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ESG情報と企業価値

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Academic year: 2021

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ESG情報と企業価値

著者

阪 智香

雑誌名

商学論究

68

4

ページ

149-170

発行年

2021-03-10

URL

http://hdl.handle.net/10236/00029270

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要 旨

本研究では、企業の環境・社会・ガバナンス(Environment, Social, Gov-ernance : ESG)情報として FTSE Russell ESG Rating データ、および、会 計情報として Bureau van Dijk の Osiris データを用いて、ESG 情報と企業 価値の関係を可視化によって論じる。まず、ESG 情報開示の動向等と先 行研究について述べ、FTSE Russell ESG Rating の評価モデルについて説 明する。次に、ESG Rating の欠測状況と、国別・業種別の ESG Rating ス コアを可視化する。さらに、ESG 情報(ESG Rating スコア)と企業価値 の関係について、対散布図やモーションチャートを用いた可視化によって 明らかにする。

キーワード:環境・社会・ガバナンス(Environment, Social, Governance)、 ESG レ ー テ ィ ン グ(ESG Rating)、欠 測 デ ー タ(Missing Data)、企業価値(Corporate Value)、可視化(Visualization)

! はじめに

企業の環境・社会・ガバナンス(Environment, Social, Governance : ESG) 情報開示や ESG 投資が注目されている。本研究では、ESG 投資にも用いら れる企業の ESG 情報として FTSE Russell ESG Rating データ、および、企 業の会計情報として Bureau van Dijk(BvD)の Osiris データを用いて、過 去6年間における ESG 情報と企業価値の関係について、探索的データ解析 (Exploratory Data Analysis)(Tukey 1977)に基づき、可視化(Visualization)

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によって論じる。

まず、ESG 情報開示の動向等と先行研究について述べ、FTSE Russell ESG Rating とその評価モデルについて説明する。この ESG Rating では、300以 上の指標について、企業の有価証券報告書、CSR 報告書、統合報告書、ウェ ブサイト等における ESG 開示情報の調査が行われ、(1)「環境」が5テーマ、 「社会」が5テーマ、「ガバナンス」が4テーマの合計14テーマの評価、(2) 「環境」「社会」「ガバナンス」それぞれの総合評価、(3)ESG 全体の総合評

価、が算出される。評価にあたっては、エクスポージャーも考慮される。 FTSE Russell ESG Rating に含まれる企業数は、2020年7月時点で、49カ国 3,945社(先進国25カ国2,167社、新興国24カ国1,778社)である。

この ESG Rating スコアについて、欠測状況を確認した後、国別・業種別 の平均値の可視化を行う。その後、FTSE Russell ESG Rating データと Osiris データを結合し、ESG 情報と企業価値について、対散布図やモーション チャートによる可視化を行い、その関係を明らかにする。一連の工程は、再 現可能研究(Reproducible Research)の観点から行う。

! ESG 情報開示の動向とガイドライン等

地球サミット(1992年)による地球環境問題への関心の高まりや、国際標 準化機構(International Organization for Standardization : ISO)の ISO 14001 「環境マネジメントシステム」発行(1996年)などにより、企業は環境対策 活動を本格化し、それをステークホルダーに情報開示するために環境報告書 が作成・公表されるようになった。その後、従業員の人権・労働慣行や腐敗 防止等への取り組みを含む国連グローバルコンパクトの発足(2000年)や、 企業不祥事による社会的批判等を受けて、環境問題のみならず社会問題やガ バナンス問題への対応を含む社会的責任活動(Corporate Social Responsibil-ity : CSR)にシフトしていった。さらに、持続可能な成長を実現するために、 企業にグローバルな課題解決への参画が求められるようになり、企業の発行 する報告書も社会・環境報告書、CSR 報告書、サステナビリティ報告書な

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どとなり、最近では、財務情報と非財務情報を統合した統合報告書が拡大し ている。これらは、財務会計情報の価値関連性が失われてきた(Francis and Schipper, 1999)なかで、過去何十年にもわたりなされてきた財務報告を補 足するための取り組みでもあり(阪、2015)、その大きな流れの1つが ESG 情報開示である。 同時に、投資意思決定に ESG 要素を反映させようとする国連責任投資原 則(Principles for Responsible Investment : PRI)の公表(2006年)を期に、 社会的責任投資(Social Responsibility Investment : SRI)や ESG 投資が拡大 している。これは、短期的投資が投資家・企業双方に弊害をもたらし、社会 全体を不安定にさせることから、企業の長期的成長に着目し、それにコミッ トする長期投資家の重要性を認識し、市場、企業、ステークホルダー、ひい ては社会全体の持続可能性を確保しようとするものである。2015年のパリ協 定や国連の持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals : SDGs)も ESG 投資の拡大を後押ししている。わが国においても、世界最大規模の運 用資産を持つ年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年に PRI に 署名をしたことなどで ESG 投資が急増し、国際的にも特に過去5年で年金 基金の ESG 投資が拡大している。年金基金は資産規模が大きいため、事実 上、経済・市場全体を輪切りにしたスライスを保有した状態(Universal Owners)に例えることができ、環境や社会の劣化を防ぐ ESG 投資は、経済 全体のパフォーマンスの底上げにつながり、そのスライスとしての自らの資 金を守ることにも通じるとされる。 ESG 投資の拡大を受けて、ESG 情報開示の量・質を確保するためにも、 関連する様々なガイドラインが公表されてきた。国際統合報告評議会(Inter-national Integrated Reporting Council : IIRC)の国際統合報告フレームワー ク(IIRC 2013)は原則主義アプローチを採用しており、具体的な KPI は示 されていないため、実際の ESG 情報開示において参考にされているのが、 グローバル・レポーティング・イニシアティブ(Global Reporting Initiative : GRI)のスタンダード(GRI

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2016)やサステナビリティ会計基準審議会(Sus-tainability Accounting Standards Board : SASB)のスタンダード(SASB 2018) である。他に ISO 26000(2010年)、気候変動に関する財務情報については 気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Finan-cial Disclosures : TCFD)最終報告書(TCFD 2017)などがある。企業が開 示する ESG 情報や質問票調査を利用して企業を評価する数々の ESG レー ティング(RobecoSAM、MSCI、CDP、SUSTAINALYTICS、arabesque s-ray、 Bloomberg、vigeoeirisu など)も登場している。

! ESG 情報開示、ESG 実績、経済的実績の関連についての先

行研究

企業の ESG 情報開示、ESG 実績、経済的実績(企業価値を含む)の関係 については、過去40年以上にわたって数多くの研究が行われてきた。ESG 情報開示と経済的実績の関連については、経済的実績が ESG 情報開示を決 定するという研究(Cox and Douthett 2009)、ESG 情報開示が経済的実績と 関 連 す る と い う 研 究(Cox 2008 ; Moneva and Cuellar 2009 ; Dhaliwal et al. 2011 ; Saka and Oshika 2014 ; Chen et al. 2015 ; Christensen 2016 ; 田中 2019; 大鹿・阪・地道 2020)、ESG 情報開示と経済的実績は無関連とする研究 (Magness 2006)などがある。

ESG 情報開示と ESG 実績の関連については、正統性理論(legitimacy the-ory)に基づく研究(Milne and Patten 2002 ; Aerts and Cormier 2009 ; Cho and Roberts 2010 ; Cho et al. 2010 ; De Villiers and Van Staden 2011 ; Cho et al. 2012)や、自発的情報開示理論(voluntary disclosure theory)に基づく研 究(Clarkson et al. 2008 ; Dawkins and Fraas 2011 ; Guidry and Patten 2012 ; Clarkson et al. 2013 ; Luo and Tang 2014 ; Qiu et al. 2016)などがある。

ESG 実績と経済的実績の関連の研究は最も多くみられる(Margolis and Walsh 2003 ; Allouche and Laroche 2005 ; Nakao et al. 2007 ; Beurden and Gössling 2008 ; Perrini et al. 2011 ; Oshika et al. 2014 ; Saka and Oshika 2014 ; Kappou and Oikonomou 2016 ; Lu and Taylor 2016 ; Luffarelli et al. 2019 ;

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Maqbool and Bakr 2019)。ESG 情報開示、ESG 実績、経済的実績の3要素 の相互関係に着眼した研究には、裁量的開示理論に基づく(discretionary dis-closure theory)研究(Al-Tuwaijri et al. 2004 ; Beck et al. 2018)やステーク ホルダー理論に基づく研究(Saka and Noda 2013)などがある。

これらの先行研究では、ESG 情報開示、ESG 実績、経済的実績の指標と して何を用いるかによって、また、研究の方法論によって、多様な結果がみ られる。さらに、ESG 情報開示と ESG 実績は、明確に区分することが難し いという側面をもち、これらの関係は図表1のように表すことができ、この トライアングルの底辺は連続している。本研究で用いる FTSE Russell ESG Rating は、企業の開示情報に基づき、リスクエクスポージャーを反映した ものであり、このトライアングルの底辺の中間あたりに位置するものと考え られる。 経済的実績 ESG 実績 ESG 情報開示 図表1 ESG 情報開示、ESG 実績、経済的実績の関係

! FTSE Russell ESG Rating の評価モデル

本研究で用いる FTSE Russell ESG Rating の評価モデルは、図表2に示す とおりである。図中の三角形で示されるように4つの階層があり、まず一番 下の300以上の指標について、企業の開示情報(有価証券報告書、CSR 報告 書、統合報告書、ウェブサイト等)に基づく調査が行われる(1社につき平 均約125の指標が適用される)。この調査項目は、各テーマに関連する国際的

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な枠組みをもとに構成されている。例えば、気候変動のテーマについては、 TCFD の提言に沿った調査項目等に基づき評価がなされる。 この調査の精査後に、企業からのフィードバックを受け付け、追加調査を 経た最終調査結果に基づき、(1)「環境」が5テーマ、「社会」が5テーマ、 「ガバナンス」が4テーマの合計14テーマの評価が行われる(テーマスコア)。 これが大きな円の外側の14のテーマであり、三角形の図の下から2段目であ る。さらに、(2)「環境」「社会」「ガバナンス」それぞれの総合評価が算定 され(ピラースコア)、最終的に、(3)ESG 全体の総合評価が算出される (サマリースコア)というボトムアップ・アプローチが採られている。評価 にあたっては、テーマ・ピラー段階でリスクエクスポージャーも考慮される。

図表2 FTSE Russell ESG Rating の評価モデル(FTSE Russell 2019)

FTSE Russell ESG Rating は、毎年2回、6月末と12月末に算出される。 本研究で用いるデータは、2015~2020年(6年間)の各年における6月末の 評価を反映した後に7月に取得したデータである(最新のデータは2020年7 月に入手)。

2020年7月の ESG Rating は、FTSE Index を構成する大型・中型株企業 などの先進国25カ国2,167社・新興国24カ国1,778社の合計49カ国3,945社を対 象としている。この対象企業3,945社は各国の株式時価総額の大きい順に選

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定されており、世界の全上場企業の株式時価総額(42,473社)に占める割合 を算定したところ73%、世界の全上場企業の売上(52,495社)に占める割合 を算定したところ69%であった。この3,945社の国別企業数を示したツリー マップは図表3である。中国の企業数が最も多く(980社)、次いでアメリカ (608社)、日本(507社)、韓国(133社)、イギリス(130社)、オーストラリ ア(105社)という順となっている(以上が100社以上が対象となっている国 である)。

図表3 FTSE Russell ESG Rating 国別企業数(2020年)

探索的データ解析を行うにあたり、まず、Osiris 財務データの前処理とラ ングリング(地道 2018a ; 地道 2018b)を行った。次に、FTSE Russell ESG Rating データの変数名を変換し、サマリー、ピラー、テーマ毎に分かれて いるデータを纏め、さらに、FTSE Russell ESG Rating と Osiris 財務データ とのマージ(結合)を行った。財務データと ESG Rating データの前処理と

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結合の詳細については、地道・阪(2021)を参照されたい。

! FTSE Russell ESG Rating の欠測状況

データ分析に入る前に、FTSE Russell ESG Rating データの欠測(欠損)状 況を確認しておく必要がある。2020年7月時点の FTSE Russell ESG Rating の対象全企業3,945社の欠測状況を示したものが図表4(上)である。例え ば、「顧客責任(Customer Responsibility : CR)」や「生物多様性(Biodiver-sity : Bio)」といったテーマでは、8割以上が欠測していることがわかる。 これは FTSE の調査では、リスクエクスポージャーが低い業種は調査対象と ならないという理由も影響している。一方、サマリーの ESG や、ピラーの E・S・G の Rating は、9割以上データが入っていることもわかる。また、 図表4(上)の右は、欠測値が出現する組み合わせを示している。例えば、 最も出現している欠測パターンは、「顧客責任(Customer Responsibility : CR)」、「生物多様性(Biodiversity : Bio)」、「税の透明性(Tax Transparency : TT)」、「ESG」、「健康と安全(Health & Safety : HS)」、「水使用(Water Use : WU)」、「汚染と資源(Pollution & Resources : PR)」がセットで欠測してい るケースであり、この欠測パターンが全体に占める割合が右端のヒストグラ ムで示されている。これをみると、3番目に多い欠測パターンは、全ての情 報が欠測しているケースであることもわかる。 また、図表4(下)から、先進国と新興国では欠測値の出現状況が異なる こともわかる。新興国では全てのデータが欠測している企業が多いこと、新 興国と先進国では欠測しているテーマに違いがあるなどがわかる。欠測状況 は国によっても異なる。日本ではすべてが欠測している企業はないこと、中 国では欠測が多いこと(これは2020年に新規対象の中国企業が増えた影響も 大きい。2019年の欠測は少ないことから、欠測状況は時系列で確認しておく ことも重要である)、中国とインドは「税の透明性(Tax Transparency : TT)」 の欠測が100%であることもわかる(各国の図表は紙面の都合上省略)。

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! 企業の ESG 情報

1.企業のESG 情報:国別

ここでは、2020年の FTSE Russell ESG Rating のスコアから、国別・業種 別の平均値をみていくこととする。まず、国別の ESG Rating スコアの平均

変数名の変換 全企業(49カ国3,945社)

先進国(25カ国2,167社) 新興国(24カ国1,778社)

図表4 FTSE Russell ESG Rating 欠測情報(2020年):全体(上)、先進国・新 興国別(下)

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値を確認し、サマリー、ピラーの順に取り上げたものが図表5である。30社 以上の企業が対象となっている国に絞り、評価の平均が高い順に上位5カ国 を列挙すると(これらの国に三角印を付与している。以下同様)、「ESG」 (サマリー)については、オランダ、フランス、イギリス、イタリア、南ア フリカの順に高く、日本は上位から概ね 2/3 に位置している(日本に矢印 を付与している。以下同様)。「環境(Environment)」(ピラー)では、フラ ンス、オランダ、スイス、イギリス、イタリアの順に高く、日本は概ね中位 に位置している。「社会(Social)」(ピラー)では、オランダ、フランス、 イタリア、イギリス、スウェーデンの順に高く、日本は概ね中位に位置して いる。「ガバナンス(Governance)」(ピラー)は全体に平均点が高く、イギ リス、南アフリカ、タイ、オランダ、オーストラリアの順となっており、日 本は上位から概ね 3/4 に位置している。 14のテーマについては可視化した図表は紙面の都合上省略するが、環境の 「ESG」国別平均値 「環境」国別平均値 「社会」国別平均値 「ガバナンス」国別平均値 図表5 ESG Rating:国別平均値(2020年)

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テーマである「生物多様性」(Biodiversity)では、フランス、ロシア、イギ リス、オーストラリア、オランダの順に高く、日本は上位から概ね 2/3 に 位置している。「気候変動(Climate Change)」では、フランス、イギリス、 オランダ、スイス、イタリアの順に高く、日本は上位から概ね 2/3 に位置 している。「汚染と資源(Pollution & Resources)」では、イタリア、台湾、 オランダ、フランス、タイの順に高く、日本はタイの次に位置している。 「水使用(Water Use)」は全体的に平均点が低いながらも、タイ、南アフリ

カ、イギリス、オランダ、フランスの順に高く、日本は中位に位置している。 「環境側面のサプライチェーン(Environmental Supply Chain)」では、オラ

ンダ、フランス、スウェーデン、ドイツ、イタリアの順に高く、日本は中位 に位置している。

社会のテーマである「顧客責任(Customer Responsibility)」では、オラ ンダ、スウェーデン、オーストラリア、南アフリカ、イタリアの順に高く、 日本は上位から概ね 4/5 に位置している。「健康と安全(Health & Safety)」 では、オランダ、イタリア、イギリス、フランス、タイの順に高く、日本は 中位に位置している。「人権と地域社会(Human Rights & Community)」で は、南アフリカ、インド、フランス、オランダ、イタリアの順に高く、日本 は上位から概ね 5/6 に位置している。「労働基準(Labour Standards)」で は、オランダ、フランス、イギリス、イタリア、南アフリカの順に高く、日 本は上位から概ね 2/3 に位置している。 「社会側面のサプライチェーン(So-cial Supply Chain)」では、オランダ、スウェーデン、フランス、ドイツ、 イギリスの順に高く、日本は概ね中位に位置している。 ガバナンスのテーマである「腐敗防止(Anti-Corruption)」は全体的に平 均点が高く、フランス、スウェーデン、ロシア、イタリア、タイの順となっ ており、日本は上位から概ね 5/6 に位置しており、「コーポレート・ガバナ ンス(Corporate Governance)」は特に全体的に平均点が高く、イギリス、 カナダ、オーストラリア、アメリカ、南アフリカの順となっており、日本は 上位から概ね 2/3 に位置している。「リスクマネジメント(Risk

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Manage-ment)」は、オランダ、タイ、イタリア、オーストラリア、南アフリカの順 に高く、日本は上位から概ね 4/5 に位置している。「税の透明性(Tax Trans-parency)」は適用外のためスコアのない国も多いが、オランダ、イギリス、 オーストラリア、フランス、イタリアの順に高く、日本は上位から概ね 2/3 に位置している。 国別平均点は企業数が多くなると低下する傾向があり、日本企業の平均点 が全体として中位以降であることも、FTSE Russell ESG Rating の2020年7 月対象の日本企業が、国別企業数で3位の507社もあることによるものと考 えられる。しかし、「環境(ピラー)」、「汚染と資源」、「環境側面のサプライ チェーン」、「水使用」、「健康と安全」、「社会側面のサプライチェーン」の取 り組みでは日本企業のスコアは比較的高い。 2.企業のESG 情報:業種別 次に、業種別(10業種)の ESG Rating スコアについてみていく。2020年 における各業種に属する企業数は、石油・ガス146社、素材349社、工業746 社、消費財535社、ヘルスケア279社、消費者サービス450社、通信96社、公 益189社、金融864社、テクノロジー291社である。業種別の ESG Rating ス コアについて、サマリー、ピラーの順に取り上げたものが図表6である。 「ESG」(サマリー)については、評価の平均が高い順に3業種を列挙すると (以下同様)、通信、公益、石油・ガスである。「環境(Environment)」(ピ ラー)では、金融、公益、石油・ガス、「社会(Social)」(ピラー)では、 通信、石油・ガス、公益、「ガバナンス(Governance)」(ピラー)では通信、 公益、石油・ガスの順に高い。 14テーマについて可視化した図表は紙面の都合上省略するが、環境のテー マである「生 物 多 様 性(Biodiversity)」で は、公 益、石 油・ガ ス、素 材、 「気候変動(Climate Change)」では、通信、石油・ガス、公益、「汚染と資 源(Pollution & Resources)」ではテクノロジー、素材、公益、「水使用(Water Use)」では、公益、石油・ガス、素材、

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「環境側面のサプライチェーン(En-vironmental Supply Chain)」では、テクノロジー、通信、消費財の順に平均 点が高い。社会のテーマである「顧客責任(Customer Responsibility)」で は、消費財、ヘルスケア、消費者サービス、「健康と安全(Health & Safety)」 では、石油・ガス、消費財、公益、「人権と地域社会(Human Rights & Com-munity)」で は、通 信、金 融、消 費 者 サ ー ビ ス、「労 働 基 準(Labour Stan-dards)」では、通信、石油・ガス、公益、 「社会側面のサプライチェーン(So-cial Supply Chain)」では、通信、テクノロジー、消費財の順に平均点が高 い。ガバナンスのテーマである「腐敗防止(Anti-Corruption)」では、通信、 石油・ガス、公益、「コーポレート・ガバナンス(Corporate Governance)」 では、石油・ガス、公益、通信、「リスクマネジメント(Risk Management)」 では、石油・ガス、公益、金融、「税の透明性(Tax Transparency)」では、 「ESG」業種別平均値 「環境」業種別平均値 「社会」国業種別平均値 「ガバナンス」業種別平均値 図表6 ESG Rating:業種別平均値(2020年)

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素材、石油・ガス、金融の順に平均点が高い。 14テーマの中の、「生物多様性」、「顧客責任」、「税の透明性」の3テーマ については、リスクエクスポージャーや活動国・地域によって適用外となる 業種・企業が生じるため、全体の平均点が相対的に低く、スコアが付与され ていない業種も存在する。全般に、通信、公益、石油・ガス、テクノロジー の業種において平均値が高く、「環境」(ピラー)では金融が、「顧客責任」で は消費財が、「税の透明性」では素材の業種の平均値が高い。

! ESG 情報と企業価値

1.対散布図による可視化 本章では、企業の ESG 開示情報に基づき、リスクエクスポージャーも考 慮されている FTSE Russell ESG Rating データを用いて、企業価値との関係 を、対散布図、モーションチャートにより可視化を行う。

まず、FTSE Russell ESG Rating の全対象企業について、対数株式時価総 額、株式時価総額、「ESG」、「環境」、「社会」、「ガバナンス」の2015~2020 年(6年間)の対散布図をアニメーションで可視化したものが図表7である (ただしアニメーションは紙面に掲載できないため、2015年のスナップ ショットを掲載)。右上段には散布図、対角線上には確率密度関数を推定し たもの、左下段には相関係数が示されている。右は各変数のボックスプロッ ト、下は各変数の確率密度関数の推定したものを示している。図表7の上は 先進国・新興国別の対散布図、下は国別の対散布図である。 図表7(上)をみると、確率密度関数やボックスプロットから、先進国と 新興国のスコアに差があることが確認できる。株式時価総額は分布が極端で あるため時系列の変化を確認することは難しいが、対数株式時価総額、 「ESG」、「環境」、「社会」、「ガバナンス」については各変数の6年間の推移 と、先進国・新興国ともに上昇傾向にあることを確認することができる。ま た、「ESG」と「環境」「社会」「ガバナンス」がそれぞれ相関していること、 対数株式時価総額と「ESG」「環境」「社会」「ガバナンス」についてもゆる

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図表7 ESG、E、S、G、株式時価総額の散布図と確率密度関数:先進国・新興 国別(上)、国別(下)

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やかな相関がみえる。 次に、先進国の国別企業数上位4カ国であるアメリカ、日本、韓国、イギ リス、新興国の国別企業数上位2カ国である中国、インドの計6カ国を取り 上げ(これらは対象企業130社以上の国)、「ESG」、「環境」、「社会」、「ガバ ナンス」の2015~2020年(6年間)の推移を対散布図のアニメーションで可 視化したものが図表7(下)である(スナップショットを掲載)。右のボッ クスプロットと下の確率密度関数は、国別と先進国・新興国のタイプ別の2 種類が示されている。ボックスプロットは右から順に、アメリカ、韓国、日 本、インド、イギリス、中国となっており、この6カ国ではイギリスのスコ アが最も高いこと、インドも比較的高く、中国は企業数が最も多いこともあ りスコアは低いが6年間で上昇してきていることなどがわかる。 2.モーションチャートによる可視化

さらに、FTSE Russell ESG Rating の全対象企業について、対数株式時価 総額を y 軸、ESG スコアを x 軸として、49カ国の2,401~3,945社、2015~2020 年(6年間)の推移を、先進国・新興国別、国別、業種別にモーションチャー トで可視化したものが図表8である(スナップショットを掲載)。それぞれ の円が企業を示しており、円の面積は各年度の当該企業の売上高を示す。図 表8のモーションチャートから、対数株式時価総額と ESG スコアとの間に 相関関係が存在すること、先進国・新興国や国毎の企業の ESG スコアの分 布の差、時系列の変化、などを確認することができる。図表8(上)の先進 国・新興国別のモーションチャートからは、先進国企業(淡色)は ESG ス コアと株式時価総額が比較的高いことがわかる。図表8(中)の国別のモー ションチャートからは、(モーションチャートがもつインタラクティブな機 能を活用すると)日本企業にスコアの高い企業が多いこと、イギリスやアメ リカ企業にはスコアと株式時価総額の双方が高い企業が多いことなど、国に よってポジションの違いが見える。図表8(下)の10業種別のモーション チャートからは、業種別では国別ほどには差がないということもわかる。

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! おわりに

本研究で扱ったデータのように、データがメモリ容量を超えたり、1台の コンピュータのストレージで収まらない程の量になると、一般にビッグデー タと呼ばれる。ビッグデータがもたらす変革としては、機械的なデータ処理 に関するものよりも、データから新しい知見を得る方法にある(Efron 2016)。 その際、探索的データ解析に基づき、データを可視化することが有効となる。 そこで、本研究では、可視化によって企業の ESG 情報と企業価値の関係を 示した。

まず、FTSE Russell ESG Rating データの欠測状況を可視化によって確認 した上で、ESG スコアの国別・業種別の平均値の状況等を可視化によって 示した。さらに、FTSE Russell ESG Rating データと Osiris 財務データを結 合した上で、ESG 情報と企業価値の関係について、過去6年間(2015~2020

図 表8 株 式 時 価 総 額(対 数)とESG スコア:先進国・新興国別(上)、国別 (中)、業種別(下)

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年)の対散布図やモーションチャートを用いた可視化によって明らかにした。 それらにより、対数株式時価総額と ESG スコアとの間に相関関係が存在す ること、先進国と新興国の差、国毎の差、時系列の推移などを確認すること ができた。 なお、以上の分析については、Peng(2011)の研究の再現可能性のスペク トラムを基に、再現可能性の確保に取り組んでいる。通常、研究論文を書く までには、データを抽出し、前処理し、データ整形し、可視化・分析し、論 文を執筆する工程があり、そのどこかの処理が再現できない際には研究の再 現性が確保できなくなる。そこで、この工程の全てのコードを残し、可視化 した図などを常に元データから再現できるようにすることで、Peng の研究 の再現可能性の最も高いレベルを確保している。 最後に、日本学術会議「科学者の行動規範」(2013)では、「科学者は、社 会と科学者コミュニティとのより良い相互理解のために、市民との対話と交 流に積極的に参加する」と述べられている。その時に「データは対話のツー ル」となり得る(阪 2021)。可視化によって、ESG スコアと企業価値の関 係をわかりやすく人々に提示することができたことは、企業の ESG への取 り組みを後押しすることにもつながる。こういった証拠の蓄積によって、企 業の ESG 情報開示やステークホルダーの行動に変化を促すために、役立つ ことができれば幸いである。 (筆者は関西学院大学商学部教授) (付記)本稿の執筆にあたり、多大なご協力・ご助言を頂きました地道正行教授(関西学 院大学商学部)に感謝申し上げます。なお、日本学術振興会から科学研究費補助金(基 盤研究(C):課題番号 19K02006)および(基盤研究(C):課題番号 19K02026)の補 助を受けています。 参考文献

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