要旨 小論では,教育実習を直前に控えた 3 年生が取り組む租税教育に関する授業づくりの概要を紹介する。受 講生は中学公民で取り扱う租税,財政,社会保障等の分野から模擬授業のテーマを選定し学習指導案を作成 して,税務署職員や税理士の前で模擬授業を行う。授業前に,学習支援員と学校臨床研究者の指導及び助言 の下で指導案を修正するという学習プロセスがある。活動を通じて,受講生は税制や財政に関する正しい知 識の習得と,授業に対する自信と授業力の向上を図ることができた。また,教育実習に臨むにあたり,目標 と課題を学生自ら設定することもできた。したがって,本活動は主体的に実習に取り組む姿勢の育成に寄与 する事例といえる。 キーワード:租税教育,模擬授業
I.はじめに
税理士会が行う租税教育等の対象として,(1)学校 教育法における児童・生徒及び学生,(2)小学校・中 学校・高等学校の教員又は教員になろうとしている者, (3)社会人の 3 つを挙げている(日本税理士会連合会, 2018)。対象(2)については,平成 25 年度から,将 来の租税教育を担う教員の養成を目的として,教員養 成大学・学部において寄附講座を開設し,税に対する 知識を深め教育を行える授業力を養うために税理士会 が支援している。2017 年度には,北海道教育大学, 岐阜大学教育学部,三重大学教育学部,長崎大学教育 分野については,文部科学省「中学校学習指導要領」 の公民的分野「国民の生活と政府の役割」において, 「財政及び租税の意義,国民の納税の義務について理 解すること」,「財政及び租税の役割について多面的・ 多角的に考察し,表現すること」とあり,また,「財 源の確保と配分」という観点から,「財政の現状や少 子高齢社会など現代社会の特色を踏まえて財政の持続 可能性と関連付けて考察し,表現させること」と記載 されている。 また日本税理士会連合会(2018)では,税理士が取 り組む租税教育の「本質」は,税の学習により国民一学生による租税教育の
模擬授業の実践について
The Journal of Economic Education No.38, September, 2019A trail lesson of taxpayer education practiced by undergraduate students
SASAKI, Kenichi
改善した点と発見した課題を紹介する。
Ⅱ.授業づくりの過程
先述の社会的ニーズに即応するために,北海道教育 大学教育学部旭川校経済学ゼミナール1)では,2017 年から大学近隣の税理士や税務署の税務広報広聴官に ご協力頂いて「租税教育授業づくり勉強会」を開始し た。当会は,6 月から 7 月にかけて租税に関する学習 指導案を作成した学生が模擬授業を行い,税理士の方 に参観して頂く場である。8 月下旬に教育実習を控え た 3 年生が,指導案作成に取り組むことで,教育実習 への不安を軽減し,受講者の授業力の向上を図ること が目的である。対象学生は前年度に税務署職員や税理 士の講義を受けて,日本税理士会連合会の『租税教育 講義用テキスト』を学習していることを申し添えてお く。 表 1 では活動過程を示した。はじめに,学生自らの 関心・興味に基づいて作成した学習指導案について, 学習支援員2)の先生と学校臨床研究者から指導及び助 言を頂き,学習指導案を改訂する。次に,学習支援員 と学校臨床研究者の前で模擬授業を行い,終了後に指 導及び助言を頂き,さらに学習指導案を修正する。最 後に,道内の小中学校で租税教室をご担当されている 先生方(北海道税理士会,札幌国税局,旭川法人会) にお越し頂いて,租税教育授業づくり勉強会を開催し, 当会で学生が模擬授業を行い,参観者から各授業に関 して講評を頂き,生徒たちに税を正しく理解してもら うための授業づくりを検討する。画像 1 は,勉強会当 日の様子である。会場は本学構内で小学校の教室を再 現した模擬教室である。Ⅲ.授業内容と評価(1)
本節では授業者 A の授業内容と模擬授業に対する 参観者の評価を紹介する。表 1 の通り,授業者 A は模 擬授業を 6 月 20 日と 7 月 13 日に行った。授業内容は, 税の種類と,税の集め方について取り扱い,間接税と 直接税の特徴について学び,税制の公平性について生 徒が自ら考えるものである。 1 回目の模擬授業を終えて,学習支援員と学校臨床 研究の先生方から「声が聞き取りやすく,落ち着いて 授業ができている」「生徒と社会とのかかわりを検討 し,主体的・対話的な学びが求められる」というコメ ントを頂いた。それを受けて指導案を修正し,7 月 13 日の模擬授業に臨んだ。画像 2 は授業者 A が行った当 日の板書を撮影したものである。 表 2 では授業終了後の参観者が記入した評価シート の集計結果を示した。どの項目も多くの参観者から 「当てはまる」「だいたい当てはまる」と回答を頂いた。 授業終了後,税理士から「生徒自身が深く疑問を持つ 表 1 活動課程 時期 内容 6 月上旬 指導案作成 6 月 13 日 学習支援員による指導 6 月中旬~ 7 月上旬 模擬授業(1)学習支援員・学校臨床研究者からの指導助言 指導案の修正 授業準備 7 月 13 日 模擬授業(2) 租税教育授業づくり勉強会における発表 7 月中旬 今後の課題をまとめる 8 月下旬~ 9 月末 教育実習 [出典]著者作成 画像 1 租税教育授業づくり勉強会 画像 2 授業者 A の板書に至らなかった」との指摘を受け,授業者 A は生徒 が十分に興味関心を持つような授業構成に至らなかっ たことを反省点として挙げている。
Ⅳ.授業内容と評価(2)
本節では授業者 B の授業内容と模擬授業に対する参 観者の評価を紹介する。授業者 B については 6 月 27 日と 7 月 13 日模擬授業を行った。授業者 B は,消費 税や入湯税,ガソリン税などの間接税を用いることで 生徒自身が納税者であることを確認した上で,税金の 使途と金額を示し,税の必要性を生徒自身が考えても らう授業を行った。 1 回目の模擬授業終了後,学習支援員と学校臨床研 き,特に,項目「生徒にとって身近な,興味の湧くよ うな具体的な例を挙げて話している」については,参 観者全員が「当てはまる」と回答している。税理士か ら,「生徒が考えを深める場面ではより適切な言葉や 問いかけがあるのではないか」「もう少し既習事項を 踏まえて,生徒に考えさせても良かったのではない か」等の助言があった。授業者 B は,教育現場で適切 な生徒観を養うことと正しい筆順で板書することを反 省点として挙げた。Ⅴ.授業内容と評価(3)
本節では授業者 C の授業内容と模擬授業に対する参 観者の評価を紹介する。授業者 C については 7 月 4 日 表 2 授業者 A の評価表(標本数 17) [出典]著者作成 当てはまる 大体当てはまる あまり当てはまらない 当てはまらない 未回答 明るく前向きに生徒に接している。 14 3 0 0 0 生徒 1 人 1 人に気を配り,言葉かけをしている。 12 5 0 0 0 明確な指示を出してクラスを動かしている。 10 7 0 0 0 授業のはじめに,学習の狙いを生徒に明確に示している。 10 7 0 0 0 前もって,授業内容の順序を考えて話している。 8 6 1 0 2 生徒にとって身近な,興味の湧くような具体的な例を挙げて話している。 5 12 0 0 0 効果的なパワーポイント資料を作成している。 10 5 1 0 1 授業のまとめの工夫をしている。 9 5 1 0 2 生徒に興味・関心をもたせるための教材解釈・教材開発・教材選択をしている。 8 8 1 0 0 生徒の税に関するイメージが授業前と授業後で変わるような授業内容・展開である。 10 5 1 0 1 税や財政について多面的,多角的に考察し,公正に判断するとともに適切に表現する能力と 態度を育てる授業内容である。 6 6 1 1 3 生徒が社会に積極的に関わろうとする態度が身につく授業内容である。 6 9 1 1 0再度確認してほしい」というコメントを受けた。授業 者 A,授業者 B と同様,翌週の「租税教育授業づくり 勉強会」までに指導案修正を行い,再度模擬授業を 行った。授業者 C の当日の板書は画像 4 として掲載し た。 参観者の評価シートの集計結果を表 4 で示した。先 述の授業者と同様に,全項目で多くの参観者から「当 てはまる」「だいたい当てはまる」と回答を得た。税 理士から「公平性という難しい学習内容を分かりやす い説明だった」「日本の税負担の公平性を考えるため の引き出しとして,国際比較が有効であるのではない か」等の助言があった。授業者 C は,自分の授業に対 して,構成と生徒がより多面的・多画的に考えられる 授業づくりを反省点として挙げた。
Ⅵ.まとめ
小論では租税教育の模擬授業を試み,税理士を含む 参観者による評価を取り入れて考察した。学生 3 名に は次の 2 つの特徴がみられた。 (1) 評価シートの活用,学生の授業観察,学習支 援員・学校臨床研究者の指導助言により,評価項目を 意識して練習に取り組み,学生の授業に対する自信と 授業力を高まり,授業を改善することができた。 表 3 授業者 B の評価表(標本数 18) [出典]著者作成 当てはまる 大体当てはまる あまり当てはまらない 当てはまらない 未回答 明るく前向きに生徒に接している。 16 2 0 0 0 生徒 1 人 1 人に気を配り,言葉かけをしている。 17 1 0 0 0 明確な指示を出してクラスを動かしている。 15 3 0 0 0 授業のはじめに,学習の狙いを生徒に明確に示している。 17 1 0 0 0 前もって,授業内容の順序を考えて話している。 12 5 1 0 0 生徒にとって身近な,興味の湧くような具体的な例を挙げて話している。 18 0 0 0 0 効果的なパワーポイント資料を作成している。 13 5 0 0 0 授業のまとめの工夫をしている。 12 6 0 0 0 生徒に興味・関心をもたせるための教材解釈・教材開発・教材選択をしている。 17 1 0 0 0 生徒の税に関するイメージが授業前と授業後で変わるような授業内容・展開である。 13 5 0 0 0 税や財政について多面的,多角的に考察し,公正に判断するとともに適切に表現する能力と 態度を育てる授業内容である。 10 8 0 0 0 生徒が社会に積極的に関わろうとする態度が身につく授業内容である。 12 6 0 0 0 画像 3 授業者 B の板書 画像 4 授業者 C の板書(2) 大学近隣の小中学校で租税教室を担当する税 理士や税務広報公聴官から講評を頂くことで正しい税 の知識を身に着けることができた。 授業者である学生 3 名は,教育実習前にこの授業づ くりを行えたことは貴重な経験であり,実習時に大変 役に立ったと回答した。また,学生が教育実習に臨む にあたり,授業構成及び時間配分を考慮し,生徒がよ り社会事象について多面的・多画的に考えられるよう な授業を行いたいという共通の課題を発見できた。授 業観察,実践と省察の繰り返しが学生の授業力を育む。 文部科学省(2018)によれば,全国の国立の教員養 成大学・学部(教員養成課程)の平成29年3月卒業者 における教員就職率 は 67.5%であった。このような 模擬授業の取り組みが,実習を間近に控えた学生の不 年生が一堂に会し,学習会等を毎週行っている。本活動 に対する単位認定は行っていない。 2) 北海道教育大学旭川校では 2018 年度から学習支援員を配 置した。学習支援員は,実際の現場での指導経験や教育 委員会での経験をもとに,学生の授業づくりや模擬授業 などの実践的指導力習得に対する支援を行っている。 参考文献 [1] 稲田克二(2018)「社会科・地理歴史科教育法における模 擬授業の状況」『教職教育センタージャーナル』第 4 号 , pp. 65-79 [2] 教育出版(2015)「中学社会公民-ともに生きる」 [3] 国税庁「税の学習コーナー」国税庁ホームページ 租税教育推進関係省庁等協議会(2017)『租税教育の事例 集(中学校版)-平成 29 年 5 月一部改訂』ほか [4] 白水智(2017)「社会科・地歴科教育法における 実践的模 擬授業指導の試み」『中央学院大学人間・自然論叢』44 号 , pp.143-162 表 4 授業者 C の評価表(標本数 15) [出典]著者作成 当てはまる 大体当てはまる あまり当てはまらない 当てはまらない 未回答 明るく前向きに生徒に接している。 13 2 0 0 0 生徒 1 人 1 人に気を配り,言葉かけをしている。 11 4 0 0 0 明確な指示を出してクラスを動かしている。 10 5 0 0 0 授業のはじめに,学習の狙いを生徒に明確に示している。 10 4 0 0 1 前もって,授業内容の順序を考えて話している。 10 5 1 0 0 生徒にとって身近な,興味の湧くような具体的な例を挙げて話している。 7 7 0 0 0 効果的なパワーポイント資料を作成している。 8 6 0 0 1 授業のまとめの工夫をしている。 8 7 0 0 0 生徒に興味・関心をもたせるための教材解釈・教材開発・教材選択をしている。 7 7 0 0 0 生徒の税に関するイメージが授業前と授業後で変わるような授業内容・展開である。 7 8 0 0 0 税や財政について多面的,多角的に考察し,公正に判断するとともに適切に表現する能力と 態度を育てる授業内容である。 11 4 0 0 0 生徒が社会に積極的に関わろうとする態度が身につく授業内容である。 6 8 1 0 0