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魚類筋肉夕ンパク質の高機能化に関する研究 学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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     博士(水産科学)佐藤    良 学位 論文 題名

海洋生物資源の複合利用による

魚類筋肉夕ンパク質の高機能化に関する研究 学位論文内容の要旨

  魚肉は人類にとって重要なタンパク質源のーつであり、その消費方法は、鮮魚か ら調理冷凍食品やねり製品などの各種加工食品まで多岐に渡っている。魚肉加工食 品は魚類筋原線維夕ンパク質(Mf)の持つ保水能、乳化能、およびゲル形成能などの 優れた加工機能性を利用して製造されている。しかし、魚類のMfは他の脊椎動物 のMfと比べて熱的・化学的に非常に不安定であり、その変性に伴って起こる加工機 能性の喪失が利用上の障害となっており、これまで、魚肉の保蔵や加工過程におけ るタンパク質変性を抑制するためのさまざまな検討がおこなわれてきた。さらに、

魚肉夕ンパク質の高機能化や新規な機能の付与が達成できれば、それは水産資源の 高度利用に大きく貢献すると思われる。

  夕ンパク質の機能改変はタンパク質化学分野における重要な命題であるが、夕ン パク質に「糖鎖」を導入(糖修飾)すると、その機能を改変できることが明らかと なってきた。食糧夕ンパク質の場合、その機能改変手法として、簡便で化学試薬を 用いないメイラード反応を利用した糖修飾が注目を集めている。魚肉夕ンパク質に ついても、コイMfの水溶化(単糖修飾)、熱安定性の向上(多糖修飾)、乳化能の 改変(単糖および多糖修飾)などの機能改変効果が見い出され、糖修飾が魚類Mfを 高機能化できる有効な手法あることが示されている。

  本研究では、水産資源利用科学にこのタンパク質の糖修飾技術を応用するための スキームを検討した。すなわち、チリ産褐藻(Lessonia属)由来のアルギン酸ナトリ ウム(Alg‑Na)を、海洋細菌Pseudoalteromonas elyakovii由来のアルギン酸ルアーゼを 用いて分解し、平均重合度6.1のアルギン酸オリゴ糖(AO)を調製した。そして、メ イラード反応を利用してAOを魚類Mf分子中に導入することを試み、魚肉夕ンパク     ―1507―

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質の機能改変を目指した。

  第一章では、まずアルギン酸リアーゼ調製条件の最適化を検討した。そして、

P. elyakoviiの培養外液を限外ろ過(濃縮)する際、低夕ンバク質吸着性限外ろ過膜 を使用し、さらに、培地成分のタンバク質をあらかじめ膜に吸着させることで、限 外ろ過における酵素活性の回収率を大きく改善し(48.5%→720/0)、その結果、酵素 精製の 全工程後で の回収率は48%に達した。また同酵素は、その活性発現にMg2+

が必要 であり、本 研究ではMgCl2存在下でAlg−Naを分 解するが、 その脱Mgの方 法として電気透析法を利用することにより、Mgを効率良く除去でき、AOをより高 い回収率で得られることを見い出した。

  続いて第二章では、MfをAO修飾できる反応条件の最適化について検討した。ま ず、AOが タンパク質 変性抑制効 果を有さな いことが明 らかとなっ たが、MfとAO の混合物(Mf:AO=1:1‑1:9)にソルピトールを添加することによって、凍結乾燥と それに続く糖修飾過程におけるタンパク質変性を抑制できた。さらに、修飾反応中 の温度と湿度を制御することによってMfのタンパク質変性をより効果的に抑制でき ることを明らかにした。そして、Mf:AO〓1:9,50 0C・相対湿度35%と,いう反応系 が、夕ンパク質変性を効果的に抑制しながら効率良くAO修飾できる良好な糖修飾 条件で あることを 見い出した 。なお、SDS―PAGE分析の結果から、AOはMf中のミ オシンを特に強く修飾し、またアクチン、および卜口ポミオシンもAO修飾されて いることを確かめた(AO修飾したMfを以後MfAOと称す)。

  第三章から第六章においては、Mfの諸機能におよぼすAO修飾の影響について検 討した 。まず第三 章では、MfAOの 溶解性につ いて検討し た。Mf中の主成分であ るミオシンとアクチンは、高イオン強度溶媒(0.5MNaCl)中ではアクトミオシンを 形成して溶解するが、低イオン強度溶媒(くO.16MNaCl)には溶解しない。しかし、

AO修飾に ともなってMfのO.05MNaCl(pH7.5)に対する溶解度は増大し、0.5M NaCl中での溶解度とほぼ等しくなった。このとき、溶解度のイオン強度依存性が失 われていることも明らかとなった。このように、A0修飾によってMfの低イオン強 度溶媒中への溶解性が著しく改変され、魚類筋肉夕ンパク質が水溶化できることを 確認した。このMfの水溶化は40―50ルg/mgのA0が結合すると顕在化したが、その 際AOと の 結 合 に よ っ て 消 失 し た 有 効 性 リ ジ ン は 約4ワ 。 に 留 ま っ て い た 。

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  魚類Mfの優 れ た加 工 機 能性 は 、そ の 塩 溶液 中 での 溶 解 性や 熱 安 定性 と 密接 に 関 わ っ てい る 。ま た 、 多くの 食品のpHは 弱酸性であ り、食品 加工に加 熱処理は 欠かせ な い 。 そ こ で 第 四 章 で は 、MfAOの 化 学 的 お よ び 熱 的 安 定 性 を 検討 し た。 そ の 結 果 、Mf‑AOは 溶 媒 のNaCI濃 度 に 関 係な く 、 ミオ シ ンや ア ク チン の 等 電点 ( それ ぞ れ5.52お よ び5.10)付 近 で も 高 い 溶解 性 を 維持 し た。 さ ら に、AO修飾 に よっ てMf の 熱 安 定 性 が 改 変 さ れ る こ と を見 い 出 し、 糖 結合 量 が227ルg/mgのMfAOのpH 7.5 お よ びpH 5.5にお け る 溶解 度 は、50‑80°C,2h加熱 処 理し て も ほと ん ど変 化 し な かった。

  また 第 五章 に お いて 、食糧 夕ンバク 質にとって 重要な加 工機能性 のーつで ある乳 化 能 も 、AO修 飾 に よ っ て 改 変 で き る こと が 明 らか と なっ た 。 特に 、Mf‑AO (AO結 合 量 = 227ルg/mg)は 、対照 として用 いたアク トミオシン よりも6倍 以上高い 乳化安 定 性 を示 し 、他 の 食 糧夕 ン パク 質 ( カゼ イ ン 、ア ル ブミ ン 、 およ び 大豆 夕 ン パク 質 ) と遜 色 ない 安 定 なエ マ ルジ ョ ン を形 成 し た。 ま た、MfAOは 弱 酸性(pH 5.5)下 にお いても優 れた乳化 能を示し、 さらに、 加熱処理(80°C,2h)しても、その乳化能 に 変 化し な かっ た 。 そし て 第六 章 に おい て は 、MfAOが 他 の食 糧 夕 ンパ ク 質と 同 等 の 酸 化 安 定 性 に 優 れ た ェ マ ル ジ ョ ン を 形 成 で き る こ と を 明 ら か に し た 。   以上 の 結果 は 、AO修 飾 によ っ てMfが 水溶 化 し 、さ ら に熱 安 定 性と 乳 化能 が 改 変 さ れ るこ と を示 し て いる。 すなわち 、AOが単糖修 飾(水溶 化と乳化 能の改変 )と多 糖 修 飾( 熱 安定 性 と 乳化能 の向上) 双方の効果 を併せ持 つ優れた 機能改変 素材であ ることが明らかとなった。

  この よ うに 、AO修 飾 によって さまざま な新機能を 得た魚肉 夕ンパク 質を食品 素材 と し て利 用 する た め には、 その食品 学的安全性 に関する 調査が必 要である 。そこで 第七 章では、 糖結合量 がほぼ同じ (170‑200 yg/mg)ながら褐変度(メイラード反応の 進 行 度合 い )が 異 な るMfAOを 調 製し 、Rec‑assayお よびAmes testに 供 し た。 さ ら に 、 実際 の 摂取 を 考 え、高 分子夕ン バク質のMf‑AOをin vitr。でぺプ シンおよ びト リ プ シン 消 化し たMf‐AOでも 安 全性 試 験 を実 施 した 。 そ の結 果 、 いず れ のMf−A0 お よ び そ の 消 化 物 に お い て も 変 異 原 性 は 全 く 検 出 さ れ な か っ た 。   本研 究 は遺 伝 子 工学 的視点 からの検 討もおこな った。す なわち第 八章にお いて、

P.ピら峻めvぬ由来のアルギン酸リアーゼをコードする遺伝子(ロヶ鬥班のをク口ーニン

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グして、発現させた遺伝子組換え酵素を用いても、従来のアルギン酸リアーゼと同 様の分子サイズのAO を調製できることを見い出した。さらに、これをMf に導入し て水溶化できることを明らかにした。

   本研究の成果を総括すると、三種の海洋生物資源(魚肉・褐藻・海洋細菌)の複

合利用によって、高機能を有するネオグリコプロテイン(Mf‑AO) を調製できたとい

える。そして、 Mf‑AO が広範囲な塩濃度溶媒に溶解できること、さらには弱酸性溶

媒に溶解し、加熱処理に対して安定であることを示した一連の成果は、魚肉の食品

素材としての利用価値を高めると同時に、魚肉の新規な利用形態の開発に繋がると

思われる。

(5)

学位 論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

助 教 授  佐 教 授   今 教 授   宮 助 教 授  澤

伯 宏 樹 野 久 仁 彦 下 和 夫 辺 智 雄

学 位 論 文 題 名

海 洋生物 資源の複合利用による

魚類 筋肉夕ン パク質 の高機能 化に関する研究

  魚類筋原線維夕ンノくク質(Mf)は熱的・化学的に非常に不安定であり、その変性に伴っ て 起こ る加 工機 能性 の喪 失が 利用 上の 障害 となっ ている。そこで本研究では、還元末 端 を 有 す る ア ル ギ ン 酸 オ リゴ 糖(AO)とMfの 反応 性リ ジン 残基 の間 に起 こる メイラ ー ド 反応 を利 用し てMf分子 中にAOの 導入 を試 みた。 そして得られた糖タンノくク質(ネ オ グリ コブ ロテ イン )の 加工 機能 にお よば す影響 を、食品科学的視点から検討した。

学 位 論 文 は ハ 章 よ り 構 成 さ れ て い る 。 以 下 に 各 章 の 概 要 を 示 す 。   まず第ー章では、海洋細菌Pseudoalteromonasピヶロゎレfからのアルギン酸リアーゼ調 製 条件 の最 適化 を検 討し 、酵 素活 性の 回収 率を大 きく改善させることに成功した。そ し て 電 気 透 析 法 と の 組 み 合 わ せ に よ り 、 効 率 的 なAO製 造 方 法 を 確 立 し た 。   続 い て 第 二 章 で はMfをAO修 飾 で きる 反 応 条 件 の 最 適 化 に つ い て 検 討 し 、 糖 修 飾 過 程に おけ るタ ンパ ク質 変性 を抑 制し なが ら、効 率的に魚肉夕ンパク質を糖修飾する 技 術 を 確 立 し た 。 な おSDS‑PAGE分 析 の 結 果 か ら 、AOはMf中 の ミ オ シ ン を 特 に 強く修飾することを確かめた。

  第 三 章 か ら 第 六 章 に お い て は 、Mfの 諸 機 能 に お よ ぼ すAO修 飾 の 影 響 に つ い て 検 討 し た 。 ま ず 第 三 章 でAO修 飾 し たMf (Mf‑AO)の 溶 解 性 に つ い て 検 討 し た と こ ろ 、 AO修 飾 に よ っ てMfの 低 イ オ ン 強 度 溶媒 中 へ の 溶 解 性 が 著 し く 改 変 さ れ 、 魚 類 筋 肉 タ ン パ ク 質 が 水 溶 化 で き る こ と を 確 認 し た 。 こ のMfの 水 溶 化 は40‑50いg/mgのAO が 結 合 す る と 顕 在 化 し た が、 その 際AOとの 結合 によ って 消失 した 有効 性リ ジンは 約 4% に 留 ま っ て い た 。 続い て 第四 章で は、Mf‑AOの化 学的 およ び熱 的安 定性 を検討 し た : そ の 結 果 、Mf‑AOは溶 媒 のNaCI濃 度 に 関 係 な く ミ オ シン やア クチ ンの 等電点 付

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近で も高い溶解性を維持した。さらに、AO 修飾によってMf の熱安定性が改変され るニとを見いだした。また第五章においてi 食糧タンノくク質にとって重要な加工機能 性のーつである乳化能も、AO 修飾によって改変できることを明らかにした。特に、

Mf‑AO (AO 結合量=227 ptg/mg) は、対照として用いたアクトミオシンよりも6 倍以 上高い乳化安定性を示し、他の食糧タンパク質と比べても遜色ない安定なエマルジョ ンを形成した。また、Mf‑AO は弱酸性(pH 5.5) 下においても優れた耐熱性乳化能を 示した。そして第六章においては、Mf‑AO が他の食糧タンパク質と同等の酸化安定性 に優れたエマルジョンを形成できることを明らかにした。

   第七章では、微生物学的手法を用いた食品安全性試験(Rec‑assay およびAmes test ) によ って、AO 修飾したMf およびその消化物には変異原性が見いだされないことを 証明した。さらに遺伝子工学的視点からの検討もおこなった。すなわち第ハ章におい て、P .  elyakovii 由来のアルギン酸リアーゼをコードする遺伝子(alyPEE のをクロー ニングして、発現させた遺伝子組換え酵素を用いても、従来のアルギン酸リアーゼと 同様 の分子サイズのAO を調製できることを見いだし、これをMf に導入して水溶化 できることを明らかにした。

   このように本研究は、三種の海洋生物資源(魚類・褐藻・海洋細菌)の複合利用に よって高機能を有する食用ネオグリコプロテインの調製に成功したもので、申請者は 魚肉タンバク質の新規な利用形態の開発に貢献しうるさまざまな知見を見いだした。

主論文発表会においては審査員より6 件、一般聴講者より5 件の研究内容に関する質

問がなされたが、申請者はいずれも適切な回答をおこない、研究に対する理解を深め

させた。以上、本論文の知見と発表会における討論を通して、審査員一同は主論文の

学術的価値を認め、本研究の申請者が博士(水産科学)の学位を授与される資格のあ

るものと判定した。

参照

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