瑕疵 担保 責任 の比 較法 的考 察︵ 三︶
︱︱ 日本
・フ ラン ス・ EU
︱︱
野 澤 正 充
序 章 本稿 の課 題と 対象 第一 章 日本 法⑴
︱︱ 法定 責任 説と 判例 法の 形成 第一 節 起草 者の 見解 とそ の評 価︵ 以上 七三 号︶ 第二 節 法定 責任 説の 形成
︵以 上七 四号
︶ 第三 節 大審 院大 正一 四年 判決 とそ の評 価 第一 款 先行 する 大審 院判 決 第二 款 大審 院大 正一 四年 判決 の意 義 第三 款 大正 一四 年以 降の 大審 院判 決 第四 款 大審 院判 決の まと め 第四 節 最高 裁昭 和三 六年 判決 の理 解 第一 款 法定 責任 説の 展開
︵昭 和初 期︶ 第二 款 日本 私法 学会
︵昭 和三 二年
︶の シン ポジ ウム 第三 款 最高 裁昭 和三 六年 判決 とそ の評 価
第四 款 法定 責任 説の まと め︵ 以上 本号
︶ 第二 章 日本 法⑵
︱︱ 債務 不履 行責 任説 の台 頭と 展開 第三 章 フラ ンス 法⑴
︱︱ 一九 八六 年ま で 第四 章 フラ ンス 法⑵
︱︱ 一九 八六 年以 降 第五 章 総括 と展 望
第一 章 日本 法⑴
︱︱ 法定 責任 説と 判例 法の 形成 第三
節 大審 院大 正一 四年 判決 とそ の評 価 第一
款 先行 する 大審 院判 決 一 大正 一三 年ま での 大審 院判 決 瑕疵 担保 責任 と債 務不 履行 責任 の関 係に 関す る大 審院 時代 の判 例と して は、 周知 のよ うに
、大 正一 四年 三月 一三 日判 決︵ 民集 四巻 二一 七頁 が︶
、﹁ 学説 に大 きな 影響 と反 応を もた ら
( )
した
﹂も のと して 知ら れて いる
。し かし
、同 判 決は
、突 然に 現れ たわ けで はな く、 それ に先 行す る学 説と 判例 の集 積の 結果 であ る。 そこ で、 以下 では
、大 正一 四 年判 決に 対し て、 多少 なり とも 論理 的に 先行 する と考 えら れる 大審 院の 判決 を取 り上 げる
。そ うす ると
、ま ず、 次 の判 決が 挙げ られ
( )
よう
。
︻一
︼ 大判 大正 五年 一〇 月七 日民 録二 二輯 一八 五三 頁 材木
︵不 特定 物︶ の売 買契 約に おい て、 売主 Xが 買主 Yに 対し て代 金の 支払 を求 めた とこ ろ、 Yは
、引 渡し を受 けた 材木 の一 部が
﹁材 質粗 悪﹂ であ ると して
、代 金全 額の 支払 を拒 絶し た。 原審 は、 Xの 引き 渡し た材 木が
﹁孰 レ モ中 等ノ 品質 ヲ有 スル モノ ナル コト 洵ニ 明カ
﹂で ある とし て、 Xの 請求 を認 容し た。 Y上 告。 大審 院も
、目 的物 が﹁ 中等 ノ品 質ヲ 有ス ル﹂ こと を前 提に
、Y の上 告に は理 由が ない とし た︵ 上告 棄却
。︶ ただ し、 大審 院は
、次 のよ うな 一般 論を 述べ てい る。
﹁按 ズル ニ、 売買 契約 ニ於 テ売 主ガ 買主 ニ交 付ス ベキ 目的 物中 ノ一 部ニ 契約 ノ趣 旨ニ 適合 セザ ルモ ノア ルト キハ
、其 交付 タル ヤ不 完全 給付 ニシ テ、 即チ 債務 ノ本 旨ニ 従ヒ タル 履行 ト云 フコ トヲ 得ザ ルガ 故ニ
、買 主ハ
、其 不完 全給 付ノ 受 領ヲ 拒絶 シ且 ツ之 ヲ原 因ト シテ 契約 ヲ解 除シ 代金 支払 ノ義 務ヲ 免ガ ルル コト ヲ得 ベシ ト雖 モ、 既ニ 之ヲ 受領 シ且 ツ契 約 ノ解 除ヲ 為サ ザル 以上 ハ、 買主 ハ、 其不 完全 給付 ノ為 メニ 目的 物ノ 価格 ノ上 ニ減 損ヲ 来シ タル 程度 ニ於 テ代 金減 額ノ 請 求ヲ 為ス コト ヲ得 ルモ
、一 部ノ 不完 全給 付ヲ 原因 トシ テ、 直ニ 売買 代金 全部 ノ支 払ヲ 拒絶 スル コト 能ハ ザル ヤ明 カナ リ﹂
。 右判
決︻ 一︼ は、 売主 の引 き渡 した 物が
﹁契 約ノ 趣旨 ニ適 合﹂ しな いと きは
、﹁ 不完 全給 付﹂ であ り、 買主 は、 債務 の不 履行 を理 由に
﹁受 領ヲ 拒絶
﹂し て契 約を 解除 する こと がで きる とす る。 しか し、 すで に﹁ 之ヲ 受領 シ﹂ た 場合 には
、買 主は
、売 主に 対し て、 代金 減額 請求 をす るこ とは でき るも のの
、契 約を 解除 しな い限 り、
﹁一 部ノ 不 完全 給付
﹂を 理由 に、
﹁直 ニ売 買代 金全 部ノ 支払 ヲ拒 絶ス ルコ ト﹂ はで きな いと した
。こ の判 旨は
、不 特定 物の 売 買に おい ても
、買 主の 受領 を基 準に
、そ れ以 前を 債務 不履 行で ある とし
、以 後を 代金 減額 請求
︵瑕 疵担 保責 任︶ の
問題 とす る。 そし て、 この 部分 の判 断は
、後 の大 正一 四年 判決 と同 じで ある
。た だし
、大 審院 は、 目的 物に 瑕疵 が ない とし たた め、 右の 部分 は、
﹁結 局は 傍論
﹂に すぎ
( )
ない
。 これ に対 して
、次 の判 決︻ 二︼ は、 特定 物の 売買 に関 する 事案 であ る。 そし て、 判旨 は、 同じ く傍 論で はあ る が、
﹁特 定物 のド グマ
﹂を 採用 した 点に おい て注 目さ れる
。
︻二
︼ 大判 大正 九年 一二 月六 日民 録二 六輯 二〇 一二 頁 買主 Xと 売主 Yと の間 で、 特定 の倉 庫に 現存 する チリ 硝石 全部
︵特 定物 の︶ 売買 契約 が締 結さ れた
。し かし
、X は、 チリ 硝石 の品 質が 一定 の基 準に 達せ ず、 瑕疵 があ ると の理 由で その 受領 を拒 み、 Yに 交付 した 保証 金の 返還 を 請求 した
。原 審は
、本 件契 約が 特定 物の 売買 であ ると 認定 し、 種類 債務 にお ける と異 なり
、X が目 的物 の受 領を 拒 絶す るこ とは でき ない と
( )
した
。X 上告
。 大審 院も
、原 審の 判断 を認 めて
、X の上 告を 棄却 した
。す なわ ち、 不特 定物 の売 買で は、 売主 が瑕 疵の ある 物を 給付 した とし ても
、債 務の 本旨 に従 った 履行 がな いた め、 買主 は、 その 受領 を拒 絶す るこ とが でき る。 しか し、 特 定物 の売 買に おい ては
、﹁ 物ニ 瑕疵 アル ト否 トヲ 問ハ ズ、 其特 定シ タル 物ガ 当初 ヨリ 売買 ノ目 的ト ナレ ルモ ノナ レ バ、 売主 ハ、 其物 ヲ給 付ス ルヲ 以テ 足リ
、更 ニ他 物ヲ 給付 スル ヲ要 セズ
﹂と する
。そ れゆ え、 Xは
、契 約を 解除 し ない 限り
、そ の受 領を 拒絶 する こと はで きな い。 そし て本 件で は、 Xに よる 瑕疵 担保 責任 に基 づく 解除 はな く、 契 約の 効力 が存 続し てい るた め、 目的 物の 受領 を拒 絶す るこ とは でき ない とし た。 判旨
は、 Xが 契約 を解 除し てい なか った ため
、受 領拒 絶権 がな いと する
。し かし
、そ の前 提と して は、 特定 物の 瑕疵 があ って も、 その 履行 を拒 絶す るこ とが でき ない とい う、 特定 物の ドグ マが 採ら れて
( )
いる
。
︻三
︼ 大判 大正 一〇 年二 月一
〇日 民録 二七 輯二 五五 頁 買主 Xと 売主 Yと の間 で、 カタ ン糸 の逓 次供 給契 約が 結ば れ、 Xは
、そ の一 部を 受領 して 代金 を支 払い
、こ れを 海外 に輸 出し た。 とこ ろが
、こ のカ タン 糸は
、黴 を生 じる とい う瑕 疵が あり
、輸 出に 適さ なか った
。そ こで
、X は、 Yに 対し
、未 履行 部分 の契 約を 解除 する とと もに
、す でに 受領 した 分に つい ては
、損 害賠 償を 請求 した
。原 審 は、 Xの 請求 を認 容し
、Y が上 告し た。 争点 とな った のは
、す でに 契約 の一 部が 履行 され たに もか かわ らず
、X が、 契約 の目 的を 達す るこ とが でき ない とし て、 未履 行部 分を 解除 でき るか 否か であ る。 大審 院は
、買 主が 解除 また は損 害賠 償請 求を 選択 する こと がで き、
﹁契 約ノ 目的 ガ分 割ヲ 為ス ニ適 スル 場合 ニ於 テハ
、其 一部 ニ対 シ契 約ヲ 解除 シ、 他ノ 一部 ニ対 シ損 害賠 償ヲ 請求 スル
﹂の も、 買主 の﹁ 任意 ニ属 スル
﹂と した
︵上 告棄 却︶
。
︻三
︼判 決で 問題 とな った カタ ン糸 の売 買が
、特 定物 の売 買か
、不 特定 物の 売買 であ るの かは
、必 ずし も明 らか では ない
。し かし
、仮 に不 特定 物の 売買 であ ると して も、 争わ れた のは
、瑕 疵の 有無 であ り、 また
、逓 次供 給契 約 にお ける 一部 解除 の可 否で ある
。そ うだ とす れば
、判 旨は
、瑕 疵担 保責 任が
﹁種 類売 買に 適用 があ るこ とを 前提 と して いる とも いい きれ
( )
ない
﹂と の評 価も 適切 であ る。
︻四
︼ 大判 大正 一三 年六 月二 三日 民集 三巻 三三 九頁 売主 Xと 買主 Yと の間 で、 税関 に収 容処 分さ れて いた 鉄材
︵特 定物
︶の 売買 契約 が締 結さ れた
。し かし
、Y が、 Xの 鉄材 の引 取り と代 金支 払請 求に 応じ なか った ため
、X は、 契約 を解 除し
、Y に対 して 損害 賠償 を請 求し た。 こ れに 対し て、 Yは
、目 的物 に瑕 疵︵ 鉄材 のね じれ と長 さの 不足 が︶ あっ たと し、 契約 の解 除を 主張 した
。原 審は
、Y
によ る契 約の 解除 を認 め、 Xの 請求 を棄 却し た。 Xは
、Y が瑕 疵を 容易 に発 見す るこ とが でき たに もか かわ らず
、 点検 を怠 った ため これ を発 見し なか った ので ある から 保護 に値 しな い、 との 理由 で上 告し た。 大審 院は
、ま ず、 本件 売買 が特 定物 の売 買で ある こと を確 認し
、次 のよ うに 判示 した
。す なわ ち、
﹁特 定物 ノ売 買ニ 於テ
、売 主ヲ シテ 民法 第五 百七 十条
・第 五百 六十 六条 ニ依 ル担 保責 任ヲ 負ハ シム ル為 ニハ
、契 約締 結ノ 当時 ヨ リ其 目的 物ニ 隠レ タル 瑕疵 ノ存 スル コト
﹂が 必要 であ る。 そし て、 五七
〇条 の﹁ 隠れ た瑕 疵﹂ とは
、﹁ 契約 締結 ノ 当時
、買 主ガ 過失 ナク シテ 其ノ 存在 ヲ知 ラザ リシ 瑕疵 ヲ謂 フモ ノト 解ス ベキ
﹂で ある とす る。 しか し、 買主 が契 約 締結 の際 に目 的物 を点 検す れば
、容 易に 瑕疵 を発 見す るこ とが でき たに もか かわ らず
、点 検を 怠っ たと して も、
﹁其 ノ点 検ヲ 為サ ザリ シニ 付、 過失 アリ ト謂 フヲ 得ザ ルト キハ
、右 瑕疵 ハ尚 隠レ タル 瑕疵 ナリ ト謂 フヲ 妨ゲ
﹂な い とし た。 そし て、 本件 では
、契 約締 結の 当時
、目 的物 が税 関内 に収 容処 分に 付さ れて いた ため
、Y はこ れを 点検 す るこ とが でき ず、 Yに は過 失が ない とし て、 五七
〇条 の適 用を 認め た︵ 上告 棄却
︶。
︻四
︼判 決は
、特 定物 の売 買の 場合 に、 売主 が瑕 疵担 保責 任を 負う ため には
、契 約の 締結 時に 目的 物に 隠れ た瑕 疵が 存在 する こと が必 要で ある とす る。 そし て、 この 点に おい ては
、後 の学 説が 指摘 する よ
( )
うに
、鳩 山博 士の
( )
見解 が影 響し てい ると 思わ れる
。し かし
、本 件は
、特 定物 の売 買に 関す る事 案で あり
、不 特定 物の 売買 にも 瑕疵 担保 責 任が 適用 され るか 否か は、 争わ れて いな い。 それ ゆえ
、本 判決 は、 瑕疵 担保 責任 の規 定が
﹁特 定物 売買 に
( )
だけ
﹂適 用さ れる こと を明 らか にし たわ けで はな い。 換言 すれ ば、
︻四
︼判 決は
、瑕 疵担 保責 任と 債務 不履 行責 任の 関係 に つい ては
、何 ら言 及し てい ない
。し かも
、本 件の 争点 は、
﹁隠 れた
﹂瑕 疵の 解釈 であ り、 右の 判旨 は、 その 前置 き にす ぎな い。 そう だと すれ ば、 鳩山 博士 の見 解を 採用 した とさ れる 部分 は一 般論 にす ぎず
、︻ 四︼ 判決 も、 あま り 重要 なも ので はな い。