密
教
文
化
表 示 ・
含 意 ・
期 待 の 理 論(I)
-デ ィ グ ナ ー ガVSバ
ル ト リ ハ リ(2)-
原
田
和
宗
(1) プ ロ ロ ー グ 服 部 正 明 博 士 の 労 作Z) Dignaga, On Perceptionは 、 玲 伽 行 〔唯 識 〕 学 派(Yogacara〔-Vilianavadin〕) が 産 ん だ イ ン ド有 数 の 論 理 学 者 (2) デ ィ グ ナ ー ガ(Dignaga: 480-540) の 『知 識 論 集 成 』(PS. Tibe七語 訳 で 現 存) 第I「 知 覚 」 章 に 捧 げ られ た 良 心 的 な 翻 訳 研 究 書 で あ る 。 そ の 英 語 訳(pp. 21-70) の 価 値 を高 め 、 本 書 の 最 も重 要 な 成 果 を 盛 る と考 え られ る 部 分 は 、 後 代 の 哲 学 文 献 に 保 存 され るPS Iの sanskrit諸 断 片 や 類 似 文 を 網 羅し た 綿 密 ・荘 大 な 註 記(Notes to the Translation, pp. 71-172) で あ る 。 我 々
は そ の 興 味 あ る 一 註 記(P. 108, 1. 69) に し ば ら く足 を 止 め た い と 思 う。註
記 はPS Iの 下 記 の 様 な 半 詩 頚 に対 し て 施 さ れ る 。
(3) visaya, jianatajjianaviseaat tu dvirupata/
【答 論 】 しか し 、 〔知 は 〕 二 形 相 を 有 す る 。 一(A) 対 象 の 知 と(B) か か る(対 象 の 知) の 知 と に 区 別 が あ る か ら で あ る 。(-PS Ik. 11ab)
こ れ に 関 連 し て 問 題 の 註 記 は イ ン ド の 代 表 的 な 言 語 哲 学 者 バ ル ト リハ リ (Bhartrhari: 450-510) の 「文 章 単 語 篇 』(VP) 第III章 第i節(Jatisamuddesa) の 一 詩 頬(k. 105) へ の 参 照 を 促 が す 。
ghatajnanam iti jianam ghatajanavilaksanam/ (4) ghata ity api yaj jnianam visayopanipati tat//105//
(B)「 〔こ れ は 〕 壺 の 知 で あ る 」 と い う知 は(A) 壷 の 知 と は 異 質 で あ る 。(A)「 〔こ れ は 〕 壺 で あ る 」 と い う 知 は 〔外 界 〕 対 象 に 附 随(or接 触) し て 生 じ る の で あ る 。
(Vp III§. ik. 105)
つ ま り 、Dignagaが 対 象 の 知(visayanna) と 対 象 の 知 の 知(visayalaana-jnana) の 区 別 な る 論 拠(PS I k. 11ab) の 着 想 を 得 た の は こ の: Bhartrhari
の 壷 の 知(ghatajnanam) と壷 の 知 の 知(ghatajanajaana) の 異 質 と い う論 拠 (VP III §. ik. 105) か ら で あ る こ と を 服 部 氏 は 見 事 に 指 摘 さ れ た 訳 で あ っ て 、 そ の 御 指 摘 は 、-PS I k. llabの 或 るskt. 断 片 が 示 す"ghatajnana-" (5) (壺 の 知 …) と い う異 読 の存 在 に よ っ て 、 い っ そ う納 得 の い く も の で あ ろ う。 し か し、 我 々 が 論 拠 の 共 通 性 以 上 に 注 意 を 払 うべ き な の は 、 か か る 論 拠 を 提 出 す る 双 方 に お け る 意 図 ・文 脈 の 相 違 に つ い て で あ る 。VP I §. i k. 105に 先 行 す る 諸 詩 碩 を 遡 れ ば 、Bhartrhariに お け る文 脈 が 歴 然 と す る 。 【反 論 】 〔類 と の〕 結 合 学説 に あ って は、 恰 か も諸(外 界) 対象 にお け る如 く、 諸 知 に お いて も皆 〔そ れ らの 同一 性 の根 拠 と して の〕 諸 類 が 存在 す る。 そ れ ら くの (知 の 諸類) が 〔外 界 〕 対 象 〔の 諸類 〕 の証 明者 で あ る。(VP III §i. k. 102) 【答 論】 認 識 対 象 に備 わ る普 遍 のみ が 諸 認 識 〔の 同 定 〕 に資 す る。 決 して 認 識 対 象 の如 くに は、 認 識 が 〔それ 自身 に備 わ る類 とい う〕 別 の形 相 に よ って 確 定 (7) され る の で は な い。(VP III §. ik. 103) 恰 か も灯 光 が 他 の 照 明 に よ って 照 らされ な い の と同 様 に 、知 の形 相 も他 の 知 に (8) よ って 把 捉 され な い 。(VP III §. ik. 104) そ れ ぞ れ の 壷(外 界 の個 物) が 「こ れ は 壷 で あ る 」 と同 定 さ れ る根 拠 は そ れ ら 自 身 に 共 通 に 備 わ る 壷 性(外 界 の類=普 遍) の 存 在 で あ る 。 と は い っ て も 、 そ れ ぞ れ の 知 を 「こ れ は 知 で あ る 」 と 同 定 す べ く、 知 性 と い う類(知 の 普 遍) を 同 じ 様 に 要 請 で き る か 、 と い え ば 、 そ う で は な い 。 何 とな れ ば 、 知 の形 相 〔自体 〕 は 〔他 の 知 に よ って 〕 対 象 とい う形 で 把 捉 され な い か ら、 そ して 、 〔知 〕 独 自の形 相 は 〔知 に顕 現 す る〕 対 象 の形 相 を離 れ て (9) 決 定 され な い か らで あ る。(VP IIi §. ik. 106) こ の 知 を 「布 の 知 」 で は な く 「壷 の 知 で あ る 」 と決 定 す る も の は 、 対 象 の 形 相 と し て の 壷 に 他 な ら な い 。 そ の 際 、 外 界 対 象 と し て の 壷 の 同 一 性 の 根 拠 た る 壷 性 が 、 知 に 顕 現 す る 対 象 の 形 相 を 通 じ て 壷 の 知 の 同 定 に も資 す る 訳 で あ る 。 従 っ て 、 壷 の 知 と壷 の 知 の 知 の 異 質 と い うBhartrhariの 論 拠(VP I §. ik. 105) が 強 調 し た か っ た も の は 、「対 象 に 附 随 発 生 」と い う語 句 が 示 す 様 に 、 知 の 同 定 の 根 拠 と し て の 「外 界 対 象 の 存 在 」 な の で あ る 。 と こ ろ で 、Dignagaに よ っ て 同 種 の 論 拠 が 提 示 さ れ て い る の は 、 表 示・ 含 意 ・ 期 待 の 理 論 ( I)
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【反 論 】 更 に 、 知が 〔対 象 と知 自身 の二 〕 形 相 を 有 す ると 、 ど う い う訳 で 知 られ (10)るの か 。(Vrtti ad-PS I k. llab)
と い う設 問 で 導 入 さ れ る 「知 の 二 形 相 性 」 の 証 明 と い う課 題 に 対 す る 第 一 の 解 答(k. llab) と し て で あ っ た 。 引 き 続 き 与 え られ る 第 二 の: 解 答(k. llc) は 当 該 課 題 に 加 え て 、 「知 の 自 己 認 識 」 の 証 明 と い う残 る最 終 的 な 課 題 の 解 決 に も寄 与 す べ き 一 石 二 鳥 の 論 拠 た る 役 目 を負 う も の で あ る 。 又 、 後 時 に 〔知 に つ い て 生起 す る〕 想 起 か ら して 、(PS I k. llc) 「〔知 は〕 二 形 相 を 有 す る」 と続 く。 知 覚経 験(anubhava) よ り後 の時 にな って 、 対 象 につ いて と同 じ く、 知 につ いて も想 起(smrti) が 生 じる と い う理 由で 、 知 は 二 形 相 を 有 し(Vrtti ad PS I k. llc)、且 つ 、<自 己認 識>さ れ るべ き(対 象) で (11) も あ る 。(Vrtti ad PS I k. 11d) も と よ り 、 「知 の 二 形 相 性 」 は 、Bhartrhariも こ れ を 容 認 す る 他 、 外 界 対 象 を 前 提 に 置 く経 量 部(sautrantika) 的 な 有 形 象 知 識 論(sakarajnanavada) (12) の 許 で す ら<自 己 認 識>と も 併 せ て 成 立 し得 る 理 論 で は あ る 。 し か る に 、 上 記 の 二 種 の 論 拠 を 援 用 し た(i・ii)「 知 の 二 形 相 性 」 の 証 明 か ら(iii)<自 己 認 識>の 証 明 へ と次 第 す る 両 課 題 の 決 着(PSIk. 11&72tの は 、 そ れ ら に 先 立 つ 次 の 如 き(我 々に は御 馴 染 み の 「陳那 の三 分 説 」 の) 偶:
(i)〔知 に 〕 顕 現 す る(対 象 の形 相) が 真 知対 象(prameya) で あ り、 更 に(ii
・iii) 認 識主 観 の形 相 と 〔自 己〕 認識 と が 〔それ ぞ れ 〕 真 知 手 段(pramapa) と 〔真 知 〕結 果(phala) た る もの で あ る。 従 って 、三 者 は 〔相 互 に 〕 分 離(区 (13)
別) されない。(PS
I k.
10)
に よ っ て予 め設 定 され た、 外 界対 象 を もは や 前 提 しな い唯 識 的 な有 形 象 知
識 論 が含 む諸 契機 の個 別 ・段 階 的 な証 明 と して 、 い わ ば、Bhartrhariや
経 量 部 の知 識 論 とは一 線 を画 す る枠 組 の 下 に配 置 され た も の に他 な らない 。
再 言 す れ ば、Bhartrhariに
とっ て、 対 象 の形 相 を取 り除 い た 知 独 自 の
形 相 は絶 対 的 に把 捉 不 可能 で あ り、 そ の 同 一性 を知 の普 遍 や他 の 知 に よ る
把 捉 同 定(対 象化) に よ って根 拠 付 け る こ とは で きな い 。 それ を根 拠 付 け る
もの は 他 の知 と も共 通 す る対 象 の形 相 以 外 に な く、 更 に、 そ の形 相 を知 に
将 来 し、 当該 形 相 の 同 一 性 を根 拠 付 け る外 界 対 象 の普 遍 に必 然 的 に頼 ら ざ
る を得 な い 。以 上 が、 「
壷 の知 云 々」 とい う論 拠 でBhartrhariが
言 わ ん
-82-と し た こ -82-とで あ っ た。
他 の知 に よ る知 の同 定 が 無 限 遡 及 を招 く 等 の理 由(PS
I k. 12) か らや
は り採 用 し難 い とす る点 でBhartrhariに
同意 す るDignagaは
、 それ に
反 し て、 知 の<自 己認 識>(知
の形相は他な らぬ当該の知 によって 自覚 され る)
とい う新 学説 の導 入 に よ って、 知 の普 遍 は お ろ か、 他 の知 に も、 外 界対 象
に も、 対 象 の普 遍 に も頼 らな い 自己完 結 的 な認 識 論 体 系 の構 築 を計 画 した 。
「
対 象 の知 云 々
」 と い う論 拠 に よ る 「知 の二 形 相 性 」 の証 明 は、 そ の 構 築
(14) 過 程 の 初 期 的 段 階(又 は 基 礎工 事 的) を 表 わ す も の で あ る 。 服 部 氏 の 指 摘 さ れ た 、Dignagaの 知 覚 論 の 分 野 に お け るBhar七rhariか ら の 論 拠 の 借 用 と、 今 我 々 が 確 認 し た 、 同 種 の 論 拠 に 託 し た 両 者 の 意 図 の 相 違 と い う対 照 的 な 事 実 関 係 は 、 図 らず も、Bhar七rhariの 影 響 が 最 も際 立 つ 意 味 論 の 分 野 に お け るDignagaの 業 績 を 理 解 す る 上 で も貴 重 な 指 針 を 与 え て くれ る 。-DignagaのBhartrhariへ の 親 密 な 依 存 は そ の 見 せ 掛 け の 姿 と は 懸 絶 し た 思 想 上 の 溝 と 思 想 的 対 決 と を 孕 む 、 と。 1. <意 味 論 の 三 定 式> PS V研 究 の 活 況Dignagaは 知 覚 論 ・推 理 論 ・論 証 論. 意 味 論 の 四 部 門 か ら成 る 仏 教 知 識 論(Pramapavada) の 整 然 た る 体 系 をPS全 六 章 に 大 成 さ せ る 。 ア ポ ー ノ・(apoha) 学 説 ・<直 観>(pratibha) 学 説 の 二 段 構 え の 彼 の 意 味 論 は そ の 第V章 を 占 め る 。 E. Frauwallner(1898-1974) ・武 邑 尚 邦 ・北 川 秀 則(1921-1975) ・服 部正 明 氏 ら 四 博 士 の 主 導 で PS I, I, III, IV, VI諸 章 の 翻 訳 研 究 ・原 典 出
(15) 版 が 一 応 整 え られ て い く傍 ら で 、PS Vは 長 く放 置 さ れ る状 態 が 続 い た 。 尤 も、Th. steherbatsky(1866-1942) ・伊 原 照 蓮 両 博 士 が 僅 か な が らPSV (16) 研 究 に 先 鞭 を つ け た が 、 先 駆 的 且 つ 部 分 的 研 究 な る が 故 の 宿 命 的 と も い え る 弊 害 を 免 れ な か っ た 。 即 ち、Dignagaのapoha学 説 を ダ ル マ キ ー ル テ ィ(Dharmaklrti: 600-660) 風 に 解 釈 し て い く傾 向 な ど で あ る 。 以 降 の 学 術 表 示・ 含 意 ・ 期 待 の 理 論 ( I)
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(17)書 や 研 究 論 文 が代 々(無 批判に) 踏 襲 して き た この解 釈 傾 向 の払 拭 に繋 が
る、
本 格 的 な原 典 研 究 の幕 開 け は ジ ャイ ナ 学僧M.
Jambuvijaya師
に よ る
(18) PS Vの 大 量 のskt. 断 片 の 収 集 と 部 分 的skt. 還 元 訳 の 試 み(1976) に 侯 た ね ば な ら な か っ た 。 Jambuvijaya氏 の 労 に 酬 い た の は 桂 紹 隆・ 服 部 正 明 ・R・P. Hayesら 三 (19)氏 とR. Herzberger女 史 で あ る 。 桂 氏 の"The Apoha theory of Dignaga" ('79) は 短 篇 な が ら 、 学 界 で 初 め てDignagaのapoha学 説 の 核 心 部 を
(20)
明晰 に分 析 した画 期 的 な論 文 で あ る。 部 分 訳 を含 む数 篇 の貴 重 な論 文 を も
の され てい た服 部 氏 は 遂 にPS
V及
び ジ ネ ー ン ドラブ ッデ
ィ(Jinendrabu-(21)
ddhi: ca 8 C.) の 複 註(PST) のTibetan textsの 良 心 的 な 校 訂 本(, 82) を
世 に 送 つ た 。 ご く最 近 に は 、PS V全 体 の 約1/2乃 至2/3に 相 当 す る 学 界 初 の
英 訳 を 収 め た 注 目 す べ き二 つ の 学 術 書 の 刊 行 が 相 次 い だ 。Herzberger女
史 のBhartrhari and the Buddhista(86) とHayes氏 のDignaga on
(22)
the Interpreation of Signs(87) で あ る 。
PS V研 究 資 料 と し て のVPの 有 効 性 筆 者 も数 年 前 か ら 本 学 『仏 教 学 会 報 』 誌 にPSVのskt. 断 片 を 中 心 と す る未 熟 な 「研 究 ノ ー ト(一)-(三〉」 (23)
を連 載 させ て頂 い た。 同誌10・11号(84-85)
でPSVの
諸 断 片 か ら<表
示 対 象 の三 条 件>・<意
味 論 の三 定 式>をDignagaの
単 語 及 び構 文 の 意
(24)味 論 の二 大 要 件 と して 再 現 し、 両 要 件 の構 造 的対 応 を指 摘 した 。12号(86)
で はPSIの
諸 断 片 か ら<推 理 論 の三 定 式>を
再 現 した 上 で 、<推
理論
の三 定 式>→<意
味 論 の 三 定式>→<表
示 対 象 の三 条 件>の
順 序 で彼 の
apoha学 説 が形 成 され た こ とを論 証 してみ た。
残 る第 三 の 体 系 的要 件(文
章 の意 味論) と して の<直 観>学 説 は先 学 の
(25)御 指 摘 の通 りそ の大部 分 がBhartrhariか
らの借 用 物 で あ る た め、Skt. 断
片 に従 来 制 約 され て い た我 々 は こ こに至 っ て外 部 の豊 富 なsk七 ・資 料 、 つ
ま り、PS Vが
依 拠 したVP並
び にそ の 関 連 文献(註 釈類) か ら貴 重 な援
助 が 得 られ る こ とに気 づ か され る 。 か く して、 こ の<直 観>学 説 を手 始 め
に、 我 々 は上 述 の様 な 外 部 資 料 との 入念 な 比 較 検 討 に よ るPSVの
本 格
的 な 原 典 解 明(Skt. 還元 作業を含む) に漸 く乗 り出 し、 そ の成 果 報 告 を 同
『会 報
』13号(87)
以 下 に 「
文 章 の表 示 対 象 と して の<直 観>と<自
己認
(26) 識>」 と 題 し て 連 載 し始 め た 。 そ うい っ た 資 料 比 較 の 際 に 我 々 が 従 うべ き 解 釈 学 上 の 一 指 針 と し て 予 め 要 請 し た の が 「Dignaga vs Bhartrhari」 と (27) い う視 点 で あ っ た 。 そ の 視 点 に つ い て は 上 掲 誌13号 に 詳 述 し た 他 、 本 稿 壁 頭 で も プ ロ ロー グ の 形 を か り て 灰 め か し た つ も り で あ り、 今 は 再 説 し な い 。 <直 観>学 説 ほ ど極 端 で は な い に せ よ 、Bhartrhariの 影 響 力 は 講PS V 全 般 に 波 及 し た 以 上 、 同 じ方 針 下 の 研 究 、 つ ま り、 「Dignaga vs Bhartr-hari」 な る 視 点 に よ る 外 部 資 料 と PS Vと の 比 較 と い う研 究 法 が 拙 「研 究 ノ ー ト」 で 断 片 資 料 か ら導 出 し た 二 つ の 体 系 的 要 件 に も 或 る 程 度 通 用 す る の で は な い か 、 と予 想 さ れ よ う 。 本 稿 は そ の 一 方 の 要 件<意 味 論 の 三 定 式>に つ い て こ の 方 法 を試 み る も の で あ る 。 PS Vk. 1の 語 る も の 「他 者 の 排 除 の 考 察 」(Anyapohapanksa) と 題 す るPSの 第V章 をDignagaは 次 の 如 く導 入 す る 。uktam pramanadvayam. kecic chahdam api pramapantaram manyante. tatra,
(28)←(28)(29)
na pramapantaram sabdam anumanat…(Skt. 遠 兀 訳 を含 む 。)
〔第1章 で 〕 二 種 の 真 知 手 段(量) が 述 べ られ た 。 或 る人 々は 「証 言 に よ る知 (聖言 量) も別 〔種 〕 の(つ ま り第 三 の) 真 知 手 段 で あ る」 と考 え る 。 それ に対 し て 〔答 え る〕。 証 言 に よ る知 は推 理(比 量) と別 〔種 〕 の 真 知 手 段 な の で は な い 。 …(PS V k. lab.) こ の 導 入 文 は 、 そ の 章 が 「推 理 と証 言 に よ る 知 と の 同 質 性 」 の 証 明 の 為 に 設 け られ た の だ と い う第V章 執 筆 の 動 機 を 一 見 平 明 に 語 る 。 実 は 、 「推 理 と証 言 に よ る 知 と の 同 質 性 」 な る 論 題 の 許 にapoha学 説 を 提 出 す る こ と はDignagaだ け の 特 徴 とい え る 。 そ の 同 じ論 題 下 で の 当 該 学 説 の 導 入 は 彼 以 降 に踏 襲 さ れ た 形 跡 が な い か ら で あ る 。 し か も 、 先 行 す るPSの 第 I「 自 己 の 為 の 推 理 」 章 前 半 に も 同 じ論 題 が 既 に 登 場 し て い た に も拘 ら ず 、 (30) apoha学 説 は そ こ で 何 の 貢 献 も し て い な い 以 上 、Dignaga自 身 こ の 論 題 の 解 決 にapoha学 説 が 絶 対 不 可 欠 だ と考 え て い た 訳 で は な い 。 寧 ろ 、 こ 表 示 ・ 含 意 ・ 期 待 の 理 論 ( I)
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の 論 題 を 逆 に 必 要 と し て い た の は 彼 のapoha学 説 の ほ うで あ る 。 そ の 事 情 は 、 上 掲 の 導 入 偶 の 残 余 部 分 、 即 ち 、 「推 理 と証 言 に よ る 知 と の 同 質 性 」 を根 拠 付 け る 彼 自 身 の 言 明 か ら示 唆 さ れ る 。 -tatha hi sab/ (31) krtakatvadivat svartham anyapohena bhasate//1//何 と なれ ば 、 〔<他 者 の 排 除>に よ って<非 恒 久性>等 の証 因 保 持 者 を 理 解 さ
せ る〕<作 られ た者 性>等 〔の 証 因 〕 の如 く、 それ(語) も 自 己の 表 示 対 象 を
<他 者 の排 除>に よ って 表 示 す るか らで あ る。(PS V k.lb2-d)
証 言 に よ る 知(sabda言 語 的認 識) を聴 者 に もた らす も の が 文 字 通 り証 言 、
つ ま り語(sabda) で あ る様 に 、 推 理(anumana) を 推 理 当 事 者 に 得 さ せ る の
は 三 条 件(trirupa三 相) を 備 え た 証 因(lihga) で あ る 。Dignagaは 語 の 機
能(vyapara) を か か る 証 因 の 機 能 に 等 置 し、 そ れ ら の 等 し い 機 能 を<他 者 (32) の 排 除>(anyapoha) と 命 名 す る 。Frauwallner氏 以 来 指 摘 さ れ て い る 様 に 、証 因 の 機 能 を<他 者 の 排 除>と す る 見 解 、い わ ば 推 理 論 に お け るapoha (33)
学 説 は 旧著 『論 証 学 の 門戸 』(π の に萌 芽 し 「能証 の 門 戸 』(Hetumukha)
を経 て PS IIに 継 承 され た か ら、 上 掲 の言 明(PS V k.
1) は、 語 の表 示
対 象 を語 の もつ<他 者 の排 除>機 能 に求 め るDignagaの
着 想 が 元 々証 因
の機 能 を<他 者 の排 除>と 特質 付 け た彼 の推 理論 に起 因 す る こ と、 い わ ば
意 味論 に お け るapoha学
説 の成 立 事 情 を我 々 に教 え て くれ る訳 で あ る。
Dignagaが
推 理 論 に お け るapoha学
説 を意 味 論 の分 腎 に も拡 張 し よ う
と し た と き、 先 刻 の 「推 理 と証 言 に よ る知 の 同質 性 」 な る論 題 が極 め て好
都 合 な もの だ った こ とは 疑 い ない 。 故 に 、Dignagaは
この 解決 済 み の論
題 を敢 えて む し返 し、 第V章 全 体 の導入 に再 利 用 す る訳 で あ る。 一
今 度
は大 乗 仏 教 徒 にふ さ わ しい唯 名 論 的(nominalistic) 意 味 学 説 を本 格 的 に樹
立 す るた め に 。 事 実 、 上 掲 偶(PS
I k.
1) を注解 した後 、 す
ぐにDigna-gaは 当該 論 題 とは直 接 関 係 の な い、 概 念 実 在 論(realism) を代 表 す る四 種
の敵 対 学説 との論 争(k. 2f.) に着 手 す るの を皮 切 りに、 彼 が そ の 論題 に漸
く立 ち戻 った最 終 偶(k. 50) を除 く全 章 の記述(kk. 2-49) を意 味論 の 考 察 で
充 たす ので あ る。
Apoha学 説 の 両 要 約 偶Dignagaが-PS Vの 導 入 部(k. 1) に 続 く 第 一 節 で 敵 対 学 説 と の 論 争 を 展 開 す る(kk. 2-11) こ と は 少 し 触 れ た 通 り だ が 、 我 々 が 推 理 論(PSI) の 直 接 的 な 準 用 成 果 を 認 め る の は 、 そ の 次 の 自 学 説 を 陳 述 す る 第 二 節(kk. 12-36) に お い て で あ る 。 本 節 は 、P8Iの 中 に そ れ と パ ラ レ ル な 詩 頒 を も つ こ と で 有 名 な 二 つ の 要 約 偶(samgrahasloka) で 始 ま る 。 (34)→b
ahudhapy abhidheyasya na sabdat sarvathagatih/ -(34) svasamhandhanurupyena vyavacchedarthakary asau//12// (35)→-(35)
anekadharma sabdo, pi yenarthalp nativartate/ (36)
Pratyayayati tenaiva na sabdagunapvadibhib//13//(skt. 還 元 訳 を 含 む 。) 表 示 対 象(の も つ 属 性) は 多 様 で あ る と し て も 、 語(例 え ば 「木 」 と い う 語) か ら全 面 的 に 理 解 さ れ る訳 で は な い 。 そ(の 語) は 〔表 示 対 象 に 備 わ る 或 る 属 性 、 例 え ば 木 性 、 に 対 す る 〕 自 己 の<結 合 関 係>に 従 って<〔 他 者 の 〕 排 除> と い う効 用 を な す 。(PS V k. 12) 語 も や は り 多 数 の 属 性 を 備 え て い る が 、 或 る(属 性 、 例 え ば 「木 」と い う語 性) に よ っ て 表 示 対 象 を 逸 脱 し な い と き 、 そ(の 属 性) に よ っ て の み 〔表 示 対 象 を 〕 理 解 せ し め る 。 〔そ れ 以 外 の 、 例 え ば 〕 語 〔性 〕 ・性 質 性 等(の 属 性) に よ っ て 、 で は な い 。(PS V k. 13) 奇 妙 な こ と に 、Dignagaは 両 偶 を 何 ら 注 解 す る こ と な く 、 す ぐ に 二 種 の 構 文 関 係(samanadhikarapya & visesapavisesyabhava) の 議 論(k. 14f.) に 進 ん で い る 。 恐 ら く 、 彼 は 先 行 す るPS IIの 対 応 偶 に 添 え た 註 釈 文 を こ の 両 偶 に も 準 用 し て く れ る こ と を 読 者 に 期 待 し た の で あ ろ う 。 そ れ に 応 え る べ
く、 先 ず 、PS Iの 対 応 偶 を 掲 げ る 。
bahutve, py arthadharmanam na lihgat sarvatha gatih/ yenallubaddham tasyanyavyavacehedena gamakam//13//
(37)→
tathangam yena rulpena linginam nativartate/ -(37)(38)
tenaivanekadharmapi gamayati na cetaraih//17//(skt. 還 元 訳 を 含 む 。)
事 物(i. e。証 因 保 持 者) の もつ 属性 は 多様 で あ る と して も、 証 因(例 え ば 煙) か ら全面 的 に理 解 され る訳 で は な い 。 〔証 因 は 自 己が 〕<随 伴 関 係>に あ る或 る(属 性 、 例 え ば 火 性)〔 だ け 〕 を<他 者 の排 除>に よ って理 解 させ る 。(PS II k. 13) 同 様 に、 証 因 もや は り多 数 の属 性 を備 え て い るが 、 或 る性 質(例 え ば煙 性) に 表 示・ 含 意 ・ 期 待 の 理 論 ( I)
密 教 文 化 よ って 証 因 保 持 者 を 逸 脱 しな い と き、 そ(の 性 質) に よ って の み 〔証 因 保 持 者 を 〕 理 解 せ しめ る。 他 の諸(性 質 、 例 え ば実 体 性 等) に よ って 、 で は な い。 (PS II k. 17) こ の 両 偶 は 周 知 の 如 く 旧 著NMの 中 に もkk. 17-18と し て 既 に 存 在 した が 、Dignagaの 創 唱 し た 「能 証 の 輪 」(hetucakra九 句 因) 学 説 の 駆 使 に よ る 伝 統 的 な 仏 教 討 論 術 の 徹 底 的 改 革 が 主 眼 で あ っ た1V翌 で は 、 未 だ 誕 生 し た ば か り の 推 理 論 と し て のapoha学 説 は 註 釈 を伴 わ な い 件 の 二 偶 の み に そ の 大 綱 を 要 約 さ れ て い た に 留 ま る 。 し か し、 そ の 両 要 約 偶 はPSIに 至 っ て 、 今 や 大 き く成 長 を遂 げ た 当 該 学 説 の 記 述 の基 点 を な す べ く、 再 登 場 す る 。 今 度 は 堂 々 た る 註 釈 の 衣 裳 を 身 に 纒 っ て 。 (39)
yahner diptataiksnpyadayo yavanto visesas te santo, pi dhumena na gamyate. vyabhicarat. ye punar anubandhino yadabhave gnir na bhavati tesam
dravy-(39)
atvagupitvadlnam adravyadibhyo vyavrttir eva pratlyate. yathagner anagnito vyavrttimatram svasarpbandhanurupyat pratlyate. tatha hi-ayam anagnau
sar-(40)
vatra na drstah, anyatra ca drstah. (Skt. 還 元 訳)
火(i. e. 証 因保 持 者) の輝 く 〔火 性 〕・熱 き 〔火 〕 性 等 の あ らん限 りの 諸 特 殊 は 、 た と え 〔火 に〕 そ れ らが 備 わ って いて も、 煙(i. e. 証 因) に よ って 理 解 され な い 。 〔煙 は それ らを 〕逸 脱 す るか らで あ る。 寧 ろ 、〔火 性 が 〕 「それ らの な い処 に は 火 が な い」 とい う<随 伴 関 係>を 有 す る (lit.〔火 性 の〕<随 伴 関係 項>〔=能 遍 〕 で あ る) 実 体 性 ・性 質 の 基 体性 等(の 諸 普 遍) が非 実 体 〔性 ・性 質 の非 基 体 性 〕 等か ら<排 除>さ れ る こと こ そが 理 解 され るの で あ る。 恰 か も、火 〔性 〕 の 非 火 〔性 〕 か らの<排 除>一 般 が 自 己(i. e. 煙) の 〔火 性 に対 す る〕<結 合 関 係>に 従 って 理 解 され る 何 と な れ ば 、 これ(煙) は 火 の な い処 の 全て に観 察 され ず 、他 処(火 の あ る処)〔 の 一部 分 〕 に観 察 され るか らで あ る 様 に。(Vrtti ad PS II k. 13)
dhumo, pi dhumatvapapduratvadina yenamsenagnim na vyabhicarati tenaiva (41)
gamayati, na dravyatvadibhih. vyabhicarat. (Skt. 還 元 訳)
煙(i. e. 証 因) も 煙 性 ・白 い 〔煙 〕 性 等 と い っ た 或 る 部 分 に よ っ て 火(i. e. 証 因 保 持 者) を 逸 脱 し な い と き 、 そ(の 部 分) に よ っ て の み 〔火 を 〕 理 解 せ し め る 。 実 体 性 等(の 普 遍) に よ って 、 で は な い 。 〔実 体 性 等 は 火 を 〕 逸 脱 す る か らで あ る 。 (Vrtti ad PS II k. 17) (42) こ の 新 規 の 註 釈 を 見 る と 、 か つ て 他 のSk七. 断 片 か ら も検 証 し た 様 に 、荊 匠
(kk. 17&18) に 由 来 す る 僅 か あ れ だ け の 要 約 偶(PS II kk. 13 & 17)
にDig-nagaが 下 記 の<三 定 式>か ら成 る 精 緻 なapoha学 説 を盛 り込 ん で い た
-76-こ とが判 明 す る。
定 式 【
一 】
概 念Xが 概 念Yに
対 して 〔「Xが ある処にはYが ある/Yが ない
処 にはXが ない」 と表現 され る〕<遍
充 関 係>(vyapti)
を有 す る と き、 概
念Xは 、 概 念Yの 矛 盾 概 念(非Y)
の 可 能 性 の<直 接 的排 除>に
よっ て 、
Yの 存 在 を理 解 させ る。
定 式 【
二 】
概 念Yが 概 念Zに
対 して 〔rYが ある処 にはZが ある/Zが ない
処 にはYが ない」 と表現され る〕<遍 充 関 係>を 有 す る と き、概 念Xは 、 概
念Zの 矛 盾 概 念(非Z)
の 可 能 性 の<間
接 的 排 除>に
よ っ て、Zの 存 在
を理 解 させ る。
定 式 【
三 】
概 念Vが 概 念Yに 対 して 〔「Vが ある処 にはYが ある/Yが ない処
にはVが ない」 と表現 され る〕<遍
充 関 係>を
有 す る とき、 概 念Xは 、 相
互 矛 盾 の 両概 念Vと 非Vの いず れ の 可能 性 も<排 除>し な い こ と に よ っ
て、 いず れ か の 可 能性 へ の疑 惑 を生 ぜ しめ る。
我 々 は か つ て これ らを<推 理 論 の三 定 式>と 命 名 し、 問題 のPSVの
両
要 約 偶(kk. 12 & 13) に盛 り込 まれ る べ き 次 の<意
味論 の三 定 式>の
祖 型
(proto-type)
と して位 置 付 け た 。
定 式 【
一 】
語 「x」が概 念Xに 対 して 〔「「x」がXの 存在場 の少 な くとも一
部分 に適用 され ること/「x」 がXの 非存在場 には全 く適用 されないこと」 と定義
され る〕<結 合 関係>(sambandha)
を有 す る とき、 「x」は、Xの
矛 盾 概
念(非X)
の 可 能性 の<直 接 的 排 除>に
よ って 、Xを 表 示 す る。
定 式 【
二 】
概 念Xが 概 念Yに 対 して 〔rXが ある処 にはYが ある/Yが ない
処 にはxが ない」 と表現 され る〕<遍 充 関係>を 有 す る とき、 語 「x」は、
Yの 矛 盾 概 念(非Y)
の 可能 性 の<間 接 的排 除>に
よ っ て、Yを 含 意 す
る。
定 式 【
三 】
概 念Zが 概 念Xに 対 して 〔Zが あ る処 にはXが ある/Xが ない処
にはzが ない」 と表現 される〕<遍 充 関係>を
有 す る と き、 語 「κ」は、 相
互 矛 盾 の 両概 念Zと 非Zの い ずれ の 可 能 性 も<排 除>し
ない こ とに よ っ
て、 いず れ か の 可 能性 へ の期 待(or疑
惑) を生 ぜ し め る。
表 示 ・ 含 意 ・ 期 待 の 理 論 ( I)密
教
文
化
か つ てskt. 断 片 に 基 づ く 「研 究 ノ ー ト」 で 検 証 し た これ ら の 定 式 を 我 々
は 順 次 、 表 示(abhidhana) の 理 論 ・含 意(aksepa) の 理 論 ・期 待(akanksaの
(43)
の理 論 と も命 名 した 。 そ れ は と もか く、 先 述 の<推 理 論 の三 定 式>か
ら今
の<意 味 論 の三 定 式>へ
の移 行 の際 、Dignagaは
い っ た い どの面
でBha-rtrhariに 依 存 し、 ど の面 で 対 抗 した の か 。 そ れ が 解 明 され るべ き で あ
る。.
PSVの
両 要約 偶 に導 か れ る 自学 説(単 語・構文の意味論) を扱 う第 二 節
(kk.
12-36) の記 述 に添 い な が ら。
II. 表 示 の 理論(そ
の-)
Dignagaの<両
随伴><意
味 論 の三 定 式>の
うち、apoha学
説 の綱
格 を最 も簡 素 に反 映 す る の は定 式 【
一 】 、 即 ち、 表 示 の 理 論 で あ り、 先 ず 、
定式 【
一 】 に 焦 点 を定 め て、PSVの
記 述 を追 うこ と に し よ う。
PS Vの 両 要 約 偶(kk. 12 & 13) が 自 らに課 した設 問 は(i)
語 の機能 とは何
か、(ii)
語 の そ の様 な機 能 を保 証 す る もの は何 か、(iii)語
や 表 示 対 象 は そ の い
か な る資 格 ・側 面 にお い て言 語 的 認 識(sabda) に参 与 す る の か、 の三 点 に
つ い て で あ り、 それ ぞれ に次 の様 な解答 が 与 え られ た 。
(i) 語 の機 能 とは<他 者 の排 除>で あ る。
(ii) <他 者 の排 除>機 能 を語 に保 証 す る も のは 、 語 の 表 示 対 象 に 対 す る
<結 合 関 係>で
あ る。
(iii)語や 表 示 対 象 が言 語 的 認 識 に参 与 す る のは 、<結 合 関係 項>と
し て の
そ の一 側 面 にお い て で あ る。
か か る解 答 中 の(ii)
は語 の機 能 を証 因 の 場合 の如 く<他 者 の排 除>と 特 徴
付 け うる とDignagaが
主 張 した根 拠 が 彼 自身 の<結 合 関係>(sambandha)
の理 論 に あ る と い う注 目す べ き示 唆 を含 む 。我 々 が なす べ き作 業 の 一つ は 、
Dignagaの<結
合 関 係>に 関 す る見 解 を先 ず 探 り、
次 にそ れ をBhartrhari
の対応 す る見解 に対 比 させ る こ とで ある 。
<結 合 関係>に
関 す るDignagaの
最 初 の説 明 は、apoha学
説 に 占 め る
そ の 重 要 性 に も拘 らず 、PS Vの 第 二 節(kk. 12-36) の か な り後 部(k. 34) に 置 か れ る 。
(44)→ ←(44)(45)→-(45)
katham punah Sabdasyarthantarapohena svarthabhidhane pttrvado§aprasafigah. yasmat.
(46)-adrster anyasabdarthe svarthasyamse pi darSanat/ ←(46) Sruteh sambandhasaukaryam na casti vyabhicatrita//34// (47)→
Sabdasyanvayavyatirekav arthabhidhane dvaram. tau ca tulyatulyayor vrttyav-rtti. tatratulye navaSyam sarvatra vrttir akhyeya, kvacit, anantye,
rthasyakh-←(47)(48) →
yanasambhavat. atulye tu saty apy anantye Sakyam adarSanamatrepavrtter ←(48) akhyanam. ata eva svasambandhibhyo, nyatradarsanat
tadvyavacchedanuman-(49)
am svarthabhidhanam ity ucyatee. (skt. 還 元 訳 を 含 む 。)
【反 論 】 と ころ で 、語 が<他 の 表 示対 象 の排 除>に よ って 自 己の 表 示対 象 を表 示 す る場 合 、 ど う して 以前 の 〔特 殊(bheda) 学 説 に対 して 指 弾 され た 〕 過 失 が 付 随 し ない のか 。 【答 論 】 な ぜ な ら、 〔語 の適 用が 〕 他 の語 の 表 示対 象 に は観 察 され な い か ら、 自 己の 表 示対 象 の た と え一 部 分 にで あれ 観 察 され るか ら、 語 は 〔自 己の 表 示 対 象 と〕結 合 し易 く、 且 つ 、〔それ を〕 逸 脱 しな い(PS V k. 34) か らで あ る。 語 が 〔自 己の 〕 表示 対 象 を 表 示 す る 方 法 は 、<肯 定 的 随 伴>と<否 定 的 随 伴>と で あ る。 そ して 、 両(随 伴) は 同 類 例/異 類 例 に対 す る 〔語 の 〕適 用/ 不 適 用 で あ る。 そ の うち 、 同 類例 の全 て に対 す る 〔語 の 〕適 用 は必 ず し も枚挙 され る に は及 ば な い 。 或 る場合 に 、〔同 類 例 とな る 〕対 象 が 無 数 で あ るな らば 、〔語 の適 用 の 〕枚 挙 は不 可 能 だ か らで あ る。 他 方 、 異 類 例 の ほ うは た と え無 数 で あ って も 、 それ に 〔語 の適 用 が 〕 観察 され な けれ ば 、 た だ そ れ だ け で 〔語 の 〕不 適 用 が 枚 挙 さ れ うる。 ま さに この 故 に 、 自己が<結 合 関 係>を 有 す る(表 示 対 象 、lit。 自 己 の <結 合 関係 項>) 以 外 の 他(の 語 の表 示対 象) に は 〔当該 の語 の適 用 が 〕 観 察 され
ないとい う理由で、それを<排 除>す る推理 が 自己の表示対象 の表示で ある、 とい
われ る。 (Vrtti ad PS V k.
34)
<意 味 論 の三 定 式>の 構 築 作 業 自体 は実 の と こ ろ直 前 のk. 33で 一 通 り
完 了 し て お り、 こ こか ら開 始 され る のは 、 第 一 節(k. 2f.) で<表 示 対 象 の
三 条 件>を 充 足 しな い もの と して批 判 され た敵 対 諸 学 説 の欠 陥 をapoha学
説 が免 れ て い る こ と、 つ ま り、<三 条 件>を
満足 す る点 で そ の正 当性 が樹
立 され うる こ との証 明 で あ る。 そ の 口火 を切 る上 掲 のVrtti ad. PS V k.
34
は 、第 一 の敵 対 学 説(類 に関す る語 は諸特殊 を表示す るという学説) に欠 如 して
表 示 ・ 含 意 ・ 期 待 の 理 論 ( I)密
教
文
化
い た表 示 対 象 の条 件(1)「
語 が 自己 の表 示 対 象 と結 合 し易 い こ と」 と条
件(I)「
語 が 自 己 の表 示 対 象 を逸 脱 しな い こ と」 とがapoha学
説 に 備 わ
っ てい る点 を、語 に<他 者 の排 除>機 能 を保 証 す る語 ・表 示 対 象 問 の<結
合 関 係>の
帰 納 的 検 証 法 と して の<肯
定 的 随 伴/否
定 的 随
伴>(anvaya-vyatireka) に対 す るDignaga独
特 の規 定 か ら裏 付 け よ う とす る もの で あ
る。<両 随 伴>に 関 す る件 の規 定 は 、 証 因 に<他 者 の排 除>機 能 を保 証 す
る証 因 ・証 因 保持 者 間 の<遍 充 関 係>の 帰納 的 検 証 法 且 つ演 繹 的 表 現 と
して の証 因 の第 二 ・第 三 条 件(二<両
随伴>) に対 す る や は り彼 独 特 の 定
義(PS II) を承 け た も ので あ り、 そ の 自発 的 準 用 を予 め読 者 に 期 待 し た
Dignagaの
安 心 が 、<結 合 関 係>の 説 明 を これ 迄PS Vで 省 か せ て い た の
か も しれ ない 。 今 や っ と登 場 した-PS Vの そ の説 明 を よ く理 解 す る為 に 、
我 々 も それ と関 連 す るPS
IIetc. の記 述 に 目 を向 け よ う。
trirapal lihgata iti yad nirdistamtad vyakhyatavyam. (50) → ←(50) anumeye, tha tatttulye sadbhavo nastitasati//5// (51) → ←(51)
dharmavisisto dharmy anumeyah. tatrottarakale dharmasya pratyaksenanum-anena va drSyamanasya taljatiye, pi sarvasminn ekadeSe va sattvaasamanye-na sidhyate. katham iti cet. tatulya eva sadbhaa ity avadharapat, natu sa-dbhava eveti. tatha sati nastasatlty avaktavyam iti cet. etad niyamartham
asati nastita, na vanye, na va viruddha iti. atra trirt[parp lingam yasmal lingl (52)
pratlyate. (拙skt. 還 元 訳 を 含 む 。)
〔. PS Ik. 1bに 〕教 示 した 「<三 条 件>を 備 え た 証 因か ら」 とい う(語 句) が
説 明 され ね ば な らな い 。
〔<証 因 の三 条 件>と は〕 《I》 〔証 因が 〕 推理 の主 題 に 〔存 在 す る こ と〕、
並 び に<I>そ の 同 類 例 に存 在 す る こと 、 《III》 〔同類 例 の 〕非 存在 処(i. e、
異 類 例) に 存在 しな い こと 、で あ る。(PSIk. 5cd) 〔論 証 され るべ き未 知 の〕 属 性(i. e. 証 因保 持 者) に 限 定 され た 基 体 が 「推 理 の 主 題 」 で あ る。 後 時 に、 か か る(推 理 の主 題) に お いて 知 覚 、 又 は 、 推 理 に よ って 観 察 され る 〔既 知 の 〕属 性(と して の 証 因) は 〔以 前 に〕 そ れ(推 理 の 主 題) の同 類 例(i. e. 証 因保 持 者 の 既 知 の 存在 場) 全 て か 、又 は、 一 部 分 に も存在 して い る こ とが 一般 的 に 確立 され て い る。 【反 論 】 〔単 に 「同 類 例全 て 」 とせ ず 、 「又 は、 一 部 分 」 と付 け 加 え た の は 〕何 故 か 。 【答 論】 「〔証 因 が 〕 その 同 類 例 にの み(eva) 存在 す る こ と」 と 〔条件<1>を 〕制 限 す 〔べ き〕 で 、 「 〔同 類 例 に〕 必 ず 存 在 す
る(eva) こ と」 と 〔制 限 す べ き 〕 で は な いか ら。 【反 論】 それ な らば 、 「〔証 因 が 同 類 例(i. e. 証 因 保 持 者) の 〕非 存 在 処 に存 在 しな い こと」 とい う 〔条 件 《III》〕 は 〔条 件<I>に よ って 含 意 され る 以上 、〕 述 べ る必要 が な い こ とに な る 。 【答 論 】 それ(条 件 《III》) 〔が 述 べ られ る の〕 は 、〔異類 例 を廻 る従 来 の理 解 の曖 昧 さ を払 拭 して 〕 「〔証 因 が 同 類 例 の 〕 非 存 在 処 に 存在 し な い こ と」 で あ って 、 「 〔同類 例 と 〕異 な る もの に 〔存在 しな い こ と〕 」 で もな く、「〔同 類 例 と反対 〕 対 立 す る も の に 〔存 在 しな い こ と〕 」 で もな い 、 と制 限 す る為 で あ る。 この 場合 の<三 条 件> を備 えた も のが 証 因 で あ り、 それ か ら 〔推理 の主 題 にお け る〕 証 因保 持 者 〔の存 在 〕が 理 解 され る。(Vrtti ad PS II k. 5cd) <証 因 の 三 条 件>の 定 式 化 の 変 遷 に 伴 な う<遍 充>概 念 の 生 成 史 の ほ ぼ (53)
全 貌 を解 明 され た 桂 氏 の刮 目す べ き最 近 の業 績 を踏 ま え て、 論 評 す る な ら
ば 、 こ こで 我 々 が 遭 遇 す る の は、 証 因 ・証 因 保 持 者 間 の<関 係>規 定 に並
存 す る 帰納 推理 的 性 格 と演 繹 推理 的 性 格 で あ る。
(a)先 ず 、証 因 の 条 件 《II》 にお け る 「証 因 が 同 類例(i)
全 てか 、 又 は(ii)
一 部 分 に 存 在 す る こ と 」と い う解 釈 要 求 は、Dignagaが 『能 証 の 輪 の 整 置 』
(Hetucadamaru、Tib.
訳のみで現 存) 以 来提 唱 した、 『
同 類 例 と異 類 例 か
ら構 成 され る帰 納 領 域 の 中 に正 しい証 因 を発 見 す る一種 の チ ェ ッ ク リス
(54)ト』 の役 割 を演 じる<能 証 の輪>学
説 に 由来 す る 。 そ れ に関 す るPS皿
の詩 頒 を引 い てお く。
(55) tatra yah san sajatlye dvedha casams tadatyaye/sa hetur.〔前 詩 頒 に 枚 挙 し た 〕 そ れ ら(九 能 証) の う ち 、(i) 同 類 例 に 存 在 し そ れ の 非 存 在 処(i. e. 異 類 例) に 存 在 し な い(第 二 の 能 証) と 、(ii) 〔同i類 例 に 〕 両 様(i. e. 一 部 分 に は 存 在 し且 つ 一 部 分 に は 存 在 し な い) で(異 類 例 に 存 在 し な い 第 八 の 能 証) と が 〔正 し い 〕 能 証 で あ る 。(PS III k. 22 a-c1=NM k. 7 a-c1)
従 っ て、 証 因 は同 類例 の少 な くと も一 部 分 に存 在
す れ ば よい 。 かか る<能 証 の輪>学
説 を背 景 とす る
証 因 の条 件 《I》
は条 件 《III》 と合 同 して 、 存 在
揚 の狭 い証 因(能 証X) が存 在 場 の広 い 証 因 保 持 者
(所証Y) に よ っ て包 摂 され た論 理 的<結
合 関 係>
(図1) を帰 納 的 に検 証 し、 推 論 式 に お け る類 似 法
に よ る 喩例(sadharmyena
drsstanta=<肯 定的随伴>)
図1 X=証 因 Y=証 因保 持 者 表 示 ・ 含 意 ・ 期 待 の 理 論 ( I)密
教
文
化
に 対 し て 非 類 似 法 に よ る(vaidharmyena) 喩 例(=<否 定 的 随 伴>) が 原 命 題 (position: X→Y) に 対 す る 換 質 換 位(contraposition) の 命 題 形 式(-Y→-X) で 表 現 さ れ る べ き こ と を 強 い る 。
sadharmyena tavac chabdo, nityah prayatnajatvad yat prayatnajam tad ani-tyam drstam ghatavad iti. vaidharmyena ca nityam aprayatnajalp drsam (56) savad iti. (拙Skt. 還 元 訳) 先 ず 、類 似 法 に よ る(喩 例) と は 「〔主張 〕音 声 は非 恒久 的 で あ る。 〔能 証 〕 意 志 的 努 力 の所 産 で あ るか ら。」 〔と い う推 論式 に お いて 〕 「凡 そ意 志 的 努 力 の所 産 な る もの は 非恒 久 的で あ る、 と観察 され る。壺 の様 に 。 」と 〔喩 例 を示 す 場 合 〕。 非 類 似 法 に よ る(そ れ) は 「〔凡 そ 〕恒 久 的 〔で あ る もの 〕 は意 志 的努 力 の所 産 で は な い、 と観察 され る。 虚 空 の様 に。」と 〔示 す 場 合 〕。(Vrtti ad PS IV k. 2=Nm §. 5. 1) 両 喩 例 に挿 入 され た 「観 察 され る 」(drstam) と い う語 句 ほ どDignaga 論 理 学 の 帰 納 的 側 面 を よ く表 わ す も の は な い 。 (b) <能 証 の 輪>と い う帰 納 的 検 証 法 に よ っ て 一 旦 確 立 され た 論 理 的 <結 合 関 係>は 、 証 因 が そ れ に 応 じ て所 与 の 主 題 に お け る 未 知 の 証 因 保 持 者 の 存 在 を 導 き 出 す 演 繹 原 理 と し て作 動 す る 。 こ の 演 繹 原 理 と し て の <結 合 関 係>(こ れ は 後 ほ どDignagaに よ って<遍 充 関係>と 言 い換 え られ る 。 Cf. PS II kk. 22-25) を い っ そ う適 確 に 表 現 す る 為 に 、Dignagaは 文 法 学 派
(Vyadi etc.)の 限 定 辞evaに よ る 制 限 用 法 を 採 用 す る 。
lihge lingl bhavaty-eva linginy evetarat punah/
(57)
niyamasya viparyase, sambandho lingalinginoh//21//
証 因 が あ れ ば 必 ず 証 因 保 持 者 が あ る(eva)。 〔後 者 〕 証 因 保 持 者 の あ る 処(i. e.
同類 例) に の み(eva) 前 者(証 因) が あ る。 〔eva〕制限 〔の位 置 〕 が 逆 転 す
る と、 証 因 と証 因保 持 者 間 に<結 合 関係>は 〔成立 し〕 な い 。(PS II k. 21)
証 因 の 条 件 《I》 に対 して 「証 因 が 同 類 例 に の み(eva) 存 在 す る こ と」
(Vrtti ad PS II k. 5 cd) と い う第 二 の 解 釈 要 求 が 促 が さ れ る 所 以 で あ る 。
こ のe▽a制 限 を 附 され た 条 件 《I》 は 「証 因 が 異 類 例 に は 〔全 くor決 し
て 〕存 在 し な い こ と」 を 含 意 す る の は 必 至 だ か ら 、 前 者 は 条 件 《III》 と 論 理 的 に等 価 た り う る 。
(c) 論 理 的 に等 価 で あ る 以 上 、 条 件 《I》 と は 別 に 条 件 《III》 を 課 し て 、 <三 条 件>と す る の は 無 意 味 で は な い の か 、 と い う反 問 は 避 け 難 い 。(こ れ は 、 推 論式 で 類 似法 か 非 類 似法 か の一 方 の 喩 例 を 陳述 す れ ば、 他 方 は 不用 で あ る とい う問 題提 起 に も繋 が る。Cf. PS IV) Dignagaの 与 え た 解 答 は 、 純 論 理 学 的 で あ る よ り は 、 条 件 《III》 の 定 義 付 け で 異 類 例 の 何 た る か が は っ き りす る と い う実 用 的 説 得 性 を 重 視 し た も の で あ る 。 異 類 例 を 廻 る彼 自身 の 見 解 の 例 証 は. PS IIIに 見 られ る 。
tato, nyas ca tadviruddhas ca dvayo, pi na vipaksab/ (58)
hetvabhavad viruddhasya vyavacchedaprasangac ca//19//(拙Skt. 還 元 訳) (i) そ れ(同 類 例) と 異 な る も の 、(ii) そ れ と 〔反 対 〕 対 立 す る も の と の 二 者 は ど れ も 異 類 例 で は な い 。 〔(i) の 場 合 、 適 切 な 〕 能 証 が 存 在 しな くな るか ら 、 〔(ii) の 場 合 、 反 対 〕 対 立 の も の 〔だ け 〕 が<排 除>さ れ 〔る に 過 ぎ ず 、 第 三 項 の 余 地 を 残 し 〕 て し ま う か ら で あ る 。(PS IIk. 19)
(59)
tasmat sapaksasann eva.(拙skt. 還 元訳)
従 って 、(iii) 同類例 の 非 存在 処 のみ が 〔異 類 例 〕 で あ る 。(PS III k. 20a)
上 掲 偶 が 示 す 異 類 例 を 廻 る 三 つ の 選 言 項 目 は そ れ ぞ れ 現 代 用 語 で は 、 (i) 差 異 概 念(different-concept, e. g. 非 恒 久 性 に対 す る無 我 性) (ii) 反対概 念(Contrary-, e. g. 熱 感触 に対 す る冷 感 触) (iii) 矛盾概 念(contradictory-, e. 9. 非 恒 久性 に対 す る恒 久 性 、 熱 感触 に対 す る非 熱 感 触) に 相 当 し よ う。 実 に 、Dignagaが<遍 充 関 係>規 定 の 論 理 的 徹 底 化 を 犠 牲 に し て ま で 条 件 《III》 に 託 し て 強 調 し た か っ た の は 、 異 類 例 が 同 類 例 に 対 し て 矛 盾 概 念(sapaksasat) で な け れ ば な ら な い と い う 点 で あ る 。 彼 に よ れ ば 、 証 因 ・証 因 保 持 者 間 の<遍 充 関 係>や そ れ か ら帰 結 す る 証 因 の<他 者 の 排 除>機 能 も 、 そ の 全 体 が 相 互 矛 盾 の 両 概 念 「同 類 例/異 類 例 」 に 二 分
さ れ た 帰 納 領 域(inductive domain)、 又 は 、 論 理 空 間(universe of discourse)
(60)
を前 提 して初 め て 可能 だ か らで あ る 。
以 上 の諸 点 が、 先 刻 の語 ・表 示 対 象 問 の<結 合 関係>を 扱 う説 明(PS V
k.
34 & Vrtta)を 理 解 す る鍵 とな る。
(a) こ こで は<肯 定 的 ・否定 的 両 随 伴>が 概 して帰 納 的 な性 格 付 け を受
表 示・ 含 意 ・ 期 待 の 理 論 ( I)密 教 文 化
け て い る こ とは多 言 を要 さ な い。<肯 定 的 随 伴>は
「同類 例全 て に対 す る
語 の適 用 」 の 「
枚 挙 」 を 「
必 ず しも」 要 求 され 「な い 」
、 少 な くと も 「自
己 の表 示 対 象(=同 類例) の一 部 分 に さ え観 察 され 」 れ ば充 分 な もの で あ る
か ら、 そ れ は<能 証 の 輪>学 説 を踏 ま えた証 因 の条 件 《II》 の帰 納 的定 式
に符 号 す る。 他 方 、 「語 の適 用 が 異 類 例 に単 に観 察 され な い こ とだ け で 」
「枚 挙 さ れ うる 」<否 定 的 随 伴>は<肯 定 的 随 伴>に 対 す る 換 質 換 位 の 命 題 形 式 で こ そ 定 式 化 さ れ な か っ た に せ よ 、 か か る<両 随 伴>に よ つ て 帰 納 さ れ る語・ 表 示 対 象 問 の<結 合 関 係>は 、 証 因 の<両 条 件>に よ っ て 帰 納 され る証 因 ・証 因 保 持 者 間 の<遍 充 関 係>と 等 価 な も の で な け れ ば な ら な い 。Dignagaの 次 の 言 明 か ら窺 わ れ る通 りで あ る 。na ca sambandhadvaram mulktvasahdasya Iingasyeva svarthakhyapanasaktir
asti.(61) そ して 、<結 合 関 係>と い う方 法 を 抜 き に して 、 証 因 と同 じ く語 も 自 己の 表示 対 象 を 知 ら しめ る こと は で き な い。(Vrtti ad PS V k.35) (b) さ す が に 、 語 ・表 示 対 象 問 の<結 合 関 係>又 は<両 随 伴>に 関 す るeva制 限(niyama) を 援 用 し た 演 繹 原 理 と し て の 定 式 化 はPS Vに 見 出 し難 い 。 し か し、 そ の 片 鱗 を 窺 せ る も の が 皆 無 で も な い の で 、 引 用 し て お き た い 。 【反 論 】 そ れ な らば、 <他 者 の排 除>の 制 限(anyapohaniyama) は 何 に基 づ くのか 。 (PS V k. 37a) 凡 そ 「色 」(rupa) とい う語 に よ って 味(・ 香) 等 が<排 除>さ れ る とき、 他 方 の 色 の いず れ か 一 つ(e. g. 青) は表 示 され るが 、残 る(色 、e. g. 黄 等) が 〔青 と〕 絶対 的 に相 異 な るに も拘 らず 、<排 除>さ れ な い、 とい うこ (のapohaの 制 限) は 何 に基 づ くのか 。 或 る人(実 在 論 者) に 無 区別 な もの と して認 め られ る色 性(と (62) い う類) は 青 等 に の み(eva) お こ り、 味 等 に は お こ ら な い か ら 、 そ う い う人 に は 上(述) の 〔無 根 拠 と い う 〕 過 失 は な い 。 【答 論 】 〔我 々 に と って 〕 これ は 過 失 で は な い 。 な ぜ な ら 、 世 間 の 慣 用 語 法(lokarudhi) は 〔そ の 根 拠 を 〕 追 求 さ れ な い(PS V k.37b) か ら で あ る 。 何 と な れ ば 、 世 尊 に よ っ て 『方 言(janapadanirukti) に 固 執 す る 勿 れ 。 世 間 の 名 称(lokasya salplia) を 追 求 せ ざ れ 。己(『 中 部 二・カ ー ヤ 』 「第139・ 無
謬 分 別経 」) と仰 せ られ て い るか ら。 従 って 、 我 々に よ って 〔適 用 〕 根 拠 の あ る世 (63) 間 の 言語 活 動(lokavyavahara) 、 又 は 、恣 意 性(?) の あ る(世 間 の言 語 活 動) が 真 実 の対 象 を もつ もの と して 追 求 され るべ きで は な い 。世 間 に準 じて 〔言 語 活 動 を 〕 容 認 して お くが よ い。 世 間で は 「色 」 とい う語 は 青 等 に 〔適 用 され る と〕 確 立 され る。 味 等 に 、 で は な い。(Vrtti ad. PS V k. 37b) …(中 略) …世 間 の慣 用 語 法 と して は 「色 」 と い う語 は、 た とえ 〔色 同志 が 〕 相 異 な るに せ よ、 青 ・黄 等 に 〔適 用 され る と〕承 認 され るべ し。 味 等 に 、で はな い 。 従 って 、<他 者 の排 除>が 必 然 的 (64) に制 限 され る。(Vrtti ad PS V k. 38b) 興 味 深 い の は 、 こ の す ぐ後 に 、 他 方 が 認 め られ な け れ ば<肯 定 的 随 伴> か<否 定 的 随 伴>か の 一 方 だ け で 充 分 で あ る と い う 議 論(PS V k. 38c & Vrtti) が 続 く こ と で あ る 。 し か し、 こ こ でDignagaが 一 貫 し て 追 求 し よ う と し て い る の は 、 演 繹 原 理 の 定 式 化 で は な い 。 そ う で は な く て 、 語 の 適 用 根 拠 と し て の 外 界 の 普 遍 等 が 不 合 理 で あ る 以 上 、 言 語 活 動 そ の も の の 観 察 がapoha学 説 の 承 認 に 繋 が る と い う唯 名 論 的 テ ー ゼ の 確 立 で あ る 。 【反論 】<他 者 の排 除>の み が語 の 表示 対 象 で あ るな らば 、<否 定 的 随 伴>か ら だ け で 表示 対 象 が 表 示 され るべ し。 【答 論 】 も し<肯 定 的 随 伴>が 認 め られ な けれ ば 、 それ は そ の通 りで あ ろ う。 〔いず れ に せ よ 、語 と〕 事 物 との 間 に 、 <第 一 次 的>(実 在 的) な<遍 充 関係>(mukhyavyapti) が 認 め られ る訳 で は な い。(PS V k. 38d) 〔それ が 個 物 と〕 異 な るに せ よ、 異 な らな い に せ よ 、類 は諸 個 物 に 〔内在 〕 しえ ない と 〔以 前 に〕 説 明 した 。 類 を欠 い た 、<他 の 表示 対 象 の排 除>に 限 定 さ れ た 〔自己 の〕 表 示 対 象 に対 して 語 の<肯 定 的 随 伴>と<否 定 的 随 伴>が あ る。他 の表 示 対 象 に対 して 、 で は な い 。 〔当該 の〕 語 は 他 の 表示 対 象 に は観 察 さ れ な いか らで (65) あ る 、 と述 べ られ る。(Vrtti ad PS V k. 38d)
(c) <両 随 伴>の 定 式(tau ca tulyatulyayor vrttyavrtti) に お い て 帰
納 領 域 が 「同 類 例/異 類 例 」 に 二 分 さ れ 、「同 類 例 」 が 「自 己 の<結 合 関 係 項>(一 自 己の 表 示 対 象) 」 に 等 置 さ れ る 以 上 、 当 該 の 語 に よ っ て<排 除> さ れ る べ き 「他 者 」(一 他 の語 の 表示 対 象) が 「同 類 例 」 に 対 す る 矛 盾 概 念 と し て の 「異 類 例 」 に 他 な ら な い こ と は 一 目瞭 然 で あ る 。 Bhartrhariの<両 随 伴>特 定 の 単 語 と特 定 の 表 示 対 象 と の 問 に<帰 属>関 係 を 発 見 し、 そ の 単 語 の 有 意 味 性 を判 定 す る 帰 納 原 理 と し て の<両 表 示 ・ 含 意 ・ 期 待 の 理 論 ( I)
密
教
文
化
随 伴>の 用 法 はBhartrhariに そ の 先 例 が あ る こ と は 、 我 々 の 「Dignaga vs Bhartrhari」 研 究 の 出 発 点 と な っ た 「文 章 の 表 示 対 象 と し て の<直 観> (66) と<自 己 認 識>(上)」 と題 す る 拙 稿 に お い て 指 摘 し た 通 りで あ る 。 そ れ を 先 ず 再 現 し た い 。 Bhartrhariは 文 章(vakya) と文 章 の 表 示 対 象 に 関 し て 「不 可 分 」 学 説 (akhapdapaksa) の 立 場 を と る 。 文 章 は 単 語(pada) を寄 せ 集 め た 総 和 で は な く、 不 可 分 ・単 一・に し て 自 立 的 な 言 語 単 位 で あ り、 文 章 の 表 示 対 象 に お い て も 事 情 は 変 わ ら な い 。 単 語 の 表 示 対 象 の 寄 せ 集 め で は な い 不 可 分 ・単 一 な 文 章 の 表 示 対 象 が<直 観>(pratiba)の と呼 ば れ る 。 こ の不 可 分 学 説 は 単 語 や 単 語 の 表 示 対 象 の 非 自立 性 ・非 実 在 性 を 帰 結 す る 。 そ れ ら は 世 人 が 文 章 や 文 章 の 表 示 対 象 を 理 解 す る 為 の 補 助 手 段(upaya) と し て 、 又 、 文 法 学 者 が 任 務 と す る 文 法 記 述(stravyavahara) の 遂 行 の 為 に 、そ れ ぞ れ 文 章 と文 章 の 表 示 対 象 か ら<抽 出>さ れ た 仮 構 の 産 物 な の で あ る 。 そ の 仮 構 過 程 を 説 明 す るBhartrhariの 記 述 の 中 に<両 随 伴>が 登 場 す る 。 「<抽 出>の 産 物(apoddhara) た る単 語 の 表示 対 象 」 と称 す る も の は究 極 的 に は 〔文 章 の不 可 分 な 表 示 対 象 内 に〕 結 合 され て い るが 、結 合 体(i. e. 文 章 の 表示 対 象) か ら、 推 理 の 対 象 で あ る仮 構 され た形 相 で(kalpitena rupena) 分 離 を 施 され つつ 、<抽 出>さ れ る。 実 に、 そ の分 離 され た 事物(i. e. 表示 対 象) の 〔仮 構 的 〕形 相 は言 語 活 動 を 超 え た(次 元 の) もの で あ る。 しか し、 そ(の 形 相) は(a) <自 己 の 観 念>に 順 応 して 、(b) <聖 典>に 準 じて(yathagamam) 、(c) =潜在 印象 の<習 熟> を通 じて 、(d) <仮 説 想 定>に よ って 、 大抵 は<確 定>さ れ る。 そ れ と全 く同 様 に 、 語(i. e. 文 章) の 本 質 も不 可 分 で あ る以上 、 文 法 操 作 の為 に(karyartham)、 〔文 章 〕 全 体 か ら<抽 出>さ れ た 諸(単) 語 に、 〔<抽 出>さ れ た 表 示 対 象 の 仮 構 的 形 相が 〕(c) <肯 定 的 随 伴/否 定 的 随 伴>(anvaya-vyatireka) に基 づ い て 、(f) <形 相 (67) の随 伴 の 仮 構>に よ って 、 表示 対 象 と して 帰 され る。(VPV ad I k. 24a) Bhartrhariの 考 え る 、<仮 構>さ れ た 単 語 の 有 意 味 性 の 判 定 に 至 る ま で の 過 程 は 次 の 三 段 階 に 描 き う る 。 〔1〕 文 章 か ら の<単 語 の 抽 出>、 並 び に 文 章 の 表 示 対 象 か ら の<単 語 の 表 示 対 象 の 抽 出>。 〔2〕(a)<自 己 の 観 念>・(b)<聖 典>・(c)<習 熟>・(d)<仮 説 想 定>-66-の 四要 因 に よ っ て単 語 -66-の表 示 対 象 -66-の仮構 的 形 相 を<確 定>。
〔3〕(e) <肯 定 的 ・否 定 的 両 随伴>・(f) <形 相 の 随伴 の仮 構 〉 の二 方
法 に よ って<抽 出>の 産 物 た る単 語 に<抽 出>の 産 物 た る表 示 対 象 の確 定
的 形 相 を<帰 属>。
DignagaもPS
V k.
46f. に お い て文 章 の意 味 論 を取 り扱 い、 文 章 の表
示 対 象 を不 可 分 な<直 観>と す るBhartrhari学
説 を 原 則 的 に受 け容 れ
る。 そ し て、 非 実 在 な単 語 の表 示 対 象 を仮 構 ・確 定 す る過 程 を こ う叙 述 す
る。
単語 の表示対象 は、た とえ存在 しな くて も、文章 か ら 〔
単語を〕<抽 出>し た上
で、(b)〔
各学派 の〕<聖 典>に 準 じて仮構 す ることに よって、<確 定>さ れ る。
〔単語 か ら<抽 出>さ れ る〕 語基 と接尾辞の様に。〔文章を離れて〕単独的(に 単
語) が使用 され ることはないか らで ある。 た とえそれ(単 語の表示対 象)
が 〔<聖
典>に 準 じて〕仮構 され るにせ よ、他(学 派) の諸<聖 典>に お ける 〔単語の〕表
示対象 の学説は正 し くないか ら、本(書) では異 なる表示対象(i。e.<他
者の排除>)
(68)が 〔
妥 当なもの として〕<確 定>さ れた訳であ る。(Vrtti ad PS V k.
46)
Bhartrhariの
前 述 の仮 構 過 程 がDignagaの
許 で は若 干 の 取 捨 選 択 を
受 け てi幾分 簡 素 化 され てい る こ とが判 る。
〔1〕
文 章 か らの<単
語 の 抽 出>(そ
れによ って<単 語の表示対象 の抽
出>を も代行か?) 。
〔2〕(b) <聖 典>と い う要 因 に よ っ て単 語 の表 示 対 象 の仮 構 的形 相 を
<他 者 の排 除>と<確
定>。
我 々 の 目下 の 関心 を ひ くの は 、(e)
<両 随伴>を 含 む第 三 段 階 の省 略 で あ
る 。特 定 の単 語 へ の特 定 の表 示 対 象 の<帰 属>関
係 を<両 随 伴>に
よ って
帰 納 す る とい う本 来 ここ(Vrtti ad PS V k.
46) に置 か れ るべ き段 階 の記 述
がPS
Vの 先 行 箇 所(k. 34 & Vrtti) に既 に登 場 し てい た こ とは、 我 々 が本
稿 で上 来 見 て きた 通 りで あ る 。Dignagaの<両
随 伴>規 定 がた とえ彼 自身
の 推理 論 に 由来 す る にせ よ、 そ れ を意 味 論 の 分 野 に準 用 で きた の
は、Bha-rtrhariの
か か る第 三 段 階 に お け る<両 随 伴>の
用例 が 文 法 学 派 側 の土 壌
とし て新 た に用 意 され てい た か らこそ で あ ろ う。Bhartrhari以
前 の同 派
表 示.・ 含 意 ・ 期 待 の 理 論 ( I)密
教
文
化
にお け る<両 随 伴>の 用 例 は専 ら語 基 ・接 尾 辞 等(単 語内構成要素) へ の特
定 の意 味 の<帰 属>関
係 の 帰 納 にの み 関 わ るか らで あ る 。 パ タ ン ジ ャ リ
(Patanjali: ca 150 B.
C.) の 「大 註 解 書 』(MBh)の にお け る用例 を ご覧 頂 き
た い。
siddham tv anvayavyatirekabhyam
//9//
siddham etat. katham ? anvayad vyatirekae ca. ko 'sav anvayo vyatireko
va 'I iha vrksa ity ukte kascic chabdah sruyate vrksasabdo ' karantah
sakaras
ca pratyayah.
artho 'pi kascid gamyate mulaskandhaphalapalasavan
ekatvam
ca. vrksav ity ukte kascic chabdo hiyate kascid upajayate kascid anvayi.
saka-ro hiyata aukara upajayate vrksasabdo 'karanto 'nvayi. artho 'pi kascid
dhiy-ate kascid upajaydhiy-ate kascid anvayi. ekatvam hiydhiy-ate dvitvam upajaydhiy-ate
mula-(69)
skandhaphalapalasavan
anvayi. te[-na] manyamahe yah sabdo hiyate tasyasav
artho yo 'rtho hiyate yah sabda upajayate tasyasav
artho yo 'rtha upajayate
(71)
yah sabdo 'nvayi tasyasav artho yo 'rtho 'nvayi.
〔語 基 の有 意 味 性 は 〕 確立 さ れ る一<肯 定 的 随伴/否 定 的 随 伴>に よ る な ら
ば 。(Vt 9 ad P I. ii. 42)
そ の こと(有 意 味 性) は 確立 され る。 どの 様 に して か 。<肯 定 的 随伴>と<否 定
的 随 伴>に よ って 、 で あ る。 この<肯 定 的 随 伴>、 或 い は 、<否 定 的 随 伴>と は 何 か 。 この世 で は、 「vrksah」(一 本 の木) と 〔話 者 に よ って 〕 言 明 さ れ る と、〔聴 者
に は 〕(i) 或る語(i. e. 言 語要 素) が 聴か れ る-(a) 「a」音 で 終 わ る 「vrksa-」 とい う
語 〔基 〕 と(b) 「s」 音 の 接 尾辞 とが 、で あ る。(ii) 或る意味 も理 解 され る一(a) 根 ・
幹 ・果 実 ・葉 の基 体 と(b) 単 数 性 とが 、で あ る。 〔次 に 〕「vrksau」(二 本 の 木) と言
明 され ると、(i) 或る語が 消 滅 し、或 る(語) が 生 起 し、 或 る(語) が 随 伴(i. e. 存 続) す
る-(b) 「s」 音 が 消 滅 し、(c)「au」 音 が 生 起 し、(a)「a」 音 で終 わ る 「vrksa-」
とい う語 〔基 〕が 随 伴 す る。(ii) 或る意 味 も消 滅 し、 或 る(意 味) が 生起 し、 或 る (意 味) が 随 伴する(b) 単数 性 が 消滅 し、(c) 双数性 が 生 起 し、(a) 根・幹 ・果 実 ・ 葉 の 基 体 が 随伴 す る。 従 って 、我 々は こ う考 え る。-「 この 消滅 す る意 味(b) が 消 滅 す る語(b) の意 味 で あ る。 この生 起 す る意 味(c) が 生 起 す る語(c) の意 味 で あ る 。 この 随 伴 す る意味(a) が 随 伴 す る語(a) の 意 味 で あ る 。」 と。(Mbh ad Vt9) 語 基 と接 尾 辞 は 決 し て 単 独 的 に 使 用 さ れ る こ とは な い が 、 か か る<両 随 伴>の 観 察 に よ つ て そ れ ぞ れ 固 有 の 意 味 を も つ こ と(arthavatta) が 判 定 され る 訳 で あ る 。MBhに 対 し て 複 註(Pradipa) を施 し た 後 代 の カ イ ヤ タ (Kaiyata: ca 11. C) は<両 随 伴>を こ う定 式 化 す る 。
anvayo, nugamah. sati sabde, rthavagamah. vyatirekah-sabdabhave
-64-(71)
rthanavagamah.
<肯 定的随伴>、 つ まり、 随伴: 語(i. e. 言語要素) があれば意味が理解 され
る。<否 定的随伴>: 語が なければその意味が理解 されない。(Pradipa ad MBh
ad Vt 9 ad P I.
ii.
42)
<肯 定 的 随 伴>に 対 して<否 定 的 随伴>は
原 命 題(x→Y)
に対 す る換
質(obversion) の命 題 形 式(-X→
一Y) で表 現 され る とは い え、 こ こ で は
語 と表 示 対 象 の 両 項 の存 在 範 囲 の広 ・狭 ・同延 の如 何 は別 段 問 題 に され な
い 。<両 随 伴>の 観 察 に よ って両 項 間 に何 らか の<因 果 関係>が
あ る こ と
さえ確 認 で きれ ば よい の で あ る。Kaiyataの
複 註 は概 ねMTに
対 す る
Bhartrhariの
浩 潮 な 複註(Dipika) の抜 枠 的 性 格 が濃 い か ら、Bhartrhari
の<両 随 伴>に
関 す る基 本 的 理 解 も ほ ぼ そ の様 な も の だ った に ちが い ない 。
彼 は た だ文 章 不 可分 学 説 の立 場 か ら<両 随 伴>を 単 語(文 章 内構成要素) の
有 意 味 性 の 判 定 法 に も転 用 した に過 ぎな い 。
それ に反 して 、 関 係 す る両 項 の広 ・狭 ・同 延 を整 然 と分 類 した<能 証 の
輪>学 説 の創 始 を通 じてDignagaは
、 推理 の 基 礎 を な す の は 一方 の 項
(x) が 他 方 の項(Y)
に よ って 抱 摂 され た<遍
充 関 係>で
あ り、 それ を
表 現 す る類 似 法/非 類 似 法 に よ る両 喩 例 は換 質 換位 命 題 で な けれ ば な らず 、
両 項 の 同 延 性 を要 求 す る換 質 命題 で は あ りえ ない 、 とい う見解 を 懐 くに至
った 。Dignagaは
この観 点 か ら論理 学 革 命 を成 功 させ る と、 次
にBhart-rhariの 意 味論 の修 正 を も試 み、 単 語 にく 他 者 の排 除>機
能 を 保 証 す る
<結 合 関 係>の 帰 納 的検 証 法 と して<両 随 伴>を 規 定 し直 す訳 で あ る。仮
構 され た 単 語 の表 示 対 象 を類(jati) と し(VP II
§.
1)、 構 文 の 表 示 対 象
を特 殊(visa)
又 は類 の基 体(jatimat=実
体) とす る(VP III §.
14)、Bh-artrhariの 文 章 の表 示 対 象=<直
観>学 説 の 論 理 構 成 の一 部 分 は、 こ う し
てDignagaの
単 語 ・構 文 の 意 味 論 とし てのapoha学
説 、 所 謂 、<意 味
論 の 三 定 式>に
とつ て替 わ られ る為 の布 石 を打 ち込 ま れ た の で あ る。
(未 完)
註
(1) M. Hattori〔1968〕,
Dignaga, On Perception,
Harvard Oriental Series 47,
表 示 ・ 含 意 ・ 期 待 の 理 論 ( I)