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超磁歪効果の起源を発見

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Academic year: 2021

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同時発表: 筑波研究学園都市記者会(資料配布) 文部科学記者会(資料配布) 科学記者会(資料配布)

超磁歪効果の起源を発見

―超磁歪と大きな圧電効果は類似原理に基づく―

平成22年5月11日 独立行政法人 物質・材料研究機構 概要 1. 独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:潮田 資勝)センサ材料センターの任 暁兵グ ループリーダー、楊森特別研究員並びに共用ビームステーションの小林ステーション長ら は、強磁性材料における、磁性を伴う構造的な「モルフォトロピック相境界」1)を発見し、 境界組成での鉄の 100 倍の巨大な磁歪効果(超磁歪)を見出した。 これらの発見により、30年に亘って不明であった超磁歪効果のメカニズムが明らかにな り、磁性分野での「結晶構造は磁性状態に依存しない」という常識が覆され、超磁歪効果 と強誘電材料の高い圧電効果2)の起源を同一に理解することが可能となった。 2.鉄を始め、すべての強磁性材料は、磁場を印加すると伸縮するという磁歪効果を持ってい る。この効果が十分大きければ、多くのセンサやアクチュエータへの応用が期待される。 しかし、殆どの強磁性材料の磁歪効果は僅か百万分の1から十万分の1程度の微弱なレベ ルであり、実用に供するのは難しい。 一方、30年前に発見された磁歪材料 Terfenol-D3)において、通常の磁歪より 100 倍大き な超磁歪効果が発見されたが、その原理は良く分かっていなかった。そのため、超磁歪効 果を得る指針がなく、超磁歪材料の探索は経験頼りの状況であった。 3.任グループリーダーらは、大型放射光施設(SPring-8)の高角度分解能粉末 X 線回折装置 を用いて、強磁性体の磁気的異相境界は同時に構造的異相境界、つまり「モルフォトロピ ック相境界」であることを世界で初めて発見した。この発見により磁性分野の常識「結晶 構造は磁性状態に依存しない」を覆すとともに「強磁性モルフォトロピック相境界」が、 強誘電体に見られる「強誘電モルフォトロピック相境界」と同一に理解できるようになっ た。 また、稀土類強磁性合金TbCo2-DyCo2 4)の相境界組成において鉄の磁歪効果より 100 倍大き な超磁歪効果を発見。強誘電体の相境界組成における最大圧電効果と本質的に同じ現象で あることを示した。この研究により、超磁歪効果の起源は「モルフォトロピック相境界に おいて磁気・格子の不安定性」と解釈され、強誘電・圧電材料 PZT5) などの大圧電効果と同 様に理解することができた。 4.今回の研究成果によって、今後この新しい知見を利用し、新規超磁歪材料(特に低コスト の超磁歪材料)の探索に指針を与え、超磁歪材料の開発及び実用化に貢献することが期待 される。

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研究の背景 磁歪材料は、磁場を加えると変形し、逆に力を加えると磁場を発生するようなスマート材料 である。応答性が高く、非接触で磁場制御が可能なため,様々のセンサやアクチュエータ、さ らに、超音波発生,振動吸収とエネルギー変換素子への応用が期待されている。現在、宇宙天 体望遠鏡のデバイス、磁歪ポンプ、振動子、ソナー音響トモグラフィ、パネルスピーカなどに 使われ、用途が更に広がりつつある。 全ての強磁性材料は磁歪効果を持つため「磁歪材料」とも言えるが、殆どのものは大磁場下 でも僅か百万分の1から十万分の1程度しか変形しない。従って、これらの材料は磁歪材料と して使用できない状況である。実用の磁歪材料に対する要求は、小さい磁場下で大きく変形す ることである(つまり、高感度を有すること)が、この条件を満足する磁歪材料はほとんど無 い。 1970年代に Terfenol-D(つまり(Tb0.3Dy0.7)Fe2)で代表される“超磁歪材料”が発見さ れ、通常の磁歪材料より 100 倍も大きな磁歪効果を示すだけでなく、小さな磁場でも大磁歪を 示す重要な特徴を持つことが見出された。それ以来、Terfenol-D を超える超磁歪材料がなく、 磁歪応用の大半は Terfenol-D に限定されている。 しかし、超磁歪に関して、なぜ小さな磁場で 100 倍もの大きな磁歪が発生できるのか、は3 0年経った今も解明されていない。故に、超磁歪材料の探索の方向性が見えず、経験頼りの状 況と成っており、高価な Terfenol-D に対抗できる低コストの超磁歪材料の開発の目処が立っ ていない状況であった。 成果の内容 超磁歪現象がよく理解できない理由は、磁性分野に数十年間に亘って信じられてきた一つの 基本概念と係わりがある。つまり、「磁気の状態(磁気モーメント6)の有無と方向)が異なっ ても結晶構造は変わらない」と言う点である。 この概念に立つと、磁場の印加によって磁気状態は変わっても結晶構造が変化しないため、 大きな磁歪(格子歪)が期待しにくい。更に、この概念から、磁歪はどんな条件で最大になる か、どの様にして小さな磁場でも大きな磁歪が発生させるかは予想できない。 任グループリーダーらは、上記の磁性分野の基本概念に疑問を投げ掛けた。磁性体と強誘電 体の類似性を考慮し、磁気状態が変わると結晶構造も変わると推測し、精密な回折実験を行え ば磁気状態の変化による結晶構造の変化が観測できると予測した。 この考えを確かめるため、稀土類強磁性合金 TbCo2-DyCo2を用いて、磁気状態と結晶構造の 関係を SPring-8 の NIMS ビームラインに設置されている高角度分解能性を有する粉末 X 線回折 装置を用いて調べた。その結果、興味深い発見を見出した。 図1a の状態図に示されるように、磁気モーメントの方向が<111>から<001>に変わると、結 晶構造が菱面体晶から正方晶に変わる。つまり、組成を変えて磁気状態が変わると、結晶構造 も同時に変わる。このことは強誘電体である PZT によく似ている(図1b、電気分極方向が<111>

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この発見はもう一つ大きな意味を持っている。つまり、図 1a における強磁性体の磁気的異 相境界は同時に構造的異相境界であり、強誘電体に見られる「電気分極・構造のモルフォトロ ピック相境界」と類似したものである(図1b)。 TbCo2-DyCo2のモルフォトロピック相境界組成においても磁歪は最大になり、800 PPM 7)以上 の超磁歪レベルに達し(図2)、鉄の 100 倍も大きい。モルフォトロピック相境界組成の重要 な特徴は小さな磁場でも大きな磁歪が発生する最高感度も持ち(図3)、このことは PZT のよ うな強誘電体のモルフォトロピック相境界組成における最大な圧電効果と本質的に同じ現象 であることが分かる。 強誘電体 PZT の大きい圧電効果と同じように、モルフォトロピック相境界における超磁歪効 果の起源はこの異相境界における磁気・格子の両方の不安定性によると理解できる。つまり、 モルフォトロピック相境界において磁気と結晶格子の両方が磁気・構造相転移の準備をするた め不安定となり、小さな外部磁場でも大きな結晶格子の変形を与えることができる。これはモ ルフォトロピック相境界における超磁歪と最高な磁歪感度の起源であり、強誘電・圧電材料 PZT のモルフォトロピック相境界における大圧電効果と統一的に理解できる。 波及効果と今後の展開 今回の研究成果によって、磁性分野の常識であった「結晶構造は磁性状態に依存しない」と いう概念を覆すと共に、超磁歪効果の起源を解明し、強誘電材料の高い圧電効果の起源を統一 的に理解できた。この新しい知見は今後の超磁歪材料の探索に指針を与え、Terfenol-D を代 替できる新規低コストの超磁歪材料の発見に繋がることが期待される。また、これにより超磁 歪材料の応用の拡大と普及に拍車をかける可能性をも秘めている。 問い合わせ先: 〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1 独立行政法人物質・材料研究機構 広報室 TEL:029-859-2026 研究内容に関すること: 独立行政法人物質・材料研究機構 センサ材料センター センサ物理グループ グループリーダー 任 暁兵(にん ぎょうへい) TEL: 029-859-2731 FAX: 029-859-2701 E-mail: [email protected]

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用語解説 1)モルフォトロピック相境界 状態図上の磁気・結晶構造の境界線(図1a に参照)。ここで最大物性が現れる。従来、磁気状態 の境界線として知られるが、構造的境界であることは知られていなかった。一方、電気分極・構造 の境界(モルフォトロピック相境界)は誘電体によく見られる。 2)圧電効果 応力を加えると材料の表面に電荷が発生する現象。 3)Terfenol-D Tb-Dy-Fe 系合金で、70 年代に開発された最高な磁歪特性を持つ磁歪材料である。超磁歪材料の代 名詞となっている。 4)TbCo2-DyCo2 希土類化合物TbCo2と DyCo2の固溶体。 5) PZT

チタン酸ジルコン酸鉛(lead zirconate titanate)の略称。三元系金属酸化物であるチタン酸鉛 とジルコン酸鉛の混晶である。

6) 磁気モーメント

磁石の強さを表す量。磁石の特性である方向を表現するためにベクトルであらわされる。 8)PPM

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(a)

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図1 強磁性材料TbCo2-DyCo2の状態図(a)と強誘電材料 PZT の状態図(b)の類似性及び共通特徴を 持つモルフォトロピック相境界(矢印)。強磁性のモルフォトロピック相境界は磁気・結晶構造の異 相境界であり、強誘電体のモルフォトロピック相境界は電気分極・結晶構造の異相境界である。

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図2 モルフォトロピック相境界において磁歪が最大(800×10-6或いは 800 PPM 以上)になり、

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図3 モルフォトロピック相境界組成において磁歪感受率(磁歪の磁場変動に対する応答性、つま り磁歪の感度)は境界を離れた組成より 3〜6 倍大きい。つまり、モルフォトロピック相境 界組成で磁歪は磁場に非常に敏感であることを示す。この特徴は高感度センサや高感度アク チュエータへの応用にとって大変重要である。

参照

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