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Pilon 骨折を含む多発骨折術後に内側足底神経麻痺が生じた症例への理学療法介入

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Academic year: 2021

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症例報告

Pilon 骨折を含む多発骨折術後に内側足底神経麻痺が

生じた症例への理学療法介入

根岸 兼也

1)

,一瀬 裕介

1)

Kenya NEGISHI1), Yusuke ICHINOSE1)

要旨:[はじめに]Pilon 骨折を含む多発骨折術後に右足底の痺れ・感覚障害が生じた症例を経験し た.[症例紹介]70 歳代女性,梯子から転落し,右 Pilon 骨折(Ruedi 分類Ⅲ),右腓骨骨幹部骨折, 右内果骨折,左踵骨骨折を受傷後,観血的整復固定術を施行した.[経過]部分荷重を経て,全荷重 を開始したが退院後も右足底の痺れ・感覚障害の症状が継続し,外来リハビリテーションを実施し た.セルフトレーニング,ストレッチ指導を中心に週に 1 回の頻度で介入を継続し,12 回の介入で 改善が認められた.[考察]術後の長期免荷期間により足底筋膜,母趾外転筋の硬化が生じ,内側足 底神経の圧迫を引き起こしたことが痺れや感覚障害が発生した一因ではないかと考えられる.[結論] Pilon 骨折の術後は神経障害が生じる可能性があり,術創部周囲の癒着予防や足底の硬化予防が重要 だと考える. キーワード:Pilon 骨折,内側足底神経麻痺,外来リハビリテーション 1) 社会医療法人博愛会菅間記念病院リハビリテーション科: 栃木県那須塩原市大黒町2-5(〒325-0046)TEL:0287-62- 0733

Department of Rehabilitation, Social Medicine Corporation Kamma Memorial Hospital, 2-5 Daikoku-cho, Nasushiobara-shi, Tochigi 325-0046,Japan. TEL: +81 287- 62-0733

受付日 2020年11月6日 受理日 2021年1月7日 Ⅰ.はじめに Pilon骨折(脛骨天蓋骨折)は高所からの転落や 交通事故により,下腿長軸方向に強い外力が作用 した場合に生じ,受傷直後から強い疼痛により起立 歩行が困難となる1)ことで知られる高エネルギー 外傷である.Muller2)は術後の荷重制限について, Ruedi分類のgrade3にあたるPilon骨折において3 ~ 4カ月が妥当と述べており,長期免荷期間を強い られる骨折である.術後の合併症についてPollakら ³)は,Pilon骨折の術後患者80人をフォローアップ した結果,平均3.2年で,患者の35%が実質的な足 首のこわばり,29%が持続的な腫脹,33%が継続的 な痛みを有しており,患者の68%が動作制限を来し たことを報告している. 今回,Pilon骨折を含む多発骨折術後にT-cane歩 行自立で退院に至ったたが,内側足底神経領域の痺 れ・感覚障害が残存した症例を経験した.先行研 究2, 3)において,術後に疼痛や歩行障害が生じた報 告はされているが,内側足底神経麻痺に関連した報 告は我々が知る限りは本邦において散見しない. 入院時より術前後のリハビリテーションを実施 し,荷重制限が解消された後,動作は自立し,退院 に至ったが,神経症状が残存し,バランス機能の低 下,歩行時のふらつきが生じた.上記の改善を目的 に母趾外転筋の硬結、足底筋膜の柔軟性低下に着目 して外来リハビリテーションを行い,改善に至った ため報告する.

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Ⅱ.症例紹介 70歳代女性で,通院歴,既往歴はない.病前は 夫とともに農家として働いていた.屋内外ADLは 自立していた.認知機能の低下はなく,コミュニ ケーションは良好であった.現病歴は梯子から足 を滑らせて転落し,右Pilon骨折1(図1:Ruedi分 類Ⅲ,AO分類C),右腓骨骨幹部骨折,右内果骨折, 左踵骨骨折(図2)を受傷した.救急搬送にて当院 に入院し,右足部のみを直達牽引にて固定,第6病 日に両側下肢に対する観血的整復固定術(図3)を 施行した.第7病日より術後理学療法を開始した. 右側は術後シーネ固定で第42病日からankleサポー ターを着用した.第42病日より荷重を伴わない接 地を開始,第49病日より1/3部分荷重開始,第56 病日より1/2部分荷重開始 ,第63病日より全荷重 を開始した.左側は外固定なしで第28病日より荷 重を伴わない接地を開始,第35病日より1/3部分 荷重開始,第42病日より1/2部分荷重開始,第49 病日より全荷重を開始した.第84病日にT-cane歩 行で退院し,第91病日から外来リハビリテーショ ンを開始した. 入院中の理学療法は,術前より患部外運動,足 趾運動,腫脹軽減のためのRICE(安静rest,冷却 icing,圧迫compression,挙上elevation)をベッ ド上で行った.術後は早期よりリンパドレナージ, 主治医の指示に従い足関節可動域練習を他動,自 動の順に開始した.免荷期間は車椅子での病棟内 ADLを確保し,荷重開始とともに歩行補助具を使 用した歩行練習を行った.荷重に伴い,右内側足 底神経領域における表在感覚(触覚,定性的評価) の低下は改善傾向にあったが残存した状態での退 院となった(図4). 倫理的配慮として,ヘルシンキ宣言に基づき,対 象者に本症例報告の内容を説明し,同意を得た. Ⅲ.経 過 1.外来リハビリテーション初期評価(第 91 病日) 初期評価および最終評価の結果を表1に示す. 断続的な右内側足底神経領域の痺れ・疼痛・感 覚障害が生じており,表在感覚(触覚,定性的評 価)で5/10の低下,Tinel徴候は内果以遠に生じ ていた.深部感覚障害は見られなかった.ROM (Rt/Lt)は背屈20°/20°,底屈45°/50°,母趾伸 展Active0°/60°,Passive30°/60°,MMTは右長 母趾伸筋2の低下が見られた.足底の感覚障害と 足趾機能の低下によりバランス機能の低下が見ら 図 1 受傷時の右足関節 CT 画像 (第 1 病日) 図 2 受傷時の左足関節 CT 画像 (第 1 病日) 図 3 術後右足関節の X 線画像 (第 13 病日)

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れ,右側片脚立位時間は2.3秒であった.触診では 手術により下伸筋支帯を切開した影響で術創部周 囲の軟部組織の柔軟性低下が見られた.足底は母 趾外転筋の硬結,足底腱膜の柔軟性低下が見られ, Windlass testは陽性であった. 歩行は左側でT-caneを使用していた.ADL評価 としてFIMは124点であった. 2.理学療法介入(第 91 病日~ 175 病日) 外来リハビリテーションは週に1回の頻度(2単 位,40分間)で実施し,第175病日までの計12回 の介入を行った.介入内容としては以下を実施し た(表2). Ⅰ.触診より母趾外転筋硬結や足底腱膜の柔軟性 低下が見られたため,柔軟性,可動域の改善を目 的に足関節・足趾ROMexや徒手やゴルフボールを 用いた圧迫(図5)およびセルフマッサージの指導 を行った. Ⅱ.母趾屈筋群の短縮により母趾伸展の可動域制 限があり,足趾運動の阻害要因となっていたため, 可動域の改善を目的に足関節母趾伸展ストレッチ (図6)を指導した.また,より伸張させるために 足関節背屈位での母趾伸展を行うように指導した. Ⅲ.バランス機能の低下の要因と考えられる内在 表 1 理学療法介入による各評価項目の結果   初期評価(第 91 病日) 最終評価(第 175 病日) 内側足底神経領域の触覚(定性的評価) 5/10 10/10 ROM(Rt/Lt)足関節背屈 20°/20° 20°/20° 底屈 45°/50° 45°/50° 自動 母趾伸展 0°/60° 30°/60° 他動 母趾伸展 30°/60° 50°/60° MMT(Rt のみ)長母趾伸筋 2 3 歩行補助具 T-cane フリーハンド 右側片脚立位時間(秒) 2.3 15.6 FIM(点) 124 126 表 2 理学療法介入内容 介入内容 目的 入院時 術前(第 1 ~ 7 病日) 患部外運動 機能維持 足趾運動 入院時 術後(第 7 ~ 84 病日) RICE 鎮痛・消炎 リンパドレナージ 浮腫改善 足関節可動域練習 関節可動域改善 車椅子での病棟内 ADL 練習, 院内 ADL 拡大 荷重に応じた歩行練習 外来リハビリ(第 91 ~ 175 病日) セルフマッサージ指導 軟部組織柔軟性改善 ミニマルカーフレイズ 足関節・足趾 ROMex 関節可動域改善 母趾伸展ストレッチ指導 足趾把握トレーニング 内在筋の機能改善 有酸素運動 運動耐用能向上   マシントレーニング 下肢筋力向上

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筋の機能低下に対して,ミニマルカーフレイズ (図7)やタオルギャザー等の足趾把握セルフトレー ニングを指導した.セルフトレーニングは介入時 に確認および修正を行った. Ⅳ.下肢筋力・筋持久力,運動耐用能の向上を目 的にレッグプレスやレッグエクステンションを中 心としたマシントレーニング(インターリハ社, HUR)を負荷量1RMの70%で10 ~ 15回,自転車 エルゴメーター(オージー技研社,コードレスバ イクV67i)を負荷量25Wで15分~ 20分間を修正 Borgスケールにて4(やや疲れる)を目安に実施 した. 3.最終評価(第 175 病日) 疼痛は消失,内側足底神経領域に生じていた痺 れ・感覚障害は母趾末端に限局する過程を経て消 失し,表在感覚は10/10に改善した.また,Tinel 徴候は陰性となった.母趾伸展ROMはActive30° /60°,Passive50°/60°に改善し,右長母趾伸筋の MMTは3に向上した.バランス機能として,右側 片脚立位時間は15.6秒まで向上した.触診では母 趾外転筋の硬結、足底腱膜の柔軟性の改善が見ら れ,Windlass testは陰性となった. 歩行はフリーハンドで可能になり,FIMは126点 に改善した.家事動作等のIADLや農作業が再開可 能になり,外来リハビリテーションは終了となった. 図 4 内側足底神経領域における表在感覚の経時的変化 (入院中) 図 5 ゴルフボールを用いたセルフストレッチ 図 6 タオルを用いたセルフストレッチ 図 7 ミニマルカーフレイズ

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Ⅳ.考 察 今回,Pilon骨折により長期免荷期間を強いられ たことで内側足底神経麻痺が生じた症例を経験し た.本症例は梯子からの転落により生じた高エネ ルギー外傷であり,Pilon骨折を含む多発骨折が生 じたため,長期の免荷期間を要した.そのため右 足では受傷から全荷重開始までに約10週を要し, 術創部や足底周囲の軟部組織の変性や癒着が生じ たことで足趾機能の低下,内側足底神経領域の麻 痺症状が出現したと考えられる. 今回,12回の外来リハビリテーション介入にお いて,外来リハビリテーション初期評価で生じて いた痺れ・感覚障害が母趾末端に限局する過程を 経て消失した.そのように改善した理由として以 下のように内側足底神経の絞扼が改善したことが 挙げられる. 第1に軟部組織の柔軟性低下に対し,セルフでの ストレッチやマッサージを中心に行い,柔軟性が 改善した.内側足底神経における表在感覚の経時 的変化を図8に示す. 先行研究5)では関節のギプス固定期間の延長に 伴い,関節軟骨表面の線維性の膜様組織の出現や 軟骨組織と周囲組織との癒着が生じることを報告 している.また,工藤6)は母趾外転筋,下腿深屈 筋膜の緊張が高まるなど,破格筋が存在すると絞 扼性神経症が発生し,支配神経領域である足底や 踵部のしびれや疼痛が発生すると述べており,伊 須ら7)は坐骨神経から分岐した後脛骨神経は足底 の内側・外側足底神経として足根管内を走り,母 趾外転筋をくぐって足底へ向かう神経であること が述べられている. 本症例は,図4に示す通り入院初期の感覚は正常 であったが,経過を追うごとに感覚障害が生じて いることから,母趾外転筋の硬化により内側足底 神経部を絞扼したことが十分に考えられる. その他,セルフストレッチにより足底の軟部組 織や母趾外転筋柔軟性改善に加え,荷重を伴う歩 行動作が可能になったことで巻き上げ現象が働き, 足趾や足底筋膜等のアーチ機能を構成する組織へ の刺激が増加したことも柔軟性改善に関与したと 考えられる. また,先行研究8, 9)では足趾把持力や筋力と動的・ 静的バランス機能の関連性が述べられている.バ ランス機能が改善した要因として,軟部組織柔軟 性の改善に伴い,足趾の可動域が向上し,足趾運 動が可能になったことが挙げられる. Ⅴ.まとめ Pilon骨折は長期間の免荷期間を要し,その術後 管理では,術創部周囲軟部組織の癒着や足底の硬 化が生じやすい. 今回,理学療法介入により母趾外転筋や術創部 周囲軟部組織の柔軟性改善とともに症状は軽減す る過程を経て消失した. 先行研究4)ではPilon骨折はエネルギー力が高い ため,軟部組織損傷に関連し,管理が重要である ことが述べられている.本症例を通じて,長期免 荷期間を要する疾患では末梢神経障害が生じる可 能性があり,術後早期から軟部組織の柔軟性を確 保するために管理を含めた介入を行っていく必要 性が考えられた. 図 8 内側足底神経領域における表在感覚の経時的経過 (外来リハビリテーション開始以降)

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引用文献 1) 松野丈夫,中村利孝:標準整形外科学,第12版. 医学書院,東京,2014, pp821–822. 2) Muller ME:骨折治療のためのAO分類法.廣 畑和志(監訳),シュプリンガー・フェアラー ク東京,東京,1991, pp170–179.

3) Pollak AN, McCarthy ML, Bess RS, et al.: Out-comes after treatment of high-energy tibial plafond fractures. J Bone Joint Surg Am, 2003, 85(10): 1893–1900.

4) Jessica Bear, Natalie Rollick, David Helfet: Evo-lution in Management of Tibial Pilon Fractures. Curr Rev Musculoskelet Med. 2018, 11(4): 537– 545. 5) 渡邊晶規,細 正博,武村啓住・他:関節拘縮 における関節構成体の病理組織学的変化―ラッ ト膝関節長期固定モデルを用いた検討―.理学 療法学,2007, 22: 67–75. 6) 工藤慎太郎:運動器の「なぜ?」が分かる評価 戦略.医学書院,東京,2017, pp 309–316. 7) 伊須豊彦,金 景成:下肢末梢神経障害に対す る外科治療.Spinal Surgery, 2018, 32(2): 134– 142. 8) 加辺憲人,黒澤和生,西田裕介・他:足趾が動 的姿勢制御に果たす役割に関する研究.理学療 法科学,2002, 17(3): 199–204. 9) 前田佑輔,田中敏明,小島 悟・他:高齢者の 静的・動的バランス能力.札幌医科大学保健医 療学部紀要,2002–03, 5: 79–85.

参照

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