― 43 ― JSSGS 第 18 回大会報告(シンポジウム) 〈登壇者抄録〉
オリンピックと多様性
オリンピックは人々の属性に対する規範の持続的な再考の場になり得るか
來田享子(中京大学)
キーワード:国連,オリンピック・アジェンダ 2020,IOC ジェンダー平等再検討プロジェクトはじめに
本報告では,スポーツにおける多様性を以下の 2 つの視点で捉える.第一は,性別・年齢・人種・ 性的指向など,人々の「属性」という視点である.この視点は「誰が,誰にとってのスポーツの未来 像を描くのか」という問いと結びつく.第二は,宗教・文化・ライフスタイルなど,人々の「価値 観」に関わる視点である.この視点は「スポーツはどのような価値観を受け入れる身体文化であろう とするのか」という問いと結びつく.この価値観には,ジェンダー観やジェンダー規範が含まれる. 近年の社会では,2 つの問いを「人々の属性に対する規範の持続的な再考を促すために,スポーツ はどのような身体文化であろうとするのか」という問いへと融合・転換させることが求められている のではないだろうか.報告では,この視点から IOC におけるジェンダー平等政策を 2 期に区別して 検討する.1.オリンピックにおける女性の参加拡大
Chase(1992)は,オリンピックにおけるジェンダー政策を分析し,オリンピックにおけるジェン ダー不平等は,1)ピエール・ド・クーベルタンを含む IOC 歴代会長のジェンダー観と不可分であり, 2)スポーツの大衆化が進んだ戦後,さらには 1990 年代においてもジェンダー規範やメディア表象等 の社会的要因の影響を避けがたく受けている,ことを指摘した. スポーツにおけるジェンダー不平等の解消は,身体が介在する文化であるが故に,社会一般に比し て,より困難であるとされている.スポーツへの女性の参加の促進/制約の決定の鍵のひとつは,宗 教,生理学,解剖学,生物学,心理学,医学等の「専門家たち」による「科学的根拠」であった. 戦後,オリンピック大会への女性の参加は次第に拡大した.その背景には,1950 年代以降の社会 主義国やアフリカ諸国の IOC 加盟,1984 年ロサンゼルス大会以降の商業主義化にともなう大会規模 の拡大があった.一方で,上述の「科学的根拠」との整合性が絶えず諮られてきた.2.IOC におけるジェンダー平等政策(第Ⅰ期)
スポーツにおける女性の地位・リーダーシップの向上に対する IOC の取り組みは,1990 年代から みられる.1996 年から 2012 年までの方針は,IOC 世界女性スポーツ会議から理解することができる. 2012 年第 5 回会議でのロサンゼルス宣言採択以降,会議は開催されておらず,この間に確立された リーダーシップ研修や表彰制度は継続されている. これらの動向とその批判的検証は,女性の参加者数/参加競技・種目の拡大と意思決定機関の女性 割合を指標として進める事例が多くみられる.これらの事例は,オリンピックにおける多様性に向け られた関心が,「属性」に払われてきたことを示すといえよう.2000 年以降の性別変更選手の参加承― 44 ― ― 44 ― オリンピックと多様性 認は,この延長線上に置かれた方針転換であると解釈することも可能である.