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平成25年度の主な研究成果

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植物(微生物を含む)生命科学研究 

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(5)

昆虫・動物生命科学研究 

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(6)

知的貢献 技術開発

[主な研究成果名]植物における完全な選抜マーカー遺伝子除去技術の開発

[ 要      約 ]形 質 転 換 植 物 体 の 選 抜 に お い て は、 抗 生 物 質 耐 性 遺 伝 子 な ど の マ ー カ ー 遺 伝 子 の 利 用 が 不 可 欠 で あ る が、 こ れ ま で 選 抜 後 に 不 要 な マ ー カ ー 遺 伝 子 を 完 全 に 除 去 す る 方 法 が な か っ た。 本 研 究 で は、 昆 虫 由 来 の ト ラ ン ス ポ ゾ ン p i g g y B a c が イ ネ に お い て 足 跡 を 残 さ ず 転 移 で き る こ と を 明 ら か にし、植物におけるマーカー遺伝子の完全な除去技術を開発した。

[キ ー ワ ー ド ]イネ、形質転換体、p i g g y B a c トランスポゾン、マーカー除去

[担     当]生物研 農業生物先端ゲノム研究センター ゲノム機能改変研究ユニット

[連  絡  先]029-838-8450

       

[背景・ねらい]

 形質転換植物体を作出し、利用する場合、選抜に利用したマーカー遺伝子(抗生物質耐性 遺 伝 子 な ど ) を 除 去 す る こ と が 望 ま れ て い る。 こ れ ま で、「 動 く 遺 伝 子 」 で あ る ト ラ ン ス ポ ゾ ン や 部 位 特 異 的 組 換 え 酵 素 を 用 い て マ ー カ ー 遺 伝 子 を 除 去 す る 方 法 が 報 告 さ れ て い る が、

これらの方法では除去後に不要な塩基配列(足跡)が残ってしまう欠点があった。一方、昆 虫由来のトランスポゾン「p i g g y B a c」は動物細胞において足跡を残さず転移でき、完全なマー カー除去に利用されている。そこで本研究では、植物においても p i g g y B a cが足跡を残さず に転移できるかどうかをイネの実験系で検証した。

[成果の内容・特徴]

1.ル シ フ ェ ラ ー ゼ 遺 伝 子(L U C) の 内 部 に p i g g y B a c ト ラ ン ス ポ ゾ ン の 反 復 配 列 を 挿 入 し たレポーターコンストラクトをイネカルスに導入し、p i g g y B a c トランスポゾンの転移酵

素(P B a s e)の発現下でp i g g y B a c が足跡を残さずに転移した場合、ルシフェラーゼの発

光として捉えることができる実験系を構築し(図 1 A)、p i g g y B a c のイネ細胞における転 移能を解析した。

2.レ ポ ー タ ー コ ン ス ト ラ ク ト を 持 つ イ ネ カ ル ス に、P B a s e を 恒 常 的 に 発 現 さ せ る ベ ク タ ー 及びコントロールベクターを形質転換した。薬剤選抜後、P B a s e 発現カルスではL U C の 発光が検出されたのに対しコントロールでは発光が認められなかった(図1 B)。さらに、

L U C の発光が認められたカルスから抽出したゲノムD N A を用いて、L U C 遺伝子のシー

クエンス解析を行ったところ、p i g g y B a c が足跡を残さず転移したことが確認できた(図 1 C)。

3.L U C の発光が認められたカルスから再分化個体を得て、P C R 解析により p i g g y B a c の転

移 お よ び 再 挿 入 効 率 を 算 出 し た と こ ろ、 解 析 し た 個 体 の う ち 7 0 % 以 上 の 個 体 で p i g g y B a c の レ ポ ー タ ー か ら の 転 移 が 認 め ら れ た( 表 1)。 ま た、3 0 % の 個 体 に お い て、

転移したp i g g y B a c が再挿入なしに欠失していることが明らかとなった(図 1 A、表 1)。

4.再分化個体の自殖後代では、p i g g y B a c が完全に除去された個体が得られた。以上の結果 より、p i g g y B a c を利用することで、高効率かつ完全なマーカー除去系が構築できると期 待される。

[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]

1.p i g g y B a c は多くの動物種で転移が確認されているが、今回、植物であるイネにおいても

転移することを確認した。イネ以外の植物における転移についても調べる必要があるが、

今後、p i g g y B a c は植物でも高効率かつ完全なマーカー遺伝子の除去に広く利用できると 期待される。

2.動物では、p i g g y B a c を用いて外来遺伝子を導入する研究も行われている。P B a s eを一過 的 に 発 現 さ せ る こ と に よ り 外 来 遺 伝 子 を 導 入 す る 実 験 系 が 構 築 で き れ ば、 将 来 的 に は 外 来 遺 伝 子 を 必 要 な と き に 染 色 体 上 に 導 入 し、 不 要 に な れ ば 完 全 に 除 去 す る 実 験 系 が 構 築 できると期待される。

(7)

[具体的データ]

表1 PCRによる再分化個体におけるpiggyBacの転移および再挿入効率の解析

図 1 イネカルスにおける p i g g y B a c の転移の解析

( A ) p i g g y B a cトランスポゾンの転移を可視化するレポーター系の概要。 ( B ) コントロール(左)

お よ び P B a s e 発 現 ベ ク タ ー( 右 ) を 導 入 し て 4週 間 選 抜 後 の カ ル ス に お け る ル シ フ ェ ラ ー ゼ の 発光(L U C , 下)。L U C の発光は疑似カラーで示している。( C ) p i g g y B a c 転移後の L U C 遺伝子 の配列解析。

[その他]

研究課題名:ジーンターゲッティングによる有用形質導入システムの開発 中期計画課題コード:1 - 2 1      研究期間:2 0 1 0 ~ 2 0 1 3 年度 研究担当者:横井彩子、遠藤真咲、刑部敬史、雑賀啓明、土岐精一 発表論文等

1) Nishizawa-Yokoi A, Endo M, Osakabe K, Saika H, Toki S (2014) Precise marker excision system using an animal-derived piggyBac transposon in plants The Plant Journal 77(3):454-463

(8)

知的貢献 技術開発

[主な研究成果名]イネにおける新規な除草剤耐性遺伝子の単離とその利用

[ 要      約 ]特 定 の 除 草 剤 に 対 し て 耐 性 を 示 す イ ネ 品 種 を 解 析 し、 除 草 剤 の 解 毒 代 謝 に 関 与 す る 新 規 の シ ト ク ロ ム P 4 5 0 遺 伝 子「C Y P 7 2 A 3 1」 を 単 離 し た。

C Y P 7 2 A 3 1 遺 伝 子 の 過 剰 発 現 に よ り、 イ ネ 及 び シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ の 除 草 剤 耐性を向上させることに成功した。

[キ ー ワ ー ド ]イネ、アセト乳酸合成酵素、除草剤耐性、解毒代謝、シトクロムP 4 5 0

[担     当]生物研 農業生物先端ゲノム研究センター

ゲノム機能改変研究ユニット、イネゲノム育種研究ユニット、

ゲノムインフォマティックスユニット、作物ゲノム研究ユニット

[連  絡  先]029-838-8450

       

[背景・ねらい]

  植 物 の 除 草 剤 耐 性 機 構 は、 除 草 剤 が 結 合 す る 標 的 タ ン パ ク 質 の 変 化( 標 的 変 異 )、 ま た は 解毒代謝等による植物体内での有効除草剤量の減少に大別される。解毒代謝は複数の除草剤 耐性に関与することが多いため、難防除雑草の発生や除草剤耐性作物品種の育成の観点から 重要な形質である。しかしながら、その分子機構が解明され た例はほとんどない。

  ビ ス ピ リ バ ッ ク ナ ト リ ウ ム 塩(B S) は、 ア セ ト 乳 酸 合 成 酵 素(A L S) を 阻 害 す る 除 草 剤 で あ る。 近 年、B S 耐 性 に 関 し て イ ネ に 品 種 間 差 が 認 め ら れ、 そ の 原 因 が 解 毒 代 謝 で あ る 可 能 性 が 示 唆 さ れ て い た。 本 研 究 で は、B S 耐 性 に 関 わ る イ ネ の 遺 伝 子 を 単 離 す る と と も に、

単離した遺伝子が除草剤耐性作物の育成に応用できるか検討した。

[成果の内容・特徴]

1.B S 耐性を示すイネ品種「K a s a l a t h」と感受性を示すイネ品種「コシヒカリ」の交雑後代 を 作 出 し、 マ ッ プ ベ ー ス ク ロ ー ニ ン グ 法 に よ っ て 第 1 染 色 体 の 2 3 . 6 M b に 存 在 す る B S 耐性遺伝子 C Y P 7 2 A 3 1(O s 0 1 g 0 6 0 2 2 0 0)を単離した(図 1)。

2.コ シ ヒ カ リ と 同 様 に B S感 受 性 を 示 す イ ネ 品 種「 日 本 晴 」 に お い て、C Y P 7 2 A 3 1 を 過 剰 発 現 さ せ た と こ ろ、 形 質 転 換 イ ネ の カ ル ス や 幼 苗 は、 非 形 質 転 換 体 と 比 較 し て 強 い B S 耐性を示した。また B S耐性品種である K a s a l a t h においても、C Y P 7 2 A 3 1 の過剰発現に よって非形質転換体より B S 耐性が向上した(図 2)。日本晴、K a s a l a t h いずれの品種に おいても、C Y P 7 2 A 3 1 遺伝子の m R N A量が多い形質転換カルス系統は、より高い濃度の B S に対しても耐性を示した。

3.C Y P 7 2 A 3 1 を 過 剰 発 現 さ せ た シ ロ イ ヌ ナ ズ ナ の 幼 苗 は、 非 形 質 転 換 体 よ り 強 い B S 耐 性 を 示 し た( 図 3) だ け で は な く、B S と は 構 造 が 異 な る A L S 阻 害 型 除 草 剤 で あ る ベ ン ス ルフロンメチル(B S M)に対しても強い耐性を示した。

4.B S M 耐性に関与するイネの遺伝子として、C Y P 7 2 A 3 1 遺伝子とは異なるグループのシト

クロム P 4 5 0 遺伝子 C Y P 8 1 A 6 が既に同定されている。R N A i 法により C Y P 8 1 A 6 遺伝子 の 発 現 を 抑 制 し た イ ネ は、 非 形 質 転 換 体 と ほ ぼ 同 程 度 の B S感 受 性 を 示 し た。 以 上 の 結 果から、B S M の解毒代謝にはC Y P 7 2 A 3 1 とC Y P 8 1 A 6 の両者が関与しているのに対し、

B Sの 解 毒 代 謝 に は C Y P 7 2 A 3 1 は 関 与 し て い る が、C Y P 8 1 A 6 は ほ と ん ど 関 与 し て い な いことが示唆 された。

[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]

1.D N A マ ー カ ー 選 抜 に よ っ て C Y P 7 2 A 3 1 遺 伝 子 を 導 入 す る こ と に よ り、 除 草 剤 耐 性 イ ネ 品 種 育 成 が 可 能 で あ る。 ま た、C Y P 7 2 A 3 1 遺 伝 子 を 形 質 転 換 す る こ と に よ り、 イ ネ 以 外 の作物にも除草剤耐性を付与できると期待される。

2.C Y P 7 2 A 3 1 遺伝子の機能解析を進めることにより、除草剤の解毒代謝に関する基礎的知

見 が 得 ら れ る。 ま た、 得 ら れ た 知 見 は、 新 規 の 除 草 剤 開 発 や 除 草 剤 耐 性 作 物 の 品 種 育 成 に利用することができる。

3.C Y P 7 2 A 3 1 遺伝子は、形質転換細胞・個体の選抜マーカーや、F1ハイブリッドなどの交

配種子・個体の選抜等、様々な分野に応用できる可能性がある。

(9)

[具体的データ]

図 1 C Y P 7 2 A 3 1 遺伝子の構造

C Y P 7 2 A 3 1 遺伝子の模式図。K a s a t a t h のC Y P 7 2 A 3 1 遺伝子は機能的であると考えられる。一方、

コ シ ヒ カ リ の C Y P 7 2 A 3 1遺 伝 子 に お い て、 コ ー ド 領 域 の 塩 基 配 列 を 比 較 し た 結 果、 複 数 の 変 異 が確認された。中でも、C Y P 7 2 A 3 1遺伝子の第 4エキソンには 1塩基欠失が生じており、シトク ロ ム P 4 5 0 に 特 徴 的 な 保 存 領 域( 桃 色 の 部 分 ) の 上 流 で 終 始 コ ド ン が 生 じ て い た。 こ れ に よ り、

コシヒカリの C Y P 7 2 A 3 1 遺伝子は機能的ではないと考えられた。

図 2 C Y P 7 2 A 3 1 遺伝子過剰発現K a s a k a t h のB S 耐性 試験

C Y P 7 2 A 3 1 遺伝子を過剰発現させた K a s a k a t hを B Sを 含 む 培 地 に 播 種 し た。 写 真 は 7日 間 栽 培 し た 時 の 植 物 体の様子。

図 3 C Y P 7 2 A 3 1遺 伝 子 過 剰 発 現 シ ロイヌナズナの B S耐性試験

C Y P 7 2 A 3 1 遺 伝 子 を 過 剰 発 現 さ せ た シロイヌナズナをB S を含む培地に播 種した。写真は1 0 日間栽培した時の 植物体の様子。過剰発現系統1では、

過 剰 発 現 系 統 2 と 比 較 し て、

C Y P 7 2 A 3 1遺伝子のm R N A量が多い。

[その他]

研 究 課 題 名:イネ及びタイヌビエにおけるアセト乳酸合成酵素阻害型除草剤抵抗性遺伝子の 単離・解析、及びその活用に関する研究

中期計画課題コード:1 - 2 1、1 - 2 3   研究期間:2 0 0 7 ~ 2 0 1 3 年度

研究担当者: 雑賀啓明、堀田順子(クミアイ化学)、田口(塩原)文緒、野中聡子(筑波大)、

横 井( 西 澤 ) 彩 子、 岩 上 哲 史( 京 都 大 )、 堀 清 純、 松 本 隆、 田 中 剛、 伊 藤 剛、

矢野昌裕、角康一郎(クミアイ化学)、清水力(クミアイ化学)、土岐精一 発表論文等

1) 雑賀啓明、田口文緒、堀清純、松本隆、田中剛、堀田順子、角康一郎、清水力「チトクローム

P450をコードする遺伝子及びその利用」WO2013/054890

2) Saika H, Horita J, Taguchi-Shiobara F, Nonaka S, Nishizawa-Yokoi A, Iwakami S, Hori K, Matsumoto T, Tanaka T, Itoh T, Yano M, Kaku K, Shimizu T, Toki S (2014) A novel rice cytochrome P450 gene, CYP72A31, confers tolerance to acetolactate synthase-inhibiting herbicides in rice and Arabidopsis Plant Physiology (Published online):before print DOI:10.1104/pp.113.231266

(10)

知的貢献

[主な研究成果名]多収イネ品種の高い光合成速度に貢献する遺伝子を特定

[ 要      約 ]日 本 の 多 収 イ ネ 品 種 が 持 つ 光 合 成 速 度 を 高 め る 遺 伝 子 を 特 定 し た。 こ の 遺 伝 子 は 葉 の 形 態 に 関 係 し、 光 合 成 反 応 を 行 う 葉 肉 細 胞 の 数 を 増 や す こ とで、光合成速度を向上させる。

[キ ー ワ ー ド ]ゲノム育種、光合成速度、量的形質、葉肉細胞

[担     当]生物研 農業生物先端ゲノム研究センター イネゲノム育種研究ユニット

[連  絡  先]029-838-7135

       

[背景・ねらい]

 収量性は、大きく分けて 2つの能力(光合成による炭水化物を作り出す能力=ソース能お よび炭水化物を貯蔵する能力=シンク能)によって決定され、その向上には両者をバランス 良く高める必要がある。ゲノム遺伝学の進歩によって、シンク能を決定する遺伝子が次々と 明らかになったが、その一方で、ソース能を高める遺伝子の報告例は少ない。日本で栽培さ れるイネ品種の中でトップレベルの生産能力を持つ品種「タカナリ」は、光合成能力が高い

(ソース能が高い)、籾の数が多い(シンク能が高い)など、多収につながる複数の性質を持っ ている。本研究では、タカナリの「光合成能力の高さ」に寄与する遺伝子を特定し、その機 能を明らかにした。

[成果の内容・特徴]

1.「タカナリ」と日本の代表的品種「コシヒカリ」を交配した系統を使い、マップベースク ローニング法により、光合成速度を高める遺伝子 G P S を特定した。

2.G P S 遺伝子は、葉の幅に関わる既知の遺伝子N A L 1 と同じ遺伝子であったが、タカナリ

型 の G P S 遺 伝 子 と 既 知 のN A L 1 遺 伝 子( コ シ ヒ カ リ 型 ) の 間 に は、 複 数 の D N A 配 列 の

違 い が 見 出 さ れ た。 遺 伝 子 発 現 の 抑 制 実 験 や、 タ ン パ ク 質 定 量 実 験、 お よ び 詳 細 な 葉 の 構造の調査を行った結果、タカナリ型の G P S 遺伝子はN A L 1 遺伝子の作用がわずかに弱 まった機能低下型であることが明らかとなった。

3.タ カ ナ リ 型 の G P S 遺 伝 子 を 持 つ コ シ ヒ カ リ 系 統( コ シ ヒ カ リ G P S) と、 コ シ ヒ カ リ 型

G P S 遺 伝 子 を 持 つ タ カ ナ リ 系 統( タ カ ナ リ G P S) を 作 成 し( 図 1 A)、 タ カ ナ リ 型 の

G P S遺伝子が光合成速度を高める効果があることを確認した(図 1 B)。

4.コシヒカリ G P S は葉が厚くなり、単位面積あたりの葉肉細胞の数が増え、逆にタカナリ

G P S で は 葉 が 薄 く な り、 単 位 面 積 あ た り の 葉 肉 細 胞 数 も 減 少 し た こ と か ら、 葉 肉 細 胞 数

の増加が光合成速度の向上の理由と考えられた。

5.タカナリ G P S の収量性はタカナリと比較して 5 % 低下したことから、G P S 遺伝子がタカ ナリの高い収量性に寄与していることが明らかとなった。一方、コシヒカリ G P S では収 量に変化はなかった。

6.多収イネ品種の系譜におけるG P S 遺伝子の伝搬について、塩基配列情報をもとに調べた ところ、タカナリ型の G P S遺伝子配列は、インド型品種 P e t aや M u d g o に由来し、1 9 6 0 年 代 の 東 南 ア ジ ア に お け る 緑 の 革 命 に 貢 献 し た 多 収 イ ネ 品 種「I R 8」 を 経 由 し て 導 入 さ れたと推定された(図2)。

[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]

1.G P S 遺伝子は、タカナリの高いソース能と高い収量性に寄与する遺伝子であり、タカナ リおよびその姉妹品種を母本とした多収イネのマーカー選抜育種において有用である。

2.コシヒカリ G P S では収量性の向上効果は認められなかったが、これまでに特定された「シ ン ク 能 を 高 め る 遺 伝 子 」 を 含 め た「G P S 遺 伝 子 と の 組 み 合 わ せ に よ っ て 収 量 を 高 め る 遺 伝 子 」 を 同 定 し 利 用 し て い く こ と で、 今 後、 日 本 の イ ネ 品 種 の 収 量 向 上 に 役 立 つ と 期 待 される。

3.G P S 遺伝子は光合成の複雑な仕組みを明らかにするための基礎研究の実験素材として有 用である。

(11)

[ 具 体 的 デ ー タ ]

図1 G P S遺伝子と光合成速度の関係

( A ) コ シ ヒ カ リ と タ カ ナ リ を 交 配 し、 タ カ ナ リ 型

G P S 遺 伝 子 を 持 つ コ シ ヒ カ リ 系 統( コ シ ヒ カ

G P S) と、 コ シ ヒ カ リ 型 の G P S遺 伝 子 を 持 つ タカナリ系統(タカナリG P S)を作成した。

( B ) 各 系 統 の 光 合 成 速 度 を 調 べ た と こ ろ、 タ カ ナ リ 型 の G P S 遺 伝 子 を 持 つ と 光 合 成 速 度 が 高 く な る こ と が わ か っ た。 図 中 のaと bの 間 に は 統 計 的 に差が認められたことを示す。

図 2 タカナリの育成系譜におけるタカナリ型 G P S 対立遺伝子の伝達

高い個葉光合成速度を示すタカナリ型の G P S 対立遺伝子は、1 9 6 0 年代の東南アジアにおける緑 の革命に貢献した多収イネ品種「I R 8」に由来し、日本に伝わった。

[その他]

研究課題名:超多収イネ品種のソース能関連形質の遺伝解析

中期計画課題コード:1 - 2 3     研究期間:2 0 0 8 ~2 0 1 2 年度

研究担当者: 高井俊之(生物研・作物研)、安達俊輔(東京農工大・生物研)、田口文緒、

荒井裕見子(作物研)、岩澤紀生(作物研)、吉永悟志(作物研)、廣瀬咲子(作 物研)、谷口洋二郎(作物研)、山内歌子、呉健忠、松本隆、杉本和彦、

近藤勝彦、一家崇志、安藤露、河野いづみ、伊藤幸恵、正村純彦、大川泰一郎

(東京農工大)、平沢正(東京農工大)、矢野昌裕、近藤始彦(作物研)、山本敏央 発表論文等

1) Takai T, Adachi S, Taguchi-Shiobara F, Sanoh-Arai Y, Iwasawa N, Yoshinaga S, Hirose S, Taniguchi Y, Yamanouchi U, Wu J, Matsumoto T, Sugimoto K, Kondo K, Ikka T, Ando T, Kono I, Ito S, Shomura A, Ookawa T, Hirasawa T, Yano M, Kondo M, Yamamoto T (2013) A natural variant of NAL1, selected in high- yield rice breeding programs, pleiotropically increases photosynthesis rate Scientific Reports 3:2149

(12)

知的貢献 農業生産

[主な研究成果名]イネの干ばつ耐性を高める深根性遺伝子の特定

[ 要      約 ]イ ネ の 根 を 深 い 方 向 に 伸 ば す 遺 伝 子 を 発 見 し た。 根 の 張 り 方 が 浅 い イ ネ に 本 遺 伝 子 を 導 入 す る と、 根 が 深 く ま で 伸 び、 干 ば つ に 強 く な る こ と が 実証された。

[キ ー ワ ー ド ]干ばつ耐性、深根性、量的形質遺伝子座、重力屈性

[担     当]生物研 農業生物先端ゲノム研究センター イネゲノム育種研究ユニット

[連  絡  先]029-838-7443

       

[背景・ねらい]

 干ばつは、作物生産に甚大な被害を及ぼす大きな農業問題である。とくに、発展途上国で は飢餓の主要な原因の1 つとなっている。世界の食糧問題を解決するうえで、作物における 耐乾性の強化は極めて重要な課題である。深根性(根が土壌深くまで伸びる性質)は、乾燥 地域において植物が土壌深層から水を獲得するうえで重要な形質であるが、これまで深根性 に関与する遺伝子は明らかでなかった。本研究では、イネの深根性に関与する遺伝子を発見 するとともに、深根性遺伝子がイネの干ばつ耐性を向上させることを明らかにした。

[成果の内容・特徴]

1.遺伝学的手法により、深根の陸稲品種「K i n a n d a n g P a t o n g」と浅根の水稲品種「I R 6 4」 か ら 交 配・ 作 成 し た 解 析 集 団 を 用 い て 深 根 性 に 関 わ る 遺 伝 子 D R O 1を 特 定 し た。 機 能 解 析 の 結 果、D R O 1 は 根 端 で 働 き、 重 力 屈 性 に 関 与 し て い る こ と が わ か っ た( 図 1)。

K i n a n d a n g P a t o n g はD R O 1 が機能して深根になるが、I R 6 4 では D R O 1 の一部が欠損し ており、その結果、根の重力屈性が低下し浅根になることが判明した。

2.D N A マーカー選抜育種により、K i n a n d a n g P a t o n g 由来の機能型 D R O 1 を I R 6 4へ導入 した系統(D r o 1 - N I L)を育成した。干ばつ状態でない畑で栽培すると、D r o 1 - N I L は根 伸 長 角 度 を 大 き く す る こ と で 原 品 種 の I R 6 4よ り 2 倍 以 上 根 が 深 く 張 る こ と が 明 ら か と なった(図 2)。

3.国 際 熱 帯 農 業 セ ン タ ー(C I AT、 コ ロ ン ビ ア ) 内 の 干 ば つ 状 態 の 畑 で D r o 1 - N I L と I R 6 4 を栽培し、両品種の収量を比較した。中程度の干ばつ条件では、I R 6 4 の収量は通常の畑 で 栽 培 し た 場 合 の 半 分 に 減 少 し た が、D r o 1 - N I L は 通 常 時 と 同 程 度 の 収 量 が 保 た れ た。

さらに厳しい干ばつ条件では、I R 6 4 はほとんど収穫できなかったが、D r o 1 - N I L は通常

時の 3 0 %程度の収量が得られた。一方、通常の畑で栽培した場合の収量は、両品種でほ

ぼ同じであった(図3)。

4.形質転換体イネを用いた解析から、根端での D R O 1の発現を高めると発現量に応じて根 が よ り 深 く な り、 逆 にD R O 1 の 発 現 を 低 く す る と 根 が 浅 く な る こ と が 判 明 し た。D R O 1 の 遺 伝 子 発 現 を 制 御 す る こ と で、 イ ネ の 根 を 浅 根 か ら 深 根 に、 深 根 か ら 浅 根 に 自 由 に 変 えることが可能になると示唆された。

5.トウモロコシやソルガム、オオムギなどの他の作物にも D R O 1に相同する遺伝子が存在 した。

[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]

1.I R 6 4 はアジアで広く栽培され、母本にもなっている主要品種である。そこで、D R O 1を 導 入 し たI R 6 4 の ア ジ ア に お け る 普 及を め ざ し、 国 際 イ ネ 研 究 所(I R R I、 フ ィ リ ピ ン ) と 連 携 し、 干 ば つ が 問 題 と な っ て い る ア ジ ア の 天 水 田 で 実 証 試 験 を 計 画 し て い る。 さ ら に、ラテンアメリカ稲への D R O 1 の導入および評価をC I AT と連携して進めている。

2.深 根 性 の 改 良 は、 単 に 乾 燥 耐 性 を 強 化 す る だ け で な く、 例 え ば、 国 内 の イ ネ 品 種 の 耐 倒 伏性や収量性(登熟性)の改善にも寄与することが期待できる。

3.世 界 各 地 で 発 生 す る 干 ば つ 被 害 に 対 し、D R O 1 に 相 同 す る 遺 伝 子 を 活 用 し た 干 ば つ 耐 性 品種を開発することで、トウモロコシのような畑作物の安定生産への貢献が期待できる。

(13)

[具体的データ]

図 1  重 力 屈 性 に 対 す る

D R O 1の効果

水 平 回 転 4時 間 後 の 根 の 重 力 屈 性 反 応。 矢 印 は 重 力 方 向 を 示 す。θr a c: 水 平 回 転 後の種子根の屈曲角度。

図 2 D R O 1の根系分布への影響

( A ) イネの染色体イメージ。青棒はI R 6 4、赤棒はK i n a n d a n g P a t o n g の ゲ ノ ム に 由 来 す る こ と を 示 す。( B ) I R 6 4 お よ び D r o 1 - N I L の 根 系 分 布 の 状 態。D r o 1 - N I L は 根 長 は 変 わ ら ず、

根の伸びる方向だけが下向きになった。

図 3  干 ば つ 耐 性 に 及 ぼ す

D R O 1の効果

( A ) 花 芽 形 成 期 か ら 出 穂 ま で 約1 か 月 灌 水 を 停 止 し た 厳 し い 干 ば つ 区 の 様 子。( B ) I R 6 4 お よ び D r o 1 - N I L の 個 体 あ た り 粒 重 の 比 較。 中 程 度 の 干 ば つ 区 は1 日2 . 5 m m 灌 水。 厳 し い干ばつ区は無灌水。垂直バー は標準偏差を示す。

[その他]

研究課題名:イネの根系形態に関与する遺伝子の解析

中期計画課題コード:1 - 2 3     研究期間:2 0 0 8 ~2 0 1 2 年度

研究担当者: 宇賀優作、杉本和彦、小川諭志(C I AT)、J a g a d i s h R a n e(C I AT)、石谷学(C I AT)、

原 奈 穂、 木 富 悠 花( 名 古 屋 大 )、 犬 飼 義 明( 名 古 屋 大 )、 小 野 和 子、 菅 野 徳 子、

井上晴彦、竹久妃奈子、本山立子、長村吉晃、呉健忠、松本隆、高井俊之(作 物研)、奥野員敏、矢野昌裕

発表論文等

1) Uga Y, Sugimoto K, Ogawa S, Rane J, Ishitani M, Hara N, Kitomi Y, Inukai Y, Ono K, Kanno N, Inoue H, Takehisa H, Motoyama R, Nagamura Y, Wu J, Matsumoto T, Takai T, Okuno K, Yano M (2013) Control of root system architecture by DEEPER ROOTING 1 increases rice yield under drought conditions Nature Genetics 45(9): 1097-1102

2) 宇賀優作 (2013) イネ深根性遺伝子による耐乾性の遺伝的改良 根の研究 22 (4):131-139

3) 宇賀優作「植物の深根性を制御する遺伝子Dro1とその利用」WO2011/078308

(14)

技術開発 農業生産

[主な研究成果名]イネ品種「コシヒカリ」から出穂期を早める遺伝子を特定

[ 要      約 ]イ ネ の 出 穂 期 を 調 節 す る 遺 伝 子「H d 1 6」 を 特 定 し た。H d 1 6 は リ ン 酸 化 タ ン パ ク を コ ー ド し、 日 長 反 応 性 に 関 与 す る こ と が 判 明 し た。 コ シ ヒ カ リ で は 突 然 変 異 に よ り こ の 遺 伝 子 の 機 能 が 低 下 し て い た。 コ シ ヒ カ リ 型 の突然変異は1 0 0年前の日本の在来品種に由来することを明らかにした。

[キ ー ワ ー ド ]コシヒカリ、出穂期調節、育成品種の早生化

[担     当]生物研 農業生物先端ゲノム研究センター イネゲノム育種研究ユニット

[連  絡  先]029-838-7401

       

[背景・ねらい]

 イネ品種「コシヒカリ」は3 0年以上にわたって日本一の栽培面積と生産量を維持している。

その理由の一つとして炊飯米がおいしいことがあげられるが、日長反応性をもつ日本晴など の他品種と比べて出穂期が早く北陸地方から南東北地方でも栽培できることも大きな理由で あると考えられる。しかしながら、コシヒカリの出穂期がなぜ早くなるのかについて、これ まで遺伝子レベルでは説明できなかった。 本研究では、日本晴とコシヒカリのゲノム塩基配 列 情 報 を 利 用 し て、 出 穂 期 を 早 く す る 遺 伝 子「H d 1 6」 を コ シ ヒ カ リ か ら 特 定 し、 こ の 遺 伝 子の機能を明らかにした。

[成果の内容・特徴]

1.茨城県つくば市の水田で栽培すると、日本晴と比べてコシヒカリは1 0 日ほど早く出穂す る(図 1)。日本晴とコシヒカリを交配した実験系統群を用いて、コシヒカリの出穂時期 を早くする H d 1 6を特定した。

2.日本晴とコシヒカリのH d 1 6 遺伝子の D N A 配列の比較から、コシヒカリでは D N A 配列 が1 ヶ 所 変 化 し、 そ の 結 果 と し て H d 1 6 タ ン パ ク 質 の ア ミ ノ 酸 配 列 が 1 ヶ 所 変 化 す る こ とを明らかにした。

3.日 本 晴 のH d 1 6 タ ン パ ク 質 を 人 工 合 成 し て 解 析 し た と こ ろ、 イ ネ の 日 長 反 応 性 や 出 穂 期 制御に関係している「G h d 7 タンパク質」をリン酸化することが明らかとなった(図 2)。

一 方、 コ シ ヒ カ リ の H d 1 6 タ ン パ ク 質 は G h d 7 タ ン パ ク 質 を リ ン 酸 化 で き な か っ た。 コ シ ヒ カ リ で はH d 1 6 タ ン パ ク 質 の 働 き が 低 下 し て リ ン 酸 化 能 力 が な く な り、 そ の 結 果 と して日長反応性が弱くなり、出穂期が早くなると考えられた。

4.コ シ ヒ カ リ 型 の H d 1 6 は 野 生 種 や 国 外 の イ ネ 品 種 に は 存 在 せ ず、 日 本 の イ ネ 品 種 に だ け 存 在 し て い た( 図 3)。 コ シ ヒ カ リ の 系 譜 情 報( イ ネ 品 種 の 家 系 図 ) と 照 合 し た と こ ろ、

コ シ ヒ カ リ 型 の H d 1 6 は 1 0 0 年 前 に 誕 生 し た 山 形 県 の 在 来 品 種「 森 多 早 生 」 か ら 伝 わ っ ていた。

[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]

1.今 回 特 定 し た コ シ ヒ カ リ の H d 1 6 遺 伝 子 を 利 用 し た ゲ ノ ム 育 種 に よ っ て、 出 穂 期 や 収 穫 期 を 改 変( 早 生 化 あ る い は 晩 生 化 ) で き、 登 熟 期 の 高 温 や 低 温 回 避 や 作 期 分 散 に よ る 適 期収穫などが可能になる。

2.H d 1 6 遺 伝 子 は、 日 長 反 応 の 制 御 に 重 要 な 遺 伝 子 で あ り、 こ の 遺 伝 子 な ら び に 相 互 作 用 する遺伝子の解析は、出穂期の遺伝的調節機構の解明に貢献できる。

(15)

[具体的データ]

図 1  日 本 晴( 左 ) と コ シ ヒ カ リ

(右)の出穂時期

図2 日本晴とコシヒカリのH d 1 6 タンパク質のリン酸化

能力日本晴型 H d 1 6 タンパク質はG h d 7 タンパク質をリン酸化

できるが、コシヒカリ型H d 1 6 タンパク質はリン酸化でき ない。

図3 ( A ) 野 生 種 お よ び 国 内 外 の 栽培品種における H d 1 6 遺伝子型 の頻度日本晴型を青で、コシヒカリ型を 赤 で 示 す。 コ シ ヒ カ リ は1 9 5 6 年 に育成され、その後の栽培品種で はコシヒカリ型の頻度が増加して いる。( B ) コシヒカリの育成系譜 上の栽培品種におけるH d 1 6 遺伝 子型の分布。コシヒカリ型の突然 変異は森多早生に由来している。

[その他]

研 究 課 題 名:栽培環境に応答するイネ出穂期制御遺伝子ネットワークの解明、日本のイネ品 種の地域適応性に関わる出穂期 Q T L の単離

中期計画課題コード:1 - 2 3     研究期間:2 0 0 8 ~ 2 0 1 2 年度

研究担当者:堀清純、小木曽(田中)映里、松原一樹、山内歌子、江花薫子、矢野昌裕 発表論文等

1) Hori K, Ogiso-Tanaka E, Matsubara K, Yamanouchi U, Ebana K, Yano M (2013) Hd16, a gene for casein kinase I, is involved in the control of rice flowering time by modulating the day-length response The Plant Journal 76(1):36-46

2) 松原一樹、矢野昌裕、山内歌子、堀清純「植物の生長を制御する遺伝子Hd16およびその利用」特

開2010-252645

(16)

知的貢献 技術開発

[主な研究成果名]イソマルトオリゴ糖を生産する酵素の立体構造を解明

[ 要      約 ]デ ン プ ン か ら イ ソ マ ル ト オ リ ゴ 糖 を 生 産 す る 4酵 素 の 立 体 構 造 を X 線 結 晶 解 析 法 で 決 定 し、 酵 素 が 働 く し く み を 解 明 し た。 立 体 構 造 に 基 づ き 酵 素を改変し、グルコース重合度が 1 0以上の環状イソマルトメガロ糖の収 量を 2 倍以上に増やすことに成功した。

[キ ー ワ ー ド ]イソマルトメガロ糖、デンプン、X 線結晶解析、酵素反応機構

[担     当]生物研 農業生物先端ゲノム研究センター 生体分子研究ユニット

[連  絡  先]029-838-7877

       

[背景・ねらい]

 「 イ ソ マ ル ト オ リ ゴ 糖 」 は グ ル コ ー ス がα - 1 , 6 結 合 で 繋 が っ た オ リ ゴ 糖 で、 虫 歯 に な り に くくしたり、化合物を包み込み水溶性を高める性質を持つことが明らかになっている。また 高い親水性および食品安全性の観点から、新しい機能を持つ糖質としての産業応用が期待さ れ る。 し か し、 重 合 度 の 高 い イ ソ マ ル ト メ ガ ロ 糖( お よ そ 重 合 度 で 1 0 以 上 ) の 物 性 や 機 能 については未解明な部分が多く、効率的な生産方法を確立し機 能解明を進めていくことが必 要である。本研究では、酵素を用いたイソマルトメガロ糖の生産効率を向上させるため、イ ソマルトオリゴ糖生成に関わる酵素の構造を解析し、酵素が働くしくみを明らかにした。

[成果の内容・特徴]

1.デ ン プ ン を 原 料 に し て イ ソ マ ル ト メ ガ ロ 糖 を 生 産 す る4 つ の 過 程 の 4 種 類 の 酵 素、 ① 合 成 酵 素: デ ン プ ン の グ ル コ ー ス 間 のα - 1 , 4結 合 を 分 解 しα - 1 , 6 結 合 か ら な る デ キ ス ト ラ ン 型 糖 鎖 に 変 え る、 ② 環 状 化 酵 素: デ キ ス ト ラ ン か ら 環 状 イ ソ マ ル ト メ ガ ロ 糖 を 作 る、

③ 分 解 酵 素: デ キ ス ト ラ ン を イ ソ マ ル ト オ リ ゴ 糖 に 分 解 す る、 ④ 転 移 酵 素: イ ソ マ ル ト オ リ ゴ 糖 の グ ル コ ー ス を 転 移 し 直 鎖 イ ソ マ ル ト メ ガ ロ 糖 を 作 る、 の 立 体 構 造 を X 線 結 晶 解析法により決定し、各酵素の反応機構を解明した(図 1)。

2.放線菌 S t r e p t o c o c c u s m u t a n s 由来のデキストラン分解酵素(S m D E X)は、( β / α )8バ レ ル の 構 造 を 持 つ 触 媒 ド メ イ ン と、 そ の N 末 端 と C末 端 に 一 つ ず つ のβド メ イ ン の 計 3 つ の ド メ イ ン で 構 成 さ れ て い た。 イ ソ マ ル ト ト リ オ ー ス と の 複 合 体 の 構 造、 お よ び 反 応 阻 害 化 合 物 と の 複 合 体 の 立 体 構 造 に 基 づ き、 酵 素 の 基 質 認 識 部 位 と 酵 素 の 熱 安 定 性 向 上 に関わる部位を同定した。

3.環状イソマルトオリゴ糖を生産する細菌B a c i l l u s c i r c u l a n s 由来の環状イソマルトオリ ゴ糖グルカノトランスフェラーゼ(環状化酵素、B c C I Ta s e)のコア構造は S m D E X と類 似していたが、それ以外に触媒ドメインの途中のループが大きく突出し、新たなβドメイ

ン(C B M 3 5)を有していた。酵素活性を失った酵素変異体を作製し、基質の一つである

重合度 8 の直鎖イソマルトオリゴ糖(I G 8)との複合体の構造決定を行ったところ、I G 8 は触媒部位からC B M 3 5 にわたって結合していた。このことから、C B M 3 5 が環状イソマ ル ト オ リ ゴ 糖 を 生 産 す る 環 状 化 反 応 に お い て、 重 合 度 の 制 御 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い ることが明らかになった。

4.B c C I Ta s e の C B M 3 5糖鎖結 合部位を中心に変異を導入したところ、主生産物である重合 度 8 の環状イソマルトオリゴ糖の生産量が減少し、重合度1 0 以上の環状イソマルトメガ ロ糖の生産量が約 2 . 6 倍に増加するB c C I Ta s e 変異体を作製することに成功した(図 2)。

[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]

1.4 酵 素 の 立 体 構 造 情 報 が 得 ら れ 酵 素 反 応 機 構 が 解 明 さ れ た こ と で、 酵 素 の 機 能 向 上 の た めの分子改変が可能となり、イソマルトメガロ糖の大量生産、応用への道を拓いた。

2.B c C I Ta s eではC B M 3 5により、生産物の重合度が選択されていた。C B M 3 5の改変による、

生産物である環状糖の重合度の制御が可能となった。

(17)

[具体的データ]

図 1 デンプンからのイソマルトメガロ糖生産工程、および 4酵素の立体構造

酵素と糖鎖の複合体の構造から各酵素の反応メカニズムを解明した。

図 2 野生型 ( A )、変異体 ( B ) 酵素の環状イソマルトオリゴ、メガロ糖の生産量

全 体 と し て 約 2倍 に 環 状 糖 の 収 量 が 増 加 し、 重 合 度 1 0以 上 の 環 状 イ ソ マ ル ト メ ガ ロ 糖 の 生 産 量

は約2 . 6 倍となった。

[その他]

研究課題名:酵素の立体構造解析によるイソマルトメガロ糖認識機構の解明 中期計画課題コード:1 - 2 5     研究期間:2 0 0 9 ~2 0 1 3 年度

研究担当者:藤本瑞、門間充、舟根和美(食総研)、木村淳夫(北海道大)

発表論文等

1) Suzuki N, Kim YM, Fujimoto Z, Momma M, Okuyama M, Mori H, Funane K, Kimura A (2012) Structural elucidation of dextran degradation mechanism by Streptococcus mutans dextranase belonging to glycoside hydrolase family 66 The Journal of Biological Chemistry 287(24):19916-19926

2) Suzuki N, Fujimoto Z, Kim YM, Momma M, Kishine N, Suzuki R, Suzuki S, Kitamura S, Kobayashi M, Funane K, Kimura A (2014) Structural elucidation of the cyclization mechanism of α-1,6-glucan by Bacillus circulans T-3040 cycloisomaltooligosaccharide glucanotransferase The Journal of Biological Chemistry 289(17):12040-12051

(18)

知的貢献

[主な研究成果名]米粒の長さと重さに関わる新規遺伝子T G W 6 を発見

[ 要      約 ]インド型イネ・カサラスから、米粒を長くかつ重くする遺伝子 T G W 6 を 特 定 し た。 対 立 す る 日 本 晴 の 遺 伝 子 は オ ー キ シ ン 合 成 に 関 わ る 酵 素 タ ン パク質をコードしているが、カサラスの遺伝子は機能を失っており、オー キシンを介する抑制作用が働かないため、米粒が長くかつ重くなる。

[キ ー ワ ー ド ]収量、シンク、ソース、粒形、粒重

[担     当]生物研 植物科学研究領域 植物生産生理機能研究ユニット

農業生物先端ゲノム研究センター 生体分子研究ユニット

[連  絡  先]029-838-8381

       

[背景・ねらい]

 米粒の長さ(粒長)はイネの収量を決定する主要要因のひとつであるが、国内で栽培され ているほとんどの品種の収量性は、粒長等の粒(シンク)サイズではなく、粒への炭水化物 の 供 給 能 力( ソ ー ス 能 ) に 大 き く 依 存 し て お り、 粒 長 が 伸 び て も 必 ず し も 粒 の 重 さ( 粒 重 ) は増大しない。インディカ型イネ・カサラスより、シンクとソースで多義的に作用すること で粒長と粒重をともに増大させる遺伝子 T G W 6 を特定し、その機能解析を行った。

[成果の内容・特徴]

1.インドの在来品種カサラスから、粒長と粒重を増大させる非機能型遺伝子 T G W 6を特定 した。また、ジャポニカ型イネ・日本晴からこの遺伝子と対立する機能型 T G W 6遺伝子 も特定した。日本晴 T G W 6遺伝子は植物ホルモンであるオーキシン(インドール 3 -酢酸、

I A A) を 合 成 す る 新 規 の 酵 素 タ ン パ ク 質 を コ ー ド し て い た。 一 方、 カ サ ラ ス T G W 6遺 伝 子には塩基の欠失があり、機能を失っていた。

2.形 成 初 期 の 胚 乳 細 胞 で は、 細 胞 分 裂 が 一 時 的 に 停 止 し、 一 つ の 細 胞 中 に 多 数 の 核 を 含 む 多核体が形成される。多核体の形成期間の長さが、胚乳の細胞数を決定する。日本晴では、

T G W 6 により作られた I A Aが細胞分裂を促し、多核体形成期間を短縮させていた。その

結果、カサラス T G W 6遺伝子を持つものに比べ胚乳の細胞数が減少し、粒長が短く(シ ンクサイズが小さく)抑えられていた。

3.出 穂 前 に イ ネ の 茎 に 蓄 積 さ れ た 炭 水 化 物 は、 出 穂 後 に 発 達 中 の 粒( シ ン ク ) に 供 給 さ れ るが、日本晴 T G W 6遺伝子を持つと茎でのデンプン合成遺伝子の発現が低下し、炭水化 物 の 蓄 積 量 ひ い て は シ ン ク へ の 炭 水 化 物 供 給 量( ソ ー ス 能 ) が 半 減 し た。 ま た、 茎 で の デンプン合成遺伝子の発現を I A Aが抑制することから、日本晴では、T G W 6 により作ら

れた I A A がシンクに加えソースでも抑制的に作用し、粒が短くかつ軽くなることが示唆

された(図 1 上)。

4.カサラスT G W 6 遺伝子には塩基の欠失があるため、酵素タンパク質が作られず、I A Aが

合成されない。そのためシンクとソースの両器官でI A A による抑制が働かず、粒が長く、

かつ重くなると考えられた(図 1下)。

5.遺伝子の多様性解析の結果から、機能を欠失したカサラス型 T G W 6遺伝子はごく限られ た 系 統 に だ け に 存 在 す る こ と が 明 ら か に な っ た。 実 際、「 タ カ ナ リ 」 や「I R 6 4」 等 の 高 収 量 品 種 や、「 コ シ ヒ カ リ 」 等 の 近 代・ 現 代 の 栽 培 品 種 のT G W 6 遺 伝 子 は、 機 能 を 保 持 した日本晴型だった。カサラス T G W 6遺伝子をコシヒカリに導入した準同質遺伝子系統

(N I LT G W 6 3 3) で は、 粒 長 と 粒 重 が 有 意 に 増 加 し た( 図 2)。 ま た、 こ の 系 統 で は、 高 温においても粒数が低下せず、高温による登熟障害が起こりにくいこともわかった。

[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]

1.国内で現在栽培されている品種のほとんどは、カサラス型 T G W 6遺伝子を持たない。そ のため多くの栽培品種において、この遺伝子を利用した生産性の改良が期待される。

2.今 後、T G W 6 遺 伝 子 を 含 む カ サ ラ ス 由 来 の 染 色 体 領 域 を さ ら に 狭 め 導 入 し た コ シ ヒ カ リ

準同質遺伝子系統を作出し、育種母本として利用することを予定している。

(19)

[具体的データ]

図 1 オーキシン(I A A)を介した日本晴 T G W 6 遺伝子の粒長および粒重の抑制作用とカサラス

T G W 6遺伝子の作用機構を示すモデル

図2 カサラスT G W 6遺伝子を導入したコシヒカリ準同質遺伝子系統(N I LT G W 6 3 3)の粒長お よび粒重(千粒重)

* * *,統計的有意差 0 . 1 %。

[その他]

研究課題名:種子形に関与する遺伝子の解析

中期計画課題コード:2 - 11     研究期間:2 0 0 8 ~ 2 0 1 3 年度

研究担当者: 石丸健、廣津直樹、円由香、清水文一(東洋大)、宮川恒(京都大)、柏木孝幸、

氏家和広、加藤悦子 発表論文等

1) Ishimaru K, Hirotsu N, Madoka Y, Murakami N, Hara N, Onodera H, Kashiwagi T, Ujiie K, Shimizu B, Onishi A, Miyagawa H, Katoh E (2013) Loss of function of the IAA-glucose hydrolase gene TGW6 enhances rice grain weight and increases yield Nature Genetics 45(6):707-711

2) 石丸健、円由香、柏木孝幸、廣津直樹「穀物の種子を増大させる遺伝子、並びにその利用」特許第

5288608号

3) ライフサイエンス新着論文レビュー(http://first.lifesciencedb.jp/archives/7055#more-70)

(20)

知的貢献

[主な研究成果名]植物を病原菌から保護するバイオコントロール細菌の抗菌性制御因子の同定

[ 要      約 ]バ イ オ コ ン ト ロ ー ル 細 菌 の 植 物 保 護 能 力 に 関 わ る 抗 菌 性 物 質 の 生 産 制 御 因子として、グアノシン 3’, 5’- ビス二リン酸(p p G p p)と L o n プロテアー ゼを同定した。p p G p pは、抗菌性物質の生産を正に、L o n プロテアーゼ は負に制御する。

[キ ー ワ ー ド ]植物保護、バイオコントロール細菌、抗菌性、土壌病害、環境保全型農業

[担     当]生物研 植物科学研究領域 植物・微生物間相互作用研究ユニット 農業生物先端ゲノム研究センター 生体分子研究ユニット

[連  絡  先]029-838-7005

       

[背景・ねらい]

 近年、環境への配慮などを背景に、国内外を問わず微生物農薬に対する期待が高まってい る。しかし微生物農薬は、化学農薬と比較して効果が持続しないなど生物ならではの問題点 も多く、普及率の向上を目指すためには用いる微生物の性質について理解を深める必要があ る。 植 物 を 病 原 菌 か ら 保 護 す る 効 果 を も つ 細 菌 は「 バ イ オ コ ン ト ロ ー ル 細 菌 」 と よ ば れ る。

現在知られているバイオコントロール細菌は自然界からのスクリーニングによって選抜され てきたものであり、なぜ植物保護能力を発揮するのかについては不明な点が多い。本研究は、

土壌病害を抑制するバイオコントロール細菌のモデル系統である P s e u d o m o n a s f l u o re s c e n s

C H A 0 株を対象に、本細菌が二次代謝産物として生産する抗菌性物質の生産制御機構を解明

し、本細菌による植物保護を効率よく行うために必要な基礎的知見を得るとともに、それら を実際の作物保護へ応用することを目的とする。

[成果の内容・特徴]

1.P. f l u o r e s c e n s C H A 0株の抗菌性物質の生産は、G a c S / G a c A タンパク質とその下流の小 分 子R N A に よ り 調 節 さ れ る( 図 1)。 こ の シ グ ナ ル 伝 達 系 に 関 与 す る 菌 体 内 の 物 質 を 探 索するため、g a c A変異株とその親株である野生型株のメタボローム解析を行い、その結 果 を 比 較 し た。 野 生 型 株 と 変 異 株 の 間 で 蓄 積 量 に 違 い の み ら れ た 物 質 の う ち、 最 も 差 が 顕 著 で あ っ た の は グ ア ノ シ ン3’, 5’- ビ ス 二 リ ン 酸(p p G p p) で あ っ た。p p G p p は 細 菌 のシグナル伝達物質の一種であることから、p p G p p の P. f l u o r e s c e n s C H A 0 株の抗菌性 への関与について検討した。p p G p p の合成や分解に関わる遺伝子の欠損変異株を用いて 解析した結果、p p G p p は当該シグナル伝達系を正に制御しており、さらにp p G p p の蓄積 はシグナル伝達系によって負に制御されていることが示唆された。

2.p p G p p を 合 成 で き な い 変 異 株 と 野 生 型 株 の 性 質 を 比 較 し た と こ ろ、 枯 草 菌(B a c i l l u s s u b t i l i s) に 対 す る 抗 菌 性( 図 2、 左 )、 土 壌 病 害 か ら の 植 物 保 護 能 力、 根 圏 へ の 定 着 能 のいずれもが、野生型株に比べて変異株の方で低かった。このことから、p p G p p は本細 菌によるバイオコントロールにおいて重要な役割を果たしていることが示唆された。

3.小 分 子 R N A の 量 が 増 え、 翻 訳 リ プ レ ッ サ ー と 結 合 す る と、 結 果 と し て 抗 菌 性 物 質 の 生 産 が 上 昇 す る と 考 え ら れ る( 図 1)。 そ こ で、 小 分 子 R N A の 発 現 が 上 昇 す る 変 異 株 を 選 抜し解析したところ、AT P 依存型プロテアーゼである L o n をコードする遺伝子に変異が 生 じ て い た。L o n 欠 損 変 異 株(∆ l o n) で は、G a c A タ ン パ ク 質 の 蓄 積 レ ベ ル が 野 生 型 株 より高く、L o n はシグナル伝達系を負に制御する因子であると考えられた。

4.枯草菌および植物病原糸状菌 F u s a r i u m o x y s p o r u m のいずれに対する抗菌性も、∆lon 株 の方が野生型株より強かった(図 2、右)。

[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]

1.抗菌性物質生産のシグナル伝達系の制御因子の改変は抗菌性を高める上で有効である。

2.実 際 の 植 物 保 護 効 果 に は、 抗 菌 性 だ け で な く 根 圏 へ の 定 着 能 な ど 他 の 要 素 も 影 響 す る た め、 そ れ ら も 考 慮 す る 必 要 が あ る。 ま た、 植 物 保 護 効 果 を 高 め る た め に は、 当 該 シ グ ナ ル伝達系に正に作用する物質を土壌に添加する方法も有効であると期待される。

(21)

[具体的データ]

図 1 P. f l u o re s c e n s C H A 0株の抗菌性物質の発現制御機構

1 ) G a c S / G a c A タンパク質が活性化、2 ) その下流の小分子R N A(R s m X / Y / Z)の発現量が増加、3 )

R s m X / Y / Z が抗菌性物質の合成酵素をコードする m R N Aの翻訳リプレッサー(青丸)に結合、4 )

抗菌性物質合成酵素の翻訳がオンになる、5 ) 抗菌性物質が産生され、菌体外に放出。

G a c はG l o b a l a c t i v a t o r、R s m はR e g u l a t o r o f s e c o n d a r y m e t a b o l i s m の略。

図 2 P. f l u o re s c e n s 変異株の抗菌性

( 左 ) 枯 草 菌 に 対 す る 抗 菌 性。P. f l u o r e s c e n s の 各 菌 株 の 周 辺 に 生 じ た 阻 止 円 の 大 き さ で 抗 菌 性 を 評 価 す る。r e l A は p p G p p 合 成 に、s p o T は p p G p p の 合 成 と 分 解 に 関 わ る 遺 伝 子 で、 両 者 が 共 に 欠 損 す る と(∆ re l A / s p o T)、 抗 菌 性 が 野 生 型 株 よ り 弱 ま る。G a c A欠 損 変 異 株(∆ g a c A) で は 抗菌性が完全に失われる。

(右)植物病原糸状菌F u s a r i u m o x y s p o r u m に対する抗菌性。L o nプロテアーゼ欠損変異株(∆lon) は、野生型株より強く、菌の生育を阻止する。

[その他]

研究課題名:バイオコントロール因子の発現制御機構の解明

中期計画課題コード:2 - 2 1     研究期間:2 0 1 0 ~2 0 1 3 年度

研究担当者: 竹内香純、山田小須弥(筑波大)、D i e t e r H a a s(ローザンヌ大)、土屋渉、

野田なほみ、鈴木倫太郎、山崎俊正 発表論文等

1) Takeuchi K, Yamada K, Haas D (2012) ppGpp controlled by the Gac/Rsm regulatory pathway sustains biocontrol activity in Pseudomonas fluorescens CHA0 Molecular Plant-Microbe Interactions 25(11):1440- 1449

2) Takeuchi K, Tsuchiya W, Noda N, Suzuki R, Yamazaki T, Haas D (2014) Lon protease negatively affects GacA protein stability and expression of the Gac/Rsm signal transduction pathway in Pseudomonas protegens Environmental Microbiology in press. (Published Online):Early View DOI: 10.1111/1462-2920.12394

(22)

知的貢献

[主な研究成果名]穂いもち抵抗性遺伝子P b 1 による抵抗性機構の解明

[ 要      約 ]いもち病ほ場抵抗性遺伝子 P b 1 の作用機構を解明した。病害抵抗性に主 要 な 役 割 を 担 う 転 写 因 子 W R K Y 4 5 に P b 1 タ ン パ ク 質 が 結 合 す る と

W R K Y 4 5 の分解が抑制され、その結果、強い抵抗性が誘導される。P b 1

による抵抗性が崩壊しにくい理由も説明できた。

[キ ー ワ ー ド ]イネ、いもち病、ほ場抵抗性、W R K Y 4 5

[担     当]生物研 遺伝子組換え研究センター 耐病性作物研究開発ユニット

[連  絡  先]029-838-8383

       

[背景・ねらい]

 イネの重要病害であるいもち病の防除のため、我が国では年間約 2 2 0 億円にも達する農薬 が使用されている。そこで、イネの品種改良においては、いもち病抵抗性品種の作出が常に 重要な課題であり、これまで複数の抵抗性遺伝子が特定されてきた。しかしそれらの抵抗性 遺伝子の多くは、一部のいもち病菌系統にしか効果がなく、また数年で抵抗性が崩壊すると い う 問 題 が あ っ た。 穂 い も ち 抵 抗 性 遺 伝 子 P b 1 は、 こ れ ま で 崩 壊 の 実 例 の な い 抵 抗 性 遺 伝 子として育種利用されてきたが、崩壊しにくい理由はわかっていなかった。そのため、将来 に わ た っ て 安 心 し て P b 1 を 利 用 す る た め に も、 そ の 作 用 機 構 を 解 明 す る 必 要 が あ っ た。 本 研究では、いもち病抵抗性における機能について多くの知見が蓄積してきた W R K Y 4 5 との 関連に着目し、P b 1 によるいもち病抵抗性の分子機構の解明を試みた。

[成果の内容・特徴]

1.真性抵抗性遺伝子産物と同様の C C - N B S - L R R 構造を有する P b 1 タンパク質が、イネの 誘 導 抵 抗 性 に お い て 主 要 な 役 割 を 担 う 転 写 因 子 W R K Y 4 5 と 結 合 す る こ と を 明 ら か に し た(図 1)。

2.P b 1遺伝子を持つが W R K Y 4 5 遺伝子の発現を抑制したイネの解析結果から、P b 1 遺伝子

による抵抗性が、W R K Y 4 5 を介して発揮されていることがわかった(図 2)。

3.細 胞 核 か ら 強 制 排 出 さ せ る ア ミ ノ 酸 配 列 を P b 1タ ン パ ク 質 に 付 加 す る と、P b 1 タ ン パ ク 質 に よ る 抵 抗 性 が 失 わ れ る こ と か ら、P b 1タ ン パ ク 質 は 細 胞 核 で 機 能 す る こ と が わ か っ た(図 3)。

4.これまでに、W R K Y 4 5 タンパク質は合成直後にプロテアソームによって分解されること が わ か っ て い た が、 今 回、P b 1 タ ン パ ク 質 が 結 合 す る と W R K Y 4 5 タ ン パ ク 質 の 分 解 が 抑えられることがわかった(図 4 A)。

5.これらの結果から、P b 1遺伝子をもたないイネでは、W R K Y 4 5 の分解によって抵抗性反 応 が 十 分 誘 導 さ れ な い の に 対 し、P b 1 遺 伝 子 を 持 つ イ ネ で は、P b 1 タ ン パ ク 質 の 結 合 に よ り W R K Y 4 5 タ ン パ ク 質 の 分 解 が 抑 制 さ れ、 そ の 結 果、 強 い 抵 抗 性 反 応 が 誘 導 さ れ る ことが明らかになった(図 4 B)。

6.本 研 究 に よ り、P b 1 遺 伝 子 の 抵 抗 性 発 揮 が W R K Y 4 5 の 分 解 抑 制 を 介 し て い る こ と が わ

か り、P b 1 遺 伝 子 が 抵 抗 性 を 発 揮 す る 一 連 の 仕 組 み が 解 明 さ れ た。 そ の 結 果、P b 1 遺 伝

子 に よ る 抵 抗 性 が い も ち 病 菌 系 統 に 非 特 異 的 に 有 効 で 崩 壊 し に く い 理 由 が 明 ら か に な っ た。

[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]

1.P b 1 遺 伝 子 に よ る い も ち 病 抵 抗 性 の 仕 組 み の 解 明 に よ り、 将 来 の 抵 抗 性 崩 壊 の 可 能 性 が

低 い こ と が わ か っ た。 安 心 し て 利 用 で き る こ と か ら、P b 1 遺 伝 子 の 普 及 が さ ら に 進 む と 期待される。

2.P b 1 タ ン パ ク 質 の W R K Y 4 5 に 対 す る 結 合 力 を 高 め、 育 種 に 利 用 し て「 高 い 病 害 抵 抗 性 を安定的に発揮するイネ」を開発できると期待される。

(23)

[具体的データ]

図 1  穂 い も ち 抵 抗 性 タ ン パ ク 質 P b 1の 構 造と W R K Y 4 5結合性

P b 1 タ ン パ ク 質 は 多 く の 真 性 抵 抗 性 タ ン パ ク質と同じ c o i l e d - c o i l - n u c l e o t i d e - b i n d i n g s i t e - l e u c i n e - r i c h r e p e a t(C C - N B S - L R R)

構 造 を も ち、 酵 母 2ハ イ ブ リ ッ ド ア ッ セ イ

において W R K Y 4 5と結合することが示され

た。

図 3 P b 1は細胞核内で機能を発揮する

核 排 出 シ グ ナ ル の 付 加 に よ り 強 制 的 に 核 か ら 排 出 さ れ る P b 1を 過 剰 発 現 し て も 強 いいもち病抵抗性を発揮しない。

図 2 P b 1 に よ る い も ち 病 抵 抗 性 は

W R K Y 4 5に依存している

P b 1 の 過 剰 発 現(P b 1 - o x) と 同 時 に W R K Y 4 5の 発 現 を 抑 制(W R K Y 4 5 - k d) し た イ ネ で は、P b 1の 過 剰 発 現 に よ る い もち病抵抗性を発揮しない。

図 4 P b 1と の 結 合 に よ り W R K Y 4 5が プ ロ テ ア ソーム分解から保護される

( A ) コ ム ギ 無 細 胞 抽 出 液 中 で 一 定 量 の m y c - W R K Y 4 5と異なる量の P b 1 ( Q u a d ) - H Aを共発現 し、 免 疫 共 沈 降 し た。P b 1 の 増 加 と と も に 共 沈 降 する m y c - W R K Y 4 5が増加した。

( B ) P b 1 の 結 合 に よ る W R K Y 4 5 の 分 解 抑 制 に よって抵抗性が増強することを表すモデル。

[その他]

研究課題名:いもち病圃場抵抗性遺伝子 P b 1 の抵抗性発現機構の解析 中期計画課題コード:2 - 2 2     研究期間:2 0 1 0 ~2 0 1 3 年度

研究担当者:井上晴彦、林長生、松下茜、X i n q i o n g L i u , 中山明、菅野正治、姜昌杰、高辻 発表論文等:博志

1) Inoue H, Hayashi N, Matsushita A, Liu X, Nakayama A, Sugano S, Jiang CJ, Takatsuji H (2013) Blast resistance of CC-NB-LRR protein Pb1 is mediated by WRKY45 through protein-protein interaction Proceedings of the National Academy of Sciences USA 110(23):9577-9582

(24)

知的貢献

[主な研究成果名]カイコ完全長c DNA 解読による遺伝子構造決定とデータベースによる公開

[ 要      約 ]カイコの 2 1種類の完全長 c D N Aライブラリを作製して11 , 1 0 4 クローン に つ い て 塩 基 配 列 を 決 定 し た。 得 ら れ た 配 列 情 報 を 用 い た 解 析 に よ り、

カイコの多くの遺伝子の正確な構造を明らかにした。完全長 c D N Aの配 列 情 報 は ア ノ テ ー シ ョ ン 情 報 と 共 に デ ー タ ベ ー ス 上 で 国 内 外 の 研 究 者 に 公開した。

[キ ー ワ ー ド ]カイコ、遺伝子、ゲノム

[担     当]生物研 農業生物先端ゲノム研究センター 昆虫ゲノム研究ユニット

[連  絡  先]029-838-6129

       

[背景・ねらい]

 カイコは絹糸を作る産業上有用な昆虫であり、また農作物や森林に多大な被害をもたらす 害虫が数多く含まれる「チョウ目昆虫」のモデル研究素材である。これまでに、生物研と中 国の西南大学が中心となりゲノム配列を解読したが、ゲノム情報を創農薬等の産業に活用す る た め に は、 遺 伝 子 の ゲ ノ ム 上 の 位 置・ 構 造 の 正 確 な 決 定 が 必 要 と な る。「 完 全 長c D N A」

と は、 遺 伝 子 か ら 転 写 さ れ た メ ッ セ ン ジ ャ ー R N A の 完 全 な コ ピ ー の こ と で、 タ ン パ ク 質 を 作 る た め の 完 全 な 情 報 を 備 え て お り、 そ の 塩 基 配 列 は 遺 伝 子 構 造 や 機 能 の 解 明 に 重 要 で あ る。 カ イ コ ゲ ノ ム 情 報 の 産 業 利 用 を 加 速 さ せ る た め、 完 全 長c D N A の 塩 基 配 列 解 読、 及 び 配列情報のデータベースによる公開を行った。

[成果の内容・特徴]

1.カイコの 1 4 の組織に由来する2 1 種類の完全長 c D N Aライブラリを作製し、これらから 合 計 約 2 5 万 個 の 完 全 長 c D N A を 収 集 し た。 そ の 中 か ら 重 複 し て い る も の を 除 い た

11 , 1 0 4 個の c D N Aを選抜し、塩基配列を決定した(図 1)。

2.今 回 解 読 さ れ た カ イ コ 完 全 長 c D N A と、 こ れ ま で に 蓄 積 し て き た 4 0 万 個 以 上 の カ イ コ の c D N A、 あ る い は 予 測 遺 伝 子 な ど の 情 報 を 統 合 し て 解 析 し た と こ ろ、 カ イ コ の 総 遺 伝 子 数 は こ れ ま で の 推 定 値 で あ る 約 1 4 , 0 0 0 よ り も 多 く、1 7 , 0 0 0 以 上 あ る こ と が 明 ら か と なった。

3.カ イ コ と、 オ オ カ バ マ ダ ラ な ど ゲ ノ ム 解 読 が 完 了 し た他 の チ ョ ウ 目 昆 虫 と の 比 較 ゲ ノ ム 解 析 に よ り、 生 体 防 御 関 連 遺 伝 子 や 構 造 遺 伝 子 な ど、 カ イ コ 特 異 的 な 遺 伝 子 グ ル ー プ の 存在が明らかとなった。

4.今回解読されたカイコ完全長 c D N Aの情報は、ゲノム情報と統合して「カイコゲノム情 報データベース K A I K O b a s e (h t t p : / / s g p . d n a . a f f r c . g o . j p / K A I K O b a s e /)」として公開し、

国内外の全研究者が利用できる体制を整備した(図 2)。また完全長c D N Aを、ゲノムリ ソースとして希望する研究者に配布できる体制を整備した。

[成果の活用上の留意点、波及効果、今後の展望等]

1.カ イ コ の も つ 多 く の 遺 伝 子 の 機 能 解 明 が 進 む こ と に よ り、 有 用 遺 伝 子 の 探 索 に 大 き く 貢 献すると期待される。特に、多くの農業害虫はチョウ目に属することから、本成果は、チョ ウ 目 害 虫 の 農 薬 抵 抗 性 原 因 遺 伝 子 の 特 定 や、 チ ョ ウ 目 害 虫 に 選 択 的 に 効 く 新 し い 農 薬 の 開発につながる標的遺伝子の特定などに貢献すると期待される。

2.完全長 c D N A に より遺伝子構造が正確に決定されることにより、遺伝子機能解析の効率

化 が 進 み、 カ イ コ を 利 用 し た 有 用 物 質 生 産 性 の 向 上 に 必 要 な 遺 伝 子 の 同 定 が 加 速 す る と 期 待 さ れ る。 さ ら に、 カ イ コ の 糖 鎖 修 飾 に 関 わ る 遺 伝 子 を 特 定 し て ヒ ト 型 の 修 飾 が 行 わ れ る よ う 改 変 す る こ と に よ り、 遺 伝 子 組 換 え カ イ コ を 用 い た 医 薬 品 等 の 品 質 や 効 果 の 向 上も期待される。

(25)

[具体的データ]

図 1 完全長 c D N Aライブラリの作製と完全長 c D N A塩基配列の解読の概要

カイコ 1 4組織に由来する2 1 の完全長 c D N Aライブラリを作製した。c D N Aライブラリより約2 5 万 の 末 端 配 列(E S T) を 解 読 し、 得 ら れ た 配 列 を 計 算 機 に よ り ク ラ ス タ リ ン グ し た。 各 ク ラ ス タ から代表となるクローンを選抜してプライマー・ウォーキング法で全長を解読した。

図2 カイコゲノム情報データベースによる完全長 c D N Aの公開

解 読 し た 完 全 長c D N A 塩 基 配 列 情 報 は、 カ イ コ ゲ ノ ム 情 報 デ ー タ ベ ー ス K A I K O b a s e(h t t p : / / s g p . d n a . a f f r c . g o . j p / K A I K O b a s e /)にて公開し、内外の研究者が活用出来るように整備した。

図 は ゲ ノ ム ブ ラ ウ ザ 上 で の 表 示 例。 完 全 長c D N A に よ り、 こ れ ま で の 予 測 遺 伝 子 や E S T で は 決 定出来なかった、U T Rを含めた完全な遺伝子構造が明らかとなっている。

[その他]

研究課題名:カイコゲノム情報の高度化

中期計画課題コード:1 - 2 2、1 - 2 1  研究期間:2 0 1 0 年度~ 2 0 1 3 年度

研究担当者: 末 次 克 行、 門 野 敬 子、 上 樂 明 也、 山 本 公 子、 二 橋 亮( 産 総 研 )、 三 田 和 英( 西 南大)、嶋田透(東京大)

発表論文等

1) Suetsugu Y, Futahashi R, Kanamori H, Kadono-Okuda K, Sasanuma S, Narukawa J, Ajimura M, Jouraku A, Namiki N, Shimomura M, Sezutsu H, Osanai-Futahashi M, Suzuki M.G, Daimon T, Shinoda T, Taniai K, Asaoka K, Niwa R, Kawaoka S, Katsuma S, Tamura T, Noda H, Kasahara M, Sugano S, Suzuki Y, Fujiwara H, Kataoka H, Arunkumar K.P, Tomar A, Nagaraju J, Goldsmith M.R, Feng Q, Xia Q, Yamamoto K, Shimada T, Mita K (2013) Large scale full-Length cDNA sequencing reveals a unique genomic landscape in a lepidopteran model insect, Bombyx mori G3: Genes, Genomes, Genetics 3(9):1481-1492

図 4  Tc 8 1 細胞を用いた J H シグナル経路の解析

参照

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