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〈書評〉境忠宏編・電通イノベーション経営研究プロジェクト著(2002) 『革新経営のメカニズム : 知恵と技術の多位相連携へ』 同友館

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Academic year: 2021

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(1)<書評>境忠宏編・電通イノベーション経営研究プロジェクト著(2002) 『革新経営のメカニズム:知恵と技術の多位相連携へ』同友館 (Book Review) Tadahiro SAKAI and Dentsu Innovation Management Research Project Doyukan, Tokyo. (2002)The Management for Innovation Dynamics 松本力也 横浜国立大学大学院環境情報学府博士課程後期 Rikiya MATSUMOTO (Post-graduate Course, Graduate School of Environment and Information, Yokohama National University) 経営を革新することは企業にとって大き な挑戦である。この挑戦とは、企業が抱え るヒト・モノ・カネ・情報という資源や組 織をドラスティックに更新することでもあ る。ドラスティックな更新は平穏無事な経 営にはなじまない。むしろ、大きな課題に 直面しその課題の解決に迫られている企業 にとって経営を革新する意義が見えてくる のであろう。経営の革新を試みるときに想 起される企業の課題は、どのように「ある 均衡状態を克服して次の均衡状態へ移行す る過程」を見出せばよいのかということに ある。本書はこの方策として、イノベーシ ョンによる革新的な経営を維持することが 重要であり、そのために必要とされる均衡 状態の更新を一過性なものに終わらせるこ となく継続的に創造していく視点を提供し ている。恒常的な変革を意図する「革新的 な経営」は、企業とステークホルダーとの 間で継続的に価値を創造し共有することで 実践される。本書は、企業とステークホル ダーの間で、知恵や技術といった価値を創 造するひとつひとつの要素がどのように組 織の境界をこえて結びつき、企業をマネジ メントする経営モデルとなりうるかについ て考察している。 はじめに本書の全体の流れを確認してみ よう。本書は 4 章からなっている。まず第 1 章では、今後のビジネスモデルの変化方 向を展望することで、イノベーションの成 立要件を検証し、今後の経営における「イ ノベーション経営」モデルについて仮説構 築を行っている。次に第 2 章では、第 1 章 で提示された仮説を検証するために、新し いビジネスモデルを構築し継続的な革新を 進めている企業 7 社の事例研究を行ってい る。そして第 3 章では、イノベーション経 営を実現するためのモデルを実際に適用し て、課題解決に臨む際に活用されうるメソ ッドを提示している。このメソッドは、企 業がイノベーションを起こすときに、イノ ベーションプロセスのどのようなフェイズ にどのようなメソッドが効果的なのかとい う観点からまとめられている。ここで提示 される各メソッドは、企業の中核的な課題 を克服し、企業全体の革新を誘発するため. に必要な「ドライバー」や「起点」といっ たツールとされている。最後の第 4 章では、 イノベーション経営の評価法を提示してい る。第 1 章で提示された経営モデルにリン クさせて、「企業の資源保有水準×運用力 =総合的な企業価値=ステークホルダーに とっての道具性」という経営モデルの評価 法とそのパイロットスタディーをバリュ ー・キューブ・モデルと呼ぶ3次元モデル で提示している。 本書の特徴をひとことで述べると、企業 経営を俯瞰する枠組みとしてビジネスモデ ルという静的な視点の変遷をとらえていく ことで、継続的なイノベーションを創造し た結果発生する企業とステークホルダー間 の均衡状態の移り変わりを描写しているこ とである。ビジネスモデルとは、「企業が事 業活動を通して顧客の価値や企業の利益を 生み出す仕組みであり、企画・開発・生産・ 物流・販売という価値連鎖やそれを支える 組織とオペレーションからなる」。本書がビ ジネスモデルに着目する理由は、近年ビジ ネスモデルの基盤となるビジネスコンセプ トが大きく革新されつつあるからである。 たとえば、「少子・高齢化」社会の到来、企 業のグローバルな人材確保、そして情報化 の進展が挙げられる。このような社会の変 化は企業経営に大きなインパクトを与える ことになる。それは、ビジネスモデル開発 の起点となるビジネスコンセプトおよびそ の運用のためのマネジメントプロセスに大 きな革新を迫ることになる。 ビジネスコンセプトの革新にはふたつの 要因がある。それらは、①価値を結びつけ る視点が供給者視点から需要者視点へと変 換していること、②資源を連結させ活用す る方向が閉鎖的な内部組織から開放的なネ ットワークへと拡大していることである。 このようなビジネスコンセプトを変革する 要因に共通することは、「顧客起点でオー プンなネットワークを基盤としたマネジメ ントプロセスの再編」にある。つまり、ビ ジネスモデルを変革するためには、ヒト・ モノ・カネ・情報という経営資源要素を企業 や組織の境界をこえて再編成し再構築して いくための仕組みづくりが必要となる。. 68.

(2) 経営資源の要素を再編成し再構築するた めの仕組みをつくることは、本書全体で提 示されている最大の論点である。すなわち、 「イノベーション経営のモデル構築を解明 するためには、継続的にイノベーションを 誘発するためのイノベーション誘発サイク ルにおける各位相間の連携、さらにこれら の位相を構成する要素的活動の組織や企業 を超えた連携という多位相連携のマネジメ ントを明らかにすること」である。つまり、 本書が最も明らかにしなければならないと 考えていることは、次の4点である。①イ ノベーションを継続的に誘発するためには どのような経営モデルを構築していけばよ いのか。その経営モデルを構築するために は、②継続的なイノベーションの発生に必 要となる経営資源要素を自在に連携させ連 結していくためのサイクルが必要となるこ と。③そのサイクルは組織内外の経営資源 を連携・拡大・活用すること、そして、成 果を共有するためにひつような位相と課題 を解決していくための活動から構成される こと。④課題解決活動は組織を超えた多様 な位相間の連携へと発展すること。イノベ ーション経営を構成する要件にはこれら 4 点がある。本書は、このイノベーション経 営をマネジメントする仕組みを「多位相連 携のマネジメント」と呼んでいる。 多位相連携のマネジメントとは、「個人 から社会に至るさまざまな水準で境界を越 えたイノベーション誘発の諸相間の協働」 をマネジメントしていくことである。それ ではなぜ企業がイノベーション経営のモデ ルを構築するためには、個人から社会とい う多様な水準で境界を越えたイノベーショ ンを誘発する仕組みを開発する必要がある のであろうか。本書によると、これからの 企業がビジネスモデルを持続的に変革して いくためには社会視点・顧客視点にもとづ き、知恵や技術をボーダレスに連携させる ことで、常にあたらしい価値を生み出し続 けることができる。たしかに社会視点や顧 客視点を起点とするビジネスモデルの構築 は、企業とステークホルダーの関係性を認 識したビジネスの「仕組みづくり」と理解 することができる。しかし、イノベーショ ンによって経営を変えていくこと、つまり、 イノベーションを誘発する仕組みをつくる ことで、企業が価値創造の境界を広げてい くことは、果たして可能なのであろうか。 この疑問について、本書は 2 つの点で経営 変革の手段としてイノベーションが有効性 を持つ理由を挙げている。イノベーション の目的は、ひとつには「資源などのより効. 69. 率的で効果的な活用を推進することが企業 の経済価値を向上することになり、顧客や 社会に対して企業が持つ『道具性』を拡大 し、ひいては社会全体の経済発展に貢献す ること」である。したがって、ふたつには 「イノベーションの目的は、それ自体にあ るのではなく、イノベーションの結果とし て創造される新しい価値を投資家や顧客さ らに社会と共有することにある」。しかし、 これら 2 点のイノベーションの目的は、必 ずしもイノベーションを誘発する仕組みの 構築や企業価値の共有の重要性をあらわす ことにはならない。なぜなら、経営を変革 するためのイノベーションの目的は、単な る価値の共有関係を超えて価値創造の制約 そのものを克服し拡大することで企業の経 営を変えていくことにあるからである。つ まり、革新によって経営を変えていくため には、顧客視点・社会視点を堅持しつつも 従来考えもしなかった価値の革新を加味し ていかなくてはならない。この意図を確実 にしていくために、イノベーションを誘発 する枠組みとしての多位相連携のマネジメ ントが必要とされるのである。 本書は、今後企業が多様なステークホル ダーとの関係性を維持していくためには、 イノベーションによる継続的な価値革新を 発生させる仕組みづくりが重要であること を指摘している。この点について、本書は ビジネスモデルの変化という枠組みから、 どのように動態的に変化する企業経営と多 様なステークホルダーが関わっていくべき かについて明確な視点を提供している。し かし、本書のように組織を変革させるため に必要なイノベーションの誘発方法を議論 することは、果たしてどれほど現実の企業 経営に有効な提言をすることになるのであ ろうか。本書が指摘しているように、仮に 企業の変化が少子・高齢化等の外部環境へ の適応にあるならば、変革を意図したイノ ベーションの誘発は単なる組織変革のパタ ーンを模索することに終始してしまうので はないだろうか。むしろ大切なことは、イ ノベーションのパターンを考えることでは なく、イノベーションを発生させた後の組 織や資源の在り方を選択することにあるの ではないだろうか。選択の仕方に知恵を絞 ることは、自ずと誰が関係者でどのように 関わっていくのかということも見えてくる はずである。企業経営の変化の渦中にいる 実務家諸氏が今後どのような舵取りをして いくのか、そのヒントを本書が提供するこ とを期待したい。.

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