九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
紅河の激甚洪水時における首都ハノイの最適な統合 的洪水防除方策
サイ, ホン, アイン
http://hdl.handle.net/2324/4475192
出版情報:Kyushu University, 2020, 博士(農学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
(様式6-2)
氏 名 サイ ホン アイン
論 文 名 Optimal Integrated Measures to Protect Hanoi Capital from the Red River Floodwater in Emergency Situations
(紅河の激甚洪水時における首都ハノイの最適な統合的洪水防除方策)
論文調査委員 主 査 九州大学 教 授 平松 和昭 副 査 九州大学 教 授 凌 祥之 副 査 九州大学 准教授 原田 昌佳
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
ベトナム北部に位置する首都ハノイの中心部を流下し,南シナ海に流入する大河川,紅河の流域 では,過去に激甚な洪水が頻繁に発生し,多くの人命が失われるとともに,都市インフラは甚大な 被害を受けている。ベトナムは今後,気候変動の影響を最も受ける国の一つと言われており,集中 豪雨や海水面上昇による洪水の激甚化・頻発化に対する統合的洪水防除方策の立案が喫緊の課題と なっている。そのハノイを激甚洪水から守るため,ベトナム政府は紅河の河川堤防を整備するとと もに,ハノイ中心部から約30 kmの上流に面積約30.8 km2の洪水調整池,Van Coc湖を築造し,
激甚洪水時には紅河の洪水流をVan Coc水門と紅河の堤防上に設けた越流地点からVan Coc湖に導 流し,一時貯留するとともに,その下流のDay川を通じて,ハノイを迂回して,南シナ海に排除で きるようにしている。しかしながら,紅河やDay川の堤外地(川の水が流れている側)やVan Coc 湖内には多くの住宅地が広がっているにもかかわらず,これらの領域における激甚洪水時の洪水流 の挙動に関しては全く検討されていない。本論文は,構築した洪水氾濫解析モデルを用いて,激甚 洪水時にハノイを守るための洪水調整池Van Coc湖の最適な運用ルールを提案するとともに,洪水 流の伝播特性や湛水深の時空間的分布に基づき,洪水時の紅河や Day川の堤外地や Van Coc湖内 の洪水危険度を明らかにしたものである。
まず,水平2次元洪水氾濫解析モデルを開発し,ハノイ中心部にある紅河の水位観測地点で,洪 水警報地点であるLong Bienステーションにおいて洪水時に得られた水位の時間変化の実測値と比 較した結果,開発したモデルは高い再現性を有していることを示している。
次に,激甚洪水時のVan Coc湖の最適な運用ルールを明らかにするために,開発した洪水氾濫解 析モデルと,ハノイでは過去100年で最も激甚で,既往最大クラスの洪水である 1971年の洪水時 の紅河の水位変動を上流端境界条件として用いたシナリオ分析を実施している。シナリオ分析では,
Van Coc 水門と紅河の堤防上に設けた越流地点の開口の有無と,越流地点の開口幅に基づき 11 個
のシナリオを設定し,ハノイにおける洪水防除効果の最大化,紅河の堤外地の住宅地での洪水危険 度の最小化,Van Coc湖の洪水排除施設の安全性の確保,以上の観点から検討した結果,最適シナ リオとして,Van Coc水門全開,越流地点開口幅 1000 mを提案している。さらに,最適シナリオ
時の Van Coc 湖内や紅河やDay川の堤外地の洪水流の伝播特性や湛水深の時空間的分布を検討し
ている。その結果,最適シナリオでは,Van Coc湖内の住宅地は全て浸水し,また紅河の堤外地の
住宅地も 96.0 %が浸水しており,既往最大クラスの激甚洪水に対しては,紅河や Day川の堤外地
やVan Coc湖内は極めて危険であることを示している。
さらに,洪水警報地点であるLong Bienステーションで規定されている洪水警戒レベル1(水位
9.5 m),2(水位10.5 m),3(水位11.5 m)の時の紅河堤外地の住宅地の湛水状況を解析した結
果,住宅地の浸水が警戒レベル1,2,3でそれぞれ 40.2 %,54.1 %,79.8 %となり,比較的 頻繁に発生する洪水規模でも洪水危険度が高いことを示している。
以上要するに,本論文は,激甚洪水時にハノイを守るための洪水調整池Van Coc湖の最適な運用 ルールを提案するとともに,洪水時の紅河や Day川の堤外地やVan Coc 湖内の洪水危険度を明ら かにし,洪水の激甚化・頻発化に対する統合的洪水防除方策の立案のための知見を提示したもので,
農林水産業の生産基盤を対象とした水環境学に寄与する価値ある業績と認める。
よって,本研究者は博士(農学)の学位を得る資格を有するものと認める。