1992),op. cit., Williams, D. E.,(1992),Retailer Interna- tionalization : An Empirical Inquiry,European Journal of Marketing,Vol.26, No.8/9, pp.8−24.

14 Simpson, E. M. and D. I. Thorpe,(1995),A Conceptual Model of Strategic Considerations for International Retail Expansion, The Service Industries Jouranal, Vol.15, No.4, pp.16−24, Vida, I. and A. Fairfurst,

(1998),International Expansion of Retail Firms : A Theoretical Approach for Future Investigations,Journal of Retailing and Consumer Services,Vol.5, No.3, pp.143−151.

15 競争優位性が本国市場にとどまるものか,外国市場にも移転できるものであるかは重要な問題である

(cf. Brown, S. and S. Burt,(1992),Conclution-Retail Internationalization : Past Imperfect, Future Impera- tive,European Journal of Marketing, Vol.26, No.8/9, pp.80−84)。おそらくそれは,競争優位性の基盤に依 存している。

16 Treadgold, A. D.,(1990),The Developing Internationalization of Retailing,International Journal of Retail &

Distribution Management,Vol.18, No.2, pp.4−11.

1990年代における世界小売企業の国際化推進力(田村) 323)7

(9)

ャイジーに転嫁することができるからである。この要因を表すために,専門店ダミー変 数を導入しよう。

小売国際化過程の研究では,さらに国際化のために必要な企業資源も重要な推進力で あ

17

る。その内容は財務資源や人的資源であるが,世界の代表的企業についてデータを入 手することは困難である。そこで企業の売上高規模を企業資源の代理的な指標として用 いよう。その際の想定は,企業規模が大きくなると,国際化のためにふり向けられる財 務的,人的資源がより多く蓄積されるということである。

Ⅱ 企業国際化のロジット・モデル

通常回帰分析に伴う問題

企業が国際化するかしないか。それを決める要因を実証するには,どのような手法が 適切だろうか。すぐに浮かぶのは,第

1

表の国際化ダミー

P

を従属変数とし,市場飽 和要因と企業戦略要因に関連する

6

つの変数を独立変数とする,式(1)に示すような 通常線形回帰モデルであろう。

1

P

=a+b1

D

+b2

C

+b3

M

+b4

G

+b5

F

+b6

S

ここで,a, b1〜b6は,データから推定されるパラメータである。しかし,従属変数が

1

0

の値しかとらない

2

値変数の場合,このようなモデルは適切ではない。

まず,従属変数の値が

0

1

との下限と上限を持つことから生じる境界問題がある。

1

に,従属変数の推定値が

1

を超えたり,0を下まわったり可能性がある。これは

P

0

1

の間の数値しかとらない確率とする解釈と矛盾する。第

2

に,2値的な従属変 数は独立変数のすべての組み合わせについての加算性の想定を壊す。ある独立変数の値 が従属変数を

1

近くに押し上げるほど強い場合に,他の変数は影響を及ぼすことができ ないからである。このことは線形モデルが使えないことを意味している。2値的な従属 変数は,すべての独立変数の影響を本来的に非加算的で相互作用的にする。それぞれの 独立変数の影響は,他の変数の値に依存して変わるのである。

次に統計的推測の問題がある。第

1

に,通常の線形回帰モデルは,その誤差項が正規 分布に従うことを前提にしているが,2値的な従属変数の場合,その誤差項は正規分布 に従わない。ある企業が独立変数についてとる特定の値,Di

, C

i

, M

i

, G

i

, F

i

, S

i につい て,その予測値は

a

i+Di+Ci+Mi+Gi+Fi+Siである。予測値と観察値の残差は,観察 値が

1

の時は(1−予測値)となり,観察値が

0

の時には(0−予測値)という値しかと

────────────

17 Vida, I. and A. Fairfurst,(1998),op. cit.

同志社商学 第61巻 第6号(2010年3月)

8(324

(10)

らないからである。

2

に,通常の回帰モデルは誤差項の分散が独立変数の各値について同じであるとい う分散一様性の前提をおいている。2値的な従属変数はこの前提をも満たさない。ある 独立変数と従属変数の推定された関係が右上がりの直線によって表されるとしよう。こ のさい,誤差はこの直線が

1

0

に近づくとき小さくなり,その中間にあるとき大きく なる。いずれにしても,従属変数が

2

値変数の場合,誤差は独立変数の値に依存して変 化してしまう。

ロジット・モデルの特徴

これらの

2

値変数に伴う問題を処理する方法は,統計学ではよく知られてい

18

る。それ は

2

値的な従属変数を対数ロジットに変換することである。特定企業

i

の国際化確率 を

P

iによって表そう。1−Piは非国際化確率である。対数ロジット変換を行うには,

まず

1−P

iに対する

P

iの比率をとる。この比率はオッズと呼ばれる。オッズは非国際 化尤度に対する国際化尤度の比率である。オッズ比は非国際化確率に対して国際化確率 が何倍になっているかを示す。オッズは確率と同じように下限値としてゼロを持つが,

確率と異なり上限値がない。

次に下限値の制約を除去するために,オッズの自然対数をとる。ロジット

L

iは次式 で定義される。

2

L

i=ln[Pi/(1−Pi)]

自然対数をとることによって,オッズが

0

1

に間の時には対数オッズは負の値にな り,オッズが

1

の時には対数オッズはゼロになり,オッズが

1

を超える場合には対数オ ッズは正の値になる。

ロジットは確率とは異なり,上限値あるいは下限値の境界を持たない。それは確率の 中点

0.5

の周りで対称的である。さらに,確率値が上限あるいは下限に近づくにつれ て,ロジットはますます大きい値をとる。ロジットのこのような性質によって,ロジッ トへの独立変数の影響を線形回帰分析によって推定することができるようになる。つま り,

3

ln

(Pi/1−Pi)=a+b1

D

i+b2

C

i+b3

M

i+b4

G

i+b5

F

i+b6

S

i

従属変数のロジット変換による回帰モデルは,ロジスティック回帰モデルあるいはロジ

────────────

18 cf. Pampel, F. C.,(2000),Logistic Regression,Sage Publications.

1990年代における世界小売企業の国際化推進力(田村) 325)9

(11)

ット・モデルと呼ばれているものである。

ロジットから確率を計算することは容易である。式(3)の両辺の指数をとると,

4

P

i/(1−Pi)=ea+b1Di+b2Ci+b3Mi+b4Gi+b5Fi+b6Si

=ea*

e

b1Di*

e

b2Ci*

e

b3Mi*

e

b4Gi*

e

b5Fi*

e

b6Si

である。上式で

e

は自然対数の底で,近似的に

2.718

である。独立変数とロジット従属 変数の線形関係は,確率とは非線形の関係を持つ。式(4)を

P

iについて解くと,次式 が得られる。

5

P

i=(ea+b1Di+b2Ci+b3Mi+b4Gi+b5Fi+b6Si)/(1+ea+b1Di+b2Ci+b3Mi+b4Gi+b5Fi+b6Si

ロジット

L

iは,独立変数の値による予測値なので,式(3)の右辺に等しい。したがっ て,式(5)は次のように書き換えられる。

6

P

i=eLi/(1+eLi

=1/(1+e−Li

式(3)から明らかなように,ロジットへの独立変数の影響は各回帰係数によって要 約されている。しかし,式(5)から明らかなように,各独立変数の確率についての影 響は非線形的であるので,それぞれ単一の測度で表すことができない。確率への独立変 数の影響は,この非線形性により,各独立変数の値と確率の水準に依存している。この ため,ロジスティック回帰分析の結果の解釈については,以下でみるように回帰係数以 外にも種々な測度が必要になる。

モデルの適合性

1998

年度に世界の小売業ランキング

100

位内の企業について,第

1

表の変数につい てのデータを種々な情報

19

源から収集し,データベースを構築した。トップ

100

社のうち で,ランク

79

位の

Army and Air force Exchange Service

とランク

81

位の

Laurus NV

は,必要なデータが利用できないので分析から除外された。売上データはすべて

US

ド ル・固定レートで評価された。このデータベースをロジット・モデルによって分析した 結果は第

2

表に示されている。

まず,式(3)に示した,6つの独立変数からなるモデルに意味があるかどうかを全

────────────

19 Chain Store Age, M+M Planet Retail, Euromonitor, Price Water House 同志社商学 第61巻 第6号(2010年3月)

10(326

(12)

体として検定してみよう。モデル係数のオムニバス検定は,線形回帰分析の多変量

F

検定に該当するものである。それは,すべての独立変数がゼロであるという帰無仮説を

有意確率

0.0000

で棄却している。従って,6つの独立変数についての情報によって,企

業が国際化するかどうかをよりよく予測することができる。

それでは

6

つの独立変数と従属変数の複合的な関連はどの程度であろうか。ロジステ ィック回帰分析でも,線形回帰分析の決定係数に該当するいくつかの統計量がある。統 計パッケージ

SPSS

では,このような統計量として

Cox & Snell

R 2

乗と

Nagelkerke

R 2

乗を算出してい

20

る。これらの統計量は,ロジット・モデルが「変動」の何パーセ ントを説明したかを示そうとしている。しかし,ロジット・モデルにおける変動は,通 常回帰分析における変動と同じものではない。

統計ソフト

SPSS

におけるこれら

2

つの統計量は,Cox & Snellの

R 2

乗は定数項の みを含むモデルの尤度関数

L

(0)と,検討中の最終モデルの尤度関数

L

(b)を用いて,

次式で定義される。ここで

N

は標本数である。

7

R

2M=1−(L(0)/L(b))2/N

つまりこの指標は,標本あたりの最終モデルによる改善の幾何平均平方である。しかし この統計量の問題は,最終モデルが完全に説明した場合でも,1という値を取らない点

────────────

20 SPSS Regressio Models 9.0, SPSS Inc. 1999

2表 企業が国際化するか否かの規定因:ロジット・モデルによる分析結果 N=98

独立変数とモデル適合性

非標準化ロ ジスティッ ク回帰係数

b

Wald統計 量による 係数b 有意確率

各係数b 関連する オッズ比 Exp(b)

Exp(b)の

95.0% 信頼区間 標準化回帰 係数 下限 上限

本国市場の飽和要因:

本国小売販売額成長年率 D 世界ランク100位内企業占拠率 C 小売販売額シェア M

企業戦略行動要因 企業売上成長率 G 専門店ダミー F 企業売上高 S 定数

−0.424 0.025 0.050

−0.031 1.611 0.008 0.049

0.002 0.097 0.219 0.080 0.018 0.016 0.957

0.654 1.025 1.051 0.970 5.009 1.008 1.051

0.501 0.996 0.971 0.937 1.325 1.001

0.854 1.055 1.137 1.004 18.944 1.014

−0.195 0.091 0.082

−0.092 0.116 0.204

−2対数尤度

モデル係数のオムニバス検定:カイ2

(自由度=6)

Cox & Snell R 2 Nagelkerke R 2 RL 2

標本数

91.820 37.056 0.315 0.430 0.288 98

0.000

1990年代における世界小売企業の国際化推進力(田村) 327)11

(13)

にある。Nagelkerkeの

R 2

乗は,この点を調整しようとしたものであり,次式で定義さ れる。

8

R

2

N

=R2/R2MAX ここで,R2MAX=1−[L(0)]2/N

R

2MAXは特定のデータセットでの特定の従属変数についての

R

2Mの最大値である。

Nagelkerke

R 2

乗によれば,国際化ダミー変数の「変動」の

43

パーセントが

6

つの 独立変数からなるロジット・モデルで説明されている。

しかし,ロジット・モデルについての従来の研究によれば,通常回帰分析の決定係数 にもっとも近い統計量は

R

2Lであ

21

る。ロジット・モデルでパラメータを選択する場合に 最小化されるのは,定数項のみのモデルの−対数尤度(通常回帰での総分散に該当)で ある。R2Lはこの−対数尤度がモデルによって何パーセント減少するかをはかろうとし ている。SPSSではこの統計量を算出していないので別途計算すれば,第

6

表に示すよ うに,28.8パーセントになる。いずれにしても,6つの独立変数からなる企業国際化モ デルの説明力は,「変動」をどう定義するかによって異なるが,約

3

割から

4

割であ る。モデルの全体的な適合性からみると,このモデルは検討する価値が十分にある。

国際化始動の推進力

次に各独立変数の影響について検討しよう。本国市場の飽和要因の中では,本国小売 販売額成長年率の回帰係数は

0.1% 水準以下で有意になり,世界ランク 100

位内企業占 拠率は

10

水準以下で有意になる。従ってこれらの要因は,企業国際化に影響を与えて いる。これに対して,小売販売額シェアは

10% 水準でも有意ではない。それではどの

ように影響しているのだろうか。これらの要因は国際化始動を推進するのかしないの か。

非標準化ロジスティック回帰係数は,独立変数が

1

単位変化した場合のロジットへの 影響を示している。しかし,実質的な意味は解釈しにくい。また,式(6)で示したよ うに,国際化確率への独立変数の影響は,一次関数ではない。独立変数の値に依存し て,その曲線の傾きが変わる。この非線形性によって,独立変数の影響は

1

つの測度で 表現できない。そこで各回帰係数と関連するオッズ比によって各変数の影響の方向を検 討しよう。

各回帰係数と関連するオッズ比は,独立変数の一単位の変化が,国際化オッズ(つま り,非国際化確率に対する国際化確率の比率)をどのように変化させるかの係数であ る。この変化をみるには,国際化オッズに,回帰係数に関連するオッズ比をかければよ

────────────

21 Menard, S.,(2002),Applied Logistic Regression, Second Edition.

同志社商学 第61巻 第6号(2010年3月)

12(328

(14)

い。オッズ比が

1

の時には,独立変数が

1

単位変化しても,企業国際化のオッズは変わ らない。このオッズ比が

1

を超えるとき,その独立変数が

1

単位ずつ増加するにつれ て,企業国際化のオッズ,つまり非国際化確率に対する国際化確率の比率は増加する。

逆にオッズ比が

1

を下回るとき,企業国際化のオッズは減少する。

本国市場小売販売額成長年率のオッズ比は

0.654

であり,その

95% 信頼区間も 1

以 下である。本国小売販売額成長年率が高くなると,明らかに国際化は推進されない。逆 に言えば,本国小売販売額成長年率が低下するという意味で本国市場が飽和すると,企 業国際化が推進されることになる。本国小売販売額成長年率が

1

単位増加すると,企業 国際化オッズは

34.6

パーセント減少する(企業国際オッズに

0.654

をかけると,1より

0.346

少ない)。

世界ランク

100

位内の本国企業が小売販売額に占める比率は,本国市場での競争の程 度を示している。この値が大きくなると,大手企業間の競争が激しくなる。この要因の オッズ比の

95% 信頼区間は少し 1

以下にかかっているが,ほとんどは

1

以上である。

オッズ比は

1.025

であるから,この要因が

1

単位増加すると,企業国際化オッズは

5.1

%増加する(企業国際化オッズに

1.052

をかけると,1より

0.052

多い)。大手企業間の 競争が激化するという意味で,本国市場が飽和しても,企業国際化が推進される。

次に,企業戦略行動要因について検討してみよう。回帰係数の有意確率をみると,企 業売上高成長率は

10% 水準で,また専門店ダミーと企業売上高は 5% 水準で有意にな

る。したがって,企業戦略行動要因はすべて企業国際化と有意な関連を持っている。そ れではどのような方向に影響するのだろうか。

企業売上高成長率は,企業の成長指向や競争優位性を指標している。これらの要因 は,近年,企業の国際化を推進する要因として強調されてきた。しかし世界ランキング

100

位に入る企業についての実証結果によれば,このような従来の主張を反証する結果 が出ている。この回帰係数と関連するオッズ比は

0.970

であり,その

95% 信頼区間

は,ほとんどの部分は

1

以下の領域であり,わずかに

1

を超える領域にかかっている。

従って,企業売上成長率が高くなると,国際化を行う企業のあることを否定できない が,その比率はきわめて低い。ほとんどの企業の国際化オッズは小さくなる傾向があ る。企業売上高成長率が一単位増加すると,国際化オッズは

3% 減少する。

専門店業態は,ユニークな小売コンセプト,品揃え,小売ブランドなどに基盤をおい た小売フォーマットを作りやすく,またフランチャイズシステムを採用しやすい業態で ある。したがって,専門店は他の業態の小売商よりもより国際化する傾向が強いといわ れてきた。我々の実証結果はこの期待を強く指示している。回帰係数と関連するオッズ 比は

1

を大きく上回っており,その

95% 信頼区間もすべて 1

以上の範囲に収まってい る。専門店業態の場合には,国際化オッズは

500% 増加する。

1990年代における世界小売企業の国際化推進力(田村) 329)13

(15)

最後に,企業売上高の影響を見よう。企業売上高は企業規模の指標であり,国際化に 必要な人的,財務的資源と関連している。国際化するにはある規模の資源の蓄積が必要 であると考えられる。実証結果はこの期待を支持している。回帰係数と関連するオッズ 比は

1

以上であり,その

95% 信頼区間も 1

を超える範囲に収まっている。この結果 は,企業の売上高規模が大きくなると,国際化が推進されることを示している。

それでは,以上

6

つの独立変数,企業国際化に与える影響は,相対的にどのように異 なるのだろうか。6つの独立変数はすべて同じ尺度で測られている分けではない。企業 売上高は

US

ドルであり,専門店ダミーはカテゴリーであり,その他の変数はパーセン トではかられている。これらの測定単位は当然に非標準化回帰係数の大きさに影響し,

それと関連するオッズ比に影響する。従って,これらの数字の大きさによって,各変数 の相対的重要性を判断することはできない。

各変数の相対的重要性を判断するために,ロジスティック回帰分析における標準化回 帰係数を計算しなければならない。この数値は

SPSS

では算出されていないが,別途計

22

算すれば第

6

表の最後の列に示す数値になる。この数値の意味は,通常の回帰分析にお ける標準回帰係数に対応している。つまり,独立変数が

1

標準偏差増加した場合の,従 属変数,つまり国際化ロジット

L

iの標準偏差変化を表している。

この結果を見ると,相対的にみて企業国際化に非常に大きい影響を与えている要因 は,企業規模と本国小売販売額成長年率である。小売業の世界トップ

100

社は,世界的 なコンテキストでみた小売業の代表的企業である。このデータで見るかぎり,企業の売 上高規模が大きくなり,本国小売販売額成長年率が低くなるとき,国際化始動がより強 く推進されることになる。ここでも,国際化への誘因が市場の壁の克服にあることが検 証されている。

標準回帰係数の大きさが次に大きくなるのは専門店ダミーである。専門店業態は,非 専門店業態に比べて,より国際化する傾向がある。ユニークな差別化基盤は,小売国際 化の推進力としてしばしば強調されるが,この要因は専門店業態と関連している特殊要 因である可能性が高い。ユニークな差別化基盤は,差別化を競争者との対比においてと らえたものである。

しかし,注意すべきことは,ユニークな差別化基盤が必ずしも競争的優位性を意味し ないということである。差別化が競争優位性を持つためには,競争者との間に製品やサ ービス上の差異を作り出すだけでなく,その差異が消費者にとって重要であると評価さ れなければならない。差別化コンセプトは,売り手間だけの関係ではなく,消費者を含 んだ三者間関係である。

以上のような要因に比べると,他の変数の重要性は小さい。世界ランク

100

位内企業

────────────

22 計算方法については,Menard, S.,(2002),op. cit.

同志社商学 第61巻 第6号(2010年3月)

14(330

(16)

占拠率や小売販売額シェアの重要性が低いということは,1990年代後半における本国 市場の飽和要因の具体的内容を示唆している。それは多くの国において,本国市場の飽 和は,競争や公共規制よりも,むしろ本国市場の小売販売額,つまり需要成長の見込み がないということである。また,企業売上成長率の重要性も低く,その符号も負であ る。

このような発見物の中で,もっとも注目すべき点は,企業売上高成長率についての結 果である。小売国際化の研究は,市場の飽和よりもむしろ企業の成長指向,競争優位性 が国際化のより重要な推進力であることを強調してきた。そしてこれらが発展していく 過程を,企業の小売国際化過程から検討しようとしてきた。多くの研究が小売国際化の マクロ過程よりも,企業の意思決定過程としてのミクロ的な国際化過程の事例研究に焦 点を定めるようになったのはここに根を下ろしている。

しかし,1990年代後半における先端流通企業のデータの分析結果から見ると,小売 国際化のこのようなイメージは現れない。先端流通企業が国際化をするかしないかを決 める主要な要因は,企業売上高と本国市場小売販売額成長年率である。先端流通産業の 中でも,売上高規模のとくに大きい企業が,本国市場での需要停滞に直面するとき,国 際化への途をたどる。これらを主要な推進力にして,本国市場での競争要因(世界ラン ク

100

位内企業占拠率)や専門店業態が二次的な推進力として働いている。

企業成長率は,これらの要因と比較すれば,二次的な要因である。それだけでなく,

企業成長率が高くなると,国際化始動を推進するというよりも,むしろそれを遅らせる 要因として働いている。これらの発見物は全体として,国際化始動について何を意味し ているのだろうか。発見物を統合的に包括できるような,国際化始動への企業の行動経 路のイメージを構築してみよう。

非国際化企業は百貨店,総合量販店,廉売店,専門店など,何らかのフォーマットに 基づきその競争優位基盤を本国市場で形成する。しかし,時間的経過の中で,すべての 競争優位性は,競争者の出現や消費者行動の変化によって,いずれは退化の過程に入 る。競争優位性に向上と退化のライフサイクルがあるとすれば,本国市場での成長機会 サイクルとの関連で,小売企業はそのフォーマットにかんしてどのように行動するだろ う

23

か。その行動の基本的な道筋は,競争優位性サイクルと成長機会サイクルの段階の組 み合わせからなる

4

つの状態に依存して,第

2

図のようになろう。

競争優位性も本国市場成長機会もともに高い状態

A

では,企業は本国市場での成長 をめざし,国際化始動確率は低い。国際化始動確率が上がり始めるのは,状態

B

C

になってからである。状態

B

では,マクロ的な需要成長率や競争によって規定される

────────────

23 フォーマット行動に焦点を合わせる理由は,国内市場でのフォーマット多様化の方向の可能性を捨象 し,議論を単純化するためである。

1990年代における世界小売企業の国際化推進力(田村) 331)15

(17)

本国市場での 成長機会 競争

優位性

<状態B>

非ゼロ和ゲームに 勝てるか

<状態D>

国際化始動の 確率は高い

<状態A>

本国市場での 成長国際化始動確率 は低い

<状態C>

ゼロ和ゲームに 勝てるか

成長機会サイクル

競争優位性

本国市場でのマクロ的な成長機会はまだ高い。競争によって分け取るべきパイの大きさ は限られていない。従って成長戦略の問題は,この非ゼロ和ゲームに勝てるかどうかで ある。その解答がノーであるとき,国際化始動の確率が上昇することになる。

状態

C

では,企業はゼロ和ゲームに直面する。一定のパイの大きさを巡って競争し なければならない。企業の競争優位性がこのゼロ和ゲームに勝つに十分でないとき,国 際化始動確率が高まることになる。最後に,状態

D

の時,あるいはそれが予想される とき,企業規模がある一定水準に達しており,国際化への資源が存在するならば,国際 化始動確率は高くなる。

国際化始動の推進力について,このようなイメージが小論での分析の発見物を包括し ているように思われる。イメージの中核は,競争優位性を失いそうになった企業が成長 機会のなくなった本国市場から部分的に脱出するという物語である。しかし,この物語 に不協和音を感じる人も多いだろう。競争優位性を失いかけた企業が他国に進出して も,成功するのかという疑問である。

この疑問への解答として重要な点は,競争優位性の性格,およびその国際化過程への 関連である。まず,製造企業の場合とは異なり,小売企業の競争優位性はその市場の空 間的制約の影響を強く受ける。競争優位性の基盤が同じであっても,その実効は国民市 場が異なれば大きく変動する。国民市場によって,競争相手が異なり,また差別性を評 価する消費者の価値基準が異なるからである。たとえば,ウォルマートの小売ミックス は,各国で同じように評価されるとは限らない。本国市場で競争優位性が高いといって も,それが他国にそのまま移転できるとは限らない。

しかし,逆のケースもある。流通企業への公共政策的規制の国別差異によっても,そ

2図 国際化始動への行動経路 同志社商学 第61巻 第6号(2010年3月)

16(332

(18)

の競争優位性は特定国あるいはその近隣諸国に限られている。この場合,競争優位性が 退化し始めたといっても,それは本国市場あるいはその近隣諸国という地理的に制約さ れた範囲内である。本国市場と経済的に統合されていない国,あるいは地理的に離れた 国では,競争優位性の基盤になった業態やフォーマットは,その国では革新的である場 合が多い。とくに,経済発展をし始めた国,市場開放を行った直後の国,経済体制の転 換が行われた国ではそうである。

本国市場では競争優位性を失った業態,フォーマットでもその国際化の対象国の選択 次第によっては先発者として参入でき,そこで競争優位性を復活させることができる。

カルフールの国際化の軌跡などは,この点を示唆しているといえよ

24

う。新興市場へ先発 者として参入するというカルフールの戦略は,競争優位性の復活をねらったものであ る。さらに,この多国籍化による国際経験の学習,蓄積が,企業全体としての競争優位 基盤を変質させて,本国市場で競争優位基盤を復活させる可能性がないとはいえな

25

い。

このように考えると,国際化始動の推進力についての物語の不協和音は消滅する。

最後に,このモデルが実際の事例をどの程度正確に予測しているかをみておこう。モ デルによって予測される国際化確率が

0.5

を超えると国際化とし,0.5以下であれば非 国際化として,予測値と実際値を比較すれば,第

3

表のようになる。実際に国際化して いない企業についての正分類率は

64% であり,実際に国際化している企業の正分類率

82% である。全体としての正分類率は 76% である。

予測効率は,一般に次式で定義されるような,誤差の比例的減少率に基づいている。

(モデルがない場合の誤差)−(モデルがある場合の誤差)

9

) 予測効率=──────────────────────────

(モデルがない場合の誤差)

────────────

24 Burt, S.,(1986),op. cit., No.3,田村正紀,「カルフールの中国進出−先発者利益の追求−」,流通科学大

学,流通科学研究所,モノグラフ No.35, 20039

25 矢作敏行はテスコの事例に基づき,このようなプロセスの存在を指摘している。(矢作敏行,「小売国際 化のプロセスについて」,経営志林,第38巻第4号,20021月,27−44ページ。

3表 モデルによる予測結果 予 測 値

非国際化 国際化 正分類%

観察値 国際化ダミー 0 1

非国際化 0 23 13 64

国際化 1 11 51 82

全体の% 76

1990年代における世界小売企業の国際化推進力(田村) 333)17

(19)

3

表について,このような予測効率測度

φ

26pを計算すると,0.467になる。モデル

によって誤差は

46.7% 減少することになる。モデルが誤分類した企業は 98

社のうちで

24

社である。その内容は第

4

表に示されている。これらの企業がなぜ誤分類されたの か。これらの誤分類企業に共通する要因はない。おそらく誤分類の原因は,モデル化さ れていない各企業に特異な企業特性に基づくものであろう。これらの解明は,各企業に ついての事例研究の成果を待たねばならない。

しかし,世界先端流通産業の先頭集団企業であるデイトン・ハドソン(ターゲットと と改名),クローガー,Kマートなどが,モデルによれば国際化企業に分類されている ことはきわめて興味深い。これらの米国企業は現在は国際化していないが,国際化への 圧力はかかり始めている。分析の結果はこの点を示しているように思われる。

Ⅲ 国際化進展の推進力

国際化した企業が,その国際化をさらに拡大する過程を,国際化の進展と呼ぶことに しよう。国際化の進展はどのような要因によって推進されているのだろうか。この推進 力を検討するには,何よりもまず国際化の進展をどのような測度によって測るのかとい

────────────

26 φpの計算方法については,Menard, S.,(2002),Applied Logistic Regression,Second Edition.

4表 モデルが誤分類した企業

国際化していないのに国際化と予測 国際化しているのに非国際化と予測 企 業 名 売上高世

界ランク

モデルによる

国際化確率 企 業 名 売上高世 界ランク

モデルによる 国際化確率

Best Buy Co Inc 51 0.513 H. E. Butt Grocery Company 77 0.126

Dayton Hudson Corp 14 0.543 Winn−Dixie Stores lnc 37 0.284

John Lewis Partnership PLC 88 0.543 Staples Inc 74 0.312

The Limited lnc 55 0.578 IGA lnc 28 0.349

Tandy Corporation 92 0.611 Safeway lnc 19 0.359

Walgreen Co 31 0.612 Gap Inc 57 0.367

The Kroger Co 3 0.622 The Great Universal Stores PLC 73 0.375

Kmart Corp 10 0.645 Costco Companies Inc 24 0.399

Asda 39 0.695 The Office Depot 58 0.432

Systeme U Centrala Nationale 54 0.809 Woolworths Ltd 48 0.489

MYCAL Corporation 35 0.826 JC Penney Compnany lnc 15 0.491

Coop Schweiz 61 0.919

S Group 84 0.924

同志社商学 第61巻 第6号(2010年3月)

18(334

(20)

う,問題を処理しておく必要がある。

国際化が進展すると,どの企業でも,外国売上高,外国売上高依存率が高くなり,ま た活動国数が増える。したがって,これらの指標はそれぞれ国際化の進展の測度である ことに間違いはない。外国売上高はその企業の国際化の絶対的規模を表し,外国売上依 存率はその企業が国際化にどの程度依存しているかを示し,また活動国数はその企業の 国際化の地理的範囲の拡大を示している。国際化の進展につれてこれら

3

つの指標は同 じ方向へ変化する。

しかし,問題は企業間でこれら三つの指標は,かならずしも同じ速度で変化するとは 限らない点にある。したがって,これら三つの指標からみると,企業の国際化は多様な 形で進展する可能性がある。たとえば

1998

年度において,これらの指標について世界 のトップ

10

をあげてみると,第

5

表のようになる。

外国売上高依存率ではイケアがトップであり,活動国数ではマークス・アンド・スペ ンサー,外国売上高ではアホールドがトップの位置を占めている。国際化の進展をどの ような指標でみるかによって,ランキングの内容は異なってくる。どの企業の国際化の 進展がもっとも進んでいるのかについて一元的に語ることができない。

もっとも,カルフール,オットー通信販売,メトロは,いずれの指標でみてもトップ テンに入り,また少なくとも

2

つの指標についてトップテンに入っている企業はかなり あるから,これらの指標間に関連があることも確かである。国際化している企業のうち データが利用な可能な

47

社データについて,それらの間の相関係数を計算してみる と,もっとも相関が高いのは外国売上依存率と外国売上高の

.699

であり,ついで外国

5表 国際化の3つの指標からみたトップ10 1998

外国売上依存率% 活動国数 外国売上高(1998, US百万ドル)

IKEA AB 89.3 Marks & Spencer PLC 36 Royal Ahold 26283

Delhaize Lelion Group 77.5 IKEA AB 29 Metro AG 18239

Royal Ahold 70.9 Toys R Us Inc 26 Carrefour SA 15705

Otto Versand Gmbh & Co 49.2 Quelle Aktlengesellschaft 26 Tengelmann Warenhandels-

gesell chaft 15194

Tengelmann Warenhandels-

gesel lschaft 49 IGA Inc 23 Promodes Group 13794

Carrefour SA 43.6 Carrefour SA 20 Wal-Mart Stores Inc 12269

Kingfisher PLC 40 Metro AG 20 Delhaizer Lelion Group 11118

Promodes Group 38.1 Pinault-Printemps-Redoute SA 20 Otto Versand Gmbh & Co 9685 Auchan Groups 38.1 Otto Versand Gmbh & Co 19 Auchan Groupe 9558

Metro AG 35 Itd−Yokado Co Ltd 19 Aldi Group 8932

The Office Depot 19

1990年代における世界小売企業の国際化推進力(田村) 335)19

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