博 士 ( 薬 学 ) 影 近 克 治
学 位 論 文 題 名
触媒的不斉炭素一炭素結合生成反応に関する研究
カプネランの触媒的不斉合成ー
学位論文内容の要旨
生物活 性を 有する 化合物 を化学 的に 合成す る場合 いかに して光 学活 性体と して合成するかが重 要な問 題とな る。 その方 法の中 でも触 媒的不 斉合 成は理 論的に は触媒 量の 不斉源から無限の光学 活性化 合物が 得ら れるこ とから 効率及 び経済 性に おいて 優れて いる。 特に ルイス酸,希土類遷移 金属を 用いた 触媒 反応は 金属上 の不斉 配位子 を設 計する ことに より様 々な 化合物に適用でき得る 可能性 がある こと から多 くの研 究がな されて いる 。しか しなが ら遷移 金属 を用いた触媒的不斉合 成にお いて炭 素― 炭素結 合生成 反応の 成功例 は少 なく, 現在最 も重要 な研 究課題のーっである。
そこで 筆者は ,生 物活性 及び合 成的に も興味 深い 化合物 である カプネ ラン 類をはじめとするポリ シク口 ペンタ ノイ ドの触 媒的不 斉合成 を検討 した 。
カプネ ラン 類は軟 珊瑚よ り単離 され たトリ キナン 型セス キテル ペン である 。カプネランの生物 活性は 外敵に 対す る化学 防御物 質であ るとさ れて いる。 中でも 高度に 酸素 官能基化されたカプネ レンテ トラオ ール はより 強カな 作用を 示すこ とか ら抗菌 活性等 の生物 活性 発現物質のりード化合 物とし て期待 され ている 化合物 であり ,高効 率な 合成法 の開発 が望ま れて いる。当研究室では最 も高 度 に 酸 素 官 能基 化 さ れた カプネ レンテ トラオ ール のdl体で はある が初 めての 全合成 に成功 し報告 してい る。 しかし ながら 従来法 で撒中 間体 を得る 方法と して高 価な 酢酸パラジウムを化学 量論量 用いる ため に大量 供給に は不向 きであ り, 触媒化 するこ とが不 可能 であった。又,カプネ ラン類 の不斉 合成 は不斉 源を化 学量論量に用いた例があるのみで触媒的不斉合成の例はナょい。今 回 筆 者 は カ プ ネ ラ ン の 新 規 合 成 法 の 開 発 及 び 触 媒 的 不 斉 合 成 に っ い て 検 討 を 行 っ た 。
[1]新規 合成法 の開発
当研究 室に て開発 された ヘック 型反 応を用 いたエ ナンチ オ場選 択的 触媒的 不斉環化反応をプ口 キ ラ ル な5ー(3― ヨ ー ド ブ夕 ―2― 工 ニル)5− メ チル シ ク ロ ペ ンタ ジ エ ン に 用 いる な ら ば 不 斉合成 も可能 な触 媒反応 となる が予想 された 。そ こでま ず二座 配位子 であ るビスジフェニルフォ スフア ノエタ ンを 配位子 として 用い閉 環反応 の検 討をお こなっ た。酢 酸パ ラジウム(10mol%),
ビス ジ フ ェ ニ ルフ エ ス フ ア ノ工 夕ン(10mol%)を 触媒 としテ 卜ラブ チルア ンモニ ウム アセテ ― ト存在 下60℃ に加熱 すると いう条 件によ り目 的とす る閉環 体を位 置及 び立体 特異的に56%の収率 にて得 る事に 成功し た。 この閉 環体か らは収率良くカプネラン合成中間体に誘導することができ,
カプネ ランの 新規触 媒的 合成法 を確立 するこ とが できた 。
[2]触媒 的不斉 合成の 検討
不斉配 位子 を用い 触媒的 不斉合 成の検 討を 行った 。しか しなが ら種 々条件 検討を行ったが最も 良い 結 果 で も トル エ ン 溶 媒 を 用い 触 媒 と し て[Pd (allyl) Cl]2(10mol%), 不斉 リガン ドと して (R,R)―chiraposを用 い た 時 の 収 率61% , 不斉 収 率20%eeが 限 度 であり 高い不 斉収率 を得る ことは できな かっ た。
ヘック 型触 媒的不 斉環化 反応で 高い不 斉収 率を得 るため には不 斉誘 起の際 ,パラジウムカチオ ンを中 間体に 経るこ とが 必須で あり基 質とし てヨ ウ化ア ルケニ ルを用 いたと きは銀塩の添加が必 要であ った。 しかし なが ら本反 応系に おいて は銀 塩の添 加によ り基質 の分解 が生じるために銀塩 存在下 での反 応が不 可能 であっ た。
一方, ビニ ルトリ フラー トがパ ラジウ ムに 酸化的 付加を した場 合は ,銀塩 の存在なしにパラジ ウムカ チオン を与え るこ とが予 想され た。こ の反 応性を 活用し て前記 問題点 を解決すべくアルケ ニ ル ト リ フ ラ ート を 有 す る 基質5ー メ チ ル‑5―(3―ト リ フ ル オ ロメ タ ン ス ル フォ ニ ル オ キ シ
‑3一 ブ テ ン ー1― イ ル ) シク 口 ペ ン タ ジェ ン を 用 い て触媒 的不斉 環化 反応を 検討し た。ま ず酢 酸パラ ジウム (10mol%) ,ビス ジフェ ニル フォス フィノ エタン (10mol%) ,テトラブチルアン モニウ ムアセ テ―ト 存在 下トル エン溶 媒中50℃に加 熱した ところ61%の 収率に て閉環体を得るこ とがで きた。 さらに ,不 斉リガ ンドを 用い検 討を おこな ったところ酢酸バラジウ厶(5 mol%),
(S) ーBINAP (6. 4mol% ) を用 い る こ と によ り 収 率76% ,26%eeの 不 斉収 率にて 閉環体 を 得るこ とに成 功した 。こ の反応 は室温 に反応 温度 を下げ ても速 やかに 反応し たが収率及び不斉収 率の変 化は見 られな かっ た。次 に不斉 収率を 向上 させる べく溶 媒検討 をおこ なったところ溶媒の 極性 が 増 す に 従い 不 斉 収 率 が 向上 しDMSOを 溶 媒 と した と き80%と い う 高 い値に て得 られて 来
[3]C環ユニットの導入の検討
求核剤としてカルバニオンを用いればヮンポット中で二度の炭素―炭素結合生成反応をおこな うことができ,その結果としてカプネランのC環構築ユニットを位置及び,立体特異的に一挙に 導入することができると考え検討を行った。まず,求核剤としてジアステレオマーの生成しない マ口ン酸ジメチルを用い条件検討を行った。その結果,テトラブチルアンモニウムアセテートの と きと 同 様DMSO溶 媒中 ,酢 酸 パラ ジウム,(S)‑ BINAPを触媒として用 いるという条件 で収率77%不斉収率68%eeという値で最も収率及び,光学収率良く閉環体が位置及び立体特異 的に得られることがわかった。なおこの反応において求核剤はエナンチオ場を選択し閉環した後 に生成するガ―アリルに対するものであり不斉収率には直接関係はないと思われるが,求核剤を テ卜ラブチルアンモニウムアセテートからカルバニオンに変えることにより不斉収率が低下した ことから恐らく求核剤はパラジウムカチオンの対アニオンとしても働いていると考えられる。こ のことはカルバニオンのほうが溶媒効果をより顕著に受け易いことからも予想された。そこで更 に不斉収率を向上させるべく,より極性の高い溶媒を検討してみたが基質が壊れてしまい閉環体 は得られてはこなかった。次に光学収率の向上及び様々なポリシク口ペンタノイド化合物合成へ の応用を目的とし,基質の置換基とエナンチオ場選択性との関係を調べてみた。立体効果を見る ために置換基にプロピル,イソプ口ピル基を有する基質を合成し閉環反応を検討したが光学収率 に変化は見られなかった。このことから基質の置換基の大きさと不斉収率には関係が無いことが わかった。
以上の知見を元に種々求核剤の検討を行った。様々なカルバニオンやアミンを用いた場合にお いても収率良く閉環体を得ることに成功し,なかでもC環構築ユニット導入に最も適していると 思われる求核剤である4―ク口口アセト酢酸メチルエステルを用いた場合においても50%の収率 にて閉環体も得ることができた。以上のことから本反応系は求核剤を選択することにより,カプ ネラン合成の短工程ルートの開発及び様々なポリシク口ペンタノイド化合物合成への応用が可能 なことがわかった。
学位論文審査の要旨
生物 活性 を有す る化合 物を化 学的 に合成 する場 合いか にして 光学 活性体 として合成するかが重 要な 問題と なる 。その 方法の 中でも 触媒的 不斉 合成は 理論的 には触 媒量 の不斉 源から無限の光学 活性 化合物 が得 られる ことか ら効率 及び経 済性 におい て優れ ている 。特 にルイ ス酸,遷移金属,
希土 類を用 いた 触媒反 応は金 属上の 不斉配 位子 を設計 するこ とによ り様 々な化 合物に適用でき得 る可 能性が ある ことか ら多く の研究 がなさ れて いる。 しかし ながら 遷移 金属を 用いた触媒的不斉 合成 におい て炭 素―炭 素結合 生成反 応の成功例は少なく,現在最も重要な研究課題のーっである。
この ような 観点 から影 近克冶 君は, 生物活 性及 び合成 的にも 興味深 い化 合物で あるカプネラン類 をは じめと する ポリシ 口ペン タノイ ドの触 媒的 不斉合 成を検 討した 。
カプ ネラ ン類は 軟珊瑚 より単 離さ れたト リキナ ン型セ スキテ ルペ ンであ る。カプネランの生物 活性 は外敵 に対 する化 学防御 物質で あると され ている 。中で も高度 は酸 素官能 基化されたカプネ レン テトラ オー ルはよ り強カ な作用 を示す こと から抗 菌活性 等の生 物活 性発現 物質のりード化合 物と して期 待さ れてい る化合 物であ り,高 効率 な合成 法の開 発が望 まれ ている 。既に柴崎,間獺 は 最 も 高度 な 酸 素 官 能基 化 され たカ プネレ ンテ卜 ランテ トラオ ート のdl体で はある が初 めての 全合 成に成 功し 報告し ている 。しか しなが ら従 来法で は中間 体を得 る方 法とし て高価な酢酸パラ ジウ ムを化 学量 論量用 いるた めに大 量供給には不向きであり,触媒化することが不可能であった。
又, カプネ ラン 類の不 斉合成 は不斉 源を化 学量 論量に 用いた 例があ るの みで触 媒的不斉合成の例 はな い。今 回影 近克治 君はカ プネラ ンの新 規合 成法の 開発及 び触媒 的不 斉合成 にっいて検討を行
生 勝
子 幸
和
民 正
美 文
崎
沢
林
柴
森
小
授 授
授 授
教
教
教
救
助
助
査
査
査
査
主
副
副
副
ラジウム(10mol%),ビスジフェニルフォスフィノ工夕ン(10mol%)を触媒としてテ卜ラブ チルアンモニウムアセテート存在下60℃に加熱するという条件により目的とする閉環体を位置及 び立体特異的に56%の収率にて得る事に成功した。この閉環体からは収率良くカプネラン合成中 間 体 に 誘 導 す る こ と が で き , カ プ ネ ラ ン の 新 規 触 媒 的 合 成 法 の 確 立 に 成 功 し た 。
[2]触媒的不斉合成の検討
不斉配位子を用い触媒的不斉合成の検討を行った。しかしながら種々条件検討を行ったが最も 良い結果でもトルェン溶媒を用い触媒として[Pd(allyl) Cl]2(10mol%),不斉リガンドと して(R,R)―chiraphos(10mol%)が用いた時の収率61%,不斉収率20%eeが限界であり 高い不斉収率を得ることはできなかった。ヘック型触媒的不斉環化反応で高い不斉収率を得るた めには不斉誘起の際,パラジウムカチオンを中間体に経ることが必須であり基質としてヨウ化ア ルケニルを用いたときは銀塩の添加が必要である。しかしながら本反応系においては銀塩の添加 に よ り 基 質 の 分 解 が 生 じ る た め に 銀 塩 存 在 下 で の 反 応 が 不 可 能 で あ っ た 。 この点を 解決すべき5一メチルー5(3―トリフルオ口メタンスルフオニルオキシ―3―ブテ ン‑1―イン)シク口ペンタジエンを用いて触媒的不斉環化反応を検討した。種々の不斉ルガン ドを用い検討をおこなったところ酢酸パラジウム(1. 7mol%),(S)―BINAP (2.lmol%),
Bu4 NOAc (2. 9equiv.)を用いることにより収率86%,80%eeの不斉収率にて閉環体を得るこ と に 成 功 し た 。 更 に こ の 閉 環 体 か ら カ プ ネ ラ ン ヘ の 効 率 的 変 換 に も 成 功 し た 。 以上,影 近克治君は触媒的不斉合成分野で博士論文に十分相当する顕著な成果をあげた。