〈書評〉境忠宏編・電通イノベーション経営研究プロジェクト著(2002) 『革新経営のメカニズム : 知恵と技術の多位相連携へ』 同友館
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(2) 経営資源の要素を再編成し再構築するた めの仕組みをつくることは、本書全体で提 示されている最大の論点である。すなわち、 「イノベーション経営のモデル構築を解明 するためには、継続的にイノベーションを 誘発するためのイノベーション誘発サイク ルにおける各位相間の連携、さらにこれら の位相を構成する要素的活動の組織や企業 を超えた連携という多位相連携のマネジメ ントを明らかにすること」である。つまり、 本書が最も明らかにしなければならないと 考えていることは、次の4点である。①イ ノベーションを継続的に誘発するためには どのような経営モデルを構築していけばよ いのか。その経営モデルを構築するために は、②継続的なイノベーションの発生に必 要となる経営資源要素を自在に連携させ連 結していくためのサイクルが必要となるこ と。③そのサイクルは組織内外の経営資源 を連携・拡大・活用すること、そして、成 果を共有するためにひつような位相と課題 を解決していくための活動から構成される こと。④課題解決活動は組織を超えた多様 な位相間の連携へと発展すること。イノベ ーション経営を構成する要件にはこれら 4 点がある。本書は、このイノベーション経 営をマネジメントする仕組みを「多位相連 携のマネジメント」と呼んでいる。 多位相連携のマネジメントとは、「個人 から社会に至るさまざまな水準で境界を越 えたイノベーション誘発の諸相間の協働」 をマネジメントしていくことである。それ ではなぜ企業がイノベーション経営のモデ ルを構築するためには、個人から社会とい う多様な水準で境界を越えたイノベーショ ンを誘発する仕組みを開発する必要がある のであろうか。本書によると、これからの 企業がビジネスモデルを持続的に変革して いくためには社会視点・顧客視点にもとづ き、知恵や技術をボーダレスに連携させる ことで、常にあたらしい価値を生み出し続 けることができる。たしかに社会視点や顧 客視点を起点とするビジネスモデルの構築 は、企業とステークホルダーの関係性を認 識したビジネスの「仕組みづくり」と理解 することができる。しかし、イノベーショ ンによって経営を変えていくこと、つまり、 イノベーションを誘発する仕組みをつくる ことで、企業が価値創造の境界を広げてい くことは、果たして可能なのであろうか。 この疑問について、本書は 2 つの点で経営 変革の手段としてイノベーションが有効性 を持つ理由を挙げている。イノベーション の目的は、ひとつには「資源などのより効. 69. 率的で効果的な活用を推進することが企業 の経済価値を向上することになり、顧客や 社会に対して企業が持つ『道具性』を拡大 し、ひいては社会全体の経済発展に貢献す ること」である。したがって、ふたつには 「イノベーションの目的は、それ自体にあ るのではなく、イノベーションの結果とし て創造される新しい価値を投資家や顧客さ らに社会と共有することにある」。しかし、 これら 2 点のイノベーションの目的は、必 ずしもイノベーションを誘発する仕組みの 構築や企業価値の共有の重要性をあらわす ことにはならない。なぜなら、経営を変革 するためのイノベーションの目的は、単な る価値の共有関係を超えて価値創造の制約 そのものを克服し拡大することで企業の経 営を変えていくことにあるからである。つ まり、革新によって経営を変えていくため には、顧客視点・社会視点を堅持しつつも 従来考えもしなかった価値の革新を加味し ていかなくてはならない。この意図を確実 にしていくために、イノベーションを誘発 する枠組みとしての多位相連携のマネジメ ントが必要とされるのである。 本書は、今後企業が多様なステークホル ダーとの関係性を維持していくためには、 イノベーションによる継続的な価値革新を 発生させる仕組みづくりが重要であること を指摘している。この点について、本書は ビジネスモデルの変化という枠組みから、 どのように動態的に変化する企業経営と多 様なステークホルダーが関わっていくべき かについて明確な視点を提供している。し かし、本書のように組織を変革させるため に必要なイノベーションの誘発方法を議論 することは、果たしてどれほど現実の企業 経営に有効な提言をすることになるのであ ろうか。本書が指摘しているように、仮に 企業の変化が少子・高齢化等の外部環境へ の適応にあるならば、変革を意図したイノ ベーションの誘発は単なる組織変革のパタ ーンを模索することに終始してしまうので はないだろうか。むしろ大切なことは、イ ノベーションのパターンを考えることでは なく、イノベーションを発生させた後の組 織や資源の在り方を選択することにあるの ではないだろうか。選択の仕方に知恵を絞 ることは、自ずと誰が関係者でどのように 関わっていくのかということも見えてくる はずである。企業経営の変化の渦中にいる 実務家諸氏が今後どのような舵取りをして いくのか、そのヒントを本書が提供するこ とを期待したい。.
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