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幼児期における言語刺激の呈示タイミングが視覚刺激への名称付与に及ぼす影響 [ PDF

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Academic year: 2021

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問題と目的 私たちがモノ(object)の名前を学ぶとき,どのよう に特定の言葉(word form)がその特定のモノの名前で あると判断するのだろうか。一般的に,名称と指示対象 で あ る モ ノ と の 間 に あ る 関 係 は 恣 意 的 で あ る (de Sassule, 1983)。私たちはそのような無意味で恣意的な 関係を,何を手がかりにして読みとり, その言葉をその モノの名前と判断し,名称付与を行っているのか。 その関係を見出す際に生じる状況は,「ギャバガイ問 題(Quine. 1960)」で示されるように、指示の不確定性 がある。この問題については多くの研究で指摘され,検 証されて来た。 それでは,乳児・幼児についてはどのように獲得・判 断するようになるのだろうか。先行研究より、16 ヶ月か ら 18 か月の間に,名詞を文法枠を手がかりに対応づけ ることができるようになる(Ohtake & Haryu, 2014) ことなど,言語獲得に必要なあらゆる手がかりを乳児期 にすでに獲得している(あるいは生得的制約の可能性も ある)。

言葉とモノの結びつきに関して,大人はモノ,18 ヶ月 児は言葉を優先することが示された(Zamuner, Fais, & Werker, 2014)。語彙学習において,子どもと大人では 構成要素に対する比重のかけ方が異なることから,子ど もと大人では呈示順序やタイミングが言葉とモノの結び つきの判断に及ぼす効果も異なる可能性がある。 語彙学習の研究に用いられるパラダイムの中には,初 めにモノがあり,それについて「○○だよ」」という働き かけをするものが多く見られる。すなわち,名称とされ る音情報とその指示対象であるモノが同時に呈示されて いる状況である。しかし,日常生活においては,モノの 名前は様々なタイミングで発せられるため,時間軸に絞 ると,名前(言語)とモノが,知覚者にとって同時に知 覚可能な範囲にない状況もあり得る。指示対象と音情報 に時間差が存在する状況にも関わらず,私たちは名前と 指示対象を結び付けることができる。このように「時間」 という要素は常時存在するものであり,指示対象判断(名 称付与)に関わってくるのではないか。 秋吉・橋彌(2014)は成人を対象に,強制 2 択で選択 するパラダイムを用い,呈示時間差に伴って言語刺激の 関連付け対象が変化することを示した。言語獲得の途上 である幼児期においても,成人と同様のことがいえるの だろうか。言語獲得に関して,大人と子どもの方略は必 ずしも一緒とは限らない可能性もある。 本研究では,名前とモノの関係を見出す手がかりの一 つとして,タイミングがどのような働きをしているかを 検証するため,言語刺激の呈示タイミングが視覚刺激の 名称付与に及ぼす影響を検討する。本研究では予期的な 視線を計測するパラダイムを実施することで、どちらの 名前と思ったかを検証した。 方法 被験者 幼児 4-5 歳児(平均年齢 4 歳 5 ヶ月 14 日,3 歳 8 ヶ月 ―5 歳 3 ヶ月 25 日)15 名(男児 5 名,女児 10 名)が 最終分析対象になった。全3 セッションのうち, 1 セッ ション以上を完遂した被験児を分析対象とした。被験児 はすべて日本に住む日本語話者の子どもたちであった。 大人 大人(平均年齢 21.25 歳)の男女 12 名(男性 5 名,女性7 名)が分析対象になった。日本語を母語とす る被験者を分析対象とし,視線計測装置による計測で眼 鏡の影響を大きく受けた被験者(2 名)は分析から外し た。 装置 刺激動画は 23 インチの液晶画面で提示され,音声は 画面の後ろにあるスピーカー(TIME DOMAIN mini) で流された。ビデオカメラおよびマイクで調査中の様子,

幼児期における言語刺激の呈示タイミングが視覚刺激への名称付与に及ぼす影響

キーワード:語彙獲得,タイミング,名称付与,幼児,予測的注視

行動システム専攻 秋吉 由佳

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アイトラッカー(Tobii TX 300)で視線の動きを記録し た。刺激の呈示にはTobii Studio™ 3.2.2.130 を用いた。 視覚刺激(図形) 刺激として用いた図形は単純な形の無意味図形で,す べて371×371 pixel の範囲に入るサイズであった。図形 の形は42 種で,色は 8 色が用いられた。各試行で対示 される図形の色は異なるものを用いた。マスクには,592 ×468 pixel で作成された。 言語刺激(名称・音声) 無連想価分類表(梅本・森川・伊吹, 1995)のうち,無連 想価の高いものから,1 モーラ目の音に重なりがないよ うに21 種類の 2 モーラの語を選出した。呈示フェーズ では音声はこれらの2 モーラの無意味語が単独で,同一 の女性の声で効果的なアクセントをつけずに平坦に読ま れた約1000ms の音声を言語刺激として用いた。テスト フェーズでは2 モーラの無意味語について「○○が動く よ」と読み上げる音声を用いた(約1300ms)。これらの 音声はすべて同一の女性の声で収録されたものであった。 被験者が座る位置で計測したこれらの音声刺激の音圧は 64.8db であった。 刺激動画 動画は1280×1024 pixel の解像度で作成され,背景は 薄いグレーであった。実験は,呈示フェーズ,テストフ ェーズからなる試行で構成されていた。各試行の前には 中央に注視点が配置された色付きの画面が1000ms 間呈 示された。 呈示フェーズでは,2 つの図形と 1 つの言語(音声) が呈示された。1 つ目の図形(図形 1)と 2 つ目の図形 (図形2)は画面の中央にそれぞれ 2 秒ずつ呈示され, 前後に1 秒,間に 2 秒のマスク画像が呈示されるインタ ーバルが設けられていた。音声は1 つ目の図形開始から 2 つ目の図形の呈示終了までの間にそれぞれ 1 回ずつ呈 示された。 テストフェーズでは,呈示フェーズで登場した2 つの 図形が左右に呈示された。図形1 が左,図形 2 が右と呈 示の位置は固定した。呈示開始から500ms 後,『○○が 動くよ』という音声が流れた。音声が流れている間,画 面の中央には注視点が呈示され,終了と同時に消えた。 両図形は静止したままで待機したのち(1000ms または 1500ms 間),条件 1・2 では図形 1,条件 6・7 では図形 2 が動いた(500ms または 1000ms)。一方,条件 3・4・ 5 では音声が流れ終わった後,続けて 2000ms 間 2 つの 図形は静止した状態で呈示された。 未知物試行の前に,より明確なトレーニングとして, 既知物で構成された試行を実施した。クマとアメ(飴)の イラスト,「クマ」の音声で条件 1 のスケジュールで構 成された既知物試行 1 と,イエとカサのイラスト,「カ サ」の音声で条件7 のスケジュールで構成された既知物 試行2 を実施した。呈示順序は組み合わせパターン 2 種 で入れ換えた。 各条件1 試行ずつを組み合わせた7試行を 1 セッショ ンとし,3 セッション連続で行った。セッション間では, うさぎのキャラクターが登場し,『がんばって!』『あと ちょっとだよ。』と話しかけ,励ます場面を挟んだ。 条件 音声の呈示タイミングは7 条件あった(Figure 1)。音 声の呈示開始は,条件1・2 では図形1の呈示と重なり, 条件6・7 では図形2の呈示と重なるようになっていた。 条件3・4・5 では音声は全て図形 1 と図形 2 の間のイン ターバル内で呈示が開始し,終了した。成人においては, 条件1・2 では図形 1 に,条件 6・7 では図形 2 に名称の 結びつけが起こりやすいことが確認されている(秋吉・橋 彌, 2014)ことから,これらの条件ではトレーニングとし て,「動くよ」という音声の後に,結びつきが起きると考 えられる図形が動く映像を呈示した。条件3・4・5 では, どちらに結びつきが起こるかを検証するため,両図形は 静止したまま呈示された。 Figure 1 呈示タイミング条件 組み合わせ 図形の形・色,音声,条件,呈示順序,トレーニング フェーズにおける待機時間の組み合わせは2 パターン作

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成し,すべて疑似ランダムに割り当て,すべての要素 (形・色・音声・条件)について重複するものはなかっ た。トレーニングフェーズの呈示スケジュールは,両パ ターン待機時間・アニメーション(動き)の時間を入れ 替えて作成した。ただし,トレーニング条件を必ず各セ ッションの初めに2 試行配置し,他はテスト条件ばかり が続かないように決定した。 手続き 実験は九州大学馬出キャンパスにある調査室で行っ た。実験者2 名により実施された。子どもたちは調査室 に慣れるまで,実験者らと遊び,慣れた様子が見られる ようになると,実験者の1 人が『クイズがあるんだけど, 一緒にやってくれるかな?テレビを見ながらするクイズ だよ。』などと言い,カーテンで囲われた調査スペース (200×160 cm)まで移動した。被験児はモニターとス ピーカー,マイクが設置されたテーブルの前にあるイス または保護者の膝の上に座り,動画を見た。実験者は被 験児の斜め後ろまたは横に待機し,様子を見守った。長 時間視線が外れたときなどには必要に応じて声をかけ, 課題に集中するように働きかけた。もう一人の実験者は 調査スペースの外の見えない場所で機材の操作を行った。 はじめにウサギのキャラクターが登場し,クイズ(実験) の説明をした。続けて既知物試行,未知物試行へ移った。 分析 HAD(清水・村山・大坊, 2006)を用いて行った。 AOI設定 呈示フェーズ 画面全体(1280×1024 pixel)を AOI に設 定し,各図形(図形1・2)が画面に呈示される各 2000ms 間について検討した。1 つ目の図形(図形 1)と 2 つ目の図 形(図形 2)が呈示されている間にどちらか一方でも,注視 時間が0ms の試行を分析から外した。 テストフェーズ 座標(341, 513)を中心とする 464× 698 ピクセルの範囲を AOI に設定した。(Figure 4)。図 形の外周と画面上下、および注視点の中間の座標をとっ て設定した。 Time Window 条件 1・2・6・7 においては図形が動く 直前500ms 間,条件 3・4・5 においては,注視点が消 えた時点から,1500ms 後から 500ms 間を計測した (Figure 2)

Figure 2 AOI の Time Window

結果 呈示フェーズ 図形1・2 のうち,どちらか一方でも注視時間が 0ms, すなわち全く見ていなかった試行(25 試行)は分析対象 外とし,そのような試行が4 試行以上あったセッション (4 セッション)は分析から外した。また呈示時に音声 がひどく乱れた試行(1 試行)は分析から外した。 テストフェーズにおいて,両図形とも0ms の試行は分 析対象外とし,呈示フェーズで分析対象外の試行と合わ せ,全7 試行中 4 試行以上あったセッションは分析から 外した。 テストフェーズ 図形1・2 の総注視時間に対する図形 1 の注視時間の割 合を算出し,1 標本t検定でチャンスレベルと比較した。 大人 条件1・2・7 において,チャンスレベルと有意な 差が見られた(条件1:t(11) = 2.450, p = .032,条件 2: t(11) = 3.715, p = .003,条件 7:t(11) = 5.230, p < .001)。 条件1・2 は図形 1 に,条件 7 は図形 2 をより長い時間 見ていた。条件4・6 では図形 2 を長くみる傾向が見ら れた(条件4:t(9) = 1.926, p = .86,条件 6:t(10) = 1.962, p < .078)が,条件 3・5 では有意差はみられなかった(条 件3:(10) = 0.702, p = .499,条件 5:t(9) = .096, p = .926)。 Figure 3 大人における図形 1 の注視時間の割合

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幼児 条件1・2・7 でチャンスレベルと有意差が見られ た(条件1:t(13) = 2.346, p = .036,条件 2:t(13) = 3.007, p = .010,条件 7:t(13) = 4.171, p = .001)。条件 1・2 は図形1 を,条件 4・7 は図形 2 をより長い時間注視し た。他の条件ではチャンスレベルとの差は見られなかっ た(条件3:t(14) = .756, p = .462,条件 4:t(13) = .078, p = .939,条件 6:t(13) = 1.571, p = .140)。 Figure 4 幼児における図形 1 の注視時間の割合 考察 大人・幼児両群において,条件 1・6 において呈示タ イミングの重なりのある図形を有意に長く見ていること から,言葉とモノの結びつけには呈示タイミングの重な りが重要であることが示唆された。また,両群において 条件2 で有意に,さらに大人群においては条件 5 で同様 の傾向がみられたが,先行研究(秋吉・橋彌, 2014)で 結びつけがみられた呈示タイミングが連続している条件 を含む,呈示タイミングの重なりのない条件では有意な 差が見られなかった。従って,音情報が完全に重なった 場合は有意に音情報が重なったものの図形の名前だと判 断されたが,半分しか重なっていないという曖昧な場合 には判断が明確には下されなかったことが示された。 本研究の結果からは,大人・幼児両群において判断の 傾向の明確な違いは見られなかった。本研究で用いた注 視時間は最終的な判断と全く同じものではないことは否 めず,検討段階についての指標である可能性もある。し かし,予期注視を利用した本研究のパラダイムでは,よ り幼い子どもでの検証を可能にし,現実の言語獲得にお ける状況に近い場面を設定することが可能になった。 言語獲得の過程では,品詞の違う言葉も同時に獲得し なければならない。日本語を母語とする幼児における研 究では,名詞よりも動詞に結びつけやすい(Imai, Haryu, & Okada, 2005)ことや,動いているモノに対するラベ リング課題において,16-18 ヶ月の間に文法枠を手がか りに,名詞をモノに対応づけることができるようになる (Ohtake & Haryu, 2014)ことも報告されており,単 純に呈示タイミングという要素だけでなく,品詞や動作 など他の要素との兼ね合いについても検討の必要がある。 本研究のパラダイムは、先行研究でみられた名称の指 示対象についての最終的な判断をそのまま反映するもの ではなかったが,最終判断とその過程に関する洞察を得 られた。 主要引用文献

Imai M., Haryu E., & Okada H. (2005) Mapping Novel Nouns and Verbs Onto Dynamic Action Events: Are Verb Meanings Easier to Learn Than Noun Meanings for Japanese Children? Child Development 76(2) pp.340-355.

Ohtake Y. & Haryu E. (2014) 16- and 18-month-olds’s word leraning using noun syntactic information. Human Developmental Research. 28. pp.41-50.

Quine W. V. O.(1960) Words and object. Cambridge University Press. (大出晃・宮館恵 訳(1984).「ことば と対象」. 東京:勁草書房.)

Zamuner T. S., Fais L., & Werker J. F. (2014) Infants track word forms in early word-object associations. Developmental Science 17(4). pp.481-491. 秋吉由佳・橋彌和秀 (2014) 視覚・言語刺激の提示の タイミング・時間差が記銘成績に与える影響. ヒューマ ンコミュニケーション基礎研究会(HCS)2 月研究会 2 月1・2 日. 梅本堯夫・森川弥寿雄・伊吹昌夫 (1955) 清音 2 字音 節 の 無 連 想 価 お よ び 有 意 味 度. 心 理 学 研 究 . 26(3) pp.128-155. 清水裕士・村山綾・大坊郁夫 (2006) 集団コミュニケ ーションにおける相互依存性の分析(1) コミュニケーシ ョンデータへの階層的データ分析の適用. 電子情報通信 学会技術研究報告. 106(146). pp.1-6.

Figure 2 AOI の Time Window

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