未 認 知 の 子 の 法 的 地 位
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(2) 早法五八巻四号︵一九八三︶. 二二二. く︑認知の有無のみにより法的取扱を異にしている︒たしかに︑身分的権利義務関係の絶対性︑画一性の要請からす. れば︑公示のない非嫡出親子関係を︑認知あるそれと全く同一に扱うことはできないであろう︒しかし︑未認知の子. といえども︑親との関係では︑一定の範囲で認知ある子と同様の地位を認めることができるのではなかろうか︒法的. 身分関係がない場合であっても︑これに個別的権利義務関係を認めることは︑すでに内縁や事実上の養子にその例を. みることができる︒こうした扱いは︑実親子関係においても可能なのではないだろうか︒本稿は︑かかる視点から︑. 未認知の子発生の背景を踏まえたうえで︑民法︑社会保障法において︑いかなる要件が存するときに︑未認知の子の. 未認知の子発生の背景. 法的地位を承認しうるかを判例︑裁決例を中心に検討するものである︒. 一. ︵1︶ e わが国の非嫡出子出生率は︑昭和五五年現在○・八パーセントである︒明治四三年の調査では︑九・四バーセン. トという高率であったものが︑現在では︑内縁の減少︑避妊知識の普及︑中絶の盛行といった種々の原因から︑西欧 ︵2︶. 諸国と比較して︑ぎわめて低い割合となっている︒こうした低い非嫡出子出生率にもかかわらず︑わが国において. は︑認知は高い割合で行なわれている︒図にみられるように︑昭和三五年以降五四年まで︑つねに︑認知届数が非嫡. 出子出生数を上回っており︑昭和五五年については︑これが逆転したとはいえ︑その差は一〇〇に満たない︒このよ ︵3︶︵4︶. うに︑認知届数が多い背景には︑非嫡出子が︑安定した男女関係から出生し︑父が子の父性を承認するのに抵抗をお ぽえない場合が少なくないことがあるように思われる︒.
(3) 一一一一非嫡出子出生数 認知届数. 2万. \ \. \・\. 未認知の子の法的地位. 3万. \ \. 認知屈数:非嫡出子出生数の推移 図. 一認知届数 非嫡出子出生数. 1万. 43444546474849505152535455年(度) 昭和 333435363738394041 42. 人口動態統計,法務年鑑より作成. 他方︑統計的には数が少ないと考えられる未認知の子は︑. 劣悪な状況におかれる可能性が高いと思われる︒たとえば︑. 全国養護施設協議会が一九七九年五月に行なった調査によれ. ば︑全養護施設に収容されている全児童のうち︑約一五パ!. セントが非嫡出子であり︑そのうち未認知の子は︑半数以上. ︵一︑七ニニ人︶を占めている︵表参照︶︒この調査は︑養護. 施設収容児童のみを対象としたものであり︑もし調査対象を. 乳児院教護院等の児童福祉収容施設や里親委託にまで広げれ. ば︑この数は︑さらに増えるであろう︒前述したように︑非嫡. 出子出生数と認知届数にほとんど差がないのにくらべ︑養護. 施設収容児童に占める未認知の子の割合が高いことの原因と. しては︑未認知の子が父の不詳︑関係絶止といった不安定的 ︵5︶ 男女関係から出生するものが少なくないことが考えられる︒. 不安定的男女関係から発生する未認知の子は︑家庭裁判所の. 婚姻外男女関係調停事件にもあらわれている︒すなわち︑子. を有する婚姻外の男女に何らかの理由から︑紛争が生じた三. 二二三.
(4) 早法五八巻四号︵一九八三︶. 嵩︵q●一︶. おO︵野㎝︶. 響鋳簿雨甑葺. 冴鄭麗霧π﹄が酔δ. o ︵①﹂︶ Oo o o. びδ. 醜単・滞蘇 嬢湾引魏o. O零︵. 引. ︒一︶. 温. 離鰍誹照薫嚇翫麟O圧餅器言前鐸び曲δ哉薗笥﹄q翻塗︵糠欝. 醜圧醜薗π ﹄がかδ. ︵︒ o O﹄︶. 旨るO一. 守ーメ︵酸︶︶︶. 一90000︵一〇〇︶. 罪. 二二四. 現行民法上︑認知に関しては︑認知の出訴期間︵民法七八七条但書︶を除き︑認知を阻止する要因は︑何ら存しな. 事実的理由ー父不詳. 当事者の意思的理由. 非嫡出子が胎児のときー父による胎児の任意認知に対する母の不承諾︵民法七八三条一項︶. 母が父との婚姻外男女関係を継続する代償として︑父に対し子の認知をもとめない場合. e. @. 認知に関 し 母 が 無 知 で あ る 場 合. 非嫡出子が 未 成 年 子 で あ る と き. ⑥. ⇔. 二. 一. 理由が考えられる︒. いはずである︒にもかかわらず認知がなされないのは︑どのような理由にょるのであろうか︒それには︑次のような. ω. 三一件のうち︑認知がまったくなされていないものが一二七件︑複数の子の一部にのみ認知がなされているものが六 ︵6︶ 件︑と未認知の子を含む事件が全体の約四〇パーセントを占めている︒. 距囲洋ゆ融醇蕊鰍ゆ離黙譜鶏薗鱗恥議︸﹁聾諮伴申傷酔O>識﹂悶●N虐︵一〇〇〇〇醤︶︒. oo. 蜥.
(5) @. 父の国籍︑世評︑父に対する嫌悪︑父母の近親関係の秘匿等の理由から母が父子関係の成立を望まない場合. 非嫡出子の養育費の代償として︑認知請求権を放棄した場合 ︵7︶. ⑥ 社会保障受給権を確保しようとする場合. ︵8︶. @. 父が法律上の妻子に対する遠慮から認知しない場合. 非嫡出子が成年子のとぎー父にょる任意認知に対する成年子の不承諾︵民法七八二条︶. ︵9︶. ω ㊧. 非嫡出子が直系卑属なくして死亡した場合︵民法七八三条二項︶. 法律的理由 @. 虚偽の出生届により︑他人の子となっている場合. ⑥ 認知の出訴期間を徒過した場合︵民法七八七条但書︶ ︵10︶. @. 当ではないであろう︒ 未認知の子の法的地位. 二二五. 訴訟において未成年子に原告適格が認められているとの理由をもって︑未成年子を法の保護の範囲外におくことは妥. 項︑三条︶︑未成年子が認知につき充分な理解をもち︑自ら訴を提起することは︑一般に考えることはできない︒認知. ︵n︶. さらに︑未成年子であっても︑意思能力を有するかぎり︑認知の訴の原告となることができるが︵人事訴訟法三二条一. に帰すことのできない理由によっている︒また︑父母についても︑一概に責められるべき状況であるとはいえない︒. 以上の理由をみるならば︑非嫡出子が未認知のまま放置されるのは︑成年子の場合を除き︑いずれも非嫡出子の責. 三.
(6) 早法五八巻四号︵一九八三︶. 一ご一六. ︵12︶. このように︑主として当事者︵父母︶の意思的理由により未認知となっている子を認知によって救済する方法の一. つとして︑公益代表としての検察官やその他の公的機関に認知訴訟の原告適格を付与することが考えられる︒この方. ︵13︶. 法は︑父母の利己的理由︵前述二⇔@@④@ω︶や認知の無知︵二⇔⑥︶の場合には有効なものであろう︒しかし︑. ︵14︶. 公的機関の認知訴訟等への当事者としての介入は︑主として公的扶助費節減のために行なわれるとも考えられ︑未認. 知の子の保護に直接役立つとは思われない︒また︑当事者のプライパシーを侵害するおそれもあろう︒未認知の子の. 保護には︑扶養のように迅速な救済を必要とするものもあり︑父による法的義務の履行をもとめる前に認知判決を必. 要とするとなれば︑前述した理由からみて︑未認知の子に不利益が及ぶことは︑充分に予想しうる︒ 厚生省﹁人口動態統計昭和五五年ω﹂六五頁︒. 吉田恒雄︑前掲論文︵注2︶四七頁以下︒. おける非嫡出割合とその背景﹂明星大学経済学研究紀要一二号四二頁以下︵一九八○年︶︒. 湯沢雍彦﹁非嫡出割合からみた各国婚姻制度の動揺﹂ケース研究一七二号二頁以下︵一九七九年︶︑吉田恒雄﹁わが国に. (( 21 )). 43. 善積京子﹁日本における非嫡出子の出生・養育過程の考察−児童相談所里親委託事例を通じてー﹂ソシオ・ジニ七巻三号. ら︑かならずしも正確とはいえない︒しかし︑累計としてみれば︑一応︑こうした傾向があるといえるであろう︒. に気がつく前に母とその相手方との関係が絶止しているため︑相手方に妊娠の事実を知らせることのできないケースが四. 出産経過グル!プ別に分析している︒これによれば︑子の出産を望まず︑仕方なく出産する不本意出産グループでは︑妊娠. 四五頁以下︵一九八三年︶は︑里親委託された児童の出生・養育状況につき︑母︑その親︑相手方の子出生に対する態度を. ︵5︶. 会計年度の届出数であり︑また︑認知届には期間制限がなく︑出生後多年月を経過したのちでも届出をなしうるのであるか. もっとも︑この二つの数をそのまま比較することは︑非嫡出子出生数が一年間の出生数を示すのに対し︑認知届出数が各. (( )).
(7) 二・四パーセントを占め︑また知らせることができたとしても︑相手方が出産に反対するケースが一一・一パーセソトを占 司法統計年報・家事編︵昭和五五年︶二三一頁︒. める︵五二ー五三頁︶︒こうしたケースでは︑父による認知の不能︑困難は︑容易に想像できよう︒. 76. 厚生年金法の遺児年金受給資格を間題とする行政解釈︵昭和二八年一一月一六日︑保文発第八〇三五号︶は︑おじ・めい. 児童扶養手当は︑父との生計の不同一を要件として支給されるのであり︵児童扶養手当法四条二項六号︶︑認知の有無と. の間から生まれた未認知の子の受給資格につき言及するものである︒. は︑本来︑無関係のはずである︒しかし︑当局は︑児童扶養手当請求に際し︑事実婚の有無の他﹁児童の認知予定﹂を﹁未. ︵U︶. ︵10︶. ︵9︶. q段臨o吋韓℃巽①旨謁o︾9㎝刈.盲¢. 東京控判大正一四年一二月八日︵法律新聞二五三二号九頁︶︒. 昭和二四年一〇月七日︑民甲第二二八六号︒後述二四八頁の裁決例は︑かかる未認知の子の父の権利をめぐる事例である︒. 後述︵二三八頁︶︑東京家審昭和四四年八月二〇日︵家裁月報二二巻五号六五頁︶参照︒. 鈴木禄弥﹁実親子関係の存否につき︑血縁という要素は絶対的なものか﹂︵鈴木・幾代・広中﹁民法の基礎知識①﹂所収︶. ω︒ρ㎝①誘︵鈴︶●. ︵12︶. 鍔国建拐ρ㌣畠の昌蒙>oK嚇い︾≦︾之oω09>いやo=oざ目N︵お諺︶●. 非嫡出親子関係の成立. 一七八頁︵一九六四年︶︒. 二. 未認知の子の 法 的 地 位. 二二七. せる一定の客観的事実により法的親子関係の発生を推定する客観主義は︑採用されていない︒民法典成立前では︑極. 現行民法上︑非嫡出親子関係は︑認知により成立するという認知主義が採用され︑自然的血縁関係の存在を推知さ. ︵廻︶. ︵13︶. 知に消極的になることも充分考えられる︒. 婚の母子﹂の調書に記載させる︵昭和五五年一〇月一八日︑児企第三九号︶︒母が受給資格の喪失をおそれるあまりに︑認. ︵8︶. (( )).
(8) 早法五八巻四号︵一九八三︶ ︵15︶. 二二八. ︵16︶. 端な主観主義的な認知主義が採られていたが︑旧民法は︑親の責任の追求および非嫡出子保護の見地から︑強制認知. の制度をもうけ︵旧八三五条︶︑客観主義に一歩近づいたのであった︒また事実に反する認知につき反対事実の主張も. 認められた︵旧八三四条︶︒これは︑自然的血縁関係がなければ法的親子関係を認めないことを消極的に規定したもの. である︒その後︑昭和一七年法律第七号﹁民法中改正法律﹂は︑直接には︑戦死した父に対する非嫡出子の相続権を. 保障することを目的とし︑父の死後三年間は認知の訴を提起しうるものとした︒さらに︑それまで﹁−.認知ヲ求ムル ︵17︶. コトヲ得﹂と表現されていたのを﹁認知ノ訴ヲ提起スルコトヲ得﹂と改正された︒これにより︑それまで父の認知の. ︵18︶. 意思をもとめる給付の訴と解されていた認知の訴は︑自然的血縁関係を基礎とする形成の訴ないし確認の訴と理解さ れるに至り︑客観主義への移行がより明確となった︒. ︵19︶. ︵20︶. 判例もまた︑非嫡出親子関係の成立において客観主義化の傾向を示している︒判例は︑長い間︑非嫡出母子関係の ︵21︶. 成立についても認知を必要とすると解してきた︒その後︑判例は︑母のした出生届に認知の効力を認め︑また︑扶養. 義務の関係で母は分娩の事実により直系尊属として扶養義務を負う︑と判示し︑徐々に認知主義に修正をくわえてき. た︒判例により母の認知が不要とされたのは︑ようやく︑戦後になってからのことであった︒. ﹁附言するに︑母とその非嫡出子との間の親子関係は︑原則として︑母の認知を倹たず︑分娩の事実により当然. に発生すると解するのが相当である⁝⁝︒﹂︵最判昭和三七年四月二七目︑民集一六巻七号一二四七頁︶. ここに︑非嫡出母子関係については︑原則として︑分娩という客観的事実により当然に法的親子関係として成立す.
(9) るとの客観主義が採られることになった︒. 他方︑非嫡出父子関係に関し︑判例は︑客観主義に若干の接近をしたにとどまる︒分娩という客観的に明瞭な事実. のない父子関係において︑非嫡出父子間の父性推定規定をもたないわが国の制度上︑非嫡出父子関係の成立に︑認知. は不可欠である︒判例の客観主義化の傾向は︑次の二つの判決に明瞭にみることができる︒昭和一七年の死後認知制 度創設前︑禁治産者に対する認知請求を認容するにあたり︑. ︵大判昭和一〇年一〇月三一日︑民集一四巻二〇号一八〇五頁︶. ﹁裁判所二於テ審査ノ結果親子関係ノ存在ヲ確認シ得ル以上⁝⁝認知スベキ旨ノ意思表示ヲ命ズルニ何等支障ナ シ⁝﹂. と述べ︑客観主義的解釈を示した︒また︑内縁子については ﹁民法七七二条が類推される︒﹂︵最判昭和二九年一月二一日︑民集八巻一号八七頁︶. と判示し︑嫡出子と同様の父性推定を認めた︒この判決は︑性的交渉を伴い︑妻の貞節が信じられる婚姻に準ずる内. 縁に︑換言すれば婚姻と同視しうる父母の同棲生活という客観的事実にもとづき父性を推定した点で︑客観主義的内 容をもつといえよう︒しかし︑本判決は︑父性推定について次のように述べる︒. ﹁しかるに︑内縁の子についても民法七七二条が類推されるという趣旨は︑事実の蓋然性に基いて立証責任の間. 題として︑父の推定があるというにすぎない︒⁝⁝父と推定される者は︑認知をまたずして︑法律上一応その子の. 二二九. 親として取扱われることなく︑また同様にその子は︑認知をまたずして︑法律上一応推定を受ける父の子として取 未認知の子の法的地位.
(10) 早法五八巻 四 号 ︵ 一 九 八 三 ︶. 二三〇. 扱われることもないものと言わねばならぬ︒だから︑父子の関係は︑任意の認知がない限りどこまでも認知の訴で. 決定されるのであり︵民法七七九条︑七八七条︶︑その際民法七七二条の類推による推定は︑立証責任の負担の問題と して意義を有するのである︒﹂. 本判決によれば︑内縁子に対し嫡出子に準じてなされる父性推定は︑事実上の推定にとどまる︒未認知の子は︑内. 縁子であっても︑事実上の推定により法的父子関係を有することはできない︒本判決に対し︑民法七七二条の適用に ︵22︶. ょる嫡出の推定であろうと︑同条の類推による非嫡出の推定であろうと︑父決定の効果が生ずるのであり︑後者につ いて重ねて認知をする必要はない︑との批判がある︒. 非嫡出親子関係の成立につき︑制定法︑判例ともに客観主義的傾向を示し︑また内縁夫婦に同居義務︑守操義務の. 準用が認められる今日︑内縁子の父性推定に包括的に法律効果を付与することも充分に可能であろう︒しかし︑現行. 法上︑認知主義は︑明確に規定されており︑直接証明の方法が存しない父子関係において︑父性推定による非嫡出父. ︵23︶. 子関係の成立を認め︑これを全ての法律効果の点で法的父子と同様に扱うことは︑明らかに法文を無視するものであ. る︒むしろ︑内縁子の父性推定は︑それだけで法的父子関係による法律効果を包括的に生ぜしめるものではなく︑個 別的な法律効果発生の前提として考えられるべきではないだろうか︒. 中川善之助教授が述べられたように︑統体法︑ 状態法たる身分法においては︑身分に付着した法定的権利義務は︑ ︵24︶ 身分の取得により︑当然に︑包括的に発生する︒ 換言すれば︑親族関係者相互間で発生する法律効果は︑親族関係の.
(11) ︵25︶. 成立に必要な要件を具備したときに︑瞬間的︑全面的に発生する︒しかし︑ここにいう身分とは︑法的身分であり事. 実的身分でないことは︑いうまでもない︒内縁の例をみるまでもなく︑事実上の身分関係にすぎない場合であって. ︵26︶. も︑個々の法律効果の発生に必要な要件を具備することにより︑個別的法律効果を漸次的に付与することは充分に可 能である︒. 前述したように︑未成年の未認知の子において︑法的父子関係の成立は︑主として父母の意思に委ねられており︑. しかも父母のおかれた状況から認知が困難となっている︒かかる現状から未認知の子の保護を認知の有無にのみかか. らしめ︑法律効果の発生を毘Rぎ島冒αQとすることは︑﹁法の下の平等﹂︵憲法一四条︶との関連で未認知の子に. とって重大な不利益となろう︒他方︑現行民法は︑個人の尊厳︑両性の本質的平等︵憲法一西条︶の要請にもとづぎ︑. 夫婦︑親子からなる婚姻家族の維持を理念とする︒認知された非嫡出子が︑嫡出子とほぼ同等の地位を取得する現行. 法のもとで︑父による認知は︑婚姻家族に対する重大な脅威となることもあろう︒かくして︑法的父子関係の存否と ︵27︶. は無関係に︑生理的父子関係の存在する場合に個別的法律効果を認めることは︑婚姻家族の保護︑非嫡出子の保護の. 二三一. 二つの要請を調和するための一つの方法となりうるものと考えられる︒それでは︑個別的法律効果を認めるために. 大判大正一〇年六月一一日︵民録二七輯一一四四頁︶︒. 中川善之助編﹁注釈民法⑳のー﹂一六二頁︵泉久雄︶︵一九七一年︶︒. 明治六年一月八日︑太政官布告第二一号︒. は︑どのような要件が必要とされるのか︑以下︑民法︑社会保障法の二つの面から検討する︒. ︵15︶. ︵16︶. ︵17︶. 未認知の子の法的地位.
(12) (. 20. 19. 18 ). ). ). ). ( ( (. 大判大正一〇年一二月九日︵民録二七輯一二〇二頁︶︒ 大判昭和三年一月三〇日︵民集七巻一号一二頁︶︒. 大判大正一二年三月九日︵民集二巻四号一四三頁︶︒. 二三二. 木村健助﹁内縁の妻が懐胎した子と父性推定﹂法学論集四巻二三八九頁︵一九五四年︶︑同旨︑右近健男﹁民法七七二条. 高野竹三郎﹁嫡出性の推定﹂︵家族法大系N親子︶二七頁︵一九六〇年︶︒於保教授は︑父性推定による非嫡出父子関係の. 七〇年︶︒. 25. 24 ). ). ). 唄孝一﹁氏の変更Gゆ﹂二七七頁︵一九五六年︶︒. 中川善之助﹁身分法の基礎理論﹂二〇三頁︵一九三九年︶︒. 谷口知平﹁非嫡出親子関係の存在﹂︵﹁親子法の研究﹂所収︶六〇頁︵一九五六年︶︑外岡茂十郎﹁父性推定制度の研究﹂. 前述二二五頁︒. 民法上の地位. る︒財産法上の地位に関しては︑不法行為にもとづく損害賠償請求権を︑親族法上の地位については︑親権および扶. 本章では︑未認知の子の民法上の地位を︑財産法上の地位︑親族法上の地位の二つの面から判例を中心に検討す. 三. ︵﹁親族法の特殊研究﹂所収︶二一九頁︵一九五〇年︶参照︒. 26 ). 学理論篇81︑三一頁︵一九五〇年︶︑同﹁内縁中の懐胎と父性推定﹂家族法判例百選八四頁︵一九六七年︶︶︒. 現段階では︑父性推定により非嫡出父子関係の成立を認めることは︑困難であろう︑と述べられる︵於保不二雄﹁親子﹂法. 成立に不可欠な自然的親子観が今日なお徹底を欠き︑後婚準正に認知が必要とされ︑さらに死後認知の出訴期間が存在する. ︵23︶. (. 判例は︑これを形成の訴と解する︒最判昭和二九年四月三〇日︵民集八巻四号八六一頁︶︒. 早法五八巻四号︵一九八三︶. 21 ). の類推適用により父性の推定を受ける子の認知の訴と同法七八七条但書適用の有無﹂民商法雑誌六三巻一号一五八頁︵一九. 22. 27.
(13) 養について分析する︒なお︑未認知の子の相続法上の地位も重要な論点であるが︑これには相続権の根拠につぎ詳細. な検討を必要とし︑さらに︑借家権の承継︵借家法七条の二︶︑特別縁故者制度︵民法九五八条の三︶との関連もあるの. で︑ここでは省略し︑別に稿を改めて論じたい︒. 財産的損害. 不法行為にもとづく損害賠償請求権が相続の対象となりうるかは︑争いのあるところである︒こ. e 不法行為にもとづく損害賠償請求権. ω. れが相続の対象となりうるとしても︑未認知の子が父︵未認知の子であっても︑母との関係では︑原則として法的親. 子関係が承認されるのであるから︑父との関係が問題となる︶の生命侵害を理由に損害賠償請求権を相続により取得. しうるとすることは︑未認知の子の父に対する相続権が認められないかぎり不可能である︒. しかし︑未認知の子が父の生前︑父による扶養を受けていた場合には︑未認知の子は︑扶養利益の侵害を理由に損. 害賠償請求権を取得する︑との法的構成も可能である︒判例は︑未認知の子の父が鉄道事故により死亡した事案で次 のように判示し︑未認知の子の扶養利益の侵害を理由とする損害賠償請求を認容した︒. クモ徳市ノ収入二依リ生計ヲ維持スルヲ得可カリシ者. ﹁⁝⁝重子︹未認知の子の母は︺徳市︹死亡した父︺ノ内縁ノ妻トシテ同人ト同棲シタル者ニシテ上告人寿雄 ︹未認知の子︺ハ其ノ間二生マレタル者ナリトセハ寿雄ハ. ニシテ寿雄ハ徳市ノ死亡二因リ如上ノ利益ヲ喪失シタルモノト云フヲ得可シ而シテ民法第七〇九条二依ル損害賠償. 二三三. ハ厳密ナル意味二於テハ権利ト云フヲ得サルモ法律上保護セラルヘキ利益二該ルモノノ侵害アリ其ノ侵害二対シ不 未認知の子の法的地位.
(14) 早法五八巻四号︵一九八三︶. 二三四. 法行為二基ク救済ヲ与フルヲ正当トスヘキ場合二於テハ之ヲ請求スルヲ得ルモノニシテ⁝−寿雄力徳市ノ生存二因. リ有シタル右利益ハ民法第七〇九条二依リ保護ヲ受ク可キ利益ナリト認ムルヲ相当トスル⁝⁝﹂︵大判昭和七年一〇 月六日民集一一巻二 〇 号 二 〇 二 三 頁 ︶. 本判決は︑未認知の子の損害賠償請求権発生の根拠として︑扶養請求権の侵害ではなく︑扶養利益の侵害をあげ ︵28︶. る︒本判決によれば︑未認知の子の父死亡を理由とする損害賠償請求に関するかぎり︑法的父子関係にもとづく扶養. 権利義務関係の存在は︑必要ないことになる︒損害賠償請求が認容されるか否かは︑未認知の子が﹁父ノ収入二依リ ︵29︶. 生計ヲ維持スルヲ得可カリシ者﹂であるか否かによるのである︒換言すれば︑法的父子関係の存否ではなく︑事実概. 念としての生計維持関係の有無により決せられることになる︒また︑本判決が生計維持関係にあった未認知の子の損 ︵30︶ 害賠償請求権を認めたことは︑反対にこうした関係にない子を保護の対象としない︑ということになる︒. 本判決は︑昭和一七年の死後認知制度創設以前のものである︒今日︑この結論がそのまま維持されるとは︑かなら ︵31︶. ずしもいえないであろう︒なぜなら︑父死亡後︑子が出生し︑死後認知の訴︵民法七八七条但書︶を提起する場合︑出. 訴期間の起算点は︑父死亡時に限定されてはいないし︑また︑相続開始後の被認知者は︑価額支払の方法による遺産. 分割請求︵民法九一〇条︶が認められているからである︒これらの制度の存在を考えれば︑損害賠償請求訴訟の前に認. 知の訴の提起をもとめることは︑未認知の子にとって︑あながち不利益になるとはいえないであろう︒しかし︑前述. した未認知の子発生の背景︑人事訴訟の煩項︑認知の遡及効の制限︵民法七八四条但書︶などからみて︑損害賠償請求 ︵32︶ の前に認知訴訟の原告とならなければならないのは︑未認知の子にとって重大な不利益となろう︒このように父の生.
(15) 命侵害を理由とする損害賠償請求権を未認知の子に認めたとしても︑それには︑生理的父子関係の存在および生計維. 持関係という要件が必要とされるのであり︑また︑不法行為による損害賠償請求権の消滅時効および除斥期間︵民法. 父の生命侵害を理由とする未認知の子の慰籍料請求権は︑財産的損害の場合と同じく︑相続構成. 七二四条︶が存するのであるから︑加害者にとってさほど酷ではないであろう︒. ②精神的損害. をとるかぎり︑否定的に解さざるをえない︒学説は︑生命侵害を理由とする死者への慰籍料請求権の帰属およびその ︵33︶ 相続性を否定し︑近親者固有の慰籍料請求権︵民法七一一条︶として構成する傾向にある︒. 未認知の子の慰籍料請求権に関しては︑民法七二条の類推適用の可否が問題となる︒未認知の子を︑民法七二. 条に法定された被害者の父母・配偶者・子に準ずる者として︑慰籍料請求権を認めることができるか︑という間題で ある︒. 前述した大判昭和七年一〇月六目は︑慰籍料請求権については︑これを否定した︒. ﹁上告人重子︹未認知の子の母︺ハ徳市︹未認知の子の父・被害者︺ノ内縁ノ妻ニシテ且徳市ハ本件事故二因リ. 死亡シ寿雄︹未認知の子︺ヲ私生子トシテ認知シタルモノニアラサレハ寿雄ハ遂二徳市ノ子トシテ地位ヲ取得スル. ニ由ナカリシ者ナルヲ以テ同人ノ身分ハ民法第七百十一条列挙ノ何レノ場合ニモ該当セサルカ故二同条二基ク上告 人寿雄ノ慰籍料請求ハ之ヲ是認シ得サルモノナリー⁝﹂. 二三五. その後︑下級審判例では︑未認知の内縁子の死亡を理由に父が慰籍料請求をし︑裁判所がこれを認容した事例があ る︒. 未認知の子の法的地位.
(16) 早法五八巻四号︵一九八三︶. 二三六. ﹁治実︹未認知の子・被害者︺は控訴人︹父︺との間に親子の血の繋りがあって認知されれば準正嫡出子となる. べきものでありながら︑認知前に死亡したため︑法律上の親子関係を持つに至らなかったけれども︑社会の実態か. らすれば︑いわゆる日陰の子の類ではなく︑両親の膝下にあって事実上嫡出の子同然の家族的生活を送っていたの. であり︑また不慮の事故により右治実の死を迎えた控訴人の痛恨は︑正に愛児を奪われた世の常の父親の悲しみで. あって︑それは認知手続の有無に拘りないのであるから︑このような特別事情の下においては︑控訴人と治実とは. ︵34︶. 民法七一一条の損害賠償の特則に関する限り︑父子に準ずる地位にあると解する⁝⁝︒﹂︵東京高判昭和三六年七月五 日︑高裁民集一四巻五号三〇九頁︶. この二つの判決は︑ともに︑死後認知制度を利用しえないものである︒したがって︑反対に未認知の子が死後認知 ︵35︶. の制度により法的父子関係を成立させることのできる場合には︑未認知の子は︑慰籍料を請求しえないと解すること. もでぎよう︒この点については︑財産的損害の場合と同じことがいえるのであり︑死後認知の訴により︑前提として. 法的父子関係の成立をもとめることは︑未認知の子にとって酷であろう︒他方︑被害者の救済の簡易迅速化がもとめ. られている今日︑請求権者の範囲を広く︑不安定に解することは︑この要請にあわないのであり︑ある程度の定型化 ︵36︶ もやむをえない︑との考え方もある︒しかし︑民法七二条の慰籍料請求権者の範囲は︑無制限に拡大されるべきも. のではないとはいえ︑その範囲は︑法定された請求権者に準ずる者が︑死者との間に慰籍に価するだけの特別の関係を. 有するか否かという視点から︑個別的︑具体的に決定されるのである︒未認知の子といえども︑父と同居し︑かつ養 ︵37︶ 育されているかぎり︑法的父子関係ある場合とくらべて︑精神的苦痛の程度において何ら異るところはない︒民法七.
(17) 一一条を精神的損害の立証責任を被害者の父母・配偶者・子につき軽減するものであると理解するのであれば︑父と. ︵38︶. 同居し︑養育されていたとの客観的事実が認められる場合には︑未認知の子にも民法七一一条による慰籍料請求権が 肯定されてしかるべきであろう︒. ω扶養. 民法上の扶養の権利義務関係は︑依存︑非自由︑一方的︑無償の関係であるといわれる︒この関係は︑抽象的に. は︑当事者間の意思とは無関係に︑身分関係にもとづいて発生する︒とくに︑未成熟子に対する親の扶養義務︵生活 ︵39︶ 保持義務︶は︑扶養をなすことがその身分関係の本質的・不可欠的要素である︑とされる︒かかる高度の扶養義務を. 負担させる根拠たる身分関係は︑より確実なものでなければならないであろう︒他方︑一般に充分な経済的基盤をも. たない母子家族において︑非嫡出子は︑公的扶助の不備とあいまって︑父による生活保障を不可欠とするのである︒ ︵40︶. ︵41︶. 現行法上︑未認知の子が父に対して扶養請求をするには︑その前に父に認知をもとめることが通常であろう︒しか. し︑前述したように︑さまざまな理由から父による認知を得ることができない非嫡出子は︑少なくない︒こうした場. 合でも︑子の生活が保障されなければならないのは︑認知の有無にかかわりがない︒また︑旧民法の下で︑庶子の準. 嫡出子的取扱い︵旧民法七二八条︑九七〇条一項二︑四号︑九七四条︶が婚姻家族を苦しめ︑またこのことが父の認知を滞 ︵42︶. 二三七. らせていたことを考えるならば︑扶養義務の負担をすべて法的父子関係の存否にかからせることは︑婚姻尊重と非嫡 出子保護の二つの要請の調和にはつながらない︒ 未認知の子の法的地位.
(18) 早法五八巻四号︵一九八三︶. 二三八. これは︑父の法律上の妻が父︵夫︶に対して婚姻費用分担. 審判例では︑少数ながら︑未認知の子の扶養を保障するものがある︒保障の態様には︑次の二つがある︒. ω未認知の子が父およびその内縁の妻と同居する場合. 請求︵民法七六〇条︶をした場合に︑未認知の子の養育費を事実婚の婚姻費用に含めることによって︑保障するもので あるQ. ﹁⁝⁝右二児︹未認知の子︺が相手方︹未認知の子の父︺の子であることは明白であり︑正式に認知を了してい. ないのは︑相手方が申立人︹法律上の妻︺の気持を傷付けないことを配慮してのことで︑認知をしようとすれば何. 時でもこれをなしうるのであり︑右二児の福祉のためには︑本件の婚姻から生ずる費用の分担を定めるに当って. は︑右二児の養育に要する費用をも考慮すべぎである⁝⁝︒﹂︵東京家審昭和四四年八月二〇日家裁月墾三巻五号六五 頁︶. ︵43︶. 内縁の本質は︑現在では︑準婚関係として理解され︑内縁夫婦の共同生活に要する費用は︑民法七六〇条に準じ. て︑一切の事情を考慮して内縁夫婦が各自分担すべきものであるとされる︒婚姻費用とは︑夫婦︑未成熟子から成る. 婚姻共同生活において︑財産︑収入︑社会的地位などに応じた通常の生活を維持するのに必要な一切の費用である︒ ︵44︶. これには︑衣食住の費用︑出産費︑療養費︑未成熟子の養育費︑教育費がすべて含まれる︒こうした婚姻費用概念は︑. 夫婦︑未成熟子の共同生活を前提とした概念であり︑狭義の親族扶養のように法的親族関係の存在を必要としない︒ い45︶︵46︶. したがって︑未成熟の未認知の子と父との間に生理的父子関係があり︑かつ共同生活がある場合には︑未認知の子の. 養育費を内縁夫婦の婚姻費用に含ませることができる︒このようにして︑未認知の子の扶養は︑法的父子関係がない.
(19) 場合でも保障されうることになる︒しかし︑この保樟は︑共同生活を基礎とする婚姻費用概念を通じて実現されるに. この場合の扶養の保障は︑要扶養状態にある未認知の子が父に対し直接の. すぎず︑権利として保障されるものではない︒. ②未認知の子が父と別居している場合. 扶養請求をすることにより実現される︒しかし︑未認知の子が実体法上の権利として扶養請求権をもつか否かは疑問 である︒. 戦前の控訴審判決では︑生理的な父子関係を前提に︑私生子に対する父の扶養義務を認めたものがある︒. ﹁被控訴人︹未認知の子︺が控訴人︹未認知の子の父︺の子なること前示の如く明なる以上認知前と難も扶養義. 務の関係に於ては控訴人は右はま︹未認知の子の母︺と共に被控訴人の扶養義務者なり⁝⁝﹂︵東京控判昭和九年五月 一一日︑法律新聞三七〇四号六頁︶. 本判決が﹁扶養義務の関係に於て﹂父に扶養義務を認めたのは︑未認知の母は︑﹁扶養義務ノ関係二於テハ⁝⁝直 ︵47︶ 系尊属トシテ・⁝:扶養スルノ義務﹂を負うとした大判昭和三年一月三〇日と無関係ではないであろう︒また︑昭和二. 二年法律第一五三号による改正前の人事訴訟手続法︵三九条一項︑七条二項︶においては︑認知の訴に扶養を付帯請求 ︵48︶. することが認められていたのであるから︑本判決のように未認知の子に対する父の扶養義務を認めることには︑法文 ︵49︶. 上問題がなかった︒しかし︑当時においても︑未認知の子には︑父に対する実体法上の請求権がないことを理由に︑. 二三九. 扶養料請求を否定した判例があり︑まして︑かかる付帯請求が認められない現行人事訴訟手続法上︑父に対する未認 ︵50︶ 知の子の扶養請求権は︑否定的に解さざるをえないであろう︒ 未認知の子の法的地位.
(20) 早法五八巻 四 号 ︵ 一 九 八 三 ︶. 二四〇. しかし︑認知訴訟とは別に︑家事審判手続において未認知の子の父に扶養を命ずるのは可能ではないかと思われ. る︒福岡家審昭和四〇年八月六日は︑認知訴訟の第一審で勝訴し︑控訴審係属中に未認知の子が父に対して扶養料請. 求の申立をした事案において︑未認知の子と父との父子関係の存在を認定したうえで︑次のように判示した︒. ﹁⁝⁝申立人︹未認知の子︺の相手方︹未認知の子の父︺に対する認知請求は正当として認容さるべきで︑申立. 人出生以来申立人と相手方との間には親子関係が形成され︑相手方における申立人の扶養請求に対しこれに応ずべ ぎ義務のあることも当然である︒﹂︵家裁月報一八巻一号八二頁︶. また︑認知訴訟と併行して︑内縁子が未認知の父に対して扶養料請求の申立をした事件において. ﹁︹本件未認知の子は母の内縁の夫であった︺相手方の子であると推定され︵父性の推定︶これを覆すに足りる. 特段の事情は認められない︒そうであるとすれば︑申立人⁝⁝の相手方に対する前記認知請求訴訟事件の判決を倹. たないでも︑本件においては︑申立人⁝⁝と相手方との︵生理的︶父子関係が認められる以上申立人両名の要否と. その程度及び相手方の扶養能力について検討すべきものである︒﹂︵東京家審昭和五〇年七月一五目︑家裁月報二八巻八 号六二頁︶. と判示して父に対する扶養義務を認めた︒. 法的父子関係につき当事者間に争いがあるとぎ︑家庭裁判所は︑認知判決の確定をまつことなく扶養審判︵家事審. 判法九条一項乙類八号︶をなしうるのであろうか︒家庭裁判所は︑扶養という家族の生活関係に関する事項を処理する ︵51︶. にあたって︑扶養権利義務者の具体的状況を考慮し︑合目的的な裁量により判断しうるのであるから︑家庭裁判所.
(21) ︵52︶. が︑審判手続において︑生理的父子関係の存否を判断したうえで︑扶養の審判を行なうことは︑何らさしつかえない. というべきである︒さらに当事者間に生理的父子関係につぎ争いがない場合でも︑家庭裁判所は︑自ら行なう職権調. 査にもとづき︑父子関係の存否につき独自に判断し︑その範囲内で扶養審判を行なうことができる︑と解される︒. このようにして扶養審判の可能性を認めることは︑遺産の帰属性につき争いあるとぎに遺産分割審判を行なうのに. くらべて︑より障害が少ない︒なぜなら︑扶養に関する事項は︑現に要扶養状態にある扶養権利者と扶養能力を有す. る扶養義務者の問題であり︑相続のように第三者の利害に直接重大な影響を与えないからである︒扶養義務者に法律. 上の妻子があっても︑それは︑扶養能力の算定に際して考慮されるにすぎないのであり︑これらの者の婚姻費用分担 請求権︑扶養請求権が否定されるものではない︒. 非嫡出子の保護の第一を非嫡出子の扶養の保障であるとするならば︑家事審判手続による扶養関係の早期確定は︑ なによりもまず要請されなければならないであろう︒. ㊧ 親 権. 非嫡出子の親権者は︑原則として母であり︑父は︑子を認知したのち︑父母の協議または審判により父が親権者と ︵53︶. 定められた場合に︑親権者となりうるにすぎない︵民法八一九条四項︑五項︶︒親権者となりうる者は︑子との間に法的 ︵54︶. 親子関係の存することが必要とされる︒判例も同様に︑認知のないかぎり︑生理的父がした告訴は︑親権者による告. 二四一. 訴としての効力がない︑と判示している︒生理的父の親権のうち︑財産管理面については︑これを否定的に解するの 未認知の子の法的地位.
(22) 早法五八巻四号︵一九八三︶. 二四二. ︵55︶. が妥当であろう︒財産管理ー特に法定代理︑法律行為の同意ーには︑第三者との利害の調節が不可欠であり︑また︑. 無能力者制度の趣旨からみても︑身分関係が戸籍により明確に公示されることが要請されるからである︒ ︵56︶. 他方︑身上監護に関しては︑かならずしも否定的には解しえない︒子の監護は︑すべて法的な監護権を有する者に. より行われる必要がない︒たとえば︑人身保護手続による子の引渡請求にあっては︑拘束の違法性の判断基準とし ︵57︶. て︑拘束者が親権︑監護権を有するかとの形式的理由のみにより判断されるのではなく︑子に対する現在の拘束状態. が客観的にみて不当であるか否かにより判断される︒また︑児童福祉法上︑児童に対する育成責任を負うものとし. て︑国︑地方公共団体とならんで﹁保護者﹂が規定されている︵同法二条︶︒この﹁保護者﹂には︑親権者︑後見人の. ほか︑﹁児童を現に保護する者﹂が含まれる︵同法六条︶︒生理的父であっても︑現に児童を監護しているとの客観的事. 実があれば︑保護者として育成責任を負うことになるのである︒. このように︑生理的父は︑民法上の親権者として子に対する包括的権利義務を有することはないが︑身上監護に関. 未認知の子が死亡した父の生活共同体の一員であったときには︑嫡出子に準じた扶養請求権を有する︑と構成するのであ. る︒本判決が﹁扶養上の父﹂なる概念を用いたことは︑これと無関係だとはいえないのではなかろうか︒. 本判決以前に︑すでに︑法的親子関係にない母に扶養義務を認めた判例︵大判昭和三年M月三〇日︑前掲︵注21︶︶があ. するかぎり︑父が現に行なう監護が法的に保障され︑責任あるものとして評価される︒. 29. とめるかは︑なお疑間である︒. 年︶︶本判決のように扶養利益の侵害として構成する必要はない︒しかし︑﹁嫡出子に準じた扶養請求権﹂の根拠をどこにも. れば︵倉田卓次﹁相続構成から扶養構成へ﹂︵坂井芳雄編﹁現代損害賠償法講座第七巻﹂所収︶一〇二︑一〇七頁︵一九七四. ). ︵28︶. (.
(23) ︵30︶. 中川善之助﹁生命侵害と事実上の養子﹂法学志林三五巻五号八七頁︵一九三三年︶︑倉田卓次︑前掲論文︵注29︶一〇七 最判昭和五七年三月一九日︵民集三六巻三号四三二頁︶︒. 頁︒. 倉田卓次︑前掲論文︵注29︶一一七頁︒. ︵31︶. 判例︑学説の傾向については︑好美清光﹁慰籍料請求権者の範囲﹂︵坂井芳雄編﹁現代損害賠償法講座第七巻﹂所収︶二. 前者は︑死後認知制度創設以前の判決であり︑後者は︑被害者たる子に直系卑属がなく︑父は認知をすることができな. 一五頁以下︵一九七四年︶︒. ︵33︶. 40. 39. 38. 37. 36. 35. ). ︵45︶. 千種達夫﹁未認知の子の死亡に対する父の慰籍料請求権﹂家族法判例百選︵新版︶一〇一頁︵一九七三年︶︒. 加藤一郎﹁不法行為︵増補版と二四二頁︵一九七三年︶︒. い. ︑︵民法七八三条二項︶︒. 34. ︵32︶. ノヘ ノヘ. 前述二二四頁︒. 久貴忠彦﹁未認知の子と事実上の養子﹂︵太田武男編﹁現代の親子問題﹂所収︶九三頁︵一九七五年︶︒. 中川善之助﹁親族的扶養義務の本質﹂法学新報三八巻六号九頁以下︵一九二八年︶︒. 沼正也﹁財産法の原理と家族法の原理︵改訂版︶﹂六三頁以下︵一九六三年︶︒. 宮井忠夫﹁被害者の認知前の父と民法七一一条﹂同志社法学一四巻三号三八O頁︵一九六二年︶︒. ))))))). 外岡茂十郎 ︑ 前 掲 ︵ 注 2 7 ︶ 一 四 八 ︑ 二 一 二 頁 ︒. ). 青山道夫編﹁注釈民法⑳﹂︵有泉亨︶三八五頁︵一九六八年︶︑吉田恒雄﹁別居中の夫婦扶養﹂早大法研論集一七号二四〇. 最判昭和三三年四月一一日︵民集一二巻五号七八九頁︶︒. ). 未認知の子の法的地位. 二四三. は︑父母と共同生活し︑父の任意認知は容易に得られるのであり︑父の認知を要件としても子の保護に欠けることはない︑. 九州家族法研究会﹁婚姻費用分担・扶養審判例の分析と算定方式の研究︵中︶﹂家裁月報二六巻九号五三頁︵一九七四年︶. 頁︵瞬九七八 年 ︶ ︒. ). 41 42 43 44.
(24) ︵46︶. 早法五八巻四号︵一九八三︶. 二四四. もっとも︑東京家審昭和四四年八月二〇日の事実関係は︑父が法律上の妻とも併行して夫婦関係を維持しているものであ. として認知が必要であるとする︒. 島津一郎編﹁判例コンメンタール6民法N親族﹂四六二頁︵岡垣学︶︵一九七八年︶︑同旨︑渡瀬勲﹁非嫡出子に対する認. 前掲︵注21 ︶ ︒. に否定された︒. り︑事実上の妻との関係を内縁と断定するのは困難である︒本審判は︑事実上の妻の生活費については︑その有責性のゆえ. ︵47︶. 未認知の子の過去の扶養料が請求された事件において︑単なる血縁上の子に対して︑父は︑扶養義務を負わない︑と判示. 東京地判昭和五年五月一六日︵法律新聞三二一二号七頁︶︒. 知前の実父の扶養義務について﹂ジュリスト五二八号一三〇頁︑一三三頁注ω︵一九七三年︶︒. ︵48︶. ︵49︶. ︵51︶. 於保不二雄編﹁注釈民法鱒﹂ 一八頁︵山本正憲︶︵一九六九年︶︑佐藤隆夫﹁親権﹂︵民法総合判例研究6 3︶ 一二頁︵一九. 最判昭和四一年三月二日︵民集二〇巻三号三六〇頁︶参照︒. 小山昇﹁訴訟事項と審判事項﹂︵小山・松浦・中野・竹下編﹁演習民事訴訟法田﹂所収︶五七頁︵一九七三年︶参照︒. されたものとして︑東京地判昭和五四年三月二八日︵判例タイムズ三八九号一三七頁︶︒. ︵0 5︶. ︵53︶. 穂積重遠﹁判例民事法昭和五年度﹂四四七頁︵一九三二年︶︒. 大判昭和五年二一月二三日︵刑集九巻一二号四九頁︶︒. 八一年︶︒. ︵2 5︶. ︵4 5︶. 最判昭和二四年一月一八日︵民集三巻一号一〇頁︶︑最判昭和四三年七月四日︵民集二二巻七号一四四一頁︶︑最判昭和四. 松本タミ﹁非嫡出子の法的地位﹂︵﹁現代家族法大系3親子・親権・後見・扶養﹂所収︶八六頁︵一九七九年︶︒. ︵5︶ ︵56︶. 九年二月二六日︵家裁月報二六巻六号二二頁︶︒. ︵7 5︶.
(25) 四. 社会保障法上の地位. 大正一二年に改正された工場法第一五条は︑遺族扶助料の受給権者を﹁本人又ハ其ノ遺族若ハ本人ノ死亡当時其ノ. 収入二依リ生計ヲ維持シタル者﹂と規定し︑それまでの同一戸籍の要件を廃して︑内縁配偶者にも受給資格を認め. た︒工場法による内縁配偶者保護の背景には︑婚姻に対する﹁家﹂制度的制約︑届出に関する意識の低さもさること. ながら︑不十分な労働条件のもとで︑届出を容易になしえなかったことによる内縁が多数存在し︑とくに工場労務者︑. 鉱山労務者の家庭に内縁が多かったこと等があった︒内縁の夫の事故死に関しては︑民法上の救済もさることなが ︵58︶ ら︑労働立法による内縁配偶者の保護は︑当時の社会間題であった︒ ︵59︶. このような労働立法による内縁の保護は︑労働力の再生産をつねに労働家族の再生産と考え︑次代の労働力の育成. のための配慮をくわえるという社会政策の本質に根差すものであり︑身分関係の法的安定を要請する民法における内. 縁保護が判例により個別的に実現されるのとは対称的である︒労働立法において本来事実的概念である内縁が法的概 ︵60︶. 念とされたのと同じく︑公的扶助法による生活保護法において︑﹁世帯﹂概念は︑主として保護基準を定めるにあた. り用いられる法的概念とされている︒それでは︑未認知の子は︑これら法的概念化した事実的概念の中にどのように. 二四五. 位置付けられるのであろうか︒以下︑労働者災害補償保険法および生活保護法における未認知の子の地位を行政解釈 例規および裁決例を中心に検討する︒. 未認知の子の法的地位.
(26) e. 早法五八巻四号︵一九八三︶. 労働者災害補償保険法. 二四六. 労働者災害補償保険法︵以下労災保険法と略す︶は︑労働基準法七五条以下により負担する業務上の災害に対する無. 過失責任にもとづく災害補償責任に関する責任保険について規定する︒これにより︑使用者の補償能力を担保し︑か. つ労災保険法にもとづく給付により使用者の責任が免責される︒業務災害に関する保険給付には︑療養補償給付︑休. 業補償給付︑傷病補償年金︑障害補償給付︑遺族補償給付︑葬祭料の六種類がある︒このうち︑遺族補償給付は︑未 認知の子︵とくに未成熟子︶との関係で重要な間題を含んでいる︒. ︵61︶. 遺族補償給付の法的性格は︑まず第一に損失補償であるが︑補償されるものの中でもっとも重要なのは遺族の生活. 費である︒これを未認知の子についてみれば︑遺族補償給付は︑未認知の子が稼働年齢に達するまでの生活保障を内. 容とする︒もし︑遺族補償給付の相続的性格が強調され︑法的身分関係をもって受給資格とするならぽ︑遺族の生活 保障という目的は達せられないことになる︒. 労災保険法上の遺族補償給付のうち遺族補償年金の受給資格は︑労働者の死亡当時その収入にょって生計を維持し. ていた配偶者︵内縁の妻を含む︶︑子︑父母︑孫︑祖父母︑兄弟姉妹であり︵労災保険法一六条の二︑一項三項︶︑配偶者. 以外の者は︑一定の年齢にあること︑または一定の廃疾にあることが要件とされる︵同条一項︶︒﹁子﹂は︑妻または六. 〇歳以上の廃疾の夫に次ぐ第二順位の受給資格者であり︑かつ一八歳未満もしくは廃疾の子であることを要する︵同 条一項二号︑四号︶︒行政解釈では﹁子﹂は次のように解されている︒. まず︑非嫡出母子関係に関しては︑﹁母子間の親子関係については分娩の事実をもって当然法律関係が生ずるもの.
(27) である︒﹂︵昭和四二年六月九日︑四一基収第七八二号︶とし︑自然的血縁関係にもとづく法的母子関係の成立を認めて いる︒. 非嫡出父子関係については︑行政解釈は︑厳格な認知主義を採用している︒. ﹁﹃子﹄には︑労働者の死亡の当時胎児であった子が含まれ︑出生のとき以降︑受給資格者となれる︒. 非嫡出子については︑認知があったことを要する︒﹂︵昭和四一年一旦一二目︑基発第七三号︶ ︵62︶. 非嫡出子であるかぎり︑内縁子であると否とを問わず︑認知が必要とされる︒さらに︑非嫡出子の父が︑生前︑子. の出生届をし︑または︑外国人登録原票等に父の子として登録されている場合であっても︑子の受給資格には︑認知. が必要とされる︒すなわち︑﹁父親たる死亡労働者により出生届が提出されており︑実体上認知と同様のものと考え られているので︑受給資格者として扱うことはできるか︒﹂との伺に対し︑. ﹁単に出生届のみでは認知の効力は生じないので︑民法七八七条の規定による認知によられたい︒﹂︵昭和四二年 ︵63︶. 一二月二二目︑基 収 第 四 七 二 二 号 ︶. ︵64︶. との解釈を示している︒この解釈は︑現在では変更さるべきものであろう︒なぜなら︑判例は︑非嫡出子につき父が. した非嫡出子出生届に認知の効力を認めており︑また外国人たる父をもつ子に未認知の子が少なくないことを考えれ. ば︑かかる未認知の子に遺族補償給付の受給資格を認めることは︑大きな意義を有するからである︒さらに︑父によ. 二四七. る出生届がなされている以上︑父子関係の認定も容易かつ確実に行なうことができ︑不正受給のおそれもない︑と思 われる︒. 未認知の子の法的地位.
(28) 早法五八巻四号︵一九八三︶. 二四八. 反対に︑未認知の子が業務上死亡した場合︑生計維持関係にあった生理的父は︑遺族補償給付の受給資格者となる. ことができるのであろうか︒民法上の不法行為にもとづく損害賠償請求と同様の間題がここでも発生する︒この点に. 昭和六年A女はB男と法律上の婚姻をしたが︑間もなく事実上の離婚をし︑以後昭和一八年一月A女. つぎ興味深い裁決例がある︒. ︹事実関係︺. B男が法律上の離婚をするまでこの状態が継続した︒この間︑A女は︑X男︵未認知の子の父︑請求人︶と婚姻の. 儀式を挙げて同居し︑昭和一六年一月Y男︵未認知の子︑被災者︶を出生した︒A女は︑B男が離婚に応ぜず︑こ. のためY男がB男の子として推定され︑B男の戸籍に記載されるのを避けんとして︑Y男をD夫婦の子として虚偽. の出生届をした︒しかし︑実際には︑Y男はB女X男により養育され︑X男の氏を称していた︒昭和一八年一月︑. A女B男は離婚し︑同年五月A女は死亡した︒昭和四〇年四月︑D夫婦は︑長崎家庭裁判所にY男との間の親子関. 係不存在の確認審判をもとめ︑同目確認審判がなされた︒同年五月一八目同審判にもとづきD夫婦から戸籍訂正の. 申請がなされ︑Y男は︑D夫婦の戸籍から除籍された︒同年五月二五目︑X男の依頼を受けた司法書士がY男をX. 男の子として出生届をしたところ︑戸籍係は︑Y男は一応B男の戸籍に入籍すべきであると述べ︑これを受理しな. かった︒司法書士は︑Y男の出生届につき地方法務局へ問い合わせたが︑結論の出ないまま時日が経過し︑昭和四. 三年一〇月︑Y男は︑トラックの運転中の事故により戸籍上無籍のまま死亡した︒X男は︑Y男の死亡が業務上の. 死亡であることを理由に遺族補償給付の請求をしたが︑Y男が被災時に無籍であったことを理由に支給しない旨の 処分がなされ︑さらに審査請求も棄却されたため︑本件再審査請求に及んだ︒.
(29) ︹裁決要旨︺. 遺族補償給付の受給権者となりうる父については︑労災保険法上特別の規定がない︒これを民法上の. 父と解することは従来行政解釈で行なわれているのであって︑その解釈は妥当なものと解される︒そこで請求人が. 被災者の民法上の父と認められるか否かについてみるに︑さきに詳述したとおり︑被災者は死亡当時無籍者であっ. たものであり︑したがって︑請求人は戸籍上の父としては認められていない︒しかしながら︑家事審判の審判理. 由︑関係人の供述を総合し判断するに︑請求人が被災者の父であることは疑いのないものと考える︒しかして請求. 人は︑D男の戸籍から消除された後︑被災者は自分の子であるとする出生届を0市役所に提出し︑同一戸籍に入籍. することについて努力したが︑たまたま前記の経緯により手続法上の法律的解釈がわかれ︑請求人の督促にもかか. わらず︑ついにその手続が完了しなかったものである︒本件については以上のような特殊の事情が存するものであ. って︑労災保険法の運用において︑請求人は被災者の遺族であると認め︑遺族補償給付の受給権者と認めるのが妥. 当であると判断する︒︵労働保険審査会昭和四八年三月七日裁決︑昭和四六年労第四号受給資格関係再審査請求事件労働 保険審査会裁決例集昭和四七年度下九六六頁︶. 本件は︑生理的父に遺族補償給付の受給資格を認めた点に意義を有するのであり︑結論において賛成である︒しか. し裁決の内容からみて︑生理的父子関係を法的父子関係としてすべて承認するものであるとは思われない︒すなわ. ち︑本裁決は︑受給資格者としての父を民法上の父にかぎるとの行政解釈を正当であると明言し︑本件のような事実. 関係のもとで例外的に受給資格を認定しているからである︒本件における事実関係の特殊性として次の二点があげら. 二四九. れよう︒第一に︑本件では︑法的父子関係とほぼ同視しうる程度の父子関係が存在する︒D・Y男間の親子関係不存 未認知の子の法的地位.
(30) 早法五八巻四号︵嚇九八三︶. 二五〇. 在確認審判手続において︑X男Y男との間に父子関係の存在につぎ争いがなく︑これに反する証拠もない︑として︑. XY間の父子関係の存在およびX男の父性承認の意思が推認されている︒第二に︑X男の認知届︑出生届の解怠につ. ぎ︑X男に責められるべき点のないことである︒未認知の非嫡出父子関係にもとづいて行なう父の権利主張は︑父の. 認知権の不行使という事実と相反するものであり︑本来認められるべきものではない︒しかし︑本件のように︑法. 的︑手続的理由により法的父子関係を成立しえなかった場合にまで父の権利主張を否定することは︑父にとって酷な. 結果となる︒本件は︑これらの特殊な事実関係により生理的父子関係に法律効果を付与したのであり︑行政解釈によ る認知主義は︑なお維持されているとみるべきであろう︒. 本裁決の結論は︑未認知の子が遺族補償給付の請求をする場合にも妥当するであろうか︒行政解釈が認知主義を採. 用している現状では︑非常に困難であろう︒しかし︑遺族補償給付を︑不法行為による財産的損害の賠償請求と同様. に考えることも可能であろう︒遺族補償給付が損失補償の性格をもち︑その損失が遺族固有の扶養利益の喪失だと考. えるのであれば︑未認知の子といえども︑父との問に生計維持関係があった場合には︑法律上の子と同様︑喪失した. 扶養利益を補償されるべきである︒労災保険法が民法とは別箇に受給資格者の範囲および順位を法定し︑生計維持関. 係を要件としているのは︑まさに遺族の生活保障を主たる目的としているのであり︑法的身分関係の存在とは必然的. な関係がない︑というべきである︒また生計維持関係を要件とするかぎり︑未認知の子︵特に内縁子︶の受給資格の 認定は︑内縁の場合と比較して著しく困難となることはないであろう︒.
(31) ⇔生活保護法. 生活保護法による保護は︑保護を受けようとする者が個人としてまず可能なあらゆる手段を活用して︑自己の生活. 維持に努め︑それでもなお最低限度の生活を維持できない場合にはじめてその不足部分を補うものとして行なわれる. ︵補足性の原理︑生活保護法四条︶︒補足性の原理は︑資産能力等の活用の原則︵同条一項︶︑親族扶養優先の原則︵同条. 二項︶︑他法優先の原則︵同条二項︶からなる︒未認知の子の生活保護法上の地位に関しては︑親族扶養優先の原則が まず問題となる︒. 親族扶養優先の原則によれば︑生活保護法四条一項︵資産能力等の活用︶の要件が満たされた困窮者であっても︑. 民法に定める扶養義務者が現実に扶養を行なった場合には︑その限度で国による保護は行なわれないことになる︒こ ︵65︶. こにいう﹁民法上の扶養義務者﹂の意義については二つの見解が対立している︒一つは︑これを法律上の扶養義務者. に限るとする説である︒この説によれば︑未認知の子は︑制定法︑判例法上︑扶養の権利を認められないのであるか. ら︑未認知の子の父は︑﹁民法上の扶養義務者﹂ではないことになる︒第二の説は︑民法上の扶養義務者に限定され ない︑とする説である︒これは︑行政解釈が採用する見解である︒. ﹁法律上扶養義務者でない者でも︑その者と被保護者との間の従来の関係が︑社会通念上︑その者が被保護者を. 援助することが当然と思料されるような関係である場合には︑保護を受ける者に対しては︑進んでその援助を受け. 二五一. るように指導すると共に︑必要に応じ︑社会福祉主事又は民生委員等にその斡旋にあたらせること︒﹂︵昭和二五年 六月八日︑社乙発第八七号︶. 未認知の子の法的地位.
(32) 早法五八巻四号︵噌九八三︶. 二五二. この見解によれば︑内縁配偶者はもちろん︑父と未認知の子が同居する場合には﹁社会通念上︑その者が被保護者. を援助することが当然であると思料されるような関係﹂であるから︑その間になされる扶養は︑生活保護法四条二項. の扶養に含まれることになる︒もっとも︑この行政解釈は︑法的身分関係にない者の間に法的義務としての扶養義務. を創設するものではなく︑道義的義務として﹁指導・斡旋﹂するにとどまる︒しかし︑道義的義務であるとしても︑ ︵66︶. 補足性の原理の機能を十分に発揮させようとすれば︑それ以上の意味をもつことになるであろうことは︑充分に考え ︵67︶. られるのである︒この行政解釈が︑親族扶養優先の原則の枠組を逸脱するだけでなく︑﹁家﹂制度的扶養の打破をめ. ざした扶養原理をも無視するものである︑との批判を受けるのも︑道義的義務の強制という点にある︒. 扶養権利義務関係︶の有無に. このように︑生活保護法上の親族扶養優先の原則の解釈において︑生理的父子関係にすぎない場合の法的扶養義務 ︵68︶. の存在にはなお疑問が残される︒生活保護行政としては︑要保護者の法的身分関係︵. かかわらず︑現実生活に着目して保護の要否を決定するほうが便宜である︒この方法によれば︑保護の要否および程. 度は︑世帯を単位として決定されることになる︵世帯単位の原則︑生活保護法一〇条本文︶︒世帯とは︑一般的には消費生 ︵69︶. 活収入および支出を一つにしている生計上の一単位をいうが︑生活保護法上の意義としては︑生計の同一のほか居住 ︵70︶ の同一を必要とされる︒かかる世帯概念によれば︑生理的父子関係しか有しない場合でも︑同一生計︑同一居住の状. 態にあれば同一世帯と認定されることになる︒世帯概念の不当な拡大は︑もとより許さるべきではない︒しかし︑社. 会保障は︑婚姻家族が一体的に危機に瀕した場合︑婚姻家族が本来の機能を果し︑世帯を同じくした生活を営みうる. よう物的条件を整備することを本来の任務とするはずである︒とすれば︑父母と居住︑生計を同︸にする未認知の子.
(33) 太田武男﹁内縁配偶者の労働立法上の地位−遺族補償の問題を中心にー﹂広島法学二巻二. の育成に必要であるかぎりで︑世帯概念は︑なお有用であろう︒ ︵58︶. 大河内一男﹁社会政策・各論︵三訂版と一七一頁︵一九八一年︶︒. 七八年︶︒. 小川政亮﹁家族・国籍・社会保障﹂七五ー七六頁︵一九六四年︶︒. 同旨︑昭和二五年八月八日︑基収第二一四九号︒. 三号一四四ー一四五頁︵一九. 西原道夫﹁遺族給付の法的性格﹂︵我妻先生還暦記念論文集﹁損害賠償責任の研究︵上︶﹂所収︶三九九頁︵一九六一年︶︒. 同旨︑昭和四二年四月六日︑基収第四二号︒ 最判昭和五三年二月二四日︵民集三二巻一号一一〇頁︶︒. 民法上の扶養義務者以外の者のした援助を要保護者が拒否した場合の制裁︵保護申請の却下︶を明言するものとして︑昭. 小川政亮︑前掲論文︵注60︶二三頁︒. 二号五三頁︵一九六五年︶︑赤石壽夫﹁家族法とのかかわりー公的 生活保護法の解釈と運用︵復刻版︶﹂二二〇頁︵一九七五年︶︒. 桑原洋子﹁社会福祉法制要説﹂九〇頁︵一九八三年︶︒. 小山進次郎﹁改訂増補. 東京地判昭和三八年四月二六日︵行裁集一四巻四号九一〇頁︶︑東京地判昭和四七年一二月二五日︵行裁集二三巻一二号 宿︑病気治療のための入院等をあげている︵昭和三八年四月一日︑社発第二四六号︶. 小川政亮︑前掲書︵注60︶八一ー八二頁︒ ). 未認知の子の法的地位. 二五三. 九四三頁︶︒これに対し︑行政解釈は︑居住の同一がなくとも同一世帯として認定しうる場合として︑親の出稼ぎ︑子の寄. ︵70︶. ︵69︶. ︵68︶. 扶助と私的扶養の問題点﹂︵小川政亮編﹁扶助と福祉の法学﹂所収︶二二五頁︵一九七八年︶︒. 深谷松男﹁夫婦扶養の法的構造﹂金沢法学一六巻一. 和四〇年四月一日︑社発第一七四号がある︒. ( ( ^ ( ( ( ( ( 66 65 64 63 62 61 60 59 ) ) ) ) ) ) ) ). ( 67 ) ( 71.
(34) むすび. 早法五八巻四号︵一九八三︶. 五. 二五四. 未認知の子は︑自然的血縁関係が存在するにすぎない場合には︑父との間で包括的権利義務関係が生ずることはな. い︒現行民法が認知主義を採用する以上︑これは当然の帰結である︒しかし︑民法︑社会保障法においては︑個々の 権利義務関係がかならずしも法的身分関係の存否によってのみ決定されない場合もある︒. すでに見たように︑未認知の子も︑不法行為にもとづく損害賠償︑身上監護︑労災保険法上の遺族補償給付︑生活. 保護に関しては︑父との間に生計維持関係ないし共同生活のあるかぎり︑認知ある子と同様の地位を取得することが. できる︒換言すれぽ︑未認知の子といえども︑第三者に対して︑一定の生活事実によりその身分関係が公示されてい. るといえよう︒かかる公示方法は︑認知のように完全なものではないがゆえに︑身分関係から生ずる包括的権利義務. 関係を絶対的︑画一的に発生させる方法としてこれを承認することはでぎない︒しかし︑生計維持関係または共同生. 活といった生活事実が存在する場合︑その生活事実に応じて︑個別的に権利義務関係を承認することは︑十分に可能. であると思われる︒このことは︑すでに︑内縁や事実上の養子において行なわれており︑未認知の子の場合も同様に. 考えることがでぎよう︒かくして︑未認知の子の扶養に関しても︑内縁子のように父母と同居する未認知の子は︑婚. 姻費用概念により救済することができ︑反対に父と生活を共にしない場合には︵家事審判手続による場合はともか く︶実体的権利としての扶養請求権は︑否定されることになるのである︒.
(35)
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