の妥 当性
︻一 三︼ 判決 の論 理構 造を 理解 しう ると して も、 その 結論 の妥 当性 には
、次 のよ うな 疑問 があ る。 すな わち
、損 害賠 償の 範囲 が限 られ
、追 完請 求も でき ず、 しか も一 年の 期間 制限 にか かる
﹁瑕 疵担 保責 任し か追 及し ない
﹂と い う意 図で
、﹁ 瑕疵 を認 容し て受 領す るな どと いう こと があ りう るだ ろう か﹂ との
( )
疑問 であ る。 換言 すれ ば、 瑕疵 担
82
保責 任の 効果 は、 解除 また は損 害賠 償の 請求 であ り、
﹁契 約解 除の 場合 につ いて 見る と﹂
、次 のよ うな 矛盾 があ る。 すな わち
、﹁ 契約 の目 的を 達し ない よう な物 を履 行と して 認容 する とい うこ とが そも そも 矛盾 では ない か、 更に 履 行と して 認容 して おき なが ら契 約の 目的 を達 しな いと いっ て契 約を 解除 させ るこ とを 認め ると いう こと がい った い 論理 上許 され るも のか
﹂と いう こと で
( )
ある
。
83
右の 指摘 は、 きわ めて 適切 であ り、 不特 定物 の売 買に おけ る危 険の 移転 時期 が合 意に よる 特定 の時 に限 られ ると して も、
﹁瑕 疵の 存在 を認 識し た上 で﹂
、そ れを 目的 物と して 認め る買 主が 現実 に存 在す ると は考 えら れな い。 換言
すれ ば、 最高 裁の 理論 を﹁ すな おに 適用 すれ ば、 これ にあ たる 例が まず なく
、ほ とん どす べて の場 合に
、不 完全 履 行の 問題
﹂と
( )
なる
。そ うだ とす れば
、大 審院 大正 一四 年判 決以 降、 右の 最高 裁昭 和三 六年 判決 まで のほ ぼ一 貫し た
84
判例 法理 は、 なお 問題 を含 んで いる と考 えら れる
。 三
小 括 最高 裁昭 和三 六年 判決
︻一 三︼ 以降
、不 特定 物の 売買 につ いて の瑕 疵担 保責 任の 適否 に関 する 最上 級審 判決 は存 在し ない
。そ れゆ え、 昭和 三六 年判 決が 現在 でも なお
、判 例法 とし て機 能し てい る。 そし て、 その
﹁履 行と して 認 容﹂ とい う抽 象的 な基 準が 一人 歩き して いる 感を 否め ない
。た とえ ば、 要件 事実 論に おい ては
、不 特定 物の 売買 で あっ ても
、﹁
﹃履 行認 容事 情﹄ が認 めら れる 場合 に限 って 瑕疵 担保 責任 の規 定の 適用
﹂が ある と
( )
する
。し かし
、そ の
85
意義 およ び論 拠は
、何 ら説 明さ れて いな い。 した がっ て、 最高 裁昭 和三 六年 判決 を判 例法 の中 で正 確に 位置 づけ
、 その 意義 を理 解す るこ とが 大切 であ る。 とこ ろで
、最 高裁 昭和 三六 年判 決が 公に され た当 時、 瑕疵 担保 責任 につ いて は、 それ を債 務不 履行 責任 と一 元的 に理 解す る見 解︵ 債務 不履 行責 任説
︶が 提唱 され つつ あっ た。 そし て、 昭和 三六 年判 決の 調査 官解 説で も、 これ ま での
﹁解 釈論 とは 別の 次元
﹂で
、瑕 疵担 保責 任と 債務 不履 行責 任と の﹁ 統一
﹂が
﹁論 じら れる に至 って いる
﹂と の 指摘 がな され てい る。 そし て、
﹁そ の流 れの 中で の本 判決 の位 置づ けを 論じ るこ とは
、興 味あ るこ とな がら
、い さ さか 本解 説の 埒を 越え る﹂ と
( )
する
。こ の解 説か らは
、最 高裁 昭和 三六 年判 決が なお
、法 定責 任説 を前 提と し、 その
86
枠の 中に 位置 して いた こと がう かが われ よう
。
( ) 星野
・前 掲注
︵
︶一 七四 頁。 74
45
( ) 星野 英一
﹁判 批﹂ 法学 協会 雑誌 八〇 巻五 号七 一一 頁︵ 一九 六四 年︶
。 ( 75 ) 倉田 卓次
・最 高裁 判所 民事 判例 解説
︵昭 和三 六年 度︶ 四六 二頁
。 ( 76 ) 星野
・前 掲注
︵
︶七 一二 頁。 この ほか
、北 川善 太郎
﹁判 批﹂ 民商 法雑 誌四 六巻 六号 一〇 六一 頁︵ 一九 六二 年︶ も、 最高 裁昭 和三 六年 判決 77
75
︻一 三︼ が、
﹁従 来の 判例 法に つな がる とと もに
、そ れを 一層 明確 にし たも の﹂ であ ると した
。な お、
︻一 三︼ 判決 の評 釈と して は、 ほか に、 谷 口知 平・ 判例 評論 四六 号一 一頁
︵一 九六 二年
︶、 鍛冶 良堅
・明 治大 学法 律論 叢三 六巻 二号 六一 頁︵ 一九 六二 年︶
、山 下末 人・ 法律 時報 三五 巻二 号九 五頁
︵一 九六 三年
︶、 同・ 売買
︹動 産︺ 判例 百選
︹別 冊ジ ュリ スト 七︺ 一〇 四頁
︵一 九六 六年
︶、 右田 堯雄
・民 法判 例百 選︹ 二︺
︹別 冊ジ ュ リス ト四 七︺ 一二 二頁
︵一 九七 五年
︶、 五十 嵐清
・民 法の 判例
︹基 本判 例解 説シ リー ズ︺ 一五 七頁
︵一 九七 九年
︶、 松本 恒雄
・民 法判 例百 選
︹二
︺第 四版
︹別 冊ジ ュリ スト 一三 七︺ 一一 八頁
︵一 九九 六年
︶が ある
。 ( ) 星野
・前 掲注
︵
︶七 一五 頁。 78
75 ( ) 野澤 正充
﹁瑕 疵担 保責 任の 法的 性質
︵一
︶︱ 法定 責任 説の 三つ の考 え方
﹂法 律時 報八
〇巻 八号 一三 頁︵ 二〇
〇八 年︶
。 ( 79 ) 星野
・前 掲注
︵
︶七 一五 頁。 80
75 ( ) 星野
・前 掲注
︵
︶七 一五 頁。 81
75 ( ) 星野
・前 掲注
︵
︶七 一五 頁。 82
75 ( ) 鍛冶
・前 掲注
︵
︶六 七頁
。 83
77 ( ) 星野
・前 掲注
︵
︶七 一五 頁。 84
75 ( ) 大江 忠﹃ 要件 事実 民法
︵中
︶﹄
︵第 一法 規、 第二 版、 二〇
〇二 年︶ 三二 八頁
。 ( 85 ) 倉田
・前 掲注
︵
︶四 六三 頁。 86
76
第四 款 法定 責任 説の まと め 一 法定 責任 説の 諸相 今日 にお いて
、法 定責 任説 とい えば
、そ れは
、鳩 山博 士と 末弘 博士 が提 唱し
、我 妻博 士や 柚木 博士 が受 け継 いだ 見解 を指 す。 すな わち
、瑕 疵担 保責 任は
、当 事者 間の 公平 を図 り、 取引 の信 用を 維持 する ため に法 が特 に認 めた 無 過失 責任 であ って
、特 定物
︵な いし 不代 替的 特定 物︶ の売 買に のみ 適用 され ると する 見解 であ る。 そし て、 この 見
解は
、﹁ 特定 物の 売買
=瑕 疵担 保責 任・ 不特 定物 の売 買= 債務 不履 行責 任﹂ とい う図 式を 前提 に、 両責 任を 二元 的 に解 して いる
。 しか し、 大審 院大 正一 四年 判決
︻五
︼を 契機 とし て、 不特 定物 の売 買で あっ ても
、目 的物 が特 定さ れた 後は
、特 定物 の売 買と 同じ く、 瑕疵 担保 責任 が適 用さ れる とす る見 解が 有力 とな る。 とり わけ
、買 主の 物の 受領 によ る特 定 は認 めな いが
、当 事者 の合 意︵ 契約 に︶ よる 特定 を認 める 見解
︵舟 橋・ 勝本
・末 川︶ は、 昭和 の初 期︵ 昭和 一〇 年頃 まで
︶に は、 多数 説で あっ たと 考え られ る。 とこ ろで
、大 審院 大正 一四 年判 決︻ 五︼ は、 その 当時 の通 説的 見解 であ った 岡松 博士 や横 田博 士の 見解 を前 提と して いた
。そ の見 解は
、瑕 疵担 保責 任が 無過 失責 任で ある こと の根 拠を 危険 負担 の法 理に 求め るも ので ある
。そ し て、 危険 負担 の法 理を 前提 とす ると
、特 定物 の売 買に つい ては
、契 約締 結時 に危 険が 売主 から 買主 に移 転し
︵五 三 四条 一項
︶、 買主 は、 売買 契約 前に 生じ た瑕 疵に つい て、 売主 に対 して その 担保 責任 を追 及す るこ とが でき る。 ま た、 不特 定物 の売 買に 関し ては
、﹁ 第四 百一 条第 二項 の規 定に より その 物が 確定 した 時か ら﹂
、危 険が 買主 に移 転す るこ とと なり
︵五 三四 条二 項︶
、買 主は
、そ の時 まで の瑕 疵に つい ての 担保 責任 を売 主に 問う こと がで きる
。さ ら に、 四〇 一条 二項 の適 用が なく ても
、当 事者 の合 意︵ 契約
︶に よっ て目 的物 が特 定す るこ とと なる
。そ して
、大 審 院大 正一 四年 判決 は、 この よう な現 行民 法の 文理 解釈 に忠 実に
、危 険の 移転 時期 を画 した
。し かし
、売 主が 瑕疵 の ある 物を 提供 し、 買主 がそ れを 受領 して も、 四〇 一条 二項 によ る特 定の 効果 は認 めら れな いと の批 判が なさ れ、 そ の後 の大 審院 判例 がそ れを 修正 した こと は、 前述 のと おり であ る。 そし て、 右の よう な、 瑕疵 担保 責任 を危 険負 担の 法理 に基 礎づ ける 見解 も、 同責 任を 法律 に基 づく 無過 失責 任と 解す る点 では
、法 定責 任説 の一 つに 位置 づけ られ よう
。そ うだ とす れば
、法 定責 任説 にも さま ざま な見 解が あり
、 特定 物の ドグ マと 原始 的一 部不 能論 を前 提と した 見解 のみ が法 定責 任説 であ る、 とい うわ けで はな い。
二 判例 法の 位置 づけ 判例 法理 は、 大審 院大 正一 四年 判決
︻五
︼判 決以 降、 最高 裁昭 和三 六年 判決
︻一 三︼ に至 るま で、 次の 点で は、 ほぼ 一貫 して いる
。す なわ ち、 不特 定物 の売 買で あっ ても
、買 主は
、売 主に 対し て、
﹁物 ニ関 スル 危険 ノ移 転ス ル 時期 ヲ標 準ト シテ
﹂瑕 疵担 保責 任を 問う こと がで きる
。そ の﹁ 危険 ノ移 転ス ル時 期﹂ は、 物の 受領 の時 では なく
、 当事 者の 合意
︵契 約︶ によ る特 定が なさ れた 時で あり
、そ の合 意の ため には
、買 主が
﹁瑕 疵の 存在 を認 識し た上 で これ を履 行と して 認容
﹂し たこ とが 必要 であ る。 そし て、 この 考え の理 論的 支柱 とな った のは
、勝 本博 士の
﹁不 完 全履 行序 説﹂︵ 昭和 四年 で︶ あっ たと 解さ れる
。 とこ ろで
、判 例法 理に よれ ば、 買主 は、 物を 受領 した 後に 瑕疵 を発 見し てか ら、 売主 に対 して
、①
﹁履 行と して 認容
﹂し て瑕 疵担 保責 任を 問う か、
②債 務不 履行 責任 を追 及す るか を、 任意 に選 択で きる こと にな る。 この 考え は、 両責 任の 本質 的な 同一 性を 前提 とす る。 換言 すれ ば、 特定 物の 売買 と不 特定 物の 売買 とで 両責 任を 峻別 する
、 鳩山 博士 の法 定責 任説 では
、あ りえ ない 現象 であ る。 しか し、 判例 法理 は、 瑕疵 担保 責任 を危 険負 担の 法理 に基 礎 づけ る岡 松博 士の 見解 を前 提と して いた
。そ うだ とす れば
、先 にも 述べ たよ うに
、瑕 疵担 保責 任は
、危 険負 担の 法 理に 基づ く契 約責 任で あり
、債 務不 履行 責任 とそ の基 礎︵ 契約 責任
︶を 同じ くす る。 ここ に、 両責 任の 任意 選択 を 認め る論 拠を 見出 すこ とが でき よう
。た だし
、瑕 疵担 保責 任︵ 危険 負担 は︶
、売 主が 無過 失の 場合
、す なわ ち、 瑕 疵が 不可 抗力 によ って 生じ た場 合に も認 めら れる ため
、不 可抗 力に よる 債務 者の 免責 が認 めら れる 債務 不履 行責 任 とは 異な る。 この 点に 関し ては
、両 責任 の統 一な いし 同質 性を 強調 する 債務 不履 行責 任説 の検 討が 不可 欠で ある
。 三
検討 すべ き課 題 繰り 返し にな るが
、右 の判 例法 理は
、現 行民 法の 危険 負担 に関 する 規定
︵五 三四 条︶ の文 理解 釈に は合 致し てい