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空間記憶における眼球運動と身体運動の役割 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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学 位 論 文 題 名

博 士 ( 文 学 ) 藤 木 晶 子

空間記憶における眼球運動と身体運動の役割

学位論文内容の要旨

  

モノとモノ,あるいはモノと自分の位置関係を認識し,短期的に保持するヒトの認知機 能を検討した従来の空間記憶研究は,その情報の保持に眼球と身体が重要な役割を果たし ていることを明らかにしてきた。しかし,その保持にとって重要なりハーサル過程につい ては,2 つの対立する説が提案されており,未だ統一的な理解は得られていない。このよ うな状況を踏まえ,これまでに提案されている説のいずれが妥当であるのかを実証的に検 証し,眼球と身体が関わる空間記憶メカニズムを統一的に説明しうるモデルを提案するこ とが,本論文の目的である。これまでの空間記憶研究から提案されている説のーっは,眼 球と身体に共通した,単一の空間リハーサル・システムによって空間情報が維持されてい るというものである。もうーっは,眼球と身体それぞれに対応した,個別の空間リハ―サ ル・システムが機能しているという説である。これまでの研究では,これら2 つの説がそ れぞれ異なる方法論による実験に基づいて提案されていた。そのため,眼球と身体が関わ る空間記憶の統一的説明にとって,いずれの説がより有効なのかという問題に関する,十 分に深化した議論は非常に困難であった。本論文でI ま,このような困難を解消するための 新たな研究パラダイムが考案され,それに基づいて,これまでに提案されていた2 つの異 なる説について,直接的な比較と有効性の検証が行われている。その新しいパラダイムと は,空間情報の入カと出カが眼球一眼球,身体―身体のイントラモダル空間記憶課題,およ び眼球一身体,身体―眼球のクロスモダル空間記憶課題という4 つの記憶課題に対し,眼球 および身体による干渉,もしくは促進という二次課題を同時に行うという手法である。こ のような手法を用い,空間情報の入出カモダリテイと二次課題のモダリテイとの一致,不 一致によって,モダリテイに選択的な干渉や促進の効果が観察されるのか,それともモダ リテイ・フリーな効果が出現するのかを吟味することにより(実験1 〜8 ),これまでに提 案されている,空間情報のりハ―サル・システムに関する2 つの仮説のうち,いずれが支 持されるのかという問題が検証されている。

  

本論文は,第

1

章「空間記憶メカニズムを検討した諸研究の概観と新たな研究アプロー チの提案」,第2 章「記銘時と想起時の符号が一致したイントラモダル空間記憶に対する眼 球運動と身体運動の関与」,第3 章「記銘時と想起時の符号が一致しないクロスモダル空間

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シ ス テ ム が 存 在 す る と い う 説 で は な く , 眼 球 系 と 身 体 系 と い う ,2つ の 空 間 リ ハ ー サ ル ・ シ ス テ ム が 独 立 に 機 能 し て い る と す る 説 の 方 が , よ り 妥 当 で あ る と 主 張 さ れ て い る 。 次 い で , ク ロ ス モ ダ ル 空 間 記 憶 に 関 す る 実 験 結 果 に 基 づ き , わ れ わ れ ヒ ト は , 想 起 時 と 記 銘 時 の 両 モ ダ リ テ イ に 対 応 し た ,2つ の 空 間 リ ハ ー サ ル ・ シ ス テ ム が 利 用 可 能 で あ り , そ れ ら の シ ス テ ム の う ち 一 方 が 利 用 で き な い 場 合 に は 他 方 が 代 替 す る と い う , 柔 軟 な り ハ ー サ ル 機 能 を 有 し て い る の で あ ろ う と 考 察 さ れ て い る 。 こ の 考 察 に 引 き 続 き , 得 ら れ た 全 て の 知 見 を 総 合 し , 眼 球 と 身 体 が 関 わ る 空 間 記 憶 を 統 一 的 に 説 明 す る メ カ ニ ズ ム と し て , 眼 球 系 空 間 リ ハ ー サ ル ・ シ ス テ ム と 身 体 系 空 間 リ ハ ー サ ル ・ シ ス テ ム の2っ が 独 立 に 機 能 し , か っ そ れ ら の シ ス テ ム が 相 互 補 完 的 に 利 用 さ れ る メ カ ニ ズ ム を 提 案 し て い る 。 最 後 に , 本 論 文 で 新 た に 提 案 さ れ た 空 間 記 憶 メ カ ニ ズ ム の モ デ ル に よ っ て , 従 来 の 研 究 結 果 を ど の 程 度 統 一 的 に , 整 合 性 を 保 ち つ つ 説 明 で き る の か 理 論 的 な 検 証 が 行 わ れ て い る 。 ま た , そ れ と 共 に , こ の モ デ ル が , 研 究 推 進 上 , 有 効 な 理 論 的 枠 組 み に な り 得 る と い う 論 証 が 試 み ら れ , そ こ か ら 導 か れ た , 今 後 検 討 す べ き 問 題 に つ い て も 述 べ ら れ て い る 。

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学位論文審査の要旨 主 査    教 授    菱谷 晋 介 副 査    教 授    田山 忠 行      教 授    小 野 芳 彦

学 位 論 文 題 名

空間記憶における眼球運動と身体運動の役割

  

さまざ まなモノ に囲ま れて暮らしているわれわれ人間にとって,モノとモノ,あるい はモノ と自分の 位置関 係のような空間情報を認識し,その情報を短期的に記憶すること は,適 応的な行 動をと るために極めて重要な意味をもっている。これまでの空間記憶研 究では ,このよ うな空 間情報の短期的記憶に眼球と身体が重要な役割を果たしているこ とが明らかにされてきた。しかし,その短期記憶過程に必要とされるりハ―サル機能につ いては,2 つの対立する仮説が提案されており,未だ統一的な理解が得られていない。こ のような状況を踏まえ,本論文では,これまでに提案されているりハーサル・メカニズム のいずれが妥当であるのかを実証的に検証し,眼球と身体が関わる空間記憶を統一的に説 明しうるモデルが提案されている。従来の空間記憶研究から提案されている仮説のーっは,

眼球と身体に共通した,単一の空間リハーサル・システムによって空間情報が維持されて いるというものである。もうーっは,眼球と身体それぞれに対応した,個別の空間リハー サル・システムが機能しているという説である。本論文では,先ず,先行研究で用いられ ていた実験課題を大幅に改善し,空間情報の入力(記銘)と出力(再認)時の符号化モダ リテイが一致したイントラモダル空間記憶,並びに一致しないクロスモダル空間記憶とい う2 種類の課題が提案されている。次いで,これらの課題の遂行と共に,リハーサル干渉 課題あるいはりハーサル促進課題という,2 種類の二次課題を組み合わせることで,モダ リテイに選択的な干渉や促進の効果が観察されるのか,それともモダリテイ・フリーな効 果が出現するのかが詳しく吟味されている(実験1 〜8 )。最後に,実験結果に基づき,こ れまでに提案されている空間リハーサル・メカニズムのうち,いずれの仮説が有効である の か と い う 問 題 を 検 証 す る と 共 に , 新 し い モ デ ル の 提 案 が な さ れ て い る 。

  

本論文の第1 の成果は,空間情報に関する短期記憶においては,眼球と身体に対応した

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個 別 の り ハ ー サ ル ・ シ ス テ ム が 機 能 し て い る こ と を 実 証 し た 点 に あ る 。 本 論 文 に よ っ て 明 ら か に さ れ た , イ ン ト ラ モ ダ ル 空 間 記 憶 課 題 に 対 す る 二 次 課 題 に よ る モ ダ リ テ イ 選 択 的 な 干 渉 ・ 促 進 効 果 は , 眼 球 系 空 間 リ ハ ー サ ル ・ シ ス テ ム と 身 体 系 空 間 リ ハ ー サ ル ・ シ ス テ ム の2っ が 独 立 に 機 能 し て い る こ と を 示 し て い る 。 こ れ は , こ れ ま で 不 明 で あ っ た り ハ ー サ ル ・ シ ス テ ム の 構 造 的 問 題 を 解 決 し た も の で あ り , 空 間 記 憶 メ カ ニ ズ ム に 関 す る 統 一 的 な 理 解 を 促 す た め の 第 一 歩 と し て 高 い 評 価 に 値 す る 知 見 と い え る 。

  2の 成 果 は , 眼 球 と 身 体 に 対 応 し た 個 別 の 空 間 リ ハ ー サ ル ・ シ ス テ ム が , 相 互 補 完 的 に 機 能 し て い る こ と を 実 証 し た 点 に あ る 。 本 論 文 に ま と め ら れ た ク ロ ス モ ダ ル 空 間 記 憶 に 関 す る 実 験 で は , 想 起 時 と 記 銘 時 の 両 モ ダ リ テ イ に 対 応 し た ,2つ の 空 間 リ ハ ー サ ル ・ シ ス テ ム が 利 用 可 能 で あ り , そ れ ら の シ ス テ ム の う ち 一 方 が 利 用 で き な い 場 合 に は 他 方 が 代 替 す る と い う , 柔 軟 な 機 能 が 存 在 す る こ と を 支 持 す る 結 果 が , 繰 り 返 し 示 さ れ て い る 。 こ の 結 果 は , 眼 球 と 身 体 が 関 わ る 短 期 的 な 空 間 記 憶 メ カ ニ ズ ム に お け る , リ ハ ー サ ル ・ シ ス テ ム の 動 的 な 性 質 を 示 す と 共 に , そ の 背 後 に ,2っ の り ハ ー サ ル ・ シ ス テ ム を っ な く ゛ 情 報 路 と , そ れ を ス イ ッ チ ン グ す る 機 能 が 存 在 す る こ と を 示 唆 し て い る 。 こ れ は , 従 来 の 研 究 に お い て は 指 摘 さ れ て い な か っ た 新 し い メ カ ニ ズ ム の 発 見 で あ り , 非 常 に 意 義 の あ る 知 見 と い え る 。

  以 上 述 べ て き た 本 論 文 の 成 果 は , い ず れ も , 当 該 研 究 領 域 に お い て 大 き な 学 問 的 貢 献 を な す も の で あ る と 考 え ら れ る 。 そ の こ と は , 本 論 文 に 記 さ れ て い る 研 究 成 果 が 査 読 付 き の 学 術 雑 誌 に 複 数 掲 載 さ れ て い る こ と か ら も 確 認 で き る 。 ま た , 本 論 文 に ま と め ら れ た 実 験 は , 何 れ も 高 度 な 精 密 さ を 要 求 す る も の で あ り , そ れ を 実 現 す る た め に は 新 し い 実 験 装 置 の 開 発 が 必 要 と さ れ た 。 藤 木 氏 は , こ れ を 自 身 で 設 計 , 製 作 し , そ の 際 に 必 要 と さ れ る マ イ ク ロ コ ン ト ロ ー ラ の 利 用 法 に つ い て も , 心 理 学 イ ン ス ト ゥ ル メ ン テ ー シ ョ ン に 関 す る 論 文 と し て 既 に 発 表 し て い る 。 こ の 点 も , 当 該 研 究 領 域 へ の 貢 献 と し て , 高 い 評 価 に 値 す る も の で あ る 。 一 方 , 本 論 文 で 提 案 さ れ て い る 空 間 記 憶 の り ハ ー サ ル ・ メ カ ニ ズ ム は , あ ら ゆ る 状 況 に お い て 常 に 利 用 さ れ て い る の か と い う , 一 般 化 可 能 性 に 関 す る 問 題 に つ い て は 十 分 に は 明 ら か に さ れ て お ら ず , こ の 点 に 関 し て は , 本 論 文 に 些 か の 弱 点 が な い わ け で は な い 。 し か し , こ れ は , 本 論 文 の 成 果 を 損 な う も の で は な く , さ ら な る 学 問 的 経 験 の 蓄 積 に よ っ て 十 分 に 解 決 さ れ る 課 題 で あ り , む し ろ , 当 該 領 域 の 研 究 の 進 展 に 寄 与 す る 新 た な 問 題 提 起 と 捉 え る こ と が で き る 。

  本 審 査 委 員 会 は 以 上 の 審 査 結 果 に 基 づ き , 全 員 一 致 し て , 本 論 文 の 著 者 藤 木 晶 子 氏 に 博 士 ( 文 学 ) の 学 位 を 授 与 す る こ と が 妥 当 で あ る と の 結 論 に 達 し た 。

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