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はじめに(pdf)

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Academic year: 2021

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はじめに

● 今でこそ数理生態学に関する日本語のよい教科書はたくさん出ているが,私 が学生の頃は日本語の教科書はほぼ皆無であった. 私は学部4年生の時に,後に私の指導教官となる巌佐庸博士の『生物の適 応戦略 ソシオバイオロジー的な視点からの数理生物学』(サイエンス社)を 読んで数理生態学を志した.この本は私にとって数理生態学への入り口となっ たが,それ自体は教科書という類いのものではなかった(実際,これは巌佐博 士の博士論文を活字化したものである). 数理生物学の門をくぐってどうしたものかと生協の書籍部を散策してみる と,そこで見つけたのはピールーの訳書である『数理生態学』(産業図書)と メイナードスミスの訳書の『進化とゲーム理論』(産業図書)であった.前者 は今でこそ良い本だと思うが,図もほとんどなく当時は取っ付きにくかった. それに何よりも,この本には進化に関する内容は含まれていなかった.後者は 名著だがゲーム理論に特化した本で,やはり全体的な教科書という感じではな かった. その後,私が博士課程2年の時に巌佐博士が「なんも知らん君みたいな学 生のために書いた教科書やで,しっかり勉強しいや」といいつつ出版したの が,現在本書と同じく共立出版から刊行されている『数理生物学入門』である (当時はHBJ出版局から刊行されていた).また,その年には竹内康博博士が ホッフバウワーとシグムンドの『生物の進化と微分方程式』(現代数学社)を 翻訳して出版された.それ以降,数理生態学そして数理生物学に関する様々な 教科書が出版され,今ではどれから勉強すべきか迷うほど多くの教科書が並ん でいる. 数理生態学について良い教科書がたくさん出ているのはそのとおりなのだ が,それらの多くは読者が数学や生物について一定の知識を持っていることを 前提にしているように感じる.私が初学者であった時のことを思うと,この分 野について数学や生物とはまったく違う分野の人にも手に取ってもらえるよう な本があってもいいように思う.本書が目指したのはそのようなタイプの本で

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iv はじめに ある. しかし分野外の人に読んでもらうためとはいえ,数理生物学の本質である 「数式」をまったくなくすわけにはいかない.「生物を理解する上での数式の 力」を感じ取ってもらうには,やはりある程度の数式を示す必要がある.ま た,すでにある程度数理生物学を知っている人にも学ぶところのある本にした い.そのため本書には,私が自分自身で研究を進める中で身につけた「あまり 他の本では触れていないけれど,これを知っていれば理解が広がる」ような情 報をところどころに散りばめている. そのように欲張った結果として,全体として内容のレベルに起伏ができてし まったかもしれない.とりあえず読者には,自分の興味に応じたところから拾 い読みしてもらえると良いかもしれない. 近年,「役に立つ」ことの重要性が声高に叫ばれ,「知る」ことそれ自体を命 題とする基礎科学に対しては風当たりが強まっている.それでも,「知りたい」 という単純な知的好奇心は人間の本質の1つである.本書を読んで「面白い」 「もっと知りたい」という気持ちを感じてくれる読者がいれば幸いである.本 書をきっかけにして数理生態学や進化生物学に興味を持ち,さらにはその道へ と進む読者がいることを願います. 2012年8月 山内 淳

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