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著作権非侵害行為と一般不法行為

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(1)

著作権非侵害行為と一般不法行為

著者 今西 頼太

雑誌名 同志社法學

巻 60

号 7

ページ 1177‑1211

発行年 2009‑02‑28

権利 同志社法學會

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011666

(2)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一七七同志社法学 六〇巻七号

著作権非侵害行為と一般不法行為

今 西 頼 太

  (四一九五)

                   稿     

     

                   

(3)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一七八同志社法学 六〇巻七号

第一章  はじめに 第一節  問題の所在   創作性のない表現(以下、本稿では情報という)や著作権で保護されない行為は、著作権による保護を受けることはできない。したがって、それら情報又はその利用行為については、著作権という権利の侵害としては法的救済を受ける

ことはできない。もし、これら情報の利用行為が、不正競争防止法に規定する不正競争行為に該当するならば、不正競争防止法の規定に従い法的処理を行えばよい。しかし、著作権侵害に該当せず、なおかつ、不正競争に該当しない行為

については、情報制作者は法的救済への道が閉ざされてしまうのであろうか。すでに指摘されている通りであるが、保護が必要とされている情報又はその利用行為と現実に著作権法や不正競争防止法など知的財産法が保護しているこれら

との間には常に乖離が生じている

。的情報又はその利用行為を法に救いかうろあでの無は途るす済 るられこい。護これら知的財産法によっては保さて護れさと要必が保れ的法、がいな 1)

  民法七〇九条は、﹁故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益 0000000000を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う(傍点は筆者による。)﹂と定める。

第二節  民法七〇九条による救済の可能性   民法七〇九条は、厳格な﹁権利﹂侵害のみに限らず、法律上保護される利益の侵害に対しても、侵害者に対して不法行為として損害賠償責任を負わせる規定を設けている

2

  この民法七〇九条の規定のあり方から言えば、著作権の侵害に該当せず、かつ不正競争防止法が規定する不正競争行

  (四一九六)

(4)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一七九同志社法学 六〇巻七号 為には該当しない情報又はその利用行為が、﹁法律上保護される利益﹂に該当することを前提に、この利益の侵害として、不法行為が成立する余地は十分考えられるのである。法文上、民法七〇九条は﹁権利侵害又は法律上保護される利益﹂

と規定されているだけであり、権利非侵害であれば、当然に、法律上保護される利益をも侵害しないと読むこともできない。

  情報制作者は、著作権や不正行為競争行為による法的救済ではなくても、この民法七〇九条に基づく法的救済の途が拓かれてもよさそうである。

第三節  本稿の目的   この著作権それ自体を侵害せず、かつ不正競争にも該当しない表現又は行為についても不法行為(以下、本稿では、著作権侵害又は不正競争行為に基づく不法行為と区別するために、著作権それ自体を侵害せず、かつ不正競争行為に該

当しない不法行為を﹁一般不法行為﹂とする。)が成立するかについては、従来にも判例及び裁判例並びに論考が公表されてきた。

  後述するが、従来における一般不法行為の成立については、知的財産法一般の議論にはなるが、判例及び裁判例にお

いて情報の自由利用及び自由な市場競争という大原則の下、明らかな立法不備、大部分の成果冒用、粗悪品販売による商品又は役務の信用毀損といった事由が認められ、かつ、競業者の営業上の利益を侵害する場合において、この一般不

法行為が成立するという一応のメルクマールが形成されていた。このような判例及び裁判例の傾向において、特段何々権という権利侵害ではなくてもある者の行為に﹁違法性﹂が存在すれば、一般不法行為として損害賠償責任を負わせる

民法七〇九条の事案解決柔軟性を前提に、学説もこの傾向に特段の反対論は見られなかったと思われる。

  (四一九七)

(5)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一八〇同志社法学 六〇巻七号

  ところが、近時、ごく一部の情報の模倣行為に一般不法行為の成立を容認する二つの知財高裁判決が登場し、この一

般不法行為成立問題は、大いに注目されている。これら知財高裁判決に対して、そもそも情報とは本来に自由に利用できるものであり、わざわざ立法で情報の利用行為にかかる権利は規定されているのであるから、司法が、事実上、情報

利用に対する権利を創設することになる一般不法行為の成立は、原則として、謙抑的であるべきであるという見解が、近時、有力に主張されている

い明張される非常に快らな論理であり、大主かす質作権法を始めとる。知的財産法の本著 3

に支持を得るものと思われる。しかし、筆者は、近時の技術発達により、情報の模倣が非常に容易に成っているが故に、非常に短期間に模倣された類似情報が公にされるなど、従来得ていた情報制作者又は出版社などの情報流通者が本来得

るべき経済的利益が損なわれているのではないのかという点を考慮して、この有力説に若干の疑問を投げ掛け、立法又は法改正が迅速に行われていない現状では、情報の無断利用に不法行為規定による救済の必要性を主張し、その成立要

件にかかる若干の提言を行いたい。

  なお、この一般不法行為の成立について議論する際には、民法七〇九条の規定から﹁他人の権利又は法律上保護され

る利益﹂のみならず、﹁侵害者の故意又は過失﹂、﹁侵害者とされる者の行為と損害との因果関係﹂、﹁侵害行為による損害賠償額の算定﹂についても議論しなくてはならないことは言うまでもない。しかし、議論の散漫を防止するため、本

稿で議論すべき一般不法行為の要件については、﹁他人の権利又は法律上保護される利益﹂という要素に議論の焦点を定める。

  本稿は、以下の順序で検討を進める。まず、これまで為されてきた議論を振り返る(第二章)。その後、近時大いに注目された二つの知財高裁判決及びその影響について触れる(第三章)。その後、この一般不法行為成立の是非及びそ

の成立要件の提言を行う(第四章)。

  (四一九八)

(6)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一八一同志社法学 六〇巻七号 第二章  これまでの議論 第一節  一般不法行為成立に関する一般論     第一款  制定法

  現行民法七〇九条は、周知の通り、平成一六年の法改正により﹁故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護さ れる利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。﹂となった。立法担当者によれば、この改正による規定のあり方は、旧規定及び(後述の)大学湯事件等の判例及び通説を明示したものであるとされる

。また、 4

この改正については、判例及び学説において解釈が確定されているものに限って、この改正が為されており、基本的には旧規定における解釈は実質的には変更されてはいないとされる

5

    第二款  判例   先述のとおり、本改正は、旧規定における判例及び通説の理解の上に成り立っているので、これら判例及び通説等学

説を振り返るという作業も重要である。まず、本款では判例を見ておく。

  民法施行直後、厳格な意味での﹁権利﹂の侵害だけが不法行為になるとの姿勢を大審院は採っていた。この姿勢は、 大判大正三年七月四日刑録二〇輯一三六〇頁(桃中軒雲右衛門事件)に現れている。この事案では、著作権で保護されていない即興演奏

一訴すると共に附帯私(告旧刑事訴訟法(大正訴事を製収録したレコードの作刑を行った者に対して 6)

一年法律七五号)五六七条乃至六一三条)として民法七〇九条に基づき損害賠償請求等がなされたのであるが、大審院

  (四一九九)

(7)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一八二同志社法学 六〇巻七号

は、明文で権利が規定されていない限り、民法七〇九条で保護される権利には該当しないと判示したのである。

  しかし、大審院は、大判大正一四年一一月二八日民集四巻六七〇頁(大学湯事件

不を七〇九条にいう権利侵害の対象﹁民其シ対ニ害侵ノ上吾念観律法ノ人法、に件とはなる。こ事のにおいて、大審院 のにおいて、そ)立場を変更するこ 7)

法行為ニ基ク救済ヲ与フルコトヲ必要トスルト思惟スル一ノ利益﹂とする一般論を提示したのであった。すなわち、法律上保護される利益であるならば、特段何々権と規定されていなくても、その利益の侵害行為があれば、不法行為が成

立するとの立場を採用したのであった。不法行為成立に関するこの大審院の姿勢は、その後においても維持されてきた

8)

  ところが、平成に入って、この大審院が採用した姿勢を、最高裁が、一見すると、放棄したかのように読める事件が

登場したのである。ゲームソフトの制作販売を業とする被告が、実在する多数の競走馬を登場させる競馬ゲームを制作販売したところ、馬主から自己の所有する競走馬の馬名が無断利用されたとして、被告に対してゲームソフト制作販売

の差止及び損害賠償請求を求めた、いわゆる物のパブリシティ権に関する最判平成一六年二月一三日民集五八巻二号三一一頁(ギャロップレーサー事件上告審)が現れた。最高裁は、法令等の根拠が無い故、物にはパブリシティ権は存在

しないと判示し、また競走馬の名称等の無断利用における一般不法行為の成立を否定したのである。

  この判旨を一読すると、前述の大学湯事件から判例変更し、厳格な意味における権利の侵害だけが不法行為として成 立すると理解されかねない。しかし、最高裁が示したのは、この事件を担当した調査官の解説

律い張しても不法行為は成立しなとを判断しただけに過ぎず、他の法主害る物馬にかか侵所有権やのパブリシティ権の 本よれば、に事件では、 9)

構成に基づけば不法行為成立の余地はあったということである。この調査官解説に従うならば、大学湯事件以降、最高裁が採用してきた姿勢は維持されていると理解してよい。

  (四二〇〇)

(8)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一八三同志社法学 六〇巻七号     第三款  学説   学説においては、旧規定に言う﹁権利﹂をどのように理解するかについては、民法制定以来今日まで、幾多の変遷が 見られるのは周知の通りである

へと利侵害から違法性の﹂い﹁う立場が支配的となった権 末唱提授教川、権てに﹁大学湯事件﹂判決での、﹁利。﹂の理解における転回を受け特 10

さ護解理とるあで大拡の益法保はに的質実、はき動のこ。 11

れる

12

  特段何々権でなくても、他人の行為に違法性があれば民法七〇九条による法的救済の途が拓かれたのであるが、それ

では、同条で保護される利益とは何かという判断基準が求められることになる。前田達明教授は、この﹁法律上保護される利益﹂とは、﹁我々が、社会生活上、享受している利益のうち、法上﹃権利﹄と認められている利益と同程度の保

護を必要とすると社会的に観念され、裁判外では、そのような取り扱いを受けている﹂ものと主張される

利感行為からの保護に価するとぜ不られる利益﹂であるが、この法てはろ定の﹁権利﹂とっひ﹁く、平均的法成員によ 。規旧、たま 13

益を無条件に不法行為から保護すべき利益とは位置づけることはできず、その利益の侵害が刑罰法規又は公序良俗違反に反する必要があると主張される四宮教授の見解がある

点し頂を法憲、を性護保要のてと﹂利権﹁るあに定規旧たま。 14

とする法秩序により保障された個人の権利が何かを基点として決定しようとする見解もある

15

  以上のように、民法七〇九条で保護される利益についてその外縁が提唱されているものの、具体的には、どのような利益が﹁法律上保護される利益﹂であるのか、判断に苦しむ所は否定できない。そこで、民法七〇九条で保護されるべ

き権利または利益であることを判断する基準として、潮見教授は、民事裁判制度との関係から①権利者の範囲が明確であること、②権利・利益の客体・内容が明確であること、③具体的な被害者個人の個別的利益の保護を基礎づける実体

法が存在することを挙げられる

16

  (四二〇一)

(9)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一八四同志社法学 六〇巻七号

  しかし、法的保護が受けられる利益が、先述した見解によってその外縁及びその内容が、たとえ、明確になったとし

ても、﹁法律上保護される利益﹂の侵害が、即、一般不法行為の成立となるのかという問題が生じるのである。この問題については、絶対権とそれ以外の法的利益を区別し、その区別によって侵害行為の態様による衡量を正面から取り上

げるか否かに差を設けるべきとの主張がある

17

  周知の通り、平成一六年改正で、旧規定にあった﹁権利﹂という文言が、﹁他人の権利又は法律上保護される利益﹂ に改められた。先述の通り、立法担当者の解説では、大学湯事件以降の旧規定の理解からは、実質的には変更はないとされる。しかし、この改正された条文につき、従来とは異なる解釈が可能になったとの指摘もあり

、必ずしも立法者等 18

が意図した条文の解釈だけが成立するとも断言することもできない可能性もある。この﹁権利﹂と﹁法律上保護される利益﹂とに二分された事を受け、先述の絶対権とそれ以外の権利については不法行為成立要件においては区別を設ける

べきとの見解を支持し、現規定が、わざわざ権利侵害とそれ以外の法律上の保護される利益とを区別していることから、ドイツ流の絶対権侵害の場合とそれ以外の法的利益侵害とに分けることができるのではないのかと指摘する見解が現れ

害行疑るす有を係関のと為害も侵非権作著るあで点焦の問そ本係侵権対絶、はていつに関も完補のこ。るうじ生もそ稿 、法現と﹂利権﹁るあに定規、うばれすに提前を摘指の﹁律。補いとかのるあに係関完に上常は﹂益利るれさ護保こ 19

の場合故意又は過失があれば、当然に違法であり、絶対権侵害に至らない法的利益の侵害の場合には、特に違法性が要求されるという法益の二段階構造の存在を指摘する見解も既に主張されている

20

    第四款  小括   以上、一般不法行為の成立にかかる一般論を見てきた。大学湯事件以降、特段何々権の侵害ではなくても、﹁法律上

  (四二〇二)

(10)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一八五同志社法学 六〇巻七号 保護される利益﹂が侵害されれば、民法七〇九条の救済が受けられるというのは、平成一六年改正以後においてもその姿勢は貫かれている。しかし、具体的に﹁法律上保護される利益﹂とは何かという点は、不明確であるのは否定できな

い。この不明確性については、潮見教授が、﹁法律上保護される利益﹂の判断基準確立に成功されてはいる。しかし、潮見教授の基準も、本稿の焦点である著作権関連の問題に特化したものとは言えず、当然に著作権関連の議論において

も妥当すると結論づけるのも尚早であろう。そこで、次節においては、著作権関連にかかる議論(必要に応じては他の知的財産関連に及ぶこともある)を見ておくことにしたい。

第二節  著作権関連にかかる議論     第一款  裁判例

  さて、この一般不法行為の成立につき、著作権関連裁判例はどのような姿勢を採っていたか。全体的な傾向としては、著作権非侵害行為に対し一般不法行為も成立しないとするものが多数を占める

を般立成の為行法不一、ずま、でこそ。 21

否定した事案から進めたい。

     第一項  否定例   一般不法行為の成立を否定した裁判例は非常に多く

。かって、近時の事案ら概観しておきたい るがたし。あはでの全てを検討するの、、紙幅の関係から困難そ 22

  まず、著作権侵害と一般不法行為との関係を強調したと思われる事案を紹介しておきたい。

  (四二〇三)

(11)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一八六同志社法学 六〇巻七号

  ①東京高判平成一六年三月三一日:平成一六(ネ)三九(多湖輝の新頭脳開発シリーズ控訴審)について触れよう。

事案は以下の通りである。Xら(原告・控訴人ら)及びY(被告・被控訴人)は共同で﹁多湖輝の頭脳開発シリーズ﹂という名の書籍シリーズ(原シリーズ)を企画・制作し、Yがこれら書籍を出版した。その後、Yが絵や構成を新たに

した﹁多湖輝の頭脳開発シリーズ﹂(新シリーズ)、さらに﹁多湖輝の新頭脳開発シリーズ﹂(本件シリーズ)を出版した。Yは、原シリーズ及び新シリーズの出版については、Xとの間で出版権設定契約に基づいてこれらシリーズを出版して

いたが、本件シリーズについては、出版権設定契約は締結されてはいなかった。そこで、Xは、本件シリーズは原シリーズ及び新シリーズの改訂版であってXらが本件シリーズの著作権を共有し、Yによる本件シリーズの出版は、Xらの

著作権を侵害するもの、又は一般不法行為を構成するものとして提訴した。

  原審

、、それ自体ではないから著表作権の客体ではない故現ずウぎ、Xらの主張するノハでウは、アイディアにすは 23

著作権侵害は成立しないとの前提の上、Yによる書籍出版行為は、著作権侵害にも契約違反にも該当しないから、Yの行為にはそもそも不法行為を構成する違法行為はないと判示した。さらに、著作権侵害にも契約違反にも該当しない場

合に、一般不法行為が成立する余地があるとしても、Xらが主張する﹁シリーズを通じての企画、ノウハウ、プログラム、構成及び信用等の相対﹂なる概念は、きわめて曖昧なものであり、当該ノウハウ等は既に他の同種の書籍において

使用されていた故、民法上も保護に価する利益ではないとして、一般不法行為の成立を否定したのであった。控訴審では、原審の趣旨に加えて、先述の最判平成一六年二月一三日民集五八巻二号三一一頁(ギャロップレーサー上告審)と

同様の一般論を援用し、ノウハウ等が著作権の客体たり得ないから、一般不法行為として保護する利益であることも到底言えないとして、Xの控訴を棄却した。

  この事例は著作権非侵害行為が当然に一般不法行為にも該当しないという帰結を提示したものと言えよう。

  (四二〇四)

(12)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一八七同志社法学 六〇巻七号   次に、市場競争の自由性を強調して、一般不法行為の成立を否定した事案である。

  ②東京地判平成一五年一月二八日:判時一八二八号一二一頁(PIMソフト)では、コンピュータ・ディスプレイの

背景画像を変更することができる、スケジュール管理ソフトウェアを制作販売していたXが、同様のソフトウェアを制作販売していたYを著作権侵害及びYの制作販売行為が一般不法行為に該当するとして、ソフトウェアの制作販売等の

差止及び損害賠償を請求した事案である。判旨は、Yの著作権侵害を否定しつつ、一般不法行為についても﹁⋮⋮市場における競争は本来自由であるべきことに照らすと、著作権侵害行為や不正競争行為に該当しない行為については、当

該行為が、ことさら相手方に損害を与えることを目的として行われたなどというような特段の事情が存在しない限り、民法上の一般不法行為を構成することもないと言うべきである。⋮⋮(以下、略)﹂とした。

  次に、②と同様の事案として、③類似の編集体系を有する月刊情報誌出版行為が一般不法行為を構成するか争われた東京高判平成一七年三月二九日:平成一六(ネ)二三二七(ケイコとマナブ控訴審)がある。事案は以下の通りである。

X(原告・控訴人)が、各地方のお稽古事やスキル・アップを目的としたスクール講座情報を掲載した情報誌(X情報誌)の東海地方版・首都圏版・関西地方版を平成一四年四月に発行した。このX情報誌には、読者が容易に講座情報を

検索し易いように、大分類項目の﹁ツメ見出し﹂や小分類項目の﹁カプセル﹂を採用する編集を行っていた。ところが、

Y(被告・被控訴人)が同年である平成一四年八月にX情報誌に類似した編集体系を採用した各種の講座情報を掲載した情報誌(Y情報誌)の東海地方版(ただし、X情報誌に掲載された個々の広告記事は基本的には異なる。)を、また

翌年平成一五年一月には、首都圏版及び関西地方版を発行したのであった。

  原審(東京地判平成一六年三月三〇日:平成一五(ワ)二八五)は、X情報誌の、広告記事という表現ではない﹁ツ

メ見出し﹂や﹁カプセル﹂による編集体系には編集著作物としての法的保護を受けることはできないとの理由でYの著

  (四二〇五)

(13)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一八八同志社法学 六〇巻七号

作権侵害を容認せず、講座情報誌市場における自由競争理念及び言論活動の自由の理念に照らせば、特段、YによるX

への加害行為が認められない限り、Yの一般不法行為の成立を容認することはできないとした。控訴審においても、X情報誌の編集体系は、著作権の客体にならず、X情報誌をデッドコピーするなど自由競争の範囲を脱する行為を行うな

ど特段の場合を除いて、Yの出版行為には何ら違法性はないとしてXの控訴を棄却している。

  さらに、④営業形態の模倣に関する事案ではあるが、情報の保護とその利用のバランスについては、すでに知的財産

法によって決定されていると考えることを前提として、当該知的財産法が明確に﹁公共財﹂と規定している情報の利用につき、不法行為規定による法的保護を与えることは、特段の事情が無い限り、当該知的財産法の趣旨を逸脱するもの

であると判示した東京地判平成一三年九月六日:平成一二(ワ)一七四〇一(寿司百花)がある。

  ②乃至④の裁判例からすると、﹁特段の事情﹂の有る場合に限って一般不法行為の成立を認めるという裁判所の非常 に慎重な姿勢が窺われる

24

     第二項  肯定例   次に、一般不法行為の成立を容認した事案に触れよう。情報の無断利用に対して、一般不法行為の成立を容認した事

案数としては、否定例と比較して少ないが、存在する。しかし、一般不法行為の成立を容認はしているものの、これら事案においては、裁判所は著作権及び不正競争防止で保護されない情報の無断利用が、その無断利用を以て当然に﹁法

律上保護される利益﹂として法律上保護してきたわけではなく、その事案の有する個別事情を考慮してきたという指摘がすでになされている

、為混体主等品商①は行と情事別個のそ。同 25

、②不当廉売 26

義に実誠義信るけお程過渉交約契③、 27

務違反

を位競たし用利為地行の中職在④、業 28

の断は、情報の無利い用行為そのもてお、で案事のられこに故れそ。るあ 29

  (四二〇六)

(14)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一八九同志社法学 六〇巻七号 にかかる一般不法行為成立の問題ではなく、別の法理に基づく不法行為成立性を議論すれば足りるとの指摘がすでに為されている

焦す断利用そのものに対るの事案を一般不法行為と無報は情かに、これらの事案、。本稿の焦点である、確 30

点を同一視できないと考える。そこで、本稿では、この指摘に従い、情報の無断利用に焦点をあて紹介しておく。

  不正競争防止法に規定される商品形態のデッドコピー規制規定が制定される前のものであるが、デッドコピーに対し

て一般不法行為の成立を認めた東京高判平成三年一二月一七日:知裁集二三巻三号八〇八頁(木目化粧紙控訴審)がある。この事案においてY(被告・被控訴人)は、X(原告・控訴人)が製造販売する木目化粧紙と全く同じ柄の木目化

粧紙を製造販売して競合地域で廉価販売したのであった。そこで、XがYを著作権侵害でY製造の木目化粧紙の差止及び損害賠償を請求したものである。控訴審は、Xが製造した木目化粧紙の著作物性を否定したものの、Yの木目化粧紙

製造販売行為に一般不法行為の成立を容認した。控訴審は、YがXの木目化粧紙のデッドコピーを製造し、Xと競合する地域においてこの木目化粧紙を廉価販売した行為に対して﹁取引における公正かつ自由な競争として許されている範

囲を甚だしく逸脱し、法的保護に価する控訴人の営業活動を侵害するものとして不法行為を構成するというべきである﹂と判示したのであった

31

  次に、法的保護が欠缺している成果物の冒用に関する事案である。フォントの模倣行為に関する事案として、大阪地

判平成元年三月八日:無体集二一巻一号九三頁(写植機用文字書体)がある。同判決は、結論としては、本事案におけるフォントの模倣行為につき、フォント制作者の請求は棄却したものの、傍論ではあるが、﹁著作物性の認められない

書体であっても、真に創作性のある書体が、他人によって、そっくりそのまま無断で使用されているような場合には、これについて不法行為の法理を適用して保護する余地はあると解するのが相当である﹂と判示した

。同じくフォントに 32

関する事案で、かつ同じく傍論で大阪地判平成九年六月二四日:判タ九五六号二六七頁(ゴナU)も﹁真に創作的な書

  (四二〇七)

(15)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一九〇同志社法学 六〇巻七号

体であって、過去の書体と比べて特有の特徴を備えたものである場合に、他人が、不正な競争をする意図をもって、そ

の特徴ある部分を一組の書体のほぼ全体にわたってそっくり模倣して書体を制作、販売したときは、書体の市場における公正な競争秩序を破壊することは明らかであり、民法七〇九条の不法行為に基づき、これによって被った損害の賠償

を請求することができる余地がある﹂と判示した

33

  次に法的保護の欠缺が指摘されている情報の無断利用の場合である。東京地判平成一三年五月二五日:判時一七七四

号一三二頁(スーパーフロントマン中間)は、原告製品に収録されている一二万件の車両データのうち、六万件乃至一〇万件のデータをそのまま複製し、被告製品を作成し、原告との競争地域に販売したので、原告が著作権侵害と不法行

為を理由に被告製品の差止と損害賠償を請求した事案である。判旨は、﹁人が費用や労力をかけて情報を収集、整理することで、データ・ベースを作成し、そのデータ・ベースを製造販売することで営業活動を行っている場合において、

そのデータ・ベースを複製して作成したデータ・ベースを、その者の販売地域と競合する地域において販売する行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に価する営

業上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成する場合があるというべきである﹂と判示している。

  スーパーフロントマン中間判決では、他人の営業上の利益侵害が一般不法行為に該当しうるとの考えを示している

が、この営業上の利益という点に特に着目した事案として、横浜地判平成一七年五月一七日:平成一六(ワ)二七八八(スメルゲット)がある。この事案は、ウェブサイトに公開されたある品物を撮影した写真が著作物性を具備するか否

か争われたものであるが、判旨は、この写真の著作物性を否定したものの、他人が撮影した品物写真を無断でウェブサイトに公開する行為は、その行為が他人の営業活動を妨害し、その結果、営業上の利益を侵害する場合には、一般不法

行為が成立する可能性があるとした

34

  (四二〇八)

(16)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一九一同志社法学 六〇巻七号   情報の無断利用にかかる一般不法行為の成立要件については、不明確な点を残しているという批判が成り立つことは否定できないが、少なくとも、情報をほぼそっくりそのまま又はその大部分の無断利用により、他人の営業上の利益を 侵害したか否かということがメルクマール

になると評価できよう。 35

    第二款  学説   それでは、この一般不法行為の成立につき、学説はどのような姿勢を採っていたのであろうか。   周知の通り、学説は、この一般不法行為の成立につき、積極的な姿勢を採るものと消極的なものに分けられる。まず、積極的な姿勢を採るものからみていこう。

     第一項  積極説   著作権で保護されない情報について一般不法行為規定による法的救済は、社会に生起した新しい事態に対処し得る柔軟性をもっていると指摘する、過去の中山教授の見解(近年の見解については第三章)がある

。また過去の田村教授の 36

見解ではあるが、田村教授は、﹁知的財産法の存在意義と不法行為規定のそれとは、そもそも異なるのであり、知的財

産法の保護対象以外の情報を不法行為規定で救済することは、知的財産法の趣旨を逸脱するものではなく、創作者のインセンティヴを喚起する役割をも担っているとする﹂と主張されていた

37

  また、知的財産法一般に関するという留保があるものの、保護すべき必要性のある情報と現実に知的財産法が保護している情報には常に乖離が生じていると指摘し、その上で知的財産法では保護されない情報に対しては民法七〇九条を 積極的に活用することも考えられるとする見解がある

法与不、と方りあの護保るれらえてっよに法産財的知、にらさ。 38

  (四二〇九)

(17)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一九二同志社法学 六〇巻七号

行為法のみによるそれとは、差止請求権の有無、保護範囲の明確性、保護期間等において相違

があることを指摘した上 39

で、知的財産法による保護から漏れた情報の利用について不法行為規定による保護を与えたとしても、ただちに知的財産法の趣旨を潜脱することにはならないと考えられ、むしろ、不法行為法による保護は、相対的に柔軟な侵害判断のも

とに、損害賠償のみによる救済という中間的な解決を提供するものであり、固有の意義を有すると主張される上野准教授の見解がある

に為れるものの、不法行の定成立可能性を明示的さ限デにた、創作性のないー。タベースの無断利用ま 40

肯定する見解もある

41

  この一般不法行為の成立につき、営利目的に基づく情報の無断利用という限定はあるが、民法上の一般的な損害論と、 無体物が保護対象である著作権法における損害論とでは、損害の性質やその理論構成が異なるべきとする見解がある

。べがどのように異なるき構なのかその提案はない成論お理かし、この見解にいては、これら両者のし 。 42

  一般不法行為成立の意義については、先述の通りであるが、それではこの成立要件につき、その提示に成功している見解がある。まず、渋谷教授によれば、いわゆる財産的成果の模倣盗用に限定されてはいるが、①非侵害利益が創作的

であること、②被侵害利益が不正競争防止法や著作権法の保護対象たる要件を充たしている必要はないこと、③模倣盗用行為が存在すること、④模倣の結果が原作と実質的に同一であること、⑤少なくとも営業妨害の事実が認められるこ

とを挙げられている

のてるれさ容許に的会社し度と争競な正公、﹁が②そ限を情さるれらげ挙をとこたれ用超利で様態な当不﹂るえ報 労の本資、が報情いな性、作創①、は授教准野や力。れとこるあでのもたさを得獲・成作てし下投上 43

44

     第二項  消極説   次に、一般不法行為の成立について消極的な見解についてみてみよう。

  (四二一〇)

(18)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一九三同志社法学 六〇巻七号   まず、情報は本来自由であるという観点から主張されるものである。すなわち、著作権非侵害行為に限定されるものではないが、ある者の行為が他人に経済的損失を与えることも自由競争のもとで放任される建前という前提で、価値あ る情報が直ちに権利化されて侵害を排除できるわけではないとする玉井教授の見解がある

45

  また、いわゆるパブリシティ権にかかるものであるが、一般不法行為による法的保護に関し、民主的な決定が為され ていない事、及び裁判所による情報利用にかかる効率性の判断が困難であり、また裁判所が大局的な見地から政策的判断をなすことが容易ではない点から、一般不法行為の成立に消極的な立場を示す井上教授の見解がある

46

第三節  小括   従来の裁判例及び学説からは、著作権法や不正競争防止法が、情報の利用態様に追いついていないという現実から、その現実に対処するために、民法七〇九条を適用することにより、柔軟な解決策を見出そうとする一般論それ自体は、

大勢を形成していたものと考えられる。また、一般不法行為成立の要件としては、特に純粋な情報の無断利用については、その情報が、ほぼそのまま又は大部分利用され、かつ、その利用行為が、情報制作者の営業上の利益を侵害すると

いう一応のメルクマールが形成されていたという状況であった。著作権の保護を受けず、かつ不正競争に該当しない情

報の利用については、このメルクマールによる一応の法的安定性が図られていたといえよう。

  しかし、この法的安定性は平成一七年一〇月及び平成一八年三月に示された、二件の知財高裁判決により崩壊したの

であった。

  (四二一一)

(19)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一九四同志社法学 六〇巻七号

第三章  知財高裁の挑戦 第一節  転換点となった裁判例の出現   従来の裁判例においては、一般不法行為の成立要件については、一応のメルクマールが形成されつつあったと評価できよう。

  しかし、近年、知的財産高等裁判所が、この一般不法行為の成立を積極的に容認する、知財高判平成一七年一〇月六日:平成一七(ネ)一〇〇四九、いわゆるライントピックス控訴審判決及び知財高判平成一八年三月一五日:平成一七

(ネ)一〇〇九五等、通勤大学法律コース事件控訴審判決という二つの判決を出したこともあり、この一般不法行為の成立要件については注目されている

47

  まず、

はこの事件の概要以う下の通りである。よラ控イントピックス訴し審判決から紹介。   日刊新聞の発行等を業とするX(原告・控訴人)が、運営を行っているウェブサイト﹁YOMIURIONLINE﹂

に公開された二五字以内のニュース記事見出し(以下、YOL見出しとする)を、インターネット上でライントピックスとなるサービスを提供するY(被告・被控訴人)が複製し、平成一四年一〇月八日から平成一六年九月三〇日の間、

継続して、Yウェブサイト上においてその複製した記事見出し(以下、LT見出しとする)を表示した。さらに、LT見出しには、それをクリックすれば、訴外Aが公開するウェブサイト上のX制作ニュース記事が表示されるべくプログ

ラム処理が為されていた。そして、先述の期間、Yウェブサイトの登録ユーザーに対してYOL見出しのデータの公衆送信を行っていたのである。そこで、XはYに主位的にYOL見出しにかかる著作権侵害を理由として、予備的にこれ

らYの行為が不法行為に該当するとしてYOL見出し複製等の差止及び損害賠償を求めたのである。原審(東京地判平

  (四二一二)

(20)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一九五同志社法学 六〇巻七号 成一六年三月二四日:判時一八五七号一〇八頁)は、YOL見出しの著作物性を否定したうえで、一般不法行為の成立も否定し、Xの請求を棄却した。そこで、Xが控訴した事案である。なお、Xは控訴する際、請求の変更を行い、とり

わけ、不正競争防止法が規定する不正競争行為を理由とする差止及び損害賠償を追加している。

  控訴審は、YOL見出しについて、ありふれた表現であるとして著作物性を否定した。しかし、まず、﹁不法行為が

成立するためには、必ずしも著作権など法律に定められた厳密な意味での権利が侵害された場合に限らず、法的保護に価する利益が侵害された場合であれば不法行為が成立するものと解すべきである﹂と一般不法行為成立にかかる一般論

を展開した。この前提に基づき、ニュース報道における情報は、Xらの多大な労力、費用を掛けて取材、記事制作、編集、記事見出し制作を行った結果である。さらにYOL見出しは有償の取引対象となっていることを考慮して、情報の

鮮度が高い時期に、営利目的でYが反復継続して、YOL見出しに類似するLT見出しを制作し、これをYウェブサイト上及び約二万サイトに及ぶ登録ユーザーにウェブサイト上に表示させたYの行為は、Xの法的保護に価する利益を違

法に侵害したとして、一般不法行為の成立を容認したのである。

  次に

はこの事件の概要、う以下の通りである。よ通事勤大学法律コース件し控訴審判決を紹介。   弁護士であるXは、一般人向けの法律解説書(以下、X文献とする)一乃至三の著作者であり、かつ著作権者である。

Yた至三を発行し出一版社である。乃 0﹂戦文献とする)会究研略務、法スネジビ﹁を者著、Y下と律表示する﹁通勤大学法シ以リーは﹂という文献(ズ

1載。るあで者るいてれさ記はと者修監にて全献文YY

2は、Y文献一及び三に

監修者と記載されている者である。Y

3し。るあでのもた修は監をて全献文Y、Y

。てるあで者るい 4修者とは載され監に二献文Y、記   X文献一乃至三にある一部の表現とY文献にある一部の表現が非常に類似している

ため、Xは、Y 48

0に対しては、Y

  (四二一三)

(21)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一九六同志社法学 六〇巻七号

文献を発行したこと、Y

1、Y

2及びY

4の、とこるあで者筆執真にの献文Y、はてし対Y

3に対してはY文献の監修者

であることを、それぞれの理由として、Y文献に見られる文章等がX文献のそれらと同一又は類似していることを以て、Xの著作権(複製権及び翻案権)及び著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)を侵害するとして、①著作権法一

一二条一項に基づき、Y文献の販売等の差止、②民法七〇九条に基づき損害賠償、③その他を請求した。原審である東京地判平成一七年五月一七日:判時一九五〇号一四七頁

は、Y 49

1及びY

2こで上たし定認をとるがあで者筆執の献文Y、

Y文献がX文献に依拠して執筆されたことも認定して、Y

0、Y

1及びY Yた他の請求は棄却され。そそこでXが控訴し、の、認容し 2及対する差止請求にび損賠償請求を一部害

0、Y

1及びY

2が附帯控訴した事案である。   控訴審は、①著作権及び著作者人格権侵害に関しては、まず、Y文献の依拠性について、判旨は﹁両文献(筆者注:X文献及びY文献)を子細に比較すると、単に読者層や著作の目的・性格の同一であるということだけでは説明しがた

いほどに構成、文章等が酷似しており、執筆者が異なれば多少の相違が生じるのが自然であると思われる部分に共通していることが認められる﹂とした。しかしながら、判旨はXの著作権及び著作者人格権の侵害に関しては、﹁⋮⋮(筆

者注:両文献の)上記共通部分は、法令や判例・学説及び実務の運用から導かれる当然の事項を普通に用いられる言葉で表現したものにすぎず、創作的な表現であるとはいえない﹂とし、Y文献はXの著作権及び著作者人格権の侵害を構

成しないと判示したのである。次に  ②民法七〇九条に基づく請求に関しては、﹁⋮⋮X各文献を構成する個々の表現が著作権法の保護を受けられないとしても、故意又は過失によりX各文献に極めて類似した文献を執筆・発行すること

につき不法行為が一切成立しないとすることには妥当ではない。執筆者は自らの執筆にかかる文献の発行・頒布により経済的利益を受けるものであって、同利益は法的保護に価するものである。そして、他人の文献に依拠して別の文献を

執筆・発行する行為が、営利の目的によるものであり、記述自体の類似性や構成・項目立てから受ける全体的印象に照

  (四二一四)

(22)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一九七同志社法学 六〇巻七号 らしても、他人の執筆の成果物を不正に利用して利益を得たと評価される場合には、当該行為は公正な競争として社会的に許容される限度を超えるものとして不法行為を構成するというべきである﹂として一般不法行為の成立を容認した

のである。

第二節  これら裁判例の影響   これら二つの知財高裁判決は、従来の裁判例で示された一般不法行為成立要件の判断基準から逸脱したと評価されて

いる

50

  まず、中山教授は、これら二つの判決を受けてなのか、以前では、知的財産法が保護できない利用態様に柔軟な解決

策を提供するものと一般不法行為成立に積極的な姿勢を採られていたと窺われていたが、近年の見解では消極的な姿勢が窺われる。すなわち、そもそも、この一般不法行為の成立に関する一般論として、本来自由利用であるべき表現の本

質、及び法的安定性から、著作権で保護されない情報の無断利用が、当然に、一般不法行為となるという考えを容認しない見解を採用されるのである

51

  また、田村教授は、知的財産法一般に関する見解ではあるが、過去に示された見解とは方向性が異なる見解を主張さ

れている。すなわち、﹁個別の知的財産法で明示的に規律されていない成果の利用行為を、民法七〇九条の一般不法行為により規制することには、知的財産権を創設する方向の解釈である以上、慎重であって然るべきである﹂と原則論を

掲げる

を的法ういと設創の権産財知対の上実事るよに所判裁にすはでドイラーリフの定一、りる限いならなに入介な剰過、の な法てし律規に的示明が産る財的知の別個、で上のいい。一けづ置位と為行法不般の利条九〇七法民を為行用そ 52

法が規律すべきと新たな立法を待つまでもないほど明白と考えられる場合に限定されるべきとする

。このように考える 53

  (四二一五)

(23)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一九八同志社法学 六〇巻七号

理由としては、そもそも司法は知的財産権の効率性にかかる判断が困難であり、しかもその政治的な責任を負えないか

らであるとする

よ利るす護保に的法を益の否者のられこ、りあできかかる的ばけおてね委に定決な主の民てしと則原、は断判べれさ正 設を権産財的知、ばれがあ題問に法、てっがた創し。立是れさ映反に程過法、よは益利の者るすとうし 54

いとされる

の授見も解見るす同賛に解見る教れ村田び及授教山中られこ。ら 55

56

  これら中山教授及び田村教授の見解は、民法学にも影響を与えている。すなわち、窪田教授は、大学湯事件以後の考

えに従うならば、著作権法によって規定された何々権の侵害に該当しない場合においても、﹁法律上保護される利益﹂が侵害されたならば、一般不法行為が成立すると論理的に考えることは可能としながらも、著作権法の存在意義を一義

的に説明できない昨今の状況

て立とこるす認容を成安の為行法不般一は易はにさといなきでとるこるけづ論結れ しとて非おに為行害侵権た作著、とるえ考いもか利れさ害侵が﹂益る﹁れさ護保上律法ら 57

58

  このように、一般不法行為の成立につき、原則、これを認めないという見解が強くなりつつあるのが、今日の状況と言ってよいだろう。

  このような状況の中、たとえ、一般不法行為の成立を容認するとしても、宮脇准教授は、一般不法行為の成立それ自体は排除しないものの、一般不法行為の成立を認めるならば、先行情報制作者の利益の法益性と後発者の行為態様双方 を具体的に検討するという方向性を前提に、その上でより明確かつ妥当な判断基準を追及すべきと主張される

59

  一般不法行為成立を原則容認しないという基本的視座及びたとえその成立を容認するとしても、明確な判断基準が求

められるべきという批判がこれら二つの知財高裁判決を契機に発せられている。

  しかし、もっとも、ライントピックス控訴審判決においては、一般不法行為成立を正当化できるのではないのかとい

う見解も存在する。すなわち、YOL見出しにフリーライドし、ニュースが発信されて間もないうちに、競業行為を行

  (四二一六)

(24)

著作権非侵害行為と一般不法行為一一九九同志社法学 六〇巻七号 うライントピックスの行為は、新聞社の記事制作意欲を削ぐものであり、そして新聞社が記事を制作しないことは社会全体の不利益につながるものであるから、ライントピックスの行為には一般不法行為の成立を正当化しうるというもの

である

たと独はと物作著、て以をこしるいてっ成に象対引取立た立利きでがとこるえ捉と益る価す価に護保的法は又値の独が 聞に制作のそ、がし出見LOY、はらか点視の学法新社。工し出見LOYたま、夫びが並用費や力労たし資投民 60

以上、その利益がライントピックスによって﹁社会的に許容される限度﹂を超えて侵害されたゆえ、ライントピックスの違法性が判断されたと位置づけられるものであり、またYOL見出しが法的に保護されるべき利益と捉えられる以

上、この一般不法行為成立の問題は、故意又は過失の要件の問題であるとする見解がある

61

  通勤大学法律コース控訴審判決に関して、大勢は判旨に批判的であるが、競業者同士の公正な競争確保又は情報受信 者の保護の観点から、判旨に賛成する見解がある

62

第四章  検討 第一節  一般不法行為の成立の是非   従来であるならば、この一般不法行為の成立要件については、批判はあるものの、一応のメルクマールが形成されつつあったと考えることができる

63

  ところが、先述の通り、ライントピックス控訴審判決及び通勤大学法律コース事件控訴審判決は、この一応のメルクマールから逸脱して、一般不法行為の成立を認めたのであった。しかし、これらの判決は、とりわけ、通勤大学法律コ

ース控訴審判決においては、著作権侵害を否定しつつ、一般不法行為の成立を容認した理由には説得力がないとの批判

  (四二一七)

(25)

著作権非侵害行為と一般不法行為一二〇〇同志社法学 六〇巻七号

が出ている

がぎは抽象的なものにすず件、一体どのような行為で要が立た、この控訴審判決示。した一般不法行為成ま 64

違法となるか予見できず、第三者による競争行為を過度に萎縮させる虞があるとの指摘がある

65

  これら批判には、本来は自由に第三者が利用できるはずである情報を、わざわざ政策的に著作権法及び不正競争防止

法に基づき、第三者による情報の利用行為を規制しているのだから、これら法律において明文を以て規制されていない行為に一般不法行為を成立させるのは、原則として、情報の本質及び知的財産法の存在意義に反するとの考えがあるの

であろう。

  先述の通り、保護が必要とされている情報及び行為と現実に著作権法や不正競争防止法など知的財産法が保護してい

るこれらとの間には常に乖離が生じている。そこで、その乖離を埋めるため、立法又は法改正がなされるのであるが、迅速な立法又は法改正が可能であるといえども、様々な要因で立法又は法改正そのものができないかもしれないし、立

法又は法改正ができたとしても、迅速にはそれらができない可能性は否定できないのである。法的保護を求めている情報制作者には、悠長に立法又は法改正されるのを待っている精神的余裕はなかろう。

  その乖離を埋める解決策として、不法行為規定の存在意義があるのではなかろうか。ある判決等を契機に、法的保護が求められている情報にかかる立法又は法改正が非常に迅速に、かつ、確実になされるならば、一般不法行為規定の適 用の是非を議論する意義は無くなり、当然、本稿の存在意義も無くなる。しかし、立法及び法改正には、様々な観点からの議論もなされることが通常であり

立で、非常に困難あのる。そのようなはう立い速かつ確実な法、又は法改正と迅 66

法又は法改正の状況のもと、知的財産法に規定される禁止されない行為に対して、当然、一般不法行為の適用はないとする見解には、疑問がある。

  また不法行為規定は、その伝統的な理解

と損た者に対する害害賠償に留まるし侵上に益利るれさ護保を律法、ばえ従 67

  (四二一八)

(26)

著作権非侵害行為と一般不法行為一二〇一同志社法学 六〇巻七号 いう、いわば中間的な解決策を提供するものであり、その利益を侵害した者の将来における行動をも規制するものでもないという利点もある

68

第二節  一般不法行為の成立要件   現実に著作権法や不正競争防止法など知的財産法が保護していない情報の無断利用に対して、一般不法行為規定による法的救済が容認されるとするならば、その成立要件をできる限り、明確化する必要があるのは、言うまでもない。な

ぜならば、この成立要件が抽象的なものに過ぎなければ、先述の通り、一体どのような行為が違法となるか予見できず、第三者による競争行為を過度に萎縮させる虞があるという懸念を払拭できないからである。

  この成立要件については本稿では、先述の裁判例を参考に、①情報の類似性、②無断利用された情報量、③情報制作の労力、④情報の鮮度及び営業上の利益の四点から検討してきたい。

  まず、①情報の類似性に関してであるが、情報は、本来、自由な利用が大原則である。したがって、後発情報が、先発情報の類似の範疇に入らないならば、当然、一般不法行為の成立は否定されるべきである。この判断基準としては、

通勤大学法律コース事件にある被告書籍のように、原審では複製権侵害と判断されたものの、控訴審でその判断が否定

されたという、複製権侵害の限界線上にあると言う程度まで類似性が要求されるべきであろう。書籍であるならば、数文乃至数十文などという情報量がある故、この類似性の判断は可能かもしれない。しかし、ライントピックス事件のよ

うに、記事見出しという、ぜいぜい二〇数文字程度の情報は類似性の判断が可能なのかという反論は予想されるところである。なぜならば、記事見出しのような事実の伝達は、ありふれた成果物になることが十分想定できるからである。

このような記事見出しの場合は、②無断利用された情報量以降の要素から総合的に判断していくしかないであろう。そ

  (四二一九)

(27)

著作権非侵害行為と一般不法行為一二〇二同志社法学 六〇巻七号

こで②無断利用された情報量の検討に移りたい。

  ②無断利用された情報量に関しては、ライントピックス判決前では、無断利用された先発情報量が、ほぼ全体又は一二万件中六万件乃至一〇万件というように、決してその無断利用を黙認できる状況ではなかったと評価できる。このよ

うに無断利用された情報量が先発情報の半分も超えるような利用態様に関しては、一般不法行為成立を視野に入れるべきであろう。しかし、ライントピックス事件ではせいぜい二〇数文字の記事見出しにかかる事案であり、また通勤大学

法律コース事件においても、数百頁中の数頁分の情報にかかる事案である。ライントピックス事件及び通勤大学法律コース事件においては、本来有するであろう情報の自由利用性の観点からは、そもそも著作権で保護されない、全体の情

報量から言えばごく一部にすぎないものの無断利用に、一般不法行為の成立をわざわざ容認すべきかとの批判も予想されるところである。しかし、ごく一部の情報であるから、法的保護が必要ではないと言う批判には、当然には賛成でき

ない。なぜならば、たとえ情報の量としてはごくわずかでも、その作成に多大な労力が費やされているものもあり得るからである。そこで③情報制作の労力の検討に移りたい。

  ③情報制作の労力に関しては、ライントピックス控訴審判決において示されているが、例えば、記事の見出しを制作するためには、そもそも記事を制作するために、情報収集作業が不可欠である。その収集作業に多大な時間や資金が投

入されることも十分考えられることである。記事見出しは、その情報収集を基に記事執筆者による知的活動の成果物である記事内容を文字数の制約のある中、一読により情報受信者に理解させるという、記事からのさらなる知的活動の成

果物と言ってよい。記事見出しは、著作物とは位置づけられないが、多大な時間や資金が投入された知的活動による成果物の中核的要素であり、その無断利用に当然に法的保護を排除すべきという見解には賛成できない。

  記事の場合と異なり、通勤大学法律コース事件の様に、法律概説書の如く、情報の内容の性質上、その具体的表現に

  (四二二〇)

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