博 士 ( 農 学 ) 丹 羽 理 恵 子 学 位 論 文 題 名
Mechanism of the suppresslonofClubrOOtdiSeaSein ● I
CruClf ・ erSbyCalCium ― r1ChorganlCmatter
( 高 カ ル シ ウ ム 有 機 物 施 用 に よ る アブラナ科植物根こぶ病の抑止メカニズム)
学位論文内容の要旨
ア プ ラ ナ 科 植 物 根 こ ぶ 病 は 、 原 生 生 物 のCercozoa門 に 分 類 さ れ る 根 こ ぶ 病 菌 (Plasmodiophora brassicae)に起因する土壌伝染病害の一種であり、世界中でアブラナ科作 物に甚大な被害をもたらしている。本病は、感染源である休眠胞子が土壌中で長期間生存す ることや、病原菌P brassicaeが培養できない絶対寄生菌であるため、発病と発病程度に影 響する環境要因、特に土壌要因に関する知見が乏しく、防除が困難な代表的土壌病害のーつ である。本研究は、名古屋大学の有機物連用試験圃場で見っかった根こぶ病抑止および発病 土壌をモデル土壌として用い、本病の第一次感染(根毛感染)過程に影響を及ばす土壌要因 を特定すると共に、その要因の作用メカニズムを明らかにすることを目的として行った。
1.高カルシウム有機物の連用による根こぶ病抑止メカニズム
名古屋大学有機物連用試験圃場では、各種有機物や化成肥料を15年以上に渡って連用し ており、農地ーの有機物還元が作物や土壌理化学性、およぴ地下浸透水などに及ぼす影響を 調査している。この試験圃場では、1997年度秋作のキャベツに初めて根こぶ病が発生して 以来、慣行的な管理(化学肥料および少量の有機物を施用)を行っている試験区においては、
極めて高率で根こぶ病が発生し続けているのに対し、カルシウムを多く含む有機物を多量に 施用している試験区においては、本病の発生がほとんど認められていぬい。そこで、これら 土壌の化学性の比較分析を行ったところ、根こぶ病抑止土壌は、発病土壌よりも高い土壌pH および交換性カルシウム含量を示したことから、高カルシウム有機物の長期連用による土壌 pHの上昇が発病抑止の主因であるという仮説を立てた。水酸化カルシウム、炭酸カルシウ ムおよぴ水酸化カリウムにより土壌pHを7以上に調整した発病土壌、硫酸カルシウムによ りpHを 変化させ ずにカルシウム濃度のみを上昇させた発病土壌、およぴ硫酸を用いてpH
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を6未満に調 整した 抑止土壌 に根こ ぶ病菌休 眠胞子を 接種し 、人工気 象器内 でBrassica rapa var. peruviridis cv. Komatsuna Rakut・enを8日間栽培した後、根毛感染数を調査した。発病土壌 を中和 すること により 、根毛感 染は顕 著に抑制 された が、この ときの抑 制効果 はカルシウム 資 材の 方 が 水酸 化 カ リウ ム よ りも 有 意 に高 か った。 土壌pHを変 えずに カルシウ ム濃度 のみ を高く しても根 毛感染 は抑制さ れなか った。一 方、抑 止土壌を 酸性化し た土壌 では根毛感染 が有意 に促進さ れた。 これらの ことか ら、本試 験圃場 における 根こぶ病 抑止要 因はカルシウ ム 含量 の 高 い有 機 物 を連 用 し たこ と に よる 土 壌pHの上 昇であり 、カル シウムそ のもの は土 壌pHが 高 い と き に の み 付 加 的 に 感 染 抑 止 効 果 を 示 す こ と が 明 ら か と な っ た 。 2.土壌pHが根圏における根こぶ病菌休眠胞子の発芽に及ぼす影響
土 壌 の 中和 に よ り根 毛 感 染が 抑 制 され る 事 実から、pHの上昇 は休眠胞 子の発芽 または 発 芽後の 根毛への 感染の どちらか の過程 を阻害し ている ことが予 想された 。しか し、本病原菌 に関し ては、信 頼性の 高い発芽 試験系 が未確立 であっ たため、 まず、細 胞壁お よび核の二重 染 色に よ る 発芽 検 定法の 検討を 行った。 休眠胞 子を接種 した根こ ぶ病発 病土壌で め協鉛f餾
′昭,v紅p¢′wf勵sを7日間栽培後、根圏およぴ非根圏土壌から高密度遠心分離媒体(Percoll) を用い て比重差により胞子を分離・回収した。UV励起下で螢光を発するFluorescentb轟ghtener 28( 細 胞 壁特 異 的 色素 ) 船 よびG励 起下 で 螢 光を発 するSYT0820珊ngeFluorescentNrucleic AcidS斑n( 核 特異 的 色 素) に よ り胞 子 を 二 重染 色 し 、UV励 起下 で 胞 子の 全数を 、G励起下 で核を 有する胞 子(未 発芽胞子 )を計 数し、核 の無い 胞子(発 芽胞子) の割合 を算出した。
非根圏 土壌中で は、栽 培前後で 核の無 い胞子の 割合は 変わらな かったの に対し 、根圏土壌中 では栽 培後に核 の無い 胞子の割 合が有 意に増加 すると 共に、こ のとき、 寄主の 根では根毛感 染が観 察された ことか ら、本方 法によ り感染に 寄与す る発芽胞 子の割合 を定量 的に評価でき ること が示され た。本 方法を用 いて、 カルシウ ム含量 の高い有 機物また は炭酸 カルシウムを 混和し た発病土 壌にお ける休眠 胞子の 発芽率を 調べた ところ、 これらの 資材の 添加に伴う土 壌pHの 上 昇が 根 圏 にお け る 休眠 胞 子 の発 芽 を 阻害し、 その結果 、根毛 感染が抑 制され るこ とが示 された。 また、 このこと は感染 に寄与す る休眠 胞子は、 根の極近 傍(根 圏土壌)に存 在する ごく一部 のもの のみであ り、土 壌全体で 見ると 極めて小 さな割合 である ことを示して おり、 これが発 病土壌 において 、その 感染ポテ ンシャ ルが長期 間維持さ れる要 因のーつであ ると考えられた。
本研究 では、 発病抑止 および発 病土壌 の比較分 析によ り、発病 抑止に 重要な土 壌要因はpH であり 、中性の 土壌に おいては 、休眠 胞子の発 芽が阻 害される ことによ り感染 が抑制される メカニ ズムを世 界で初 めて明ら かにし た。本研 究で得 られたこ れらの知 見や用 いられた研究 ―903―
手法は、根こぶ病の新たな耕種的防除法の確立や、発芽促進物質の同定、おとり植物の育成 などへの応用が期待される。
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学位論文審査の要旨
学位論文題名
Mechanlsm of the suppression of clubroot diseasein crucifers by calcium − rlch organlCnlatter (高カルシウム有機物施用による
ア ブラ ナ科 植物 根こ ぶ病 の抑 止メ カニズム)
本論文は英文70頁、図13、表4、引用文献53、緒言、2章、英文総括からなり、ほかに参考論 文2編が付されている。
アブラナ科植物根こぶ病は、原生生物のCercozoa門に分類される根こぶ病菌(Plasmodiophora brassicae)に起因する土壌伝染病害の一種であり、世界中でアブラナ科作物に甚大な被害をもたら している。本病は、感染源である休眠胞子が土壌中で長期間生存することや、病原菌P brassicae が培養できない絶対寄生菌であるため、発病と発病程度に影響する環境要因、特に土壌要因に関す る知見が乏しく、防除が困難な代表的土壌病害のーっである。本研究では、名古屋大学の有機物連 用試験圃場で見っかった根こぶ病抑止およぴ発病土壌をモデル土壌として用い、本病の第一次感染
(根毛感染)過程に影響を及ばす土壌要因を特定すると共に、その要因の作用メカニズムを明らか にした。
1.高カルシウム有機物の連用による根こぶ病抑止メカニズム
名古屋大学有機物連用試験圃場では、1997年度秋作のキャベツに初めて根こぶ病が発生して以来、
慣行的な管理(化学肥料および少量の有機物を施用)を行っている試験区においては、極めて高率 で根こぶ病が発生し続けているのに対し、カルシウムを多く含む有機物を多量に施用している試験 区においては、本病の発生がほとんど認められなかった。そこで、これらの土壌の化学性の比較分 析を行ったところ、根こぶ病抑止土壌は、発病土壌よりも高い土壌pHおよび交換性カルシウム含 量を示したことから、高カルシウム有機物の長期連用による土壌pHの上昇が発病抑止の主因であ るという仮説を立てた。水酸化カルシウム、炭酸カルシウムおよび水酸化カリウムにより土壌pH ―905ー
広 満
夫
辰
則
澤 崎
藤
江 大
近
授 授
授
教
准 教
教
査 査
査
主 副
副
を7以 上 に調 整 し た発 病 土 壌、 硫 酸 カル シ ウム によりpHを変化さ せずに カルシウ ム濃度 のみを上 昇 さ せ た 発病 土 壌 、お よ び 硫酸 を 用 いてpHを6未 満に調 整した抑 止土壌 に根こぶ 病菌休 眠胞子を 接種し、人工気象器内でBrassica rapa var. peruviridis cv. Komatsuna Rakutenを8日間栽培した後、
根 毛感染 数を調査 した。 発病土壌 を中和 すること により、 根毛感染は顕著に抑制されたが、このと き の 抑 制 効果 は カルシ ウム資材 の方が 水酸化カ リウム よりも有 意に高 かった。 土壌pHを 変えずに カ ルシウ ム濃度の みを高 くしても 根毛感 染は抑制 されなか った。一方、抑止土壌を酸性化した土壌 で は根毛 感染が有 意に促 進された 。これ らのこと から、本 試験圃場における根こぶ病抑止要因はカ ル シ ウ ム 含量 の 高い有 機物を連 用した ことによ る土壌pHの上昇で あり、 カルシウ ムその ものは土 壌 pHが 高 い と き に の み 付 加 的 に 感 染 抑 止 効 果 を 示 す こ と が 明 ら か と な っ た 。 2.土壌pHが根圏における根こぶ病菌休眠胞子の発芽に及ぼす影響
土 壌 の中 和 に より根毛 感染が 抑制され る事実か ら、pHの 上昇は休 眠胞子 の発芽ま たは発 芽後の 根 毛への 感染のど ちらか の過程を 阻害し ているこ とが予想 された。しかし、本病原菌に関しては、
信 頼性の 高い発芽 試験系 が未確立 であっ たため、 まず、細 胞壁および核の二重染色による発芽検定 法の検討を行った。休眠胞子を接種した根こぶ病発病土壌でBrassica rapa var. peruviridisを7日間 栽 培後、 根圏およ び非根 圏土壌か ら高密 度遠心分 離媒体(Percoll)を用 いて比 重差によ り胞子を分 離 ・回収 した。UV励 起下で 螢光を発 するFluorescent brightener 28(細胞壁特異的色素)およぴG 励起下で螢光を発するSYT082 0range Fluorescent Nucleic Acid Stain(核特異的色素)により胞子を 二 重 染 色 し、LrV励起 下で胞子 の全数 を、G励起下 で核を有 する胞子 (未発 芽胞子) を計数 し、核 の 無い胞 子(発芽 胞子) の割合を 算出し た。非根 圏土壌中 では、栽培前後で核の無い胞子の割合は 変 わらな かったの に対し 、根圏土 壌中で は栽培後 に核の無 い胞子の割合が有意に増加すると共に、
こ のとき 、寄主の 根では 根毛感染 が観察 されたこ とから、 本方法により感染に寄与する発芽胞子の 割 合を定 量的に評 価でき ることが 示され た。本方 法を用い て、カルシウム含量の高い有機物または 炭 酸カル シウムを 混和し た発病土 壌にお ける休眠 胞子の発 芽率を調べたところ、これらの資材の添 加 に 伴 う 土壌pHの上昇が 根圏に おける休 眠胞子の 発芽を 阻害し、 その結 果、根毛 感染が 抑制され る ことが 示された 。また 、このこ とは感 染に寄与 する休眠 胞子は、根の極近傍(根圏土壌)に存在 す るごく 一部のも ののみ であり、 土壌全 体で見る と極めて 小さな割合であることを示しており、こ れ が発病 土壌において、その感染ポテンシャルが長期間維持される要因のーっであると考えられた。
本 研 究で は 、 発病抑止 および 発病土壌 の比較分 析によ り、発病 抑止に 重要な土 壌要因 はpHであ り 、中性 の土壌に おいて は、休眠 胞子の 発芽が阻 害される ことにより感染が抑制されるメカニズム を 世界で 初めて明 らかに した。本 研究で 得られた これらの 知見や用いられた研究手法は、根こぶ病 の 新たな 耕種的防 除法の 確立や、 発芽促 進物質の 同定、お とり植物の育成などへの応用が期待され る。 ー906−
よって,審査員一同は,丹羽理恵子が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有するもの と認めた。
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