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数についての一考察 : 畳語をめぐって

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(1)

数についての一考察 : 畳語をめぐって

著者 三浦 秀松

雑誌名 Core

号 27

ページ 43‑60

発行年 1998‑03‑10

権利 同志社大学英文学会Core編集部

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000015030

(2)

研究ノート

数についての一考察一畳語をめぐってー

数についての一考察

‑畳語をめぐって一

三 浦 秀 松

( e m a i l :  V Z Z 0 0 5 1 5 @ n i f t y s e r v e . o r . j p )  

43 

世界の多くの言語には,同じ語根を繰り返す

r e d u p l i c a t i o n

と呼ばれる表 現形態が数多く存在する。ロシア語,中国語,ネイティブ・アメリカンの 言語等の様々な言語から例を挙げ

S a p i r

(1

9 2 1 ) 1

r e d u p l i c a t i o n

について 次のように言っている。

Nothing i s  more n a t u r a l  than t h e  p r e v a l e n c e  o f  r e d u p l i c a t i o n ,  i n  other words ,  the r e p e t i t i o n  o f  a l l  o r  part of the r a d i c a l   e l e m e n t .  The p r o c e s s  i s   g e n e r a l l y  employed ,  with s e l f ‑ e v i d e n t   symbolism

, 

t o  i n d i c a t e  such c o n c e p t s  a s  d i s t r i b u t i o n

, 

p l u r a l i t y

, 

r e p e t i t i o n

, 

c u s t o m a I γ a c t i v i t y

, 

i n c r e a s e  o f  s i z e

, 

added i n t e n s i t y

, 

c o n t i n u a n c e .  

r e d u p l i c a t i o n

とは,日本語では「畳語」と呼ばれている表現がそれにあ たり,名調,形容調,副詞,動詞と全ての文法範轄に見られる表現形態で あるO 例えば,名調であれば「人々 j

r

山々 j,形容詞であれば「痛々しい」

「晴れ晴れしい

j

,副調であれば「わざわざ

j r

泣く泣く

j

,動調では「食べ ても食べてもj

r

走りに走る」と言ったように枚挙にいとまがないほど広範 に存在している。しかし,日本語のように

r e d u p l i c a t i o n

の生産性が非常に 高く,その事例が広範に見られる言語がある一方で,生産性が極めて低く,

(3)

44  数についての一考察 畳語をめぐって

文法形態としてあまり重要とされていない言語も見られるO 例えば,英語が そうである。英語にも

w i l l y ‑ n i l l y " 〆 g o o d y g o o d y "

,、

o o h p o o h "

等,明ら

かに

r e d u p l i c a t i o n

と言える倒が見られはするが,その数も僅少であり,

S a p i r

も英語は後者に属する言語であるとしている。

… . B u t  i t   can h a r d l y  be s a i d  t h a t  t h e  d u p l i c a t i v e  p r o c e s s  i s  o f  a  d i s t i n c t i v e l y  grammatical s i g n i f i c a n c e  i n  E n g l i s h . " 2  

こ の 様 な 畳 語

( r e d u p l i c a t i o n )

の文法的地位が言語間で異なるのは,

従来言われたように個別言語の恋意性

( a r b i t r a r i n e s s )

によるものなので あろうか,それとも十分に動機づけられた構造

( m o t i v a t e ds t r u c t u r e )

で あり,統一的に説明可能なものなのであろうか。本稿は,後者の認知言語学 的な立場3をとり,その説明の可能性を探るものである。

以下,本稿においては特に日本語の畳語名調4に焦点を当てその意味をさ ぐり,その意味がどこから由来するのか,又どの様なスキーマ5によって支 えられている表現形態なのか考察する。畳語名詞とは名詞と名詞の組み合わ せであるので,考察の過程において日本語の名詞それ自体がどの様な特質を 持つものか,他の言語との比較対照を通して考える。そして最後には,これ までに提案されてきた認知スキーマを検討し,畳語名詞の意味特性まで説明 できる認知スキーマの修正案を提案したい。

1.畳語名詞の意味

「人々

J I

山々」と言った畳語名調は,従来「複数」を表すものとされて きた。しかし日本語は,英語に代表される印欧語のように明確な「数

J

とい う文法範障を持たずへそれ故に名詞は数に対して中立的であり,単数の意 味の場合にも複数を表している場合にもその形態が変化しないのが特徴であ るO 以下は,

Kuno 

(l

9 7 2 f

からの例である。

(4)

数についての一考察ー畳語をめぐって 45 

(l)Boku  wa 

0

o t o ga  i r u  

1  b r o t e r   have 

have 

(l

i t . )  b r o t h e r . '  

上の例文に見られるように,日本語で「弟」と言った場合,一人なのか二人 以上いるのかは分からない。この様に,日本語において普通名詞が単数も複 数も意味しうるということは,畳語という特殊な形態をとる表現において単 に複数という以上の意味をもつことが予想される。次に畳語名詞の例を見て みようO

(1) 

a .   J I I

沿いに

1

軒の家がたっている。

b .   *  J I I

沿いに

1

軒の家々がたっているO

(2)a.  川沿いに10軒の家がたっている。

b.  *川沿いに10軒の家々がたっているO

(3)  川沿いに家々がたつている。

(4) 

a .  

川沿いにおよそ10軒の家々がたっているO

b .  

?川沿いにおよそ

3

軒の家々がたっているO c. 

J I I

沿いにおよそ100軒の家々がたっている。

(I ~4 の例文は昌広(1980)8 改)

従来言われてきたように,又, (1)の三つの例文の文法性の違いが示すように,

畳語名詞は明らかに複数のものが存在していることを示しているO しかし,

次の例文

( 2 b )

は従来言われてきた「畳語名調は複数」という主張の反証 になっている。

( 2 a )

( 2 b )

に相当する英語は

t e nhouses

であり,当然,

数詞と複数形の名詞が共起可能であるが,もし日本語の畳語名認が英語に見 られる様な数範障としての複数と同等であると考えると,数調と共起しない ことが説明出来ないからである。このことから,畳語名詞が単なる複数を表

(5)

4 6  

数についての一考察 畳語をめぐってー

しているのではないことは明らかである。しかし,家が一軒だけボツリと建 っている川沿いの風景を見て(3)の様に言うことはできず,畳語名詞が擾数を 表しているのは間違いない。それでは複数を意味していながら英語の複数形 のように数詞と共起しないのは何故であろうか。

国広(1980)はこの数詞との共起関係に関して興味深い現象を指摘してい る。それは, (6)の様に,

r

概数

J

としてであれば数調との共起が可能になり 容認度が上がるということである。畳語名詞とは複数のものを指しながらも 漠然とした不特定の集合を指していると考えられ,このことから国広は,畳 語名詞とは「偶別性を保った不特定多数」であるとしている。この点に関し ては唐須 (1992)9にも同様の指摘がある。唐須によると,畳語名詞の複数 性は,英語において 1"と言って個別化するのを避けるために用いられる

r o y a l  we"

に似た機能を持ち,明確な自己同定を避ける意味あいを持ってい ると言うO 国広の考察にしても,唐頃の考察にしても「個別性」という概念 が重要であるということになるが,

r

個別的不特定多数

J

というだけでは畳 語名詞の本質を理解したことにはならない。

国広以上に詳細に実証的研究をしたものに小早川(1997)10があるO 小早 川は国広の主張する「個別性」という畳語名詞の意味特性をさらに押し進め,

畳語名詞の意味は,個別性以上にこまかな「異種カテゴリー

J

を意味するも のであると主張している。以後の本考察にとって極めて重要な研究であるの で,ここで続けて検討してみたい。

(5) 

a .  

太郎は花を10本買った。

b.  *太郎は花々を10本買った。

(6) 

a .  

フリージアの花に手紙を添えて送った。

b .   ? 

*フリージアの花々に手紙を添えて送った。

(7) a.  フリージアやマ}ガレットなどの花々に手紙を添えて送った。 cf.(4) 

b .  

?フリージアやマーガレットの花々に手紙を添えて送った。

(6)

数についての一考察ー畳語をめぐってー

4 7  

c. 

?フリージアとマーガレットの花々に手紙を添えて送った。

(8)a.  庭一面に花が咲いている。(一種類の複数)

b .  

庭一面に花々が咲いている。(多種類で複数)

(例は追加しているものもある)

(5)の例は国広と閉じく数調と共起しないことを示しているが,小早川の考察 で重要な点は例文(6)~(7)である。 (6)の例は畳語名調(ここでは「花々 J) が 数調とだけではなく,

r

特定のー撞(ここではフリージア )Jとも共起できな いことを示している。このことから,畳語名詞は単に「個別性」というだけ ではなく,なんらかの「異種カテゴリー」を畳語名詞が指しているのではな いかと考えられるのである。この点を裏付けるように, (7)の例文では r~ や

…などの

J

という言外に含みを持った表現を持つ (7a), 

~や…の」と言う (7a)よりも少し言外の含みの特定化された (7b), 

~と…の」というかな り限定された表現を含む (7c)では,少しずつ容認度が下がっていくように 感じられる。この様に畳語名調とは単に「個別的不特定多数

J

というだけで はなく,

r

個別の様態の違い(種類の違い)Jが意味的に関係していると考え られるのである。以上のように考えると,例文(8)の場合も, (8a)の方は

「一種類

J

の花が複数存在していることを示し, (8b)の方は「多種類」の 花が複数存在している状況を指していることになる。

以上,畳語名詞と呼ばれる形態が意味するところを概観してきたが,その 特性は「異種,個別的不特定多数」というようにまとめられる。で、は,この 様な特殊な意味が何に由来するものなのであろうか。先ず初めに考えられる ことは,畳語名詞とは文法形態として「名詞+名詞j という形であり,閉じ 概念を繰り返す畳語

( r e d u p l i c a t i o n )

と言う「構文」からの意味派生と言 うことである。しかし,本考察の冒頭(序)でも確認したように,世界の言 語には畳語

( r e d u p l i c a t i o n )

を多用し,文法形態として重要な位置を占め る言語(例えば日本語)とそうでない言語(例えば英語)が存在しているO

(7)

4 8  

数についての一考察 畳語をめぐってー

ならば,単に繰り返すという構文の作用だけで畳語名詞の意味が生まれる というのは動機付けとしては弱い。何故なら,英語等の言語において何故 畳語形

( r e d u p l i c a t i v ep r o c e s s )

が殆ど用いられないかということを説明で きないからであるO そこで,繰り返しの構文以上に鍵を握っているのは,

そもそも畳語名詞を構成する構成要素としての日本語の名調の特性なので はないかということが次に考えられる。以上のような推論にたち,以下,

日本語名詞の(数に関する)意味特性を再考することにより,畳語名詞の もつ意味(異種,個別的不特定多数)との関連性を考察したい。次節では,

日本語の名詞が数に関してどの様な振る舞いをするのか,他の言語(英語 とマヤ語)との対照比較を通して確認する。

2  .助数詞からみた日本語名詞の意味特性

日本語では複数のものを数えるときには必ず助数詞

( n u m e r a lc l a s s i f i e r )  

を使わなければならない。効数詞とは「二本のベン」の「本

J

r

三枚の皿」

の「枚

J

r

三個のボール」の「個

J

の様に,ものを数える際に数調ととも に用いられる接辞のことであるO 日本語では助数詞の使用は任意のもので はなく義務的なものであるので,以下の例文において助数詞を伴わずに同 じ数量表現をすることは出来ない。

(7)部屋で二人の人が話し合っている。

/*2

人(ひと)が話し合っている。

(8)ソファーで

3

匹の犬が寝ている。

/*3

犬が寝ている。

( 9 )

机に

4

本の鉛筆が置いてある。

/*4

鉛筆が置いてある。

上の (7)~(9) に相当する表現は,英語ではそれぞれ,

two p e r s o n s  ( p e o p l e )

, 

t h r e e  d o g s

, 

f o u r  p e n c i l s

と数詞を名調の前に置くだけで数量表現が出来る。

日本語では何故助数詞というような接辞をつける必要があるのだろうか。

この助数詞の存在が日本語の名詞の意味特性を説明するのに重要で、あるよ

(8)

数についての一考察一畳語をめぐってー 49  うに思われるので,この角度から名調を考察する。

助数詞とは日本語に特有の文法形態ではなく,広く世界的に見られる現 象であるO ユカタン半島で原始的な生活をしているユカテック・マヤ族の 言語と英語を対照研究した

Lucy

(1

9 9 2 b )

1lによると,ユカテック・マヤ語に も下の例文帥に見られるように助数詞があるという。さらに,ユカテッ ク・マヤ語における助数認の使用は日本語と同じ環境(数調と名詞を組み 合わせる場合)のもとで義務的な文法形態であるという制。

(10) ka'α 

inumeral  ( m o d i f i e r )  

+  ‑ t u u l  

'uulum  ( ' "  ' t w o  t u r k e y s '  i n  E n g l i s h )  

1 m m e

! j

a l

c l a s s i f i e r   I  noun ( n e u t r a

l) 

ω i t   i s   p o s s i b l e  t o  g i v e  a l l  t h e s e  forms an a d v e r b i a l  i n t e r p r e t a i o n  and  generalize that numer α l s   i n  conjunction with nouns ( o r  t h e i r   e q u i v a l e n t s ) αlw α : y s  t α k e  

cl

α s s i f i e r s .  (emphasis o r i g i n a

l),,12 

興味深いことに,ユカテック・マヤ語の数量表現は上で考察した日本語の 数量表現に非常に似ているのである。

次にユカテック・マヤ語の名詞複数形の形態を見てみよう。マヤ語には

‑o' 

o b '

という複数接辞があり,例えば,名詞の

p e e k '( ' d o

g')に付加すること で,

p e e k '

o b '( ' d o g s ' )

という複数形を作ることが出来る。しかし,

Lucy 

によるとこの様な複数接辞の付加は全くの任意で、あり,ものの複数性を強 調したり,明らかにする場合に使われ,複数のものを指していても必ずし も付加する必要のない接辞なのである。このことは ,

e ' e e e ' e k  p e e k '  ( ' f e w  

d o g ' )

の様に複数を示す表現と共起している場合でも,複数接辞をつける必 要のないことからもあきらかである。このマヤ語の複数接辞(‑o'

ob

うは日本 語に当てはめて考えると, I~ たち J I~ ら J I~ がた」と言った任意の複数 接辞にその機能が良く似ている。日本語の複数義辞も敬意や複数性の明示

(9)

5 0  

数についての一考察ー畳語をめぐってー

と行った機能を持つものであり,英語の複数接辞 (‑s)のような義務的な文 法要素ではなく

( 1 2 a ' / 1 2 b . )

,その意味するところも異なる制。

(

a .

先生方が部屋で話をしている。

b .  

先生が部屋で話をしている。

( 1 3 )

the b a s i c  function o f  ‑ t α c h i  i s   not that o f  the English p l u r a l   morpheme ‑ s

, 

but t h a t  o fand o t h e r

, 

and t h e  l i k e s ' .  For example

, 

J o h n ‑ t

αc h i  means ,  n o t  J o h n s '  ( t w o  o r  more p e o p l e  b e a r i n g  t h e  name John) ,  but John and o t h e r s ,

.13 

以上の考察から,マヤ語の名詞複数化の形態は日本語の名調複数化と非常 に類似していることがわかる140 このことから,

Lucy

が行ったマヤ語名詞 の分析を日本語名詞の特性の分析にも利用できるように思える。それでは,

次に

Lucy

(l

9 9 2 b )

が行ったマヤ語の名調の意味特性に関する考察を日本語 に適用して考察してみたい。

Lucy 

は名詞が複数化(ものを数え合計)する際にとりうる形態的な可能 性として,

p l u r a l i z a t i o n  

(複数化)と

u n i t i z a t i o n

(単位付与)という二つ の方法があり得ると仮定しているo

p l u r a l i z a t i o n

とは,英語の複数接辞

‑ s

のように,名調に接辞を付加するだけで数詞と共起する統語形態タイプの名 調の複数化のことであるO 一方

u n i t i z a t i o n

とは,ものの数に言及するに際 して義務的に助数詞

(numeralc l a s s i f i e r )

をとる統語形態タイプの名調の 複数化のことであり,この時助数調は

u n i t i z e r

としての役割を持っと考え られる。即ち,

u n i t  

(単位)と言う観点、で両方のタイプを比較した場合,英 語の名詞のような

p l u r a l i z a t i o n

をするタイプの名詞は,本質的に

u n i t

(単 位)を意味特性として備えているのであり,日本語やマヤ語のような助数詞 を用いて

u n i t i z a t i o n

を必要とする名詞タイフ。は,本質的に単位性

( u n i t )

が名調の意味特性として含まれておらず,そのために名詞を複数化するため

(10)

数についての一考察ー畳語をめぐってー 51  に単位

( u n i t )

の役目を果たす

u n i t i z e r

としての助数詞が必要になると考 えられるO それでは英語の名詞は全て

p l u r a l i z a t i o n

することができ,逆に 日本語やマヤ語では全ての名調が複数化に際しては

u n i t i z a t i o n

を受けるの であろうか。この点を検討することにより本節の目的である日本語の名詞の

(数に関する)意味特性の一端は明らかになるように思う。

英語にも助数詞

( u n i t i z e r )

に当たる文法形態はある。

ap i e c e  o f

, 

a  s l i c e   o f

, 

a  cup o f

と言った表現がそれである。英語でこの文法形態がとられる名 詞は物質名詞

(massnoun)

と呼ばれる名詞であり,不加算名詞と呼ばれる タイプである。これらの名詞を数えるのに何故助数詞を必要とするかという と,勿論,単位性が意味特性として含まれていなしミからである。英語の物質 名詞とは日本語やマヤ語の名詞と同じ特徴を持つタイプの名詞なのであり,

それ故に数えるときには単位付与

( u n i t i z a t i o n )

するために助数詞を利用 するのであるO 逆に言えば,日本語やマヤ語の名詞は,すべからく英語の物 質名調的な特質を持っているわけである。

Lucy

は,英語とマヤ語という対象言語の名調構造に着目して,自然界と いう連続体を次のような3つのタイプに分類し,以下の制のような区分けを 提案している。 Aは有生かっ有形のもの(例えば人間や動物など), Bは無 生で有形のもの(例えば机や本など),

c

は無生で無形のもの(例えば水や 砂などの物質)を指している。それぞ、れの分類に対応する名調がどの様に統 語形態的に複数を表すかに関して,複数化

( p l u r a l i z a t i o n )

するタイプを

P

, 単 位 付 与 (

u n i t i z a t i o n )

の必要なタイプを

U

として(凶との対応を考えると (15)の様になる150

A :[ + a n

l a t e

+ d i s c r e

1 B :  

[

a n i m a t e

, 

+ d i s c r e t e l  C :  [ ‑ a n

l a t e

‑ d i s c r e t e l  

同 英 諸

P  P  U 

マヤ語 (P)/U  U  U 

日本語 (P)/U  U  U 

(11)

52  数についての一考察一畳語をめぐって

上記の図凶と伺から分かるように,英語においては名調の多くが複数形を作 る際に,接辞を付加するという形態的な複数化

( p l u r a l i z a t i o n )

するタイプ に属しており,その一方で,マヤ語や日本語はその名詞の全てが助数詞を用 いた単位付与

( u n i t i z a t i o n )

を必要とするタイプの名調なのである。次節 では,以上のような複数表現がどのような認知スキーマを基盤としているの か,これまでに提案されているモデルを振り返り,畳語名調の示す複数性と の関連を考える。

3  .数認知のイメージスキーマ

前節では他言語との比較対照を通して日本語の名調の数に関する特性を確 認した。それでは,これまでにどの様なイメージスキーマがこの様な数表現 を支えるものとして提案されているのであろうか。この節では,山梨(1995)16 

によって提案されている複数認知のイメージスキーマを検討し,本考察の中 心課題である畳語名詞の複数性との関連性を考えてみたい。

山梨は,以下の(l6)~闘の例文を通し,日本語の代名調の数に関する照応関

係を考察しているO 日本語では例文同や(17)の様に,明らかに複数のものを指 している場合でも,複数を意味する代名調

( r

それら

J )

ではなく単数を示す

代名詞

( 1

それ

J )

でうけるのが一般的である17。しかし,日本語においても 明らかに「それ」という単数の代名詞で受けられず.

r

それら j という代名 詞の複数形で呼応しなければならない状況があることも指摘おり,それを示 す例文が闘であるO この様な照応関係を山梨は図1のようなスキーマを想定

して説明している。

(16) 

a .  

太郎は,赤い鉛筆と青い鉛筆を買って,それを花子にあげた。

b .  

?太郎は,赤い鉛筆と青い鉛筆を買って,それらを花子にあげた。

(1カ

a .

一枚の紙を,二枚,四枚と切っていき,それをパッと空中にまいた。

b .   ? 

*一枚の紙を,二枚,四枚と切っていき,それらをパッと空中にまいた。

(12)

数についての一考察ー畳語をめぐって 53  同

a .

?博士は,モルモットを試験台に乗せ,それを一匹ずつ丹念に調べた。

b .  

博士は,モルモットを試験台に乗せ,それらを一匹ずつ丹念に調べた。

(例文は配列など多少変更しである)

山梨(1

9 9 5 )

統合的スキ}マ

離置?謁オ孝三マ

1

図の Aが代名詞単数形「それ

J

で照応する際のイメージを示している。個 別のものには単位性が無く,焦点が当たっていない漠然とした集合全体が心 的イメージの中核をなしている。それに対して,図の

B

が示しているのは 等質のものの全体集合ではなく,集合を構成している明確な単位を有する個 物そのものに焦点があたっている心的イメージであるO 山梨(1

9 9 5 )

A

を「統合的スキーマ

J

,B を「離散的スキーマ

J

とそれぞれ呼んでいる。上 記の例文との関連で言えば,同及びr(l7)が統合的スキーマである Aタイプに よる認知様態を反映した言語表現であり, (18)が離散的スキーマ,

B

タイプの 認識様態を反映したものと言える18

以上の山梨のスキーマは代名調の照応関係の考察を通して提出された図式 ではあるが,日本語において,単数の代名詞(,それJ)で複数のものと照応 関係を取ることができるという言語事実は,代名詞と第二節で考察した日本 語の名調の構造には平行する意味特性があることを示していると考えられ るO このことから山梨

( 1 9 9 5 )

の提示するスキーマ(図1)は,代名詞の照 応関係のみを説明するスキーマではなく,複数認知一般を示している認知ス キーマとして拡大適用することが出来る様に思う。それでは,上で考察した

(13)

54  数についての一考察ー畳語をめぐってー

3つの言語(英語,マヤ語,日本語)がもっ名詞の意味特性をこの図式に対 応して考えるとどうなるのであろうか。

英語ではこの

A

B

の二つの心的イメージで名調が大きく別れており,

B

タイプで名詞のほとんどが複数化される。これは,いわゆる

count/ 

mass noun

c o u n t a b l e/  u n c o u n t a b l e  noun

と言われる区分がそれに対応 している。それに対して,日本語やマヤ語では名詞のタイプとしては明らか にAのタイプとして言語化されていると言える。しかしここで注意しなけ ればならないのは,英語においてはあくまでも Bのタイプの複数認知プロ セスが優勢であるということに過ぎない。又,日本語やマヤ語においても全 てに渡ってAのタイプで認知的に処理されるわけで、はない。ものを数えた り合計するときには助数調という単位を与える機能を持った接辞を用いて,

Bのタイプに捉え認識していると言えるのではないだろうか。

4  .畳語名詞を支えるスキーマ(試案)

第 2節,第 3節では,日本語の名調そのものが数に関して持つ意味特徴を 考察し,これまでに提案されている二分法的スキーマ(山梨1995)との関連 を考察した。それでは本考察の主眼である日本語の畳語名詞はどちらのスキ ーマの認識様態を反映している文法形態なのであろうか。

第一節で確認したとおり,畳語名調の特質は,明らかに複数性を示す構文 でありながら,英語に見られるような複数とは異なり数調と共起することが 出来ないという点である。つまり,英語の文法に見られる複数を視点にして 言うならば,

r

複数(形)でありながら複数(形)でない

J

という非常にパ ラドクシカルな表現形態であると要約することが出来るO さらに,小早川に よる詳細な検討で明らかなように,

r

個別性

J

というのみならず「異種カテ ゴリーとして認識されたもの」という,

r

同じ属性を有しながら異なるもの」

と言うパラドクシカルな一面をも合わせ持つ表現形態であった。即ち,以上 の意味特性の要約から分かるように,これまでに提案された二分法のスキー

(14)

数についての一考察一畳語をめぐ、ってー 55  マでは畳語名詞の意味特性を適切に説明できないように思われるのである。

この畳語名調の持つ特殊な意味特性を説明するには.

r

二つのスキーマの 相互作用」という従来の二分法を基にした解釈のレベルでの解決と.

r

新た

に第三のスキーマを想定する

J

というこつの解決法が考えられるだろうO し かし前者のように「相互作用」という解釈のレベルでの解決法をとっても 言語現象の「説明

J

にはならず.

r

相互作用とは何か

J r

どのような相互作用

なのか」という聞いに答える必要がある。その上,その様な問いに答えるこ とは,それほど容易なことではないだろう。そのため,本稿においては後者 の立場をとり,広範に存在する畳語構文

( r e d u p l i c a t i o n )

を支えるスキー マとして積極的に第三のスキーマを想定し,試案として以下のような新しい スキーマを提案したいと思うo (図2)

α /

O

O } /00¥ 

骨骨炉

図2

図2の中で Aのタイプは山梨の言う離散的スキーマを指し,典型的には 英語の可算名調の複数形がこのタイプの認識様態を反映しているものと考え ることが出来る。タイプ

C

は,日本語の名詞に代表されるような数に関し て中立的なイメージを示しており,山梨の言う統合的スキーマである。本稿

(15)

56  数についての一考察ー畳語をめぐって

において提案するのは両者の中聞に位置すると思われる中間態スキーマであ り,図の中ではBがそれにあたる。このBの認知様態に置いてはAのスキ ーマに見られるように個別的であり同じ属性を有しているものの集合であり ながら,その集合を構成する一つ一つの構成素は異なるイメージで(異なる カテゴリー,異なる種類のものとして)把握される状態を示している。畳語 名詞の大きな特撮である数調と共起しないが,概数との共起においては容認 度が上がるという言語事実は,この様な中間態の認知スキーマに起因するも のとして説明することが出来るのではないだろうか。

さらに,この様な第三のスキーマを想定し,図

2

の様なスキーマ聞の相関 を考えると,畳語の意味特性が何に由来するのかという問題にも自ずと答え が見えてくるように思う。日本語名詞の特徴である単位性を意味に含まない 名詞(図2のタイプC)が重複させることによってタイプB(図2)の様な 意味が派生される,ということである。即ち,畳語名詞とは,

mass noun 

が繰り返される構文において「異種,個別的不特定多数

J

という独自の意味

を派生し,上記のスキーマにおいてはBのタイプによって支えられている と考えられるのであるO さらに,本稿で一番最初に提起した問題(個別言語,

例えば日本語と英語に見られる畳語構文の文法的重要性の違い)にもある程 度回答を与えることが出来るであろう。即ち,英語に畳語形態

( r e d u p l i c a t i o n )

が少ないのは,

mass noun

が圧倒的に少ないという言語事実からも分かる

ように,英語という言語においては認知様態としてタイプ

A

とタイプ

C

(図2)の聞の関係が圧倒的に優勢であるため,という仮設を立てることが できるだろう190以上のことから,畳語

( r e d u p l i c a t i o n )

が広範に見られる 言語とそうでない言語の間には,言語構成上の本質的な違いがあり,畳語と は言語の恋意性を示すものではなく,十分に動機づけられた文法形態である ことを示唆しているように思えるのであるO

(16)

数についての一考察一畳語をめぐってー 57 

むすぴ

以上本稿では,畳語の持つ意味特性を確認し,その意味が由来する鍵にな る要因として,畳語を構成する構成素としての名詞の意味構造に着目した。

英語やマヤ語との比較対照を通して,日本語の名詞が英語にみられる大多数 の名調と異なり単位性をその意味として内在していないこと,英語の質量名 詞 (massnoun)に相当する,ということを考察した。さらに,複数認知が その基盤としてもっとしてこれまでに提案されたイメージスキーマでは,畳 語名詞の示す意味特性を説明できないことを示し,畳語名詞の示す複数性ま でをも含みうる第三のイメージスキーマを提案した。

本稿において提案したイメージスキーマを想定することは,日本語の畳語 名詞の意味特性のみを説明するものではなく,日本語などの様な意味特性を 有する名調が複数形になるときにどのような意味特性を派生させる可能性が あるのか,畳語形態 (reduplicativeprocess)がほとんど用いられない言語 と多用される言語があるのはなぜか,などの問題に一般化させて類型論的に 適用可能であるように思う。さらには,どのようなイメージスキーマの変換 が個別の言語に特有のものかを,それぞれの言語にみられる言語事象をさら に詳細に探っていくことで,言語の普遍性と相対性(ウオ}フの仮説)とい う問題にも言語学としてある程度明示的な解答が与えられるのではないかと 考えている200

1.  Sapir, Edward. LANGUAGE. San Diego: HARCOURT BRACE & 

COMPANY. 192, 1.p. 76.  2.  Ibid. p. 77. 

3.  認知言語学の基本的な考え方についてはLakoff,Geroge. Women, Fire,αnd  Dangerous Things. Chicago: The University ofChicago Press. 1987.等参照。

4.  Lakoff

, 

George and Mark Johnson. Metαophors We Live By.  Chicago: The 

(17)

58  数についての一考察ー畳語をめぐってー

University of Chicago Press. 1980., p.p. 126128.では,このreduplication(畳 語)の問題を,我々をとりまく基盤的な「メタファーjからの類推で説明してい るoつまり,言語は線状的であるため,必然的に時間概念と結ぴっき,時間はメ タフォリカルに空間へと概念化され,よって,言語は空間として概念化されるO

さらに,言語が空間として概念化されるということは,言語に対して空間のメタ ファーが適用されるということである。空間のメタファーの中で典型的なものは,

「容器が大きくなるに従って,内容物も増大する」という概念基盤を持つ「容器 のメタファー」である (Lakoffand Johnsonは「容器のメタファー」があらゆ る言語に遍在するほど普遍的かどうかはまだ分かっていない,としているO

Though the CONDUIT metaphor is widespread, we do not know yet whether  it is universal.")

つまり(空間としての)言語に当てはめると,

r

言語は容器であり,意味はそ の内容物」というメタファーが成立し,

r

言語(容器)Jの量が増えれば,それだ け「意味(内容物)Jも増えていくという概念が推論される。そして,以上を定 式化すると MOREOF FORM 18 MORE OF CONTENT"という一般的な概念 メ タ フ ァ ー が 考 え ら れ る の で あ る 。 同 じ 言 語 表 現 を 重 複 さ せ る 畳 語 構 文 (reduplication)とは,この概念メタファーが典型的にあてはまる表現形態だと 言える。以上のように,畳語という形態は(空間における)

r

質量,数量」と密 接な関係を持った言語表現であり,ものの「質量,数量(言い換えれば単数・複 数)Jとを意味的に直接明示する文法範時は「名詞jである。そのため,本稿で は畳語を説明する手がかりとして畳語名詞を取り上げる。

5.  詳しくは注3に既出のLakoff(1987)等参照。元々は認知心理学の用語である が,認知言語学ではキータームとして頻繁に援用される。河上誓作(編著)

r

認 知言語学の基礎』東京:研究社, 1996., p.  40.では「スキーマとはあるものや事 象に関する過去の経験に基づく知識をより抽象化,構造化して一つのカプセルに 納めたもので,人間の記憶もしくは知識というのはこの種のスキーマの集合体」

と概説してあるが,ここでは「人間の心の中の抽象的なイメージj程度の理解で 十分である。

6.  金田一京助『日本語の変遷j (講談社学術文庫)東京:講談社, 1991 [1949J.  日本語の数は敬語体系と密接な関係があると指摘されており興味深い。

7.  Kuno, 8usumu. The structure of the '"αpαnese languα:ge.  London: The MIT  Press

, 

1972.

, 

p. 26. 

8.  国広哲弥「総説J

r

日英語比較講座j (国広哲弥編)東京:大修館, 1980.  9.  唐須教光「言語学的説明再考 日本語の畳語を例として←

J r

義文研究jNo. 

60  (1992)  : 123135.

(18)

数についての一考察一畳語をめぐってー 59  10.  小早川焼

r r

それらの+名詞」と畳語名詞の意味論』関西言語学会第22回大会

資料, 1997. 

11.  Lucy, J. A. Grammαtical ,Cαtegoriesαnd Cognition. ,Cαmbridge: Cambridge  University Press, 1992. 

12.  Ibid. p. 51.  13.  Kuno (1972)

, 

p. 26. 

14.  数に関する文法形態に関してマヤ語と日本語に多くの類似性が見られる点に ついては, lmai, Mutumi and Dedre Gentner. Linguistic relativity vs.  universal ontology: Cross‑linguistic studies of the object/ substance  distinction. CLS. 29 (1993): 171‑186.も同様の指摘をしているので参照されたい。

15.  (刊の様に一見客観的に分けることが出来そうなものの扱いが, (15)に見られる ように個別の言語ごとによって文法化が異なるということは,言語は必ずしも客 観的な自然を写し取り言語化(文法化)しているのではなく,個別の言語がどの 様に自然環境を把握し言語に取り込んでいるかという点には本質的に違いがあ り得るということを意味している。しかしそのような言語の相対的な側面の一方 で,単位性 (unit)をその意味特性として持っているか否かで名詞のタイプを (恐らく普遍的に)二分することが出来るということは,人間の認知様式とその 反映としての言語の持つ本質的な普遍性を考える上で重要な点である様に思われ るO

16.  山梨正明『認知文法論』東京:ひつじ書房, 1995., p. p. 126‑127. 

17. 

r

それ

J r

それら」が英語と同じ意味でそれぞれ単数,複数かどうかは検討課 題であるが(次の注18参照),ここでは便宜的に単数,複数と呼んでおく。

18.  実際には,例文の(18)は山梨の図式では正確には捉えきれないのであるO何故 なら,

r

それら」とは英語に見られるような複数を表す代名詞ではないからであ る。この点に関しでも既出の小早川 (1997)が詳細な研究を報告しており,本稿 で取り上げている畳語名詞の意味特性と非常に類似していることが明らかになっ ている。

19.  しかし,英語にタイプBの様な認知様態を反映した言語表現がないわけで、は ない。その一例として,

r

液体の質量名詞の複数化

J

をあげることが出来る。液 体の質量名詞 (liquidmass)には, beer, coffee, wine等があげられるが,これ らがそれぞれ複数接辞司自をとると (beers,∞ffees,wines)同じ種類のものが複 数あるのではなく,異なった種類のものが複数存在していることを意味すること になる。例えば, winesと言ったときには,同じ種類のワインが何本かあるので はなく,異なる種類のワインが複数ある状況を意味する。同じワインという共通 属性でありながら,種類が違う(異種カテゴリー)を意味しているという点で,

(19)

6 0  

数についての一考察ー畳語をめぐってー

畳語名詞の意味するところと酷似しており,今後の考察にとっても非常に興味深 い,示唆的な現象の様に思う。

20.  B. L.ウォーフ(池上嘉彦訳)

r

言語・精神・現実j(講談社学術文庫) 東京:講談社, 1992  [1956J.訳者による注釈に,この「相対性(ウオーフの仮 説)Jの問題をめぐるこれまでの議論の要約と今後の展望が明快に述べられてい る。

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