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成果志向の人事制度改革に伴う組織コミットメントの変化について

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(1)論  説. 成果志向の人事制度改革に伴う組織コミットメントの 変化について. 山  岡. 徹. 問題意識と研究目的. 1.はじめに  1990年代半ば以降,多くの日本企業で展開されてきた人事制度改革は,従来の年功べ一スの 評価基準にくわえて,目標達成度や利益貢献度などの成果に応じて組織成員を処遇するという 制度変革の基本コンセプトのもとで主導されてきた.その改革が目指すところとしては,第一 に,成果に応じた処遇を行うことで,組織成員の能力発揮や仕事に対する取り組み意欲の向上 を促し,組織の活性化を図ること,第二に,総人件費管理の徹底と,企業業績に応じた人件費 の柔軟な配分を実現することなどがある..  確かに,成果志向の人事制度の識入および運用に対しては,様々な角度からの問題点が提起 されており,当初の変革意図がどれほど達成されているのか,新たな制度の実効性に関する詳 細な実態調査が必要であろう..  しかしながら,本論が成果志向の人事制度改革に着目したのは,新制度の実効性を問うため ではない.本論が着目している点とは,第一に,新制度が従来の年功ベースの処遇からの脱却 を意図している点,第二にv’短期的かつ顕在的な成果に応じた処遇を志向している点,第三に, 組織成員間で処遇の格差拡大を志向している点である..  これらの要素はすべて,組織成員と組織との間の基本的な関わり方に変化を及ぼしうる要素 である.たとえば,両者の関係の期間については長期志向から短期志向へ,両者の関係の質に ついては共同体的なものから取引的なものへ,組織成員の組織に対する貢献のあり方は潜在的 なものから顕在的なものへ,職場における働き方は協調志向から競争志向へなど,上記の諸要 素は組織に対する個人の関わり方に多様な変化を及ぼすことが可能性として考えられる..  このように成果志向の人事制度変革は,組織成員と組織との基本的な関わり合いに対して質 的な変化をもたらす要因として作用しうる.それでは,実際に成果志向の処遇制度を導入して きた企業において,新制度は組織成員からどのように認識されているのだろうか.また職場環 境や仕事意識にはどのような変化が生じているのだろうか.さらに組織成員が組織に対して抱 く帰属意識には,どのような変化がみられるだろうか..  このような観点に立った実態調査を通じて,組織と個人の関わり方の変質を明らかにするこ とは,成果主義的な処遇制度のもたらす影響の範囲と大きさを明らかにすることを意味してい.

(2) ’. 48(48). ‡黄言兵経1営研究  第27巻  第1号  (2006). る.このように,組識に対する帰属意識と新たな人事制度との関連性の分析を行うことは,個 人と組織との関係において現在生じている変化を捉える視角を与え,また今後の両者の関係の あり方を予測するうえで有意義であると本論では考えている.. 2.組織コミットメントに関する先行研究 (1)組織コミットメントの定義と分類  組織に属する人々が自らの組織に対して抱く帰属意識を表す概念として,「組織コミットメ ント」概念がある.組織コミットメントは,従業員の業務パフォーマンスや離転職,ひいては 組織の効率性などに影響を与えうる概念であるとの認識(Aranya, Kushnir&Valency,1986). から,その分析と管理は組織マネジメントにおける基本テーマとして,数多くの研究が蓄積さ れてきた..  組織コミットメント概念の定義については,功利的次元と価値的次元の大きく分けて2?の 次元から捉えられる(Kidron,1978).前者は,組織と個人の交換,関係に基ゴく関係性から帰属. 意識を規定する捉え方(Becker,1960)であり,後者は,組織に対する個人の情緒的な愛着か ら帰属意識が生じる佃1」面を強調する捉え方(Mowday, Steers&Porter,1979)である..  前者の交換閤係に基づく捉え方では,組織と個人の関係は誘因と貢献の交換関係と見なされ る.すなわち,個人は組織に対して投資した労働や時間に見合う見返りがその組織から得られ る限り,組織との交換関係を持続させるという帰属意識の捉え方である.そこでは,個人の功. 利的および行動的な側面が強調され,組織は報酬の源泉として道具的な観点から捉えられる傾 向がある (Rusbult&FarrelL1983)..  一方,組織に対する情緒的な愛着から帰属意識を捉えるアプローチでは,組織の価値や目標 の受容,組織に残留したいという願望,組織のために努力したいという意欲などの強さによっ て,個人の組織に対する帰属意識を定義づけた(Mowday, Steers&Porter,1979).すなわち,. 個人が組織の目標や価値を自らのそれと同一視し,内在化するプロセスとして帰属意識の形成 は捉えられた.そこでは,個人の情緒的,心理的な側面が強調され,組織は同一化の対象とし て捉えられる傾向がある(Morris&Sherman,1981)..  上記の議論に基づいて,本論では組織コミットメントを情緒的コミットメントと存続的コミ ットメントの2次元から捉える立場を採用する. (2)組織コミットメントの規定要因  組織コミットメントを規定する先行要因については,大別して個人的要因,組織的要因,両 者の適合要因に注目するアプローチに分類できる.  個人的要因に注目するアプローチでは,勤続年数(Alutto, Hrebiniak&Alonso,1973)や学. 歴(PuttiT Aryee&Liang,1989),組織から得ている報酬(Eisenberger, Fasolo&Davis− LaMastro,1990)などの個人的要因によって,組織コミットメン1・の強さを規定する.組織コ ミットメントの規定要因として個人的要因に注目する立場は,特に組織と個人の交換閲係に基 づいて帰属意識を捉える功利的アプローチで支配的な立場である(Gregersen,1992).また組. 織コミットメントの規定要因として,組織と個人の交換潤係における個人の副次的な投資に注 目する議論としては,ベッカー(Becker,1960)を申心に展開されたサイドベット(side bet) 理論がある..

(3) 成釆志向の人事制度改革に伴う組織コミットメントの変化について(山岡 徹) (49)49.  ・−r−一方,組織コミットメントの規定要因として組織要因に注目するアプローチでは,仕事の特. 性(Dunham, Grube&Castaneda,1994),組織における昇進や能力開発(Gaertner& Noilen,1989),組織における規範や風土(Rhodes&Steers,1981;DeCotiis&Summers,1987),. 同僚からの評価(Buchanan,1974)などが組織コミットメントの先行要因として注目された. このような組織要因に注目する立場は,特に情緒的な愛着に基づいて帰属意識を捉えるアプロ ーチにおいて重視される傾向がある(Gregersen,1992).  最後に,個人と組織の適合要因を重視する立場がある(NNTiener,1982).このアプローチでは,. 個人と組織の目標の一致(Vancouver&Schmitt,1991),組織に対する信頼(Dunham et al.,1994)などが組織コミットメントの先行要因として重視される.. 3.先行研究の検討と本論の視点            一.  既存の組織コミットメント研究の問題点については,暗黙のうちに組織コミットメントの安 定的な傾向を前提とし,それを動態的に捉える視点が必ずしも十分ではなかった点がある.確 かに,職務に対する満足度やモチベーションなどの概念は,個人にとって固有の職場環境や職 務経験から影響を受ける度合いが高く,それと比べて組織コミットメント概念は組織と個人の 葦本的な関わり方を規定する点で安定的な概念であるといえる(Mowday et al.,1979)..  しかしながら,・近年の日本の労働市場において進展しつつある雇用形態の多様化,長期雇用. 慣行や年功序列を基軸とした人事処遇の変容,さらに外部労働市場の拡大や成果志向の人事制 度導入といった大きな変化の流れを考慮するとき,従業員と会社の交換関係や心理的な関わり 合いには,何らかの動態的な変容が生じている可能性が高いだろう..  したがって,本論では組織コミットメントを動態的に捉え,その変化に注目する立場をとっ たうえで,以下の4点を明らかにしたい.すなわち,成果主義的な賃金評価制度の導入という 人事政策の変革プロセスのなかにあって,まず第一に,組織成員は組織の経営戦略や人事政策 にどのような評価を与えているのか,第二に,特に成果主義的な賃金評価制度の有効性やその. 運用に対してどのような評価を与えているのか,第三に,職場環境や仕事に対する意識にはど のような変化がみられるのか,第四に,上記の3つの要素は組織成員の組織コミットメントに 対してどのような影響を与えているのか,これらの検討課題について,本論ではサーベイ調査 から得た回答データの分析を通じて明らかにする.. ll分析方法と対象 1.調査方法と対象  本調査1}は2004年12月から2005年1月にかけて,郵送調査法による質問紙法により実施され た.調査対象は,1990年代後半から成果主義的な人事制度改革の取i〕組みを続けている関西の. 主要電機メーカー3社の技術系および事務系の従業員710名であり,回収人数は517名(回収率 72.8%)であった.なお回収人数の会社別の構成は,A社251名(48.5%), B社180名(34896), C社86名(16.6%)であった.. 2.主要調査項目 質問紙は,以下の主要調査項目から構成された..

(4) 50(50). 横浜経営研究第27巻第1号(2006). (1)調査対象者の属性や職位,職務内容. (2)キャリア志望やエンプロイヤビリティの意識 ’(3)自社の賃金制度や人事制度,経営戦略に対する評価 (4)自社の賃金報酬制度に対する評価. ⑤ここ数年間での調査対象者の仕事環境や仕事意識における変化 (6)業績給によって生じる報酬格差の受け入れ可能な度合い. ⑦会社への組織コミットメントの変化 (8)会社との関係の持ち方,会社との心理的契約 なお本論では,主に(1)∼⑦の調査項目から得られたデータをもとに分析を実施した.. 3.組織コミットメント尺度の構造  組織コミットメント尺度に関しては,高木・石田・益田(1997)による組織コミットメント. 質問票をもとにして,情緒的コミットメント尺度5項目,存続的コミットメント尺度5項目が 採用された.なお本調査では,調査時点から過去数年聞における従業員の組織コミットメント. の変化傾向を調査するN的から,質問文の文末を「∼と思うようになった」のように,変化傾 向を問うかたちに修正した.さらに質問項目前に「あなたは,現在お勤めの会社との閲わり方 についてのお考えで,ここ数年間で前よりも次の点で変化を感じておられますか」と教示した. なお評定は,「そう思わない」「どちらかというとそう思わない」「どちらとも言えない」「どち. らかというとそう思う」「そう思う」の5件法により実施し,順に1点から5点の得点を与え た.    1. III分析結巣と考察. 1tサンプルの属性  分析対象としたサンプルの平均年齢は40.7歳(SD 7.90),年齢幅は21歳から59歳であった・ 現在所属している会社での勤続年数の平均は18.1年,既婚者の比率は77.4%であった.学歴iは, 高校・専門学校卒19.4%,短大・高専卒2.1%,大学学部(文系)卒12.0%,大学学部(理系)卒 40,1e/・,大学院(文系)卒O.6%,大学院(i理系)卒23.6%であった.また配属部門は,研究・開. 発部門60.5%,製造・生産管理部門11.4%,営業・販売部門3.70/o,事務部門18.4%であり,職位 については,一一般社員27、7%,係長・職長相当47.1%,部課長相当以上246%であった.. 2.成果志向の人事制度改革における従業員意識の考察 (1)賃金制度一般に対する評価  各種の評価基準に基づく賃金制度(仕事給,年功給,職務給,業績給)の望ましさについて, 「そう思わない」「どちらかというとそう思わない」「どちらとも言えない」「どちらかというと. そう思う」「そう思う」の5件法に基づいてt順に1点から5点の得点を与えた.各種の賃金 制度に与えられた得点の平均値を比較すると,業績給および職務給が望ましさの観点から高い 評価を得た.一方,年功給については3点未満の水準に止まり,否定的な評価水準であった (図表1参照)..  また職位によって,賃金制度の望ましさについての考えに相違がみられるか否かを検討する.

(5) 成果志向の人事制度改革に伴う組織コミットメントの変化について {山岡 徹). (51)51. 図表1 賃金制度のあり方についての考え @                         評価点(最高5点/最低1点). 仕事給. 1』r土ぶ濯バぷ遠2土以メ已誼」ζLばバ・星凶基雀」直遥.産」ば4乱謹ぶ瀦遮扁ぷ遮云ぷ」口 ㎡㎡ぷ.由乱逼〔止孟罐∠}.ば. ;ぷ已已遠」」£已ぷ4ぷぷぷメ6ぷ、産遠∠L壷∠1ぷ. 3,379. ぷ善弓. き メ4 ξ 畳 司 ヨ  4  鱗;裡  井 寸  寺護  謹  イ蛸 .部’ 或 1. N功給. 1』ぷ」バ已」口已編ババ凶漣』遠苛遮ぷ」£』.ぱ写ぷ五.貞速. P」乱㎡己ぷ山ぷd己ば已垣」己ば泌」越ぷ.ぷぷ凶ぷ凶㎡’. 2725. Pば .昨  司 弓   . 9 」 .蒐  遣      占 畦    4  真 晶. E務給 ,謬煮毒麗銭叢銭ぱ鐸謬麗量盟鐸雀鑓撰鐸経鐸鐸 ぷ 」 刈 .季 」 司 首 † d 具 .’   」 罎   オ 司   」㌣  メI    J     よ. 畿鐸営継撰艦霞6鐸儂鑓綴撰雀麗鑓蓑鐸雌 虚.』、弓44.」。』‥.』。」.メ㎡才. ニ績給. 3且 21. 周 ゴ       メ      } 弓 d. a97’. 」 式 肯 亘 “ B ぷ “ ぷ 膚 ’ 己 4 丙 堪 ぷ                                              メ 声 ’. 1. 1           2           3           4           5. 図表2. 「賃金制度のあり方」に関する職位別の平均値とその差の分散分析 度数. 平均値. F値. 一般社員. 134. 3.843. 1.417. 係長・職長相当. 23]. 3.874. 部課長相当かそれ以上. 122. 4.000. 合計. 487. 3.897. 一般社員. 134. 3,873. 係長・職・長相当. 231. 3.771. 部課長相当かそれ以上. 122. 3.861. 合計. 487. 3.821. 一般社員. 134. 2.843. 係長・職長相当. 231. 2.784. 部課長相当かそれ以上. 122. 2.484. 合計. 487. 2.725. 一般社員. 134. 3.321. 係長・Il齪長相当. 231. 3,377. 部課長相当かそれ以上. 121. 3.446. 合計. 486. 3,379. 因子. 職位. 業紐給. 職務給. 年功給. 仕事給. 有意性. 0904. 6.405. 0.531. ゜pく.e5°・p<.Ol”“p〈,OO1. ために1要因の分散分析を行った(図表2参照).分散分析の結果,年功給に関してのみ1% 水準で有意な差異が認められた(F(2,484)=6.405,p<.Ol).引き続き, TukeyのHSD法(5%水. 準)による多重比較を行ったところ,「部課長相当かそれ以上」とそれ以外の職位との間で有 意な差がみられた.具体的には,「部課長相当かそれ以上」の職位に就く社員はその他の職位.

(6) 横浜経営研究 第27巻 第1号(2006). 52(52).          図表3. 自社の経営戦略・人事政策に対する認識                  評価点(最高5点/最低1点)                    i S」注レ呈」き.醒」梱ぷ篇已ぷぷ.姻 2.762                   ト                   |.     教育訓練政策の満足度.                             [㎡鋼綱⊇綱』ぶ遜⊇幽已3・131  1                            L.      能力開発機会の充実 ]   I   l                 3.665.   能力開発自己責任の考え方. 司ゴ・卓ぷ44」誕4ま、』ぷ群4司遥凶」iぷ. ]   { 賃金・評価制度への個人的満足.         2泡33 ・㎡」山」ぷ山」㎡ぷぷ」.躍ぷぷぷぷ. 賃金・評価制度の迎用の公正さ. 鱈i・躬iづ尋4嚇拷..4樹尋弓2723.    賃金・評価制度の適切さ. 1・“・幽旦遮・鱒網』バ癬ぷ弔』ぷぶぷ弓3006.       経営方針の適切さ. 糟ぷ鴫剤』剤獺遭』垣」閣うir鷺づづ凶づA』3200.      革新重視の経営戦略. 詰i」ぢ盈』埜檬猪』「諮」凶幽糟』雌工一咋3680.     コスト重視の経営戦略. 4  、4  .d    梱垣 擢 13.513. P  1. ‘  」   ■  〆   」   」   ば   ’   皐   ’   」   4   」   4   ’  鋪   」. @        1. t. l   i l   i l   i l   i         競争の激しさ. 」」蛭」d」風dん“ぷぷん6ぷ4」幽ぷぷぷぷ4」.已一鋼ぷ㎡.已」4、417 1         ;         1. 1. 2. 3. 4. 5. 図ge 4 「自社政策への認識」に関する職位別の平均値とその差の分散分析 因子. 職位. 度数. 平均値 F値. 賃金・評価制度の運用の公正さ. 一般社員. 134. 2.821    5,156. 係長・職長相当. 231. 2.589. 部課長相当かそれ以上. 122. 2.869. 合計. 487. 2.723. 一般社員. 134. 2.716   3,958. 係長・職長相当. 231. 2.675. 部課長相当かそれ以上. 122. 2.975. 合計. 487. 2.762. 賃金・評価制度への個人的満足一般社員. 134. 2.933    5.343.               係長・職長相当. 230. 2.687.               部課長相当かそれ以上. 工22. 3.000.               合計. 486. 2.833. 教育訓練政策の満足度. 有意性. ■.  tpく.05・.P<.01’“p<,OO1. の者に比べて,年功給に対して否定的な評価を与える傾向がみられた.一方,業績給に関して は,職位問で有意な差異はみられなかったものの,職位が高くなるほど肯定的に評価する傾向 がみられた..

(7) 成果志向の人事制度改革に伴う組織コミットメントの変化について(ID岡 徹) (53)53.  今回の分析結果が示唆するところとは,部課長クラス以上では年功給を望ましくないと捉え,. 逆に低い職位に就く者のほうが,業績給の螺入によって将来にわたって生じうる雇用面や収入 面での変動リスクに強い不安を抱いているという社員像であった.  年功制中心の賃金・評価$‖度から業績給制度の部分的導入といった人事制度改革の目的とし. て,中高年の管理者層の人件費圧縮および若年層社員の仕事意欲の向上を指摘する議論が多い が,上記の結果はそのような議論の妥当性を今後さらに検討する余地があることを示唆する結 果となった.. (2)自社の経営戦略および人事政策に対する認識.  調査対象者が所属する企業の現在の経営戦略や入事政策に対する認識について,fそう思わ ない」「どちらかというとそう思わない」「どちらとも言えない」「どちらかというとそう思うj. fそう思う」の5件法により,順に1点から5点の得点を得た(図表3参照).  各項目の平均値を比較すると,「わが社の経営環境は競争が激しい」,「わが社の経営戦略は 製品や技術について革新を重視している」,「わが社において,能力向上は会社の責任というよ. り社員自身の責任であるという考え方が強い」といった項目が高い水準を示した.競争環境が 激しさを増すなかで,経営戦略については革新を追求し,社員の能力開発については自己責任 の考え方を重視する考え方が広まりつつある現状を上記の結果は示している.一方,「わが:社 の賃金および評価制度の実際の運用は公正だと感じられる」,「わが社の教育訓練政策に個人的. に満足している」,fわが社の賃金および評価制度に対して個人的に満足している」の3項目に 関しては,平均値が3点未満に止まり否定的な認識であった..  また上記の特に低得点の3項目に関して,職位による相違がみられるか否かを検討するため. に1要因の分散分析を行った(図表4参照).分散分析の結果,すべての項目に関して職位間. で有意な差異が確認された.引き続き,TukeyのHSD法(5%水準)による多重比較を行っ たところ,「賃金評価制度の運用の公正さ」および「賃金・評価制度への個人的満足」につい ては,「係長・職長相当」の職位に就く者が,他の職位に比べて有意に否定的な評価水準であ った.また「教育訓練政策への満足度」でも,「係長・職長相当」の職位に就く者が,「部課長. 相当かそれ以上」に比べて満足度が有意に低い水準であった.3項目とも,特に「係長・職長 相当」と「部課長相当かそれ以上」との差異が相対的に大きく,そのような差異を生じさせる. 要因については,賃金・評価制度の運用ケースの実態調査などを通じたさらなる分析が必要で あろう..  さらに自由記述をもとに作成した「自社の経営戦略および人事政策への認識」に関する尺度. 10項目の下位尺度を探索するために,主因子法による因子分析を行った.まず固有値の変化 (3.035,1.542,1.136,0.989,…)および因子の解釈可能性を検討し,3因子構造が妥当であると. 判断した.そこで3因子構造を仮定して,主因子法・プロマックス回転による困子分析を再度 行った.その結果,いずれの因子に対しても十分な負荷量(.35)を満たさなかった2項目を 除外し,主因子法・プロマックス回転による因子分析を再度行った(図表5参照).なお回転 前の3因子で8項目の全分散を説明する割合は67.34%であった.  各因子は以下のように解釈,命名された.第1因子は「賃金評価制度の適切さと公正な運用」,. 第2因子は「能力開発機会の充実」,第3因子は「競争激化とコスト重視経営」と解釈・命名 した.さらにこの因子分析の結果に基づいて,プロマックス回転後の因子得点を回帰法で推定.

(8) 54(54). 横浜経営研究 第27巻 第1号(2006). 図表5 「自社の経営戦略・人事政策への認識」に関する尺度の因子分析(プロマックス回転後の因子パターン). E. 皿. わが社の賃金および評価制度の実際め運用は公正だと感じられる. .883. 一.053.  .003. わが社の賃金および評価制度に対して個人的に満足している. ,663.  .037. − ,068. わが社の現在の賃金および評価制度は現在の経営環境では会社として適切である. ,603.  .016. −.068. わが社の経営方針は現在の経営環境に対して適切である. .449.  .053.  .179. D007. .838. −.Ol5. 1. わが社では能力開発の機会は社内・社外に十分に与えられている. ・一. わが社の教育訓練政策に個人的に満足している.  .035. .775.  .Ol5. わが社の経営戦略はコスト重視である.  .034. 一 .030. .720. わが社の経営i環境は競争・が厳しい. −一. @.044.  .031. .544. 因子問相関  1   日   皿     工  一     ll  .448  _’     皿  一.040    .156.            図表6 業績主義的な報酬制度に対する認識                                 評価点(最高5点/最低1点) l       l.    現在の仕事は私の業績(成果)の達成につながらない. 汽鴫幽惜うづ§ 2396.           私の業頴は正当に評価されている. ユ本志ぶ』本▲△』鳶』△・’ 秩@ 4謁 州  ヰ蕉  舗4.     」. ’キ.   仕事を行う能力と実際の成果はつながらないことがある. @1   1. @   」. =n97. @   |    1. 遠」ぽ▲工脳▲錨幽ぶ』』ムム▲」割本ぷば劇. ぜ  』 汗口 ぷ1“4抽翻棚  ヰ i      l             i. 4,171.  事業部門や仕事の違いによって業績評価は不公平となる. 酬鴫燃燃土▲燃欄惜ユ984.        自分の成績が悪ければ降給もやむをえない. 璃▲ぶ△■幽』ぷ剤函ぷ本ぷ劇ボ’口口     司  日口. i  l  i.   .i.       業紐給は賃金を引き下げるための口実である. 4富. R484  i. @ 1 @ 1 @ 1. I“鵬ぶ燃3082@ …. 業績給にはチームや事業部門の成果も反映されるべきである. ⊇基ぶぞ▲」哩←▲割△』幽 日  邊  ‘  ‘ イ 魂 イ    4.   評価の結果に関して上司と十分に話し合う機会がある. “▲』』=噛バ」胚ぶA真 」4 貴  璽4 り目佃’.    目標設定に閲して上司と十分に話し合う機会がある. 酬ぞ▲燃吟燃想a345.        私の仕事の成果を評価するのは困難である. 鶉甥撚梢=ao72. 13,780. 1  { 32531. i       l. 1. 2. 3. 4. 5. することにより,3因子に関する因子得点を算出した. (3)業績主義的な賃金評価制度への認識 業績主義的な賃金評価制度口の認識について,「そう思わない」「どちらかというとそう思わ.

(9) 成果志向の人事制度改革に伴う組織コミットメントの変化について(山岡 徹) (55)55. ない」「どちらとも言えない」「どちらかというとそう思う」「そう思う」の5件法により,順. に1点から5点の得点を得た(図表6参照).  各項目の平均値を比較すると,f仕事を行う能力と実際の成果はつながらないことがある」, 「事業部門や仕事に違いによって業紐評価は不公平となる」,「業績給にはチームや事業部門の. 成果も反映されるべきである」といった業績主義的な賃金評価制度自体が抱える業績評価上の 困難性を指摘する項目の平均値が高水準を示した..  一方,「私の業績は正当に評価されている」といった項目は平均値が3をわずかに上回る水 準に止まっており,各自の業績評価を行う制度運用の局面でも,必ずしも肯定的な評価が得ら れていない現状が明らかとなった..  さらに自由記述をもとに作成した「業績主義的な賃金評価制度への認識」に関する尺度10項. 目の下位尺度を探索するために,主因子法による因子分析を行った.まず固有値の変化 (2.982T 1.264、1.110,0.959,…)および因子の解釈可能性を検討し,3因子構造が妥当であると. 判断した.そこで3因子構造を仮定して,主因子法・プロマックス回転による因子分析を行っ た.その結果,いずれの因子に対しても十分な負荷量(.35)を満たさなかった1項目を除外 し,主因子法・プロマックス回転による因子分析を再度行った.さらにその結果から,いずれ. の因子に対しても十分な負荷量を示さなかった1項国を除外し,残りの8項目に対して主因子 法・プロマックス回転による因子分析を行った(図表7参照).なお回転前の3因子で8項目の 全分散を説明する割合は62,41%であった..  各因子は以下のように解釈,命名された.第1因子は,目標設定や評価結果について上司と 話し合う機会が十分にあるとする項目が高い負荷量を示していたため「目標設定・評価の垂直. コミュニケーション」,第2因子は,各自の業績評価の困難さを表す項目が高い負荷量を示し ていたため「自己業績の評価困難性」,第3因子は業績評価制度自体の有効性や公平性を疑問 視する項目が高い負荷量を示していたため「業績評価制度自体の不公平性」と解釈・命名した. さらにこの因子分析の結,果に基づいて,プロマッナス回転後の因子得点を回帰法で推定するこ. とにより,3因子に関する因子得点を算出した. (4)職場環境および仕事意識の変化.  調査対象者が所属する企業において,この数年間で生じた職場環境および仕事意識上の変化 について,「そう思わない」「どちらかというとそう思わない」「どちらとも言えない」「どちら. かというとそう思うj「そう思う」の5件法により,順に1点から5点の得点を得た(図fi 8 参照)..  各項目の平均値を比較すると,「仕事の負担が増えた」,「雇用の安定は期待できなくなった」,. 「自社の企業業績に関する意識が高まった」といった項目が高い水準を示した.すなわち,企 業の将来業績の不確実性が増しつつあるなかで雇用不安が増大し,従業員の仕事負担は増大し たという一般的な変化傾向を上記の結果は示唆している.一方で,「同僚とのライバル意識が 強まった」,「部下や後輩の育成に努力する考えは弱まった」などの職場チームワークの減退に. 関する諸項目に関しては,平均値が3点未満に止まり全体として否定的な認識であった..  成果主義的な人事制度の導入に伴う問題点のひとつとして,職場におけるチームワークの減 退を指摘する議論が多いが,そうした弊害は限定的であるとの結果を本調査では得た.この点 に関しては,成果主義的な人事制度の尊入が職場チー一ムワークを阻害し,従業員の個人主義志.

(10) 56(56). 横浜経営研究 第27巻 第ユ号(2006). 図表7 「業績主義的な報酬制度への認識」に関する尺度の因子分析(プロマックス回転後の因子パター・一一ン) 1. 皿. 口. 評価の詰果に関して上司と十分に話し合う機会がある. .916. .039.  .000. 目標の設定に関して上司と十分に話し合う機会がある. .914. .028.  .⑪ユ2. 一.035.  、682. − ,012. 私の仕事の成果を評価するのは困難である. .059.  .490.  .072. 自分の成紐が悪ければ降給もやむをえない. −.074. 一360.  .ユ⑪1. 私の業紐は正当に評価されている. .168. −.354. −.057. 仕事を行う能力と実際の成果はつながらないことがある. .054. 一 .093. .755. −.081.  .071. .48B. 現在の私の仕事は私の業績(成果)の達成につながらない. 事業部門や仕事の違いによって業績評価は不公平となる. H. 因子問相関  I. 皿.     I ’_     n −.491     田 一.386. .486. 図表8 職場環境および仕事意識の変化 l          l.         会社に対する信頼感は低くなってきた. 4ヰ弓ヰ. a293’. 1、宅、弍 確 、44樟. l   l   l. 会杜都合で職務変更に応じるのは不利と考えるようになった. ^ , 己 、 メ ’ 」 、 , , 、 .. . 」  3」070 止   4. 1. 1   1   1.        自社の企業業載に関する意識が高まった. a755. 芝ぷぷ凶バ』凶幽品パ』泌ぷ』逼ぷ.占』」ピ.凶已. .Ll    l    i.           仕事について考える時間が増えた. 3562. 詞  々  寸 刈 4 λ 嘉 4    ぱ  茸. 1   {   i.    仕到rで新しい課題に取り組もうとする意欲が高まった. 1ギが潤剤綱▲冶4逼ぶA・咽工轟」」ユ劇△劃.  仕葛工に関わる技能や知識を学ぽうとする意識が強まった. 尭儂. l   l   i 弗  畳  弓吉汗弓汕湾4品. 1. 3,509. ‘a655. l   l   lp2955.             転職を意識するようになった          努力が報われるという意識が商まった. …一・一一’ 幽垣幽已バ=“2!678.              昇進・昇格は困難になった. 踵4. i. 1   {. 1   }   1. 日4彗   4d司 .44  雪4可鋪r. l   i   l.           雇用の安定は期待できなくなった. 声    ’   .. ヰ           メ    マ    ■               .   ’   ”    .   ’   ≠   “   違. ・i. 1. 3石22. 3786. l   l   l.      部下や後輩の育成に努力する考えは弱まった. ‡.幽繊]』!ム梱.泌』!』.□醤剥 2、583. l  i   l.           同僚とのライバル意識が強まった. 崎. ・・. @一…2畢2 l   l   r.           職場の協力の雰囲気は減少した. L▲]函・劃」恥▲・脳直】▲▲」国」田▲▲▲!」劃.                仕事の負担は増えた. ] 」日. @ 12.857. l   i   [ 詩目 改呂擢司  ’1  『日“日. l   l   }.                私の給与は増大した. 4一司,」.』司‥’‥司、.2.807.              仕事の目標は明確となった. 詫冶ぷ」ξ』、産巡端』写写ぶ」己』魂」i』凶.酎魂. 1   1   1. 0. 2. 1. i. 3561 1. I            I            }. 1. 口 4.027. 3. 4. 5. 向を助長するという単線的な仮説の妥当性について再検証を迫るものであるといえるだろう..  さらに自由記述をもとに作成した「職場環境および仕事意識における変化の認識」に関する 測定尺度16項目の下位尺度を探索するために,主因子法による因子分析を行った.まず固有値 の変化(3.860,2.042,1.289,1.099,ユ.032…)および因子の解釈可能性を検討し,3因子構造が.

(11) 成果志向の人事制度改革に伴う組織コミットメントの変化について(山岡 徹) (57)57. 図表9 「職場環境および仕事意識の変化」に関する尺度の因子分析(プロマックス回転後の因子パターン) 1. ll. 皿. 会社に対する信頼度は低くなってきた. .926   −.036. 一」27. 雇用の安定は期待できなくなった. .636     ユ67. .045. 転職を意識するようになった. .433   .083. D35. 会社都合で職務変更に応じるのは不利と考えるようになった. .423   .e36. .119. 努力が報われるという意識が高まった. −.422   −349. −.062. 昇進・昇格は困難になった.  .408   .018. .213. 仕事で新しい課題に取り組もうとする意欲が高まった. 一一 @.Oユ6. .745. −.055. 自社の企業業績に関する意識が高まった. .060. .630.  .020. 仕事に関わる技能や知識を学ぼうとする意識が強まった. .Ol5. .572.  .046. 仕事について考える時間が増えた. .150. .521.  .036. 部下や後輩の育成に努力する考えは弱まった. .021. 一.061    .722. 職場の協力の雰囲気は減少した. .eg9. −.081    .597. 同僚とのライバル意識が強まった. .eo6. ユ91    .406. 1. H. 因子問相関. 皿.     I.    H. 一369.    皿. .503. 一272. 妥当であると判断した.そこで3因子構造を仮定して,主因子法・プロマックス回転による因. 子分析を行った.その結果,いずれの因子に対しても十分な負荷量(35)を満たさなかった 2項目を除外し,主因子法・プロマックス回転による因子分析を再度行った.さらにその結果 から,いずれの因子に対しても十分な負荷量を示さなかった1項目を除外し,残りの13項目に 対して主因子法・プロマックス回転による因子分析を行った(図表9参照).なお,回転前の3 因子で13項目の全分散を説明する割合は51.05%であった..  各因子は以下のように解釈,命名された.第1因子は,会社に対する信頼度の低下や雇用不 安の増大を表す項目が高い負荷量を示していたため「会社への信頼度低下」,第2因子は,仕 事での新たな課題への取り組み意欲や自社業績への意識増大を表す項目が高い負荷量を示して いたため「仕事意欲の増大」,第3因子は部下や後輩への育成努力の減退や職場での協力意識 ’の減退を表す項目が高い負荷量を示していたため「職場チームワークの減退」と解釈・命名し. た.さらにこの因子分析の結果に基づいて,プロマックス回転後の摺子得点を回帰法で推定す ることにより,3因子に関する因子得点を算出した.. 3.組織コミットメント変化に関連する諸要因の検討 (1)「組織コミットメント変化」尺度の分析.  組織コミットメントの変化に関する尺度を構成する10項目が,事前の想定通り,情緒的コミ ットメント変化因子と存続的コミットメント変化因子の2因子構造になることを確かめるため,. 主因子法による因子分析を行った.まず固有値の変化(398,299,0.78,…)から,2因子構.

(12) 58(58). 横浜経営研究 第27巻 第1号(2006). 図表10 組織コミットメント変化尺度の因子分析(バリマックス回転後の因子行列) 工. H. 共通性. この会社にいることが楽しいと感じるようになった. .852   −.021. .726. 友人に、この会社が素晴らしい働き場所であると言えるようになった. .833     .029. .695. この会社を好きだと思うようになってきた. .827    .108. .696. もう一度就職するとすれば、同じ会社に入りたいと考えるようになった. .799    .123. .653. 他の会社ではなく、この会社を選んで本当によかったと思うようになった. .787    .⑪43. .622. この会社を辞めると人になんと言われるかわからないと思うようになった. .0ユ4. .881. .776. 会社を辞めることは、世間体が悪いと思うようになった. .052. .877. .771. この会社を辞めたら、家族や親戚に会わせる顔がないと思うようになった. .081. .834. .702. この会社を去ったら私は罪悪感を感じると思うようになった. .158’. .578. .36e. .539. .292. この会社を離れたらどうなるか不安であるど感じるようになった. 一.033. 因子寄与  3、398  2.895  6.293.  寄与率  33.982 28.950 62.932. 造が妥当であると判断した.そこで2因子構造を仮定して,主因子法・プロマックス回転によ. る因子分析を再度行ったところ,明確な2つの因子が得られた.また2つの因子間の相関 は.134であり,ほぼ直交していた.2因子がほぼ直交していたので,さらに主因子法・バリマ ックス回転による因子分析を行った(図表10参照).なお累積寄与率は62.9%であった..  各因子は以下のように解釈された.第1因子は,「この会社にいることが楽しいと感じるよ うになった」など,従業員が会社に対する感情的な愛着を強める内容の諸項目が高い正の負荷. 量を示していた.そこで「情緒的コミットメント変化」因子と命名した.第2因子は,会社を 辞めることで将来生じうるコストの知覚から,従業員が現在所属している会社との関係存続志 向を強める内容の諸項目が高い正の負荷量を示していた.そこで「存続的コミットメント変化」 因子と命名した.この因子分析の結果に基づいて,バUマックス回転後の因子得点を回帰法で 推定することにより,「情緒的コミットメント変化」得点と「存続的コミットメント変化」得 点を算出した..  このように情緒的コミットメント概念は,組織成員が自組織に対して愛着的な感情を感じる 程度によって規定されるのに対して,存続的コミットメント概念は,仮に組織を離脱すること によって将来生じうる期待損失の大きさによって規定される.一見すると,これら2つの組織 コミットメント概念はある程度の相関性をもつように考えがちであるが,前述したように両概 念の因子間に相関関係はほとんど認められなかった.これは「自組織に情緒的な愛着を感じる 程度」によって規定される帰属意識と,「自組織を離れることで社会的に被る損失の程度」に 基づいて必要性の観点から規定される帰属意識とが,組織成員にとっては独立した別次元の概 念であることに起因していると考えられる.. (2)賃金制度一般に対する評価と組織コミットメント変化との相互関係.  それでは,各種の評価基準に基づく賃金制度(仕事給,年功給,職務給,業績給)の望まし さに関する組織成員の評価尺度と,組織成員の組織コミットメントの変化との間には,いかな る相互関係が認められるだろうか..  この問題を分析するために,上記にて算出した「組織コ.ミットメント変化」尺度に関する2.

(13) 成果志向の人事制度改革に伴う組織コミットメントの変化について(山岡 徹) (59)59. 図表11 「組織コミットメント変化1と「賃金制度に対する評価」との相関係数 賃金制度に対する評価. 組織コミットーメント変イヒ 1. 2. 3. 4. 5. 6. 1. {藷孝旨垂9コミットメント変{ヒ. 2. 存競前コミッ1・メント変化. .001. 3.業績給. ,143 ”. 一ユ21“. 4.三職務ホ合. .067. 一.046. 5.年功給. .003. 6.仕事給. .036. .144 ”. 一.023. .244’“. −268・軸 .217■臼. ∴053 .177“宙. 一 .049. ゜p<.05“p<.01°”p<.001. 因子得点と,「賃金制度一般に対する評価」に関わる尺度との相関関係の分析を行った(図表 11参照)..  「情緒的コミットメント変化」因子に閤しては,「業績給」の評価尺度との間に低水準なが らも正の有意な相関性(r=.143,pく.0])を示した.一方,「存続的コミットメント変化」因子. に閤しては,「年功給」の評価尺度との間に正の有意な相関性(r=.144,p<01)を示す一方で, 「業績給」の評価尺度との問には負の有意な相関性(r= 一.121,p<.01)が認められた.さらに 「業績給」と「年功給」の双方の評価尺度の問では,負の有意な相閲性(r=一.268,p<£OOI)が みられた..  業績給の望ましさに関する評価尺度に関して,情緒的コミットメント変化尺度と存続的コミ ットメント変化尺度とで逆方向に有意な相関性を示した点は特に興味深い.組織成員が業績給 によって得る報酬は,彼らの短期的な成果の実現に左右される.一方で年功給から得られる報. 酬は,彼らの長期的な組織への帰属に依存する.このことを考慮に入れるならば,業績給制度 の下で組織成員に対して短期成果に伴う誘因を提供することは,彼らの組織に対する情緒的な 帰属意識を短期的に高めることを,上記の相関分析は示唆している..  また同時に,その種の情緒や短期的報酬に根ざした帰属意識は,長期にわたって安定的に存 続する性格のものではないことも確かであろう.すなわち,年功給制度中心から業績給制度の 部分導入という人事制度改革の動向は,年功給制度のもとでは大きかった「組織を短期で離脱 することで組織成員が被る損失」の期待値を縮小させることを通じて,組織に対する存続的コ ミットメントを低下させる効果があることを,この相関関係の分析結果は示唆していると言え るだろう.. (3)転職自信度と組織コミッ5メント変化との相互関係  仮に他の組織に籍を移した場合,現在身につけている職務能力がどれほど通用すると組織成 員は考えているのであろうか.またこのような転職に対する自信度合いと組織コミットメント. の変化との間にはどのような相互関係がみられるであろうか.本調査では,現在と同じ職務で 同業種他社へ転職した場合に,各自の職務能力がどれほど通用するかについて,組織成員の自 』信度合いを測定した.その自信度合いについて,職位別の平均値とその差の分散分析の結果を 以下に示す(図表12参照).  分散分析の結果,職位別にO.1%水準で有意な差異が認められた(F(2.482)=12.035,p<.OOI)..

(14) 横浜経営研究 第27巻 第1号(2006). 60(60). 図表12 「転職自信度」に関する職位別の平均値とその差の分散分析 度数. 平均値. Fイ直. 133. 3.481. 12.035    tii. 係長・職長相当. 230. 3.830. 部課長相当かそれ以上. 122. 3.918. 合計. 485. 3.757. 職位. 因子. 転職自信(同業種)  一般社員. 有意性. .pく.05.‡pく.01...p<.001. 図表13 「組織コミットメント変化」と「転職自信度」との相関係数 転職自信度. 組織コミットメント変イヒ 1. 2. 3. 4. 1.ti!i緒1的コミットメント変イヒ. 2.存ホ売的コミットメントi変イヒ. .001. 3洞業他社への転職自信. .046. 4異業種他社への転職自信. 一.Ol9. 一ユ67.“. 一ユ39”. 、583“’. b<.05“p<.Ol°..pく001. 引き続き,TukeyのHSD法(5%水準)による多重比較を行ったところ,「一般社員」とそれ 以外の職位との間で有意な差がみられた.具体的には,「一般社員」の職位に就く者はその他 の職位の者に比べて,転職自信度が有意に低い傾向がみられた..  引き続き,転職自信度と組織コミットメント変化との間の相関性を測定した(図表13参照).. その結果,同業種他社への転職自信度は存続的コミットメント変化との間に,弱いながらも負 の有意な相関性(r=一.167,p<.OO1)をもつことが見いだされた.これは転職自信度が高い者. ほど,存続的コミットメントを高めていないことを意味しており,逆に解釈すれば,転職への. 自信度が低い者ほど存続的コミットメントを高める傾向があることを示唆している.これは 「仮に転職しても現状ほどの処遇は得られない」ことを理由として,現在の組織への帰属意識 (この場合は功利的な帰属意識)が高められるという存続的コミットメントの概念に符合する 結果であった..  一方,転職自信度と情緒的コミットメント変化との間に相関性は見いだされなかった.この 結果は,転職自信度が高かろうが低かろうが,組織への情緒的コミットメントとは無関係であ ることを意味している.これは存続的コミットメントとの対比の観点から,興味深い結果であ る.すなわち,組織への存続的コミットメントが,「転職自信度」という各入の個人的属性や, 自組織と他組織との功利的な比較に基づいて規定されるのに対して,組織への愛着的コミット. メントは,個人的属性や自他組織の相対比較ではなく,自組織への絶対的な評価によって規定 されるという可能性を,この結果は示唆している.換言すれば,組織に対する功利的な帰属意.

(15) 成果志向の人皐制度改革に伴う組織コミットメントの変化について(111岡 徹) (61)61. 図表14 「組織コミットメント変化」と「自社の経営戦略・人事政策への認識」との相関係数(因子得点間). 組織コミットメント変化 ユ. 2. 経営戦略・人事政策への認識 3. 4. 5. 1.W摘昔的コミットメント変イヒ. 2.存続的コミットメント変化. .OOI. 3.賃金評価制度の適切さと公正運用. .486 ”’. .150 ”. 4.能力開発機会の充実. .362 ”’. .072. 5.競争激化とコスト重視経営. 一.043. .128 ”. .524’“. 一.049. .ユ97“’. .pく.05”p<.Ol tl’p<.OOl. 識は,「自分が他社でも通用する自信度合い」や「他社で自分が受けるであろう処遇と現状の 処遇との比較」,「客観的に転職できる確率」などの諸要素の比較検討によって規定されるのに. 対して,自組織への愛着感情に基づく帰属意識は,むしろ「他の組織のことはよくわからない. が,現在所属している組織の○OOが自分は好きだ」という,自組織に対する絶対的な評価に よって規定される側面が強いのではないかという検討課題をこの結果は提示しているといえる だろう.. (4)自社の経営戦略・人事政策への認識と組織コミットメント変化との相互関係.  それでは,自らの所属する組織が採用する経営戦略や人事政策に対して,組織成員が抱く認 識や評価は,彼らの組織コミットメント変化とどのような相互関係にあるのだろうか.  上記の問題を検討するために,「組織コミットメント変化」尺度に関する2因子得点と,「経. 営戦略・人事政策に対する認識」尺度に関する3因子得点の聞の相関関係の分析を行った(図 表14参照)..  「情緒的コミットメント変化」因子に関しては,「賃金評価制度の適切さと公正運用」因子 および「能力開発機会の充実」因子と有意な正の相関(それぞれr=.486,r=.362,いずれも p<.001)を示した.一方,「存続的コミットメント変化」因子に関しては,「賃金評価制度の適. 切さと公正運用」因子および「競争激化とコスト重視経営」因子と有意な正の相関(それぞれ r=.工50, r=.128.いずれもp<.Oユ)を示した..  上記の相関分析から示唆される点として,組織コミットメント変化は,情緒的コミットメン トであれ存続的コミットメントであれ,概して「賃金評価制度の適切さと公正運用」との間に. 有意な相関性が認められること,なかでも「情緒的コミットメント変化」との相関性が強いこ とが挙げ』られ.る..  また「能力開発機会の充実」がF情緒的コミットメント変化」との間に有意な相関性をもつ のに対して,「存続的コミットメント変化」との問にはほとんど相関性をもたない点や,その 一方で「存続的コミットメント変化」は「競争激化とコスト重視経営」との間に弱いながらも 有意な相関性が認められる点も注目に値するであろう..  これらの分析結果が示唆するところとしては以下の点を指摘できる.すなわち,賃金評価制 度の公正運用や能力開発機会の充実などの組織的要因に対し,組織成員は特に愛着感情に根ざ した組織への帰属意識を高める傾向がある.同時にその一方で,仮に経営環境の厳しさやコス.

(16) 横浜経営研究 第27巻 第1号(2006). 62(62). 図表15 「組織コミットメント変化」に関する重回帰分析 ]貴辛昔的コミットメント変fヒ. 存続的コミットメント変化. モデルユ. モデル2. モデル1. モデル2.  β.  β.  β.  β. 【個人的要困】. 配偶者あり. 住宅保有 勤続年数. .021.  ユ28’. .059. 一.006. 減給に対する許容度. −.034. 管理職(部課長以上). −一. 転職自信度(同業種). 力68. 一.022. @.109”. 一 .egO’. .025. .157“. −.eg.1’. 一 .099 ”. =123’. 一.102’. 一.ユ68.“. 一.161t’t. .2ユ6“’. 246軸章. 【自社の人事政策・経営戦略への認識】 賃金評価制度の適切さと公正な運用   .204 ’”. .255’“. 能力開発機会の充雲          .071. .043. 競争激化とコスト重視経営      一.023. .123’. .125“. 【職場環境・仕事意識の変化】. 会社への信頼度低下. 一.383帥゜. 一,339.°・. 一.054. 仕事意欲の増大.  .253”1.  .258’“. −.006. 職場チームワークの滅退.  .G92. .124’. .104 ”. 【業組主義的な賃金評価制度への認識】 目標設定・評価の垂直コミュニケーション  ー・.003. 一.066. 自己業韻の評価困難性         .000.  .129. 業績評価制度自体の不公平性     一.070. −.072. 自由度調整済みR2. 、427 ’u. .423”t. .]50 ’”. ユユ5’. .1541”. ゜p<.05“p<」Ol°事・pく001. β:標準偏回帰係数. ト重視経営が組織成員に認知される場合,それが将来的な雇用不安などを顕在化させるため, 組織離脱に伴う社会的な期待損失が強く認知されることを通じて,組織成員は現在所属してい る組織へのしがみつき意識を同時に強化するようになる.このような2次元の組織コミットメ ント変化の重層的な構図を,これらの分析結果は示唆しているといえるだろう..  すなわち,これら2次元の組織コミットメントは,独立した別次元の概念として一人ひとり の組織成員のなかに同時に存在し,かつ重層的に変化している.このようなプロセスを通じて, 組織成員の抱く帰属意識は全体として構成されているといえる.. 4.組織コミットメント変化の説明変数の検討  組織成員の個人的要因および組織的要因が彼らの組織コミットメント変化に及ぼす影響を検 討するために,情緒的コミットメント変化因子および存続的コミットメント変化因子のそれぞ れについて重回帰分析を行った(図表工5参照)..

(17) 成果志向の入事制度改革に伴う組織コミットメントの変化について(山岡 徹) (63)63.  個人的要因に該当する変数としては,「配偶者の有無」,「住宅保有」,「勤続年数」,「業績給. 導入に伴う減給に対する許容度」,「管理職(部課長以上)」,「同業種への転職自信度」の6変. 数を説明変数として投入した.また組織的要因については,本論で既に考察してきた「自社の 人事政策・経営戦略への認識」,「職場環境・仕事意識の変化」,「業績主義的な賃金評価制度へ. の認識」の因子分析から抽出された9因子を従属変数として投入した..  なお重回帰分析における説明変数の選択方法として,モデル1では強制投入法を採用し,モ デル2ではステップワイズ法を採用した.. (1)情緒的コミットメント変化の説明変数 ’情緒的コミットメント変化を従属変数とした分析では,個人的要因の「管理職(部課長以上)」. が有意であったが,その他の個人的要因を示す諸変数の標準偏回帰係数は有意ではなかった. また組織的要因に関しては,「会社への信頼度低下」,「仕事意欲の増大」,「賃金評価制度の適. 切さと公正な運用」の標準偏回帰係数が有意であった.また組織的要因の標準偏回帰係数が, 個人的要因のそれと比.較して高い水準にあった..  この分析から示唆されるところとして,まず第一に,情緒的コミットメントの増大に影響を 及ぼす変数として,雇用関係を基盤とする会社への信頼度が最も強い影響力をもつこと,すな わち雇用調整などによって組織成員の会社に対する信頼を損なうことが,組織への情緒的コミ ットメント増大を阻害する最大の要因であること,第二に,組織成員が従事する仕事への取り 組み意欲(ワーク・モチベーション)を向上させるマネジメントが効果をあげる場合,組織に 対’する組織成員の情緒的コミットメントを増大させる効果があること,第三に,賃金評価制度. の適切さや公正な運用を組織成員が認識する場合,組織への情緒的コミットメントが強化され ること,そのため新たな賃金評価制度を導入するにあたっては,制度の公正さや納得感の認識 を組織成員に確保できるか否かによって,組織への情緒的コミットメントは左右されることが 明らかになった.また,部課長以上の管理職であることが,弱いながらも情緒的コミットメン トの増大を阻害する要因として作用、していた.. (2)存続的コミットメント変化の説明変数  存続的コミットメント変化を従属変数とした分析では,個人的要因である「同業種への転職 自信度」,「住宅保有」,「管理職(部課長以上)」,「滅給に対する許容度」の標準偏回帰係数が. 有意であった.また組織的要因については,「賃金評価制度の適切さと公正な運用」,「競争激 化とコスト重視経営」,「自己業績の評価困難性」,「職場チームワークの減退」の標準偏回帰係 数が有意であった..  この分析から,まず第一に,存続的コミットメントの変化を規定する諸変数は,情緒的コミ ットメントと比較して,その内訳の多くを個人的要因が占めていること,第二に,情緒的コミ. ットメントと同様に,「賃金評価制度の適切さと公正な運用」が存続的コミットメントの増大 を促すこと,第三に,「競争激化とコスト重視経営」や「職場チームワークの減退」など・自 らが組織から離脱させられる確率を高める要因を組織成員が認識する場合,必要性の観点から 自組織への存続的コミットメントを増大させる傾向が明らかになった..  より具体的にみていくと,個人的要因に関しては,諸変数のなかで転職自信度が最も強い影 響力をもっており,転職の自信度合いが低いほど,自組織に対する存続的コミットメントを強.

(18) 64(64). 横浜経営研究 第27巻 第1号(2006). r化させる傾向がみられた.また住宅を保有することでも,存続的コミットメントは強化される ことが明らかになった.これらの結果は,組織を離脱することで被る損失の大きさに基づいて,. 必要性の観点から規定される存続的コミットメント概念の定義とも符合する結果であった.な お勤続年数や配偶者の有無に関しては,有意な結果を得ることはできなかった..  一方,組織的要因に関しては,「賃金評価制度の適切さと公正な運用」が,すべての説明変 数のなかで最も大きな影響力をもっていた.また「競争激化とコスト重視経営」,「職場チーム. ワークの減退」など,自らが組織から離脱させられる確率を高めたり,組織内部の組織成員間 での利害競争を激化させる要因を組織成員が認識する場合,自組織への存続的コミットメント. の増大が促されることが明らかになった.また自己業績の評価が困難であると組織成員が認識 する場合も,存続的コミットメントが弱いながらも強化される傾向がみられた.. lV まとめと今後の研究課題.  本論では,成果主義的な賃金評価制度の新たな導入という変革プロセスのなかにあって,組 織成員の組織に対する帰属意識,特に組織コミットメントがいかなる影響を受けるかという問 題について検討してきた..  分析から,第一に,情緒的コミットメントの増大に関しては,安定的な雇用関係を基盤とし た組織への信頼度が決定的な影響力をもつこと,第二に,存続的コミットメントの増大に関し ては,転職自信度や住宅保有などの個人的要因の影響が大きいこと,第三に,双方の組織コミ ットメントの増大に関して,賃金評価制度の適切さと公正な運用が重要な役割を果たすことを 明らかにした..  1990年代以降の不況期において,多くの日本企業では希望退職や早期優遇退職者の募集,出 向・転籍,新卒採用の抑制などの手段で雇用調整が実施されたが,景気回復の基調が続く今日. においても,契約社員や派遣社員,請負社員など非典型労働力の積極的な活用がむLろ拡大す るなど,依然として企業における雇用調整の圧力は強く,その手段はより多様化・構造化され つつある.そのような雇用環境の下で,組織への信頼度が損なわれるならば,組織に対する組 織成員の情緒的コミットメントは深刻な影響を受けるであろうことを,本論の分析結果は示唆 している..  さらに,1990年代半ば以降に多くの企業で導入されてきた成果主義的な賃金評価制度に関し ては,本調査でも明らかになったように,制度運用面における公正さや組織成員の納得性を確 保することが容易ではないという問題が今日顕在化しつつある.賃金評価制度の適切さと公正 な運用は,情緒的コミットメントおよび存続的コミットメントの双方の増大にとって重要な役 割を果たすため,組織コミットメントの維持・強化の観点から,上記の重要課題に取り組むこ とが多くの企業にとっての急務である..  組織コミットメント概念を構成する情緒的コミットメントと存続的コミットメントはそれぞ れ別次元の独立した概念である.したがって,一人ひとりの組織成員は,組織に対する帰属意 識として,これら両方の帰属意識を併せもつことになる.本研究では,情緒的コミットメント と存続的コミットメントを別々に分析したが,2つの組織コミットメント概念の重層的な構成 から,組織成員の組織に対する帰属意識や組織行動が規定されることを考慮するならば,2種 類の組織コミットメントの組み合わせによって導き出される組織行動の分析や,双方の組織コ.

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